hanrei @Wiki H17.11.18 和歌山地方裁判所 平成15年(わ)第29号等 収賄、背任



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当時、市長であった被告人が、会社代表者から、同社の土地を市が買収するにあたって便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼等の趣旨の下に、現金の交付を受けたことに収賄罪が、同市長が愛人関係にあった料亭の若女将と共謀の上、市長の立場にあることを奇貨として、若女将らの利益を図る目的で、若女将らが経営する料亭の建物を市において借り上げた行為に背任罪がそれぞれ成立するとされた事例


(判示事項の要旨)
 当時,市長であった被告人が,会社代表者から,同社の土地を市が買収するにあたって便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼等の趣旨の下に,現金の交付を受けたことに収賄罪が,同市長が愛人関係にあった料亭の若女将と共謀の上,市長の立場にあることを奇貨として,若女将らの利益を図る目的で,若女将らが経営する料亭の建物を市において借り上げた行為に背任罪がそれぞれ成立するとされた事例
主        文
被告人を懲役4年に処する。
未決勾留日数中400日をその刑に算入する。
被告人から金300万円を追徴する。
訴訟費用中,証人O2及び同N2に支給した分はその全額を,同北英知及び同N1に支給した分はそれぞれ各2分の1ずつを,同B3に支給した分のうち,併合前の背任事件における第5回,第8回及び第9回各公判に支給した分はそれぞれ2分の1ずつを,同第26回及び第27回各公判に支給した分はその全額をいずれも被告人の負担とする。
             理        由
(罪となるべき事実)
 被告人は,平成11年1月17日から平成14年7月4日までの間,a1市長として,
第1 同市が市有財産を取得することに関し,予算の調製・執行及び議会に対する議案の提出並びに同市c1公社が行う公有地の取得等につき,同公社に対し,先行取得の依頼,必要な業務命令,予算・事業計画の承認等を行うなど,同市を統括・代表する職務に従事していたものであるが,平成12年8月3日,a1市b1番地所在のa1市役所市長室において,同市d1番地に本店を置き,建築業,土木業及び不動産の仲介業等を営む株式会社e1の代表取締役である分離前の相被告人甲から,e1所有の同市f1番地の土地及び同番g1の土地をa1市が買収するための先行取得として同市c1公社に4億9000万円で購入させる議案をa1市議会に提出するなどの有利かつ便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼及び今後も同様の取り計らいを受けたい趣旨の下に供与されるものであることを知りながら,現金300万円の供与を受け,もって上記の自己の職務に関して賄賂を収受した
第2 同市の財産の管理,職員の指揮監督並びに同市の事務を管理・執行していたものであるが,同市が美術品等を展示した観光施設等として利用する名目のもとにa1市h1番地所在の料亭「i1」(経営者A1)の建物(別紙i1登記簿一覧表記載の建物)を賃借するに当たり,同建物は,建築基準法上飲食店以外の用途に使用することが困難であり,かつ,同建物の一部は国有地に無断で建てられており,残りの部分については多額の地代を国に滞納していたのであるから,そもそも同建物の賃借を差し控えることはもとより,敢えて賃借する場合には,滞納地代を建物所有者において完済させた上,その賃料等について,同市が不当な損害を被ることがないよう,不動産鑑定等により十分な調査をするなどして算出された適正な賃料額に従って賃貸借契約を締結するなど,同市の健全な財政運営を損なわないよう,誠実にその職務を遂行すべき任務を有していたところ,上記料亭が年々累積赤字を続け,地代も滞納するなどの経営困難状態にあったことから,被告人といわゆる愛人関係を続けていた前記料亭「i1」に若女将として勤務し,同建物の一部を所有する分離前の相被告人乙と共謀の上,市長の立場を奇貨として,同市と乙及び同建物の一部を所有するB1との間に,同建物の賃貸借契約を締結させ,同市に不当に高額な賃料の支払義務を長期間負担させるなどして,上記困窮状態を解消させるとともに乙らの生活を安定させることを企て,被告人において,乙らの利益を図り,同市に損害を加える目的をもって,上記各任務に背き,平成12年5月下旬ころから同年9月下旬ころにかけて,部下職員を指揮して,同建物の賃貸借契約締結に向けた作業に従事させ,同建物が築後約40年の老朽化したもので,その固定資産評価額が約2884万円であり,実勢価格としても,同評価額以下での売却しか見込まれず,月額約36万円が相当な賃料であるのに,適正な賃料額の調査を十分行うことなく,19年6か月にわたる月額140万円という不当に高額な賃料を設定するとともに,本来,同市が賃借人となる場合には,敷金を差し入れる必要性が認められないのに,上記滞納地代約530万円の支払いに充当させるために,敷金を差し入れることとするなどの施策を進め,議会対策として,債務負担行為でなく長期継続契約の形式を採用して予算の承認を得るなどした上,同年9月29日から翌30日にかけて,上記料亭において,a1市と同建物の所有者である乙及びB1との間で,同市が同建物を,同年10月1日から平成32年3月31日まで,月額賃料140万円・敷金700万円で賃借し,毎月の賃料は,乙にその3分の2を,上記B1にその3分の1を支払う旨の賃貸借契約を締結させ,その結果,平成12年10月5日から平成15年3月20日までの間,同市をして,同契約に基づく債務の履行として賃料等合計4900万円を乙らに支払わせ,もって同市に財産上の損害を加えた
ものである。
(事実認定の補足説明)
第1 収賄事件
1 当事者の主張
 被告人は,平成12年8月3日,甲と会ったことはなく,甲から現金を受け取ったこともないとし,さらに,j1跡地については,甲から無理に売却してもらったもので,甲の便宜を図ったものではないと供述して本件犯行を全面的に否認し(なお,当公判廷における被告人の供述には,公判手続の更新前のものも存在するが,表記にあたって特に区別することはしない。以下,他の者の公判供述ないし証言についても同様の取扱いをする。),弁護人らにおいても,被告人の供述を前提に,検察官が主張する現金の授受は存在しないし,本件公訴提起は甲の別件逮捕に基づく身柄拘束によって得られた供述等の違法不当な捜査に基づくもので政治に対する不当な介入であるとして被告人は無罪である旨主張しているので,以下,これらの点について,当裁判所の判断を順次補足して説明する。
