H18. 1.13 青森地方裁判所 平成17年(わ)第62号 住居侵入,強盗致死,強盗傷人被告事件

被告人が,情報提供者の日本人と中国人を中心とする強盗グループとを仲介し,強盗グループが青森県弘前市内の会社経営者宅に侵入して現金約260万円及び貴金属など約205点を強取し,その際,同所で就寝中であった経営者夫婦を死傷させた事案


(主 文)
   被告人を懲役10年に処する。
   未決勾留日数中230日をその刑に算入する。
(罪となるべき事実)
  被告人は,A,B,C,D及び氏名不詳者4名と共謀の上,金品を強取しようと企て,平成16年5月11日午前1時30分ころ,青森県弘前市Ⅰ丁目Ⅱ番地ⅢE方に,1階南側6畳間のガラス窓から侵入し,1階西側寝室において就寝中のE(当時63歳)及びその妻F(当時61歳)に対し,同人らの目及び鼻口部に所携の布粘着テープを巻き付けて塞ぎ,同人らの両手両足をビニール紐で緊縛するなどの暴行を加え,「金どこ。金出せば殺さない。俺たち金欲しい,出さないと殺す。」などと脅迫し,同人らの反抗を抑圧した上,同人らが所有する現金約262万1500円及び貴金属など約205点(時価合計約651万2600円)を強取し,その際,上記暴行により,Eを鼻口部閉塞により窒息死させるとともに,Fに加療約10日間を要する右手関節捻挫,頚部・両肩打撲等の傷害を負わせたものである。
(事実認定の補足説明及び弁護人の主張に対する判断)
1 弁護人は,強盗についての共謀の成立を争うと共に,被告人は自分の行為が何らかの犯罪になるとの認識はなく,違法性の意識もなかったのであるから被告人は無罪であり,仮に罪に問われるとしても,窃盗の限度で幇助犯が成立するにとどまる旨主張し,被告人もこれに沿う供述をするので,この点について検討する。
2(1) 関係各証拠によれば,まず次の事実を認定できる。
ア 被告人は,日本人と婚姻して平成13年8月ころ本邦に入国し,その後平成15年12月ころから青森市内でエステ店を開業するようになり,そのころ,その地域を取り仕切っていた暴力団構成員のAと知り合った。Aは,被告人が経営するエステ店から,いわゆるみかじめ料を徴収し,被告人から依頼されて同店のもめ事を解決するなどしていた。
被告人は,平成16年4月ころから新たに店舗を開くことを考え,同年3月下旬ころ,Aと2人で,店舗に適当な場所を探すべく八戸市内,盛岡市内及び弘前市内を車で見て回った。
イ 被告人は,同月下旬ころ,Aから本件被害者宅の家族構成などの情報を聞き,それを本件犯行グループの知り合いの中国人に知らせた。
ウ 本件実行犯グループのB,C及びDは,同年5月2日から3日にかけて,本件被害者宅の下見に行った。
エ 実行犯グループのB,C,D及び氏名不詳者4名は,同年5月10日午後4時30分ころ,東北自動車道の黒石インター出口で,Aと待ち合わせをし,黒石市内にAが用意した別荘に赴いた。Aは,実行犯グループを別荘に案内すると,Cから,被害者宅の防犯体制,増築した部屋の使用方法,金庫の有無及び被害者宅にあるおおよその現金の額等を聞かれ,それに答えた。
そして,実行犯グループは,同月11日午前1時30分ころ,被害者宅に赴き,判示の犯行を行った。
(2)ア A証言について
(ア) 本件共犯者Aは,当公判廷において,概ね次のとおり供述する。
平成16年4月10日ころ,被告人と2人で,自分が運転する自動車で,青森市内で新たなエステ店の開店場所を探していたところ,その車内において,被告人にパチンコの良い体感器がないか尋ねると,被告人が「パチンコもあるし,泥棒もあるし,それよりお金ある社長の家分からないか。」と言ってきたので,自分は,家には人がいるから,被告人は中国人の強盗団と一緒に強盗をやるつもりかと思った。自分は,そのときは「あるよ。」とだけ答えたが,その後も電話やエステ店で被告人から金持ちの社長の家を教えるよう催促されたので,自分の知り合いであるE宅を教えることにし,同月下旬ころ,被告人が経営するエステ店が入っている建物の2階で,被告人に住宅地図を見せ,被害者宅を指し示して教えた。被告人は,住宅地図を見ながら,その住所を携帯電話に登録した。同時に,被告人から被害者宅の電話番号を聞かれ,自分の携帯電話に登録してあった被害者の電話番号を見せると,被告人は,それを同人の携帯電話に登録した。このほか,被告人から,「家にセコム付いているか。」「犬はいるか。」と聞かれ,「自分の知っている限りではセコムは付いていないし,犬もいない。」