hanrei @Wiki H17. 8. 8 金沢地方裁判所 平成15(行ウ)11 公金支出差止等請求事件



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判示事項の要旨:
 地方公共団体が実施した制限付き一般競争入札において,入札業者間に談合があったとして,当該地方公共団体に対し,落札業者に対する損害賠償請求をするよう命じた事案


平成17年8月8日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成15年(行ウ)第11号 公金支出差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成17年5月16日
判決
主文
1 被告は,鹿島建設株式会社,株式会社豊蔵組及び株式会社岡組に対し,連帯して金2億1702万4500円及びこれに対する平成17年4月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を津幡町に対し支払うよう請求せよ。
2 原告らのその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを2分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。
事実及び理由
第1 原告らの請求
1 被告は,Aに対し,金4億0400万0100円及びこれに対する平成15年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を津幡町に対し支払うよう請求せよ。
2 被告は,Bに対し,金4億0400万0100円及びこれに対する平成15年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を津幡町に対し支払うよう請求せよ。
3 被告は,鹿島建設株式会社,株式会社豊蔵組及び株式会社岡組に対し,連帯して金4億0400万0100円及びこれに対する平成15年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を津幡町に対し支払うよう請求せよ。
第2 事案の概要
 1 本件は,石川県河北郡津幡町(以下「津幡町」という。)の住民である原告らが,津幡町の執行機関である被告に対し,津幡町が平成15年8月13日に鹿島・豊蔵・岡特定建設工事共同企業体(以下「鹿島等JV」という。)との間で締結した津幡町生涯学習施設(以下「本件施設」という。)建設工事(建築工事)請負契約(以下「本件契約」という。)について,①本件契約の相手方選定のための制限付き一般競争入札(以下「本件入札」という。)の際に談合が行われ,鹿島等JVは,公正な競争入札が行われていた場合に形成されていたであろう契約金額と現実の契約金額との差額につき津幡町に対し損害を与えた,②津幡町長であったA(以下「A」という。)は,上記談合によって本件契約は無効であったから,その代金の支払をすべきではなかったのに,過失により本件請負代金の支払命令をして津幡町に損害を与えた,③津幡町助役であったB(以下「B」という。)は,上記談合があったため本件契約を締結すべきでなかったのに,故意又は過失により本件契約を締結して津幡町に損害を与えたとして,津幡町は,鹿島等JVを構成する鹿島建設株式会社,株式会社豊蔵組及び株式会社岡組並びにA及びBに対して損害賠償請求権を有しているとして,地方自治法242条の2第1項4号本文に基づき,鹿島建設株式会社,株式会社豊蔵組,株式会社岡組,A及びBに対し不法行為に基づく損害賠償の請求をするよう求めた住民訴訟である。
 2 前提事実(争いがないか,証拠[各項末尾記載]及び弁論の全趣旨により明らかに認められる。)
  (1) 当事者等
   ア 原告らは,津幡町内に居住する住民であり,「市民オンブズマン・つばた」の構成員である。
   イ 被告は,津幡町の執行機関である。
   ウ 鹿島建設株式会社,株式会社豊蔵組及び株式会社岡組は,いずれも土木及び建設の請負等を目的とする株式会社で,津幡町が発注した津幡町生涯学習施設建設工事(建築工事)(以下「本件工事」という。)の入札において落札した鹿島等JVの構成員である。
エ Aは,平成14年4月から津幡町の町長を務めている。
オ Bは,昭和40年5月に津幡町の職員として採用され,農政課長,農林課長,都市計画課長,収入役等を歴任し,平成14年12月に助役に就任した者である。また,津幡町が発注する工事又は製造の請負などの業者の適正な指名決定を行うことを目的として同町が設置した津幡町請負業者選考委員会(以下「業者選考委員会」という。)の委員長も務めている。(甲53)
  (2) 本件工事の経緯について
ア 津幡町では,平成13年から,同町字北中条地内に,図書館,文化施設,福祉施設等を複合した「生涯学習施設」を建築する計画を進めていた。津幡町が建築する建物としては,未曾有の大型施設であり,同町は,町のシンボル的な施設であると位置づけていた。
イ 被告は,平成15年6月16日,本件工事について,次の内容で,制限付き一般競争入札を実施することを公告した。(甲7)
(ア) 工事概要 SRC造,RC造,S造,地下1階,地上4階建,延床面積9821平方メートル
(イ) 完成期日 平成17年3月31日
(ウ) 入札参加資格
a 3社により構成される特定建設工事共同企業体(以下「共同企業体」という。)であること
