hanrei @Wiki H18. 3.14 佐賀地方裁判所 平成16年(わ)第50号,第78号,第103号,第114号,第210号,第358号 わいせつ目的略取,強制わいせつ,強制わいせつ致傷,加重逃走未遂,傷害,強姦致傷,わいせつ目的略取未遂,建造物侵入,窃盗



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                           主       文
           被告人を懲役20年に処する。
           未決勾留日数中450日をその刑に算入する。
                           理       由
(罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 わいせつな行為をする目的で女児を略取しようと企て,平成13年5月30日午後4時50分ころ,佐賀県神埼郡a村b番地所在のA方東側路上において,下校途中のB子(当時10歳)に対し,同児を持ち上げて,同所に停車中の普通乗用自動車の運転席ドアから同車両内に押し込むなどの暴行を加えて同児を略取しようとしたが,同児が大声を出すなどして抵抗したため,その目的を遂げなかった
第2 わいせつな行為をする目的で,同年7月7日午後零時25分ころ,福岡県甘木市c番地所在のC方西側路上において,下校途中のD子(当時10歳)に対し,その腹部を手拳で殴打し,同児を抱え上げて,同所に停車中の普通乗用自動車のトランクの中に押し込むなどの暴行を加え,直ちにトランクを閉めて同車両を発進させて同児を略取した上,同市d番地所在のE方から南方約160メートル先の山林に至り,同日午後零時35分ころから同日午後2時35分ころまでの間,同所において,同児が13歳未満であることを知りながら,同児を全裸にして地面に寝かせ,強いて同児を姦淫し,その際,同児に約1週間の治療を要する会陰裂傷の傷害を負わせた
第3 窃盗の目的で,平成15年6月28日ころ,佐賀県三養基郡e町f番地所在のe町立e小学校校長Fが看守する同校校舎に無施錠の北校舎2階窓から侵入した上,同校舎3階教室において,上記F管理にかかる水着4着(平成16年佐賀地検領第464号符号1号ないし4号。時価合計約4000円相当)を窃取した
第4 わいせつな行為をする目的で,同年10月15日午後5時35分ころ,福岡県大牟田市g町h丁目i番地所在のG方南方約130メートル先路上において,帰宅途中のH子(当時7歳)に対し,同児を持ち上げて,同所に停車中の普通乗用自動車の運転席側後部ドアから同車両内に押し込むなどの暴行を加え,直ちに同児を自己の支配する同車両内に乗せたまま同車両を発車させて略取した上,そのころから同日午後7時5分ころに同市j町k丁目l番地所在のI方北側路上で同児を解放するまでの間,同市内又はその周辺に停車させた同車両内において,同児が13歳未満であることを知りながら,同児に対し,同児を全裸にし,その陰部をバイブレーター様の異物で弄び,その口腔内に自己の陰茎を含ませ,その状況を所携のデジタルカメラで撮影するなどした
第5 わいせつな行為をする目的で,同年11月4日午後3時30分ころ,佐賀県鳥栖市m町n番地所在のJ神社東側路上において,下校途中のK子(当時9歳)に対し,同児を持ち上げて,同所に停車中の普通乗用自動車の運転席ドアから同車両内に投げ入れるなどの暴行を加え,直ちに同児を自己の支配する同車両内に乗せたまま同車両を発車させて略取した上,そのころから同日午後5時ころに同市o町p番地所在のL方西側路上で同児を解放するまでの間,同市内又はその周辺に停車させた同車両内において,同児が13歳未満であることを知りながら,同児に対し,その下着を脱がせ,その陰部を手指で弄び,その状況を所携のデジタルカメラで撮影するなどし,その際,同児に対し,約1週間の治療を要する第1度会陰裂傷の傷害を負わせた
