hanrei @Wiki H17. 9.15 東京地方裁判所 平成14年(ワ)第1508号等 雇用関係存在確認等請求事件



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判示事項の要旨:
1.国鉄清算事業団による国労所属の事業団職員に対する解雇が有効とされた事例
2.国鉄が,その分割・民営化に伴うJRの採用候補者名簿の作成に際し,国労組合員であった原告らを,国労に加入している ことを理由に同名簿に記載しないという不利益取扱いをしたとして,被告に対し,慰謝料等総額14億1500万円の支払いを命じた事例



平成17年9月15日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 大 野 裕 之
平成14年(ワ)第1508号 雇用関係存在確認等請求事件(以下「甲事件」という。)
平成15年(ワ)第23939号 雇用関係存在確認等請求事件(以下「乙事件」という。)
平成15年(ワ)第28505号 雇用関係存在確認等請求事件(以下「丙事件」という。)
口頭弁論終結日 平成17年3月7日
判決
当事者及び代理人 別紙当事者等目録記載のとおり
主文
1 被告は,別紙認容金額一覧表の「氏名」欄記載の原告らに対し,同別紙の「認容金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成2年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告番号104A,同229B,同230C,同231D,同245Eの各請求,その余の原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は甲,乙,丙事件を通じこれを20分し,その1を被告の,その余を原告らの各負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
 1 主位的請求
  (1) 別紙当事者等目録記載の原告番号1ないし46,48ないし115,117ないし265,267ないし279,281ないし285,288ないし290の各原告らと被告との間にそれぞれ雇用関係の存在することを確認する。
  (2) 被告は,別紙当事者等目録記載の原告番号1ないし115,118ないし138,140ないし265,267ないし279の各原告らに対し,それぞれ別紙未払賃金目録1「請求金額」欄記載の各金員に1000万円を加えた金員及び平成2年5月から同14年1月までの間に弁済期の到来した同目録「基本給」欄記載の各金員に対する各弁済期の翌日(毎月21日)から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  (3) 被告は,別紙当事者等目録記載の原告番号117,139,281ないし285の各原告らに対し,それぞれ別紙未払賃金目録2「請求金額」欄記載の各金員及び平成2年5月から同15年9月までの間に弁済期の到来した同目録「基本給」欄記載の各金員に対する各弁済期の翌日(毎月21日)から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  (4) 被告は,別紙当事者等目録記載の原告番号288ないし290の各原告らに対し,それぞれ別紙未払賃金目録3「請求金額」欄記載の各金員及び平成2年5月から同15年10月までの間に弁済期の到来した同目録「基本給」欄記載の各金員に対する各弁済期の翌日(毎月21日)から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  (5) 被告は,別紙当事者等目録記載の原告番号1ないし115,118ないし138,140ないし265,267ないし279の各原告らに対し,平成14年2月以降毎月20日限り,同117,139,281ないし285の各原告らに対し,同15年10月以降毎月20日限り,同288ないし同290の各原告らに対し,同年12月以降毎月20日限り,それぞれ別紙未払賃金目録1ないし3「基本給」欄記載の金員を支払え。
  (6) 被告は,別紙当事者等目録記載の原告番号280-1ないし4の各原告らに対し,それぞれ別紙未払賃金目録4「請求金額」欄記載の各金員に同目録「慰謝料相続分」欄記載の金員を加えた各金員及び平成2年5月から同6年6月までの間に弁済期の到来した同目録「基本給」欄記載の各金員に対する各弁済期の翌日(毎月21日)から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  (7) 被告は,別紙当事者等目録記載の原告番号286-1ないし3の各原告らに対し,それぞれ別紙未払賃金目録5「請求総額」欄記載の各金員及び平成2年5月から同4年11月までの間に弁済期の到来した同目録「基本給」欄記載の各金員に対する各弁済期の翌日(毎月21日)から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  (8) 被告は,別紙当事者等目録記載の原告番号287-1ないし3の各原告らに対し,それぞれ別紙未払賃金目録5「請求総額」欄記載の各金員及び平成2年5月から平成10年7月までの間に弁済期の到来した同目録「基本給」欄記載の各金員に対する各弁済期の翌日(毎月21日)から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  (9) 被告は,原告らに対し,それぞれ別紙謝罪文を交付するとともに,横1.5メートル,縦2メートルの用紙に同謝罪文を見やすく記載して,被告事業所入口の見やすい場所に1か月間掲示せよ。
  (10) 被告は,原告番号1ないし46,48ないし115,117ないし138,140ないし228,281の各原告らについて北海道旅客鉄道株式会社に対し,同229ないし231の各原告らについて東日本旅客鉄道株式会社に対し,同139,232ないし265,267ないし279,282ないし285,288ないし290の各原告らについて九州旅客鉄道株式会社に対し,それぞれ別紙要請書を交付して原告らの採用を要請せよ。
 2 予備的請求
   被告は,原告らに対し,別紙原告別損害賠償請求額一覧表の「総請求額」欄記載の各金員及びこれに対する平成2年4月1日から支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。
第2 事案の概要
