hanrei @Wiki H18. 2.22 大阪地方裁判所 平成15年(ワ)第4290号 損害賠償請求事件



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 銀行が弁護士法23条の2に基づく照会及び調査の嘱託に対して預金口座の開設者の氏名及び住所を報告すべき法的義務があるとされた事例




主          文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告株式会社みずほ銀行は,原告Aに対し,500万円及びこれに対する平成14年5月9日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2 被告株式会社三井住友銀行は,原告株式会社大東コア技研に対し,300万円及びこれに対する平成14年4月8日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
3 被告株式会社三井住友銀行は,原告Bに対し,150万円及びこれに対する平成14年4月8日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,
(1) 大阪弁護士会が,原告Aの代理人弁護士の申出を受けて,被告株式会社みずほ銀行(以下「被告みずほ銀行」という。)に対し同被告に設けられた預金口座の開設者の名称及び住所等につき弁護士法23条の2に基づいて照会した(以下,弁護士法23条の2に基づく照会を「23条照会」という。)のに対して,被告みずほ銀行が,預金口座の開設者の承諾が得られないことを理由にその報告を拒否したところ,その報告拒否は違法なものであるなどとして,原告Aが,被告みずほ銀行に対し,不法行為に基づく損害賠償として500万円及びこれに対する23条照会に対する報告を拒否した日である平成14年5月9日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を
(2) 大阪弁護士会が,原告株式会社大東コア技研(以下「原告会社」という。)の代理人弁護士の申出を受けて,被告株式会社三井住友銀行(以下「被告三井住友銀行」という。)に対し同被告に設けられた預金口座の開設者の住所及び電話番号について23条照会をし,また,大阪地方裁判所が,被告三井住友銀行に対し同口座の開設者の住所及び電話番号について調査を嘱託した(民事訴訟法186条)のに対して,被告三井住友銀行が,預金口座の開設者の承諾が得られないことを理由にその報告をいずれも拒否したところ,その報告拒否はいずれも違法なものであるなどとして,
ア 原告会社が,被告三井住友銀行に対し,不法行為に基づく損害賠償として300万円及びこれに対する23条照会に対する報告を拒否した日である平成14年4月8日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を
イ 原告会社の代表取締役である原告B(以下「原告B」といい,原告会社と原告Bとを併せて「原告Bら」という。)が,被告三井住友銀行に対し,不法行為に基づく損害賠償として150万円及びこれに対する23条照会に対する報告を拒否した日である平成14年4月8日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を
各求めている事案である。
1 前提となる事実等(当事者間に争いのない事実及び証拠等により容易に認められる事実等。以下,書証番号は特記なき限り枝番を含むものとする。)
(1) 原告A関係
ア 原告Aは,平成14年4月22日ころ,大阪弁護士会所属の前川清成弁護士(以下「前川弁護士」という。)に対し,破産及び免責の申立ての代理を委任した。【甲A1の1,甲A10,11,弁論の全趣旨】
イ(ア) 前川弁護士は,平成14年4月26日,大阪弁護士会に対し,照会先を被告みずほ銀行上六支店,相手方を「C」,事件名を未提訴破産免責申立事件,申出の理由を,要旨,① 依頼者は相手方を始め19名の高利貸しから約350万円の借入があるが,返済を継続することができないので,大阪地方裁判所に自己破産を申し立てるべく用意している,② 自己破産を申し立てるに際しては裁判所に対して債権者一覧表を提出すべきであり,また,貸金業規制法に基づく取立規制を生じさせるために相手方に対して代理人就任通知書を送付したいが,相手方は無登録のいわゆる「システム金融」と思われ,依頼者に対してその名称と送金先銀行口座のみを知らせていたにすぎないため,相手方の名称及び所在が判明しない,などと照会書に記載して,下記の預金口座(以下「本件預金口座①」という。)につき,これを有する者の名称(氏名あるいは商号)及び所在地(住所)の報告を求めるよう23条照会を申し出た。同弁護士会は,同日,上記申出を受け付けた。【争いのない事実,甲A1の1】

銀 行 名   被告みずほ銀行(旧富士銀行)上六支店
種   類   普通預金
口座番号   1658445
名 義 人   C
(イ) 大阪弁護士会は,上記(ア)の申出を受け付けた後,被告みずほ銀行上六支店に対し,上記(ア)の照会書を送付して23条照会をし,本件預金口座①を有する者の名称(氏名あるいは商号)及び所在地(住所)を報告するよう要求した(以下,この23条照会を「本件23条照会①」という。)。【争いのない事実,甲A1の1】
ウ 被告みずほ銀行上六支店は,平成14年5月10日,大阪弁護士会に対し,相手方の承諾が得られないため本件23条照会①に対する報告をすることはできないなどと記載した同月9日付けの回答書を送付した。【争いのない事実,甲A1の2】
エ(ア) 原告A代理人(前川弁護士ら)は,平成14年6月7日,被告みずほ銀行に対し,原告Aが同月2日に「東洋」の従業員と名乗る者から取立行為を受けたこと及び本件預金口座①の預金者が無登録の貸金業者と思われることを記載した上,この書面が到達してから3日以内に本件預金口座①を有する者の氏名及び住所を原告A代理人あてに文書で報告するよう求める旨の同月5日付けの書面を内容証明郵便で送付したが,被告みずほ銀行は,原告A代理人に対し,本件預金口座①の開設者の氏名及び住所を報告しなかった。【争いのない事実,甲A2】