と答えた。また,「家族何人いるか。」と聞かれたのに対し,「2人」と,「地下室あるか。」と聞かれたのに対し,「ない。」と答え,「お金どこにあるか。」と聞かれたので,かつて自分がEに現金を借りたときの状況を思い出し,「台所の野菜のところ」と答えた。さらに,被告人から,「休む場所ないか。」と聞かれたので「ある。」と答えた。このことに関し,被告人は「会うは駄目。」と言ったので,何かあったときに捕まる可能性が強いので,実行犯と会うのは駄目だと言ったのだと思った。このように,被告人から被害者宅のことをいろいろと聞かれたので,やはり被告人は強盗グループの仲間であるという思いを強めた。その後,5月になって,被告人からプリペイド式携帯電話を渡され,「今度からこれで連絡する。」と言われた。このとき,被告人も自分用のプリペイド式携帯電話を持っていた。このことから,自分が被告人に教えた情報は,被告人から実行犯グループに伝わっていて,実行犯グループが被害者宅で強盗をする日も近いと思った。また,このころ,被告人から,「25パーセントもらって,Aさん15パーセント,私10パーセント。ただは駄目。」といった分け前に関する話もされた。また,被告人から,被害者宅が大きい家であることや黒い車があることなどを言われ,それが実際と合致していたため,被告人の仲間が被害者宅の下見に行ったと思った。同月10日午後2時か3時ころ,被告人のプリペイド式携帯電話から自分のプリペイド式携帯電話に電話があり,「休むところあるか。」と聞かれたので,友人から借りていた黒石市の別荘を提供することにした。被告人は,実行犯グループがこれから向かうと言ってきたので,自分は東北自動車道黒石インターチェンジで待っている旨告げた。被告人からは車も用意するよう頼まれたが断った。同日午後4時30分ころ,黒石インターチェンジで実行犯グループと待ち合わせをし,休憩場所の別荘に案内した。別荘内では,Bと車や別荘の所有者について話をしたほか,Cから被害者宅の防犯体制,家屋内にあると思われる現金のおおよその額などを聞かれたので答えた。その後,自分は別荘を立ち去った。本件犯行後,被告人に電話をしたところ,被告人から「仲間は仙台から電車で帰った。」と言われた。自分は被害者と知り合いなので,必ず警察は自分のところに来るし,携帯電話の発信履歴から被告人との通話履歴が分かってしまい,自分にも捜査の手が伸びると思い,同月11日,被告人のプリペイド式携帯電話を取り上げ,被告人から渡された自分のプリペイド式携帯電話と共に自分が処分した。被告人は,電話の履歴については,「エステ店の経営権についてのトラブルの話をしていたことにしよう。」と言っていた。
(イ)a そこで,A供述の信用性を検討するに,Aは,被告人から本件犯行を持ちかけられた経緯やその状況,被害者宅について被告人に教えた情報の内容,別荘を用意するに至った経緯,別荘内での実行犯グループとの会話の内容など,核心部分について全体として具体的かつ詳細な供述をしており,反対尋問でも揺るいだ様子は見られず,不自然,不合理な点は特に見られない。
b また,携帯電話の通話記録によれば,Aは,同年4月からほぼ毎日のように自己の携帯電話から被告人の携帯電話に架電していたが,同年5月3日以降は13日まで発信履歴がないこと,情報提供者のAが被告人に被害者宅の情報を教えた同年4月下旬以降,被告人から実行犯グループへの発信履歴がないこと,Aが被告人のものとするプリペイド式携帯電話と被告人から渡されたとする自分のプリペイド式携帯電話を処分した同年5月11日以降,Aのプリペイド式携帯電話からの発信履歴がないこと,同年5月10日午後3時ころ,Aのプリペイド式携帯電話から被告人のものとするプリペイド式携帯電話及び実行犯グループの携帯電話への発信履歴があること,同日午後4時30分ころにも,Aの前記携帯電話に実行犯グループの携帯電話からの発信履歴があることが認められ,A供述は,概ね通話記録と合致している。
そして,同年5月10日に黒石インターでの待ち合わせについて電話をしたこと及びその日時,休憩場所の別荘において,AがBとAの車の値段や別荘の所有者の話をしたこと,Aが実行犯グループと被害者宅の防犯体制等について話をしたこと,Aが「H」という中国人の名前を出したことなどについて,Aの供述とBの供述内容は概ね一致している。AとBは,本件まで全く面識がなく,本件に関してもAは情報提供者でBは実行犯グループが連れてきた運転手役であって,この2人の間に接点を見出しにくいところ,電話の履歴等から2人が頻繁に連絡を取り合っていたとも認められない。