  本件事案の概要は次のとおりである。
  原告らはいずれも日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)に勤務し,国鉄労働組合(以下「国労」という。)に所属していた者及びその相続人である(以下,原告らと呼称する場合は,原則として,相続人については被相続人の趣旨であり,どちらの趣旨か疑義がある場合には,どちらを指すか明記することにする。)。原告らは,昭和62年4月1日,国鉄の分割・民営化の際,北海道旅客鉄道株式会社,東日本旅客鉄道株式会社,九州旅客鉄道株式会社(以下それぞれ「JR北海道」,「JR東日本」,「JR九州」といい,これらと東海旅客鉄道株式会社(以下「JR東海」という。),西日本旅客鉄道株式会社(以下「JR西日本」という。),四国旅客鉄道株式会社(以下「JR四国」という。),日本貨物鉄道株式会社(以下「JR貨物」という。)を併せて「JR」又は「JR各社」という。)に採用されず,日本国有鉄道改革法(昭和61年法律第87号,以下「改革法」という。)15条により国鉄から移行した日本国有鉄道清算事業団(以下「事業団」という。)の職員となり,日本国有鉄道退職希望職員及び日本国有鉄道清算事業団職員の再就職の促進に関する特別措置法(昭和61年法律第91号,以下「再就職促進法」という。)1条,日本国有鉄道清算事業団法(昭和61年法律第90号,以下「事業団法」という。)1条2項に規定する「再就職を必要とする者」(以下「事業団職員」という。)に指定された。原告らは,平成2年3月31日までに,再就職しなかった。そこで,事業団は,平成2年4月1日,再就職促進法附則2条による同法の失効に伴い,日本国有鉄道清算事業団就業規則(以下「事業団就業規則」という。)22条4号所定の「業務量の減少その他経営上やむを得ない事由が生じた場合」に当たるとして,原告らを同日付で解雇した(以下「本件解雇」という。)。
  原告らは,主位的請求として,本件解雇は憲法27条,28条,29条3項に違反し無効であり,違法な解雇により損害を被ったなどと主張して,事業団を承継した被告に対し,(1)雇用関係存在確認,(2)雇用関係があることを前提に,平成2年5月以降の未払賃金(既に死亡した者については,その死亡時までの未払賃金)の支払,(3)違法な解雇等により被った損害回復として,慰謝料1000万円(相続人の場合は,各相続分)の支払,名誉回復のための謝罪文の交付及び掲示,JR北海道,JR東日本,JR九州に対する原告らの採用要請を求めた。
  また,原告らは,前記主位的請求(1)(2)が認められなかった場合に備え,予備的請求として,不法行為に基づき,被告に対し,原告らがJRに採用され定年まで勤務した場合(既に死亡した者については,同人がJRに採用され,死亡時まで勤務した場合)に得られたであろう賃金相当額,退職金相当額,年金相当額(以下「賃金相当額等」という。)の損害賠償請求をするとともに,慰謝料を前記(3)の1000万円から2000万円に増額請求(ただし,原告番号230Cについては1000万円,Fの相続人を除くその余の相続人の場合は1000万円の各相続分)した。なお,原告らが,不法行為と主張する主な点は,原告らが事業団に配属された末,本件解雇されるに至ったのは,国鉄が国労を嫌悪し,国労組合員であった原告らを差別してJR北海道,JR東日本,JR九州の各採用候補者名簿に記載しないという不利益取扱いをするという違法な不当労働行為をしたからであるという点である。
 1 争いのない事実等(証拠等により認定した事実は,当該証拠等を文中又は文末の括弧内に掲記した。)
  (1) 当事者等
   ア 被告等
    (ア) 改革法は,国鉄による鉄道事業等の経営が破綻し,公共企業体による全国一元的経営体制の下においてはその事業の適切かつ健全な運営を確保することが困難になっている事態に対処するため,国鉄を分割・民営化することにするとしている。そして,改革法は,国鉄の分割・民営化の具体策として,国鉄が経営していた旅客鉄道事業を引き継ぐものとして旅客会社6社,貨物鉄道事業を引き継ぐものとして貨物会社1社を設立するものとし,前記JR各社は,昭和62年4月1日,それぞれ設立された。JR北海道は主として北海道において国鉄が経営していた旅客鉄道事業を,JR東日本は主として東北及び関東のそれを,JR九州は主として九州のそれを引き継ぐものとして設立された会社である。(改革法1条,6条,8条)
    (イ) 事業団は,昭和62年4月1日,事業団法に基づき成立したが,改革法に定める国鉄改革の実施に伴い,上記7社及び新幹線鉄道保有機構等4社(これら11法人を合わせて「承継法人」という。)による国鉄からの事業等の引継ぎ並びにその権利及び業務の承継等の後において,国鉄長期債務その他の債務の償還,国鉄の土地その他の処分等を行うほか,臨時に事業団職員のうち再就職を必要とする者についての再就職の促進を図るための業務を目的とし,国鉄は,同日,これに移行するものとされた(改革法15条,事業団法1条,同法附則2条)。
    (ウ) 事業団は,平成10年10月22日解散し,事業団法47条,日本国有鉄道清算事業団の債務等の処理に関する法律(平成10年法律第136号)2条1項の規定により政府が承継する債務以外の事業団の一切の権利義務は,日本国有鉄道建設公団(以下「鉄建公団」という。)に承継された(同法附則2条1項)。鉄建公団は,独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構法(平成14年法律第180号)附則2条1項に基づき平成15年10月1日に解散し,その一切の権利義務は,国が承継する資産を除き,被告に承継された。(甲6,弁論の全趣旨)
   イ 国鉄の労働組合について
    (ア) 国労は,昭和22年6月,国鉄職員により結成され,同62年4月1日以降はJR等承継法人,事業団の職員等で組織されている労働組合である(甲6,7,弁論の全趣旨)。
    (イ) 国鉄時代の併存組合