(イ) 原告A代理人(前川弁護士ら)は,平成14年6月19日,被告みずほ銀行に対し,上記(ア)の内容証明郵便による通知と被告みずほ銀行の回答拒絶の事実を確認し後日の証拠とするなどと記載した同月18日付けの書面を内容証明郵便で送付したが,同被告の従業員は,同月20日,前川弁護士に電話をかけ,本件預金口座①の開設者の氏名及び住所を報告しない旨回答した。【争いのない事実,甲A3】
オ 大阪弁護士会は,平成14年9月27日,被告みずほ銀行上六支店に対し,本件23条照会①に対しては拒否するにつき正当な理由がない限り法的に回答する義務があり,一律かつ抽象的に回答拒否をすることは許されない,本件23条照会①は,貸金業規制法に基づく取立規制を生じさせ,また,破産申立書添付の債権者一覧表を作成する目的があるから,照会の必要性がある,本件預金口座①の開設者の住所等を報告したからといって同人のプライバシーを侵害することにはならず,むしろ同人に対する文書の送達を確実にし,破産申立事件における同人ないしその関係者の手続保障の確保の観点から利益になるものである,本件23条照会①に早急に回答していただきたい,本件においては,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の適用の可能性があるから照会の必要性は一層高く,単に預金者のプライバシー保護等の問題としては処理できない点がある,などと記載した大阪弁護士会会長及び同司法委員会委員長作成に係る同月26日付けの「申入書」と題する書面を送付した。【争いのない事実,甲A4】
カ 被告みずほ銀行上六支店は,平成14年10月17日,大阪弁護士会に対し,本件預金口座①の開設者であるCの氏名及び住所を記載した同日付けの回答書を送付した。【争いのない事実,甲A5】
(2) 原告Bら関係
ア 当事者
(ア) 原告会社は,とび・コンクリート工事業等を目的とする株式会社であり,原告Bは,原告会社の代表取締役である。【甲B22の1,弁論の全趣旨】
(イ) 被告三井住友銀行は,平成15年3月17日の株式会社三井住友銀行との合併により存続会社となった株式会社わかしお銀行(ただし,その後の商号変更により,商号は株式会社三井住友銀行となっている。)である(以下,上記合併前の株式会社三井住友銀行と被告三井住友銀行とを併せて「被告三井住友銀行」という。)。【争いのない事実】
イ 原告会社は,平成14年1月7日,「エース企画」と称する金融業者(電話番号a。以下「エース企画」という。)に電話をかけ,同社に対して60万円の借入れを申し込み,同日,同社の指示に従い,下記の各小切手(以下,下記の小切手のうち②の小切手を「本件小切手」という。)を各振り出し,それらを品川郵便局留置「エース企画」あてに送付した。エース企画は,同日,原告会社名義の当座預金口座に59万5000円を振り込んだ。【甲B1ないし3,22の1,甲B23,弁論の全趣旨】

① 小切手番号   EB16486
額    面   40万円
振出日   平成14年1月15日
支払地   大阪厚生信用金庫四条畷支店
② 小切手番号   EB16487
額    面   40万円
振出日   平成14年1月21日
支払地   大阪厚生信用金庫四条畷支店
ウ 原告会社は,平成14年1月17日ころ,大阪弁護士会所属の植田勝博弁護士(以下「植田弁護士」という。)に対し,同社の債務整理等を委任した。【甲B6の1,甲B22の1,甲B23,弁論の全趣旨】
エ(ア) 被告三井住友銀行芝支店は,平成14年1月29日ころ,本件小切手の持参人から本件小切手の取立委任を受けたため,手形交換所において本件小切手の支払呈示をした。【争いのない事実】
(イ) 原告会社は,平成14年1月29日ころ,大阪厚生信用金庫に40万円を預託して小切手の異議申立手続を委任し,これを受けた同金庫が,大阪手形交換所に対し,契約不履行を理由として上記40万円を提供して異議申立てをしたところ,本件小切手の裏面に「D」と記載されていることが判明した。【争いのない事実,甲B4,5,22の1】
オ 植田弁護士は,平成14年3月4日,大阪弁護士会に対し,「a」の電話番号で東日本電信電話株式会社と契約している者の氏名,住所及び電話番号等について23条照会を申し出た。これを受けた同弁護士会が,同社に対し,23条照会をして上記事項を報告するよう要求したところ,同社は,同月13日,同弁護士会に対し,電話番号「a」の契約者名が「株式会社アイ・エス・プラン」であること,及びその設置場所が「東京都渋谷区bc丁目d-e fg階」であること等を報告した。【甲B6,22の1】
カ(ア) 植田弁護士は,平成14年3月22日,大阪弁護士会に対し,照会先を被告三井住友銀行芝支店,相手方を株式会社アイ・エス・プランニング,事件名を「出資法違反及び貸金業法違反の刑事告訴事件並びに契約無効確認訴訟事件」,申出の理由を,要旨,原告会社は同社が振り出した下記の小切手につき異議提供金を提供しているが,異議提供金の取戻しのため契約無効確認請求訴訟の提起の準備中であるところ,その小切手を被告三井住友銀行に持ち込んだ者を特定する必要がある,などと照会書に記載して,被告三井住友銀行芝支店に設けられたD名義の預金口座(以下「本件預金口座②」という。)につき,開設者の住所及び電話番号の報告を求めるよう23条照会を申し出た。同弁護士会は,同日,上記申出を受け付けた。【争いのない事実,甲B7の1】

金   額   40万円
振 出 日   平成14年1月21日
振 出 地   大東市
振 出 人   株式会社大東コア技研代表取締役B
支払場所   大阪厚生信用金庫四条畷支店
小切手番号   EB16487
(イ) 大阪弁護士会は,上記(ア)の申出を受け付けた後,被告三井住友銀行芝支店に対し,上記(ア)の照会書を送付して23条照会をし,本件預金口座②の開設者の住所及び電話番号を報告するよう要求した(以下,この23条照会を「本件23条照会②」という。)。【争いのない事実,甲B7の1】
(ウ) 被告三井住友銀行は,平成14年4月11日,大阪弁護士会に対し,同被告は顧客に対する守秘義務を負っており,顧客の了解が得られないので,本件23条照会②に対する報告をすることはできないなどと記載した同月8日付けの回答書を送付した。【争いのない事実,甲B7の2】
(エ) 被告三井住友銀行は,上記(ウ)の後から現在に至るまで,本件23条照会②に対する報告をしていない。【弁論の全趣旨】
