hanrei @Wiki H17. 8. 9 甲府地方裁判所 平成16年(行ウ)第3号 損害賠償請求



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判示事項の要旨:
 原告らの次の主張,すなわち,「山梨県立日川高等学校の教職員が,同校の生徒に対し,「天皇(すめらみこと)の勅(みこと)もち勲(いさおし)立てむ時ぞ今」という一節を有する同校校歌を指導したことは,憲法及び教育基本法の教育理念に著しく反し,教育活動として違法であるから,校歌指導のために費やされた教職員の人件費及び学校運営費の支出は,違法な公金支出となるというべきところ,平成14年度においては,少なくとも全カリキュラムの0.18パーセントに相当する時間が本件校歌の指導に費やされたから,同年度における教職員の人件費及び学校運営費の0.18パーセントに相当する支出は,違法な公金支出となる。」との主張が,「原告らの主張は,特定の公務員に対する給与の支払の一部が違法な公金支出となるという主
張や特定の費目に支出された学校運営費が違法な公金支出となるという主張とは根本的に異なり,公金支出の原因ないし目的となった行為についても,また,公金支出行為自体についても,何ら特定されておらず,各行為が特定されていない以上,財務会計法規上の義務違反の有無を判断することすらできないのであるから,そもそも主張自体失当である。」などとして排斥された事例