      国鉄には,その職員等で組織する労働組合として国労のほか,昭和26年6月に結成された国鉄動力車労働組合(以下「動労」という。),同43年10月に結成された鉄道労働組合(以下「鉄労」という。),同46年4月に結成された全国鉄施設労働組合(以下「全施労」という。),同49年3月に結成された全国鉄動力車労働組合(以下「全動労」という。),同61年4月に結成された真国鉄労働組合(以下「真国労」という。),同年12月に全施労,真国労等が統合して結成された日本鉄道労働組合(以下「日鉄労」という。)等があった。動労,鉄労,日鉄労等は,昭和62年2月,全日本鉄道労働組合総連合会(以下「鉄道労連」という。)を結成した。また,国労を脱退した組合員らが,昭和62年1月以降,各地区等を単位として鉄道産業労働組合を結成し(以下,北海道鉄道産業労働組合を「北海道鉄産労」といい,九州鉄道産業労働組合を「九州鉄産労」という。),これらの鉄道産業労働組合は,同年2月28日,全国組織として日本鉄道産業労働組合総連合(以下「鉄産労」という。)を結成した。(甲6,弁論の全趣旨)
   ウ 原告ら
    (ア) 原告らは,昭和62年3月31日までは,国鉄の労働者であったものであり,いずれも国労に所属していた。
    (イ) 原告番号1ないし46,47-0,同48ないし115,117ないし138,140ないし228,280-0,同281,286-0,同287-0の各原告(以下「JR北海道入社希望原告ら」という。)は,国鉄の分割・民営化に伴い,JR北海道への入社を希望したが採用されず,昭和62年4月1日以降,事業団の職員になった。なお,原告番号104Aは,第2希望であるJR東日本の採用内定通知を受けたがこれを辞退し,事業団の職員になった。
    (ウ) 原告番号229ないし231の各原告(以下「JR東日本入社希望原告ら」という。)は,国鉄の分割・民営化に伴い,JR東日本への入社を希望したが採用されず,昭和62年4月1日以降,事業団の職員になった。
    (エ) 原告番号139,232ないし265,267ないし279,282ないし285,288ないし290の各原告(以下「JR九州入社希望原告ら」という。)は,国鉄の分割・民営化に伴い,JR九州への入社を希望したが採用されず,昭和62年4月1日以降,事業団の職員になった。
    (オ) 上記(イ)ないし(エ)の各原告は,事業団において,再就職促進法1条,事業団法1条2項に規定する「再就職を必要とする者」(事業団職員)に指定された。上記原告らは,平成2年3月31日までに,再就職先が決定しなかった。
    (カ) 原告番号47-0Fは平成16年7月16日死亡し,妻子である同番号47-1ないし47-3の原告らがその地位を相続した。
      原告番号280-0Gは平成6年7月3日死亡し,妻子である同番号280-1ないし280-4の原告らがその地位を相続した。
      原告番号286-0Hは平成3年12月2日死亡し,妻子である同番号286-1ないし286-3の原告らがその地位を相続した。
      原告番号287-0Iは平成10年8月19日死亡し,妻子である同番号287-1ないし287-3の原告らがその地位を相続した。(弁論の全趣旨)
  (2) 承継法人の職員採用手続
   ア 改革法23条は,承継法人の職員採用手続について,①承継法人の設立委員は,国鉄を通じ,その職員に対し,それぞれの承継法人の職員の労働条件及び職員の採用の基準を提示して,職員の募集を行う(1項),②国鉄は,①によりその職員に対し労働条件及び採用の基準が提示されたときは,承継法人の職員となることに関する国鉄の職員の意思を確認し,承継法人別に,その職員となる意思を表示した者の中から当該承継法人に係る①の採用の基準に従い,その職員となるべき者を選定し,その名簿(以下「採用候補者名簿」という。)を作成して設立委員に提出する(2項),③採用候補者名簿に記載された国鉄の職員のうち,設立委員から採用する旨の通知を受けた者であって,昭和62年4月1日に国鉄の職員であるものは,承継法人の成立時(同日)において,当該承継法人の職員として採用される(3項),④承継法人の職員の採用について,当該承継法人の設立委員がした行為及び当該承継法人の設立委員に対してなされた行為は,それぞれ,当該承継法人がした行為及び当該承継法人に対してなされた行為とする(5項)旨規定している。
   イ 旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律附則2条は,運輸大臣は,JR各社ごとに設立委員を命じ,当該会社の設立に関しては発起人の職務を行わせる旨を(1項),設立委員は,同項及び改革法23条に定めるもののほか,当該会社が設立の時において事業を円滑に開始するために必要な業務を行うことができる旨を(2項)をそれぞれ規定する。そして,運輸大臣は,昭和61年12月4日,JR各社の共通設立委員16人及び会社ごとに設立委員2ないし5人を任命した。(甲6,弁論の全趣旨)
ウ JR各社合同の第1回設立委員会が,昭和61年12月11日開催され,国鉄改革のスケジュールを確認し,新会社の職員の労働条件について基本的な考え方及び各会社共通の採用基準を決定し,同月19日,JR各社合同の第2回設立委員会において各社の労働条件の細部が決定され,各会社共通の採用基準とともに国鉄に提示された。
     国鉄改革のスケジュールは,①設立委員は,昭和61年12月,JR各社の労働条件及び採用基準を決定し,国鉄に通知する,②これを受けて,国鉄は,同月から同62年1月までの間,職員の配属希望調査を行い,これを集計,分析,調整した上,同年2月,採用候補者名簿を作成して設立委員に提出する,③設立委員は,同月,職員を選考して採用者を決定する,④設立委員は,同年3月,JR各社での配属を決定して国鉄に内示し,国鉄はこれによって配転計画を策定して異動の発令を行うとされ,労働条件については,基本的に国鉄での労働条件を大幅に変更しないよう配慮するというものであった。
     また,JR各社共通の採用基準(以下「本件採用基準」という。)は,概略,以下の内容であった。
     ① 昭和61年度末において年齢満55歳未満であること。(医師を除く。)(以下「本件採用基準①)」という。)
     ② 職務遂行に支障のない健康状態であること。
     ③ 国鉄在職中の勤務の状況からみて,JR各社の業務にふさわしい者であること。なお,勤務の状況については,職務に関する知識技能及び適性,日常の勤務に関する実績等を国鉄における既存の資料に基づき,総合的かつ公正に判断すること。(以下「本件採用基準③)」という。)
     ④ 「退職前提の休職」(日本国有鉄道就業規則62条(3)ア)が発令されていないこと。
     ⑤ 「退職を希望する職員である旨の認定」(緊急措置法4条1項)を受けていないこと。
     ⑥ 国鉄において再就職の斡旋を受け,再就職先から昭和65年度(平成2年度)当初までの間に採用を予定する旨の通知を受けていないこと。(甲6,7,弁論の全趣旨)
