hanrei @Wiki H17. 8.25 京都地方裁判所 平成16年(行ウ)第12号 損害賠償請求事件



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判示事項の要旨:
市の住民が,京都市議会の3会派が交付を受けた政務調査費を,調査研究活動以外の経費に使用して市に損失を及ぼしたとして,京都市長に対し,上記各会派に所属していた各議員に不当利得返還請求をするよう求める住民訴訟が棄却された事例


主       文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
 1 被告は,別紙2(1)「旧自由民主党京都市会議員団名簿」記載の相手方各自に対し,金334万4229円を請求せよ。
 2 被告は,別紙2(2)「旧日本共産党京都市会議員団名簿」記載の相手方各自に対し,金201万6030円を請求せよ。
 3 被告は,別紙2(3)「旧民主・都みらい京都市会議員団名簿」記載の相手方各自に対し,金143万8574円を請求せよ。
第2 事案の概要
1 本件は,京都市の住民である原告らが,京都市議会の会派である自由民主党京都市会議員団,日本共産党京都市会議員団及び民主・都みらい京都市会議員団(ただし,いずれも所属議員の任期満了により平成15年4月29日に消滅したもの。以下「本件各会派」という。)が,京都市政務調査費の交付に関する条例(以下「本件条例」という。)に基づき交付を受けた平成15年4月分の政務調査費を,京都市政務調査費の交付に関する条例施行規程(以下「本件規程」という。)に定める使途基準に違反し,調査研究活動に要する経費以外に使用して当該支出相当額を利得し,京都市に同額の損失を及ぼしたと主張して,地方自治法(以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき,被告に対し,本件各会派に所属していた各議員(別紙2(1)から(3)までに記載された者)に不当利得返還請求をすることを求める住民訴訟事件である。
2 基礎となる事実(争いのない事実並びに文末に記載した書証及び弁論の全趣旨によって認定できる事実)
(1)ア 原告らは,いずれも京都市の住民である。
イ 平成15年4月15日当時,京都市議会には,自由民主党京都市会議員団(以下「自民党議員団」という。),日本共産党京都市会議員団(以下「共産党議員団」という。),民主・都みらい京都市会議員団(以下「民主・都みらい議員団」という。),公明党京都市会議員団等の会派が存在していた。
本件各会派には,それぞれ,別紙2(1)から(3)までに記載された各議員が所属していた。
(2)ア 京都市は,平成13年3月30日,法100条12項及び13項(平成14年法律第4号による改正前のもの。改正後は,1項ずつ繰り下げられ,13項及び14項となっている。以下,これらの条項については,現在の条文番号により表記する。)の規定を受けて,本件条例を制定した。
本件条例は,平成13年4月1日から施行され,この規定に従い,京都市議会の会派及び議員に対し,政務調査費が交付されるようになった。
イ 京都市は,本件各会派に対し,その申請に基づき,平成15年4月15日,同月分の政務調査費として,別紙3「政務調査費一覧表」の「政務調
査費の総額」欄記載の金額を交付し,本件各会派は,同表の「支出合計額」欄記載の金額を支出した。
本件各会派は,京都市議会議長(以下「議長」という。)に対し,交付を受けた政務調査費の使用に関する収支報告書を提出し,残額があるときは,これを京都市長(以下「市長」という。)に返還した。これにより,本件各会派についての同月分の政務調査費の金額は,同表の「交付確定額」欄記載のとおりに確定した。
(3) 原告らは,平成16年2月5日,京都市監査委員に対し,本件各会派等の平成15年4月分の政務調査費について,その2分の1を超える支出部分は調査研究活動に要する経費以外に使用され,京都市が損害を被ったとして,損害賠償請求権等の行使の勧告を求める監査請求を行ったところ,同監査委員は,平成16年3月3日付けで,いかなる支出が違法又は不当なものであるかについて具体的な摘示がされていないとして,上記監査請求を却下した(甲14,甲15)。