b 共同企業体の代表者について,平成14年度に実施された建設業法27条の23第1項の規定による経営事項審査の結果(以下「経審結果」という。)における建築一式工事に係る総合数値(以下「総合数値」という。)が1600点以上であり,かつ,経審結果における建築一式工事の年間平均完成工事高(以下「年間平均完成工事高」という。)が500億円以上であること
(エ) 入札執行日時 平成15年8月7日
ウ 同年6月17日,本件工事の予定価格が22億2590万円であることが公表された。
エ 同年8月7日,予定どおり本件入札が執行され,鹿島等JVを含む11共同企業体が入札に参加した結果,1回の入札で,鹿島等JVが22億1000万円(税別,予定価格の99.29%,小数点3桁以下四捨五入)で落札した。入札結果は,別表1のとおりであるが,これによると,他の10共同企業体の入札額は,予定価格の99.73%から99.96%であり,うち8共同企業体が同一金額であった。
オ 同月13日,津幡町は,鹿島等JVとの間で,代金を落札価格に消費税を加えた23億2050万円として本件契約を締結した。
カ 本件工事は,平成17年3月ころまでに完成し,津幡町は,同年4月28日までに鹿島等JVに対し本件工事代金全額を支払った。
(3) 談合情報について
ア 平成14年9月17日,津幡市在住の者(原告らは,通報者保護のためにその氏名を明らかにしないので,仮称「S氏」と表現する。)から原告Cに対し,電話で,本件工事はすでに鹿島建設株式会社を代表とする共同企業体が落札することが決まっている旨の談合情報が寄せられた。(甲16,原告C本人)
イ 平成15年7月13日,石川県内の建設業界に身を置く者(原告らは,前同様にその氏名を明らかにしないので,仮称「T氏」と表現する。)から原告Cに対し,電話で,「本件工事については談合が終わり,落札者が決定している。」旨の情報が寄せられた。翌14日,原告Cは,T氏と面談し,その詳細を聞き取った。その際,T氏は原告Cに対し,談合によって鹿島等JVが落札することが既に決まっていること,鹿島建設は,同年4月下旬,金沢市発注の城北水質管理センターポンプ場の工事現場で,作業員1名死亡,1名重体の事故を起こした(以下「ポンプ場労災事故」という。)から,労働基準監督署の処分が決まれば指名停止となるはずなのに,同監督署の処分が遅れているのは,本件工事の受注が決まるのを待ってやっているのではないかとの疑惑があること等を述べた。同月24日,T氏は原告Cを訪ね,上記内容を書面化した「報道関係各位」と題する書面(甲2)を同原告に預け,これを公表するか否かを同原告に任せると述べた。(甲12,原告C本人)
ウ 原告Cは,同月30日,上記書面を報道機関に公表した。翌31日,ポンプ場労災事故の記事が新聞に掲載され,同事故のニュースがはじめて報道された(甲2ないし5,12)
エ 市民オンブズマン・つばたは,同月31日,Aに対し,鹿島等JVが落札する旨の談合情報があることを理由に,同年8月7日に予定されている本件工事の入札の中止を求めた。(甲1)
オ Aは,本件入札への参加を希望していた11共同企業体に対し,本件入札に関して私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律等に抵触する行為を行っていない旨が記載された誓約書の提出を求めたところ,11共同企業体は,同年8月5日,これを提出した。Bは,11共同企業体の担当者に対し,入札執行後談合の事実が明らかになった場合は,入札を無効とする旨の口頭注意を行った上,予定を変更することなく,同月7日本件工事の入札を執行した(甲64,乙24ないし乙34,証人矢田)。その結果,談合情報どおり,鹿島等JVが落札したが,津幡町は,公正取引委員会への通知をせず,その他何らの措置をとらなかった。
カ 同月29日,金沢市は,ポンプ場労災事故に関わった業者に対し,指名停止の処分をした。(甲6)
キ 原告らは,同年9月25日,津幡町監査委員に対し,本件契約を直ちに解除するよう津幡町長に勧告することを求める旨の住民監査請求をした。(甲12)
 これに対し,津幡町監査委員は,同年11月21日,本件入札に関する談合行為の存在を確認することはできなかったとして,上記監査請求を棄却した。(甲15)
(4) その他
ア 本件入札で付された総合数値1600点以上,年間平均完成工事高500億円以上という条件は極めて厳しく,全国規模の大手ゼネコンでも,これを満たすのは15社程度にすぎなかった。(甲29,弁論の全趣旨)
イ 津幡町における決裁権限について
 津幡町では,平成15年2月20日,津幡町事務決裁規則(規則第4号)を制定した。これによると,工事又は製造の請負契約における業者の選定及び契約方法の決定については代金500万円以上のものが,入札の執行及び落札者の決定についてはそのすべてが,いずれも助役の専決権限とされている。なお,同規則の制定前,助役の専決権限は,工事請負指名業者の選定については100万円以上500万円未満の工事に限られ,入札の執行及び落札者の決定等については1000万円未満の契約に限られていた。(甲77,83)
第3 争点及びこれについての当事者の主張
1 本件入札において談合が行われたか(争点(1))
 (原告らの主張)
本件入札において談合が行われたと認定されるべきである。そのことを論証するため,次の(1)において,原告らが立証すべき事実について,同(2)において,談合があったと判断し得る間接事実についてそれぞれ述べる。
(1) 原告らが立証すべき事実について