   エ 運輸大臣であった橋本龍太郎(以下「橋本運輸大臣」という。)は,昭和61年12月16日,改革法19条1項に基づき,閣議決定を経て,「日本国有鉄道の事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継等に関する基本計画」(以下「本件基本計画」という。)を定め,別表1のとおり,国鉄職員のうち承継法人の職員となる者の総数を21万5000名(うちJR北海道の職員数を1万3000名,JR東日本の職員数を8万9540名,JR九州の職員数を1万5000名)と決定した(甲6,277,弁論の全趣旨)。
   オ(ア) 国鉄は,昭和61年12月24日,本件採用基準に該当しないことが明白な者を除く職員約23万0400名に対し,承継法人の労働条件,採用基準を記載した書面及び承継法人の職員となる意思を表明する意思確認書の用紙を配布し,同62年1月7日正午までに提出するよう指示した。期限までに,国鉄職員のうち22万7600名が意思確認書を提出し,21万9340名が承継法人への就職を希望し,別表1のとおり,第2希望以下の複数の承継法人名を記載している者を含めた就職申込総数は延べ52万5720名であり,このうち,JR北海道への就職申込総数は延べ2万3710名,JR東日本への就職申込総数は延べ11万3550名,JR九州への就職申込総数は延べ2万9270名であった。(甲6,277,弁論の全趣旨)
    (イ) 原告番号104Aを除くJR北海道入社希望原告らは,いずれも意思確認書にJR北海道に就職を希望する旨記載して,意思確認書を提出した。原告番号104Aは,意思確認書に,第1希望JR北海道,第2希望JR東日本と記載して意思確認書を提出した。JR東日本入社希望原告らは,JR東日本に,JR九州入社希望原告らは,JR九州にそれぞれ就職を希望する旨記載して,意思確認書を提出した。(甲704,弁論の全趣旨)
   カ(ア) 国鉄は,昭和62年1月中旬ころまでに,本件採用基準③について,同58年4月以降,非違行為により停職6か月以上の処分又は2回以上の停職処分を受けた者は明らかに承継法人の業務にふさわしくない者として,採用候補者名簿に記載しないとの方針を定めた(以下「国鉄による本件選定基準」という。)。そして,国鉄は,職員管理調書に基づき,JR各社の職員となるべき者の具体的な選定作業を行い,JR各社の採用候補者名簿を作成した。(甲6,310の1ないし5,同312の1及び2,弁論の全趣旨)
    (イ) 国鉄は,非違行為6か月以上の処分歴があるとして,原告番号229B,同231DについてJR東日本の採用候補者名簿に,同245EについてはJR九州の採用候補者名簿に記載しなかった。また,原告番号230Cは,昭和61年度末において年齢満55歳未満の要件を充たしていないことから,JR東日本の採用候補者名簿に記載しなかった。原告番号104Aについては,第2希望のJR東日本の採用候補者名簿に記載した。さらに,国鉄は,その余の原告らについて,入社を希望するJR北海道,JR九州の採用候補者名簿にそれぞれ記載しなかった。(弁論の全趣旨)
   キ 国鉄は,昭和62年2月7日,JR各社の設立委員会に対し,それぞれ採用候補者名簿を提出した。JR各社の採用候補者名簿に記載された職員数は,別表1のとおり,基本計画の職員数を9414名下回る20万5586名(JR北海道は基本計画と同数の1万3000名,JR東日本は基本計画を5197名下回る8万4343名,JR九州は基本計画と同数の1万5000名)であった。(甲4,277,弁論の全趣旨)
   ク JR各社合同の第3回設立委員会が,昭和62年2月12日に開催され,国鉄から選定作業結果等の説明を受けた上,採用候補者名簿に記載された者全員を当該JR各社に採用することを決定した。これを受けて,JR各社の設立委員会は,昭和62年2月16日以降,採用することを決定した者(以下「採用予定者」という。)に対し,国鉄を通じて同月12日付で同年4月1日付で採用するとの通知書を交付した。採用予定者のうち,JR各社合計で4938名が採用を辞退した(以下,昭和62年4月1日での職員採用を「4月採用」という。)。(甲6,弁論の全趣旨)
   ケ 前記カ(イ)のとおり,原告番号104Aを除く原告らは,いずれも入社を希望するJR北海道,JR東日本,JR九州各社の採用候補者名簿に記載されず,また,同Aは,第1希望であったJR北海道の採用候補者名簿には記載されず,第2希望であったJR東日本の採用候補者名簿に記載され,同社から採用通知を受けたがこれを辞退したため,いずれもJR北海道,JR東日本,JR九州に採用されなかった(甲88,弁論の全趣旨,以下「本件不採用」という。)。
(3) 本件解雇に至る経緯
   ア 承継法人に採用されなかった原告ら国鉄職員は,昭和62年4月1日以降,事業団職員となり,再就職促進法に基づき,再就職促進対策が図られることとなった。(甲6,弁論の全趣旨)
   イ 事業団職員の再就職促進基本計画の決定等
     内閣は,昭和62年6月5日,再就職促進法14条に基づき,「日本国有鉄道清算事業団職員の再就職促進基本計画について」(以下「再就職促進基本計画」という。)を閣議決定した。再就職促進基本計画は,再就職促進法に基づき,3年以内にすべての事業団職員の再就職が達成されるように努めるものとし,かかる目標を達成するため,承継法人,事業団及び国等の講ずべき措置を定めていた。
     事業団は,本社内に雇用対策本部を設置し,内閣の国鉄清算事業団職員雇用対策本部と連絡を取り合い,再就職促進基本計画を基礎として,同本部の指導を得ながら各年度ごとに「日本国有鉄道清算事業団職員再就職促進実施計画」(以下「再就職促進実施計画」という。)を策定した。事業団は,昭和62年度の再就職促進実施計画では,再就職促進基本計画に定める目標数の概ね3分の1の事業団職員を同63年度当初までの間に再就職できるように努めるとの目標を立て,同63年度の再就職促進実施計画では,再就職促進基本計画に定める目標数から同年度当初までの間に再就職等による減少分を控除した数の概ね2分の1の事業団職員を同64年度当初までの間に再就職できるように努めるとの目標を立て,平成元年度の再就職促進実施計画では,残りのすべての事業団職員が同2年4月1日までの間に再就職できるよう努めるとの目標を立てていた。また,事業団は,地方機関として雇用対策部(全国7地区),雇用対策支部(全国20地区)を設置し,それぞれに事業団職員が所属する雇用対策支所を置き,教育訓練所及び職業相談室を設置した。(甲42,43,乙5の1,同6,7の1ないし3,弁論の全趣旨)
