hanrei @Wiki H17. 7.25 津地方裁判所 平成17年(わ)第65号,第127号,第165号,第183号 窃盗,建造物損壊,殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反,詐欺,覚せい剤取締法違反,詐欺未遂被告



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判示事項の要旨:
知人を通じて,暴力団構成員から同じ暴力団の幹部構成員の殺害を依頼され,けん銃及び報酬を得て,殺害を実行した被告人に懲役15年が言い渡された事例


主  文
被告人を懲役15年に処する。
未決勾留日数中230日をその刑に算入する。
理   由
(犯罪事実)
被告人は,
第1 A,B,C及びDらと共謀の上
1 平成15年7月24日午後8時22分ころ,津市a町b番c号所在のV1方玄関内において,同人(当時42歳)に対し,殺意をもって,同人の頭部に向けて,持っていた回転弾倉式けん銃で弾丸2発を発射してこれらを命中させ,よって,そのころ,同所において,同人を頭部射創に基づく脳挫滅により死亡させて殺害した
2 法定の除外事由がないのに,上記日時場所において,上記回転弾倉式けん銃1丁を,これに適合する実包2発と共に携帯して所持した
第2 Eと共謀の上,平成15年1月31日ころ,三重県鈴鹿市de丁目f番地のgアパート「h」の北側駐車場において,同所に駐車中のV2所有の普通乗用自動車(軽四)1台(時価60万円相当)を窃取した
第3 前記A及びFと共謀の上
1 平成15年7月13日午後10時30分ころ,三重県安芸郡i町jk番地のlm有限会社駐車場に駐車中のV3所有に係る普通貨物自動車1台(時価合計約200万円相当)を窃取した
2 同日午後11時ころ,同県亀山市n町字op番所在のV4所有に係る居酒屋「V5」店舗北西側に,上記第3の1の窃取に係る普通貨物自動車後部を激突させて同店舗外壁等を破壊し(損害額合計約100万円相当),もって他人の建造物を損壊した
第4
1 前記A及び前記Fと共謀の上,平成15年7月28日午後11時30分ころ,三重県四日市市qr丁目s番地t方東側空地に駐車中のV6所有に係る無線機一式外4点積載の大型貨物自動車1台(時価合計約50万1000円相当)を窃取した
2 前記A,前記F及びGと共謀の上,同月29日午前零時15分ころ,前記第3の2の居酒屋「V5」店舗北西側に,上記第4の1の窃取に係る大型貨物自動車後部を激突させて同店舗西側出入口及び外壁等を破壊し(損害額合計約270万円相当),もって他人の建造物を損壊した
第5 Hと共謀の上,不正に入手したu株式会社発行のV7名義のクレジットカードを使用して商品を詐取しようと企て,別表記載のとおり,平成16年4月17日午前8時58分ころから同月24日午後1時4分ころまでの間,前後4回にわたり,三重県亀山市v町w番地xの給油所有限会社V8サービスステーションにおいて,同店従業員V9ほか1名に対し,上記V7になりすまし,同カードの正当な使用権限も同カードシステム所定の方法により代金を支払う意思もないのに,これあるように装い,同カードを呈示してガソリンの給油を申し込み,上記V9ほか1名をして,その旨誤信させ,よって,それぞれ同所において,同人らからレギュラーガソリン合計100.4リットル(販売価格合計1万0437円)及びスーパーマグナムガソリン28.3リットル(販売価格合計3269円)の給油を受け,もって人を欺いて財物を交付させた
第6 法定の除外事由がないのに,平成16年7月下旬ころから同年8月9日までの間,三重県内又はその周辺において,覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパン又はその塩類若干量を自己の身体に摂取し,もって覚せい剤を使用した
第7 前記第5のクレジットカードを使用して商品を詐取しようと企て,平成16年8月7日午後9時37分ころ,三重県四日市市y町z番地aaの給油所V11株式会社サービスステーションにおいて,同給油所従業員V12に対し,上記V7になりすまし,同カードの正当な使用権限も同カードシステム所定の方法により代金を支払う意思もないのに,これあるように装い,同カードを呈示してガソリンの給油を申し込み,上記V12をして,その旨誤信させ,よって,即時同所において,上記V12からレギュラーガソリン52.98リットル(価格5722円相当)の給油を受け,もって人を欺いて財物を交付させた
