hanrei @Wiki H18. 2.14 岡山地方裁判所 平成15年(ワ)第1058号 損害賠償請求



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平成18年2月14日判決言渡 
平成15年(ワ)第1058号損害賠償請求事件

【事案の概要】
 深夜のバイクによる暴走行為に対する警察官の停止措置の相当性が争われた事案において,当該停止措置が必要最小限度の手段であるとは認められず,県に対して自賠法3条に基づく賠償を命じたほか,当該バイクの運転者に対しても,不法行為責任に基づく賠償を命じた事例

             主         文
1 被告Aは,各原告に対し,それぞれ2581万9290円及び各内金2351万9290円に対する平成13年8月14日から,各内金230万円に対する平成15年11月20日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告県は,各原告に対し,各341万7756円及び内金各311万7756円に対する平成13年8月14日から,各内金30万円に対する平成15年11月19日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,原告らに生じた費用の20分の7と被告Aに生じた費用の10分の7を被告Aの負担とし,原告らに生じた費用の20分の1と被告県に生じた費用の10分の1を被告県の負担とし,原告ら,被告A及び被告県に生じたその余の費用を原告らの負担とする。
5 この判決は,1項,2項及び4項に限り,仮に執行することができる。
             事 実 及 び 理 由
第一 当事者の求めた裁判
 一 請求の趣旨
1 被告らは連帯して,各原告に対し,各3900万円及び内金各3600万円に対する平成13年8月14日から,内金各300万円に対する訴状送達の日の翌日(被告県については平成15年11月19日,被告Aについては同月20日)から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する被告らの答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 事案の概要
一 前提事実(当事者間に争いのない事実あるいは挙示する証拠または弁論の全
 趣旨により容易に認められる事実)
1 事故の発生
 平成13年8月13日午後11時49分ころ,岡山県a郡b町c(市町村合併前の事故当時の地名表記,以下同じ。)d番地e先国道313号線上(以下「本件事故現場」という)において,次の事故(以下「本件事故」という)が発生した。
(一) 事故車両
(1) 警ら用パトカー(普通乗用自動車,以下「本件パトカー」という)
 本件パトカーは,B警察署に勤務する警察官Cが運転し,同署勤務の警察官Dが助手席に同乗していた。
(2) 自動二輪車400CC(スズキインパルス,以下「本件バイク」という)
 本件バイクは,被告A(当時22歳)が運転し,E(当時19歳)が後部座席に同乗していた。
(二) 事故態様
 本件事故当夜,前後5回に亘り,暴走車両に困っている旨の住民等からの通報がB警察署になされ,本件パトカーと小型パトカーの2台が出動し,それぞれ検索中,乗車用ヘルメットを着用せず,ナンバープレートを折り曲げ,マフラーの芯を抜いて爆音走行する自動二輪車を発見し,それぞれ,異なる時間に別の場所で,追尾した。しかし,いずれも当該自動二輪車は速度を上げて逃走し,失尾したことから,上記2台のパトカーは,本件事故現場西側のF駐車場(以下「本件駐車場」という)に停車して暴走車両の動静を窺っていたところ,本件事故現場付近をb町f方面から同町g方面に北上して爆音走行してくる本件バイクを認め,道路交通法違反,道路運送車両法違反等による取締りのため,C警察官は,本件パトカーを本件バイクの走行す
る本件事故現場のほぼ中央付近まで進行させ,片側1車線を塞ぐ状態で斜めに横づけし,本件バイクを制止し又は検挙しようとした。ところが,被告Aは,本件バイクを急加速させ,制限速度を超過した速度で本件バイクを走行させ,本件バイク前部を本件パトカーの右前部に衝突させた。
(三) Eの死亡
 Eは,本件事故の衝撃により道路上に投げ出され,頭蓋骨骨折,外傷性気脳症,外傷性静脈洞損傷の傷害を負い,翌14日午前1時13分ころ,救急搬送先である岡山県a郡b町hi番地所在のG病院において,上記傷害に基づく空気塞栓により死亡した。(甲4,5)
2 本件事故現場の状況(乙ア24)
(一) 本件事故現場付近の状況は別紙図面記載のとおりであり,本件事故現場付近は田園地帯であって,国道313号線沿いに民家等が点在しているが,深夜における人車の交通量は少なく,本件事故当時には本件事故現場付近の国道313号線上には,本件パトカー及び本件バイク以外の車両はなかった。
(二) 本件事故現場である国道313号線は,東西に走る片側1車線の道路で,幅員7.2m(片側車線2.8m,北側路側帯0.5m,南側路側帯1.1m)で,アスファルト舗装された道路であり,本件事故現場付近では,黄色実線の中央線が引かれて,追越しのための右側部分はみ出し通行禁止の規制がなされており,時速40kmの指定制限速度規制がなされていた。
  本件事故現場の北西側には,本件駐車場の東側出口がある。
(三) 本件駐車場の外周には,ネットフェンスが設置されているが,国道313号線と駐車場の視界は良好である。街路灯の設備はあるが,本件事故当時は全て消灯しており,付近は暗かった。
(四) 本件事故現場から西方約80ないし100m先にある三叉路交差点(以下「本件三叉路」という)には信号機が設置されており,本件事故当時は,東西に走る国道313号線に対面する信号機が黄色点滅,交叉する県道を南進する車両に対面する信号機が赤色点滅を表示していた。
3 当事者
(一) 原告H及び原告Iは,Eの両親であり,Eの死亡により,同人の権利義務を各2分の1の法定相続分の割合で相続承継した。
(二) 被告県は,本件事故当時,本件パトカーを所有し,本件パトカーの運行供用者であった。
(三) C警察官は,被告県の公務員である。
4 損害填補
  原告らは,本件事故の後,C警察官ら4名から合計23万5000円を,被告A及びその両親から合計33万円を香典等として受領した。
 二 本件請求