第6 わいせつな行為をする目的で,平成16年2月20日午後4時15分ころ,同市q町r番地所在のM方北側路上において,下校途中のN子(当時9歳)に対し,同児を持ち上げて,同所に停車中の普通乗用自動車の助手席側後部ドアから同車両後部座席に押し込むなどの暴行を加え,直ちに同児を自己の支配する同車両内に乗せたまま同車両を発車させて略取した上,そのころから同日午後5時ころに同市s町t番地所在のO方東側路上で同児を解放するまでの間,同市内又はその周辺に停車させた同車両内において,同児が13歳未満であることを知りながら,同児に対し,その下着を脱がせ,その陰部を手指で弄び,その状況を所携のデジタルカメラで撮影するなどした
第7 わいせつ目的略取,強制わいせつ及び強制わいせつ致傷の各罪により,佐賀地方裁判所に起訴され,同裁判所裁判官の発付した勾留状により,佐賀県鳥栖市u町v番地所在の代用監獄である佐賀県鳥栖警察署留置場に被告人として勾留され,かつ,未成年者略取の罪の被疑者として,同裁判所裁判官の発付した勾留状により同留置場に勾留されていた者であるが,同留置場から逃走しようと企て,同年4月11日午後7時35分ころ,同留置場内において,同署警務課留置管理係所属の警察官巡査長P(当時25歳)に対し,その右目付近を手指で突き,その頸部に腕を回して同人を投げ倒した上,同人の頸部に腕を回して締めつけ,その両目付近に手指を押し付けるなどの暴行を加えて逃走を図るとともに,上記暴行により,同人に対し,全治までに約2週間を要する右眼結膜出血・角膜びらん等の傷害を負わせたが,同人が非常ベルを吹鳴させたことにより駆け付けた同署勤務の警察官に取り押さえられたため,逃走の目的を遂げなかった
ものである。
(証拠の標目) 略
(事実認定の補足説明)
第1 被告人及び弁護人の主張
    被告人は,判示第2のうち強姦致傷の事実について,第3回及び第19回公判において同事実に係る起訴状記載の公訴事実について認める旨の陳述を行い,弁護人もこれを受けて,同公訴事実については姦淫行為の態様も含めてすべて争わない旨の意見を述べているが,一方で被告人は,被告人質問において,「自慰をし,陰茎を勃起させて,被害者の女性器に挿入しようと試みたが,陰茎が挿入できるほどの硬さにはならず,挿入できなかった。再び自慰をして射精し,手指を被害者の女性器に挿入して精液を塗りつけた。」旨,姦淫行為が既遂に至った点を否認するような供述をしており,犯行態様についての認否が必ずしも明確ではない。
    また,被告人は,判示第7のうち加重逃走未遂の事実について,第1回公判においては逃走目的を争わなかったが,その後の被告人質問において,逃走目的はなかった旨供述し,弁護人もこれを受けて,被告人は逃走する目的で暴行を加えたものではなく加重逃走未遂罪は成立しない旨主張している。
    したがって,以下,判示第2の強姦致傷の犯行態様及び判示第7の逃走目的の有無について,補足して説明する。なお,被告人は,公判廷において,判示第1,第2,第4ないし第6の各事実につき,いずれも自己の性欲を満足させるつもりではなかった旨供述しており,この点についても補足して説明する。
第2 判示第2の強姦致傷の犯行態様
 1 被害者供述(甲242ないし245)の要旨
    下校途中,路上に車を止めてその後ろに立っていた男から声をかけられ,いきなり腹部を拳で1回殴られ,抱え上げられて車のトランクの中に入れられ,トランクを閉められた。すぐに車が走り出し,私がトランクの中で叫んだりトランクを内側から叩いたりしていたところ,何分間か走った後に車が止まり,トランクが開いた。男が,私に「それ以上騒いだら殺す。」と言ったので,本当に殺されるかもしれないと思い,怖くてたまらなかった。男は私の口にガムテープを貼り,また,私の目にガムテープを当てて頭に巻き付けるようにして貼り付けた。その後,男がトランクを閉めて,再び車が走り出した。しばらくして車が止まり,トランクが開いた。男は私を抱え上げてトランクから出し,地面に下ろして,「服を全部脱げ,靴も脱げ。」と言った。私はさきほど男から「殺す。」と言われていたため,恐ろしくて全裸になった。男は私に「そこに寝ろ。」と言い,私が地面に仰向けに寝ると,私の口に貼ったガムテープだけを外して,私の口にキスをしたり,胸や膣を指で触ったり,口の中に陰茎を入れたりした。男は,私の上に乗り,私の足を左右に開いて陰茎で私の陰部を触っていたが,その後,陰茎を私の膣の中に入れた。このとき私は痛くてたまらなかったので,「痛い。」と言ったが,男から「黙っとけ。」と言われ,殺されるのが怖かったので我慢していた。また,このとき男は両手で私の胸を触っていた。その後,男は「誰かに助けを求めたら殺す。」と言い,私の目に貼ったガムテープを剥いで私の脱いだ半ズボンを私の頭からかぶせ,立ち去った。陰部が痛くてたまらなかったので見ると,出血していた。