 原告らが立証すべきは,特定の入札において,入札業者間で,特定の本命業者以外の業者は,本命業者の入札額よりも高い金額で入札し,本命業者に落札させる旨の談合の合意が形成され,その合意に基づいて各業者が入札したことであり,このことを高い蓋然性をもって立証すれば足り,具体的にその合意を形成するための話し合いが,いつ,どこで,誰の参加によってなされたかを立証する必要はないというべきである。
(2) 談合の存在を推認させる間接事実について
ア 談合情報の存在
 本件入札に先だち,原告Cのもとに,S氏及びT氏から,本件入札について談合が行われており,既に落札業者が鹿島等JVに決まっている旨の情報提供があり,その情報どおり,鹿島等JVが落札した。
イ 本件入札の結果が不自然であること
(ア) 本件入札の落札率は,99.29%と極めて高い落札率であった。これは,平成15年度に津幡町が発注した公共工事について行われた100件の入札の中で,最も高率であった。
(イ) 予定価格が公表されていながら,落札できなかった10共同企業体の入札金額は,上記のとおり,予定価格の99.73%から99.96%であり,そのうち8共同企業体は,99.96%の同額であった。この結果からは,これらの共同企業体の受注に向けての意欲を窺うことができない。
ウ 談合を容易にする環境が整っていたこと
(ア) 入札参加資格条件について
a 総合数値条件が1600点以上であったこと
 本件入札において付された「総合数値1600点以上」という条件は,談合を容易にする環境を設定するものである。
 すなわち,総合数値が1600点以上の業者は,全国規模の大手ゼネコンでも,わずか,15社程度しか存在しない。その結果,競争性が制限され,談合が容易になる。
b 年間平均完成工事高条件が500億円以上であったこと
 津幡町は,「指名方針等の取扱い基準(内規)」を定めているが,これによると,大規模工事の指名業者の条件は,発注予定金額の約3倍以上の年間平均完成工事高を有することとされている。本件工事に当てはめると約69億円であるから,上記条件は,極端に厳しい条件であって,大幅に競争性を制限するものである。
(イ) 請負業者有資格者名簿(以下「名簿」という。)が公表されていること
津幡町は,名簿を作成して公表しているから,これによって入札参加資格を満たす業者名が一目瞭然であって,談合は容易である。
(ウ) 予定価格の事前公表がなされたこと
 予定価格の事前公表は,建設業者の見積努力を損なわせ,談合が一層容易に行われる危険性があるとの弊害が指摘されているところ,本件においても,津幡町は,予定価格の事前の公表を行い,本件入札に関する談合を容易にする環境を作った。
エ 談合が全国的に蔓延していること
(ア) 三重県久居市
 三重県久居市における下水道談合事件で,入札業者は,同市からの工事の受注について常に談合が行われており,談合を行うことが習慣化していたこと及び談合を前提としない自由競争が行われたことは一度もなかったことを供述している。
(イ) 名古屋市
 同市における新南陽工場談合事件で,鹿島建設,大成建設,大林組などのスーパーゼネコンの業界担当者(いわゆる談合屋)は,ほとんどの入札で談合が行われていることを供述している。
(ウ) 日本下水道事業団談合事件
 当該事件において,東芝,富士電機など大手電機メーカーの入札担当者らは,各自治体の首長ら幹部の意向により談合の本命が決まること及び電気設備工事だけでなく,建築工事や機械設備工事の入札でも談合していたことを供述している。
(エ) 長野県
 浅川ダム入札に係る調査報告書によると,長野県浅川ダムの入札において談合があったことが認定された。
(オ) 徳島県
 徳島県汚職問題調査等報告書によると,D元知事の汚職事件に関して,大手ゼネコン8社の幹部社員は,東京地検特捜部の事情聴取に対し,四国のゼネコン業界では,四国全域の公共工事において,大手5,6社の打合せによって,予め落札業者を決めるという談合が行われていたこと及びそのような状況は四国に限ったことではないこと,などを供述している。
(カ) 佐賀市
 佐賀市の郵便入札に関する報告書において,指名競争入札と郵便入札の入札金額の分布を分析した結果,指名競争入札では,意図的に何らかの調整が常態的に行われていたことが推測されるとの報告がなされている。
(キ) 小括
 以上の事実から窺える談合の全国的な蔓延状況から考えても,一地方都市である津幡町の公共工事は,大手ゼネコンが常態的に行っている談合の網にかかっていると考えるのが自然である。
オ 入札に際して,入札参加業者間で談合をする動機があること
 建設業者は,談合することにより20%以上も高く落札できる一方,日本では,談合に対するペナルティーが軽く,業者にとってやり得という実態が存在している。よって,建設業者が入札に際して,談合をする動機がある。
カ 被告の主張に対する反論(工事内訳書の点検について)
 被告は,本件入札の際に各入札業者から提出させた工事内訳書を点検した結果,談合を窺わせる事実はなかったと主張する。しかし,以下のとおり,当該点検の結果を記載した工事内訳書調査報告書(乙12,以下「報告書」という。)は信用性に乏しく,談合の存在を否定することはできない。
(ア) 津幡町監査委員は,平成15年9月26日,原告らの監査請求に対し,監査に着手し,一級建築士の資格を持つ津幡町役場職員E及び同F(以下「Eら」という。)に対して,工事費内訳書の精査を依頼をしたところ,同年10月23日,Eらから報告書が提出された。
 上記事実によれば,報告内容の基礎となった調査日時は,平成15年9月26日以降の日となるはずである。しかし,上記報告書によれば,同年8月7日及び同月8日に調査したことになっており,日付が矛盾する。よって,上記報告書の内容は,虚偽であると言わざるを得ない。