キ(ア) 原告会社(代理人植田弁護士ら)は,平成14年6月19日,大阪地方裁判所に対し,エース企画こと株式会社アイ・エス・プラン(住所 東京都渋谷区bc-d-e)及びD(住所 東京都渋谷区bc-d-e(株)アイ・エス・プラン方)等を被告として,本件小切手に係る債務が存在しないことの確認並びに本件小切手の返還等を請求する訴訟(大阪地方裁判所平成14年(ワ)第6063号。以下「別件訴訟」という。)を提起したところ,被告のDに対しては訴状副本が送達されなかった。【甲B8,9,11,13,15,22の1,弁論の全趣旨】
(イ) 原告会社(代理人植田弁護士ら)は,平成14年7月19日,大阪地方裁判所に対し,Dの住所及び電話番号について調査の嘱託の申出をし,これを受けた同裁判所は,同月30日,被告三井住友銀行に対し,Dの住所及び電話番号について調査を嘱託した(以下,この調査の嘱託を「本件調査嘱託」という。)。【甲B9,10,22の1,乙B1】
(ウ) 被告三井住友銀行は,平成14年8月16日,大阪地方裁判所に対し,Dの了承が得られなかったので,本件調査嘱託に対して回答することはできないなどと記載した同月13日付けの回答書を送付した。【争いのない事実,甲B10】
(エ) 原告会社(代理人植田弁護士ら)は,平成14年10月7日,大阪地方裁判所に対し,別件訴訟についてDに対する公示送達を申し立てた。【甲B11,15,22の1】
(オ) 原告会社代理人(植田弁護士ら)は,平成14年11月12日,被告三井住友銀行芝支店に対し,Dの住所及び電話番号を報告するよう求める旨の同月11日付けの書面を内容証明郵便で発送したが,被告三井住友銀行浜松町支店副支店長は,同月21日,原告会社代理人の浅葉律子弁護士(以下「浅葉弁護士」という。)に電話をかけ,本件23条照会②及び本件調査嘱託に対する報告はしない旨を告げた。【争いのない事実,甲B12】
(カ) 原告会社代理人(植田弁護士ら)は,平成14年12月10日,被告三井住友銀行芝支店に対し,Dの住所及び電話番号を開示するよう再度求める旨の同月6日付けの書面を内容証明郵便で発送したが,被告三井住友銀行は,同月24日,原告会社代理人に対し,同被告は顧客に対する守秘義務を負っていることから顧客情報を開示することはできないなどと記載した同日付けの書面を内容証明郵便で発送した。【争いのない事実,甲B13】
(キ) 別件訴訟においては,Dに対して訴状の公示送達がされ,平成14年12月18日に第1回口頭弁論期日が開かれ,平成15年1月27日の第4回口頭弁論期日に原告会社の請求を認める旨の判決が言い渡された。【争いのない事実】
2 本件の争点
(1) 原告Aの被告みずほ銀行に対する損害賠償請求権が成立するか否か,及び成立するとした場合にその額はいくらか。
(2) 原告Bらの被告三井住友銀行に対する各損害賠償請求権が成立するか否か,及び成立するとした場合にその額はいくらか。
3 争点についての当事者の主張
(1) 争点(1)(原告Aの被告みずほ銀行に対する損害賠償請求権の成否及びその額)について
(原告Aの主張)
 被告みずほ銀行は,原告Aに対して不法行為責任を負う。
ア 事実関係
(ア) 原告Aは,平成11年ころから借金が増加し,平成13年夏ころ,いわゆるヤミ金融業者(貸金業者としての登録の有無を問わず,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの。以下「出資法」という。)5条2項の制限利率年29.2%を超える割合の利息による貸付けを業として行う者をいい,単に「ヤミ金業者」あるいは「ヤミ金」ということもある。以下同じ。)である東洋ことCから,元金6万円を一括して返済しない限り10日ごとに1万円の利息を支払うなどの約定で6万円を借り入れたが,平成14年2月ころ,上記借入金を精算した。
 上記の取引において,東洋ことCは,原告Aに対し,振込先として本件預金口座①を指定し,連絡先として東洋の従業員の携帯電話番号を知らせるのみで,東洋の営業所所在地,住所,代表者氏名,法人か個人か等を一切明らかにしなかった。
 さらに,原告Aは,平成14年3月初めころ,上記と同一の条件で,東洋から4万円を借り入れた。
(イ) 原告Aは,平成14年4月22日ころ,借金の合計が365万円に達したため,前川弁護士に破産及び免責の申立ての代理を委任した。前川弁護士は,同月25日,商号ないし屋号等と所在地が判明していた貸金業者に限って受任通知書を発送したところ,上記貸金業者からの取立てはすべて停止した。しかし,Cについては,「東洋」という屋号と本件預金口座①の存在が判明していたのみであり,氏名と住所が特定していなかったため,受任通知書を発送することができなかった。
(ウ) そのため,前川弁護士は,被告みずほ銀行に対する23条照会(本件23条照会①)を申し出るなどしたが,被告みずほ銀行は,相手方(C)の承諾が得られないことを理由に報告を拒否した(前記前提となる事実等(1)参照)。
(エ) 平成14年6月2日午後10時40分ころ,東洋の従業員等が原告Aの自宅に押し掛け,「金,返さんかい。」,「電話しても出ないし,どないなってんや。」,「連絡したら電話くらい出たらどうやねん。」,「払ってくれへんというのは,人間としておかしいのと違うか。」などと原告Aの自宅前の路上で大声で騒いだ。これに対し,原告Aが弁護士に債務整理を依頼している旨述べると,上記従業員等は,「弁護士なんて知らん。俺ら関係ない。払うもんは払え。」,「6万円になっているから,1万円ずつ6回に分けてでも払え。」,「払わへんかったら,家の中で暴れたる。」などと怒鳴るなどして,原告Aを脅迫した。これにより,原告Aは,今後も東洋により暴力的なことをされることを恐れた。
(オ) さらに,前川弁護士らは,被告みずほ銀行に対して本件23条照会①に対する報告を督促するなどしたが,被告みずほ銀行は報告を拒否した(前記前提となる事実等(1)参照)。
(カ) 平成14年6年26日午後9時30分ころ,東洋の従業員等が再び原告Aの自宅に押し掛け,上記(エ)と同様に原告Aの自宅前の路上で大声で騒いだ。これに対し,原告Aが弁護士と対応するよう要請すると,同従業員等は,「弁護士なんて関係あらへん。おたくに聞いているのや。」,「借りて返さんのは許さん。一銭も返さんとは何事や。」,「今度払ってくれへんかったらヤクザに回るで,その方がどんだけ怖いか。」などと大声で述べ,原告Aを脅迫した。これにより,原告Aは,上記(エ)と同様に恐怖心を抱いた。
(キ) 平成14年10月17日,被告みずほ銀行は,大阪弁護士会からの督促を受けて,ようやくCの氏名及び住所を回答した(前記前提となる事実等(1)参照)。
イ 23条照会に対する報告義務の存在