2 前提事実
 当公判廷において取調べ済みの関係各証拠から,以下の各事実が認められる。(1) 被告人の身上,経歴等
 被告人は,昭和20年a1市内で出生し,同市内の高等学校を卒業後,和歌山県警察官,a1市議会議員,和歌山県議会議員を経て,昭和61年6月から平成7年11月までa1市長を3期務め(3期目途中,県知事選挙への立候補に伴い失職),平成11年1月に再度同市長に就任し,平成14年7月に辞職するまで市長職にあった。
(2) 被告人の市長としての職務権限(本件職務権限)
 市長には,地方自治法上,当該普通地方公共団体(市)を統括し,これを代表する権限(同法147条)及び当該普通地方公共団体の事務を管理し及びこれを執行する権限(同法148条)が定められている。そして,その具体的な担当事務として,同法149条1号により普通地方公共団体の議会に対する議案の提出権,同条2号により予算の調製,執行権が,同条6号により財産の取得,管理及び処分権がそれぞれ定められ,さらに,同法153条1項により長の事務の委任が,同法154条の指揮監督権限がそれぞれ定められている。
 また,同法154条によりa1市c1公社(以下,「公社」という。)に対する先行取得の依頼権が,公有地の拡大の推進に関する法律18条2項により公社に対する予算・事業計画の承認権が,同法19条1項により公社に対する必要な業務命令権がそれぞれ定められ,これらの職務権限が被告人にあった。
(3) 市がj1跡地を購入するに至る経緯
ア e1の甲がj1を購入しようと考えるに至った経緯
 e1の代表取締役であった甲は,かねてからマンションを自社で建築分譲することを企図し,それに適した物件を探していたところ,平成11年末ころから平成12年初めころにかけて,k1不動産の屋号で不動産仲介業を営んでいたC1から,l1株式会社が所有していたj1(後に建物は取り壊されるが,ここにおいては敷地及びj1建物を指す。以下,取り壊しの前後を問わず「j1跡地」ということがある。)が売りに出されていることを聞いた。そこで,e1では,同年1月から同年2月ころにかけて,j1跡地に分譲マンションの建設を計画し,l1からj1を購入する交渉をしていた。
 e1としては,j1跡地への分譲マンション建設を総額約10億円規模の事業とみており,当面の資金として約7億円の資金を準備すれば足りると考えた。そして,e1の自己資金として1億5000万円,甲自身から5200万円,共同出資者となるD1から2億円がその資金として見込まれたため,金融機関からさらに3億円の融資を受けることとし,同年3月ころ,m1銀行に対して分譲マンション建設事業への融資を申し入れたところ,o1協会の保証付融資であれば検討するとの回答を受けたことから,同銀行に対し,融資を申し入れてその資金を賄うこととなった。
イ E1a1市議会議員への協力依頼
 平成12年3月初めころ,甲は,j1付近の地元住民がj1跡地のマンション建設に反対しているという話を聞き,E1a1市議会議員(以下,「E1市議」という。)に対し,a1市において建築確認申請を通してもらえるように地元対策等を相談していた。
 同月22日,甲,E1市議,市長公室長F1,e1社員G1,不動産仲介業者H1の5人が,a1市内にある料亭「p1」に集まり,j1跡地のマンション建設に関する建築確認申請などの話をした。
ウ e1のj1購入資金
 甲は,他の金融機関に預金していた資金もm1銀行の預金口座に移すと共に,平成12年4月17日,D1から2億円を借り入れて,合計4億円をm1銀行の口座に預金したが,同年5月2日,甲は,D1から借り入れていた2億円をm1銀行の口座から引き出し,D1に返還した。
 また,同月10日ころ,甲は合計2億7000万円の融資をm1銀行に申し込み,同年6月20日に融資の決定を受けた。
エ 被告人が市でj1跡地を購入しようとした経緯
 平成12年3月15日,もともとa1市役所に被告人を訪ねる予定となっていたq1自治会長I1は,j1跡地にマンションが建設されると聞きつけたことから,予定どおり被告人を訪ねた際,被告人にその旨伝えたところ,被告人からk1の自治会だけでも反対して欲しいと言われた。そこで,I1は,r1地区連合自治会長J1に相談し,同月22日付けでこれに沿う陳情書を作成し,同月27日,a1市役所において,その陳情書を被告人に手渡した。
 j1を市で購入しようとする被告人の意向は同年5月10日付けの新聞に掲載された。
オ e1とl1との売買契約が成立した事実及びその後の経緯
 平成12年5月19日,甲は,e1がl1からj1を3億8000万円で購入する旨の売買契約を同社との間で締結し,後日,売買代金を300万円上積みして3億8300万円とし,その決済日を同年6月20日を取り決めた。
 同年6月14日ころ,被告人は,E1市議からj1跡地にe1のマンションが建設されると聞いたため,翌15日,l1のK1社長を訪ね,同人に対し,e1にはj1の購入代金を払えるはずがない旨の話をし向けてe1とl1との売買を妨害しようとした。
 甲は,K1から,被告人がl1に来たことを伝えられると共に決済資金の有無を詰問されたため,l1とのj1に関する契約内容について,E1市議を信頼して話していたにもかかわらず,E1市議が被告人と意思疎通ができていないのではないかなどと不信感を抱き,E1市議に苦情を言って同人と決別した。
カ 被告人と甲との平成12年6月21日の面談に至る経緯と面談状況
 甲は,a1市によるj1の購入に関して,E1市議を頼るのを止め,L1a1市議会議員(以下,「L1市議」という。)の力添えを得ようと考え,電話でその旨依頼するなどしていたところ,平成12年6月20日,L1市議から,その前日である同月19日,市議会において,被告人が(M1市議会議員に依頼してj1についての市の対応を質問してもらい,それに対して)市でj1の買収をすることは困難である旨の答弁をしたという連絡を受けた。
 甲は,同月20日,j1について代金の決済をし,l1からe1への所有権移転登記を受けた。
