H17. 8.31 京都地方裁判所 平成12年(行ウ)第3号,平成12年(行ウ)第7号 公金不正支出差止等請求事件

判示事項の要旨:
市の住民が,市発注の清掃工場建設工事の入札において,違法な談合によって入札額が不当につり上がり市が損害を被ったとして,受注業者に対し,市に代位して行った損害賠償の請求が一部認容された事例


            主         文
1 第1事件原告ら及び第2事件原告らの主位的請求に係る訴えを却下する。
2 被告は,京都市に対し,金11億4450万円及びうち金3億7939万4100円に対する平成12年5月8日から,うち金7億6510万5900円に対する平成13年5月26日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 第1事件原告ら及び第2事件原告らのその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,第1事件及び第2事件を通じて,これを5分し,その1を被告の負担とし,その余を第1事件原告ら及び第2事件原告らの負担とする。
            事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 主位的請求
被告は,京都市に対し,248億3947万5500円及びうち76億8500万円に対する平成12年5月8日(第1事件の訴状送達の日)から,うち171億5447万5500円に対する平成13年5月26日(第1事件の請求の拡張申立書送達の日)から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 予備的請求
被告は,京都市に対し,57億3218万6653円及びうち17億7346万1538円に対する平成12年5月8日から,うち39億5872万5115円に対する平成13年5月26日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 第1事件は,京都市の住民である第1事件原告らが,京都市が発注したごみ処理設備建設工事の請負契約の一般競争入札において,被告が違法な談合を行い,その結果,落札価格が不当につり上げられ,京都市が損害を被ったなどと主張して,地方自治法(以下「法」という。)242条の2第1項4号(平成14年法律第4号による改正前のもの)により,上記請負契約等の相手方である被告に対し,主位的には,上記請負契約等は公序良俗に反し無効であるとして,工事代金として受け取った公金(合計248億3947万5500円)相当額の不当利得金及びこれに対する遅延損害金を,予備的には,不法行為に基づく損害賠償金(上記金額の13分の3相当額)及びこれに対する遅延損害金を,それぞれ京都市に支払うよう請求する住民訴訟である。
第2事件は,京都市の住民である第2事件原告ら(以下,これと第1事件原告らとを併せて「原告ら」という。)が,第1事件と同じ被告に対し,同一の請求をして,第1事件に共同訴訟参加をした事件である(なお,第2事件は,第1事件の別件訴訟として提起されたものであるが,共同訴訟参加の要件を満たしているから,その訴えの提起は共同訴訟参加の申立てとして取り扱うのが相当である。)。
2 基礎となる事実(争いのない事実のほか,末尾に掲記した証拠(書証番号はいずれも枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 原告らは,いずれも京都市の住民である。
(2) 被告は,ストーカ式燃焼装置を採用する全連続燃焼式(以下「全連」という。)及び准連続燃焼式(以下「准連」という。)のごみ焼却施設(当該ごみ焼却施設と一体として発注されるその他のごみ処理施設を含む。以下「ストーカ炉」という。)を構成する機械及び装置の製造業並びに清掃施設工事業を営む者である。
(3) ごみ焼却施設の発注方法等
ア 普通地方公共団体(以下「地方公共団体」という。)は,ごみ処理施設を建設する実行年度の前々年度以前に,ごみ処理基本計画を策定し,将来の人口の増減予測に基づいてごみの種別ごとの排出量を推計し,リサイクルすることができるごみの量や地域内で処理が必要なごみの量等を把握した上,その処理のために設置すべき施設の整備計画の概要を取りまとめている。 
そして,地方公共団体は,ごみ処理施設の建設用地の選定,環境アセスメント,都市計画の決定等の手続を経た上,実行年度の前年度にごみ処理施設整備計画書を作成し,都道府県を経由して国に同計画書を提出するところ,工事費用を把握するため,将来の入札に参加させることのできる施工業者を選定し,工事の仕様を提示して参考見積金額を徴している。
国が国庫補助事業として予算計上したごみ処理施設整備事業については,予算計上後に内示がされ,当該地方公共団体は,内示を受けた後,指名競争入札,一般競争入札又は指名見積り合わせ(以下「指名競争入札等」という。)又は特命随意契約のいずれかの方法により発注しているが,ほとんどが指名競争入札等の方法により発注されている。
イ 地方公共団体は,指名競争入札又は指名見積り合わせの方法で発注するに当たっては,入札参加資格申請をした者のうち,地方公共団体が競争入札参加の資格要件を満たす者として登録している有資格者の中から入札参加業者を指名している。
また,地方公共団体は,一般競争入札の方法で発注するに当たっても,資格要件を定め,一般競争入札に参加しようとする者の申請を受けて,その者が当該資格要件を満たすかどうかを審査し,資格を有する者だけを入札参加業者としている。
(4)ア 京都市は,京都市東北部清掃工場(仮称。現在の京都市東北部クリーンセンター。以下「本件清掃工場」という。)のごみ処理設備建設工事(以下「本件工事」という。)の請負契約を一般競争入札の方法により締結することとし,予定価格を222億8571万5000円と定めた上,平成8年11月18日,本件工事の入札(以下「本件入札」という。)を行い,被告が入札価格218億円で落札した。
本件入札には,被告のほか,株式会社タクマ(以下「タクマ」という。),日本鋼管株式会社(現商号はJFEエンジニアリング株式会社。以下「日本鋼管」という。),日立造船株式会社(以下「日立造船」という。),三菱重工業株式会社(以下「三菱重工業」という。),株式会社荏原製作所(以下「荏原製作所」という。)及び株式会社クボタ(以下「クボタ」という。)が参加していた。