   ウ 内閣の国鉄清算事業団雇用対策本部は,平成元年11月21日付で,「今後の日本国有鉄道事業団職員の再就職対策の取組みについて」と題する文書により,今後の再就職対策についての見解を表明した。同文書には,再就職促進基本計画に従い各分野にわたりできる限り多くの再就職の機会を確保し,これらを個々の再就職先未定の事業団職員に示して決断を促すことが重要な課題であり,残された期間関係者の総力を結集して再就職先未定の事業団職員の再就職対策に取り組むものとし,JR東日本,JR東海,JR西日本,JR四国,JR貨物に対し,重ねて追加採用の実施を求めるとともに,その関連事業主,各省庁,地方公共団体,民間事業主に対し求人開拓を更に積極的に実施することを要請する一方,再就職先未定の事業団職員に対し,再就職対策が最終段階を迎えていることを十分に認識の上,意を新たに地域の雇用情勢等の実情に応じた適切な再就職活動を積極的に行うことを強く希望する旨表明されていた。(乙9,弁論の全趣旨)
   エ 事業団は,平成2年3月9日,国労ほか各労働組合と団体交渉を行い,事業団職員のうち再就職促進法失効時において事業団に在籍する者の取扱いについて,雇用対策の終了に伴い失職することを前提に,辞職しない者は,事業団就業規則22条4号により解雇する旨明らかにし,関係組合員に対し,更に再就職の努力を促すとともに,自ら辞職申請書を提出するよう求めた(乙10,弁論の全趣旨)。
   オ 原告らは,平成2年3月になっても,再就職が未定のままであった。事業団は,平成2年3月20日,原告らを含む再就職未定者1406名(北海道693名,本州・四国56名,九州657名)に対し,再就職が決まらずかつ辞職申請書を提出しないとして,解雇予告通知をし,同年4月1日,原告らを含む1047名を事業団就業規則22条4号に基づき解雇した(本件解雇)。(甲937,乙11ないし14,弁論の全趣旨)
  (4) 本訴提起
    原告らは,平成14年1月28日(甲事件),同15年10月20日(乙事件),同年12月12日(丙事件),それぞれ主位的請求に関し本件訴えを提起し,同16年4月19日予備的請求において訴えの追加的変更をした。
  (5) 時効援用
    被告は,甲事件原告らに対し,平成14年11月21日の甲事件第2回口頭弁論期日において主位的請求のうち慰謝料請求について時効を援用するとの意思表示をし,また,被告は,原告らに対し,同16年5月31日の本件第15回口頭弁論期日において予備的請求について時効を援用するとの意思表示をした。
 2 争点
  (1) 本件解雇は有効か(争点1)。
  (2) 国鉄ないし事業団は,原告らに対し,不法行為を行ったか(争点2)。
   ア 国鉄が,原告らをJR北海道,JR東日本,JR九州の各採用候補者名簿に記載せず,前記JR各社に採用させず,事業団に振り分けた行為
   イ 国鉄の指示で,国鉄幹部ないし現場管理者が,昭和57年から同62年のJR不採用までの間にした行為
    (ア) 原告らに対し,国労所属を理由として,些細な事象での処分,余剰人員扱い,人材活用センター(以下「人活センター」という。)に配属するなどした行為
    (イ) 国労に所属していてはJRに採用されないと喧伝・脅迫し,事実上,組合脱退をJR採用の条件とした黄犬契約類似の行為
    (ウ) 前記(ア),(イ)の不利益取扱い,脅迫等をもって,国労の弱体化・変質を図り,原告らに脱退を工作し,原告らの団結権を侵害した行為
   ウ 事業団の幹部ないし現場管理者が,原告らを劣悪な環境に押し込め,自学自習しかさせず,原告らの再就職を妨害した行為
   エ 本件解雇
   オ 事業団ないし被告が,原告らを地元JRに再就職させる法的義務を負っていながら,これを履行しないという継続的不作為
  (3) 仮に被告に不法行為責任がある場合,不法行為と相当因果関係のある損害賠償の範囲及び相当な損害回復方法(争点3)
  (4) 仮に原告らの被告に対する損害賠償請求等が認められる場合,同請求権等は時効消滅したか。また,被告が時効を援用することは,権利濫用に当たり許されないか。(争点4)
第3 争点に対する当事者の主張の要旨
 1 争点1(本件解雇の効力)について
 【被告】
  (1) 本件解雇の解雇事由
    昭和58年6月に設置された日本国有鉄道再建監理委員会(以下「再建監理委員会」という。)は,国鉄改革の主要事項は余剰人員対策であるとし,国鉄において相当数の余剰人員の活用,調整を図るとともに,国鉄の分割・民営化後に新たに設立されるJR各社では,健全な経営基盤を確保するため適正要員数を考慮した人員配置が必須であるとした。そして,再建監理委員会は,昭和60年7月26日,内閣に提出した最終答申において,JR各社において新規採用されない国鉄職員約6万1000名の余剰人員対策について,国鉄において速やかに希望退職募集,出向,一時休職等の対策を講ずるとともに,当時の労働市場の動向からみて一時に大量の再就職は困難であるとして,国鉄の分割・民営化後においても,3年を限度として旧国鉄(事業団)において雇用を継続し,再就職対策を講ずることを基本対策とした。これを受けて,内閣は,国鉄余剰人員雇用対策の基本方針として,事業団職員に対して雇用を継続し特別対策を講じる期間は,新経営形態移行後3年を限度とする旨明確にした。このような国鉄改革の経緯から,再就職促進法は平成2年4月1日までの3年間の時限立法として制定され,事業団の再就職促進事業は臨時のものと規定され(改革法15条,事業団法1条2項,26条3項),事業団職員の義務は,事業団の他の職員とは異なり,再就職のための教育訓練を受けるという特殊な内容に限定されていた(事業団就業規則3条2項,109条)。事業団は,再就職促進法が失効するまでの3年間,事業団職員の雇用先の確保を図ったが,原告らを含む1047名の事業団職員は,再就職斡旋に応ずることなく,辞職届も提出しなかった。そこで,事業団は,平成2年3月20日,関係労働組合との労働協約に従って原告らを含む1047名に対し,解雇予告通知を行い,同年4月1日,事業団就業規則22条4号に基づき本件解雇を行ったのであって,本件解雇は有効である。