c さらに,A供述は,同人自身の被告事件の公判が結審している状況下でなされたものであり,同人が自己の刑責を免れたり軽くするためにことさら虚偽の供述をすることは考えにくい。
引っ張り込みの可能性についても,Aは被告人の才能を見込んでエステ店の経営をさせようと考え,被告人と共に新店舗を探して回るなど,被告人と良好な関係にあったもので,被告人を恨んだりするような原因となる事実は関係各証拠からは認められない。
(ウ) 以上を総合すると,A供述の信用性は高いといえる。
イ これに対して,弁護人は,①被告人から情報提供の依頼があったとするのは,それまでの被告人とAとの関係からしても,話の流れからしても唐突であること,②被告人から「お金ある社長の家分からないか」と言われて強盗と考えるのは不自然であること,③Aは金銭目的を否定しているが,被告人から情報提供を求められて安易にそれに応じているのはAに金銭目的があったからであること,④Aは,被告人からプリペイド式携帯電話を渡されて後は,それを使って被告人と通話していたとするが,被告人はプリペイド式携帯電話と通常の携帯電話の2つでAと連絡を取っていたことになり,また,その処分もAが行ったとしているが,不自然であること,⑤休憩場所の別荘の利用状況からすると,Aは被告人からの電話を待つまでもなく,既に犯行日時を知っていたと考えられること,⑥被告人とAとの会話が日本語でできたか疑問であることから,A供述は信用できないと主張する。
(ア) しかし,①については,Aは被告人から同人経営のエステ店でのもめ事の解決を依頼されたり,2人で被告人のために新しい店舗の場所を探しに行くような関係にあったのであるから,2人の間にはある程度の信頼関係はあったと言えるし,A自身,被告人が裏切るようなことはないだろうと思っていた旨供述している。そうすると,被告人は中国人であるから中国人の犯罪集団でも知り合いかもしれないと思ったAが,被告人に対して違法な体感器の話をしたことは不自然とまでは言えない。また,Aが暴力団構成員であることは被告人も知っていたのであるから,それをきっかけに被告人がAに情報提供を持ちかけることもあながち不自然とは言えない。
(イ) ②については,Aは,被告人が「パチンコもあるし,泥棒もあるし,それよりお金ある社長の家分からないか。」と言ったことから被告人が強盗をすると考えたと供述するものであるが,Aが被告人の「それより」という言葉に重きを置き,また,人の住居に入ることから,そのように考えたとしても,Aがそのように思う限りにおいては,あながち不自然とまでは言えない。
(ウ) ③については,確かに,Aは本件当時,金銭に困窮していたこと,本件以前に中国人グループと窃盗を行って分け前を取得したことがあることが認められるのであって,Aが本件犯行による分け前を全く期待していなかったとするのは,不自然であるが,そのことをもって直ちにA供述全体の信用性が疑わしいとまでは言えない。
(エ) ④については,それまでAと被告人は互いの携帯電話で連絡を取り合っていたところ,携帯電話の通話履歴から足がつくことを恐れ,本件犯行に関する連絡に限って通常の携帯電話ではなく,プリペイド式携帯電話を使用したとみることもできるのであるから,被告人がAにプリペイド式携帯電話を渡したことをもって必ずしも不自然とまでは言えない。また,プリペイド式携帯電話の処分についても,Aが自らの分と共に被告人のプリペイド式携帯電話も併せて処分することは,Aが捜査の手が自己に及ぶことを何としても免れたいと思うが故の行動とも解釈することができ,また,当時被告人が被害者が死亡したことでかなり動揺していたことも併せ考慮すれば,この点についても不自然とまでは言えない。
(オ) ⑤については,Aは,本件別荘を紹介する際,宿泊ではなく,午後遅くに休憩場所として希望されたことから,その日のうちに被害者宅に行くと分かったと供述しており,この供述自体自然である。また,Aは,平成16年5月初めに,子どもと温泉に入るために友人から本件別荘の鍵を借りていたが,結局行かなかったと供述するが,そのこと自体,あながち不自然とまでは言えず,本件犯行後,すぐに別荘の鍵を友人に返却したことについても,本件犯行に関係する物を,できるだけ早く手離したいとの気持ちから取った行動とも考えられる。
