H17. 6.29 広島高等裁判所岡山支部 平成16年(う)第62号 凶器準備集合,暴力行為等処罰に関する法律違反

判示事項の要旨:
凶器準備集合,暴力行為等処罰に関する法律違反被告事件について,「被告人には公訴事実記載の各犯行意思及び共犯者との共謀関係が認められない」として,被告人を無罪とした原判決に対する検察官からの控訴に対し,証拠上,被告人は本件各犯行を行うことについて暗黙のうちに意思を相通じていたと認められる。原判決は,被告人の供述の信用性を過大に評価した結果,本件犯行の客観的推移,客観的に明らかな被告人の関与の態様及びそれらに符号する関係証拠の評価を誤った事実誤認があるとして破棄した上,懲役刑を言い渡した事案


               主       文
        原判決を破棄する。
     被告人を懲役2年6月に処する。
     原審における未決勾留日数中110日を上記刑に算入する。
     この裁判が確定した日から3年間上記刑の執行を猶予する。
                        理       由
 本件控訴の趣意は,検察官杉浦三智夫作成の控訴趣意書に記載されているとおりであるから,これを引用する。
 論旨は,事実誤認の主張であって,原判決は,本件公訴事実第1記載の凶器準備集合罪及び同第2記載の暴力行為等処罰に関する法律違反の罪について,「被告人には,上記公訴事実記載の各犯行意思及び共犯者との共謀関係が認められず,被告人に対するそれらの犯罪の成立は否定されなければならない。」として,被告人を無罪としたが,証拠上,被告人の本件各犯行に対する犯意及び共謀の存在は優に認められ,本件各公訴事実の証明は十分であるから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。
 そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討するに,原判決の上記説示には賛同することが出来ず,原判決には所論指摘の事実の誤認があると認められ,破棄を免れない。以下,当裁判所の検討結果を説明する。
 原審及び当審において取り調べた関係各証拠によれば,被告人自身も概ね肯認する本件一連の経緯,顛末について,以下の事実が認められる。
 すなわち,(1)被告人は,岡山県津山市から同県真庭郡a町(本件当時,現真庭市)まで出掛けて行き,平成15年2月8日午後11時ころから,同町内の飲食店において,以前から親交のある暴力団A組系B組C組津山支部長Dやその配下の組員らと共に飲食していたところ,同月9日午前零時ころ,Dに,C組所属の他の組員が喧嘩をし,大怪我をして岡山市内の病院に搬送された旨の電話連絡が入り,Dやその配下の組員らと共に自動車2台に分乗し,岡山市bc番d号所在の岡山市立E病院へ向かったこと,(2)被告人は,車中で上記喧嘩が組員同士の喧嘩であることを聞き及び,同日午前2時ころ,同病院に到着した後,暫くしてDらと共に同病院を退出し,再び自動車に乗車して岡山市内を走行していた際,上記組員を負傷させた相手がC組と対立関係にある暴力団F組系G組組員であることを知ったが,その後もDらと行動を共にし続けたこと,(3)Dは,同日午前3時ころ,被告人や配下の組員らと共に,同市e所在のC組事務所を兼ねる組長H宅に赴き,配下の組員らに凶器となる道具を準備するように指示し,近傍の同市ef丁目g番h号所在のI工業資材置場に置いてあったスコップやバール等を自動車に積み込ませた後,被告人や配下の者らを引き連れて,同市ij番地のk所在のJに向かったこと,(4)被告人は,同日午前4時ころ,上記J駐車場に到着した際,C組津山支部所属の組員等10数名の暴力団組員が参集しており,周辺一帯が騒然とする異様な雰囲気に包まれていたことなどから,Dや参集した暴力団組員らが上記G組に報復しようと企てていることを認識したが,なおもDらの集団から離脱しようとしなかったこと,(5)上記J駐車場には,Dやその配下の組員らのほか,B組事務局長兼B組K会長LやB組若頭補佐兼B組M会長N及びその配下の組員ら多数の暴力団組員が参集し,準備されていたスコップ数丁,木刀十数本などの凶器をそれぞれ自動車に積み込むなどしており,被告人の乗車していた自動車の後部座席にも少なくとも木刀2本が積み込まれたこと,(6)被告人は,Dや上記暴力団組員らと共に自動車に乗車して上記Jを出発し,車中で携帯電話を掛けてきたC組津山支部組員Oから,G組組員をさらうらしいなどと伝えられ,更に途中で停車した同市lm番地のnP駐車場において,上記Oから「チャカを弾くらしい。」などとも告げられたが,Dその他の暴力団組員らと行動を共にし続けたこと,(7)Dや他の暴力団組員らは,同日午前4時50分ころ,同市lo番地のp所在のG組事務所付近に到着するや,同所付近に停車した自動車から降車し,G組事務所に向けてけん銃を発砲し,同事務所前に駐車されていたG組組員が使用する普通乗用自動車2台をケレン棒やバールで叩き壊すなどした後,同所を急いで離脱したこと,(8)被告人は,現場を離脱し,他の暴力団組員らが準備していた木刀等を河川に投棄するなどした際にも同行した後,岡山県津山市に戻ったが,上記Oから「身を隠した方がええぞ。」と言われ,同年3月下旬ころから家を出て暫く逃亡生活を送っていたこと,の各事実が認められる。