 各原告は,①被告Aに対し,本件バイクを走行する際の注意義務に違反したとして,民法709条の不法行為責任に基づき,②被告県に対し,自賠法3条に基づく人身損害賠償責任に基づき,Eに生じた死亡に伴う損害金の相続分及び各原告固有の近親者慰謝料の一部請求として,各原告に各3900万円及び内金各3600万円に対する本件事故の日の後である平成13年8月14日から,内金各300万円(弁護士費用相当損害金)に対する訴状送達の日の翌日(被告県については平成15年11月19日,被告Aについては同月20日)から,それぞれ支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を被告らにおいて連帯して支払うことを求めた。
 三 争点
1 被告Aの責任の有無
2 被告県の責任の有無
3 損害額
4 損害賠償額減殺事由
第三 争点についての当事者の主張
 一 被告Aの責任の有無
  1 原告らの主張
 被告Aは,本件バイクを運転走行するに当たり,前方道路の安全に注意して走行すべき注意義務があるのにこれを怠った過失があり,これにより本件事故を惹起させてEを死亡させたものであるから,不法行為に基づく損害賠償義務を負う。
  2 被告Aの反論
    被告Aは,時速約40kmで本件バイクを運転して本件三叉路手前に差し掛かった際,本件駐車場内にパトカーがいるのが分かったが,前方道路上にはパトカーの姿は見えなかったので,そのままスピードを上げて本件三叉路を直進し,本件駐車場入口付近で本件駐車場の方向を一瞥した後,Eに「パトカーじゃ」と告げられて前方を見ると,既に本件パトカーが目の前に迫っており,回避する間もなく本件バイクを本件パトカーに衝突させるに至ったものである。
    本件パトカーは,本件バイクが本件三叉路付近で加速した後に,暗闇の中で,あえて赤色回転灯も点灯させず,サイレンも鳴らさず,本件パトカーの存在を被告Aに知らせる措置を一切とらないまま,一時停止線付近から道路中央付近に進出し,本件バイクの進行車線を完全に塞ぐまでに微速走行するという事故発生の危険性が極めて高い行為を行ったものであり,被告Aにとっては,予想できない突発的な事態であって本件事故を回避することはできなかった。本件パトカーは,赤色回転灯もつけず,サイレンも鳴らしていなかったから道路交通法上の緊急自動車に該当せず,一般車両として道路交通法を遵守すべきところ,暗闇の中で,漫然と,本件バイクの進行車線を完全に塞ぐまでに微速走行するという極めて危険な行為を行ったものであり,
被告Aは,信頼の原則により,Eの死亡に対する予見義務が否定される。
 C警察官が違反行為として認識していたのは,「爆音騒音走行」だけであったところ,当時は,上記行為については道路交通法上,罰則規定はなかったのであり,警察比例の原則に照らしても,上記のような危険かつ不用意な制止方法は,その取締目的達成にとって必要最小限の手段とはいえない。
 二 被告県の責任の有無
1 原告らの主張及び反論
(一) 原告らの主張
  被告県は,自己のために本件パトカーを運行の用に供する者であり,その運行によってEの生命を害したので,自賠法3条に基づく人身損害賠償義務を負う。
  同条但書により,被告県は,①自己の無過失(被告県がC警察官の選任・監督上の注意義務を怠らなかったこと)及び運転者の無過失(C警察官が本件パトカーの運転に関し注意義務を怠らなかったこと),②被害者又は第三者に故意又は過失があったこと,③自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことを立証しない限り,責任を免れない。
(二) 被告県の主張に対する反論
 (1) C警察官の過失
 C警察官は,本件バイクの走行を阻止するため,本件パトカーを道路外から道路中央付近まで,突然進出させて片側1車線を塞ぐ極めて危険な運行をしている。
 本件パトカーは,サイレンを鳴らさず,赤色回転灯を点灯させていなかった以上,道路交通法39条の緊急自動車には該当しない普通自動車であるから,道路交通法の規定を遵守すべき義務が免除されない。しかるに,本件パトカーの運転者であるC警察官は,「車両は,道路の中央から左の部分を通行しなければならない」(同法17条4項),「車両は,他の車両等の正常な交通を妨害する恐れがあるときは,道路の横断をしてはならない」(同法25条の2)等の規定に違反して本件パトカーを運転したものであり,これらの違反は3月以下の懲役刑もある重大な違反行為である。
 また,C警察官は,自らの犯罪行為を棚に上げて,本件バイクの運転者が本件パトカーとの衝突を回避するため,本件パトカーの手前で停止するか,または本件バイクが反対車線に出て本件パトカーとの衝突を回避するであろうという身勝手な期待のもとに,道路中央付近にまで微速前進して道路を塞いだものであるから,本件パトカーと本件バイクの衝突という結果発生の予測が十分にできたはずである。
 よって,C警察官が本件事故について無過失であるとは到底いえない。
 (2) 違法性の欠如による免責について
   自賠法3条の運行供用者責任について,同条但書に該当する場合以外にも,不可抗力,正当防衛,責任能力の欠如などが免責事由になり得るとしても,「違法性の欠如」は当然に免責事由になるものではなく,その判断は,同条但書の「自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと」という要件の判断に収斂される。
ア 本件バイクの違反行為として考えられるのは,①ヘルメットの着用義務違反(罰則規定なし),②マフラーの芯を抜いたような爆音を出していること(整備不良車の運転禁止義務違反;2万円以下の罰金),③ナンバープレートが折り曲げられていること(車両番号表示義務違反;50万円以下の罰金)の3点だけである。低速・蛇行運転があったとしても,本件バイクは,他の車両と共同して走行していないし,深夜で人車もなかったのであるから,「著しく道路における交通の危険を生じさせる」共同危険行為には該当しない。
 夜間,一瞬にして通過する本件バイクの運転者の顔を現認することは極めて困難なことであるので,被告県が主張する制止行為の目的自体が極めて不自然・不合理であり,むしろ,C警察官が本件バイクの走行そのものを物理的に阻止しようとしたと解するのが極めて自然である。
 また,本件パトカーが前照灯を点灯し,これがガードレールに反射していたなどの事情があったとしても,赤色回転灯を点灯させず,サイレンも鳴らさず,誘導灯で警告もせず,マイクで停止を命じることもなく,突然に道路の片側1車線を完全に塞ぐ形で本件パトカーを停車させるという危険な方法に相当性があるとは到底いえない。