(ア) 23条照会の制度は,弁護士が基本的人権を擁護し,社会正義を実現することを使命とするものである(弁護士法1条)ことにかんがみ,弁護士が受任事件について,訴訟資料を収集し,事実を調査する等その職務活動を円滑に執行処理するために,刑事訴訟法197条2項の捜査機関による照会の制度にならって設けられた公共的性格を有するものである。また,23条照会の制度は,弁護士の受任事件が訴訟事件になった場合には,当事者の立場から真実の発見に努め,また,裁判所の行う真実の発見と公正な判断に寄与する結果をもたらすことを目指すものである。
 そして,弁護士法は,23条照会の制度の重要性にかんがみ,相手方を公務所又は公私の団体に限定し,かつ,請求の権能を直接個々の弁護士ではなく,弁護士の指導,連絡及び監督に関する事務を行う公的機関としての性格を有する弁護士会に与え,弁護士会は弁護士からの照会申出について必要性,相当性を判断し,適当でない場合は申出を拒絶し,その他の場合は必要事項の報告を求めるものとするなど,同制度につき慎重な配慮を加えている。
 上記のような目的と手続の下にされた23条照会に対しては,被照会者は,自己の職務の執行に支障がある場合,及び照会に応じて報告することの持つ公共的利益にも勝り保護しなければならない法益が他に存在する場合を除き,照会の趣旨に応じた報告をすべき義務があるというべきである。
 なお,法律上報告を直接強制する手段がないことや報告拒否に対する罰則規定がないことは,被照会者が報告義務を負うことを否定する理由とはならない。
(イ) 被告みずほ銀行は,被照会者は23条照会に対する法律上報告義務がないなどと主張する。
 しかし,法律上報告義務がないとすると,いかなる理由に基づく報告拒否も違法の評価を受けないこととなり,銀行に対して23条照会をする場合において報告拒否が一般化し,23条照会の制度の機能を完全に失わせることとなる。
ウ 被告みずほ銀行の報告義務違反
 被告みずほ銀行には,本件23条照会①に対する報告を拒否すべき正当な理由はなく,同被告による報告拒否は違法である。
(ア) 23条照会に対する報告義務違反の判断基準
a 上記イのとおり,23条照会の被照会者はこれに応じる法律上の義務を負っているから,被照会者は原則として報告しなければならず,報告を拒絶する行為は原則として違法となると解すべきである。また,23条照会の制度は,その対象としてプライバシー性を有する事項が含まれることを当然に予定していると解されるから,単に照会を求める事項がプライバシー性を有するものであるとか,守秘義務の対象事項であるなどといったあいまいかつ広範な内容の基準で報告拒否を正当化することを認めることは,ほとんどすべての場合において報告拒否を許す結果となり,弁護士法23条の2を死文化させるに等しいことになる。
 そうであるとすれば,被照会者は,報告することによってもたらされる具体的事件における真実発見等の公共的利益と報告を拒絶することによって守られる個々のプライバシー等の利益とを比較して,報告することによってもたらされる公共的利益が報告を拒絶することによって守られる利益に優越すると判断される場合には,報告を拒絶することは許されないというべきである。具体的には,① 報告を拒絶することによって守られる利益が報告することによってもたらされる公共的利益と同じかそれを優越するほど高度のプライバシー性,秘密性を有する重要なものであることを前提として,② その報告事項の有無が具体的事件における真実発見等の公共的利益の実現のための重要な争点(報告事項の重要性)ではないこと(具体的には,当該報告事項が具体的事件における真実発見等の公共的利益の実現にとって何ら関連性がなく重要ではないこと),又は,③ 当該事項について照会をして報告を得る方法以外に他に立証方法がない(他の代替的立証方法の存否の問題)とはいえないことが明らかな場合に限り,報告を拒絶することができるにすぎない。
 なお,上記①の報告することによってもたらされる公共的利益と同じかそれを優越するほど高度のプライバシー性,秘密性を有する事項は,前科,前歴の有無等ごく限られたものであると考えられ,取引の相手方である口座開設者の住所,氏名,電話番号等は,そのプライバシー性,秘密性は全く問題とならないくらい低いものであるから,このような事項についての23条照会に対する報告拒絶が認められる余地はほとんどないというべきである。また,上記③の他の代替的立証方法の存否の問題については,報告事項の性質によって,その要求される厳格性の程度が異なると考えるべきである。すなわち,前科等のプライバシー性,秘密性が最も高い事項については,他の代替的立証方法の不存在が要求されると解すべきであるが,それと異なり高度のプライバシー性が要求されない事項については,必ずしも当該事項について23条照会によって報告を求めることが唯一の立証方法であることまでは要求されず,23条照会によって報告を求めることが真実発見のための立証方法となり得る場合であれば足り,被照会者が当該事項についての情報を把握,保持していないことを明らかにするなど23条照会によって報告を求めること自体が立証方法となり得ないことを明らかにした場合に限って,報告を拒絶することが許される。さらに,上記②の報告事項の重要性及び③の代替的立証方法の不存在の問題については,23条照会が各単位弁護士会における厳格な審査を受け,適当な申出であると認められている以上,具体的な回答義務を認めるべき条件を満たしているものと推定される。
b 23条照会は弁護士会が必要性等を判断した上で行っているものであり,23条照会の被照会者において報告すべきか否かの判断をさせることは,結局は報告拒否が正当であるという判断がされることになり,23条照会の制度を否定することにもなる。
 よって,被照会者が23条照会に対する報告を拒否することの正当性につき立証責任を負うというべきである。
c 以上によれば,23条照会の被照会者は,① 報告を求められている事項が極めて高度のプライバシー性を有する事項であり,それを拒絶することによって守られる利益が報告することによってもたらされる公共的利益を優越する可能性があるという極めて例外的な場合に限り,一旦報告を留保し,照会を求めた弁護士会に対し,報告事項の重要性及び他の代替的立証方法の存否に関する事情,情報の提供を求め,② その報告事項の有無が具体的事件における真実発見等の公共的利益の実現のための重要な争点(報告事項の重要性)ではないこと,又は,③ 当該事項について照会をして報告を得る方法以外に他に立証方法がない(他の代替的立証方法の存否の問題)とはいえないことが明らかであることを立証した場合でなければ,報告を拒絶することは許されないというべきである。