 同日,被告人は甲がj1についての決済を終えたと聞き,E1市議を通じて甲と面談する約束を取り付け,同月21日,市長室において,E1市議を交えて甲と面談した。このとき,被告人は,甲に対し,j1を市に売って欲しいと申し入れ,甲がこれを承諾したことから話がまとまり,さらに,被告人は,甲に対し,j1の購入について,早速平成12年6月議会で議案提出することを約束した。
キ 市が事業用地を買収する際の手続
 被告人は,甲と直接交渉してj1を購入する約束をした平成12年6月21日夜,市の関連部局の幹部職員を招集して資料を作成させる一方,公社による土地の取得は更地でなければならないことから甲側においてj1建物を解体してもらい,その費用として1000万円を代金に上乗せする旨の電話で直接甲に話すなどして手続を進め,翌22日早朝から政策調整会議や公社の理事会を開催させ,同日,市議会への議案を提出させた。なお,j1跡地の市による買収代金は最終的には4億9000万円となった。
 上記議案は,同年6月27日,総務委員会で可決され,同年7月4日,市議会本会議で可決された。
ク 公社とe1との間の代金決済
 平成12年8月22日,公社とe1との間でj1跡地についての売買契約が締結され,同日公社から手付金5000万円が支払われた上,同年11月6日,残代金4億4000万円の決済が行われ,公社がj1跡地の所有権を取得した。
ケ その他の客観的ないし争いのない事実関係
(ア) 平成12年7月31日,被告人は,紀淡連絡道路建設促進大会に出席するため,東京に出張しており,市役所には不在であった。
 同年8月3日午前10時21分,G1は(携帯電話で)市役所に電話をかけた。
 同年9月1日,e1のa1市における能力審査(以下,「能審」ということがある。)がワンランク上がり,特Aとなった。
(イ) 手帳等の客観的記載状況
 平成12年当時,G1が使用していた手帳には,平成12年7月31日欄に「j1の現状 N1氏へTEL」との,同年8月3日欄に「10:35 市4FO1様」「9:00 P1邸ドアノブ」などとの記載がある。
 a1市審議監室のQ1審議監が仕事の関係でその都度記載していたノートには,
4/5 市政提言委員会
市長 r1陳情
j1,持主(l1)こわす
q1自治会長,I1さん-r1連合自治会長へ話し市で買って,中を改造して欲しい
値段的な問題,相談することになっている
500坪で3億円ぐらい
値段相談させてもらう
5/10 (水) 市政提言委員会
市長 r1連合自治会
j1 マンション建てる 水面下で値段交渉している
6/21
法人の事業計画の追加とする
鑑定149,494-/㎡
480,000千円÷3210.83㎡(971.27坪)
坪494,198円
との記載がある。
 被告人は,後の選挙に利用するため,当時秘書官であったO1に指示して,面会をした者の中から必要な人物や団体をピックアップして,面会した日と共にパソコンに入力させて名簿を作成していたが,その名簿によれば,甲が平成12年6月21日及び同年8月3日に面会した旨の記載はない。
3 甲の捜査段階の供述の任意性とその内容の信用性
(1) 甲の捜査段階の供述内容
ア 現金供与を決意するまで
 平成11年末か平成12年初めころ,l1がj1を売りに出していると聞いたことから,e1では,平成12年1月か2月ころ,j1跡地に分譲マンションを建設する計画を立て,当時の所有者であったl1からj1を購入する交渉をしていた。また,同年2月か3月ころには,分譲マンションの図面をs1に依頼したり,G1に収支計算書や事業計画案を作成させるなどして分譲マンション建設に向けて着々と準備を進めていた。
 ところが,同年3月初めころ,j1付近の地元住民が,j1跡地のマンション建設に反対しているという話を聞き,E1市議に対し,地元が反対してもa1市が建築確認申請を許可するように協力して欲しい旨相談していた。当初,E1市議からは要件さえ整えば被告人が判を押す旨聞いていたものの,その後,a1市がj1の土地を買い上げる意向があるから会おうとE1市議から持ちかけられ,同年3月22日,F1,G1,H1を交えてE1市議と「p1」で会った際には,F1から,地元でマンション建設の反対がある以上,被告人は要件が整っていても建築確認申請を受け付けないなどと聞かされた。F1からa1市がj1を買いたいとの話も出なかったので,後にE1市議に電話して確認すると,やはりa1市が買うとの説明を受けた。
 私は,この時点ではマンション建設を諦めてはいなかったものの,E1市議と話を繰り返すうち,j1跡地へのマンション建設によって3億円くらいの利益が見込めることや近隣の取引事例との対比からj1をa1市に売るなら6億から6億5000万円程度になるなどと伝えていたし,E1市議からも,高く買ってもらえるように被告人に口添えしてくれるなどと言ってくれたり,被告人が建築確認申請を受け付けないと聞かされていたこともあって,わざわざ市とけんかしてまでマンションを建設するよりもj1をa1市に売ろうと思うようになった。そして,同年4月ころには,当初,l1からのj1購入予定金額を3億5000万円程度と見ていたが,その金額で購入することが難しくなって,資金繰りが困難となったことから,マンション建設を中止してj1を市に売却しようと考えた。D1から借りていた2億円は,その借用書に年利2割と記載されていたことから,その金利負担を減らすため,同年5月2日に引き出して返済した。同月の連休明けころから同月10日ころまでの間,E1市議が2人で話をしたいと言ってきたため,a1市t1の友人のマンションで会ったが,その際,「市長から一任されてきた」「a1市は4億6000万から8000万,高くても5億くらいでj1を購入するつもりである」と具体的な金額の提示を受けた。
 ところが,未だl1がj1を所有していた同月10日,a1市がj1を購入する意向であるとの内容の新聞報道がなされたことから,私は,a1市がl1から直接購入するのではないかと考え,E1市議が本当に被告人から一任されているのか疑問に感じた。そこで,E1市議に電話で相談すると,E1市議は「市長(被告人)には,市長(被告人)の考えがある」「市長(被告人)に会ってみるか」と言われたため,E1市議を信じることにした。