(4) 平成15年4月,京都市議会議員選挙(以下,単に「選挙」という。)が,告示日を同月4日,投票日を同月13日として実施された。
同月29日,本件各会派に所属する議員の任期が満了し,本件各会派は消滅した。
3 本件条例及び本件規程の関係規定
(1) 本件条例の関係規定は,次のとおりである(甲11)。
ア 趣旨(1条)
本件条例は,法100条13項に規定する政務調査費の交付に関し必要な事項を定めるものとする。
イ 交付の対象(2条)
政務調査費は,京都市会における会派(所属する議員が1人である場合を除く。)及び議員に対し,交付する。
ウ 政務調査費の額等(3条)
会派に対し交付する政務調査費(以下「会派政務調査費」という。)の月額は,14万円に,その月の初日(以下「基準日」という。)において当該会派に所属する議員の数(当該会派に所属する議員の数について,基準日に脱会その他の事由に基づく変動があったときは,当該変動後の数)を乗じて得た額とする。
エ 政務調査費の使用(11条)
会派政務調査費の交付を受けた会派は,別に定める基準に従って,当該政務調査費を使用しなければならない。
オ 残額の返還等(15条)
会派政務調査費の交付を受けた会派(当該会派が解散した場合にあっては,当該会派の代表者であった者。以下同じ。)は,12条の規定により収支報告書を提出した場合において,残額があるときは,当該残額を速やかに市長に返還しなければならない(1項)。
市長は,会派政務調査費の交付を受けた会派が,11条に規定する基準に基づく経費以外に当該政務調査費を使用したと認めるときは,当該会派に対し,既に交付した政務調査費の全部又は一部の返還を命じることができる(2項)。
カ 委任(17条)
本件条例において別に定めることとされている事項及び本件条例の施行に関し必要な事項は,議長及び市長が定める。
(2) 本件規程1条は,本件条例11条の規定を受けて,会派政務調査費の使途基準として,別表第1を定めている(以下,同表に定める使途基準を「本件使途基準」という。)(甲13)。
本件使途基準は,使用が許される支出項目として,「委託調査費」,「研修研究費」,「調査旅費」,「会議費」,「印刷費」,「図書等購入費」,「通信運搬費」,「備品消耗品費」,「人件費」,「事務所費」及び「その他の経費」の11項目を挙げ,それぞれについてその内容を説明,例示している。そのうち,次の支出項目については,以下のとおり規定している。
ア 図書等購入費 会派が行う調査研究活動のため必要な図書,資料等の購入に要する経費(図書,雑誌,新聞,資料等)
イ 通信運搬費  会派が行う調査研究活動のために必要な交通及び通信に要する経費(傭車料,電話代,FAX代,切手・はがき代等)
ウ 備品消耗品費 会派が行う調査研究活動のために必要な備品及び消耗品に要する経費(机,椅子,コピー機,パソコン,事務用品,ガソリン代等)
エ 人件費    会派が行う調査研究活動を補助する職員を雇用する経費(給料,賞与,各種手当,各種保険等)
4 争点及び争点についての当事者の主張
(1) 本件各会派は,平成15年4月分の政務調査費を,本件使途基準に基づく経費以外に使用したかどうか。
(原告らの主張)
政務調査費は,会派又は議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として交付されるものであり,本件規程において本件使途基準が定められているが,本件各会派による平成15年4月分の政務調査費に係る以下の各支出は,これに違反するものである。
ア 自民党議員団の支出
(ア) 備品消耗品費  246万1200円
a 花代(1万2600円)
花代は,調査研究活動とは直接的に関連しない経費であるから,本件使途基準に定める備品消耗品費には当たらない。
b ワイヤレスアンプ,液晶プロジェクター,ハイビジョンテレビ,椅子一式(244万8600円)
自民党議員団は,会派の消滅後である平成15年4月30日に,上記事務機・事務用品を購入し,その代金として上記金員を支出している。