 2 被害者供述の信用性
    本件被害が被害者にとって極めて衝撃的かつ強烈な印象を残す出来事であったことが容易に推察されるところ,被害者供述は具体的かつ詳細で,その内容は被害直後からほぼ一貫しており,特段不自然,不合理な点も見当たらない。また,性体験のない満10歳の幼い被害者が,実際には受けていない虚偽の被害態様を具体的に供述できるとは考え難く,そのような虚偽供述をあえて行うべき動機も窺われない。被害者は,被害当時目にガムテープを貼られて視界を遮られており,膣内に陰茎が挿入される状況を見てはいないが,陰部に痛みを感じた時点における自らの体勢と感じ取った犯人の位置・体勢,さらにはその直前の犯人の加害状況から判断して前記のとおりの供述をしたものと解され,格別不自然な点は見当たらない。さらに,被害者の膣内容物に混在していた精液から被告人と同型のDNAが検出されていること,被害直後に被害者を診察した松元敏博医師は被害者の負った会陰裂傷の原因につき姦淫によってできた傷と考えるのが自然である旨供述していること,被害者の母親が「本件直後に娘が『男のオチンチンが私のオチンチンの中に入った。とても痛かった。』と言うのを聞いた。」旨供述していることからも,前記第2の1の被害者供述が強く裏付けられる。
    以上より,被害者供述の信用性は非常に高いというべきである。
 3 被告人供述
    被告人は,捜査段階では本件犯行を否認しており,公訴提起後,第3回公判において公訴事実を認める旨の陳述をしたものの,被告人質問においては前記のとおり姦淫行為を否認するような供述をし,第19回公判においては,再び「公訴事実中,『姦淫し』とある部分については争わない。」旨述べている。
    被告人供述は,姦淫行為の態様という核心部分について,信用性の高い前記被害者供述と矛盾し,前記松元の医学的所見とも整合しない上,合理的な説明なく変遷している。なお,被告人は,「被害者の女性器に陰茎を挿入したことはない。姦淫したという状況を作り出すため,自慰をして射精し,指を被害者の女性器に挿入して精液を塗りつけた。」旨供述しているが,このような意図や行為態様は極めて不自然であり,被害者の膣内容物に混在していた精液から被告人と同型のDNAが検出されたという客観的状況に合わせんがための不合理な弁解にすぎないと考えられる。
    したがって,姦淫行為の態様についての被告人供述は信用することができない。
 4 当裁判所の認定事実
    以上より,信用性の高い被害者供述に基づけば,本件姦淫行為は既遂であったといえるので,前記「罪となるべき事実 第2」記載の事実が認められる。
第3 判示第7の逃走目的
 1 前提事実
    関係各証拠によれば,前提事実として以下の事実を認定することができる。
    犯行に至る経緯
      被告人は,休日は警備に隙ができるという認識のもと,休日に,留置場内に被害者以外の留置担当警察官がいなくなったときを見計らって,被害者に対し,房の外の洗面台で手を洗わせてほしい旨執拗に懇願して房の鍵を開けさせ,房の外に出て本件犯行に及んだ。
    犯行状況
      被告人は,被害者の右肩口付近を左手で掴んだ上,右手指で被害者の右目付近を複数回突き,さらに,被害者の頸部に右腕を巻き付けて同人を床に投げ倒し,倒れた被害者の頸部に左腕を巻き付け,右手指を被害者の両目付近に強く押し当て,抵抗して立ち上がった被害者の股間付近を膝蹴りし,再び被害者を床に投げ倒して馬乗りになり,倒れた被害者の頸部に腕を巻き付けた。そして,被告人を制圧しようとした被害者の股間付近を膝蹴りし,右手指で両目付近を複数回突き,被害者がようやく被告人の両腕を背後に回して房に入るよう促しても,被告人は足を踏ん張ってこれを拒んだ。被害者は,救援を要請するためいったん被告人から離れ,非常ベルが設置された看守台に向かった。この間,被告人は,被害者が所持していた留置場出入口の鍵を含む鍵束が床に落ちていたのでこれを拾い,被害者がしゃがみ込んで看守台の下部に設置された非常ベルを押している際,同鍵束を同台の上に置いて,同台の引き出しを次々と開け,その中を物色した。同引き出しには,留置場出入口を通らずとも外に出ることができる運動場出入口及び非常口の鍵が入っていた。