イ 京都市は,本件入札の結果に基づき,被告との間で,平成8年12月13日,本件工事について,代金を228億9000万円(うち消費税相当額10億9000万円)とする請負契約(以下「本件ごみ処理設備工事請負契約」という。)を締結した(甲8)。
ウ 京都市は,被告との間で,平成10年9月17日,随意契約の方法により,本件清掃工場の溶融設備建設工事等について,代金を19億4985万円とする請負契約(以下「本件溶融設備工事請負契約」といい,これと本件ごみ処理設備工事請負契約とを併せて「本件各請負契約」という。)を締結した。
(5) 京都市は,被告に対し,本件各請負契約に基づき,別紙2「公金支出経過等一覧」記載のとおり,代金を支払った(甲16から甲23まで,乙3,乙4)。
(6) 公正取引委員会(以下「公取委」という。)は,平成11年8月13日,被告,日立造船,日本鋼管,タクマ及び三菱重工業(以下,これらを併せて「5社」という。)が,遅くとも平成6年4月以降,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注するストーカ炉の建設工事について,共同して,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた事実が認められ,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)3条の規定する「不当な取引制限」(独禁法2条6号)の禁止に違反するとして,5社に対し,独禁法48条2項に基づき排除勧告(以下「本件排除勧告」という。)をした。
5社が本件排除勧告を応諾しなかったため,公取委は,平成11年9月8日,審判開始決定をした。なお,公取委の平成16年3月29日付け審決案においては,本件工事を含む合計30件の工事について,5社による談合の事実が認定されている(甲査190)。
(7) 第1事件原告らは,京都市監査委員に対し,平成11年12月24日,監査請求を行ったところ,同監査委員は,平成12年1月14日,監査請求期間徒過を理由にこれを却下した。
また,第2事件原告らは,同監査委員に対し,同年2月4日,監査請求を行ったところ,同監査委員は,同月17日,監査請求期間徒過を理由にこれを却下した(以下,原告らの上記各監査請求を併せて「本件各監査請求」という。)。
3 本件の争点
(1) 主位的請求
ア 本案前の争点
主位的請求に係る訴えは,適法な監査請求を経たものであるか否か。
(ア) 監査請求期間の起算日は,いつであるか(以下,この点を「争点1」という。)。
(イ) 本件各監査請求が監査請求期間を徒過してされたものである場合,法242条2項ただし書にいう「正当な理由」があるか否か(以下,この点を「争点2」という。)。
イ 本案の争点
(ア) 本件ごみ処理設備工事請負契約は,公序良俗に反し,無効であるか否か。
この点に関し,被告が本件入札において談合を行ったか否かが争点となる(以下,この点を「争点3」という。本件ごみ処理設備工事請負契約が談合に基づいて締結された後に,そのような談合に基づく契約が公序良俗に反するものとして無効となるかどうかが問題となる。)。
(イ) 本件溶融設備工事請負契約は,無効か否か。
a 本件溶融設備工事請負契約は,随意契約の方法により締結されたことにより,無効となるか否か。
その前提として,京都市が本件溶融設備工事請負契約を随意契約の方法により締結したことは違法か否かが争点となる(以下,この点を「争点4」という。)。
b 本件溶融設備工事請負契約は,本件ごみ処理設備工事請負契約が無効であることにより,無効となるか否か(以下,この点を「争点5」という。)。
(ウ) 被告の利得及び京都市の損害
(2) 予備的請求
ア 本案前の争点
(ア) 本件各監査請求の対象と予備的請求に係る訴えの対象とは,同一であるか否か(以下「争点6」という。)。
(イ) 京都市長は,損害賠償請求権の行使を違法に怠っているか否か(怠っていることの違法性が訴訟要件かどうかを含み,訴訟要件でない場合には本案の争点となる。以下「争点7」という。)。
イ 本案の争点
(ア) 被告は,本件入札において,談合を行ったか否か(争点3)
(イ) 京都市が本件溶融設備工事請負契約を随意契約の方法により締結したことは,違法か否か(争点4)。
(ウ) 京都市が被った損害及びその額(以下「争点8」という。)
4 争点1から争点8までについての当事者の主張
(1) 争点1(監査請求期間の起算日)について(主位的請求に係る本案前の争点)
(被告の主張)
本件各監査請求は,本件各請負契約が無効であることに基づき発生する実体法上の請求権の行使を怠る事実に係る監査請求であるから,法242条2項の監査請求期間の制限が適用される。
そして,原告らは,本件各請負契約の締結自体を財務会計上の行為として,その違法を主張するものであるから,監査請求期間の起算日となる同項の「当該行為のあった日又は終わった日」とは,本件各請負契約の各締結日をいうものと解される。
しかるに,本件各監査請求は,いずれも本件各請負契約の各締結日から1年以上経過した後に行われているから,監査請求期間を徒過した不適法なものである。
(原告らの主張)
建築請負契約のように,契約の締結とその履行としての代金の支払との間に時間的間隔のある契約においては,契約の締結及び代金の支払を一連の行為とみて,最後の代金支払日をもって監査請求期間の起算日と解するべきである。そうでないとしても,少なくとも,各代金支払日を監査請求期間の起算日と解するべきである。
したがって,本件各監査請求は,監査請求期間を徒過したものとはいえない。
(2) 争点2(法242条2項ただし書にいう「正当な理由」の有無)について(主位的請求に係る本案前の争点)
(原告らの主張)
原告らは,平成11年8月18日に本件排除勧告に係る勧告書を入手したものであり,原告らが本件入札において談合が行われていたという事実を知ったのは,同日以降である。
そして,原告らは,その後,被告が本件排除勧告を受諾するか否かという動向を見守る必要があったこと,本件の事案は複雑であり,監査請求の準備のために時間を要したこと等の事情を考慮すれば,本件各監査請求が同日から約4か月後に行われたことをもって,相当な期間を徒過したとはいえない。
したがって,本件各監査請求が監査請求期間を徒過したものであるとしても,法242条2項ただし書にいう「正当な理由」がある。
(被告の主張)