平成15年4月分の政務調査費は,改選前の会派の調査研究活動に資するために供された資金であるところ,上記事務機・事務用品は,改選後の会派が使用することを前提として購入されたものであるから,改選前の会派の調査研究活動のため必要なものとはいえない。また,改選前の会派は,その消滅後には,政務調査費を使用する権限はないから,当該支出相当額は,政務調査費の残額として,市長に返還されるべきものである。
しかも,ハイビジョンテレビには,調査研究活動との直接的な関連性が認められない。
(イ) 人件費      88万3029円
自民党議員団は,会派雇用職員の給料等として上記金員を支出している。
しかるに,平成15年4月には選挙が実施されたため,会派に所属する議員は,告示日前後から投票日まで,すべての活動を選挙活動に充て,投票日後の数日間も,選挙活動に対する礼や今後の政治活動を念頭においた作業を行っていたのであるから,同月には,会派の調査研究活動は全く行われていない。
したがって,同月には,調査研究活動を補助する職員を雇用する経費は存在しない。
(ウ) よって,自民党議員団が交付を受けた平成15年4月分の政務調査費のうち,以上の合計334万4229円の支出は,本件使途基準に違反する。
イ 共産党議員団の支出
(ア) 図書等購入費      7200円
図書等購入費のうち,「赤旗」等の購読料7200円は,政治活動のための支出であって,政務調査のための支出ではない。
政党機関誌は,その政党に属している議員であれば当然購読しているものであるから,あえて会派として購入する必要はなく,これをわざわざ政務調査費で購入することは,政治活動にほかならない。
(イ) 通信運搬費    11万8910円
通信運搬費のうち,タクシー代合計11万8910円(京都交通信販株式会社のタクシーチケット代を含む。)は,平成15年4月1日から同月18日までの利用に係る代金である。
しかるに,同月には選挙が実施されたため,会派の調査研究活動は行われていないから,上記タクシー代には,調査研究活動との関連性が認められない。
(ウ) 備品消耗品費  168万9276円
共産党議員団は,平成15年4月28日,ファクシミリを,同月30日,コピー機を,それぞれ購入し,同年5月19日,ファクシミリ代金126万円及びコピー機代金の会派負担分27万9000円を支出している。
また,共産党議員団は,平成15年4月30日,新聞はさみ,ホワイトボード,大型ホッチキス,ホッチキス針,デジタルカメラ及びサイクロンクリーナーを購入し,同年5月13日,代金合計15万0276円を支出している。
上記事務機・事務用品は,その購入・支出の時期にかんがみると,前記ア(ア)bと同様,改選前の会派が行う調査研究活動のために必要なものとはいえない。
しかも,備品消耗品費は,調査研究活動と直接的に関連するものに限定されるべきであるところ,サイクロンクリーナーには,調査研究活動との関連性が認められない。
(エ) 人件費      20万0644円
共産党議員団は,会派雇用職員のパート賃金として上記金員を支出しているが,前記ア(イ)と同様,平成15年4月には,会派の調査研究活動は全く行われていないから,これを補助する職員を雇用する経費は存在しない。
(オ) よって,共産党議員団が交付を受けた平成15年4月分の政務調査費のうち,以上の合計201万6030円の支出は,本件使途基準に違反する。
ウ 民主・都みらい議員団の支出
(ア) 備品消耗品費   69万8250円
民主・都みらい議員団は,平成15年4月25日,コピー複合機を購入し,代金69万8250円を支出している。
上記事務機は,その購入時期にかんがみると,前記ア(ア)bと同様,改選前の会派が行う調査研究活動のために必要なものとはいえない。
(イ) 人件費      74万0324円
民主・都みらい議員団は,会派雇用職員の給料等として上記金員を支出しているが,前記ア(イ)と同様,平成15年4月には,会派の調査研究活動は全く行われていないから,これを補助する職員を雇用する経費は存在しない。
(ウ) よって,民主・都みらい議員団が交付を受けた平成15年4月分の政務調査費のうち,以上の合計143万8574円の支出は,本件使途基準に違反する。
(被告の主張)