イ 本件バイクの単独走行は,ヘルメット着用義務違反,整備不良車の運転禁止義務違反,車両番号表示義務違反というせいぜい罰金刑程度の刑罰に触れる犯行に過ぎない一方,C警察官の道路片側1車線を完全に塞ぐ行為は3月以下の懲役刑に相当する重大な違反行為である上,C警察官は本件パトカーと本件バイクが衝突する可能性があることを予見しながら,本件バイクが対向車線に出るなど回避措置をとるであろうと安易に期待したに過ぎず,本件の制止行為そのものが死亡事故など重大な結果を惹起する危険性を有することに照らすと,本件の制止行為は,その必要性もなく,その方法も極めて不相当であったというべきであって,違法性がないとはいえない。
  2 被告県の主張
(一) 違法性の欠如による免責
(1) 自賠法との関係
 ア 同法3条但書は,運行供用者の免責要件について,①自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと,②被害者又は第三者に故意又は過失があったこと,③自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことを運行供用者が立証する必要がある旨規定するが,この免責要件は,法の規定及び趣旨からして,通常考慮されるべき場合としての要件を掲げたものに過ぎず,これ以外の場合の免責を排斥する趣旨とは解されない。すなわち,上記免責要件は,制限列挙ではなく,例示列挙であり,正当防衛,正当行為,不可抗力など民法その他の法令上違法性や責任がないとされる場合には,運行供用者責任を免れるものと解される。
イ 国家賠償責任における違法性の存否は,公権力の主体がその行使にあたって遵守すべき行為規範ないし職務義務に違反していないか否かにかかわる。この理は,前提となる法律関係が同じく公権力の行使によるものである以上,損害賠償請求の根拠形式が自賠法3条に基づく場合も同様に当てはまる。したがって,警察官が交通法規等に違反して逃走する者をパトカーで追跡し又は制止する行為は,当該職務目的を遂行する上で不必要であるか,又は逃走車両の態様及び道路交通状況から予測される被害発生の具体的危険性の有無及び内容に照らし,追跡の開始・継続若しくは追跡・制止の方法が不相当でない限り,違法性がない正当行為とされ,国又は公共団体は,国家賠償法上の損害賠償責任のみならず自賠法上の運行供用者責任も負わないも
のと解すべきである。
ウ 立証責任の所在については,①請求原因は,自賠法3条本文所定の事項であり,②被告が抗弁として,「被告が国家賠償法1条の公共団体にあたること」及び「自動車の運行が公共団体の公権力を行使する公務員の職務を行うについてなされたこと」を立証すれば,③原告が予備的請求原因として,「自動車の運行が違法であることの評価根拠事実」を主張立証しない限り,原告の自賠法3条に基づく請求が棄却されると解すべきである。
(2) 制止の必要性
 被告A及びEを含む集団の運転は,近年問題視されている単発あるいは少数グループによるゲリラ的な暴走行為に該当するものであり,道路交通法,道路運送車両法その他関連法令に違反する上,ヘルメットを着用せず蛇行運転を繰り返すなど重大事故につながる危険性が高く極めて悪質な行為であり,同人らによる低速爆音走行は,一般通行車両の通行及び近隣住民の静謐な生活を害すること甚だしく,現にB警察署等には近隣住民から複数回にわたって通報がなされているところである。
 そこで,C警察官ほか3名のB署員は,鋭意,暴走車両を検索・追跡したものであるが,被告Aらが逃走に及んだことから,その制圧・検挙はもとより,暴走行為者の特定にすら至らず,同人らはかえって挑発的に暴走行為を繰り返した。
 このようなことから,本件事故直前の時点において,当該暴走車両を早期に制圧・検挙し,又は後日の検挙のために暴走行為者を特定する目的で,その走行を制圧する高度の必要性・緊急性が存在した。
(3) 制止方法の相当性
ア 本件パトカーは,別紙図面③の地点で国道の片側車線を塞ぐ形で停止したが,対向車線は空けており,同車の先端の先は,路側帯を含めて約3.4mの通行余地が残されていた。また,同車は,赤色回転灯は点灯していなかったが,前照灯は点灯しており,これによる前方ガードレールの反射光も存在した。
 他方,本件パトカーが別紙図面③で停止した際,本件バイクは,別紙図面<ウ>地点付近を時速40kmで進行中であり,前照灯を上向きにして点灯していた。この前照灯の照射距離は97.5mであった。
 また,本件事故現場付近は,夜間は人車ともに交通量が少なく,特に本件事故発生時は,他に車両は存在しない状況であった。
 したがって,被告Aが自らの進行方向に対して通常払うべき注意を怠らなければ,本件パトカーの前照灯若しくはその反射光又は自らの前照灯により,少なくとも,本件パトカーの手前97.5mにおいて本件パトカーを発見できたのであるから,本件パトカー手前で停止し,又は通行余地へ回避することも極めて容易であった。
 よって,C警察官が本件パトカーを別紙図面③地点に停止させた行為は,直ちに被告A及びEに対して危険を及ぼすものではないし,C警察官の「対向車線を空けているので,事故になることはないだろう」という予測も相当なものである。このことは,直近で目撃した警察官や被告Aの友人らのいずれも,本件パトカーが道路に進出したことにより危険を感じてはおらず,衝突する瞬間まで本件バイクが逃走するものと誰もが予想していたことからも明らかである。
 本件事故は,専ら被告Aによる「脇見をして前方注視を欠いたまま,突如,法定制限速度を大幅に上回る速度に加速して走行する」という高度に危険な行為により引き起こされたものにほかならない。
イ 本件パトカーは,赤色回転灯を点灯しておらず,道路交通法上の緊急車両には該当しないが,道路交通法は,一般的な交通秩序の維持及び事故発生の防止を企図した技術法であるから,形式的に道路交通法に反する場合であっても,具体的状況によっては正当行為となり得るものであり,要は,本件の制止行為の必要性に照らし,赤色回転灯を点灯していないことが不相当な方法といえるか否かという問題に帰着する。
  本件事故発生前,被告Aらは,既に2度に亘って逃走しており,早期に赤色回転灯を点灯すれば,被告Aらがパトカーの存在を察知し,本件三叉路を左折北上し又はUターンする等して再度逃走することは必至であるから,本件バイクをある程度引き付けた上で赤色回転灯を点灯し,もってその走行を制止しようとすることも,やむを得ない手段といえる。