平成10年9月17日及び翌18日には,公取委が5社に対し独禁法違反容疑で立入検査を実施した旨の新聞報道がされたこと,本件とほぼ同一の事実関係に基づく浦和市(当時)発注のごみ焼却炉建設工事請負契約に係る監査請求は同年12月に行われていること等にかんがみると,原告らは,相当の注意力をもって調査すれば,同月ころ,あるいは,遅くとも公取委が5社の談合についてほぼ断定した旨の新聞報道がされた平成11年8月9日ころまでには,監査請求が可能な程度の事実を知ることができたというべきである。
仮に,原告らが,本件排除勧告に係る勧告書を入手した同月18日まで談合に関する事実を知り得なかったとしても,本件各監査請求は,いずれもその日から4か月以上経過した後に行われているから,相当な期間を徒過したものというべきである。
したがって,本件各監査請求が監査請求期間を徒過したことに,「正当な理由」はない。
(3) 争点3(本件入札における談合の有無)について(主位的請求及び予備的請求に係る本案の争点)
(原告らの主張)
被告は,以下のとおり,本件入札において,談合を行ったというべきである。
ア 5社間では,遅くとも平成6年4月以降,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注するストーカ炉の建設工事について,受注機会の均等化を図るため,次のような基本合意(以下「本件基本合意」という。)が成立していた。
(ア) 地方公共団体が建設を計画していることが判明した工事について,5社の各社が受注希望を表明し,①受注希望者が1社の工事については,その者を受注予定者とし,②受注希望者が複数の工事については,受注希望者間で話し合い,受注予定者を決定する。
(イ) 5社間で受注予定者を決定した工事について,5社以外のプラントメーカー(以下「アウトサイダー」ともいう。)が指名競争入札等に参加する場合には,受注予定者は自社が受注できるようにアウトサイダーに協力を求める。
(ウ) 受注予定者は受注すべき価格を定め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する。
イ 5社は,本件基本合意に基づき,次のような方法により談合を行っていた。このことは,5社の関係者の公取委審査官に対する供述調書等からも明らかである。
(ア) 5社は,地方公共団体が建設を計画している工事について,各社が把握している情報を明らかにし合い,情報交換を行って各社の認識を一致させる。
(イ) 5社は,「張り付け会議」と称する会合を開催し,情報交換によって明らかになった工事のうち受注を希望する工事を表明する。
 希望者が重複しなかった工事は,その希望者を受注予定者とし,希望者が重複した工事は,希望者間で話し合い,受注予定者を決定する。
(ウ) 受注予定者の決定は,規模別(1日当たりのごみ処理能力を基準とする。以下同じ。)に,大型(400トン以上),中型(200トン以上400トン未満)及び小型(200トン未満)の3つに区分して行う(ただし,平成8年末ころより以前は,「400トン以上の全連」,「400トン未満の全連」及び「准連」に区分していた。)。
(エ) 受注予定者の決定に当たっては,各社の受注する工事のトン数の合計が均等になるようにし,各社の受注実績等を基に,あらかじめ一定の方式により算出した数値を勘案して行う。
(オ) アウトサイダーが入札に参加する場合には,受注予定者は,自社が受注できるように協力を求め,その協力を得る。時には,受注に相当協力したアウトサイダーに受注させることもあり,この場合には他の4社の了解を得る。
もとより,アウトサイダーが入札参加業者にならないよう,発注者に対し,5社のみを指名するよう働きかける。
(カ) 受注予定者は,自社の受注価格を定めるほか,他の4社の入札価格を定めて各社に連絡する。受注予定者以外の者は,受注予定者から連絡を受けた入札価格で入札し,受注予定者が定めた価格で受注できるように協力する。
ウ 被告のストーカ炉の営業担当者であるaが所持していたリスト(別紙3の「年度別受注予想」と題する表(甲査89の1枚目。以下「aリスト」という。))は,平成7年9月28日時点で,5社が既に受注予定者を決定していた工事を,会社別の一覧表にまとめたものである。
aリストには,本件工事を表す「京都市-北700」という記載があり,その横に被告を表す「K」という文字が記載されており,これは,本件工事の受注予定者として被告が決定されていたことを示すものである。
したがって,本件入札については,遅くとも上記時点までに,本件基本合意に基づく個別談合がされ,被告を本件工事の受注予定者とすることが決定されていたというべきである。
しかも,本件入札においては,入札に参加した7社のうち,被告及び荏原製作所以外の入札価格はいずれも予定価格を上回っており,予定価格をわずかに下回った被告と荏原製作所のうち,より入札価格の低い被告が落札したものであり,このような事実も,個別談合の存在を推認させる。
(被告の主張)
ア 本件基本合意について
5社間で本件基本合意が成立していたとの事実は,否認する。
本件基本合意について供述した関係者の公取委審査官に対する供述調書等には,およそ信用性がない。
また,原告らは,受注予定者を決める基本,受注対象物件の区分といった本件基本合意の核心部分である受注予定者の決定方法について,矛盾した主張をしている。
イ 個別談合について
本件入札において,本件基本合意に基づく個別談合がされ,被告を受注予定者とすることが決定されたとの事実は,否認する。
原告らは,本件入札に係る個別談合について,その主体,時期,受注予定者や受注予定価格の決定方法等の具体的内容を主張せず,請求原因事実を特定していない。
また,原告らは,個別談合について,何ら立証もしていない。原告らが,個別談合の直接証拠であると主張するaリストは,被告が独自に業界内の競争相手の動向を折り込んで受注予想を記載した社内資料にすぎない上,「京都市-北700」という記載は,本件清掃工場とは別の京都市北部クリーンセンターを表すものである。
さらに,本件入札にはアウトサイダーとして荏原製作所及びクボタが参加しているところ,原告らは,被告が,自社が受注できるように両社に対し協力要請をし,両社がこれに応じたという具体的事実について,全く主張立証せず,これを認めるに足りる証拠は一切存在しない。かえって,弁護士法23条の2第1項に基づく照会に対する荏原製作所及びクボタの回答書に照らすと,両社が被告からの協力要請を受けていなかったことは明らかである。
(4) 争点4(本件溶融設備工事請負契約を随意契約の方法により締結したことの違法性)について(主位的請求及び予備的請求に係る本案の争点)
(原告らの主張)