(イ) また,上記報告書は,現場を知らず,設計価格が水増しされていることを見抜けない職員によって作成されたものであって,その内容に信用性がない。
キ まとめ
 以上の事実を総合すれば,本件入札に際し,談合があったことは明らかである。
(被告の主張)
 本件入札においては,以下のとおり,談合があったという証明はなされていない。
(1) 原告らの立証の内容について
 談合の事実が認定されるには,談合が行われた日時,場所,参加した業者,談合の内容等,談合行為を具体的に主張,立証する必要がある。しかるに,本件において,そのような主張,立証はなされていない。
(2) 談合の存在を推認させる間接事実について
ア 原告の主張(2)のアの事実は知らない。なお,事前に落札すると指摘されていた鹿島等JVが落札したのは偶然の一致である。
イ 本件入札の結果が不自然であることについて
 本件入札の落札率が,99.29%であったこと及び落札できなかった入札参加業者の入札金額が一部で同額であったことから,談合の存在を推認することはできない。
ウ 談合を容易にする環境が整っていたことについて
(ア) 入札参加資格条件(総合数値条件が1600点以上,年間平均完成工事高条件が500億円以上であったこと)について
 結果的に,入札参加資格のある業者の数が少なくなったが,入札参加資格は,業者選考委員会で,本件工事の津幡町における重要性,工事施工の難易度を考慮して,類似工事施工実績,経営能力,施工の信頼性・信用性を判断し,国,県の大規模工事(平成11年の石川県庁舎建設工事,平成14年の野々市町新庁舎建設工事)等を参考としながら,決定したものであって,そのことに何の問題もない。
(イ) 名簿の公表及び予定価格の事前公表について
  名簿が公表されたこと及び予定価格の事前公表がなされたことは認めるが,それらが談合を容易にしたことは否認する。
エ 他の地方公共団体等が発注した入札に際して談合があったことから,本件入札において談合があったことを推認することはできない。
オ 入札に際して,入札参加業者間で談合をする動機があることについては否認する。
カ 被告の主張
(ア) 報告書について
 平成15年9月26日,津幡町監査委員からEらに対して,工事内訳書の精査依頼がなされ,Eらは,工事内訳書を精査したが,談合を窺わせる事実はなかった。
 なお,その報告書に,調査日時が8月7日及び同月8日と記載されているのは,Eらが,監査委員から依頼を受ける以前から調査をしていたためである。
(イ) 誓約書について
 被告は,本件入札に参加する共同企業体に対し,談合をしていないことを内容とする誓約書の提出を求めたところ,各共同企業体は,誓約書を提出した。
 このように,各共同企業体が誓約書を提出している以上,本件入札に際し,談合があったと推認することはできない。
2 鹿島等JV等の違法行為の有無(争点(2))
(原告らの主張)
(1) 鹿島等JVの違法行為
 本件入札参加業者らがした談合行為は,競争入札の公正を害する違法行為であり,本件入札に基づき本件契約を締結した鹿島等JVは,津幡町に対し,民法709条,719条に基づき,談合によって津幡町が被った損害を賠償する責任がある。
(2) Aの違法行為について
 Aは,予算執行権限を有するところ,本件契約は談合によるもので無効であるから,その代金について支出を命令してはならない注意義務があったのに,これに違反して出納機関に対して代金の支出を命じ,出納機関をして支出をなさしめた。よって,民法709条に基づき,Aは津幡町に対し,津幡町が被った損害を賠償する責任がある。
(3) Bについて
 Bは,本件契約の締結について専決権限を有するところ,本件契約は談合によるものであるから,これを締結してはならない注意義務があったのに,これに違反して本件契約を締結した。よって,民法709条に基づき,Bは津幡町に対し,津幡町が被った損害を賠償する責任がある。
(被告の主張)
 いずれも否認ないし争う。
3 津幡町が被った損害(争点(3))
(原告らの主張)
 談合が行われなかった場合には,談合が行われた場合と比較して,落札価格は平均約26.44%下落すると推計されるところ,本件入札においても,談合が行われず公正な競争入札が実現していたとすれば,予定価格(22億2590万円)に対する落札価格(消費税を除く。)の比率(落札率)は,82%(18億2523万8000円)を超えることはなかったものと推定できる。
 よって,本件入札においては,消費税を加算した落札価格と予定価格の82%に消費税相当額を加えた本来の落札価格との差額を損害とみるべきであり,その額は,4億0400万0100円となる。
(計算式)2,320,500,000-1,825,238,000×1.05=404,000,100
(被告の主張)
 争う。
第4 当裁判所の判断
1 本件入札において談合が行われたか(争点(1))
(1) 証拠(各項末尾記載)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 談合事件の捜査等によって判明した事実等
(ア) 三重県久居市発注の公共工事に絡む競売入札妨害事件に関して,三重県警察本部司法警察員が平成9年7月28日に作成した捜査報告書中には,久居市発注の下水道工事について,談合が行われた入札での落札率が,平成6年度が98.67%,平成7年度が97.26%,平成8年度が99.13%,平成9年度が98.11%であったのに対し,談合が行われなかった入札での落札率は,平成6年度が81.07%,平成7年度が67.36%,平成9年度が69.57%であり(平成8年度は自由競争下での入札は無かった),4年間の,予定価格と落札価格の差の合計を予定価格の合計で除した歩切り率は,談合が行われた入札では1.80%,自由競争下での入札では24.56%であったと記載されている。(甲55)