(4) したがって,C警察官の制止行為は,高度の必要性,緊急性に照らし,不相当な方法とはいえず,違法性のない正当行為であるから,被告県は,自賠法上の運行供用者責任を負わない。
(二) 自賠法3条但書による免責
(1) 同法3条但書は,①自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと,②被害者又は第三者に故意又は過失があったこと,③自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことの3要件を満たす場合に,運行供用者責任を免責する。
  本件において,②被告Aに過失があったことは明らかであり,③本件パトカーの構造上の欠陥又は機能の障害の有無が本件事故と関係がないことは明らかである。
(2) 上記①の要件について
 Eは,被告Aの暴走行為に加担し,かつ乗車用ヘルメットを装着せず,高度の危険性を自ら創出していることからすると,Eの被侵害利益(生命・身体)の要保護性は相当程度減少していたといえる。
 他方,C警察官の制止行為は,それ自体としては本件事故を発生させる危険性の小さいものであった。
 本件においてC警察官に想定される行為義務は,本件パトカーを道路に進出させないか,又は進出させるとしても事前に赤色回転灯を点灯させるかのいずれかであるが,いずれの行為を選択したとしても,被告Aらの逃走は必至であり,違法な暴走行為の制圧・検挙という極めて重要な利益が犠牲にされることになる。
 そうすると,C警察官による本件パトカーの運行から生じる損害発生の危険性及びそれにより侵害されるであろうEらの利益の要保護性よりも,C警察官に上記行為義務を課すことによって犠牲にされる利益の方が上回るから,C警察官に過失はない(ハンドの定式)といえる。
(3) したがって,自賠法3条但書の免責事由があるから,被告県は,運行供用者責任を負わない。
三 損害額(原告らの主張)
1 Eの被った損害
(一) 死亡慰謝料 2200万円
(二) 逸失利益 4690万6968円
 男子全学歴計全年齢平均賃金月額41万5400円,生活費控除率を5割として,就労可能年数58年間のライプニッツ係数18.820により,逸失利益の現価を求めると,41万5400円×12×0.5×18.820=4690万6968円と算定できる。
(三) 葬儀費用 95万円
(四) 前提事実4の既払額を控除すると,損害額の残額は,6929万1968円となる。
2 相続承継
  原告らは,Eの被告らに対する上記損害賠償請求権を各2分の1の割合(各3464万5984円)で相続承継した。
3 原告らの固有損害
 原告らは,長男であるEを将来は跡継ぎとして期待し,同人のために離れを新築していたところ,突然の死亡により跡継ぎを失った。この原告らの精神的苦痛を慰謝するには,慰謝料各150万円が相当である。
4 弁護士費用
原告らの被った弁護士費用相当損害金は各300万円である。
四 損害賠償額減殺事由(被告Aの主張)
1 好意同乗者減殺
  Eは,自らの意思で本件バイクに同乗したものであり,被告Aからみれば,好意で同乗させた者にあたる。よって,被告Aの賠償額につき2割程度は減殺されるべきである。
2 過失の競合による寄与度減殺
  被告Aの前方不注視の過失と,C警察官の危険かつ不用意な過失行為とが相俟って過失の競合により本件事故が発生したものであるから,賠償額につき,その寄与度に応じた減殺がなされるべきである。
第四 当裁判所の判断
 一 本件事故に至る経緯,事故態様等
1 前提事実に証拠(乙ア15ないし79,127ないし133,乙イ1,2,12,16ないし21,37ないし39,47ないし55,57,59,61,証人J,証人C,被告A本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,次のとおり認定できる。
(一) 被告A及びEらの行動
(1) 被告Aは,平成13年8月13日,b町内の実家に盆休みで帰省していたが,同日午後7時ころ,中学校時代の同級生方に赴き,中学校時代の同級生Kらや後輩のEやLを含む9名とともに焼肉等を飲食し,自らは350mlの缶ビールを1本飲んだ。その際,b町g所在のスーパーマーケットM駐車場に集合することとなり,被告A及びEら9名は,同日午後9時ころ,同駐車場に赴き,そこでたむろしていた被告Aの後輩のN,O,P,Qや同級生ら約10名と合流した。同駐車場には,本件バイク,ホンダCBR(白色,400CC)及びカワサキゼファー(ワインレッド,400CC)の自動二輪車と,アベニール,マーチ及びワゴンRなど複数台の四輪車が持ち込まれていた。
(2) 本件バイクは,黒色であり,マフラー部にサイレンサーが付けられておらず,ナンバープレートは上向きにされ,後方から容易に見ることができない状態にされていた。
(3) 被告Aは,同日午後9時ころから,友人とともに,本件バイク,ホンダCBRに乗って,主に国道313号線及びその付近において,ヘルメットを着用せず,爆音走行を繰り返した。なお,途中でホンダCBRが故障したので,同車を一旦ガソリンスタンドに駐車し,その後,被告A及びEは,同車をL方に駐車した後,本件バイクに乗って,かわるがわる運転を交替しながら,国道313号線をb町j方面に向けて走行した。
(4) さらに,同日午後11時ころから,K及びNがカワサキゼファーに,O,P,L及びQがワゴンRにそれぞれ乗車し,その他の四輪車とともに一団となって,国道313号線などの道路において走行し,自動二輪車は空吹かしや蛇行運転を繰り返しながら低速走行をし,離合集散をしながら走行した。
(5) その後,被告A及びEは,b町f地内で本件パトカーを見かけ,Uターンをして逃走し,やがてカワサキゼファーと合流して,爆音を立て,ときに並進しながら走行し,b町k雇用促進住宅付近でパトカーに追跡された際,二手に分かれて逃走した。その後,被告Aは,Eを同乗させて,本件バイクを単独走行させ,本件事故現場に至った。
(二) C警察官らの行動
(1) 同日午後9時47分ころ,b町k地内にある店舗の店員からB警察署に対し,「店の付近で400CCのバイク1台(ノーヘル)が暴走中です。取り締まって下さい。」という通報が寄せられたので,C警察官及びD警察官は,同日午後10時12分ころ,本件パトカーで検索を開始したが,発見に至らず,上記店舗に赴いて,同店員から「1時間くらい前に,バイクが国道を何度か爆音走行していた。僕が見たのは後ろが跳ね上がったような白い400CC位のバイクだけだが,今はいない。」旨の供述を得た後,検索を兼ねて警ら勤務に移行した。