 なお,「法務省所轄の事業者等に対する個人情報の保護に関するガイドライン」においては,銀行が扱う預金口座開設者の氏名及び住所よりもはるかにセンシティブな個人情報につき,あらかじめ本人の同意を得ずに当該本人の個人情報の利用目的外の利用が許される場合として「法令に基づく場合」と挙げ,その例として,「弁護士法23条の2第2項による報告の求め」が明記されている(甲126)。そして,同ガイドラインには,23条照会に対する報告については,個人情報取扱事業者が「嘱託(や照会)に応じる公共的利益と応じないことにより保護される利益とを比較考量して,前者が優越する場合」には「法令に基づく場合」として,当該個人情報につき当該個人本人の同意を得ずに利用目的外の利用が許されると明記されている。このような基準は,原告Aが提示する上記の基準とその内容を同じくするものであり,上記基準が正しいことの根拠となる。
(イ) ヤミ金に係る事件の特殊性
a ヤミ金被害者が破産を申し立てるには,債権者一覧表に債権者であるヤミ金業者の氏名及び住所等を記載しなければならず,ヤミ金被害者である債務者が過払金の不当利得返還請求訴訟ないし債務不存在確認訴訟等を提起するためには,被告であるヤミ金業者を特定する必要があり,また,ヤミ金被害者がヤミ金業者からの違法な取立てを停止させるためには,ヤミ金業者に対し,債務処理に関する権限を弁護士に委任した旨を記載した書面(貸金業の規制等に関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの。以下「貸金業規制法」という。)21条1項,48条3号,当時の金融庁事務ガイドライン(以下「金融庁ガイドライン」という。)3-2-2(3)②。以下,この書面を「受任通知書」という。)を送付することが必要であるところ,そのためには,ヤミ金被害者はヤミ金業者の氏名及び住所を把握する必要がある。つまり,ヤミ金業者がどこの誰であるのかということを特定することは,ヤミ金被害者の法的救済のために必要不可欠な最低限の情報である。
 しかし,ヤミ金業者は自己の氏名及び住所等を隠ぺいするため,ヤミ金被害者においてこれを把握することは基本的に困難である。
b ヤミ金被害者がヤミ金業者を把握するための手がかりとなる情報としては,屋号,電話番号,担当者の名前,振込先として指定されている預金口座のいずれかしかなく,これをもとにヤミ金業者を特定するしかないが,上記のうち預金口座がヤミ金業者を特定するための唯一かつ必要不可欠の手段であるというべきである。
 まず,屋号については,ヤミ金は当然貸金業の登録をしていないから,営業所の所在地及び経営者に関する情報を都道府県の金融課に問い合わせるなどしても,ヤミ金業者を特定するには至らないのが通常である。担当者の名前については,犯罪を行うものが本名を名乗るとは考えられないから,これを把握してもヤミ金業者の特定には至らない。さらに,ヤミ金業者が借主と連絡を取るための携帯電話番号は,その電話番号が頻繁に変わること,その電話はプリペイド式の携帯電話やヤミ金業者以外の者が名義人となっている電話(電話レンタル業者の電話,他の被害者を欺罔又は脅迫して使用させている被害者名義の携帯電話等)であること等からして,上記電話番号の名義人を調査しても,ヤミ金業者の氏名及び住所の把握には至らないのがほとんどであり,ヤミ金特定のための有益な情報とはいい難いというべきである。
 これに対し,ヤミ金の回収のための預金口座は,銀行の口座について住民票その他の身分証明書の提示がなければ口座の開設が許されないとされていることからして,当該預金口座の開設者の氏名及び住所等はヤミ金業者の真実の情報ということができ,これを調査すれば,ヤミ金業者を確実に特定することができる。
 したがって,ヤミ金被害者の法的救済措置を講ずるに際しては,当該預金口座の開設者の氏名及び住所を把握することこそが,特に強力な調査能力及び権限を持たない債務者やその代理人弁護士にとって最も効果的かつ確実な唯一の方法であるといえる。
c 貸金業者は,借主に対して自己の名称や住所等を明示すべき義務を負っている(貸金業規制法17条1項,49条3号)ことから,銀行が貸金業者の名称及び住所に相当する預金口座開設者の氏名及び住所を開示することは,上記の趣旨にそうものであり,法律上全く問題とはならない。
d ヤミ金業者は犯罪者である(出資法5条2項参照)から,犯罪行為に利用されている預金口座の氏名及び住所を開示することは,犯罪被害の拡大防止という公益にもそうものであり,また,犯罪者のプライバシーないし信用を保護する必要がないこと等からしても,ヤミ金業者の氏名及び住所の秘密を保護すべき理由はない。
(ウ) 本件への当てはめ
a 本件においては,本件23条照会①に対する報告を拒絶することによって守られる利益は,報告することによってもたらされる公共的利益と同じかそれを優越するほど高度のプライバシー性,秘密性を有するものではない。
 被告みずほ銀行が本件23条照会①に対する報告をすることによってもたらされる利益としては,原告A代理人が受任通知書を東洋ことCに送付することによって,原告Aの違法な取立てを受けない利益,債務処理事件における真実発見等の公共的利益が認められる。他方,被告みずほ銀行が本件23条照会①に対する報告を拒否することによって守られる利益としては,東洋ことCのプライバシーであるところ,その内容はCの氏名及び住所並びにCが被告みずほ銀行上六支店に預金口座を有しているという事実のみであって,そのプライバシー性は,前科前歴などとは比較にならないほど低いと考えられる。したがって,本件においては,被告みずほ銀行が本件23条照会①に対する報告をすることによってもたらされる公共的利益の方が,それを拒否することによって守られるプライバシーよりもはるかに優越する。
 また,振込人である原告Aからすれば,自己の金員が着金した預金契約者に関する情報は,自己情報というべきものでもあり,預金契約者には氏名及び住所等を秘匿すべき法益はないというべきである。このことは,過誤入金の場合において,銀行等の金融機関が預金契約者の同意不同意を問わず23条照会に応じていることからも明らかである。