 しかし,l1とのj1の売買代金の決済日である同年6月20日の数日前になって,l1の社長K1から呼び出され,「市長(被告人)は,e1はj1をよう買わんのと違うか。ローンの融資もあかんのと違うかと言っていた。おまえ市会議員に相談してるやろ。」などと言って怒られた。私は,E1市議を信じてe1とl1との間の契約内容を話したのに,E1市議と被告人との間で意思疎通がなされていないのではないかとE1市議に対して不信感を持ったため,E1市議を呼び出し苦情を言って同人と決別した。
 私は,l1とのj1についての売買代金の決済を数日後に控え,E1市議の言葉を信じてマンション建設計画を中止していたことから,このままa1市が買い取ってくれなければどうしてよいか分からない状態に陥っていた。そこで,以前から懇意にしてもらっているL1市議に電話をかけてそれまでの経緯やE1市議とのやり取りを説明した上,「市がj1買うていうから,それまで計画していたマンション建設を諦めたのに,今さら市が買えへんと言われても困るんですわ」「市長(被告人)の考えがわからないんで,先生(L1市議)からいっぺん確認してもらえませんか」「ここまできちゃあるから,このままa1市で買ってもらいたいんで,先生(L1市議)何とか動いてもらえませんか」と言ってお願いした。
 ところが,同月20日,L1市議から電話があり,「市長(被告人)が,議会で,j1を市が買い上げることは難しいと答弁したで」「a1市は,j1を買わないんとちゃうか」と言われた。このとき,今さら買わないと言われてもどうしようもなく,e1は窮地に立たされたと思った。もともとF1から,j1跡地に分譲マンションを建設しようとしても被告人が建築確認申請を受け付けないと言われており,裁判をして勝っても今後a1市で建設業者をやっていく以上,市長とけんかをしても得策ではない上に,2億7000万円も借金してからマンション建設計画を一から始めると数か月間は何もしないまま金利だけを負担しなければならず,大きな赤字を出してしまうことは目に見えていた。そこで,L1市議に対し,「このままでは借金の返済に追われるわ,次のマンションの資金繰りの目途も立たんわで,どうしようもないんです」「何とか,市長(被告人)にお願いして,僕とこ助けてもらえませんか」「もし,a1市が買ってくれないんなら,E1さん(E1市議)としてきた話を,何もかもぶちまけたろかと思てます」などと言い,予定どおりにa1市がj1を買って欲しいと頼み込んだ。
 同月21日,E1市議から被告人が会いたがっているとの連絡を受けたが,E1市議と決別した後で,被告人と会うのもしゃくであったからほうっておいたものの,被告人がe1まで来るとの話を聞き,そこまで言うのならと私が市長室まで行った。同日午後3時から4時ころに市長室に行くと,被告人とE1市議がおり,被告人からr1の再開発の話をしてきたので,私のマンション建設計画とその利益について話をし,被告人がl1へj1を買いに行ったことについて,被告人は否定していたものの文句を言い,さらに,私の祖父がj1の最初の所有者であったことや私のr1に対する思いなどを話すと,被告人から,「社長とこのj1を,4億8000万円でa1市に売ってくれませんか」という言葉が出てきた。私は,まさか初めて会った被告人が,私が喉から手が出るほど待ち望んでいたその言葉を言ってくれるとは思っておらず,びっくりして聞き違いではないかと思うほどうれしく,e1の倒産を救ってくれたという感謝の気持ちでいっぱいになった。しかも,4億8000万円なら利益が十分に出ることから,非常にありがたいという気持ちになった。そして,私は,「市長(被告人)がそれで顔が立つんであれば,何も文句は言いません」「市長(被告人)の思うようにして下さい」「ただ,j1という名前を残してもらえませんか」と言った。そして,いつごろ買ってもらえるか質問したところ,被告人は,「あとは議会を通らんとあかん」「明日議会にかけます」と言って,横にいたE1市議に対して,「議会のことは頼みます」と言っていた。私は,a1市が買うのが遅くなれば金利の負担が必要となることから,「できるだけ,早くお願いします」とお願いすると,被告人が,私の方を向いてニヤッと笑いながら,「1億円のもうけで勘弁してください」と言った。
 その日,L1市議に電話をかけて,a1市がj1跡地を4億8000万円で購入してくれることになったと報告し,お礼を言ったところ,L1市議から,「僕なりにやらしてもろたんやけど,社長の役に立てて良かった」と言われ,L1市議が被告人に働き掛けてくれたものと確信した。そして,L1市議に対しても,「市長(被告人)が,議会通らんとあかんと言うてましたんで,先生,議会の方もよろしくお願いします」と言って頼み込んだ。
 同月22日,被告人から電話があったということで,被告人に電話をかけ直すと,被告人から,「j1の土地は更地で買いたいので,解体をe1でして欲しい」「1000万円上積みして,4億9000万円でいいか」と言われた。私は,a1市が買ってくれなければ赤字になっていたし,解体費用の見積もりも大体700万から800万円くらいであることから,1000万円上積みしてもらえばさらに利益が出ると思い,喜んで引き受けた。
 私は,民間会社と契約した場合にはバックリベートを渡すこともそんなに珍しいことではなかったこともあり,被告人に対し,1000万円の上積みの話を受けたときから200万から300万円のお礼をしなければならないと思っていた。しかし,どのようにすればよいかわからなかったので,同月23日ころ,L1市議に電話をかけて,a1市がj1を買ってくれることになったという報告とそのお礼を言い,被告人に対するお礼についても相談した。このときは,L1市議から,議会中であるから議会が終わってからでよいのではないかと言われ,さらに,議会が終わったら相談に乗らせてもらうと言われた。その後,j1の解体工事を始めた同年7月中旬ころ,L1市議に被告人に対するお礼の相談した際には,L1市議から,「市長(被告人)の喜ぶもんしたらええんと違うか。」「でも,解体終わってからでええんと違うか」「それまでに考えとくわ」と言われた。
イ 賄賂の原資と準備
 平成12年2月ころ,e1がリースで借りていたu1のリース期限が満了し,私の個人の預金からリースの残価136万円くらいをv1に支払って,リース会社からu1を買い取った。そして,そのu1をe1の従業員であるR1に売ることにしたが,R1が一括で支払うことができなかったため,いったんe1から中古車販売会社のw1に売却したのをR1が購入する形で信販会社のx1で200万円のローンを組むことにした。そこで,同年3月初めころ,w1がx1から受け取った200万円から手数料などを差し引いた百数十万円を現金で受け取り,e1の社長室においてある金庫の中に入れた。u1のリース代の残価136万円くらいを私の個人のお金で支払っていたことから,そのお金も私の個人的な現金だと思っており,数十万円の端数は小遣いとして使ってしまったが,帯のついた100万円はそのまま金庫に入れたままにしておいた。