(2) その後,同日午後11時20分ころ,b町lの住民からB警察署に対し,「付近の国道313で暴走族の爆音でうるさくて眠れない。5,6台はいると思う。」旨の通報が寄せられたので,C警察官及びD警察官が本件パトカーに乗車し,B警察署に勤務の他の警察官が小型警ら用パトカーに乗車して,b町に赴いて検索を開始した。
(3) 同日午後11時20分ころ,b町cの住民から,岡山県警察本部に対し,暴走族を取り締まって欲しい旨の110番通報がされ,C警察官らは,同日午後11時25分ころ,岡山県警察本部通信司令室より「爆音暴走,b町c地内でバイク5~6台が爆音暴走中。場所目標はF付近,現在R313を南下中。」との無線指令を受け,F方面に急行し,同日午後11時35分ころ,本件パトカーで同所に到着したが,爆音暴走車両の発見に至らず,国道313号線をm町方面に向けて検索を開始した。
(4) C警察官らが,b町f地内に至ったころ,前方に本件バイクを発見し,同車が対向してくるのを停車して待っていたところ,同車は本件パトカーの手前約200m地点でUターンし,逃走した。C警察官らは,本件パトカーのサイレンを吹鳴させ,本件バイクの後方に追従し,その際,本件バイクがナンバープレートを折り曲げた状態で,マフラーの芯を抜いた爆音を出してヘルメットを着用せずに走行しているところを現認したが,1名乗車か2名乗車かは判然としなかった。本件バイクは,C警察官らが追従すると直ぐに速度を上げ,時速70ないし80kmの高速度で逃走し,本件パトカーが追跡するも同町k地内で見失った。
(5) 一方,前記小型パトカー乗務の警察官は,国道313号線をb町j方面に向けて検索していたところ,同町k雇用促進住宅付近において,本件バイク(被告A運転,E同乗)及びカワサキゼファー(K運転,N同乗)が対向した。これらの自動二輪車は,全員がヘルメットを着用していなかったため,上記警察官は,対向後直ちに追跡するとともに,本件パトカーに対し,「b町の雇用促進住宅付近で暴走車両2台と対向。F方面に逃走中。」との無線連絡を入れた。上記警察官が後方から確認したところ,上記の自動二輪車2台は,いずれもナンバープレートを折り曲げ,ヘルメットを着用せず,反対車線へはみ出しての蛇行運転をしながら時速約20kmで低速走行しており,上記警察官がマイクで「反対車線に出ないようにしなさい」等と注意
するも,低速・蛇行運転を継続していた。その後,本件バイク及びカワサキゼファーが急加速し,1台はn方面に左折し,小型パトカーは残る1台を追跡したが,しばらくして見失った。
(6) C警察官らは,上記(5)の無線連絡を受けて,赤色回転灯を点灯した状態でFに赴いたところ,既に小型パトカーが本件駐車場内に待機していたので,その左横に本件パトカーを停車させた。C警察官らは,本件パトカーの前照灯を点けたまま,赤色回転灯のみ消灯し,小型パトカー乗務警察官から「暴走バイク2台は,二手に分かれて逃走し失尾した。また,この辺りを走るかもしれないので,少しの間ここにいる。」と聞いたので,「それならgからoを廻ってjに戻って駐留する。」旨伝えた。なお,本件駐車場内には,ワゴンRに乗車していたO,P,L及びQらが,たむろしていた。
(三) 本件事故の態様
(1) C警察官は,同日午後11時49分ころ,本件パトカーの前照灯は点灯させたが,暴走車両が警戒して事前に逃走することを防ぐため赤色回転灯を消灯した状態のまま,本件駐車場から本件パトカーを発進させ,同駐車場東側出入口の一時停止線の手前である別紙図面②地点で一時停止した。その際,右方に見える別紙図面<ア>地点を本件バイクが進行して来るのを発見し,注視していたところ,本件バイクが,別紙図面<イ>地点に至るころ,マフラーの芯を抜いた大きな音を発していることが確認できたことから,検索中の暴走車両のうちの1台であると判断した。このとき本件バイクは,時速約40kmで前照灯を上向きにして進行しており,前照灯の照射距離は97.5mであった。
(2) C警察官は,「片側1車線の国道の1車線を本件パトカーで塞げば,本件バイクが停止して職務質問が行えるかもしれない。停止しなくても本件パトカーの前を通過するとき,前照灯により運転者の顔と車両の確認ができる。」等と考え,本件パトカーを国道313号線上に進出させ,別紙図面③地点(車体の右前部が中央線より約50cm超えていた。しかし,対向車線は,約3.4mの通行余地があった。)で,待機した。
  このとき,本件バイクは別紙図面<ウ>付近を時速約40kmで直進進行していた。被告Aは,別紙図面<P>1付近で,本件駐車場内に小型パトカーが停車しているのを発見し,一瞬,本件三叉路を左折しようかと思ったが,間に合わず,そのまま直進しつつ,慌てて別紙図面<A>地点付近から本件バイクを急加速させた。
(3) C警察官は,本件バイクの急加速する音を聞いた際,本件バイクが本件パトカー前の対向車線部分を通過するのであろうと考え,赤色回転灯のスイッチを押さないまま,対向車線を一般の車が通過する際には後退し,本件バイクが逃走する場合には,これを追尾しうる態勢をとるべく,本件パトカーの車頭をやや左に向けて,ニュートラルのシフトにして停車した。
  本件事故現場付近は暗かったが,本件パトカーの前照灯とガードレールの反射光の明かりにより,本件事故現場を走行してくる車両は,制限速度を超えることなく,かつ前方注視を怠っていなければ,本件パトカーの手前約90mの地点で本件パトカーを発見し,この時点で制動の措置を講じて本件パトカーの手前で停止することができる状態にあった。
(4) 被告Aは,本件駐車場入口付近に差し掛かった際,加速しつつ「仲間が捕まったのではないか」という不安な気持ちから,同駐車場内に駐車していた小型パトカーの方向を脇見したが,Eが「パトカーじゃ。」と叫んだので,前方を見ると,本件パトカーが目前約21mに迫っており,回避措置をとるいとまもなく,時速70ないし80kmの速度で本件バイクの前輪を本件パトカーの右前部に衝突させた。
(5) 衝突直前,本件パトカーは,別紙図面③地点に停止していたが,衝突の衝撃により別紙図面停地点まで移動した。また,本件事故の衝撃で,本件バイクは,本件パトカー右前フェンダー付近である別紙図面転付近で車両前部を下にした状態で停止し,被告Aは,道路に投げ出されて別紙図面<人>1地点に転倒し,Eも,道路に投げ出されて別紙図
面<人>2地点に転倒した。C警察官は,本件事故後,二重事故防止のた
め,赤色回転灯を点灯した。
(6) 本件事故現場には,本件バイクのブレーキ痕は見られない。