ア 地方議会の活性化・審議能力の強化のため,地方議会議員の調査研究活動基盤の充実を図るという政務調査費の立法趣旨に照らせば,法100条13項にいう「議会の議員の調査研究に資するため必要な経費」とは,調査研究に直接用いられる費用に限られるものではなく,会派・議員の各調査研究活動基盤の充実に有益となる費用等,間接的に用いられる費用を広く含むというべきである。
このような観点からすると,原告らが本件使途基準に違反していると主張する各支出は,後記イのとおり,いずれも本件使途基準に従ったものである。
イ(ア) 事務機・事務用品の購入費(自民党議員団,共産党議員団,民主・都みらい議員団)について
原告らが主張する事務機・事務用品の購入費は,いずれも本件使途基準の「備品消耗品費」に当たる。
会派は,形式的には,所属議員の任期満了日をもっていったん消滅し,選挙後に改選された議員により,新たな会派として結成されるものである。しかし,会派は,市政に対する基本政策で一致する議員が結束した団体であり,議会運営は会派を中心として行われ,その所属議員に対しては,表決,選挙等における拘束性を有するものである。したがって,会派の活動は,実質的には,議員の任期をもって終了するわけではなく,改選前後を通じて継続しているものというべきである。
そして,地方議会議員の調査研究活動基盤の充実を図るという政務調査費の立法趣旨にかんがみると,会派中心の議会運営がされている状況にあっては,議員の任期にとらわれない会派の調査研究活動の継続性が不可欠である。
このような観点からすると,改選前の会派が,任期満了直前に,改選後の会派が使用することも想定して備品及び消耗品を購入し,当該購入費を政務調査費から支出したとしても,会派として継続することが明らかな場合には,当該支出は本件使途基準に違反するものではないというべきである。本件使途基準が,備品消耗品費の具体例として,議員の任期を超えて使用可能な耐久消費備品を挙げているのは,このような趣旨を含むものと解される。
また,上記支出が会派の消滅後にされているとしても,会派の存続中に購入が決定され,当該会派としての債務が生じた以上,収支報告書の提出期限(本件では平成15年5月29日)までに支出がされたのであれば,何ら違法はない。本件使途基準においても,支出の時期については,特に規定されていない。
(イ) 人件費(自民党議員団,共産党議員団,民主・都みらい議員団)について
会派が雇用している職員が,その職務として,一般的に調査研究活動を補助するための職務を担当している場合には,当該給料等の支払は本件使途基準に違反しないというべきである。
したがって,原告らが主張する人件費は,いずれも本件使途基準の「人件費」に当たる。
選挙期間中であっても,京都市の山科区や右京区のように,議員の定数と立候補者数とが同数であったため,無投票で当選し,選挙活動を行う必要がなかった議員も存在しており,これらの者は調査研究活動を行える態勢にあった。また,公職選挙法に基づき候補者として立候補した議員は,選挙活動を行っているものの,市民等から市政に対する要望等を聞き,今後の市議会活動のための参考情報を収集するなど,調査研究活動としての面を有する活動を行っていたことは否定できない上,補助職員に指示を与えて調査研究活動を行うことは可能であったものである。これらにかんがみると,原告らが主張するように,本件各会派が平成15年4月には全く調査研究活動を行っていなかったとする根拠はない。
(ウ) 花代(自民党議員団)について
会派控室は,議員同士の会議を実施する場所であるとともに,市民,各種団体等が請願,陳情をはじめ各種要望等のために来室することも多く,応接場所としても使用されている。
購入された花は,会派控室の殺風景な雰囲気を和らげ,来室者の気持ちを落ち着かせて,会議,面談等を円滑に進める役割を果たすものであり,調査研究活動基盤の充実のために有益な費用として,調査研究活動に間接的に資するところがあるから,その購入費は,本件使途基準の「備品消耗品費」に当たる。
(エ) 「赤旗」等の購読料(共産党議員団)について
「赤旗」等は,本件使途基準の「図書等購入費」で例示されている「新聞」に当たる。
「赤旗」等は,日本共産党の機関誌ではあるが,議員の調査研究資料として購読される面を否定することはできない。また,会派に所属する議員が「赤旗」等を個人的に購入していたとしても,これらを,会派として別途,調査研究活動の資料として購入する必要性を否定することはできない。