 また,同年5月30日,同年6月1日から同月3日にかけてe1の業者会の旅行で韓国の釜山のカジノに行く際の賭金に使うため,m1銀行n1支店の私名義の個人口座から200万円を引き出した。カジノで儲けたことから帰国時にも100万円の束が2つあり,帰国後,妻に100万円を渡し,残りの100万円はセカンドバッグに入れて持ち歩いていた。その後,同月21日から翌22日にかけて,被告人が,a1市においてe1から4億8000万円でj1を購入する旨及びその解体費として1000万円を上乗せするとの約束をしてくれたことから,被告人に200万円から300万円のお礼をしようと考え,韓国から帰国後すぐに妻に渡していた100万円を妻に頼んで返してもらい,前述の持ち歩いていた100万円と併せて合計200万円を1つの封筒に入れてセカンドバッグに入れて持ち歩いていた。
 同年7月30日か31日ころ,社長室の金庫に入れていたu1の代金残額100万円を金庫から取り出し,銀行の袋からe1の袋に入れ替え,さらに,セカンドバッグの中に従前から入れていた現金200万円を入れた封筒もセカンドバッグの中でぼろぼろになっていたので,これもきれいな封筒に入れ直し,同月31日,a1市役所の3階応接室でL1市議にお礼として合計300万円の現金をセカンドバッグに入れて持って行った。
 同日,G1の目の前でセカンドバッグから100万円を入れた方の封筒を取り出してL1市議に渡そうとしているが,結局,L1市議には受け取ってもらえず,そのままセカンドバッグに入れて持ち帰り,それ以後,100万円を入れた封筒と200万円を入れた封筒の2つの封筒をセカンドバッグに入れて持ち歩いていた。そして,被告人と会う同年8月3日の前日,e1の事務所での業者会の役員会の前,G1が販促委員会をやっている午後6時半ころ,私は,その委員会には出席せず,社長室において,一人でセカンドバッグに入れていた100万円と200万円の入った2つの封筒をA4サイズの大きな封筒に並べて入れ,さらに,S1に持ってこさせた背の低い,まんじゅうを買った時にもらうような手で持つためのひもの付いた紙袋に入れ,紙袋ごと社長室においてある金庫の中に入れておいた。e1で使っているA4版の封筒に300万円を入れることができるものの,300万円を1つの封筒に入れるとパンパンになって入れにくい上,分けて1つの封筒に入れた方が外から書類の様に見えて中身が現金であると気付かれなくてよいと考え,200万円と100万円とに分けて2つの封筒に入れた。
ウ 被告人との面会約束の取り付け
 私は,被告人に現金300万円を渡す数日前の平成12年7月31日,L1市議に渡すための現金入り封筒を持って,G1と共に,市役所3階の応接室でL1市議に会った。その日付については,被告人に現金を渡した日の数日前との記憶しかなかったものの,捜査官から,G1が手帳を見ながら日付を特定したということを聞いて私もそのころに間違いないと思う。
 応接室では,応接セットの椅子に私とG1が並んで座り,テーブルを挟んで向かいにL1市議が座った。私は,L1市議に対して,「先生,今回はえらいお世話になりました」「これお礼です」と言って,私の右側に置いたセカンドバッグのチャックを開けて,用意していた現金100万円の入っていた封筒の方を右手で取り出して渡そうとしたところ,L1市議は,どちらかの手を前に伸ばし,掌を広げて私に見せるようにしながら,「そんなん,僕受けとれやんよ」「今回,一番がんばってくれたのは市長(被告人)やさかい」と言って断られた。
 私は,L1市議が封筒の中身が現金であると気付いて断ってきたことが分かり,その場はセカンドバッグの中に封筒を戻したが,L1市議に対して,「先生にもえらい世話になったし,お礼はしようと思う」と言ったところ,L1市議は,椅子に深く座り直してから,「がんばってくれたんは市長(被告人)やから,お礼を渡すんやったら市長(被告人)に対してやろ」と言われ,私が頼む前に,L1市議から,「今から聞いてみてやる」と言って,その部屋に置いてあった電話機でどこかへ電話をかけ,市長の予定を聞いてくれた。当日は被告人は不在だと言うことで,L1市議に被告人のスケジュールの空いている日を確認してもらい,その日時や秘書の名前をG1に指示して手帳に書き留めさせた。G1の手帳に記載のあった「平成12年8月3日午前10時35分」というのが,私が被告人に現金300万円を渡すために市長室に行った日時に間違いない。
エ 平成12年8月3日
 平成12年8月3日,私は,G1に車で迎えに来てもらうことにし,会社の金庫に入れていた現金300万円をG1に持ってきてもらった。
 G1には,会社の金庫を開けることのできるS1(常務)から紙袋を受け取って来るように指示をしており,S1にも,朝,G1に金庫の中の紙袋を渡すよう頼んでおいたため,G1が私を迎えに来たとき,車の助手席に私が金庫に入れておいたまんじゅう屋でもらうような紙袋に入った現金300万円の入ったA4版の封筒があった。G1らにはその中身の説明はしていなかった。
 市役所へ向かい,待ち合わせの市役所4階市長室まで行くと,エレベーターホールのところで待ってくれていたL1市議が市長室の方へ入って秘書の人を呼んでくれ,その案内で私とL1市議は突き当たりを曲がって,市長室の中に入った。このとき,G1には「待っとけ」と言って市長室の外で待たせていた。
 市長室の中では,長い会議用のテーブルの一方の端に被告人が座り,被告人から見て左側にL1市議,右側に私が座った。私は,被告人に対し,「j1の土地を買っていただきありがとうございました」「解体工事も無事終わりました」などとお礼とその報告をしたところ,被告人から,j1の土地に公共の建物を建てるという話があった。会話の流れは忘れたが,a1市の指名業者に登録するための能力審査について被告人と話をしており,「うちの会社,能審の点数800点あるんやけど,ランクが特Aでないのはおかしいと思うんよ」「一回検討してもらえんやろか」と言うと,被告人は,目の前で市長室の電話を使ってどこかに電話をしてくれ,e1のランクを聞いてくれ,はっきりとは覚えていないものの,「800点ありますよ」と言われた気がする。また,私は,e1をj1跡地への建物建設の際の入札の指名業者に入れてもらいたいと思い被告人にその旨頼んでみたものの,この点は被告人に断られた。ただ,L1市議が,被告人に「e1はこれから伸びていくんで,また,応援しちゃってよ」と言ってくれて,非常に有難いと思った。