溶融設備は,焼却灰や飛灰を溶融炉で溶融し,これを減容化・無害化・資源化する,ごみ処理設備とは別個の設備であるから,その工事について,競争原理を排除してまで,ごみ処理設備工事を請け負った業者に行わせるのが適当であるということはできない。
したがって,本件溶融設備工事請負契約は,競争入札によらないで随意契約の方法により締結することができる場合を定めた地方自治法施行令(以下「法施行令」という。)167条の2第1項各号のいずれにも該当しないから,法234条2項に違反し,違法である。
(被告の主張)
本件溶融設備工事請負契約は,本件ごみ処理設備工事請負契約に関連して,焼却炉等の基幹部分に設備を付加する工事であり,技術的見地及び経済的見地から,随意契約の方法により締結されたものである。
このように,京都市長が本件溶融設備工事請負契約の締結について法施行令167条の2第1項2号に該当すると判断したことには合理性があり,本件溶融設備工事請負契約を随意契約の方法により締結したことは,何ら違法ではない。
なお,仮に,本件溶融設備工事請負契約を随意契約の方法により締結したことが法令に違反するとしても,これによって,当該契約が私法上当然に無効となるわけではない。
(5) 争点5(本件ごみ処理設備工事請負契約が無効であることにより,本件溶融設備工事請負契約は無効となるか否か。)について(主位的請求に係る本案の争点)
(原告らの主張)
本件ごみ処理設備工事請負契約は,公序良俗違反により無効というべきであるから,これに付随して締結された本件溶融設備工事請負契約についても,随意契約の方法により締結することが許容された基礎を失い,無効と評価されるべきである。
(被告の主張)
本件溶融設備工事請負契約は,本件ごみ処理設備工事請負契約とは別個独立の契約であり,随意契約の方法により締結されたものであるから,仮に,本件ごみ処理設備工事請負契約が公序良俗違反により無効であるとしても,これによって本件溶融設備工事請負契約が当然に無効となるわけではない。
(6) 争点6(本件各監査請求の対象と予備的請求に係る訴えの対象との同一性)について(予備的請求に係る本案前の争点)
(被告の主張)
本件各監査請求は,本件各請負契約の無効等を理由として,不当利得に基づき既に支払われた工事代金の返還,将来の支払の差止め等の措置を講ずることを求めたものであり,被告の談合という不法行為に基づく損害賠償請求権の行使ないし当該請求権の怠る事実について監査請求の対象としていたものではない。
したがって,予備的請求に係る訴えは,適法な監査請求を経ずに提起されたものであり,不適法である。
(原告らの主張)
監査請求と住民訴訟の請求との同一性については,住民の実質的な不服の内容を考慮して,請求の同一性があれば足りるものと解される。
本件各監査請求は,被告の談合という違法行為により京都市が損害を被ったことを指摘した上で,工事代金の返還,公金支出の差止め等の適切な措置を講ずることを求めたものであり,その適切な措置の一つとして,損害賠償請求をも含むものである。
したがって,本件各監査請求は,損害賠償請求を怠る事実の是正についても求めていたといえるから,本件各監査請求の対象と予備的請求に係る訴えの対象には,同一性がある。
(7) 争点7(怠る事実の違法性)について(予備的請求に係る本案前ないし本案の争点)
(被告の主張)  
住民訴訟において,財産の管理を怠る事実の違法性は,適法な住民訴訟を提起するための前提となるものであり,訴訟要件であると解するべきである。
京都市長は,民法709条に基づく損害賠償請求訴訟を提起するか,公取委の審決確定後に独禁法25条に基づく損害賠償請求訴訟を提起するかについて,選択権を有するところ,公取委の審決により被告の違反行為が確定した場合には,独禁法25条に基づく損害賠償請求を検討するという方針を選択したものと解される。
そして,公取委の審決確定後は,審判事件の記録に依拠して主張立証をすることが可能であり,立証責任も大幅に軽減されることに照らすと,京都市長が審判事件の進行中にあえて民法709条に基づく損害賠償請求訴訟を提起しないという選択をしたことは,合理的裁量の範囲内にあり,違法とはいえない。
したがって,現時点において,京都市長が違法に損害賠償請求権の行使を怠る事実が存在しないことは客観的に明白であるから,予備的請求に係る訴えは不適法である。
仮に,怠る事実の違法性が,訴訟要件ではなく,実体要件であるとしても,上記のとおり,京都市長の損害賠償請求権の不行使を違法と評価することができないことは明らかであるから,具体的な損害賠償請求権の存否について判断するまでもなく,原告らの請求は棄却されるべきである。
(原告らの主張)
独禁法違反の行為によって自己の法的利益を害された者は,当該行為が民法上の不法行為に該当する限り,これに対する審決の有無にかかわらず,別途,一般の例に従って損害賠償を請求することを妨げられない。
したがって,現時点において,京都市長が損害賠償請求権を行使することは法律上当然可能であるから,これを怠る事実が存在していることは明らかである。
そして,住民訴訟の口頭弁論終結時において,不法行為の相手方に対する損害賠償請求権の存在が認められる場合には,地方公共団体が被った損害の早期回復が図られるべきであるから,長が当該請求権の行使を怠っている事実は違法と評価されるべきである。
(8) 争点8(京都市が被った損害及びその額)について(予備的請求に係る本案の争点)
(原告らの主張)
ア 被告の談合によって京都市が被った損害額を立証することは,その性質上不可能であるから,損害額については,民事訴訟法(以下「民訴法」という。)248条により,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて認定されるべきである。
別紙4「ストーカ炉の建設工事一覧」(以下「工事一覧表」という。)のとおり,平成6年4月1日から平成10年9月17日までの間に地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注したストーカ炉の建設工事において,中型以上の規模のもののうち,公取委の審決案において談合が認定されたもの(1番から5番まで,9番から11番まで,14番,17番,18番,21番,29番,35番,36番,38番,39番,43番,44番,49番,51番,54番,58番,60番,61番,73番,74番,76番,80番,83番から85番まで)の平均落札率(落札率とは,落札価格の予定価格に対する割合をいう。以下同じ。)は98.75%であるのに対し,談合が認定されず,かつ,明らかに談合が行われた形跡が認められない工事(41番,42番,70番)の平均落札率は66.52%であり,両者の間には32.23%もの差が生じている。