(イ) 平成13年1月12日,和歌山市発注の公共工事に関し,受注会社の従業員に対して競売入札妨害罪の略式命令が確定したが,これを契機に提起された住民訴訟(和歌山地方裁判所平成13年(行ウ)第5号)で同裁判所が平成14年7月2日に言い渡した判決において談合があったと認定された工事の落札率は,平成8年度地方改善整備事業芦原大型作業場排水処理施設工事(平成9年2月7日入札)が99.79%,平成9年度地方改善整備事業岩橋大型共同作業場新築排水処理施設工事(平成9年11月11日入札)が98.61%,平成10年度地方改善整備事業岩橋大型作業場新築屋外付帯工事(平成10年6月23日入札)が97.89%であった。(甲56)
   (ウ) 徳島県において,D元知事(以下「D元知事」という。)の汚職事件について,G新知事が立ち上げた「汚職問題調査団」が平成15年6月30日徳島県に提出した報告書によれば,東京地方検察庁の捜査によって,徳島県においては,D元知事がいわゆる「天の声」を発し,ゼネコンや大手業者らもこれを受け談合が常態化していたことが明らかになったこと,そのような状況下での平成12年度から同14年度までの徳島県発注の公共工事の落札率の分布は,98%台を最大値とする97%ないし99%台の大きな山と,66%ないし67%の小さな山が形成されていること等が記載されている。(甲26)
   イ 入札制度改善に積極的に取り組んだ地方自治体の実績等
   (ア) 長野県においては,平成14年7月9日に「長野県公共工事入札等適正化委員会」を設置し,浅川ダム本体工事の入札につき調査を行ったところ,入札参加業者間で談合が行われたとの結論に達した。
 なお,長野県では,建設工事の平均落札率が,平成13年度は97.4%,平成14年4月から平成15年1月までは94.8%であったのに対し,平成14年12月に行われた入札制度改革施行の結果,平成15年2月から3月のそれは75.5%にまで下落した。(甲58,甲26)
(イ) 佐賀市は,平成14年度に,「郵便入札」を始めた。「郵便入札」とは,主に経審結果の総合評点と手持工事件数で入札参加資格条件を定め,これを満たしていて,原則として本店が市内にある登録業者であれば自由に入札に参加でき,インターネットと掲示場で公告を行い,入札は郵便で行うというものであった。平成14年度の指名競争入札と郵便入札の入札状況を比較すると,指名競争入札の平均落札率が96.88%であったのに対し,郵便入札では90.97%であった。(甲60)
ウ 日本弁護士連合会が平成13年2月に発表した「入札制度改革に関する提言」によると,47都道府県と12政令指定都市を対象とした入札制度についてのアンケート調査,愛知県,静岡県,徳島県及び三重県の4県における入札制度運用状況の聞き取り調査,入札・談合ホットラインの実施結果や談合刑事記録調査結果等に基づき,日本の入札において談合が蔓延していること,発注者の談合容認姿勢にもその原因があることを指摘し,現在の入札実態等をふまえ,談合防止のための入札制度改革の提案がなされている。その文中には,次のような事実の指摘がある。(甲59)
(ア) 建設省(当時)の調査結果によると,都府県28,政令指定都市8都市,市町村205における平成10年度の平均落札率は95.4%であった。
(イ) 神奈川県横須賀市では,平成10年7月以前は指名競争入札を実施していたが,落札率は,95%以上が3分の2を占めるという高止まりの状態であった。その後,指名業者の公表をやめ,経審結果に基づく総合評点を基準に入札条件を定め,入札条件に合致していて希望する者はすべての入札に参加できる入札方法を導入する等の改革に取り組んだ結果,平均落札率が,平成9年度は95.7%であったのが,平成10年度は90.7%,平成11年度は85.6%に急落した。
(ウ) 神奈川県座間市では,平成10年5月に談合刑事事件が摘発され,同年7月には公正取引委員会から建設会社18社に対し排除勧告がなされたことから,以後,市外業者を指名に加えることとしたところ,平均落札率が,平成9年度は96.74%であったのに,平成10年度は84.95%,平成11年度は83%に下がった。
(エ) 三重県久居市では,談合刑事事件の摘発後,市内に本店を有する業者だけでなく,支店や営業所を有する業者も参加可能とする等の改革をしたところ,以後ほとんどの入札において,平均落札率が65%ないし70%前後になった。
    (オ) 名古屋市ゴミ焼却場新南陽工場談合刑事事件において,いわゆるスーパーゼネコンの担当者は,ほとんどの入札で談合していると供述している。この供述によると,ゼネコンが行う談合の流れは,次のとおりである。すなわち,まず業者は発注自治体から発注工事の情報収集を行い,その後業者間の調整により「本命」業者を決定し,本命業者は発注自治体へ「本命」になったことを連絡し指名してくれるよう依頼をした上,指名後発注自治体からの予定価格を聞き取り,入札価格を決定した上他の業者へ連絡し,他の業者はこれよりも高い価格で入札を行い,本命業者が落札するというのである。