 市長室で5分か10分くらい話をして席を立ったが,その際,それまで足元に置いていた用意していた現金300万円の入った紙袋を机の上に置き,頭を下げながら,a1市でe1からj1跡地を4億9000万円で買ってくれたことに対するお礼と今後もa1市で建設業をやっていく以上,a1市長にはいろいろお世話にならなければならないこともあるので,今後もよろしくという意味で,被告人に対し,「これ僕の気持ちです」と言いながら,両手を現金300万円の入った紙袋に添えて,少し被告人の方に紙袋を押すような形で差し出した。e1は被告人と関係があるわけでもなく,私が被告人と会ったのは,同年2月ころに名刺交換をした際を除いては,同年6月21日が初めてだったので,これら以外に被告人に現金300万円を渡す理由などなかった。このとき,G1から受け取った時に入っていた紙袋のまま渡したのか,A4版の封筒だけを紙袋から取り出して渡したのか記憶がはっきりしないが,現金300万円入りの封筒を被告人に渡したことは間違いない。すると,被告人は,「どうもありがとうございます」と言って,現金300万円を受け取ってくれた。
 私は,L1市議に差し出して断られたときのように,被告人に現金300万円を差し出して断られたらどうしようという気持ちもあったが,被告人はあっさりと受け取ってくれたので,拍子抜けした気持ちになった。私は,被告人が受け取ってくれるか心配で,そちらの方ばかりを見ていたので,被告人に現金を渡した際,L1市議が何をしていたかは見ていない。
 私とL1市議は市長室を出ると,市長室のカウンターの辺りで別れた。G1が市長室のカウンターの辺りまで向かえに来てくれており,G1が運転する車で自宅まで送ってもらった。
オ 平成12年8月3日以降
 平成12年8月3日から数日が経過した後,電話で,L1市議から,「社長,すいませんでした」「市長(被告人)も喜んでたよ」「また何かあったら,いつでも言うてきてよ」と言われた。
 その後,日付は覚えていないが,o1協会の件や右翼の件で被告人の下に直接話をしに行ったことがある。
 o1協会の件では,e1がo1協会の信用保証を付けてもらってm1銀行から2億7000万円を借りた際,その資金で購入した土地に分譲マンションを建設すると説明していたにもかかわらず,土地を購入するやすぐにa1市に転売したことで,協会から一括返済を請求された上,a1市c1公社から契約時に抵当権を抹消してもらわなければならないと要求されて,o1協会ともめたことから,e1が今後o1協会とつきあう中で悪く思われていると困ると思い,被告人に対し,電話の1本でも入れて,経緯を説明して欲しいと頼んだ。このとき,被告人は「電話入れときます」と快く返事をしてくれたが,市長である被告人に対してo1協会に電話を入れて欲しいなどと頼むことは非常に勇気のいる話であり,私としては,さきに現金を渡していたことから頼みやすかった。
 右翼の件では,e1の周辺に右翼が街宣してきて,e1が1億8000万円くらいで購入したj1をa1市に4億9000万円で売ったなどという事実無根の抗議をしてため,被告人に対して,e1の買値などを含むa1市とe1との交渉経緯等を全て公開し,右翼の事実無根の抗議がなくなるようにして欲しいと頼みに行った。このときは,被告人から,非常に申し訳なさそうな言い方で,「交渉の経緯を公表することはできません,a1市にも右翼が来ているし,市も困っています,噂だけのことだから,ここは辛抱しといてほしい」と言われ,頼みを聞き入れてはもらえなかったが,被告人の話にも一理あると思い,それ以上は何も言わなかった。
(2) 甲の捜査段階の供述の任意性の検討
 甲の捜査段階における供述内容は,概ね,上記のとおりであるが,甲は,公判廷において,後記のとおり,上記の捜査段階の供述内容を翻し,上記の捜査段階の供述内容については,以下のとおり,自己の意思に反して供述調書が作成されたものであると供述し,弁護人らにおいてもこの甲の公判供述を前提に,上記の捜査段階の供述の証拠能力を争っているので,以下,この点につき検討する。
ア 取調状況についての甲の供述内容
 当初,国土利用計画法(以下,「国土法」という。)違反で逮捕されたが,その時から贈賄の調べがされており,連日遅くまで,ときには日付が変わり翌日の午前1時ころまで取調べがなされ,総じて捜査官にその意に沿うように調書の内容を押しつけられた。取調べの最中,担当のT1刑事,U1刑事から,自分が疲れてきた時などに,態度が悪いということで背筋を伸ばせ,下を向くな,わしの目を見よなどと言われたし,(私の)会社を潰すとか,専務やS1を逮捕するとか,妻を逮捕するなどと他の警察官からも言われた。机を叩かれることもあったし,キャップ様のものをぶつけられたこともあった。最後の方では,V1刑事に私が座っている椅子を蹴られた。
 y1銀行に対する詐欺についてはずっと否認していたが,調書(平成14年11月15日付け自白調書)に押印しているので,人から見たら認めているように見えるかも知れない。U1刑事に調書の訂正を求めたことがあるが,いまさら訂正はできないと言われ,もう何を言ってもだめだという気持ちになり,最後には何もかも全部調書に署名捺印(指印)した。G1が逮捕された後,G1が自供し,W1氏も認めていると聞き,誰にも迷惑はかけないから「もうええか」ていうような気持ちもあった。U1刑事だと思うが,認めれば早く出れるし,3月になればゴルフができるなどとも言われた。
 G1が逮捕(同月16日)され,同月20日ころから,V1刑事が加わり3人から取調べを受けG1が自供したからお前もしゃべろと言われた。調べがきつくなり,贈賄を認めれば次の逮捕は抑えてやると言われた。このころは,分譲マンションの引渡を控えe1の業務においても重要な時期であった。同月26日に贈賄を認める警察官調書ができているが,これは警察官から,G1が認めているからもうあがいてもあかんとか,ここで認めればG1を出してやるなどと言われたり,これ以上逮捕はしないと言われたため,ここで認めればS1ら社員の逮捕がなくなりG1も出せると思い調書に判を押した。