b 預金口座の開設者の氏名及び住所のような情報については,23条照会を求めることが唯一の立証方法であることまでは要求されない(上記(ア)参照)が,本件においては,唯一の立証方法であった。
 すなわち,上記(イ)の事情に加え,東洋は,原告Aに対し,振込先として本件預金口座①を指定しているだけで,東洋の氏名及び住所を一切明らかにしていなかったから,東洋の氏名及び住所の手がかりとなるのは同口座のみであり,原告A及びその代理人としては,破産免責手続における正確な債権者一覧表を作成し,また,東洋に対して受任通知書を送付するためには,被告みずほ銀行に対し本件23条照会①をし,Cの氏名及び住所の報告を得る以外には他に立証方法がなかった。
c 以上のとおり,本件においては,本件23条照会①に対する報告によってもたらされる公共的利益と同じかそれに優越するほど高度のプライバシー性,秘密性を有する利益自体が存在せず,被告みずほ銀行が本件23条照会①に対する報告を拒絶することによって守られる利益自体が存在しないから,被告みずほ銀行の報告拒否は弁護士法23条の2に基づく報告義務に違反し,違法である。
(エ) 被告みずほ銀行の主張に対する反論
a 被告みずほ銀行は,銀行は顧客との関係で守秘義務を負っているのであるから,請求主体(照会申出弁護士又はその依頼者)において,被照会者が報告しなかったことにつき相当かつ合理的な理由が存在しないことを立証した場合に当該報告拒否が違法となるのであり,上記の相当かつ合理的な理由の有無の判断に当たっては,照会書の記載内容及び添付資料の有無,照会申出弁護士との交渉内容,訴訟提起の有無,他の代替的立証方法の有無及び難易度等を総合的に考慮すべきであるなどと主張する。
 しかし,そもそも被告みずほ銀行の主張する守秘義務の内容ないし守秘義務によって守られるべき預金者の利益の具体的内容が明らかでなく,被告みずほ銀行の判断基準によっては個別具体的な利益衡量をすることができず,基準として無意味である。
 また,23条照会に対して報告をすることは正に法律を遵守する行為であること,預金口座の開設者の住所及び氏名はプライバシー性の低い最低限の情報であること等からすれば,顧客からの損害賠償請求が認められる可能性はないというべきである。なお,報告義務違反の判断基準として考慮されるべき利益に銀行の利益を含めることはできないというべきであり,銀行が顧客から損害賠償請求を受ける可能性があることを根拠として報告拒否することを認めると,常に報告拒否を正当化することになり,弁護士法23条の2が死文化する。
 さらに,23条照会の照会書の記載内容及び添付資料の有無は,弁護士会が当該照会を求める理由を判断するためのものであり,23条照会に対する報告拒否の正当性の判断材料としては意味を成さないし,照会申出弁護士との交渉内容,訴訟提起の有無が報告拒否の正当性の有無の判断材料となる理由が明らかでない。
 被告みずほ銀行の主張によると,いかなる場合に守秘義務が免責されるのか明らかでなく,立証責任についても,「相当な理由が存在しないこと」の証明を照会申出弁護士側に負わせるものであって,立証責任の原則に反する。
b 被告みずほ銀行は,本件では,原告AとCとの間で訴訟等の法的手続がとられていなかったこと,Cの電話番号につき23条照会をするという代替的手段が存在していたことを挙げ,報告拒否は正当であったなどと主張する。
 しかし,23条照会は,訴訟の提起の有無を問わずに認められているものであり,それが報告拒否の違法性の判断に何ら影響を与えるものではないというべきである。また,電話番号につき23条照会をしても実効性を欠くことは,前記(イ)a,bのとおりである。
c 被告みずほ銀行は,本件23条照会①に対して報告することによってもたらされる利益は原告Aの私益にすぎない,本件23条照会①に対する報告を拒否することによってもたらされる利益は預金者のプライバシーであり憲法上保護に値する基本的人権である,原告の判断基準では報告拒否が自動的に違法となってしまい基準として無意味である,などと主張する。
 しかし,本件23条照会①に対して報告することによってもたらされる利益は公共的利益である(前記(イ),(ウ)参照)し,23条照会に対して報告することは法律上の義務であることからすれば,報告拒否が原則として違法となるのは当然のことであり,原告の基準によっても例外が認められており,すべての報告拒否が違法となるものではない。
d 被告みずほ銀行は,照会書の記載内容だけではCがシステム金融(甲22,59によれば,同一の多重債務者に対しグループ内のヤミ金業者を紹介し次々に貸し付けて法外な金利を支払わせる形態の金融をいうものとされるが,本件においては,借主に手形又は小切手を振り出させ,銀行等の金融機関に上記手形又は小切手の取立委任を行って利息を取り立てるヤミ金業者をいう。以下同じ。)であるかどうかが分からないなどと主張する。
 しかし,システム金融であっても小口ヤミ金であっても,ヤミ金業者であること自体は明らかであるから,照会書の申出の理由において,Cが原告Aに対して東洋という名称と送金先の預金口座を知らせていたにすぎず,当事者の特定ができないことが記載されていれば必要かつ十分であるというべきである。
エ 被告みずほ銀行の報告義務違反と原告Aに対する不法行為
(ア) 被告みずほ銀行は,同被告が不法行為の違法性を基礎づける作為義務を負っていないから,不作為による不法行為責任を負わないなどと主張するが,被告みずほ銀行の行為は,本件23条照会①に対する報告の拒否という作為であって不作為ではない。
(イ) 被告みずほ銀行の行為を不作為と構成するにしても,以下のとおり被告みずほ銀行は原告Aに対する不法行為責任を負う。
a 被告みずほ銀行は,被照会者に23条照会に対する報告義務があるとしても,それは弁護士会に対する義務であって照会申出弁護士又はその依頼者に対する義務ではないから,上記義務に違反しても,照会申出弁護士又はその依頼者に対して損害賠償義務を負うことはないなどと主張する。
 しかし,23条照会は,照会権の濫用を防止するために,照会の申出に対する審査権限及び照会権限を弁護士会に専属させているにすぎないから,被照会者の報告拒否によって具体的な不利益を被るのは,義務の名あて人である弁護士会ではなく,照会申出弁護士の依頼者である。よって,23条照会に対する報告義務が弁護士会に対する義務であるとしても,同義務違反の結果,照会申出弁護士の依頼者に損害が発生した場合は,当然不法行為責任が発生するというべきである。