(オ) タクシー代(共産党議員団)について
タクシー代は,本件使途基準の「通信運搬費」で例示されている「傭車料」に当たる。
前記(イ)のとおり,平成15年4月には,選挙期間中であっても調査研究活動を行える態勢にあったものである。そして,共産党議員団は,会派の調査研究活動を補助する目的で職員を雇用しており,これらの職員が,当該活動の一環として,タクシーを利用したものである。
したがって,上記タクシー代は,会派の調査研究活動と関連するものといえる。
(2) 京都市の損失
(原告らの主張)
本件各会派が交付を受けた平成15年4月分の政務調査費のうち,前記(1)に掲記した各支出は,議員の調査研究に資するため必要な経費以外に使用されたものであるから,京都市は,同額の損失を及ぼされたというべきである。
(被告の主張)
原告らが本件使途基準に違反していると主張する事務機・事務用品は,いずれも,本件各会派の政務調査活動を継承し,実質的には同一会派といえる改選後の会派の調査研究活動のために必要なものであり,現実に,そのために継続して利用されている。
したがって,仮に,本件各会派が上記事務機・事務用品に係る支出をしていなくても,改選後の会派において当該支出をすることが明らかであるから,京都市には当該支出相当額の損失はないというべきである。
(3) 不当利得返還請求をすべき相手方
(原告らの主張)
本件各会派は,いずれも平成15年4月29日に消滅したが,会派自体は,権利義務の帰属主体となるものではなく,会派に交付された政務調査費は,会派に所属していた各議員に連帯して帰属すると解されるから,これに関する不当利得返還債務は,本件各会派に所属していた各議員が,連帯して負担するというべきである。
本件条例15条が,当該会派が解散した場合には,市長は当該会派の代表者であった者に対し既に交付した政務調査費の返還を命じることができると規定しているのは,手続的に当該請求は旧会派の代表者であった者に対してすればよい旨を定めたものにすぎず,旧会派の代表者一人が債務を負う旨を定めたわけではないと解される。
(被告の主張)
市議会の運営は,会派を中心として行われ,会派は,所属する議員に対し,表決,選挙等における拘束性を有していることにかんがみると,会派の法的性質は,社団であると解するべきである。
そして,政務調査費の返還について規定している本件条例15条は,市長に対して会派政務調査費の返還義務を負う者は,当該会派であり,当該会派が既に解散している場合においては,当該会派の代表者であった者であるとしている。なお,会派が解散した場合に会派代表者であった者の返還義務を定めているのは,当該代表者であった者を会派の清算人とみなし,清算人の職務としての返還義務を定めたものにすぎないと解される。
このような規定に照らすと,会派政務調査費が違法に使用されたとして,不当利得返還請求をする場合には,消滅した会派そのもの,あるいは,その代表者であった者を相手方とすべきであり,当該会派に所属していた各議員各自に請求をすることはできないというべきである。
なお,仮に,会派に所属していた各議員が個人責任を負うとしても,当該債務は,各議員に平等の割合で分割されるものと解するべきである。
第3 当裁判所の判断
1(1) 証拠(甲11から甲13まで)及び弁論の全趣旨によると,次の事実を認めることができる。
従前,多くの地方自治体で,議会における会派又は議員に対し,法232条の2の規定を根拠として,調査研究費等の名称で補助金が交付されていたが,地方議会議員の調査研究活動の基盤を充実させ,ひいては地方議会の審議能力を強化し,その活性化を図るため,地方議会の会派又は議員に対する調査研究費等の助成制度を制度化することとされ,平成12年法律第89号による法の一部改正により,政務調査費が法制化された(法100条13項及び14項)。
法100条13項は,政務調査費の交付の対象,額及び交付の方法は,条例で定めなければならないとし,これを受けて,京都市においては,本件条例,京都市政務調査費の交付に関する条例施行規則及び本件規程が制定され,京都市議会の会派又は議員に対し,政務調査費を交付できることとなった。