 m1銀行とo1協会に対する詐欺により勾留されている期間中,詐欺については4日程度しか事情を聞かれず,もっぱら被告人に対する贈賄の調べがなされた。このときもT1刑事,U1刑事が調べを担当しており,その調べの中で,「警察を敵に回すのか」,「とことんやっちゃろやないか」,「何年かかってもやったろやないか」,「何年かかかってでもお前はぱくり通してやる」,「z1(警察)の方で6回ほどぱくった」などと例を挙げて言われた。V1刑事からは,白紙の調書に判を押せと言われ,指印する方の手を持って,白紙の調書に判を押すように迫られたが,結局押さなかった。このとき,V1刑事に椅子を蹴られた気がする。このころ,V1刑事かX1刑事から,L1市議や被告人をかばって否認を続けるのは,妻や子どもを女郎屋へ売るのと同じだと言われた。T1刑事は,被告人のことを「あんな悪いやつはいない」,「二度と政治の世界に入れたらあかん」などと言っていた。別件でなんぼでも逮捕したると言われていた。
 同年12月22日,自白調書ができているが,G1を出してやれと刑事から言われ,また,このころ,刑事の方から妻やS1らをぱくるというようなことを言われ,認めないとS1らも逮捕されるのではないかと思い,自白調書に判を押した。
 同月23日には,北検察官に対しては否認していた。その日の調べは,日付が跨り翌日の午前零時58分(留置人出入簿の記載)まで調べがあった。
 同月25日ころ,できた調書と白紙を机の上に置いて,どちらかに指印を押せといわれた。こういうことが2,3回あった。
 平成15年1月6日,贈賄による逮捕時の弁解録取において,贈賄を認める内容の調書が作成されているが,このときも贈賄は否定しており,弁護士を呼ぶために調書にサインすると思っていた。
 同月24日付けで手書きの私名義の上申書が作成されており,自白した内容となっているが,これはU1刑事から書けと言われたため,一度は拒んだものの,言われるままに記載して指印した。
イ 甲の公判供述における捜査状況についての供述内容の信用性
 しかしながら,贈賄の事実を認めた甲の捜査段階の供述は,前述したとおり極めて詳細かつ具体的であるばかりか,全ての記載が甲の自筆による贈賄を認める内容の上申書も作成されているのであって,これらの事情自体が任意に供述されたものであることを推認させる上,これらの供述がなされた時点において既に甲にはY1弁護士が弁護人として選任されており,当時,甲は,勾留理由開示の際には裁判官の面前で自ら意見を述べるなどしており,同弁護士と何度も接見を重ねて打ち合わせを行っていたことに加え,甲に対する取調べにおいて,捜査官が,G1ら関係者の身柄拘束等を引き合いに出したり,関係者の身柄拘束と贈賄を認める供述調書の作成との二者択一を迫るなどして,甲に無理やり贈賄の事実を認めさせる供述調書の作成を繰り返していたということ自体,あまりに露骨すぎる脅迫的取調べ手法であって,にわかに信じ難い内容であるばかりか,甲の捜査段階の供述調書にはそのような手法によっては到底引き出し得ない甲の具体的な言動や心情等についても詳細に記載されており,平成15年1月6日の弁解録取書作成に関する甲の供述はそれ自体不自然不合理でその記載内容とも全く符合しない上,仮に,捜査官によってそのような明らかに不適切な取調べがなされたのであれば,既に被疑者段階から甲及びG1の共通の弁護人として選任されていたY1弁護士にその旨相談した上,捜査官に対して強く抗議をしてもらうなどの対応がとられて然るべきであるのに,そのような措置が講じられた形跡も見当たらないから,甲の当公判廷における捜査官調書の作成経緯等に関する供述の信用性は低いというべきである。
ウ 甲の取調捜査官の公判における証言内容
(ア) V1刑事の甲の取調状況についての証言内容
 私は,甲の捜査に関与していたが,甲の一連の事件は,関係者も多く複雑である上,事件自体が過去の話であったことから,各関係者に記憶違いや忘却が生じていたため,記憶喚起や各関係者の供述内容のすりあわせや,確認が必要であり,捜査に時間を要し,長時間にわたる取調べとなり,厳しく追及することもあったし,大きな声を出すこともあった。しかし,取調べ時間については配慮しており,甲の体調を気遣ったり,前日の取調べが遅くまでかかっているとその翌日は遅くから取調べを始めるなどしていた。
 それぞれの身柄拘束にかかる被疑事実の取調べを中心にしており,国土法違反の事件のときには,T1,U1両警察官にお金のことを聞かないように指示して贈賄の取調べにならないようにした。中抜き詐欺及び融資詐欺の事件については,犯行による金銭の流れや市によるj1跡地購入経緯等を解明するため,贈賄についての話に及んでも仕方がないと判断していたが,その際にも贈賄の取調べに大部分を当てたことはない。
 甲は,当初は(被告人に)お金を持って行ったことはないと供述していたが,平成14年11月25日から引き続いて翌26日も取り調べると,お金を持って行ったことを否定しなくなったことから,切っ掛けが欲しいのかと思い「封筒を持って行ったことはないか」と水を向けると,「今,思い出した」というような態度で,封筒にお金を入れて持って行ったと認める供述を始めた。このときは,G1の供述内容に出てきたL1市議についての話が出てこなかった。3日くらいして,甲は,Y1弁護士と接見した後,封筒の中身は後援会入会申込書であると供述するようになった。同年12月1日には,甲のある程度詳しい自白調書が作成できたが,贈賄額の点で,G1がいう500万円とは食い違う300万円との供述内容であり,その原資も裏付けが取れていなかった。
 同月23日,朝から検察庁で検事による取調べがなされており,夕方,z1署で夕食を済ませ,Y1弁護士が接見した後に,北検察官が取調べと調書の作成の続きをしようとすると,甲は否認し始めた。
 同月26日,甲の妻の社会保険の不正受給について捜査をしていた点について,Y1弁護士から抗議を受けたが,犯罪があれば捜査をすると答えた。このとき,(Y1弁護士から,)G1が自分は正直に話しているにもかかわらず,甲が自分と違うことを言っているのが非常に辛いと言っていたと聞き,Y1弁護士に対して贈賄事件についての考えを尋ねると,Y1弁護士は,G1は封筒の中身を見たわけではないので甲の話を信用していると言っていた。