b 被告みずほ銀行は,被照会者の23条照会に対する報告義務は一般公法上の義務に違反するにすぎないから,被照会者が上記義務に違反しても,私法上の不法行為責任を負わないなどと主張する。
 しかし,故意又は過失によって特定の義務に違反する行為は,原則として違法の評価を受け,その結果,特定の私人が損害を被った場合には,上記義務が私法上の義務か公法上の義務かを論ずるまでもなく,当然に被照会者は不法行為責任を負う。よって,仮に23条照会に対する報告義務が公法上の義務であったとしても,本件では,被告みずほ銀行の報告義務違反により,照会申出弁護士(前川弁護士)の依頼者である原告Aが具体的に不利益及び損害を被ったのであるから,被告みずほ銀行は,原告Aが被った損害の賠償責任を負う。
オ 信義則に基づく開示義務違反
 被告みずほ銀行の報告拒否は,信義則に基づき認められる報告義務(情報開示義務)に違反し,違法である。
(ア) 開示義務の存在
 被告みずほ銀行は,原告Aに対し,信義則上,23条照会という手続を用いるまでもなく,ヤミ金の特定のための必要不可欠な立証手段であるヤミ金の氏名及び住所という情報を開示する義務を負っている。
a 金銭消費貸借契約に基づく借入金の返済として,特定の口座に振込送金を行っていた者が,自らの借入先すなわち貸主が誰であるかを把握することができないという事態が発生した場合において,貸主がだれであるかを特定するために,当該口座が開設されている銀行に対して,当該口座の開設者の氏名及び住所についての照会を求めることは,自己の振込行為の相手方がだれであるかという当事者の特定のために必要な情報を開示するという意味において,自己情報の開示請求にほかならない(これは,債務者が消費者金融業者に対して自己の取引履歴の開示を請求する場合と利益状況は全く同じである。)。
 また,ある取引関係にある当事者がその取引の相手方の氏名及び住所を知ることは当然の権利であるというべきであり,その取引関係に介在する者(受任者,弁済の代理受領者等)も,信義則上当然に,当事者に対し取引の相手方本人の氏名及び住所といった相手方本人を特定する情報を開示する義務がある。
 上記のような事項は,23条照会という迂遠な手続を用いるまでもなく,本来,銀行は直接請求者に対して開示しなければならないものである。
b 多重債務等の理由からヤミ金被害に苦しむ債務者に対して,弁護士を通じて任意整理ないしは自己破産手続等の被害救済のための措置を講じて経済的更生を図らせることは,単に当該債務者の利益になるだけではなく,それを超えて経済的困窮から起こる犯罪や家庭崩壊を防止し,国民全体の利益である公共の安寧を維持する上で不可欠であると解される。殊に,ヤミ金に係る事案においては,被害救済のために最大の問題となっているのはヤミ金の当事者を容易に把握,特定することができない(ヤミ金の匿名性)ことにあることは,前記ウ(イ)のとおりであり,ヤミ金が返済金の振込先としてしている預金口座が開設されている銀行等が,当該口座の開設者の住所,氏名というヤミ金の当事者を特定するための情報を債務者に開示することなくしては,ヤミ金被害救済のための実効的な法的措置を講じることはできない状況にある。そして,上記のような情報取得の必要性を銀行等は十分に知悉しており,銀行等は上記のような情報を開示することは極めて容易である。また,銀行等は,当該銀行等に設けられた預金口座が違法,不正な手段のために利用されたことが分かった場合においては,違法行為による被害拡大の防止,マネーロンダリングの防止等のために,当該口座に係る預金契約を強制解約したり,取引停止にしたりすべき立場にある。
c 23条照会は,照会申出弁護士の依頼者と報告を求められた銀行との間の法律関係を直接規定するものではないが,23条照会の制度の趣旨が,基本的人権を擁護し社会正義を実現するという弁護士の使命,職務の高い公共性,裁判における真実発見の実現にあると解され,この趣旨は,報告を求められた銀行と報告を求めている依頼者との間の法律関係にも反映され,その法律関係を考察する場合にも生かされなければならない。
d 以上を総合考慮すれば,ヤミ金に係る預金口座の開設者の氏名及び住所の開示を請求された銀行等は,信義則上,同情報を開示する義務を負うというべきである。
(イ) 開示義務違反の違法性
 上記(ア)の開示義務違反が不法行為の成立要件である違法性を有するか否かの判断基準は,前記ウ(ア)で述べたところと同じであり,原告Aが被る不利益ないし公共上の影響を考量すれば,被告みずほ銀行の報告拒否には正当な理由はなく,違法性を有する。
カ 損害
 原告Aが被った損害500万円の内訳は以下のとおりである。
(ア) 内容証明郵便送付費用 3190円
 原告Aは,平成14年6月2日に東洋の従業員から取立てを受け,その違法な取立てを止めさせるため,被告みずほ銀行に対し,同月5日及び同月18日の2度にわたり,Cの氏名及び住所を報告するよう督促する内容証明郵便を発送した。原告Aは,上記の費用として,以下の金額を支払った。
a 平成14年6月5日付け内容証明郵便 1720円
b 同月18日分付け内容証明郵便 1470円
(イ) 無形的損害 499万6810円
a 原告Aは,平成14年6月2日及び同月26日の2度にわたり,東洋の従業員等から取立てを受け,その際,同人らが原告Aの自宅前の路上で大声で騒いだため,近所の住人らにヤミ金から借金があり,かつ,その支払を遅延していることを知られ,原告Aの社会的評価が著しく低下した。さらに,原告Aは,上記の取立ての際,東洋の従業員から脅迫されるなどしたため,不安感,恐怖感等の精神的損害を受けた。
 また,原告Aは,上記の取立ての後も,脅迫電話や取立ての恐怖におびえながら生活せざるを得ず,精神的損害を受けた。この損害は,被告みずほ銀行がCの氏名及び住所を開示するまで継続して発生し続けたものである。
b 被告みずほ銀行がCの氏名及び住所の報告を拒否したことにより,原告A代理人弁護士による原告Aの救済手続に支障が生じ,これにより原告Aは精神的苦痛を受けた。
c 上記の精神的損害等を金銭的に評価するならば,499万6810円を下らない。
キ 相当因果関係の存在
 被告みずほ銀行の報告拒否と原告Aの損害との間には相当因果関係が存在する。
(ア) 条件関係の存在