(2) 法100条13項は,政務調査費の使途について,「議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として」という以上に,具体的な内容を明確にしていない。これは,各地の実情に応じた運用を図るべく,各地方自治体の議会が定める条例にその具体化をゆだねることとしたものと解される。
したがって,政務調査費の使途については,法の趣旨に反しない限りにおいて,各地方自治体における条例の定めるところに従うものと解するのが相当である。
本件条例11条は,政務調査費の使途について,別に定める基準に従って使用しなければならないものとし,これを受けて,本件規程は使途基準を定め(本件使途基準),前記第2の3(2)のとおり,使用が許される支出項目として11項目を挙げ,それぞれについて内容を説明,例示している。このような使途基準は,法100条13項にいう「議員の調査研究に資するため必要な経費」の内容を具体化したものであって,法の趣旨に反するものではないことは明らかである。
したがって,京都市において,政務調査費の交付を受けた会派がこれを使用することができる支出項目であるかどうかは,本件使途基準に従って判断すべきこととなる。
(3) そして,本件条例15条2項は,会派が本件使途基準に基づく経費以外に政務調査費を使用したと認めるときは,市長は,当該会派に対し,既に交付した政務調査費の返還を命じることができる旨定めている。
これは,既に交付された政務調査費について本件使途基準に違反した支出があった場合には,法律上の原因を欠くものとして,それを利得した会派に対し,不当利得として返還すべきことを定めたものと解される。
2 そこで,以下,本件各会派が,平成15年4月分の政務調査費を,本件使途基準に基づく経費以外に使用したかどうかについて,個別に検討する。
(1) 事務機・事務用品の購入費について
ア(ア) 自民党議員団
証拠(甲16,乙1,証人A)及び弁論の全趣旨によると,自民党議員団は,株式会社三井田商事から,ワイヤレスアンプ,液晶プロジェクター,ハイビジョンテレビ及び椅子一式を購入し,平成15年4月30日,その購入費合計244万8600円を,備品消耗品費として,同月分の政務調査費から支出したこと,これらの購入は,同月4月29日までに決定されていたことが認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
(イ) 共産党議員団
証拠(甲18,乙2,証人B)及び弁論の全趣旨によると,共産党議員団は,有限会社いとうから,①ファクシミリを購入し,平成15年5月19日,購入費126万円を支出したこと,②コピー機(代金207万9000円)を購入し,同日,会派負担分27万9000円を支出したこと,③新聞はさみ,ホワイトボード,大型ホッチキス,ホッチキス針,デジタルカメラ及びサイクロンクリーナーを購入し,同年5月13日,購入費合計15万0276円を支出したこと,④これらの購入は,いずれも同月29日までに決定されており,購入費は備品消耗品費として,同年4月分の政務調査費から支出されたことが認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
(ウ) 民主・都みらい議員団
証拠(甲17,乙3,証人C)及び弁論の全趣旨によると,民主・都みらい議員団は,平成15年4月25日までに,京都ゼロックス株式会社からコピー複合機を購入し,同日,購入費69万8250円を,備品消耗品費として,同月分の政務調査費から支出したことが認められる。
イ 前記の事務機・事務用品は,いずれも,本件使途基準にいう「会派が行う調査研究活動のために必要な備品及び消耗品」に当たるというべきである。
この点,原告らは,自民党議員団が購入したハイビジョンテレビ及び共産党議員団が購入したサイクロンクリーナーには,調査研究活動との関連性が認められない旨主張する。
しかしながら,ハイビジョンテレビは,多人数の議員等が参集する会派控室における情報収集活動等に資するものであり,また,サイクロンクリーナーは,会派控室を清潔に保ち,そこで実施される会議,研修会,面談等を円滑に進めるために必要な備品であるから,いずれも,調査研究活動に関連する費用といえないことはない。