  本件パトカーは,本件事故により,右前輪が曲損し,同付近のタイヤハウス及びボンネットが凹損し,右前輪ホイールが曲損しパンクし,右前バンパーなどが破損した。他方,本件バイクは,本件事故により,フロントホーク,前輪ホイールが曲損し前輪がパンクし,前輪が排気管やエンジン部まで押し込められ,前照灯,前方方向指示器などが破損したが,車両後部には顕著な破損箇所はなかった。
(四) 本件事故後の状況
 本件事故の後,被告Aらの仲間と思われる者が本件事故現場に参集し,上記参集者は,「救急車を早う呼べ。」,「あいつが死んだらお前も殺してやる。」等と叫び,D警察官に掴みかかり,本件パトカーの赤色回転灯を足蹴りして損壊し,リアガラスを割るなどの行為に及んだ。
2 本件パトカーの走行・位置状況
(一) 前示1で認定したとおり,C警察官は,本件パトカーを国道313号線上に進出させて別紙図面③地点で停車させ,その後,被告Aが本件バイクを急加速させて本件事故に至ったものであり,本件事故の直前時に本件パトカーは停止していたものと認められる。
(二) 原告らは,本件パトカーの走行・位置状況に関し,私的鑑定書(甲9,10)を提出している。
  同鑑定書には,「本件バイクの衝突時の速度は,時速54.44±5kmと推定する。」,「現場の路面上には何ら本件バイクのブレーキ痕はないこと,衝突地点の本件バイクは左ハンドルにて左側よりに進路を予定していたこと,左側から進行してくる本件パトカーを避けるには右ハンドルを切ることが必然であること等から,被告Aが,一時停止線上の本件パトカーを目視したので右にハンドルを切って中央線よりにふくらみ走行し,本件パトカーが道路に進出しないものと判断して,左にハンドルを切って進行車線の左寄り走行をしようとした際に,本件パトカーがフェイントをかけるが如く道路内に進入してきたものと推定できるので,本件パトカーの国道への進行状態は全く予期しない突然の出来事と指摘できる。」という趣旨の記載がある
が,これらの点は,被告Aが本件事故の直前に制限速度を大幅に超過して本件バイクを時速70ないし80kmまで加速させ,かつ,本件駐車場の方を脇見していたこと,被告Aは,本件三叉路付近から本件事故現場まで直進走行をしていたものであって,一時停止線上の本件パトカーを現認していないし,中央線よりにふくらみ走行もしていないことなど重要な事実を看過した判断であるといわざるを得ないものであるから,同鑑定書の記載を直ちに採用することはできない。
(三) 被告Aは,第5回口頭弁論の本人尋問において,本件バイクに乗って本件三叉路の付近を走行していたときには本件事故現場に本件パトカーはいなかったが,本件三叉路を通過し,本件駐車場の方を脇見し,Eに「パトカーじゃ」と言われて,前を見たら,目前に本件パトカーが迫っており,このとき初めて本件パトカーが本件事故現場に存在することに気付いた,このとき本件パトカーが停止していたのか動いていたのかは分からない旨供述する。
 しかし,被告Aは,本件パトカーが一時停止線上から別紙図面③の地点に進出するまでの状況を現認しておらず,その供述は具体性に乏しい内容であって,同人の供述を裏付けるに足る証拠もなく,かえって本件バイクが急加速する前に既に本件パトカーが別紙図面③付近に来ていた旨の多数の関係者の供述があることに照らしても,被告Aの上記供述は信用性が乏しい。
 二 被告Aの責任
1 前示認定事実によれば,本件事故当時,本件事故現場は暗く,制限速度時速40kmの規制がされていたのであるから,被告Aは,本件バイクを運転するにあたっては,制限速度を遵守するのはもとより,前方を注視し,進路の前方の安全を確認しつつ進行すべき注意義務があったにも拘わらず,これを怠り,制限速度を超過する時速70ないし80kmに加速し,かつ本件駐車場の方を脇見して運転したものであって,仮に被告Aが制限速度を超えることなく,かつ前方注視を怠っていなければ,本件事故現場が暗く,本件パトカーが赤色回転灯を点灯しておらず,前照灯のみ点灯してガードレールの反射光があったという状況に鑑みると,遅くとも本件パトカーの手前約90mの地点で本件パトカーを発見し,この時点で制動の措置を講じて本件パ
トカーの手前で停止することができたものというべきである。
2 したがって,被告Aは,本件バイクを運転する際の注意義務に違反した過失により,本件事故を惹起したものであるから,不法行為に基づき,これによって生じた損害を賠償する義務を負う。
 三 被告県の責任の有無
1 主張立証責任の所在
 被告県は,自己のために本件パトカーを運行の用に供する者であり,本件パトカーの運行によってEの生命を害したことになるから,自賠法3条但書所定の免責事由がない限り,同法3条本文の賠償責任を負うのが原則であるが,同条は,民法709条の過失等の立証責任の転換をしたものであり,かつ自賠法4条により,民法の規定が適用されることからすると,民法720条の正当防衛や緊急避難に該当して不法行為責任を免れる場合や,正当業務行為に該当して違法性が阻却される場合にも,自賠法3条本文の賠償責任を免れることができるものと解される。
 自賠法は,自動車の運行によって人の生命又は身体が害された場合における損害賠償を保障する制度を確立することにより,被害者の保護を図り,あわせて自動車運送の健全な発達に資することを目的とするもの(同法1条)であり,この制度趣旨からすると,自動車の運行が公権力を行使する公務員の職務を行うについてなされた場合を自賠法3条の適用において除外すべき根拠はなく,自動車の運行が公権力を行使する公務員の職務を行うについてなされたからといって,国家賠償法1条の損害賠償請求をする場合と同様に請求者側に公務員の行為が違法であることの評価根拠事実の立証責任があることにはならない。したがって,被告県において,自動車の運行が公共団体の公権力を行使する公務員の職務を行うについてなされたことを主張立証し
たからといって,自賠法3条に基づく損害賠償請求権の発生が障害され,請求者側に公務員の行為が違法であることの評価根拠事実の立証責任が生じるものとすべき法的根拠は見出し難い。
 そうすると,被告県は,抗弁として,①自賠法3条但書所定の事由又は②正当業務行為に該当する事由を主張・立証しない限り,同条本文の運行供用者責任を免れない。
2 正当業務行為による免責
(一) 停止措置の根拠