    犯行後の状況
      被告人は,犯行理由を尋ねた警察官小川千秋に対し,「現実から逃れるため。留置場から逃走するため。」と答え,また,本件犯行日を選んだ理由については,当直の担当が被害者であり,被害者には隙があるし,また,被害者は妻帯者ではなく独身であったので,自分が逃げたことにより被害者が処分を受けてもその家族にまで迷惑をかけることにはならないと思った旨答えた。
 2 当裁判所の認定事実
    前提事実のとおり,被告人があえて警備の隙を狙って本件犯行を行っていること,暴行態様が非常に強度で危険かつ執拗なものであること,被害者から制圧されかかっても足を踏ん張って房に入ることを拒んだり,留置場出入口の鍵を含む鍵束を拾ったり,鍵が入っていることが容易に窺える看守台の引き出しを物色したりしたこと及び犯行後の言動から,被告人が逃走目的を有していたことが強く推認される。
    この点,被告人は,被告人質問において「逃げ出そうという気持ちはなかった。交際相手に自分のことを諦めさせるためにやった。」等と弁解して逃走目的を否認している。しかし,交際相手に自分との交際を諦めさせるために,留置担当の警察官に暴行を加えたとの論理にはあまりにも飛躍があって到底理解し難く,被告人の弁解はそれ自体極めて不自然・不合理というほかない。また,被告人は,捜査段階及び第1回公判の冒頭手続においては逃走目的を争わず,被告人質問においても「一瞬だけ,ふっと,逃げたろか,看守らにダメージ与えたろかという意識が芽生えた。」などと逃走目的を認めるような供述もしており,結局,逃走目的についてはあいまいで一貫性のない供述に終始している。
    したがって,被告人の弁解は前記推認を妨げるものではなく,被告人は逃走する目的をもって被害者に対して暴行を加えたものと認められ,判示のとおり,加重逃走未遂罪が成立する。
第4 判示第1,第2,第4ないし第6の性的意図
    被告人は,判示第1,第2,第4ないし第6の各犯行に至った動機につき,被告人質問において,「自己の性欲を満足させるためではない。」旨供述しているが,関係各証拠によれば,いずれの犯行態様も被害者の性的自由や羞恥心を著しく侵害するものであることは外形的・客観的に明らかであり,被告人においてもこの点について十分認識していたものであることからすると,かかる客観的事情から,被告人の性的意図は優に認められ,いずれの犯行においても犯意に欠けるところはない。
(法令の適用)
罰条
 判示第1の所為 平成17年法律第66号による改正前の刑法228条,225条
 判示第2の所為
  わいせつ目的略取の点 上記改正前の刑法225条
  強姦致傷の点 行為時においては平成16年法律第156号による改正前の刑法181条(その長期は同改正前の刑法12条1項による。),177条後段に,裁判時においてはその改正後の刑法181条2項(その長期は同改正後の刑法12条1項による。),177条後段に該当するが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。
 判示第3の所為
  建造物侵入の点 刑法130条前段
  窃盗の点 刑法235条
 判示第4及び第6の各所為
  各わいせつ目的略取の点 平成17年法律第66号による改正前の刑法225条
  各強制わいせつの点 行為時においては平成16年法律第156号による改正前の刑法176条後段に,裁判時においてはその改正後の刑法176条後段に該当するが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。