  エ 津幡町における平成8年度から平成15年度までの予定価格1000万円以上の公共工事(一部予定価格が1000万円に満たないものや随意契約も含まれている)854件について,その落札率を見ると,別表2のとおりであるが,そこから次のことが指摘できる。なお,津幡町においては,平成14年度から予定価格の事前公表が行われているが,同13年度以前は公表されていなかった。
   (ア) 平成8年度は,計73件中,99%以上が55件,98%以上は68件,97%以上は70件,90%未満は0件であった。
   (イ) 平成9年度は,計100件中,99%以上が66件,98%以上は89件,97%以上は92件,90%未満は0件であった。
   (ウ) 平成10年度は,計129件中,99%以上が70件,98%以上は107件,97%以上は121件,90%未満は3件(うち,80%未満は0件)であった。
   (エ) 平成11年度は,計108件中,99%以上が44件,98%以上は86件,97%以上は100件,90%未満は2件(うち,80%未満は0件)であった。
   (オ) 平成12年度は,計109件中,99%以上が44件,98%以上は87件,97%以上は100件,90%未満は4件(うち,80%未満は3件)であった。
   (カ) 平成13年度は,計123件中,99%以上が46件(うち1件は100%),98%以上は72件,97%以上は88件,90%未満は9件(うち,80%未満は7件)であった。
   (キ) 平成14年度は,計112件中,99%以上が3件,98%以上は9件,97%以上は37件,90%未満は8件(うち,80%未満は6件)であった。
(ク) 平成15年度は,計100件中,99%以上が2件,98%以上は3件,97%以上は26件,90%未満は5件(うち,80%未満は3件)であった。
オ 上記854件中,複数回の入札が実施されたのが,平成8年度に10件,平成9年度に5件,平成10年度に3件,平成12年度に2件及び平成13年度に5件あったが,そのうち,1位の順位が入れ替わったのは,平成9年度の1件及び平成10年度の1件だけであり,他はすべて,入れ替わりのない,いわゆる「1位不動」であった。(甲84)
(2) 上記(1)記載事実及び上記前提事実に基づいて検討する。
ア 談合に関する立証の対象・程度について
 談合の事実を立証する責任は原告らにある。そして,原告らが立証すべき事実は,特定の入札において,入札業者間で,特定の本命業者以外の業者は,本命業者の入札額よりも高い金額で入札し,本命業者に落札させる旨の合意が事前に形成され,その合意に基づいて各業者が入札したことであり,このことを高い蓋然性をもって立証すれば足りるのであって,具体的にその合意を形成するための話合いが,いつ,どこで,誰の参加によってなされたかを立証する必要はないというべきである。
イ 津幡町における入札一般について
(ア) ところで,入札制度の改革に取り組んだいくつかの地方自治体においては,おしなべて,短期間で,落札率の大幅低下(70%前後から90%前後)がみられていることに照らすと,真実の自由競争が行われれば,その程度の金額で落札されることが通常であるということができる。他方,談合刑事事件で摘発された事例は,落札率が97%以上であることが多く,その程度の金額による落札は,自由競争の結果ではない相当程度の可能性があることを示している。
(イ) よって,津幡町発注の公共工事においても,予定価格の97%を超える入札は,通常,自由競争において,真実工事の受注を希望しての入札であるとは考え難い。
 しかるに,平成8年度から平成15年度までの津幡町発注の予定価格1000万円以上の公共工事(一部1000万円未満及び随意契約を含む)の入札については,平成8年度は73件中70件(95.9%),平成9年度は100件中92件(92%),平成10年度は129件中121件(93.8%),平成11年度は108件中100件(92.6%),平成12年度は109件中100件(91.7%),平成13年度は123件中88件(71.5%)が97%以上の落札率であったから,その落札率だけで,津幡町において,談合が蔓延していたのではないかとの強い疑いを抱かせるに十分である。
(ウ) また,上記入札において,複数回の入札が行われた25件中,談合の典型的特徴といわれる「1位不動」が23件にみられたことも,談合の蔓延を疑わせる事情である。
(エ) 次に談合問題に対する津幡町の対応をみてみるに,上記のように談合の蔓延を疑わせる高落札率が続いていたのに,津幡町がそのような状況を改善するために抜本的な対策をとったことについては何らの主張立証がない。また,津幡町は,本件入札の結果,談合情報どおりの業者が落札したのに(偶然の一致である確率は約9%にすぎない),公正取引委員会への通知,その他何らの措置をとらなかった。このことから窺える談合問題に対する津幡町の消極的な姿勢は,業者が談合することを容易にするものであったということができる。
ウ 本件入札における談合行為について
(ア) 匿名情報は,虚偽の情報であってもその提供者は責任を問われないから,その信用性は,一般的には高く評価することができない。しかしながら,談合情報については,その出所が談合をしたとされる業界に身を置く者であると考えられるところ,そのような者が顕名で談合情報を明らかにすることが極めて困難であることは明らかであるから,匿名であることだけでその信用性を低く見るのではなく,その内容を慎重に検討するべきである。本件においてT氏が原告Cに寄せた談合情報は,結果的に,情報どおりに鹿島等JVが落札したこと,当時マスコミ報道がされていなかったポンプ場労災事故に触れられていて,その事故が発生していた旨の情報は真実であったこと等に照らし,更にS氏からも同旨の情報が寄せられていたことを併せ考えると,その信用性を高く評価すべきものである。