第8 Hと共謀の上,前記第5のクレジットカードを使用して商品を詐取しようと企て,平成16年8月9日午後零時15分ころ,前記第7の給油所において,同店従業員V13に対し,上記V7になりすまし,同カードの正当な使用権限も同カードシステム所定の方法により代金を支払う意思もないのに,これあるように装い,同カードを呈示してガソリンの給油を申し込み,上記V13をして,その旨誤信させて給油を受けようとしたが,上記カードに未入金届けがなされていることを看破されたため,その目的を遂げなかった
ものである。
(累犯前科)
1 被告人は,(1)平成10年2月2日津地方裁判所四日市支部において詐欺罪により懲役10月に処せられ,平成10年11月3日その刑の執行を受け終わり,(2)その後犯した覚せい剤取締法違反の罪により平成13年4月18日同支部において懲役1年6月に処せられ,平成14年10月11日その刑の執行を受け終わった。
2 上記事実は,前科調書,上記(1)に該当する判決書謄本及び上記(2)に該当する調書判決謄本によって認めることができる。
(法令の適用)
被告人の判示第1の1の所為は行為時においては刑法60条,平成16年法律第156号による改正前の刑法199条に,裁判時においては刑法60条,同改正後の刑法199条に該当するが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから,刑法6条,10条により軽い行為時法の刑(有期懲役刑の長期は,行為時においては同改正前の刑法12条1項に,裁判時においては同改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)によることとし,判示第1の2の所為は刑法60条,銃砲刀剣類所持等取締法31条の3第2項(有期懲役刑の長期は,行為時においては同改正前の刑法12条1項に,裁判時においては同改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。),1項,3条1項に,判示第2,第3の1及び第4の1の各所為はいずれも刑法60条,235条に,判示第3の2及び第4の2の各所為はいずれも刑法60条,260条に,判示第5の別表番号1ないし4の各所為はいずれも刑法60条,246条1項に,判示第6の所為は覚せい剤取締法41条の3第1項1号,19条に,判示第7の所為は刑法246条1項に,判示第8の所為は刑法60条,250条,246条1項にそれぞれ該当するところ,判示第1の1の罪について所定刑中有期懲役刑を選択し,判示第1の1・2,第2,第3の1・2及び第4の1・2の各罪は前記(1),(2)の各前科との関係で3犯であるから,いずれも刑法59条,56条1項,57条により,また判示第5の別表番号1ないし4,第6ないし第8の罪は前記(2)の前科との関係で再犯であるから,いずれも刑法56条1項,57条により,第1の1・2の各罪との関係では同改正前の刑法14条(刑の長期は,行為時においては同改正前の刑法14条に,裁判時においては同改正後の刑法14条2項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)の制限内で,それぞれ累犯の加重をし,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,刑法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い判示第1の1の罪の刑に同改正前の刑法14条(刑の長期は,行為時においては同改正前の刑法14条に,裁判時においては同改正後の刑法14条2項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)の制限内で法定の加重をした処断刑期の範囲内で被告人を懲役15年に処し,刑法21条を適用して未決勾留日数中230日をその刑に算入することとし,訴訟費用は,刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
1 本件は,被告人が,(1)けん銃及び適合実包2発を所持して被害者宅に赴いた上,被害者の頭部に向けて弾丸2発を発射し命中させて殺害し,(2)普通乗用自動車を窃取し,(3)2回にわたって,貨物自動車を窃取した上,これを店舗に激突させて建造物を損壊し,(4)法定の除外事由がないのに覚せい剤を使用し,(5)不正に入手した他人名義のクレジットカードを使用して5回にわたりガソリンを詐取し,さらに詐取しようとしたが未遂に終わったという事案である。