したがって,本件入札においても,談合により本件ごみ処理設備工事請負契約の落札価格は不当につり上げられたものであり,京都市は,少なくとも落札価格の30%に相当する金額について損害を被ったというべきである。
イ 前記のとおり,本件ごみ処理設備工事請負契約の価格は談合により不当につり上げられたところ,これを前提として競争原理を排除して随意契約の方法により締結された本件溶融設備工事請負契約の価格についても,同様に不当につり上げられたと推認すべきである。
ウ よって,原告らは,被告に対し,前記損害のうち,本件各請負契約の代金額の13分の3に相当する合計57億3218万6653円について,京都市に支払うよう請求する。
(被告の主張)
民訴法248条は,損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときに限って適用されるものであり,原告らは,損害額について,可能な限りの立証を要する。しかるに,原告らは,損害の発生及びその額について,主張立証を尽くしていない。
また,公正な自由競争を前提としても,予定価格に近い落札価格で落札されることはいくらでもあり得るのであって,原告らの主張のように,落札率の高低と談合の有無とを短絡的に結び付けることには合理性がない。落札率は,予定価格がどの程度の金額に設定されるかによって変動する,極めて相対的な数値というべきである。
しかも,原告らが談合が行われたとする事案と談合が行われた形跡が認められないとする事案との間に顕著な落札率の差がみられるのは,落札率の高低を基準として談合の有無が判断されているからにほかならず,明らかな循環論法である。
第3 争点に対する判断
1 主位的請求について
(1) 争点1(監査請求期間の起算日)について
原告らは,本件各監査請求において,本件各請負契約は談合により締結されたものであり,無効又は取消し・解除をすべき行為である旨主張していたものであるから,本件各監査請求の対象とされた財務会計上の行為は,本件各請負契約の締結行為という支出負担行為であったものと解される。
そうすると,本件各監査請求において,監査請求期間の起算日となる法242条2項の「当該行為のあった日又は終わった日」とは,本件各請負契約の締結日をいうものと解するのが相当である。
そして,前記基礎となる事実のとおり,本件ごみ処理設備工事請負契約は平成8年12月13日に,本件溶融設備工事請負契約は平成10年9月17日に,それぞれ締結されたところ,本件各監査請求は,これらの各締結日から1年以上経過した後(第1事件原告らは平成11年12月24日,第2事件原告らは平成12年2月4日)に行われているから,いずれも監査請求期間を徒過したものというべきである。
これに対し,原告らは,契約の締結とその履行としての代金の支払とを一連の行為とみて,本件各請負契約の最後の代金支払日,あるいは少なくとも各代金支払日を監査請求期間の起算日と解するべきである旨主張する。
確かに,契約の締結といった支出負担行為と当該契約に基づく支出とは,一連の行為ではあるが,その権限が属する者や,それぞれの行為に適用される実体上,手続上の財務会計法規の内容は同一ではなく,互いに独立した財務会計上の行為というべきものであり,監査請求において,これらの行為のいずれを対象とするのかにより,監査すべき内容も異なることになる。したがって,支出負担行為及び支出については,その監査請求期間は,それぞれの行為のあった日から各別に計算すべきものというべきである(最高裁平成11年(行ヒ)第131号同14年7月16日第三小法廷判決・民集56巻6号1339頁参照)。これを実質的にみても,契約の履行としての支出について固有の違法事由を主張せず,単に契約の締結が違法であることを理由に,支出が違法であると主張した場合に,当該支出の日をもって監査請求期間の起算日と解するとすれば,契約締結行為を対象とする監査請求の期間が経過した後であっても実質的に契約内容の違法について争えることとなり,財務会計上の行為を早期に確定させ,法的安定性を図るために監査請求期間の制限を設けた法の趣旨を没却することとなり,相当ではない。
したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。
(2) 争点2(法242条2項ただし書にいう「正当な理由」の有無)について
法242条2項ただし書にいう「正当な理由」の有無は,特段の事情のない限り,地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか,また,当該行為を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきである(最高裁昭和62年(行ツ)第76号同63年4月22日第二小法廷判決・裁判集民事154号57頁参照)。
これを本件についてみると,証拠(末尾に掲記した各書証)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
ア 京都市住民の一部は,本件清掃工場の建設について,その計画段階から強い関心を有しており,平成3年以降,京都市と交渉を重ね,随時建設計画に関する情報の提供を求め,平成10年には,本件清掃工場の建設工事の差止めを求める訴えを提起していた(甲2から甲4まで)。
イ 公取委は,地方公共団体が発注するストーカ炉の入札について5社が談合を繰り返している疑いがあるとして,平成10年9月17日,独禁法違反容疑により5社に対する立入検査を実施した。
朝日新聞,読売新聞,日本経済新聞等の複数の新聞は,同日又は翌18日,5社の社名を掲げて,上記事実を報道した(甲9)。
ウ 朝日新聞は,平成10年10月29日,昭和53年に5社,荏原製作所及びクボタの各担当者が会合を開催し,地方公共団体が発注するストーカ炉の建設工事を対象として,過去の実績に応じて各社の年間受注トン数の割合を定め,各社の受注希望を星取表にまとめるなどの受注調整をしていた旨を報道した(甲10)。
エ 読売新聞は,平成11年8月9日,朝刊第1面で,地方公共団体が発注するストーカ炉の入札をめぐる談合疑惑で,公取委が5社に対して排除勧告をすると決め,1社当たり30億円を超える課徴金が課される可能性もある旨を報道し,平成8年度から平成10年度までに5社が受注した主な焼却炉の一覧表を掲載した。この一覧表には,被告の受注物件として,本件清掃工場に該当する「京都市・東北(218億円)」という記載がされていた(甲12)。