 判示第5の所為
  わいせつ目的略取の点 平成17年法律第66号による改正前の刑法225条
  強制わいせつ致傷の点 行為時においては平成16年法律第156号による改正前の刑法181条(その長期は同改正前の刑法12条1項による。),176条後段に,裁判時においてはその改正後の刑法181条1項(その長期は同改正後の刑法12条1項による。),176条後段に該当するが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。
 判示第7の所為
  加重逃走未遂の点 刑法102条,98条
  傷害の点 行為時においては平成16年法律第156号による改正前の刑法204条に,裁判時においてはその改正後の刑法204条に該当するが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。
科刑上一罪の処理
 判示第2の罪につき		刑法54条1項後段,10条(一罪として重い強姦致傷罪の刑で処断)
 判示第3の罪につき		刑法54条1項後段,10条(一罪として重い窃盗罪の刑で処断)
 判示第4及び第6の各罪につき	刑法54条1項後段,10条(一罪として重いわいせつ目的略取罪の刑で処断)
 判示第5の罪につき		刑法54条1項後段,10条(一罪として重い強制わいせつ致傷罪の刑で処断)
 判示第7の罪につき		刑法54条1項前段,10条(一罪として重い傷害罪の懲役刑で処断。ただし,短期は加重逃走未遂罪の刑のそれによる)
刑種の選択
 判示第2及び第5の各罪につき 有期懲役刑を選択
併合罪加重 刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い判示2の罪の刑に平成16年法律第156号による改正前の刑法14条の制限内で法定の加重)
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
1 事案の概要
  本件は,被告人が,下校途中の女児(当時10歳)をわいせつ目的で略取することを企て,車に押し込もうとするなどの暴行を加えたが同児が抵抗したためその目的を遂げなかったわいせつ目的略取未遂の事案(第1事件),わいせつ目的で下校途中の女児(当時10歳)を自動車のトランク内に押し込むなどの暴行を加えて略取した上,同児を強いて姦淫して加療約1週間の傷害を負わせたわいせつ目的略取・強姦致傷の事案(第2事件),窃盗目的で小学校に侵入した上,女子用スクール水着4着を窃取した建造物侵入・窃盗の事案(第3事件),わいせつ目的で帰宅途中の女児(当時7歳)を自動車内に押し込むなどの暴行を加えて略取した上,同児に強いてわいせつな行為をしたわいせつ目的略取・強制わいせつの事案(第4事件),わいせつ目的で下校途中の女児(当時9歳)を自動車内に押し込むなどの暴行を加えて略取した上,同児に強いてわいせつな行為をして加療約1週間の傷害を負わせたわいせつ目的略取・強制わいせつ致傷の事案(第5事件),わいせつ目的で下校途中の女児(当時9歳)を自動車内に押し込むなどの暴行を加えて略取した上,同児に強いてわいせつな行為をしたわいせつ目的略取・強制わいせつの事案(第6事件),警察署留置場内に拘禁中に留置担当の警察官である被害者に暴行を加えて逃走しようとするとともに同人に全治約2週間を要する傷害を負わせたが,他の警察官に取り押さえられたため逃走の目的を遂げなかった加重逃走未遂・傷害の事案(第7事件)の各事案からなる。
2 第1,第2,第4ないし第6事件
  犯行に至る経緯及び動機
    被告人は,高校卒業後,アルバイトを転々としていた平成11年ころから,女児に対する性犯罪を起こそうという考えを抱き始め,平成13年5月からは実際に女児を物色して自動車で徘徊し始めて,連続して第1事件と第2事件を起こした。さらに,平成14年からは,交際する女性が以前通っていた英会話教室で外国人講師から性的いたずらを受けていたという話を聞き,このことを警察に相談したものの,被告人の期待していた対応が得られなかったことなどに不満を募らせて,女児に対する性犯罪を起こせば世間や警察に危機意識を持たせることができるなどと屈折した考えも抱くようになった。被告人は,同年10月,福岡県警察官を拝命したが,警察官として勤務しながらも,女児に対する性犯罪を起こすという考えを捨てず,平成15年10月から同16年2月にかけて,連続して第4ないし第6事件を起こした。