2 (1)の犯行についてみるに,犯行の経緯等は次のとおりである。すなわち,当時,被害者は暴力団I組J会K一家において総裁に次ぐ若頭の地位にあり,Cは若頭補佐,Dは舎弟の地位にあった。DやCらは,総裁や古参の組員をないがしろにする被害者の言動に我慢できなくなり,平成15年6月中旬から下旬ころ,被害者を殺害することを決意し,Cが実行役を探し,Dが実行役に対して殺害の具体的な指示を出し,他の組員が報酬500万円やけん銃及びけん銃実包を準備するなどの役割分担を決めた。Cは,Aに実行役探しを指示し,Aは被告人に当初は実行役探しを頼み,その後被告人自身が実行役をしないかと持ちかけた。被告人は,内縁の妻の息子LがK一家から破門狩りに遭い命を狙われていると聞いていて,これを助けようと思い,さらには報酬欲しさもあって,実行役を引き受けることにした。Dは,同年7月上旬ころ,連絡用のプリペイド式携帯電話をC,Aを通じて被告人に渡し,次いで同月14日,けん銃やけん銃実包,報酬500万円,被害者の写真及び被害者宅の地図を駅のコインロッカーを利用して被告人に渡した。被告人は上記報酬のうち200万円を仲介者のAに渡した。被告人は,同月24日,被害者の殺害を決意したが,妻子の前では殺したくないと思い,Dに対し,上記携帯電話で,被害者及び家族の所在を尋ねた。Dは,Cから,被害者は在宅しているが,妻子は実家に帰っていて不在であると聞き,その旨被告人に伝えた。そこで,被告人は,B運転の自動車で被害者宅に行き,玄関口において,被害者に対し,Lを破門狩りにしないよう頼んだが,被害者にはLを許す様子がなかったことから,けん銃で被害者の顔面に向けて弾丸2発を発射して命中させて殺害した。これら犯行の経緯及び動機は,Lが被害者から何らかの危害を加えられる可能性があったとしても,他にとり得る手段をよく吟味することなく,Aからの依頼に安易に応じた短絡的かつ自己中心的なもので,その動機に酌むべき事情はない。犯行の態様は,暴力団構成員らによって凶器や報酬が用意され,役割分担も決められるなど組織的かつ計画的なものであり,被告人自ら,けん銃を被害者の顔面に向けて至近距離から2発発射するという残虐極まりないものである。被害者は,暴力団の幹部構成員であったとはいえ,殺害されなければならない理由はどこにもないのであって,妻及び子供4人を残して突如として生命を絶たれた無念さは察するに余りある。被害者の妻及び子供は帰宅して父が顔から血を流して仰向けに倒れている凄惨な現場を目撃し,被害者の妻は当初,その現実を,うそであってほしい,信じたくないという思いで受け入れられず,事件後は被害現場となった自宅では精神的に辛くて生活することができずに転居し,経済的にも苦しい生活を余儀なくされているのであって,被害者の妻の処罰感情が厳しいのも十分に頷ける。そうであるのに,被告人は被害者遺族に対し,何ら慰謝の措置を講じていない。
また,(3)の犯行についてみると,被告人は依頼を受けて報酬を得るために,2度にわたって大型車両を窃取した上,同車両を居酒屋店舗に激突させて損壊したものであって,その動機に酌むべき事情はなく,その態様は大胆かつ乱暴なもので悪質である。その結果,建造物損壊の被害者は約370万円もの財産的損害を被ったほか,精神的にも多大な苦痛を受け,ノイローゼ気味になったというものであって,その結果は重大である。
その他にも,被告人は,(2)窃盗,(4)覚せい剤使用,(5)クレジットカードによる詐欺ないし詐欺未遂という多種多様の犯罪を繰り返し敢行しているのであって,犯情は相当に悪い。
3 本件各犯行内容に加えて,被告人は,前記累犯前科も含め多数の前科を有しており,平成14年10月に前刑の執行を受け終わってわずか2年弱の間に,反省が足らず,またしても本件各犯行を敢行していることなどに照らすと,被告人の法規範意識の鈍麻は甚だしい。
4 以上によれば,被告人の刑事責任は極めて重大である。そうすると,被告人は(1)及び(3)の犯行について自首しており,とりわけ(1)の犯行について全容解明の捜査に大きな貢献があったこと,(1)の犯行の計画立案に被告人は関与しておらず,共犯者らに利用された側面もないではないこと,(2)及び(3)の犯行も被告人が共犯者らから頼まれて敢行していること,被告人は判示第7の被害者に対し被害額につき弁償していること,共犯者が(2)及び(5)の被害者に対し合計31万円余りの被害弁償をしていること,共犯者が(2)の建造物損壊の被害者に10万円の被害弁償をしていること,被告人は(1)の被害者の冥福を祈る旨の嘆願書を作成し,当公判廷においても反省の言葉を述べていること,被告人の社会復帰を待つ母親がいることなど被告人に酌むべき事情を十分に考慮しても,主文の量刑はやむを得ないと判断する。(求刑・懲役17年)
よって,主文のとおり判決する。
平成17年7月25日
津地方裁判所刑事部
裁判長裁判官   山  本  哲  一
裁判官   大  村  陽  一
裁判官   後  藤      誠