オ 公取委は,平成11年8月13日,5社に対し本件排除勧告をし,原告らは,同月18日,本件排除勧告に係る勧告書をファクシミリで取り寄せた。
上記認定の事実によれば,原告らは,相当の注意力をもって調査すれば,遅くとも,本件工事を掲記した新聞報道がされた平成11年8月9日ころまでには,上記新聞報道等に基づき,監査請求の対象を特定し,その違法事由を監査請求書に摘示することは十分可能であったというべきである。
ところが,第1事件原告らが監査請求をしたのは同年12月24日,第2事件原告らが監査請求をしたのは平成12年2月4日であり,それぞれ平成11年8月9日から約4か月半,あるいは約6か月経過しているものであるから,原告らが,被告が本件排除勧告を応諾するか否かという推移を確認し,監査請求の準備のため慎重に事実関係を調査する必要があったという事情を勘案しても,本件各監査請求は相当な期間を徒過しているといわざるを得ない。
したがって,原告らが監査請求期間を徒過したことについて,法242条2項ただし書にいう「正当な理由」があるということはできない。
(3) 以上によれば,原告らの主位的請求に係る訴えは,適法な監査請求を経たものとはいえないから,その余の点を判断するまでもなく,不適法というべきである。
2 予備的請求について
(1) 争点6(本件各監査請求の対象と予備的請求に係る訴えの対象との同一性)について
被告は,本件各監査請求は,本件ごみ処理設備工事請負契約の無効等を理由として,不当利得に基づき工事代金として受け取った公金相当額の返還等を求めるものであるのに対し,予備的請求に係る訴えは,被告の談合という不法行為に基づき損害賠償を求めるものであるから,両者には同一性がない旨主張する。
しかしながら,住民訴訟とこれに前置されるべき監査請求とは,その対象が同一でなければならないものではあるが,両者の同一性は,必ずしも形式的な同一性を要するわけではなく,実質的な同一性があれば足りると解される。
これを本件についてみると,本件各監査請求と予備的請求に係る訴えとは,いずれも,本件入札における被告の談合の事実を指摘して,本件各請負契約の締結という財務会計上の行為を対象としているものである。また,本件各監査請求は,京都市に対し,既に支払われた工事代金の返還,支払の差止め等の是正措置を講ずることを求めているが,このような是正措置には,地方公共団体が被った損害を補填するために必要な措置を講ずべきこと,すなわち,被告に対して損害賠償を求める訴えを提起することも含まれていると解するのが相当である。
したがって,本件各監査請求の対象とされた行為と予備的請求に係る訴えの対象とされた行為とには,同一性が認められるというべきである。
(2) 争点7(怠る事実の違法性)について
独禁法違反の行為によって自己の法的利益を害された者は,当該行為が民法上の不法行為に該当する限り,これに対する審決の有無にかかわらず,別途,一般の例に従って損害賠償の請求をすることを妨げられない(最高裁昭和60年(オ)第933号・第1162号平成元年12月8日第二小法廷判決・民集43巻11号1259頁参照)。
原告らは,京都市は,被告が談合により本件ごみ処理設備工事請負契約を締結したという不法行為に基づく損害賠償請求権を有しているにもかかわらず,京都市長がこれを行使しないとして,法242条の2第1項4号に基づき,被告に対し,京都市に代位して損害賠償請求訴訟を提起したものであるところ,京都市長が現に被告に対してかかる損害賠償請求権を行使していないことは,当裁判所に顕著である。
ところで,地方公共団体の債権については,その長がこれを行使すべき義務を負い,行使するか否かについての裁量の余地はほとんどないものと解される(法施行令171条以下。なお,法96条1項10号参照)。したがって,長が,法施行令171条の5に定める場合でないのに,相当期間債権を行使しないときは,それを正当とする特段の事情のない限り,違法というべきである。
この点,被告は,京都市長が公取委の審決が確定するまで上記損害賠償請求権を行使しないことには合理性がある旨主張する。
しかしながら,公取委の審判手続において,被告を含む5社が談合の事実を全面的に否認して争っている状況にかんがみると,審決が確定するまでには,審決取消訴訟の帰すう等を含め,なお長期間を要することが想定される。しかるに,その間,京都市長が上記損害賠償請求権を行使しないでいるとすれば,地方公共団体の被った損害の回復が図られない状態が長期間継続し,法242条の2第1項4号に基づく損害賠償代位請求訴訟の目的に沿わないばかりか,将来,被告から,上記損害賠償請求権の消滅時効が援用されるなどして,債権の行使に支障が生じる危険性も生じかねず,上記損害賠償請求権を行使しないことを正当とする特段の事情に当たるとはいえない(なお,独禁法25条の規定に基づく損害賠償請求が将来可能になるとしても,そのことが,現に発生している不法行為に基づく損害賠償請求権を現に行使しないことを正当化する理由とはならない。)。
そして,本件において,かかる損害賠償請求権が発生していることは,後記認定判断のとおりであるから,怠る事実の違法性が訴訟要件であるか実体要件であるかを問わず,いずれにせよ,被告の主張は失当である。
(3) 争点3(本件入札における談合の有無)について
ア 証拠(甲査29,甲査31,甲査149,甲査160)及び弁論の全趣旨によれば,ストーカ炉の建設工事市場における5社の地位について,以下の事実が認められる。
(ア) ストーカ炉の建設工事のプラントメーカーとしては,5社のほかに,荏原製作所,クボタ,住友重機械工業株式会社(以下「住重」という。),ユニチカ株式会社(以下「ユニチカ」という。),石川島播磨重工業株式会社(以下「石川島播磨重工」という。),株式会社川崎技研,三機工業株式会社等が存在している。
これらのプラントメーカーの中でも,5社は,ストーカ炉の建設工事について,施工実績の多さ,施工経歴の長さ,施工技術の高さ等から,「大手5社」と称されている。
(イ) 平成3年度から平成7年度(平成7年9月11日現在)までの5年間に,ストーカ炉(100トン以上)の建設工事について,発注者である地方公共団体から指名を受けた実績をみると,5年間の全体指名率は,三菱重工業は95.4%,タクマは87.4%,日本鋼管は86.0%,被告は85.9%,日立造船は85.0%であり,一方,荏原製作所は24.1%,クボタは17.2%,石川島播磨重工は4.7%,ユニチカは4.0%にとどまり,5社とそれ以外のプラントメーカーとの間には大きな格差が存在していた。