          主    文
   1 原告らの請求をいずれも棄却する。
   2 訴訟費用は原告らの負担とする。
          事実及び理由
第1 申立て
1 原告ら
 被告は,A,B,C,D,E,F,G及びHに対し,金109万4715円及びこれに対する平成15年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。
2 被告
(1) 本案前の答弁
 原告らの請求のうち,
ア C,D,E,F,G及びHに対して金員を請求せよとの部分
イ Bに対して学校運営費にかかる金員を請求せよとの部分
ウ Aに対して教職員の人件費にかかる金員を請求せよとの部分
 はいずれも訴えを却下する。
(2) 本案の答弁
 原告らの請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は,山梨県民である原告らが,「山梨県立日川高等学校(以下「日川高校」という。)の教職員が,平成14年度の教育活動として,同校の生徒に対し,「天皇(すめらみこと)の勅(みこと)もち勲(いさおし)立てむ時ぞ今」という一節を有する同校校歌(全歌詞は,別紙1(省略)のとおりである。以下「本件校歌」という。)を指導したことは,憲法及び教育基本法の教育理念に著しく反し,教育活動として違法であるから,校歌指導のために費やされた教職員の人件費及び学校運営費の支出は,違法な公金支出となる。そして,平成14年度の日川高校においては,少なくとも全教育課程(カリキュラム)の0.18パーセントに相当する時間が本件校歌の指導のために費やされたから,平成14年度の教職員の人件費及び学校運営費の0.
18パーセントに相当する支出は,違法な公金支出となる。」などと主張して,山梨県知事である被告に対し,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,平成14年度当時の日川高校校長であったA,山梨県教育長であったB並びに同教育委員会委員であったC,D,E,F,G及びHに対して前記違法な公金支出相当額の損害の賠償を請求するよう求めている事案である。
2 争いのない事実
(1)ア 原告らは,本件訴えに先立つ住民監査請求(下記(3))が行われた平成15年10月30日よりも前から,山梨県内に住所を有していた。
イ 被告は,現在,山梨県知事の地位にある。
ウ Aは,平成14年度当時,日川高校校長の地位にあり,同校の平成14年度の一般会計費(以下「本件運営費」という。)として,合計9591万9921円を支出した。
エ Bは,平成14年度当時,山梨県教育長の地位にあり,日川高校の教職員に対し,平成14年度の給与及び職員手当(以下「本件人件費」という。)として,合計5億1225万5173円を支出した。
オ C,D,E,F,G及びHは,平成14年度当時,山梨県教育委員会委員の地位にあった。
(2) 本件校歌の歌詞は,別紙1(省略)のとおりであり,その3番には,「天皇(すめらみこと)の勅(みこと)もち勲(いさおし)立てむ時ぞ今」という一節がある(以下,この一節を「本件歌詞」という。)。
(3)ア 原告らは,平成15年10月30日,山梨県監査委員に対し,日川高校の教職員が,同校の生徒に対し,憲法及び国会決議で排除・失効が確認されている教育勅語を「天皇の勅」として謳いこんでいる校歌を指導したり,歌わせたりすることは,憲法に基づく公教育,公立高校における教育活動として違法・不当であるから,そのための学校運営費及び人件費の支出は,違法・不当な公金支出となる旨主張して,日川高校校長,山梨県教育委員長,同教育委員会委員及び山梨県知事の責任を明らかにし,損害の賠償を請求することを求める住民監査請求をした。
イ 山梨県監査委員は,平成15年12月25日,原告らの上記主張は,本件校歌及びその指導が憲法に違反することを基礎としているところ,このような憲法判断は監査委員の権限に属しないとして,上記監査請求を却下した。
(4) 原告らは,平成16年1月22日,本件訴えを提起した。
3 争点
 本件人件費及び本件運営費の0.18パーセントに相当する支出が違法な公金支出であるといえるか。
(1) 原告らの主張
ア 本件歌詞にある「天皇(すめらみこと)の勅(みこと)」とは,教育勅語を意味する。
イ 日川高校の学校文化の伝統,校風及び学校行事は,本件校歌,特に,天皇の勅(教育勅語)の精神を中核に据えており,日川高校の教育課程も,本件校歌の指導を中心に編成されている。
ウ 本件校歌の指導を中心とする日川高校の教育は,天皇を神格化して戦意を高揚したいわゆる戦前の教育そのものであり,天皇の勅(教育勅語)を聖典とし,現人神である天皇を中心とする国家神道体制の思想教育であるから,政教分離原則(憲法20条3項,89条)を始めとする憲法及び教育基本法に反し,違憲・違法である。
エ 日川高校では,平成14年度において,別紙2(省略)(甲36の7-④)のとおり,合計117分が本件校歌の指導のために費やされた。
 さらに,オリエンテーションにおいては,A校長は,教師集団の指導監督のもとに,応援団による威圧的状況に新入生を置き,全員に校歌の暗しょうを強制した。目をつぶらせた上で,体育館の板敷きの上に1時間余り正座させ,歌うことができない生徒はステージに上がらせるなど,見せしめの罰を科した。
オ 上記117分は,平成14年度における日川高校の全教育課程(カリキュラム)に費やされた時間である6万4200分(1284時限)の0.18パーセント(0.01パーセント未満切捨て)に相当する。
カ 本件校歌の指導という原因行為が違法である以上,本件校歌の指導に費やされた費用,すなわち,本件人件費及び本件運営費の支出のうち0.18パーセントに相当する支出は,違法な公金支出となる。
 本来なら校歌教育をその中核とする日川高校の教育の全体が違法となるところであり,山梨県が被った損害は,日川高校の教職員の人件費全額と学校運営費全額に相当する。上記117分は,校長及び職員会議での決定に基づく学校の方針による校歌指導であるから,個々の行事に参加した教職員を含めた教職員全体に関する支出が違法性を帯びることは明らかであり,また,教育課程の編成とそれに基づく校歌指導は一体として学校運営費の支出を違法とする。
キ そして,Aは,日川高校校長として,Bは,山梨県教育委員長として,C,D,E,F,G及びHは,同教育委員会委員として,平成14年度における日川高校の教育課程の編成及び執行並びに公金の支出の権限を一体として与えられており,前記8名は,共同不法行為者として,山梨県に対し,上記カの違法な公金支出について連帯して賠償義務を負う。
(2) 被告の主張