    確かに,再就職促進法には,事業団職員の平成2年4月1日以降の処遇について明文の規定が存在しない。しかし,これは,事業団職員が3年の期間内に事業団の就職斡旋努力に対応し,再就職を実現させることが期待されていたからにほかならず,原告らのように事業団職員が地元JRへの採用に固執するなど,その意思により再就職斡旋に応じないまま3年間経過する事態を予定していなかったからであり,このような事態が事業団就業規則22条4号にいう「業務量の減少その他経営上やむを得ない事由が生じた場合」に該当することは当然のことである。原告ら事業団職員の地位は,専ら再就職の特別対策を受けるという目的の範囲内において存続していたものであるから,再就職促進法は同法が失効してもなおその地位を保有し続けるということを予定しておらず,平成2年4月2日以降は事業団職員の雇用継続を前提とした予算措置も講じられていない。そして,原告らが所属する国労自身,事業団を3年間の限定付の「新たな首切り収容所」と位置付け,法律上,平成2年3月31日に雇用対策が打ち切られ,その後に賃金不払の問題が出てくるとして,再就職促進法の失効により事業団職員の雇用関係が終了することを認識していた。
  (2) 原告らの主張に対する反論
   ア 再就職促進法等の解釈について
     原告らは,事業団は,再就職促進法失効後も,改革法,事業団法の規定により,事業団職員の再就職促進事業を続けなければならないのであり,再就職促進法失効を理由に事業団職員を解雇することは許されないと主張する。しかし,原告らの主張は,結局,原告らを含む事業団職員全員を再就職させない限り,時限立法である再就職促進法が存続することを前提とする主張であり,失当である。
     また,原告らは,再就職促進法附則3条,4条を根拠に,同法失効後も原告ら事業団職員に対する再就職促進措置が予定されていたと主張する。しかし,再就職促進法附則4条は,同法24条1項所定の事業団の各業務のうち4ないし7号に限定して同法失効後の効力を規定するものであり,同法附則3条所定の失効日の属する事業年度にかかる実施計画の内容も,この範囲に属するものに限られる。そうだとすると,事業団は,再就職促進法失効後,再就職決定後の事業主に対する助成,事業団職員の再就職後の住宅斡旋等の業務を行うことはあるとしても,再就職未定者に対する再就職のための就業指導,斡旋等の特別対策にかかる業務を行うことまでは予定されていなかったというべきである。
     さらに,原告らは,再就職促進法は,3年以内に事業団職員全員を再就職させるという国や事業団らの責務を定めたものにすぎないと主張する。しかし,再就職促進法の有効期間である3年経過後において,なお事業団職員が自らの意思で再就職斡旋等に応じない場合に,事業団の義務違反が問われる余地はない。ましてや,別途政令を制定させて再就職促進法を2年間延長させなければならない義務などない。
     なお,原告らは,事業団就業規則22条4号は,原告ら事業団職員への適用を予定していないと主張する。しかし,事業団就業規則は,事業団の全職員を対象とするものであり(同規則2条,事業団法17条),原告ら事業団職員を除外すべき理由はない。
   イ 原告らを地元JRに採用させる法的義務について
     原告らは,事業団には原告らを地元JRに採用させる法的義務が存在するとして,この義務を尽くさずに行われた本件解雇は無効であると主張する。しかしながら,国鉄の分割・民営化に伴い発足したJR各社の社員は,本件基本計画において定められた採用予定数の範囲内において,改革法23条所定の手続に従い新企業体の社員としてふさわしいとされた者が採用されたのである。したがって,このような手続の結果JRの社員として採用されなかった原告らについて,事業団が地元JRに採用させる法的義務を負うことなどない。
     また,原告らは,国鉄による採用差別が先行行為となって,信義則上,事業団の再就職促進義務は,採用差別された事業団職員らを地元JRに採用させる義務に転化したと主張する。しかしながら,国鉄が,改革法23条に基づくJR各社の社員の採用に関し,差別を行ったという前提自体誤りである。しかも,JR社員の採用は,JR各社の自由な意思により決定されるものであり,第三者である国鉄等が介入する余地はない。したがって,国鉄による採用差別の有無にかかわらず,事業団の再就職促進義務が地元JRに採用させる法的義務に転化することなどない。
     さらに,原告らは,各地方労働委員会(以下「各地労委」という。)でJR各社の新規採用に関する不当労働行為が認定され救済命令が発令されたもとでは,JR各社にはそれぞれ就職を希望する事業団職員らを採用すべき義務があり,これに応じて事業団の再就職促進義務の内容も事業団職員らを希望する地元JRに採用させるというものになったと主張する。しかしながら,各地労委における救済命令は,いずれも取消訴訟において取り消され,その判断は,最高裁平成13年(行ヒ)第94号,同第96号,各平成15年12月22日第一小法廷判決(以下両判決を併せて「本件最判」という。)により確定したのであり,原告らの主張はその前提が既に失われている。
     そもそも,原告らの再就職が3年間で実現しなかったのは,原告らが地元JRへの入社に固執し,それ以外の就職先への再就職斡旋を拒否し続けたことに原因がある。原告らは,数回にわたる本州JR各社による追加採用(広域採用)にも応ずることなく,3年間を徒過したのであって,その責任は専ら原告らにある。事業団は,雇用契約関係終了に向けての準備期間として設定された再就職促進法所定の3年間,原告らを含む事業団職員に対し,再就職活動の指導斡旋に尽力し,JR各社への追加採用を含む多くの再就職先を確保したのであるから,その義務違反を問われるいわれはない。他方,原告らは,再就職の機会を自ら放棄して,地元JRへの入社に固執したのであるから,事業団が再就職促進法失効により雇用契約関係終了に向けた準備期間が終了したとして行った本件解雇が無効となることはない。
   ウ 解雇権濫用について
     JR各社による国鉄の分割・民営化の際の職員採用は,改革法23条に基づく新規採用であり,原告らが当然にその社員たる身分を取得するものでなく,他方,原告らは,JR各社への不採用後3年間事業団職員としての身分を継続していたのであるから,JR各社への不採用を整理解雇と同一視することはできない。仮にJR各社による不採用を整理解雇と同視できるとしても,本件解雇は,いわゆる整理解雇の4要件(①人員削減の必要性,②人員削減の手段として整理解雇を選択することの必要性,③被解雇者の選定の妥当性,④手続の妥当性)を充足するものであって,合理的な理由を有し,社会通念上相当なものであるから,解雇権の濫用ということはできない。そうだとすると,JR各社への不採用後一連の措置としてなされた本件解雇が無効になることはない。