(ウ) 平成4年度から平成9年度までの間に,5社を含むプラントメーカーがストーカ炉の建設工事を受注した実績をみると,日立造船は6739トン(シェア15.0%),タクマは6520トン(同14.5%),三菱重工業は5315トン(同11.9%),日本鋼管は5297トン(同11.8%),被告は3977トン(同8.9%)であり,一方,荏原製作所は1729トン(同3.9%),クボタは1620トン(同3.6%),住重は1324トン(同3.0%),ユニチカは457トン(同1.0%)にとどまっていた。
また,平成6年4月1日から平成10年9月17日までの間に,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注したストーカ炉の建設工事の件数は87件であり(その発注者,全連・准連の別,処理能力,落札業者等の詳細は,工事一覧表のとおり。),発注トン数(トン数は,1日当たりのごみ処理能力を示す。以下同じ。)は2万3529トン,発注金額は約1兆1031億円である。そのうち,5社のいずれかが受注した件数は66件であり,受注トン数は,発注トン数の約87.3%に相当する2万0534トン,受注金額(落札金額による。以下同じ。)は,発注金額の約87%に相当する約9601億円に及んでいた。
このように,ストーカ炉の建設工事の受注実績においても,5社とそれ以外のプラントメーカーとの間には,大きな格差が存在していた。
イ 本件入札について談合が存在したことを推認させる事実又は証拠として,次のようなものがある(なお,固有名詞については,甲査190に基づき適宜補充している。)。
(ア) 5社の会合の開催
証拠(甲査33,甲査46,甲査104,甲査105,甲査139)によれば,5社は,持ち回りで会合を開催していたこと,この会合には,三菱重工業から本社機械事業本部環境装置第一部環境装置一課長b,日立造船から環境・プラント事業本部環境東京営業部長c,日本鋼管から環境第一営業部第一営業室長d,タクマから環境プラント統轄本部東京環境プラント部第二課長e,被告から本社機械・環境・エネルギー事業本部環境装置営業本部環境装置第一営業部長f(平成8年4月以前はg)が出席していたこと,これらの者は,5社各社の本社のごみ焼却施設の営業担当部門の課長ないし部長待遇の者であり,ストーカ炉の建設工事の選定過程や入札価格の決定過程に関与し得る立場にあったことが認められる。
(イ) 関係者の供述
5社がストーカ炉の発注予定物件について受注予定者を決定する行為をしていたことについて,5社の関係者は,以下のとおり供述している。
a 三菱重工業のbの供述
(a) bは,昭和61年10月から,三菱重工業本社の機械事業本部環境装置第一部環境装置一課に所属し,平成6年4月,同課主務(課長待遇)に,平成8年4月,同課課長に就任し,ごみ処理プラントの官公庁部門の営業の実質的な責任者として,受注物件,販売価格等を決定していた(甲査28)。
bの公取委審査官に対する平成10年9月17日付けの各供述調書(甲査28,甲査46)には,おおむね次のような供述部分がある。
「bは,平成6年4月以降,5社の会合に出席するようになった。会合の出席者は,どのような発注予定物件があるかについて,共通の認識を有しており,各出席者が,発注予定物件について受注希望を出して「チャンピオン」と呼ばれる受注予定者を決定する。受注希望者が1社の場合には,当該会社が受注予定者となり,受注希望者が2社以上の場合には,希望者同士が話し合って受注予定者を決定する。発注予定物件は,規模別に,400トン以上の大型,200トン以上の中型及び200トン未満の小型の3つに区分し,それぞれに分けて受注希望を確認している。受注予定者の決定は,各社が平等に受注することを基本とし,各社の受注物件の処理能力の合計が平等になるようにしている。受注予定者は,指名を受けた物件について積算し,5社を含む各相指名業者に入札の際に書き入れる相手方の金額を電話等で連絡して協力を求めている。5社以外の会社が一緒に指名を受けた場合には,受注予定者が個別に当該会社に協力を求め,受注予定者が受注できるようにしている。」
(b) bの供述の信用性
bの上記各供述調書には,5社の会合で受注予定者を決定する方法について,ストーカ炉を規模別に3つに区分し,それぞれについて受注希望物件を確認して受注予定者を決めるなど,具体的であり,実際に会合に出席した者でなければ知り得ない事実が含まれていたことにかんがみると,相当程度の信用性が認められるというべきである。
これに対し,被告は,bの上記各供述調書は,個別具体的な事実関係が述べられておらず,抽象的かつ曖昧な内容である上,客観的事実と明白に異なる記載も多く,更に,b自身,その内容が誤りであると述べているのであるから,およそ信用性がない旨主張する。そして,被告は,①bが環境装置一課長に就任したのは平成8年4月であり,b自身の課長就任時期や職務上の権限に関する記載が客観的事実に反している,②上記各供述調書は,公取委が三菱重工業への立入検査を実施した当日に作成されたものであり,混乱に乗じ,審査官の誤った先入観と予断によって誘導して作成された疑いがある,③上記各供述調書は,bに閲読をさせずに作成されたものであり,bが供述内容を冷静に確認した上で署名指印をしたとはいえず,bの供述内容を正確に記載したものではない,④bの公取委審査官に対する審訊調書(甲査176,甲査189)には,談合の存在を明確に否定しているものがある,などと指摘するので,これらの点について検討する。
①の点については,bは,環境装置一課長に就任する以前である平成6年4月から,同課主務として,実質的には課長と同等の決裁権限を有していたものであるし,bの職務上の権限等に関しても,客観的事実に反する供述がされているとは認められない。
②の点については,上記各供述調書は,公取委が三菱重工業への立入検査を実施した当日に作成されたことからすると,最も記憶が鮮明で,かつ,他の者に相談したり,他の者から示唆又は指示を受けることのない状況で供述されたものと解することができる。しかも,審査官が,立入調査によって収集した証拠を整理・検討するいとまのない時点で事情聴取をしたのであるから,誘導がされた可能性は低いといえ,当日の事情聴取の経緯,内容等に関するbの審訊調書(甲査165から甲査173まで,甲査182から甲査189まで)に照らしても,審査官が,不当にbの意思を抑圧したり誘導したりしたことをうかがわせる事情は認められない。