ウ 原告らは,平成15年4月分の政務調査費は,本件各会派の調査研究活動に資するために供された資金であるところ,本件各会派は平成15年4月29日に消滅し,選挙後に結成された会派は異なる組織であるから,改選後の会派が使用することを前提として購入された事務機・事務用品は,本件各会派の調査研究活動のために必要なものとはいえないなどと主張する。
しかしながら,政党が市民の政治的意思を集約するために重要な役割を果たしている状況にあって,会派は,政治的信条等を等しくする議員によって結成され,同一の基本方針及び政策を掲げて継続的に活動を行っているものであり,議会運営は会派を中心として行われている。そして,会派の中でも,とりわけ既存の大政党に所属する議員を中心として結成されている会派は,当該政党に所属する議員が一人も当選しないということが通常はないことから,当該政党の基本方針及び政策の下に,個々の議員の任期を超えて,継続的に活動を行っているという実情にある。
このような実情にかんがみると,自民党議員団,共産党議員団及び民主・都みらい議員団のような既存の大政党に所属する議員を中心として結成されている会派(弁論の全趣旨)は,形式的には,所属議員の任期満了日にいったん消滅し,選挙後,改選された議員により新たな組織として結成されるものではあるが,実質的には,その政務調査活動には継続している面があり,社会的にも継続した同一のものと認められていることは否めない。現に,京都市議会において,自民党議員団は昭和31年に,共産党議員団は昭和30年に,民主・都みらい議員団は平成11年に,それぞれ発足し,以後,各会派ごとに基本方針及び政策を掲げて活動を継続していることが認められる(証人A,同B,同C)。
そして,議員の調査研究活動の基盤を充実させ,地方議会の審議能力の強化を図るという前記の法100条13項,14項及び本件条例の趣旨に照らすと,上記のような会派の活動内容及びこれに伴う調査研究活動の継続性という観点を看過することはできないものというべきである。
しかも,本件使途基準は,政務調査費の使途,内容について制限しているが,本件条例や本件規程には,購入した備品・消耗品を使用する時期について特に限定した規定はなく,かえって,本件使途基準において備品等として例示されている品目の中には,机,椅子,コピー機等のように,議員の任期を超える耐用年数を有する物も多く含まれている。
このような会派としての継続性の実態や本件条例等の規定にかんがみると,当該会派と同一とみられる会派が次期以降は存在しない高度の蓋然性があるなどの特別の事情がない限り,購入された事務機・事務用品が,次期以降の会派においても継続して使用されることが想定されていたとしても,そのことから直ちに,本件条例等に違反するとはいえないと解するのが相当である。
また,前記アで認定したとおり,本件各会派における事務機・事務用品の購入費の中には,会派の消滅後に支出がされたものもあるが,これらの購入が決定されたのは,いずれも当該会派の消滅日よりも前であり(この点に反する原告らの主張は,採用できない。),会派の存続中に代金債務が発生したものであるから,その支出の時期が,事務手続上,会派の消滅後になったことをもって,直ちに違法ということはできない。
(2) 人件費(自民党議員団,共産党議員団,民主・都みらい議員団)
ア 証拠(甲16から甲18まで,乙1から乙3まで,証人A,同B,同C)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
(ア) 自民党議員団は,平成15年4月25日,職員3人の同月分の給料,社会保険料事業主負担分及び交通費の合計88万3029円を,共産党議員団は,同月30日,職員2人の同月分のパート賃金の合計20万0644円を,民主・都みらい議員団は,同月25日,職員3人の同月分の給料(通勤手当を含む。)及び社会保険料事業主負担分の合計74万0324円を,それぞれ人件費として,同月分の政務調査費から支出した。
(イ) 選挙の期間中,京都市の山科区や右京区においては,定数と立候補者数とが同数であったため,無投票で当選し,選挙活動を行う必要がなかった議員が存在していた。