    実際に姦淫又はわいせつ行為に及んだ第2,第4ないし第6事件の犯行態様を見ると,いずれの事件においても,被告人は,被害女児を全裸又は陰部を露出した状態にした上,第2事件では姦淫行為にまで及び,第4ないし第6事件では被害者の膣内に手指やバイブレーター様の異物を挿入するなどして弄び,勃起した自己の陰茎を口淫させ,被害者の口腔内で射精までしているほか,わいせつ行為の状況を所携のデジタルカメラで克明に撮影し,その画像の一部をパソコンのハードディスク内に保存していた。
    さらに,被告人は,第2事件と第4事件との間に行われた第3事件において,小学校に侵入して女子用のスクール水着4着を選別して窃取し,これを当時住んでいた警察の寮の自室に保管していた。また,実家や寮の自室に,女児を性愛の対象として扱った漫画,雑誌,デジタル画像等を大量に保管していた。
    被告人は,一連のわいせつ関連事件の犯行の被害者がいずれも女児である点について,自分の性別が男性であるということで犯行の相手を女性に決めたのかという質問に対し「そうだと思います。」「性犯罪以外には思いつかなかった。」等と述べており,自らの性的な傾向が各犯行に反映していることを否定していない。他方で,被告人は,「小児性愛」という言葉の意味を「大人と性交渉できないので小中学生を性欲の対象とすること」ととらえ,高校生以上の女性との性交渉がある自分は小児性愛にはあてはまらないなどと主張しているが,一連のわいせつ関連事件の特異な経緯及び犯行態様や,上記漫画等の保管状況からすれば,被告人が女児に対する偏執的な性的関心・欲求を有していたことは明白であって,一連のわいせつ関連事件はかかる性的欲求を満たすためになされたものと考えられる。
    この点について,被告人は,幼少時より確執のあった父親に対する復讐心や,第4事件以降は,子供を狙った性犯罪に対する世間や警察の意識を覚せいさせることが一連のわいせつ関連事件の動機であると説明している。しかしながら,父親に対する復讐や,世間や警察の意識を覚せいさせるために,なにゆえ女児を対象とした性犯罪を繰り返し敢行したのか合理的な説明は何らなされておらず,被告人が説明する動機は論理に著しい飛躍があって不自然極まりなく,およそ一連のわいせつ関連事件の動機とは考えられない。
    以上のとおり,被告人は女児に対する自らの性的欲求を満たすために一連のわいせつ関連事件を敢行したと認められ,その動機,経緯に酌量すべき事情は一切ない。
  犯行態様
    被告人は,あらかじめ車で下見をして女子小学生の下校状況をつぶさに観察した上,自己の犯行であると発覚しにくいよう,ありふれた白色の乗用車を使用し,容貌の特徴を変えるために眼鏡をかけ,目撃者が少ないと思われる雨の日に,抵抗されにくい小学校低学年の女児を探して徘徊し,狙いを定めた被害女児が一人きりになる場所まで先回りし,同児から自動車のナンバーが見えにくいような角度で駐車して待ち伏せた上で第1事件に及んでおり,非常に用意周到である。その犯行態様も,いきなり被害女児を抱え上げて自動車内に押し込もうとする乱暴なものである。
    第2事件において,被告人は,犯行を成功させるため,被害女児の目や口を塞ぐためのガムテープをあらかじめ準備して,計画的に犯行に及んでいる。その略取態様は,一人歩きの被害女児を待ち伏せていきなりその腹部を手拳で殴打し,身体ごと抱え上げて車のトランクに押し込むという非常に乱暴なものである。さらに,被害女児が助けを求めてトランク内で泣き叫ぶと,同児の目と口をガムテープで塞いで「騒いだら殺す。」と語気鋭く申し向けるなど冷酷な脅迫を加え,完全に畏怖して抵抗できなくなった同児を略取現場から約5キロメートルも離れた人けのない山中に至り,同児を全裸にして地面に寝かせ,同児の口元のガムテープのみ剥がしてその口に接吻したり自己の陰茎を口淫させたりし,同児の乳房や陰部を弄んだ上,痛がって悲鳴を上げる同児に「黙っとけ。」と言い放って容赦なく姦淫し,同児の陰部に多量の出血を伴う裂傷を負わせた。このような犯行態様は,被害女児の人格を著しく踏みにじる残忍かつ卑劣なものであって悪質極まりない。また,犯行後,被害女児に強く口止めし,全裸の同児の頭にズボンをかぶせたままその場に放置し,自己の精液の付着した同児の肌着等を持ち去って逃走し,これらの肌着等を自宅に隠匿後,処分して証拠隠滅するなど,事後の情状も非常に悪質である。