a 被告みずほ銀行が平成14年5月9日に本件23条照会①に対して報告していたならば,原告A代理人は遅くとも同月10日には東洋の氏名及び住所を了知し,遅くとも平成14年6月2日までには東洋ことCに対して受任通知書を送付することができ,同人が取立行為を継続することを断念していたはずであり(現に,他のヤミ金業者については受任通知書を送付することによって取立行為が止まっている。),そうであるとすれば,原告Aは,平成14年6月2日及び同月26日に東洋の従業員等から取立てを受けず,また,被告みずほ銀行に対して報告を督促する内容証明郵便を送付していなかったはずである。
 この点につき,被告みずほ銀行は,原告Aが東洋の従業員等に受任の事実を伝えたにもかかわらず違法な取立てが中止されなかったことからすれば,仮に受任通知書を送付しても取立行為は止まらなかったなどと主張する。しかし,ヤミ金被害者の代理人弁護士がヤミ金業者の氏名及び住所を把握していれば,ヤミ金は,当該弁護士からの告訴,告発及び民事上の責任追及等をおそれ,違法な取立行為を断念するから,被告みずほ銀行がCの氏名及び住所を報告していれば,原告A代理人がCに対して受任通知書を送付し,原告Aに対する違法な取立行為は止んでいたはずである。
b 被告みずほ銀行は,捜査機関等に協力を要請していれば違法な取立てを防ぐことができたなどと主張する。
 しかし,警察を始めとする捜査機関の民事不介入及び捜査の秘密という方針からすれば,捜査機関への捜査の依頼によって直ちにヤミ金業者を特定,把握することができるというものではない。また,捜査機関は,平成14年当時,小口のヤミ金業者の事件については,業務性が難しいなどの理由により,これを受理しないというのが実態であり,捜査機関に連絡することがヤミ金被害者救済のための実効的措置ということはできなかった。さらに,平成15年8月の貸金業規制法の改正以降,警察もヤミ金被害者に対する保護支援を打ち出したが,それでも,警察は,「ヤミ金を相手にするな。」というアドバイスをするのみで,個別の捜査を行うことはほとんどなかった。よって,捜査機関がヤミ金業者を検挙することが期待できる状況にはなかったというべきであり,相当因果関係がないとの被告の主張は失当である。
(イ) 予見可能性の存在
 被告みずほ銀行が原告Aがヤミ金業者から取立行為を受けることを予見することは可能であった。
a 本件23条照会①の照会書には,Cが「システム金融業者」であると思われる点,破産申立書添付の債権者一覧表作成の必要性,取立て規制を生じさせる必要性が具体的に記載されていることから,被告みずほ銀行としては,本件預金口座①の取引履歴を調査すれば,同口座が貸金の回収に利用されている事実等を確認することは容易であった。さらに,原告A代理人は,被告みずほ銀行に対し,書面で,複数回(平成14年6月5日及び同月18日)にわたり,同月2日にCによる違法な取立てがあったこと等を明記した上で報告するよう強く督促している(甲A2,3)。
 よって,被告みずほ銀行は,遅くとも平成14年6月26日時点において,自己が報告義務を負っていること及び報告を拒否することによって,原告A代理人が受任通知書を送付することができず,原告Aが引き続き取立てを受ける可能性があることを十分認識し得たはずである。
b ヤミ金問題は,平成12年ころから全国的に広がり,同年12月14日に「全国ヤミ金対策会議」が結成され,平成13年には爆発的なヤミ金被害に対してその撲滅のための運動が繰り広げられていたのであるから,平成14年当時は,ヤミ金被害の状況等は日常的に発生し,大きな社会問題となっていた。
 そうであるとすれば,被告みずほ銀行は,本件当時,ヤミ金が当該銀行口座をもってヤミ金被害者から集金している実態を知っており,ヤミ金が使用している口座に関する情報の開示を拒否すれば,ヤミ金による恐喝的取立行為が継続すること,ヤミ金被害者に対する法的救済措置を講ずることが不可能となること等を知悉していたというべきである。
c 被告みずほ銀行は,Cがシステム金融業者であることを裏付ける資料の提出がなく真偽が分からなかったから,報告を拒否せざるを得なかったなどと主張するが,内容証明郵便に資料を付すことなど不可能であるし,被告みずほ銀行の担当者は原告A代理人に対して具体的な資料の提示を求めるなどしていないことからすると,上記主張は失当である。
ク 遅延損害金の起算点
 被告みずほ銀行は,原告Aが主張する本件損害賠償請求権の遅延損害金の起算点を問題にするが,意思表示の効果の発生時期の問題と遅延損害金の発生時期の問題とを混同しており,失当である。
(被告みずほ銀行の主張)
 被告みずほ銀行は,原告Aに対して不法行為責任を負わない。
ア 本件23条照会に対する報告義務の不存在
  被告みずほ銀行は,本件23条照会①に対して報告する義務を負っていない。
(ア) 報告義務の不存在
 弁護士法23条の2第2項は「報告を求めることができる」と定めるのみであること,23条照会に対する報告を直接強制する手段がないこと,報告拒否に対する罰則規定が存在しないことからして,同項に基づき報告を求められた団体は法律上報告の義務を負わない。
(イ) 報告拒否と合理的理由
 仮に被照会者が23条照会に対する報告義務を負っているとしても,後記のとおり銀行は顧客との関係で守秘義務を負っているのであるから,報告しないことにつき相当かつ合理的な理由があるときは,報告しないことは報告義務違反とはならず,違法ではない。
 すなわち,銀行は,顧客との関係において,顧客との間にした取引及びこれに関連して知り得た情報を正当な理由なく他に漏らしてはならない義務(守秘義務)を負っており,銀行が守秘義務を負う範囲は,取引先の預金,貸出金,その他の資産状態,取引振り,会社内の設備,技術,業務計画,経営等の経済的秘密のみならず,銀行取引に関連して知り得た経済的秘密以外の身分関係,家庭の事情,会社の内紛,病気,婚姻等の私的秘密も含まれ,預金者の住所及び氏名も当然に守秘義務の対象となる。そして,当該顧客の同意がないにもかかわらず,銀行が上記義務に違反して情報を開示した場合には,当該顧客から損害賠償請求を受ける可能性があるから,銀行が23条照会を受けた場合において,報告することにつき顧客の了解が得られないときは,原則として銀行は報告すべきではなく,弁護士会ないし照会申出弁護士によって報告の必要性等が十分明白にされない限り,すなわち,銀行が顧客に対して負担している守秘義務が免責されるに足りるだけの材料が存在していることが明白にならない限り,報告をすることはできない。このことは,23条照会に対する報告について常に免責されるとは限らないとした最高裁判例(最高裁昭和52年(オ)第323号同56年