(イ) 本件の落札結果は,予定価格が公表されていながら,予定価格の99.29%という高落札率である。他方,鹿島等JVを除く10共同企業体の入札額は,99.73%から99.96%と極めて高額であり,うち,8共同企業体は,予定価格から100万円未満の端数を削っただけの極めて安易な入札をしており,これらの共同企業体が,真実受注を目指していたと考えるのは困難である。
(ウ) 本件入札においては,入札参加資格として,共同企業体の代表者について総合数値が1600点以上,年間平均完成工事高500億円以上という厳しい条件が付されたため,その条件を満たす建設業者は全国規模の大手ゼネコンでも15社程度にすぎず,一般競争入札とはいえ,入札できる者が限られるため,談合することは容易であったということができる。
エ 以上の事実を総合すると,本件入札において,入札業者間で,鹿島等JV以外の各共同企業体は,鹿島等JVの入札額よりも高い金額で入札し,鹿島等JVに落札させる旨の合意が事前に形成され,その合意に基づいて各共同企業体が入札したと推認することができるというべきである。
 これに対し被告は,Eらが各共同企業体が提出した工事内訳書を検討したが,談合を窺わせる事実はなかったと主張し,証拠(乙12,甲54,証人E)中にはその主張に沿う部分があるが,具体的にいかなる検討をしたか明らかでなく,Eらが談合を窺わせる事実がないと判断したとしても,前記認定判断を左右するに足りない。また,被告は,各共同企業体が誓約書を提出したから談合はなかったと主張するが,誓約書提出の事実は到底前記認定を左右するに足りない。
2 鹿島等JV等の違法行為の有無(争点(2))
(1) 鹿島建設株式会社,株式会社豊蔵組及び株式会社岡組について
 上記3社は,鹿島等JVの構成員として,他の共同企業体と談合の上,本件工事を落札したものであって,これが違法であることは明らかである。
(2) Aについて
ア 地方公共団体の長は,故意又は過失によって地方公共団体に違法に損害を与えた場合には,これを賠償する義務を負う。
イ 本件契約は,談合によるものであって,一般競争入札の形式で入札が行われたが,一般競争入札の実質を有していなかったから,地方自治法234条に違反して違法であるというべきである。ところで,法令に違反して締結された違法な契約であっても,私法上当然に無効になるものではなく,その契約が違法であることが誰の目にも明らかである場合や,契約の相手方において違法であることを知っていた場合等,当該契約の効力を無効としなければ,法令の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められる場合に私法上無効になると解すべきである(昭和62年5月19日最高裁判所第3小法廷判決・民集41巻4号687頁参照)。本件においてこれをみるに,鹿島等JVほか入札に参加した11の共同企業体が談合による契約が違法であることを知っていたことは明らかであるし,上記各共同企業体は,津幡町に対し,談合がない旨の誓約書まで差し入れて入札に参加したことにも鑑みると,本件契約を無効としなければ法令の規定の趣旨を没却するということができ,本件契約は無効であるというべきである。
ウ 一般的には,地方公共団体の長は,無効な契約に基づく代金の支出を命ずるべきではないということはできる。しかしながら,本件施設が完成した段階で,Aが具体的に如何なる措置をとるべきであったかは困難な問題である。すなわち,Aがとりうる方法としては,①鹿島等JVに本件契約の無効を主張して本件施設の撤去を求める,②本件施設の引渡しを受けることができなくとも鹿島等JVに対する代金の支払を留保する,③鹿島等JVから本件施設の引渡しを受け,その客観的価値に相当する金銭を支払う等の方法が考えられるが,①の方法は社会経済上大きな損失であるし,②の方法も,本件施設の利用についての町民の期待を裏切ることとなり,③の方法は,客観的価値の算定が困難である。また,本件では,関係者の自白等,談合の事実を認める明らかな証拠はなく,津幡町監査委員は原告らの住民監査請求に対して談合の事実が認められないとの判断をしていたから,Aが代金の支払を止めた場合には,将来の遅延損害金の負担の危険を否定できなかったということができる。このような事情を総合すると,取りあえず代金を支払って本件施設の引渡しを受け,談合の有無の判断や対応策は,係属中の訴訟における裁判所の判断に委ねるのも地方公共団体の長の一つの選択としてはあり得るところである。Aが具体的にどのような考えに基づいて本件代金の支出を命令したかについては,これを認めるに足る証拠はないが,本件施設が完成した段階で,いかなる措置をとるかは,様々な功罪を勘案した上でなされる地方公共団体の長の裁量的判断であるということができ,本件代金の支出命令を出したAの措置が,その裁量を逸脱,濫用したとまではいうのは困難である。
 よって,Aの措置が違法であるとまではいえないから,Aに津幡町に対する損害賠償責任があると認めることはできない。
(3) Bについて
ア Bは,地方自治法243条の2第1項1号に掲げる行為をする権限を有する職員に該当する。そして,同条の規定は,同条1項所定の職員の行為に関する限り,その損害賠償責任については,民法の規定を排除し,その責任の有無又は範囲は専ら同条1,2項の規定によるものとしたものと解するのが相当である(昭和61年2月27日最高裁判所第1小法廷判決・民集40巻1号88頁参照)。そうすると,原告らは,被告に対し,地方自治法242条の2第1項4号ただし書により,同法243条の2第3項に基づきBに対する賠償の命令をすることを求めるのであればともかく,同法242条の2第1項4号本文により,Bに対して損害賠償の請求をすることを求めることはできないといわざるを得ない。