    第4ないし第6事件において,被告人は,あらかじめ下見をして人けのない場所をいくつか犯行候補地として探しておいた上で,自動車で徘徊中に狙いを定めた被害女児らを待ち伏せし,計画的に各犯行に及んだ。いずれの略取態様も,いきなり抱え上げて自動車に押し込んだり投げ入れたりするという乱暴なものである。さらに被告人は,被害女児らの着衣を脱がせてその陰部を手指等で弄び,勃起した自己の陰茎を無理矢理口淫させるなどして欲しいままに同児らを弄んだ上,犯行状況を所携のデジタルカメラで克明に撮影し,第5事件の被害者に対しては陰部に出血を伴う裂傷まで負わせており,このような犯行態様は,被害女児らの人格を著しく傷つける残忍,陰湿かつ卑劣なものである。また,被害女児らを解放する際には口止めをし,犯行時の着衣等を捨てたり犯行に用いた自動車内を清掃するなどして証拠隠滅を図っており,事後の情状も悪い。
  被害結果
    以上のような残虐かつ卑劣極まりない犯行の犠牲となった,わずか7歳から10歳の幼い被害女児らの肉体的・精神的被害は極めて甚大であり,さらに,被害当時は幼かった被害女児らが,今後,わいせつ被害の意味を理解したとき,本件各犯行がその人格形成に及ぼす影響も非常に深刻である。被害女児らの家族も,愛する娘や妹がこのようなむごい仕打ちを受けたことで,多大な精神的苦痛を被っている。
    第1事件の被害女児は,たまたま抵抗が功を奏して未遂にとどまったものの,見知らぬ男性からいきなり抱え上げられて略取されそうになった恐怖は強く,被害後は父親をも怖がるなどしており,その精神的被害は大きい。
    第2事件の被害女児は,いきなり腹部を殴打され,抱え上げられて自動車のトランク内に押し込まれ,必死で助けを求めて大声で泣き叫ぶや,目と口をガムテープで塞がれた上に「殺す。」とまで言われて脅迫され,生命の危険を感じて全く抵抗できなくなり,極度の恐怖で精神的に極限まで追いつめられていたと察せられる。さらにその後,被害女児は,人けのない薄暗い山中で,なす術もなく卑劣な性的虐待にさらされ続けて約1週間の加療を要する会陰裂傷の傷害を負わされた上,上着と肌着を持ち去られて頭からズボンをかぶせられた状態で犯行現場に放置されたのであり,わずか10歳の幼い被害女児が強いられた肉体的苦痛のみならず極度の恐怖・絶望など精神的苦痛の甚大さはまさに筆舌に尽くし難いものである。被害女児は,被害後,苦痛のあまり被害のことを忘れるよう努めてきたが,現在でも,見知らぬ男性に道を尋ねられただけで本件被害状況が思い出されて息苦しくなるなどしており,その精神的被害の影響は極めて深刻である。
    第4事件の被害女児は,帰宅途中にいきなり略取され,ガムテープで目隠しをされて恐怖のあまり全く抵抗できないまま,被告人の卑劣な性的虐待にさらされ続けたものであり,その肉体的・精神的苦痛は甚大である。被害女児は,被害後も,被告人を強く恐れ,同人から口止めされていたために,本件が捜査機関に発覚するまでの約5か月間にもわたって,誰にも被害を打ち明けることすらできずにたった一人で苦しんでいたもので,その精神的重圧は相当なものであったと認められる。現在も情緒不安定な状態が続いており,その精神的被害の影響は重大である。
    第5事件の被害女児は,下校途中にいきなり略取され,足を殴打されるなどして恐怖のあまり全く抵抗できないまま,被告人の卑劣な性的虐待にさらされ続けて約1週間の加療を要する会陰裂傷の傷害を負わされたものであり,その肉体的・精神的苦痛は極めて甚大である。被害女児は,被害後,それまで懐いていた父親を避けたり,被害状況が夢に出てきて就寝中にうなされるなどしており,その精神的被害の影響は深刻である。