 以上の事実によれば,被告人は,当時,親交のあったDやその配下の組員らと行動を共にする中で,C組所属の組員が他の暴力団組員と喧嘩をして大怪我をさせられたことを知り,暴力団組員が参集し,スコップ,木刀等の凶器が準備されていた上記Jに到着した時点において,DらC組組員その他の暴力団組員らがG組への報復を企てていることを認識するに至ったものの,その後もDら暴力団組員らの集団から離脱する素振りを全く見せず,長時間にわたり,Dら多数の暴力団組員が上記木刀等を自動車に積み込んでG組事務所付近に赴き,G組事務所にけん銃を発砲したり,G組組員の使用する自動車を損壊するなどの報復行為に及ぶ現場に同行し続けたばかりか,犯行後暫くの間,逃亡生活を送っていたものであり,被告人が本件各犯行を少なくとも認識・認容しており,D他多数の暴力団組員と本件各犯行を行うことについて暗黙のうちに意思を相通じていたと推認するのが合理的である。
 これに対し,原判決は,主に被告人の捜査段階及び原審公判段階の供述に依拠し,上記(1)の点について,「Dが」「被告人に対しては,『帰ってもええぞ。』と言ったが,被告人は,夜も遅く,帰宅するためのタクシーを頼むのも困難であり,翌日は仕事がなく,Dが見舞いを済ませたらすぐに帰るとも言っていたので,酔い覚ましとドライブを兼ねて一緒に病院に付いていくことにし」たと認定し,上記(4)の点について,「被告人は,Q岡山県支部長である被告人がそのような暴力団の抗争に係われば,Qに迷惑を掛けることになるのを怖れ,特に他の者の側に行くことはせず,センチュリーから降車して同車から離れた所で立ち小便をし,その場から離れ津山に帰る機会を窺っていたところ,Oから,突然『Rちゃん(被告人の呼称),車に乗ろうで。』と急き立てるように言われたため,慌てて,直近に駐車しており,a町から同道してきた見覚えのあるベンツの後部座席右側に乗り込んだ。そのベンツの運転席には当夜a町の飲食店にもいたSが座ったことから,被告人は,一瞬,これで津山に帰ることができると思った。」と認定し,更に,上記(6)の点について,「Oの言葉の意味がG組組員を拉致し,さらにけん銃を同組事務所等に打ち込むということであることが分かった」が,「被告人がそのままベンツに乗車したまま同行するかどうかについての考えを纏める暇もな」かったなどと認定し,これらを前提として,要するに,被告人は,津山市からa町まで出向いてDやその配下の組員らと飲食していた際,DがC組組員が喧嘩をして大怪我をした旨の連絡を受け,岡山市内の病院に出向くことになったが,津山市に帰る足がなかったためやむなくDらと行動を共にし,DらがG組に対する報復行為に及ぼうとしていることを知った後も,Dらから離脱する機会を逸した結果,本件各犯行の現場に偶々居合わせることになったに過ぎない可能性があった旨説示するが,先に認定した本件一連の経緯,顛末と整合せず,ことに当審証人Tの供述によれば,Dら多数の暴力団組員が参集し,G組に対する報復行為の準備をし始めた上記Jにおいては,道具(けん銃)はあるか,G組組員をつかまえてこい,車を叩き壊せ,などという言葉が飛び交う騒然かつ殺気だった雰囲気であったことが認められ,それまでの経緯をすべて直接見聞している被告人が,その雰囲気を即座に察知したことは明らかであるから,その後何も考えずにあわてて車に乗ったとかこれで津山に帰れると思ったとの被告人の供述内容は甚だ不自然であり,他方Oが被告人に人をさらうとかチャカを弾くらしいなどと犯行方法について被告人に話しかけてきた点は,Oが被告人を共犯者として扱っていたことを示しており,被告人が離脱を希望するような言動を全くしていなかったと考えるのが合理的である。現に,Dらの集団から離脱する機会が少なからずあったにも係わらず,被告人がDらと別行動をしようとしておらず,かつ前述のようにこれについて首肯し得る説明がなされているとは解されないことに徴すると,上記被告人の弁解内容及びその内容に信用し得る余地があるとした原判決の説示が不自然・不合理であることは明らかであり,これを是認することは出来ない。
 以上によれば,原判決は,被告人の供述の信用性を過大に評価した結果,本件犯行の客観的推移,客観的に明らかな被告人の関与の態様及びそれらに符合する関係証拠の評価を誤り,ひいては本件各犯行に対する犯意や共謀がなかったという事実の誤認をしたものと言わざるを得ず,これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。