(カ) ⑥については,前述のとおり,被告人はAにエステ店のもめ事の解決を依頼したり,被告人が経営する新店舗を探しに2人でAの車で各地に赴くなどしていることに加え,被告人自身もお互い日本語で話をしていた旨供述していることからすれば,日常会話程度の日本語の能力は有していたと認められる。
ウ 以上によれば,弁護人の主張はいずれも採用できない。
(3) 以上の認定事実を前提とすると,Aが思ったように,「泥棒もある。それよりもお金ある社長の家分からないか」という被告人の言葉から強盗を連想することはあながち不自然とまでは言えず,かつ,被告人は,被害者宅の家人が確実に不在となる時間帯についてはAに情報を求めていないこと,被告人はAに対し,本件犯行前日の午後3時過ぎころに実行犯グループの休憩場所を依頼していることから,家人が在宅している夜中に本件犯行が行われることは当然に予測できたことなどに鑑みれば,被告人は,実行犯グループが,被害者宅において強盗に及ぶことを十分に認識,認容していたと認められ,強盗の犯意に欠けるところはなく,その範囲で共謀も成立すると認められるし,被告人が違法性の意識を欠いていなかったことは明らかである。
(4)ア これに対し,被告人は,当公判廷において,概ね以下のとおり供述している。
平成16年1月7日にAから窃盗をしてくれる中国人はいないかと言われた。その後,同年3月31日ころ,同人から「賭博で五,六千万負けて,1000万円の借金をし,500万円をすぐに返さないと親分に殺される。泥棒を紹介してくれ。」と言われた。その後もAから催促されたので,同年4月7日,親戚の婚約者である中国人のGに泥棒を紹介してくれるよう頼んだ。Gから,盗みに入る家の情報を聞くように言われ,Aから被害者宅の情報として,家族構成は男女1人ずつの2人であること,男性は9時から5時まで仕事で留守であり,車がないときも留守と判断してよいこと,女性は月曜日から木曜日に通院していることを聞き,これらの情報をGに伝えた。これ以外の情報は住所も含め,Aから聞いていない。被害者宅はAが自ら案内すると言っていた。また,Gから,泥棒が弘前に行ったら誰と連絡を取ればいいのかと聞かれたので,Aと直接連絡を取ってもらうこととし,Aがここに連絡をしてほしいと言っていたそれまでとは違う携帯電話の番号をGに教えた。Aは,「4月はお金を家に置いていないので,5月に来て欲しい。黒石のインターチェンジで待っていると伝えて欲しい。」と言ったので,これをGに伝えた。自分が本件に関与したのは同年4月29日までである。本件犯行後,Aから本件犯行の分け前を要求されたことはない。
イ そこで,被告人供述の信用性について検討するに,被告人は,要するに,賭博に負けて金銭に困窮していたAから,500万円を返さないと親分に殺されるなどと言われて窃盗の中国人を紹介するよう持ちかけられたというのであるが,(a)Aが本件犯行によって分け前を得ていないことが認められるのみならず,被告人の供述によれば,本件犯行後,Aが被告人に対して分け前を要求したこともないというのであるから,両供述は全く相容れないというべきである上,(b)被告人の供述によっても,Aが初めに窃盗の話を持ち出した同年1月7日から,被告人が明確に断っていないにもかかわらず,具体的な話をした同年3月31日ころまで相当の日数が経っているのみならず,具体的な実行を同年5月まで待てと言われたという点も,金をすぐ返さないと親分に殺されるとのAの切迫した状況とは相容れないのであって,本件犯行を持ちかけたのはAであるとする被告人の供述は,不自然,不合理である。確かにAは,本件以前に中国人グループと窃盗を行っていたものの,金銭に困窮していたからといって,そのことから直ちに,窃盗グループとの関係があるとは見ておらず,被告人にエステ店を経営させて自分もその利益にあずかろうとしていたAが,被告人に対し,窃盗を行う中国人を紹介するよう依頼をすることは飛躍があり,不自然としか言いようがない。
また,被告人は,Aから同年3月31日に窃盗の話を持ちかけられた場所について,弁護人からの質問には当初エステ店,その後居酒屋であると供述し,裁判官からの質問にはエステ店内であったと供述を変遷しているが,Aから窃盗の話をされた場所は,被告人にとって重要であり,かつ,記憶にも残りやすいと考えられるところ,この点について供述が変遷する合理的理由は見出し難い。
さらに,被告人は,同年4月29日以降はAと全く連絡をとっていないとしているが,前述のとおり,通話記録によれば,同年5月10日に,Aのプリペイド式携帯電話と被告人のプリペイド式携帯電話の間で通話がなされていることが認められる。