③の点については,上記各供述調書は,bが,審査官から内容について読み聞かせをされた後,誤りのない旨を申し立てて自ら署名指印をしたものであるから,bに閲読をさせなかったことをもって直ちに,その信用性が低下するとはいえない。また,上記各供述調書の内容は,日本鋼管のdが所持していた,bと審査官とのやり取りを記載したと推認されるメモ(甲査36,甲査80。これらをdが所持していたことについては甲査140)の内容ともおおむね一致していることからすると,bは,自己が供述した内容について十分認識していたものとみることができる。
④の点については,上記のとおり,上記各供述調書には,実際に会合に出席した者でなければ知り得ない具体的事実が含まれていたのに対し,bが,審査官に対して供述した内容を上司や弁護士に報告した後になってから,談合の事実を否認するに転じたという経緯は,むしろ不自然であるというべきである。
以上によれば,被告の主張によっても,bの上記各供述調書の信用性を左右するには足りない。
b 日本鋼管のhの供述
(a) hは,平成8年7月から,日本鋼管大阪支社の機械プラント部環境プラント営業室長を務めていた。
hの公取委審査官に対する平成10年9月18日付けの供述調書(甲査44)には,おおむね次のような供述部分がある。
「大阪支社では,官公庁が発注するごみ処理プラントの見積価格や入札価格については,すべて本社の環境プラント営業部第二営業部第一営業室から指示された価格で対応している。hは,平成8年の秋から冬にかけて,本社環境プラント営業部第二営業部長のi,同部第一営業室長のj及び同室係長のkから,飲食店で酒を飲みながら,ごみ処理プラント施設についてメーカー間で行われている受注調整の話を聞いた。その内容は,「5社のみで指名競争入札が行われる場合には,5社のルールによって,あらかじめ物件ごとにチャンピオンが決められる。5社の担当者が集まる張り付け会議と呼ばれる会議を年1回開催し,5社が情報を有しているストーカ炉の物件について,5社が平等に分け与える形でチャンピオンを決めている。受注希望を出したのが1社の場合には,そのメーカーがチャンピオンになり,複数のメーカーの場合には,そのメーカー間でその場でチャンピオンを決める。ストーカ炉は,規模ごとに,400トン以上の大規模物件,100トン以上400トン未満の中規模物件,100トン未満の小型物件(准連)に分けて,物件ごとにチャンピオンを決める。」というものであった。」
また,hが,部下を指導するために,上記会話の内容をまとめて作成したというメモ(甲査35)が存在し,これには,同様の内容が記載され,受注予定者を決める基本として,「比率は5社イーブン(20%)」,「20%のシェアを維持する方法は受注トン数/指名件数」との記載もされている。

(b) hの供述の信用性
被告は,h及びiは,いずれも受注調整に関わる行為を直接体験した者ではないから,hの供述は再伝聞にすぎず,信用性がない旨主張する。
しかしながら,iは,5社の会合の出席者ではないものの,当時日本鋼管本社の環境プラント営業部第二営業部長の立場にあり,主として西日本地区における営業活動を管理していた者であり,日本鋼管が「賀茂広域行政組合」工事について他の入札参加業者4社の1回目から4回目までの入札価格等を算出した資料(甲査124)を所持していたことからしても,受注調整に関わる行為を直接体験していたということができる。
また,hも,日本鋼管大阪支社において,近畿一円の官公庁が発注するごみ処理プラントの受注業務等の責任者であった者であり,職務の性質上,かねてから各社の受注状況等に関心を持ち,業務上の知識も有していたことを勘案すると,hがi等から聞き取った内容には,相当程度の信用性を認めることができるというべきである。
c 三菱重工業のlの供述
lは,平成8年3月,三菱重工業中国支社の機械一課に配属され,同年4月から同課課長を務め,官公庁向けのごみ焼却施設等の営業を担当していた。
lの公取委審査官に対する平成10年9月18日付け(甲査42),平成11年7月26日付け(甲査43,甲査49)及び同月27日付け(甲査102)の各供述調書には,おおむね次のような供述部分がある。
「lは,前任者のmから引継ぎを受けた際,ごみ処理施設の受注については,5社が,受注機会均等を図るため,受注予定者を決め,受注予定者が受注できるように仲良く話し合っている,実際の入札での受注予定者を決める話合いは,各社の本社レベルで行われていると聞いた。現在,受注調整が行われなくなったとは聞いていない。」
また,lがmから引き継いだ内容を記載したというメモ(甲査40)が存在し,これには,「5社 機会均等」,「全連24H/DAY:東京仲 准連18H/DAY:東京仲 機バ8H/DAY:」など,上記の供述内容に沿う記載がされている。
d 三菱重工業のnの供述
nは,平成元年4月,三菱重工業中国支社の化学環境装置課(後に機械一課に名称変更)に配属され,官公庁向けのごみ焼却施設等の営業を担当していた。
nの公取委審査官に対する平成11年2月4日付け(甲査47)及び同月5日付け(甲査108)の各供述調書には,おおむね次のような供述部分がある。
「nは,化学環境装置課に配属された際,前任者のoから,「業界(機種別)の概況について」という書き出しの文書を引き継ぎ,ストーカ炉の受注については5社間に受注調整のための協定が存在し,5社が受注機会を均等化していると聞いた。oがごみ処理施設の営業を担当するようになってからも,受注調整行為は行われている。受注調整行為は,本社レベルで行われており,課長クラスの者が対応していると思う。」
そして,nがoから引き継いだという上記文書(甲査37)には,ストーカ炉について,「※全連:大手5社協有.受注機会均等化(山積)・・・極力5社のメンバーセットが必要(他社介入の時は条件交渉を伴う)」という,上記の供述内容に沿う記載がされている。
e タクマのpの供述
pは,平成10年6月から,タクマの環境プラント本部取締役本部長を務め,ごみ焼却炉の営業責任者であった。
pの公取委審査官に対する平成10年9月17日付けの供述調書(甲査45)には,「pは,タクマの環境プラント本部営業部長から,受注獲得のための営業方針として,「何としても当社が受注したい物件については,当社が他社との間で話合いを行い,当社の入札価格よりも高い価

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