ア 上記(1)原告らの主張アは知らない。ただし,この歌詞の意味内容を教育勅語精神なるものとして理解している事実はなく,そのようなものとして生徒に周知させている事実もない。
イ(ア) 原告らの主張イは否認する。
(イ) 日川高校の教育課程(カリキュラム)が本件校歌を中心に編成されている事実はない。
ウ(ア) 原告らの主張ウは否認する。
(イ) 現在の日川高校において,天皇を神格化したり,戦意を高揚するといった教育は一切行われていないし,また,国家神道体制の思想教育なるものも行われていない。
エ 原告らの主張エのうち,校歌に関する活動が行われた時間については知らない。その余の事実は否認する。ただし,校歌を新入生に対して周知させる指導が生徒会や応援団の活動として行われたり,入学式等の行事において校歌が斉唱されることはある。
オ 原告らの主張オないしキは争う。本件校歌の内容が違憲・違法とは考えられない。
カ 原告らは,日川高校の教職員が行った本件校歌の指導に関する具体的な関与状況について明確に主張することなく,本件人件費及び本件運営費の支出のうち0.18パーセントに相当する金員の支出が違法な公金支出であると主張する。
 しかしながら,仮に,日川高校の教職員が参加する行事等で本件校歌が斉唱されるなどの事実があったとしても,当該行事等に参加することは,日川高校の教職員として正当な勤務であり,正当な勤務実体がある以上,教職員に対して給与等の支払を行うことは当然である。また,本件運営費は,本件校歌の内容やこれに関する活動が憲法に違反するか否かにかかわらず,個別具体的な支出原因に基づいて支出されている。そうすると,本件人件費及び本件運営費の支出が違法な公金支出となることはないし,また,山梨県に対して損害を与えるものでもない。
第3 当裁判所の判断
1 地方自治法242条の2の規定に基づく住民訴訟は,普通地方公共団体の執行機関又は職員による同法242条1項所定の財務会計上の違法な行為又は怠る事実の予防又は是正を裁判所に請求する権能を住民に与え,もって地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とするものである。そして,同法242条の2第1項4号の規定に基づく当該職員に損害賠償の請求をすることを執行機関に対して求める訴訟は,このような住民訴訟の一類型として,財務会計上の行為を行う権限を有する当該職員に対し,職務上の義務に違反する財務会計上の行為による当該職員の個人としての損害賠償義務の履行を請求することを執行機関に対して求めるものにほかならない。したがって,当該職員の財務会計上の行為をとらえて上記規定に基づく損害賠償責任
を問うよう執行機関に対して求めることができるのは,当該職員の財務会計上の行為自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限られる(最三判平成4年12月15日民集46巻9号2753頁)。本件において,本件人件費についてはBが,本件運営費についてはAが,それぞれ上記当該職員に該当するが,両名が財務会計上の義務に違反してこれらの各支出をしたことを認めるに足りる証拠は全くない。
2 当裁判所は,原告らに対し,原告らが違法な公金支出であると主張する個別具体的な支出を明らかにするよう求めたが,原告らは,個別具体的な支出を特定することなく,上記第2の3(1)(原告らの主張)のとおり,本件人件費及び本件運営費の0.18パーセントに相当する支出が違法な公金支出となる旨主張する。
 この原告らの主張は,どの教職員が,いつ,何時間,本件校歌の指導に携わったのか,また,本件校歌の指導のために具体的にどのような学校運営費が支出されたのかを明らかにせずとも,日川高校の各教職員に対して支払われた本件人件費と様々な費目に支出された本件運営費の0.18パーセントに相当する支出が,それぞれ違法な公金支出となるというものであると解される。しかしながら,この原告らの主張は,特定の公務員に対する給与の支払の一部が違法な公金支出となるという主張や特定の費目に支出された学校運営費が違法な公金支出となるという主張とは根本的に異なり,公金支出の原因ないし目的となった行為についても,公金支出行為自体についても,何ら特定されていない。各行為が特定されていない以上,財務会計法規上の義務
違反の有無を判断することすらできないのであるから,そもそも主張自体失当である。例えば,原告らの主張によれば,本件校歌の指導に全く関与していない教職員への給与の支払や本件校歌の指導に全く関係のない費目への学校運営費の支払も0.18パーセントの割合で違法な公金支出となることになるが,このような解釈が採り得ないことは明らかである。
 なお,原告らは,本件人件費と本件運営費の支出全体が違法であるかのような主張もするが,日川高校に高等学校としての運営の実態がある以上,その支出全体が違法になることはありえず,これが違法であるというのは原告ら独自の見解というべきであって,到底採用することはできない。
3 そうすると,原告らの請求は,その余の点につき判断するまでもなく理由がないことに帰する(本件訴えは,結局のところ,日川高校関係者らの間に以前から論争のあった本件歌詞の当否という問題を,原告ら独自の見解によって住民訴訟の俎上に載せようとしたものというべきであり,地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とするものとはいえない。原告らの上記主張を採用し得ない以上,当裁判所は本件歌詞の当否について判断すべきでない。)。
4 なお,被告は,本件訴えのうち,本件人件費及び本件運営費の支出権限を有しない者に対して損害の賠償を請求せよとの訴えは,地方自治法242条の2第1項4号の定める住民訴訟の対象となり得ない訴えであるから,当該訴えを却下すべきである旨答弁する。
 しかしながら,地方自治法242条の2第1項4号に定める住民訴訟は,被告適格を地方公共団体の執行機関又は職員に認め,当該執行機関又は職員に対して,長,職員,相手方個人への損害賠償の請求等を求めることを内容とする義務付け訴訟と構成されており,被告が不適法であると指摘する原告らの訴えは,被告適格を有する執行機関たる山梨県知事に対し,存在しない請求権を行使せよとの訴えであると理解できる。そうすると,原告らの請求は,被告らが不適法であると指摘する訴えに係る請求を含めて,すべて理由がないものとして棄却すべきである。
5 よって,主文のとおり判決する。
   甲府地方裁判所民事部

        裁判長裁判官   新  堀  亮  一

           裁判官   倉  地  康  弘

           裁判官   岩  井  一  真