ウ 以上に加えて,被告人は,捜査段階において,自己の入出国の経緯について虚偽の供述をしていたことをも併せ考慮すると,被告人の供述は,全体として信用性に乏しいといえる。
 3 次に,弁護人は,被告人には幇助犯が成立するにとどまる旨主張するので,この点についても検討する。
 前記認定事実を前提にすると,被告人と実行犯グループとの間に上下関係や命令服従の関係があったとは認められないこと,Aとの間で,被告人とAの2人で奪取額の25パーセントを分け前として取得し,うち被告人は10パーセントを取得することになっていたこと,この分け前は,本件犯行に関与した者が被告人を含め9名であったことからすれば,実行行為を行っていない被告人の取り分としては十分といえること,被告人は本件犯行において情報提供者のAと実行犯グループとの橋渡しをしており,本件犯行を遂行する上で必要不可欠な役割を果たしたことが認められる。
 以上によれば,被告人は,自ら現場には赴かず,実行行為を行っていないとしても,実行犯グループと相互に利用・補充し合い,本件犯行を自己の犯行として行ったと認められるのであるから,被告人は従犯ではなく共同正犯としての刑責を負うべきである。
 したがって,この点についても弁護人の主張は採用することができない。
(量刑の理由)
  本件は,被告人が,情報提供者の日本人と中国人を中心とする強盗グループとを仲介し,強盗グループが青森県弘前市内の会社経営者宅に侵入して現金約260万円及び貴金属など約205点を強取し,その際,同所で就寝中であった経営者夫婦を死傷させた事案である。
本件犯行は,中国人を中心とする犯罪集団による計画的,組織的犯行であり,情報収集者,情報提供者,犯行に使用する自動車の運転手,実行グループなど役割分担し,侵入等に用いるバール,家人を緊縛,目隠し等するための布粘着テープ,ビニール紐等を予め用意した上で被害者宅に侵入し,寝室で寝ていた経営者夫婦をいきなりビニール紐で緊縛し,口や鼻といった呼吸に必要な箇所を,気密性の高い布粘着テープで覆った上,現金等の財物の在処を執拗に聞き出しており,用意周到で被害者らの生命に危険が及ぶ可能性が高い態様で敢行されたもので,悪質である。被告人らは,本件犯行により,総額900万円余りの多額の金品を取得すると共に,1名の人命を奪い,1名を負傷させており,本件犯行の結果は非常に重大である。被害者らにはこのような被害を受ける落ち度はなく,特に,被害者Eは,自ら会社を興して発展させたものであり,会社経営が安定し,家族とのくつろぎの時間をようやく持てるようになった矢先の惨事で,人生半ばで命を奪われることとなった無念さは察するに余りあり,妻のFを初めとする遺族らの憤りが大きいのももっともである。F自身も,就寝中に緊縛され,殺されるかもしれないとの思いの中,金品の所在場所を執拗に聞かれ,その場所を実際に示すよう指示されるなど,その味わった恐怖は容易に推察できる。
  被告人は,Aに本件強盗を持ちかけ,同人から被害者宅の情報を詳細に入手し,Aと実行犯グループとのパイプ役を務めており,被害者宅の所在すら知らなかった実行犯グループが本件犯行を行う上で必要不可欠な役割を果たしたと言える。また,被告人は,本件犯行後,Aと電話の会話内容について口裏合わせをしたり,中国に逃亡し,当公判廷においても前述のとおり不合理な弁解に終始して自己の刑責を免れようとするなどしており,事後の犯情も芳しくない。
以上によれば,被告人の刑事責任は重大であって,被告人が実行行為は行っていないこと,分け前を取得していないこと,本件に一定の関与をしたこと自体については反省の言葉を述べていること,これまで本邦における前科前歴がないこと,被告人には養育すべき幼児がいることなど被告人に有利な事情を最大限に考慮しても,主文掲記の刑を科すのが相当であると判断した。
(求刑 懲役13年)
平成18年1月13日宣告
青森地方裁判所刑事部
        裁判長裁判官  髙 原   章
             裁判官  室 橋 雅 仁
             裁判官  香 川 礼 子

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最終更新:2006年03月06日 18:14
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