 【原告ら】
  (1) 再就職促進法附則2条は違憲無効であること
    再就職促進法附則2条は,同法が平成2年4月1日限り失効する旨規定している。しかし,再就職促進法が規定する事業団の再就職促進義務は,国鉄労働者が,国鉄改革という公共のために,雇用及びこれに伴う賃金受給権など労働者として生活を営むために必要不可欠な「財産」を奪われることに対する国の責任として,「正当な補償」(憲法29条3項)を確保する趣旨で規定された重大な義務である。したがって,再就職促進法附則2条が3年の期限を定めるについては,国鉄の採用候補者名簿作成等に組合差別がないこと,事業団が3年間誠実に再就職措置を行うことが前提とされていたところ,いずれの前提も実現されていない(前提の欠落)。そうだとすると,再就職促進法附則2条は,同法を3年の期限とすることの前提を欠いており,憲法27条,28条,29条3項に違反し,無効である。
  (2) 再就職促進法の失効による本件解雇は無効であること
   ア 仮に再就職促進法附則2条が有効であるとしても,同法14条3項は,国の策定する再就職促進基本計画は,移行日から3年以内にすべての事業団職員の再就職が達成されるような内容のものとして定められなければならないと規定し,国及び事業団側の義務として3年以内に事業団職員の再就職を達成しなければならないと定めている。このような再就職促進法の趣旨に照らすと,同法附則2条所定の失効日が到来したからといって,事業団職員の早期かつ円滑な再就職の実現が改革法の規定による国鉄改革を確実かつ円滑に実施する上で不可欠であるとの認識(同法2条)が変更されることはなく,再就職促進義務自体が3年でなくなることにはならない。再建監理委員会の最終答申,「日本国有鉄道事業団職員の再就職促進基本計画について」,「平成元年度日本国有鉄道事業団職員再就職促進実施計画」等においてもかかる趣旨が明記されていた。また,事業団理事長であった杉浦喬也は,昭和62年8月25日,国会において,事業団職員について3年間で完全に再就職させることを約束した。
   イ 再就職促進法は,同法附則2条により同法が失効した場合の事業団職員の地位に関する規定を設けておらず,同法自体,3年経過後に事業団職員を解雇することを予定していなかったといえる。再就職促進法が同法附則2条により失効しても,事業団理事長が同法14条1項に基づいて原告らを再就職を必要とする者と指定した行為が失効するだけであり,これにより原告らの事業団における労働者としての地位が消滅することにはならない。事業団就業規則22条4号が規定する「業務量の減少その他経営上やむを得ない事由が生じた場合」とは,専ら事業団職員以外の職員への適用を予定した規定であり,再就職促進法失効による事業団職員の解雇を予定した規定ではない。したがって,事業団は,事業団就業規則22条4号に基づき,事業団職員である原告らを解雇することはできない。
   ウ 仮に事業団就業規則22条4号が原告ら事業団職員をも対象としていたとしても,原告らが再就職することができなかったのは,国鉄がJR北海道,JR東日本,JR九州の採用候補者名簿作成において組合差別を行ったこと,事業団が十分な就職斡旋をせず,各地労委の救済命令を前記JR各社に履行するよう働きかけなかったことに原因がある。そうだとすると,本件解雇は,「経営上やむを得ない」場合には当たらない。
     また,事業団は,平成2年4月1日当時,1047名の未就職者を抱え,なお多くの業務を残していた。したがって,事業団は,再就職促進法附則2条の期限後も再就職特別措置を継続することができ,そうすべき義務があったのであるから,本件解雇には事業団就業規則22条4号所定の解雇理由はない。
     被告は,原告らが地元JRへの入社に固執したため再就職することができなかったなどと主張する。しかし,国鉄ないしJRが原告らに対し採用差別という不当労働行為,団結権侵害を行った以上,原告らが地元JRへの入社を求め,労働委員会の救済命令の履行を求めたのは当然のことである。また,原告らの勤労の権利は,国鉄改革のために犠牲となったのであるから,原告らに対しては,完全な補償がされなければならず,地元JR以外の再就職先としては,国鉄勤務当時と同程度の賃金,労働条件,そして国鉄時代の技能が生かせる職場でなければならなかったのである。原告らがこのような措置を求めたため3年以内に再就職できなかったとしても,原告らに責任はない。
   エ 再就職促進法は,立法段階において,3年間で事業団職員全員の再就職が果たせなかった場合には,例外的に再就職促進措置を延長することを予定していた。すなわち,再就職促進法附則4条は,例外的に再就職促進措置を延長するため,失効日以前に開始された同法24条1項に規定する事業団の業務については,同項の規定は,同法附則2条の規定にかかわらず,失効日後も,なおその効力を有すると規定している。ところで,再就職促進法失効当時,原告らを地元JRに採用せよとの各地労委命令が発令されており,その履行は憲法27条,28条,29条3項に基づき要請される特別の業務であり,事業団職員の再就職の援助等のために必要な業務(同法24条1項7号)に当たるから,同法附則4条により同法失効日以降も行うことができた。また,再就職促進法附則3条は,失効日の属する事業年度にかかる実施計画については,同法15条1項の規定に関わらず,作成することを要せず,この場合において,当該事業年度に係る同条2項各号に掲げる事項については,当該事業年度の直前の事業年度に係る事業計画に定めるものとすると規定しており,平成2年度以降も事業団職員の円滑な再就職の促進に関する措置を実施することが予定されていたといえる。さらに,再就職促進法附則6条は,同法の失効にともない必要な経過措置は,政令で定めると規定しており,再就職促進事業の継続を予定していたといえる。この点,確かに,事業団については,平成2年4月2日以降,職員の雇用継続を前提とした予算措置が講じられていない。しかし,事業団法37条は,予算等の変更のあり得ることを当然の前提としており,事業団は,同条に基づき予算の変更手続を行うことができる。さらに,事業団には予備費,予算流用の規定があり(事業団の再就職促進業務に係る財務および会計等に関する命令13条14項),その認可前の予算外支出が禁じられているわけではない。事業団は,内閣に働きかけて政令を制定させ,原告ら事業団職員らを地元JRに採用させる業務を引き続き行う義務があったのに,これを怠りながら,本件解雇をすることは違法であり,本件解雇は無効というべきである。なお,再就職促進措置が延長されることが予定されていたことを裏付けるものとして,橋本運輸大臣,国鉄改革本部長代理であった三塚博が,昭和61年11月28日(国鉄改革関連法成立の日),国鉄総裁杉浦喬也,運輸省国鉄再建総括審議官林淳司ら立会の下,参議院議員対馬孝旦,同青木薪次との間で作成した「事業団職員の雇用について」と題する念書(甲18)が存在する。