イ よって,その余について検討するまでもなく,被告に対し,Bに対して損害賠償の請求をすることの義務付けを求める原告の請求は,失当として棄却を免れない。
3 津幡町が被った損害(争点(3))
(1) 談合は,競争によって落札価格が下落することを防ぎ,より高価格で落札することによって利益を得ようとするものであるから,本件入札においても,談合がなかったら,落札価格は現実の落札価格よりも低価格であったと推認することができる。そうすると,津幡町は,現実の落札価格(以下「現実落札価格」という。)と自由競争が行われた場合に想定される落札価格(以下「想定落札価格」という。)との差額に相当する損害を被ったというべきである。
(2) 想定落札価格の認定は極めて困難である。原告らは,公正取引委員会独占禁止法研究会が,同委員会による審査開始後の落札価格の下落率の平均が26.44%であった旨を発表した(甲68)ことを根拠に,本件入札における想定落札価格は予定価格の82%を超えることはなかったと主張するが,証拠(甲68)によれば,上記の平均下落率は,各種の契約にまたがるいくつかの事例を単純平均したものであると認められるところ,想定落札価格は,契約の種類,規模,金額,経済情勢等様々な要因によって定まるものであるから,上記平均下落率を根拠とする原告らの主張は採用できない。
(3) よって,当裁判所は,民訴法248条に基づき,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて相当な損害額を認定することとする。
ア 上記認定に当たって考慮すべき事情として,上記公正取引委員会独占禁止法研究会の発表内容のほか,次の事実が指摘できる。
(ア) 入札制度の改革に取り組んだ地方自治体では,落札率の顕著な減少が見られる。長野県の平成14年度の建設工事における受注希望型入札の平均落札率は75.5%であった(1の(1)のイの(ア))。佐賀市の平成14年度の郵便入札の平均落札率は90.97%であった(同イの(イ))。神奈川県横須賀市の平均落札率は平成10年度が90.7%,平成11年度が85.6%であった(同ウの(イ))。同県座間市の平均落札率は平成10年度が84.95%,平成11年度が83%であった(同ウの(ウ))。三重県久居市では,ほとんどの入札において平均落札率が65%ないし70%前後になった(同ウの(エ))。
(イ) 津幡町では,平成12年度から一部の入札において80%を切る低落札率のものが現れている(1の(1)のエ)。
(ウ) 証拠(甲67)によると,平成15年6月24日付の日本経済新聞に,内閣府の調査によると,平成12年における建築工事の1平方メートル当たり単価が,民間工事では12.8万円であるのに公共工事は21.7万円である旨の記事が載っていることが認められる。
(エ) 証拠(乙1ないし11,証人E)及び弁論の全趣旨によると,津幡町は,本件工事の設計価格の積算をH(以下「H」という。)に委託したこと,津幡町は,Hに対し,予算が厳しいことを理由に厳しく積算することを依頼したこと,本件入札に参加した11共同企業体が作成した見積書では,その見積価格は,いずれも予定価格よりも高くなっており,これから出精値引をして入札価格を予定価格内に収めたことになっていること,これを鹿島等JVでみれば,見積価格は26億4000万円であり,これから4億3000万円の出精値引をして22億1000万円の入札価格を算出していること,以上の事実が認められる。
イ 11共同企業体間で談合が行われていたから,11共同企業体が作成した各見積書が真摯に作成されたものとは認めがたい。とはいえ,津幡町がHに対して厳しい積算を委託したことに照らすと,想定落札価格が入札制度の改革に取り組んで顕著な成果を上げた地方自治体における実績ほどに低額であったとも認めがたい。その他,本件に現れた一切の事実を総合勘案すると,想定落札価格を予定価格の90%とし,これに消費税を加えた額と現実落札価格に消費税を加えた額(契約金額)との差額をもって津幡町が被った損害額と認定するのが相当である。そうすると,その金額は,2億1702万4500円となる。
(計算式)2,320,500,000円-2,225,900,000円×0.9×1.05=217,024,500円
(4) よって,津幡町は,鹿島建設株式会社,株式会社豊蔵組及び株式会社岡組に対し,不法行為による損害賠償として連帯して金2億1702万4500円及びこれに対する本件工事代金全額を支払った日の翌日である平成17年4月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求権を有している。
4 結論
  以上の次第で,被告に対する原告らの本訴請求は,鹿島建設株式会社,株式会社豊蔵組及び株式会社岡組に対し,連帯して金2億1702万4500円及びこれに対する平成17年4月29日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を津幡町に支払うよう請求することを求める限度で正当であるから認容し,その余は失当であるから棄却する。
金沢地方裁判所第二部
裁判長裁判官   井  戸   謙  一



裁判官   冨  上   智  子



裁判官 長  瀬   貴  志