    第6事件の被害女児は,下校途中にいきなり略取され,恐怖のあまり全く抵抗できないまま,被告人の卑劣な性的虐待にさらされ続けたものであり,その肉体的・精神的苦痛は甚大である。被害女児は,被害後,一人で留守番をすることも怖がるなどしており,その精神的被害の影響は重大である。
    以上の被害状況からも明らかなように,本件各犯行の被害女児ら及びその家族が被告人に対して極めて峻烈な処罰感情を抱いていることは,本件各犯行の凶悪さ及び被害の甚大さに照らしても,至極当然のことである。
    また,本件各犯行は,いずれも帰宅途中の幼い女児を標的とした卑劣で悪質なものであるばかりか,第4事件以降は,あろうことか,このような悪質な犯罪を取り締まって国民のために社会の安全を守ることこそをその第一の職責とすべき現職警察官によって起こされたという,まさに耳を疑うような衝撃的なものであり,本件各犯行が地域住民に与えた驚き,怒り,不安は甚大である。そして,幼い子供を標的とした悪質な犯罪が後を絶たない今日の社会情勢を考えれば,本件各犯行のような凶悪犯罪の社会的影響は深刻であり,一般予防の必要性も極めて高く,被告人において一段と強い非難を免れない。
    このような重大な被害結果にもかかわらず,被告人はいまだに被害弁償等慰謝の措置を何ら講じておらず,その具体的な見込みも立っていない上,犯行動機に関して責任転嫁とも受け取れる弁解に終始して被害関係者の感情をさかなでにするなど,真摯に反省しているとは到底認められない。
3 第3事件
  被告人は,警察学校在学中,女子用のスクール水着を狙って夜間に小学校の敷地内に入り,校舎2階の渡り廊下部分によじ登って校舎2階の無施錠の窓から校舎内に侵入し,女子用のスクール水着を物色し,4着を選んで窃取すると,これらを警察の寮の自室に持ち帰って隠匿保管していた。被告人は,その動機につき「第2事件の証拠品を処分してしまったため,自分と第2事件とを結びつける状況を作り出そうと思った。」などと不合理な弁解に終始しているが,その態様や被告人の性的傾向から,本件がいわゆる色情盗であることは明白であり,その動機に酌量の余地はない。犯行態様も悪質で,被害弁償等慰謝の措置もなく,現職警察官による犯行という点で社会的影響も看過できない。
4 第7事件
  被告人は,佐賀県鳥栖警察署留置場に勾留中,逃走を企て,警備が手薄になると認識していた休日に,被害者が一人になったときを見計らって,房の外に出るために巧妙に策を講じるなどした上で本件犯行に及んでおり,本件は非常に計画的かつ狡猾なものである。被告人は,被害者に対して両目付近を手指で突く,頸部に腕を巻き付けて投げ倒す,身体を押さえつける,股間付近を膝蹴りするなどの激しい暴行を執拗に加え続けており,その犯行態様は非常に粗暴かつ危険で悪質である。被害者は全治約2週間を要する傷害を負わされており,その身体的被害も軽微とはいえない。被告人は,公判廷において,本件は交際相手に自分のことを諦めさせるためにやったなどと不合理な弁解をしており,本件を真摯に反省しているとは認め難く,被害弁償等慰謝の措置もない。
5 まとめ
  以上の各犯行の経緯及び動機,犯行態様,被害結果等に照らせば,被告人の刑事責任は極めて重大である。また,特に一連のわいせつ関連事件は被告人の特異な人格に深く根ざしていると思われるところ,被告人はいまだ自己の内面を直視して内省を深めるには至っていないことから,同種再犯に及ぶおそれも大きい。
  したがって,被告人が公判廷において本件事実関係の大半を認めるに至ったこと,年齢が比較的若く前科がないことなど,被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても,主文のとおり量刑するのを相当と判断した。
(求刑 懲役20年)
 平成18年3月14日
  佐賀地方裁判所刑事部

      裁 判 長 裁 判 官    坂   主       勉

            裁 判 官    下   津   健   司

            裁 判 官    稲   吉   彩   子