 平成15年1月11日の取調べでは,甲が髪の毛をスポーツ刈りのように短く切っており,お金を持って行ったとの簡単な内容の調書を作成したが,そのとき,甲は,署名はするものの,指印は躊躇しており,間違いがなければ指印をするように説得すると,根性が要ると言いながら1時間程度かけて指印を押した。
 贈賄を認めないと何回も逮捕するとか,Z1,S1らを逮捕するなどとは言っていないし,会社を潰すなどとも言っていない。既にG1は逮捕している以上,贈賄を認めたらG1を逮捕しないなどとは言うはずがない。
(イ) 検察官北英知の証言内容
 警察段階では,平成14年11月26日くらいから甲の贈賄事件についての取調べをしていた。私が甲を取り調べたのは同年12月初めころからである。G1が500万円を渡したとの内容の供述をしていたのに対し,甲は300万円を渡したと供述するだけなので,500万円という供述が出るまで甲を取り調べるつもりでおり,甲から調書は取っていない。
 同月23日に初めて甲の贈賄の取調べをしたが,このときは,300万円としか甲が供述しないので仕方がないと思っていた。甲は,G1が話していない被告人とのやり取りなどについても具体的に供述していたことから,甲が言う300万円を渡したという話は本当かなと思うようになった。贈賄の事実を認めているときの甲の態度は,堂々と私の目を見ながら,責任はちゃんととるといった態度であった。朝から検察庁に呼び出して取り調べていたが,同日午後3時ころ,調書を作成することとなり,その間,z1警察署に戻って御飯を済ませることとなった。z1警察署ではY1弁護士が甲に接見するというので,その接見が終わった後,同日午後8時半(記録上は午後8時23分ころ)から取調べを再開したが,甲は,いきなりお金を渡していない,後援会の入会申込書を渡したと言ってそれまでの供述を翻した。昼までの聞き取りに基づいて作成した調書の原稿を読み聞かせ,間違っている所があるかと尋ねると,それはないと言っていたが,調書への署名は拒否した。同月23日の数日前の新聞に,警察が被告人への贈賄事件の捜査をしているとの内容の記事が掲載され,それについて被告人がそういうことを言うやつがいれば損害賠償を請求するとか,名誉毀損で訴えるといった内容の新聞記事が掲載されていたことをY1弁護士との接見を通じて甲が知ったことからこれに影響を受けたことが後になって分かった。また,被告人は,市長を務めていたことから土建屋に影響力も強く,その一方で,一般市民に対しては,新聞等にも書かれていたとおり真っ黒な男だというようなイメージもあり,そのような人に金を渡したとなれば,a1市民からも他の業者からも悪く見られることにつながるなど,e1の将来についていいことは全然ないというのが甲の否認の理由であった。
 その後,同年12月末,警察から,甲が(贈賄を)再度認めたという連絡があり,同月28日に取調べを行った。このときは,被告人が記者会見において,j1跡地の土地の購入については,甲が7億円をふっかっけてきたのを値切ったと話していたことから,甲もこれを知って憤り,本当のことを言うとして,同月初めころから供述しているとおり,被告人に300万円を渡したことを認める供述を再び始めた。
 平成15年1月8日,贈賄の事実で弁録(弁解録取)を取った時,甲は,お金は渡していないと供述したので,平成14年12月28日に認めたのは何やったのかと追及し,何か違う点があるかと確認すると,甲はそんなことはないと言うので,このときは,年末にお話ししたとおり間違いないという内容で弁解録取を作成したはずである。このとき否認した理由は,後に聞いたところによると,L1市議に迷惑をかけたくなかったとの思いがあり,L1市議が逮捕されたら困るとして否認したようであった。なお,平成15年1月8日から11日の間にL1市議を逮捕している。
 同月11日,甲が警察で(贈賄を)認める旨の供述をしているが,このときは,G1が認めていることもY1弁護士を通じて知っていたから,しゃべらないと仕方がないのかなということで認める供述になった。
 同月22日,市役所において再現見分をしたが,甲は,数日前から否認をしていたものの,その再現見分の際に現場で見ていると,否認をしているはずの甲が再現を自分からしていたのでまた認めるのかなと思った。そして,その後呼んだ時は,きれいにもう認めると話をしており,調書もとったと思う。被告人の影響力があり,立場上,本当のことがしゃべれないのだろうと思った。
(ウ) V1刑事及び北検察官の証言内容の信用性
 上記のとおり,甲の取調べにあたったV1刑事,北検察官は,いずれも,本件事案に関する供述内容についてのみならず,甲が供述を翻し,あるいは供述を逡巡する理由等についても言及し,甲自身が贈賄を認める供述をすることによって他の関係者に与える影響を懸念している様子や取調べを受けた際の心情などを交え,供述調書が作成されるに至った経緯や弁護人との対応状況等の事実経過を具体的にかつ詳細に証言していることからすると,両名の証言内容にはそろって説得力が認められ,両者は相互に符合していて,甲の一連の供述調書の作成経過を矛盾なく合理的に説明できることにも照らすと,その信用性はいずれも高いというべきである。
エ 捜査官の公判証言の信用性は高く,甲の捜査段階の供述の任意性を疑わせる事情は存在しないこと
 甲は,捜査段階において,被告人へ300万円を渡したとして贈賄を認める供述とそれを否定する(後援会の入会申込書を渡したとする)内容との供述の変遷を繰り返しているが,上記のとおり,捜査官らは,時には厳しく追及することもあったなどと証言する一方,甲の取調べ時間は長くなっていたからその体調を気遣うなどしていたのはもちろん,白紙の調書に署名等を求めたことなどはないし,G1やS1らの身柄拘束を引き合いに出して供述を求めたこともないなど,甲が説明する自白調書の任意性を疑わせる事情をいずれも明確に否定している上,甲が贈賄容疑で逮捕された平成15年1月6日までは,甲の身柄拘束の基礎となっていた他の被疑事実を中心に取調べを進めていることからすると,別件逮捕とのそしりを受けるような事情も認められず,そのような段階で,捜査官が無理な取調べ手法を用いてまで甲から贈賄に関する自白を獲得しなければならないような切迫した事情があったとも考えられず,甲の前記説明はこれらの観点からも信用性が低く,反面,北検察官らが証言するとおり,本件捜査当時における,e1の将来やお世話になったL1市議らに対する思いなどから度々否認に転じたなどという供述が変遷したことについて首肯しうる具体的な理由が存するのであるから,甲の捜査段階の自白が任意に