(1) 前示認定事実によれば,被告Aは,平成13年8月13日午後9時ころから本件事故に至るまで,ナンバープレートを折り曲げ,マフラーを外した本件バイクにヘルメットを着用せずに,単独走行あるいは友人の運転する他の車両とともに,国道313号線及びその付近において,爆音走行を繰り返して付近住民等の生活の平穏を害し,ときおり低速蛇行運転等をしながら走行していたものであり,これらの被告Aの所為は,ヘルメット着用義務(罰則規定なし)や自動車登録番号標等の表示義務(30万円以下の罰金),整備不良車両の使用禁止(2万円以下の罰金又は科料)の各交通法規に違反するものであり,また,運転者の遵守義務(著しく他人に迷惑を及ぼすこととなる騒音を生じさせる方法で空吹かし等をしてはならない義務;罰則規定
なし)あるいは共同危険行為の禁止(6月以下の懲役又は10万円以下の罰金)に触れる可能性が高い(罰則は本件事故当時のもの)。また,Eは,ホンダCBRをL方に駐車するために出発して以降,被告Aと行動を共にし,主に被告Aの運転する本件バイクに同乗し,ときに自らも本件バイクを運転し,互いに上記交通法規に違反する運転を認識・認容しながら,爆音走行などに興じていたものである。
 而して,C警察官は,別紙図面③地点に本件パトカーを停止させた時点で,既に本件バイクからマフラーの芯を抜いた爆音を発していたことを現認し,本件バイクが検索中の爆音走行グループの一員ではないかと判断していたものであるが,現行犯,あるいは準現行犯逮捕の要件である犯罪の明白性・現在性を認めうる状況にあったものとまではいえず,嫌疑にかかる犯罪の法定刑の程度も緊急逮捕をなしうる要件(長期3年以上の懲役又は禁錮)を満たさないから,逮捕するために停止させる措置を執りうる状況にはなかった。
 他方で,被告A及びEが「異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し,若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者」に該当することから,警察官職務執行法2条1項に基づき,被告A及びEを停止させて質問することができる状況にあったことは明らかである。
(2) 警察官職務執行法に規定する手段は,目的達成のため必要な最小の限度において用いるべきものとされる(同法1条2項)。
 したがって,警察官が同法2条1項に基づき交通違反の容疑者を停止させるにあたっては,違反者の検挙という目的達成のため必要であって,かつ最小限度の手段であることが要求される。
 また,交通取締に従事する警察官は,単に違反者の検挙のみを目的とするものではなく,道路交通の安全と円滑を確保することも目的として職務に従事しているのであるから,違反車両に対する停止措置を講ずるにあたっては,違反車両の現場における検挙のみをいたずらに求めることなく,あわせて道路交通の安全及び円滑,人の生命,身体,財産の安全の確保をも図らなければならない。したがって,違反車両を停止させるにあたっては,交通事故の危険性の程度が最小限度にとどまる方法を選択しなければならない。
(二) 停止措置の必要性及び相当性
(1) 本件の停止措置
  本件においてC警察官が本件バイクを停止させるためにした措置は,「本件バイクが別紙図面<ウ>付近を時速約40kmで進行していたころに,赤色回転灯が消灯し,前照灯が点灯していた本件パトカーを別紙図面③地点(対向車線には約3.4mの通行余地を残していた。)に停車させ,マイク等によって停止を命じることなく,本件バイクが接近してくるのを待ち,本件バイクが本件三叉路を通過した後に至っても,赤色回転灯,サイレン又はマイクを使用して警告する措置や停止を命じる措置をとらず,そのまま同地点で本件パトカーを停止し続けた」(以下「本件停止措置」という)というものである。
(2) 停止措置の必要性
 被告Aらは,前示のとおりヘルメット着用義務や自動車登録番号標等の表示義務,整備不良車両の使用禁止などの交通法規に違反し,また,運転者の遵守義務あるいは共同危険行為の禁止に触れる可能性が高い行為をしており,警察官においてこれらの違反を検挙する必要性が高かったことは優に認められる。被告Aらは,前示のとおり,蛇行運転など交通事故発生の危険のある運転をし,爆音走行,低速走行など一般車両や周辺住民に著しい迷惑を与える運転をしていたものであり,被告Aらを早期に検挙するために停止措置を講じることは,道路の安全及び円滑を確保し,周辺住民の生活の平穏を確保するなど公益性の高い重要な目的に基づくものであるといえる。
(3) 停止措置の相当性(危険の最小限度性)
ア 交通事故発生の危険性の程度
 本件パトカーは,本件事故当時,サイレンを鳴らさず,赤色回転灯も点灯させていなかったので,道路交通法上の緊急車両に当たらず,本件パトカーが本件事故現場において片側1車線を完全に閉鎖して停車するという運転方法は,①車両は,歩行者又は他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがあるときは,道路外の施設若しくは場所に出入するための横断をしてはならない(同法25条の2),②車両は,車道の左側端に接して路側帯が設けられている場所において,停車し,又は駐車するときは,政令で定めるところにより,当該路側帯に入り,かつ,他の交通の妨害とならないようにしなければならない(同法47条3項),③車両等の運転者は,当該車両等のハンドル,ブレーキその他の装置を確実に操作し,かつ,道路,交通及び当該
車両等の状況に応じ,他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない(同法70条)等の規定に違反することになる。
 そして,このような道路交通法に違反する運転方法は,それ自体,類型的にみて交通事故の発生する危険性の高いものである。
 本件バイクの前照灯の照射距離が97.5mであるので,被告Aにおいて前方を注視し制限速度を遵守することによって本件事故を回避することは可能であったとはいえるが,本件事故当時,夜間で暗く,本件パトカーの前照灯,反射光,本件バイクの前照灯のみの明かりしかなかったこと,C警察官らは,マイク等を使用して本件バイク運転者に停止を命じておらず,赤色回転灯を点灯させず,サイレンも吹鳴させず,何ら警告措置を講じていないこと等の事情に照らせば,本件停止措置は,少なくとも本件バイクが本件三叉路を通過した後においては,交通事故の発生する危険性が高いものであったといえる。
 これに対し,別紙図面③地点で本件パトカーを停車させた後,本件バイクの動静に注視し,本件バイクが本件三叉路を通過した後,直ちに赤色回転灯を点灯させるという方法をとれば,交通事故の発生する危険性は相対的に低くなる。
イ 逃走の可能性