また,選挙活動をしている議員であっても,市民から市政に対する意見,要望等があったり,政策上の質問が寄せられるなどして,今後の議員活動の参考となる情報を収集する機会があった。
イ 本件各会派が雇用している職員は,会派の調査研究活動に係る事務を全般にわたり補助するために必要な人員として雇用されているものであり,その給料等は,本件使途基準に定める「人件費」に当たるというべきである。
原告らは,平成15年4月には,調査研究活動が行われていなかった旨主張する。
しかしながら,前記ア(イ)認定の事実に照らすと,同月に選挙が実施されたからといって,およそ会派としての調査研究活動がされていなかったとは認め難く,原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。
(3) 花代(自民党議員団)
ア 証拠(甲16,乙1,証人A)及び弁論の全趣旨によると,自民党議員団は,フラワーショップ花重から,平成15年4月,会派控室に飾る花を購入し,同月25日,その代金合計1万2600円(1週間に1回。1回当たり3150円相当)を同月分の政務調査費から支出したことが認められる。
イ 会派控室は,会派に所属する議員が,会議,研修会等を実施するほか,請願,陳情等のために訪れた市民,各種団体関係者等との面談等に使用することもあるものであり,そこに1週間ごとに3150円相当の花を飾ることは,会議,面談等を円滑に進めるために必要な装飾として,社会通念上,会議等に要する経費,あるいは,調査研究活動に伴う事務の費用といえないことはなく,本件使途基準にいう「備品消耗品費」に当たらないとまでは認められない。
(4) タクシー代(共産党議員団)
ア 証拠(甲18,乙2,証人B)及び弁論の全趣旨によると,共産党議員団は,タクシー代合計11万8910円を,通信運搬費として,平成15年4月分の政務調査費から支出したことが認められる。
イ 原告らは,上記タクシー代には調査研究活動との関連性がない旨主張する。
しかしながら,前記(2)イで述べたとおり,選挙の期間中であるからといって会派の調査研究活動が全く行われていないとは認め難い上,証拠(乙2,証人B)及び弁論の全趣旨によると,タクシーチケットは担当者が管理し,使用目的を政務調査に限定していたこと,上記タクシー代金は,議員の調査研究活動を補助する職員が,調査研究活動のために使用したものであることが認められる。
他に,原告らは,上記タクシー代が調査研究活動と無関係に使用されていることについての具体的な主張,立証をしていない。
したがって,上記タクシー代の支出が本件使途基準に違反するとは認められない。
(5) 「赤旗」の購読料(共産党議員団)
ア 証拠(甲18,乙2,証人B)及び弁論の全趣旨によると,共産党議員団は,日本共産党が発行する新聞である「赤旗」(日刊紙2部・日曜版1部)及び「京都民報」の平成15年4月分の購読料合計7200円を,図書等購入費として,同月分の政務調査費から支出したことが認められる。
イ 上記のような新聞の購読料は,本件使途基準にいう「新聞」に該当すると解するのが相当である。
そして,共産党議員団と密接な関係のある日本共産党が発行する新聞を購読することは,その政党を経済的に支援し,政党の方針及び政策を学習するという側面があるとしても,そのことから直ちに,調査研究活動には関連せず,政治活動に当たるものとはいえない。
また,会派に所属する議員が個人的に購読している新聞であっても,別途,会派の調査研究活動のための資料として購入する必要性がないとはいえない。
したがって,上記購読料の支出は,本件使途基準に違反するとは認められない。
(6) 以上の次第で,本件各会派が平成15年4月分の政務調査費から支出したとするものについては,いずれも,本件使途基準に違反するとは認められないから,不当利得返還請求権の発生を肯認することはできない。
3 よって,原告らの本訴請求は,その余について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項本文に従い,主文のとおり判決する。


京都地方裁判所第3民事部


裁判長裁判官    水上 敏



裁判官    森田浩美



裁判官   斗谷匡志