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キーンコーンカーンコーン・・・   「さてと、帰ろうかな」   オレの名前は橘 瑩(たちばな あきら)、成績を気にしない高校2年生だ。   「帰ってなにしようかな」   放課後、義妹の雪音(ゆきね)は、なんたら委員会とかで帰るのが遅くなるそうだ。よって、オレ一人での下校となる。   「・・・・・・寝るに限るな」 予定を立て、オレは帰路についた。 ・・・・・・・・・ ・・・・・・   「・・・やべ・・・・・・」 ちょうど学校から家までの中間地点、オレは地獄を味わっていた。   「うが・・・ぐぅああぁ・・・」 ストレートに言うと、腹が痛い。先程から締め付けられるような、まるでエフワンのエンジン音みたいなものまで鳴っている。   「ど、どどどど、どうする?」   誰にでもなくそう聞く。だが答えが返ってくるはずもない。   (嗚呼、神様・・・1300円渡すからどうか助けてくれ・・・!) と、いるかどうかも分からない神に、金銭面での取引を申し込んでみる。   (・・・・・・) が、答えは沈黙。どうやら断られたようだ。ていうか、OKされてもいろいろ困るが。   「おおぉお・・・・・・」   オレは下半身の洞窟からドラゴンが逃げ出さないようにしながら、いろんな筋肉に力を込める。がしかし、余計な筋肉まで力を込めてしまった!   (おおおおおおおおおおお! まずいまずいまずい、も、もる・・・!)   このままでは核爆発が起きてしまう! そんなことになったら、地球は・・・・・・!   (オレの勇気は・・・死なない!!) ・・・・・・・・・   腹の中で起きた戦争は、一時停戦協定を結んだ。   今のうちにダッシュで家に帰るか? いや、もしまたドラゴンが暴れだしたら・・・   「ん?」   ゆっくりと歩いていたから気付いたのか、家の近く(といってもさほど近くないが)の公園、「勇者公園」が見えた。幸いこの公園にはトイレがある。明らかに家に帰るより、ここで済ました方が安全なのだが、いくつか問題がある。それは、 ●公園のトイレでバースト、知人に見つかってしまったら・・・ ●先に人が入っていたら気まずい・・・ ●公園にはそこら辺のガキが戯れている。ヘタをすれば・・・ ●ここのトイレは臭い。 その他諸々・・・   最初の3つはまだ許せるのだが、最後の一つだけは許せるとかいう問題じゃない。たとえるなら、ドリアン、そしてシュールストレミング並み・・・いや、それを超える臭さだ。   オレの息は最高で3分くらいは持つが、状況が最悪だ。和式便器なので体勢も悪くなるし、なにより精神的に追い詰められている中、冷静に息を止めていることは難しい。仮に息を止めつつドラゴン抹殺に成功したとして、オレの身体に臭いが染み付いてしまう。家に帰るまで多少の呼吸は制限されてしまい、最悪の場合家に臭いを持って帰ってしまう。だが、今この場で楽になるのは確かだ。   逆に、グレート・ダッシュで家に帰れば、問題なくバーストできる。臭いもつかないし、なにより安心してドラゴンを抹殺できる。がしかし、家に帰るまでが地獄だ。もし途中でフライングでもしたら・・・・・・   「ぬっ!?」   究極の選択を強いられていた最中、再び激しいエンジン音が! まずい、眠っていたドラゴンが目を覚ましてしまったか!   「くっ! オレはどうすればいいんだ!?」 #contents (↑どちらか選択してください) [[小説部屋へ戻る>小説部屋]] [[トップへ戻る>トップページ]] ---- *グレート・ダッシュ! (家へ帰るぜ!)   やはり臭いがつくのは耐えられない! もし呼吸困難に陥って死んでしまっては元も子もないしな! よし、そん・・・   「あぐっ!?」 なぜかさらに腹の痛みが増してしまった! くっ、歩くに歩けん!   「垂れ流して・・・・・・たまるかぁ!」 オレはかかとを上げ、つま先に力を込め、チョコチョコチョコッと歩き始める。50m走・5秒台、ナメんなよ! ・・・この場合あんま関係ないか。   しかしチョコチョコと歩き出したものの、なかなか進まない。って当たり前じゃん。   とその時、運悪く前方から人が来てしまった! まずい、変人扱いされる! 最悪の場合、た、逮捕・・・・・・?   「・・・・・・」 オレはかかとを地面につき、つま先の力を抜いて、チョコチョコ歩きをやめる。そして平然とした顔でその人とすれ違う。なんとか変な目で見られずにすんだが、代償としてオレの体力を大幅に持っていかれてしまった。冷や汗もびっしょり。   「もってくれ、オレの身体ァ・・・・・・」 ・・・・・・・・・   「ハァ、ハァ・・・」   息遣いが荒くなってきた。今のオレ、第3者から見たらおもックソ変人だろうな。   「こんなに、家、遠かったっけかぁ?」 いつもと変わらない通学路。無論距離なんて変わることがない。だが、なぜか数倍遠く感じる。それほどまでにオレは追い詰められているのか。   「クッソォウ・・・まだまだぁ!」   オレはこんなところで終わるわけにはいかないんだ。終われば、がんばってきた意味がなくなってしまう。   