 論旨は理由がある。
 よって,刑訴法397条1項(382条)により原判決を破棄し,同法400条ただし書により当裁判所において更に判決する。
(罪となるべき事実)
 被告人は,暴力団A組系B組C組関係者であるが,B組と対立関係にある暴力団F組系G組組員の生命,身体又は財産に共同して危害を加えようと企て,
第1 B組事務局長兼B組K会長L,K若頭U,K本部長V,K組員W,同T,B組若頭補佐兼B組M会長N,M本部長X,M組員Y1,同Y2,同Y3,B組Z組組員Y4,C組組員Y5,同Y6,同D,同Y7,同O,同Y8,同Y9,同Y10,同Y11,同Y12,同Y13,同S,同Y14,同Y15,同Y16,同Y17らと共謀の上,上記G組組員の生命,身体又は財産に対し共同して危害を加える目的で,平成15年2月9日午前4時ころ,岡山市ij番地のk所在のJ駐車場に,スコップ数丁,木刀十数本等の準備があることを知って集合し,
第2 上記L,T,N,Y4,Y5,D,Y7,Y8,Y11,Y12,Y13,S,Y15,Y16及びY17らと共謀の上,同日午前4時50分ころ,同市lo番地のp所在のG組事務所前において,同所に駐車中の甲株式会社所有の普通乗用自動車のフロントウィンドウ等を前記Y12がケレン棒で叩き壊し(損害額27万4990円相当),乙所有の普通乗用自動車のボンネット及びラジエターグリル等を上記Y8がバールで叩き壊し(損害額7万9650円相当),もって,数人共同して器物損壊の罪を犯したものである。
(法令の適用)
 1 罰  条
   (1) 判示第1の行為
     刑法60条,208条の3第1項
   (2) 判示第2の行為
     同法60条,暴力行為等処罰に関する法律1条(刑法261条)
 2 刑種の選択
    上記各罪につき,所定刑中いずれも懲役刑を選択
 3 併合罪の処理
    刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の重い暴力行為等処罰に関する法律違反の罪の刑に法定の加重)
 4 宣告刑の決定
    懲役2年6月
 5 未決勾留日数の算入    
    同法21条(原審における未決勾留日数中110日を上記刑に算入する。)
 6 刑の執行猶予
同法25条1項(3年間上記刑の執行を猶予する。)
 7 訴訟費用の不負担
    刑事訴訟法181条1項ただし書(原審及び当審における訴訟費用につき)
(量刑の理由)
 本件は,暴力団A組系B組傘下のC組関係者である被告人が,C組その他のB組傘下の暴力団幹部や組員と共謀し,(1)C組と対立関係にある暴力団組員の生命,身体又は財産に対し共同して危害を加える目的で,スコップ数丁,木刀十数本等の準備があることを知って集合し,(2)相手方組事務所前において,ケレン棒やバールを用い,同所に駐車中の自動車2台を叩き壊し,もって,数人共同して器物損壊の罪を犯したという凶器準備集合,暴力行為等処罰に関する法律違反の事案であるが,その犯行態様が粗暴かつ悪質であるのはもとより,暴力団の抗争事件として,周辺地域の住民に与えた影響も甚大であり,上記(2)の犯行による損害額は合計35万4640円に上っている上,被告人は,C組その他の暴力団組員らが,対立する他の暴力団組員にC組組
員が傷害を負わされたことに激昂し,暴力団組織を挙げて凶器を準備して報復行為に及ぶことに後先を考えず付き従ったものであり,その動機は軽率と言うほかない。
 しかし,他方,被告人は,本件の主犯格ではなく,犯行関与の程度も従属的であること,本件各犯行に対する犯意や共謀を否認しているものの,他方で,本件について深く反省し,一から出直す覚悟で仕事に精を出し,真面目に生活をするつもりであるなどとも供述し,被告人なりの反省の態度を示していること,昭和59年9月傷害罪により罰金2万円,平成4年5月恐喝未遂罪により懲役1年6月,3年間執行猶予に処された前科を有しているものの,いずれも本件各犯行よりも10年以上前のものであり,後者については執行猶予期間も無事満了していることなどの被告人のために斟酌すべき諸事情も認められる。
 そこで,以上を総合考慮し,被告人を主文掲記の刑に処した上,その刑の執行を猶予し,被告人に今一度社会内更生の機会を与えるのが相当と判断した。
 よって,主文のとおり判決する。
 平成17年6月29日
   広島高等裁判所岡山支部第1部

     裁判長裁判官    安  原      浩


        裁判官    河  田  充   規


        裁判官    吉  井  広  幸

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最終更新:2005年08月22日 13:32
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