   オ 事業団は,再就職促進法失効後も,国鉄の長期借入金及び鉄道債券にかかる債務等の償還,資産の処分等相当量の業務を行うことが予定されていた(事業団法1条1項,26条)。これらの業務を行った事業団の本務職員は,事業団解散時に事業団の要請によりJRへの再就職を果たしているのであるから,事業団職員についても解雇をせずにこれらの業務を行わせつつ,地元JRへの再就職を実現させるべきであった。事業団は,憲法27条,28条,29条3項に基づき,原告らを地元JRに採用させる法的義務を負っており,かつ同義務を履行することが可能であったにもかかわらず,原告らを含む事業団職員を解雇した。
   カ 以上によれば,本件解雇は,憲法27条,28条,29条3項に違反し,無効である。
  (3) 本件解雇は不当労働行為に当たり,無効であること
   ア 国鉄は,国労を嫌悪し,総裁以下国鉄当局幹部が組織的・計画的に不当労働行為を行い,昭和62年2月,原告らが積極的な国労組合員であることを唯一の理由として,JRの採用候補者名簿に記載しなかった。このため,原告らは,昭和62年4月1日,希望するJR北海道,JR東日本,JR九州に採用されず,事業団職員に指定され,3年間不安定な雇用形態に置かれ,平成2年4月1日解雇された。国鉄が,原告らを事業団職員に指定したのは,組合差別による振り分けの結果であり不当労働行為として無効である。したがって,原告らが事業団職員であることを前提にする本件解雇も無効である。
   イ 再就職促進法22条によれば,事業団は,事業主に対して事業団職員をその労働者として雇い入れるように積極的に要望する等,事業団職員の再就職の機会の確保を図るために必要な措置を講ずるものと規定している。ところが,事業団は,雇用対策業務を担当する者の半数以上がJR各社からの出向者で,国鉄時代に国労攻撃を行っていた管理職であったことから,原告ら事業団職員に対し,再就職の機会の確保を図るために必要な措置,再就職の促進を図るための教育訓練,求人の開拓,職業指導,職業紹介等を行わなかった。そればかりか,事業団は,再就職対策,JR追加採用に当たって,国労に所属していた原告らを他労組に所属していた職員と差別した上,本件解雇を行ったのであり,本件解雇は不当労働行為に当たり無効というべきである。
  (4) 原告らを地元JRに採用させずにされた本件解雇は無効であること
    国鉄は,JR各社とともに原告らの採用差別という不当労働労働行為を行ったのであるから,これらの不当労働行為が先行行為となって,国鉄を承継した事業団は,原告らに対し,単に民間企業や公的部門の就職先を紹介しただけでは再就職促進義務を尽くしたとはいえない。事業団は,原状回復に相当するものとして,採用差別された事業団職員らを地元JRに採用させる法的義務を負っていた。また,事業団は,JR北海道及びJR九州の昭和62年6月採用(以下「6月採用」という。)においても,組合差別を助勢したのであり,原告らを地元JRに採用させる義務は更に重大となった。全国各地の各地労委は,昭和63年ころから,JR各社は事業団職員らを同62年4月1日から採用したものとして扱えとの救済命令を発令したところ,事業団は当時JR各社の全株式を保有していたのであるから,事業団職員らが就職を希望する地元JRに対し,採用を要請すべきであった。さらに,JR各社には,平成2年4月1日当時,欠員が出ており,旅客,貨物を併せると,事業団に残っていた職員全員を地元JRに採用させることが可能であった。このように,事業団は,憲法27条,28条,29条3項に基づき原告らを地元JRに採用させる法的義務を負っており,かつ同義務を履行することが可能であったにもかかわらず,原告らを含む事業団職員を解雇した。したがって,本件解雇は,憲法27条,28条,29条3項に違反し,無効である。
  (5) 解雇権濫用であること
    国鉄の原告らに対する採用候補者名簿不記載は,国鉄とJR各社との実質的同一性を前提とすれば,実質的には期限付の整理解雇であったといえる。そうだとすると,本件解雇の効力を判断するに当たっては,採用候補者名簿作成時である昭和62年2月当時,いわゆる整理解雇の4要件を充たしていたかが問題となる。この点,国鉄は,原告らに対し,被解雇予定者選定というべき採用候補者名簿不記載の理由を明らかにせず,協議・説明義務を果たしていないこと,被解雇予定者選定の合理性もないことからして,採用候補者名簿不記載ひいては本件解雇は,整理解雇の要件を充たしておらず,解雇権濫用として無効である。
 2 争点2(不法行為の有無)について
  (1) 国鉄が,原告らを希望するJR北海道,JR東日本,JR九州の各採用候補者名簿に記載せず,前記JR各社をして不採用とさせ,事業団に振り分けた行為(以下「本件不法行為①」という。)
  【原告ら】
   ア 国鉄では,予想を上回る退職者が出て昭和61年度末の職員数は約22万7000名となった。この職員数と再建監理委員会答申に掲げられた新事業体発足時の要員規模である21万5000名との差は1万2000名にすぎず,退職等の自然減により1年間で余裕を持って削減できる余剰数であった。しかも,採用候補者名簿記載者数は上記要員規模を9414名下回っていたのであり,JR北海道及びJR九州では要員数以上の採用をし,総数内で調整を行うべきであった。なぜなら,同じ国鉄職員でありながら,たまたま勤務希望地が本州・四国であったか,北海道・九州であったかによって,前者はほぼ全員採用となり,後者は高い率で不採用になるように振り分けてよい合理的理由も社会的相当性もないからである。
   イ 国鉄は,停職処分6か月以上の処分を受けた者又は停職2回以上の処分を受けた者を新会社であるJR各社の業務にふさわしくない者として,採用候補者名簿記載の選定基準とした。しかし,国鉄による本件選定基準は,職員の技術の優劣,実績等をみることなく,勤務上の規律の面だけを重視するものであること,当該労働処分(労働組合の組合員として組合の方針に従って活動したことを理由とする処分のこと,以下同じ。)の対象となった行為については既に国鉄において処分を受けており二重処分に当たることなど