 本件バイクが本件三叉路を通過するまでの時点において,本件パトカーが,あらかじめ赤色回転灯やサイレンを使用すれば,被告Aらが,本件三叉路を左折し,又はUターンするなどして再度逃走する可能性が高いことは被告県の指摘するとおりであって,取締目的を達成するために警察官が赤色回転灯やサイレンを使用しないで道路交通法に違反する行為をすることが直ちに違法になるものでないことはいうまでもない。
 しかし,本件において,本件バイクは,本件三叉路を通過した後は本件三叉路を左折して逃走することはもはや不可能であり,Uターンしたとしても追跡を容易に開始できるのであり,また,本件バイクが対向車線を通って逃走することは,いずれにしても想定の範囲内にあるから,本件バイクが本件三叉路を通過した後,直ちに赤色回転灯を点灯させるという方法をとることは,取締目的の達成に支障となるものではなく,これによって,本件において,被告Aが本件パトカーの存在を意識することができ,本件事故を回避することができた可能性も相当程度認めうるところである。
 ウ そうすると,本件停止措置には,交通違反者の検挙という目的達成のための必要性は認められるものの,同じ目的を達成するためにより事故発生の危険性の低い方法(本件バイクが本件三叉路を通過した後,直ちに赤色回転灯を点灯させるという方法)が考えられ,最小限度の手段であったとまでは認め難く,警察官職務執行法2条1項所定の「停止」の手段としての要件を具備していたものとはいい難いから,正当業務行為として違法性が阻却されるものとまではいまだ認め難い。
3 自賠法3条但書による免責
(一) 運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと
(1) C警察官は,前示認定事実のとおり,あえて道路交通法に違反して,類型的にみて交通事故が発生する可能性の高い方法で本件パトカーを本件事故現場に停止させたのであるから,本件バイクの運転者が本件パトカーの存在に気付くのが遅れるなどの事情によっては本件事故が発生することがあり得ることを予見できたというべきであり,かつ,本件バイクの動静に注視し,本件バイクが本件三叉路を通過した時点で速やかに,赤色回転灯を点灯させることによって交通事故を未然に防止することも可能であったから,本件事故の回避可能性もあったというべきである。
 しかるに,C警察官は,本件事故現場が暗くて前方の見通しが十分ではない状況下で,本件パトカーの前照灯の明かり及びその反射光のみで,本件バイクが本件パトカーの存在に気付いて対向車線に避けるなどの回避措置をとるであろうと漫然と考え,本件バイクが本件三叉路を通過しても,何らの警告措置も講じなかった点で,本件パトカーの運行に関する注意義務違反があることは否めない。
(2) 被告県は,本件停止措置から生じる損害発生の危険性及びそれにより侵害されるであろうEらの利益の要保護性よりも,C警察官に事前に赤色回転灯を点灯させるなどの行為義務を課すことによって犠牲にされる利益の方が上回るといえるので,C警察官に過失はないと主張する。
  しかし,本件停止措置の危険性は前示のとおり高いものであり,それによって,侵害されるであろうEらの生命・身体に関する利益の要保護性は,交通法規に違反したことを斟酌しても,相当程度高いものであり,他方で,C警察官に本件バイクが本件三叉路を通過した時点で速やかに,赤色回転灯を点灯すべき注意義務を課しても本件バイクが逃走する可能性・容易性の程度は本件停止措置の場合とほとんど変わらないのでこれにより犠牲を受ける利益は大きくないから,C警察官に上記手段をとるべき注意義務を課すことに支障はなく,被告県の上記主張は採用できない。
(二) したがって,被告県は,自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったとまでは認め難いから,自賠法3条但書による免責は認められない。
4 そうすると,被告県は,自賠法3条による損害賠償責任を免れない。
 四 過失相殺
  1 過失相殺の方法
    複数加害者と被害者との間における過失相殺の方法には,①各加害者と
   被害者との関係ごとにその間の過失の割合に応じて相対的に過失相殺する
   という方法と,②加害者の一部に対する関係で被害者に過失相殺事由があ
   る場合には他の加害者との関係でも共通の割合により過失相殺をするとい
   う方法〔つまり,その交通事故の原因となったすべての過失の割合(絶対
   的過失割合)を認定して,絶対的過失割合に基づく被害者の過失による過
   失相殺をした損害賠償額について加害者らが連帯責任を負う方法〕が考え
   られる。
    本件においては,二者の過失が競合したことにより一つの交通事故が発
   生したというものであるが,他方で,被害者たるEは,被告Aの運転す
   る本件バイクに同乗して,ときに自ら本件バイクを運転して,被告Aと行
   動を共にしてきたものであり,被告Aと特別な関係にあるといえ,過失の
   内容も被告Aのそれとほとんど共通するものであり,被告Aの過失を抜き
   にしてはEの絶対的過失割合を定めることができないものである。
    したがって,本件においては,絶対的過失割合を認定することは困難で
   あり,絶対的過失割合による過失相殺の方法は相当ではなく,むしろ,各
   加害者と被害者との関係ごとにその間の過失の割合に応じて相対的に過失
   相殺するという方法が本件事案の実態に即しており,それによることが相
   当であると解される。
  2 相対的過失割合
(一) Eと被告Aとの間
 E及び被告Aは,互いに道路交通法等に違反する行為を認識・認容していたものであり,パトカーを発見した際には,何らかの方法により,場合によっては交通法規に違反してでも逃走することを黙示的に承認していたと考えられ,これらの点では両者の過失は等価である。
 Eは,自らの意思で本件バイクに同乗したものであり,被告Aによる危険な運転をも受容し,かつ,自らもヘルメットを着用せず,これにより死亡結果発生の可能性を高めたことなどに鑑みると,好意同乗の点を含めて総合し,Eと被告Aの過失割合を3対7と認めて過失相殺するのが相当である。
(二) EとC警察官との間
 C警察官には,道路交通法等違反の容疑者を停止させるべき職務上の義務や必要性があったとはいえるが,道路交通法に違反して,類型的に交通事故が発生する可能性の高い方法で本件パトカーを停止させながら,交通事故を防止するために十分な措置をとらなかったため,被告Aの過失と相俟って本件事故を発生させたものである。
 Eは,