「あ、あれは・・・!」   オレが夢にまで見た我が家が見えてくる。そして不思議と、腹のエンジン音がやわらかく、静かになっていく。   (ドラゴンが弱まった! やるなら今だ!)   オレは利き足に力を込め、地面を蹴り上げる!   「グレート・ダーッシュ!」   ほぼ本気の走り。身体を風になびかせ、オレは最後の力を振り絞る。またいつ目覚めるか分からないドラゴンを恐れながらも、勇敢に走り続ける。   「間に合えぇ!」 ・・・・・・・・・   家に到着、オレは走った疲れと、再び目覚めつつあるドラゴンの鳴き声で、ハァハァ状態。限界を感じながらも急いで玄関の鍵を開け、目的の聖域まで約5メートル!   (勝つのはオレか、それともお前か!!) いざ、決着のとき! ・・・・・・便座へ着いたときから、もう勝負はついていたのかもしれない。それでもオレは容赦なくドラゴンを叩きのめす。全てを破壊し尽くし、激流へとドラゴンを投じる。そしてオレは、戦いに勝った。   「てめぇの敗因はたったひとつのシンプルな答えだ。てめぇはオレを焦らせた」 便器に向かってそう呟く。流れゆく音が、勝利を感じさせる。   これが、最後の真実。 [[小説部屋へ戻る>小説部屋]] [[トップへ戻る>トップページ]] ---- *バトル・ザ・トイレット!! (便所へゴー!)   背に腹は変えられん! たとえ死が隣り合わせでも、帰る途中でフライングバーストしてしまうよりマシだ! ――――ザッ、ザッ、ザッ、ザッ・・・・・・   オレは例の便所へと歩を進める。そこら辺で戯れていたガキたちも、急に黙り込み、オレの進む道を開けてくれる。挑戦者への手向けなのか。   そしてオレは便所の前に立つ。この時点ですでに微弱な異臭が。後方からガキたちの視線も感じる。   だがここでくじけてはいけない。腹に潜むドラゴンも、いつ暴れだすか分からない。   オレは便所から少し離れ、カバンを置き、心を落ち着かせる。   そして大きく口をあけて空気を肺いっぱいに吸い込み、   (いざ!)   軽くダッシュをしてトイレに駆け込み、ベルトを外しつつドアを閉める。手早くロックをかけ、瞬時に腰を下ろし、ついに暴れ狂うドラゴンを召喚する!   ・・・洞窟を押し広げ、轟音と共に現れる褐色の龍。そしてゆっくりと、泉の中へ身を投じてゆく龍。その後次々と、それぞれ大きさの異なる龍が召喚されていき、同じように泉の中へ身を投じてゆく。豪快、かつ見事な水音。とても美しいとは言いがたいが、現実味のあふれる音だ。正直早く終わって欲しいが。   最後の龍をこの世に産み落とし、オレは目の前のトイレットペーパーに手をかける。そして一定量ちぎり、ドラゴンの巣穴を綺麗にふき取る。その後再び、ペーパーに手をかける。が、 ――――パサッ・・・・・・   「!?」   なんと、ラスト1枚だったのだ。つまり、この1枚で全てを終わらせろと。神が与えたオレへの最後の試練。   (この1枚に、全てをかける!!) オレは再び巣穴をふき取るが、まだ龍召喚時の余韻が残っている。オレはペーパーを1回たたみ、再び巣穴に宛がう。粘着的な音を立てつつ、ふき取っていく。しかし、まだ余韻が残っている!   (くそ、これ以上はたためない・・・どうする!?)   息のほうもヤバくなってきている。早めに済まさなければゲームオーバーだ。だが、このままトイレを出てもやばい。ガニマタで家に帰らなければならない状態になる。   (・・・! いや、まだ終わっちゃいない!)   オレはトイレットペーパーの、「芯」に手を伸ばす。そしてそれをある程度のサイズにちぎり、巣穴へ。予想通りの痛みと不快感があるものの、背に腹は変えられない。そう、これが最後の希望だから。   (まずい・・・息が・・・もたん・・・・・・!)   オレは痛みと苦しみに耐えながら、全ての余韻を消し去ることができた。しかし息が限界だ。もう数秒ももたないであろう。   (間に合ってくれぇ!)   急いでベルトを締め、チャックを上げ、同時に水を流すバーに足をかける。   (さよならドラゴン・・・そして死ねぇ!) オレは勢いよくバーを踏みつける。そして龍は大量の水に流され、消えて行く。刹那、オレはドアのロックを解き、オープン―――― ・・・・・・・・・   心地よい風がオレを迎えてくれる。これは勝者へ送る、神からのプレゼントなのだろうか。地元の空気なのに、なぜか違う感じがする。先程までの息苦しさが嘘のように引いていく。・・・・・・これが、「生きてる」ってことなんだな。   しかしそれも束の間。制服のまま入ったのが間違いだったのか、若干臭いがこびりついてしまっている。そして戯れていたガキたちも、再び黙り込み、道をあける。それは勝者を送るためでなく、単にクッサいからだろう。   「まさに生き地獄・・・・・・」   オレは今、軽く絶望を味わっている。このまま帰っても、制服に臭いが残っているので家までも汚染してしまう。かといってどこかでフラつくとしても、この臭いだ。すぐ周囲の人々に目の敵にされてしまう。というかすでにされている。   「仕方ない・・・帰ろう」   とぼとぼ歩き出す。腹はすっきりしたが、心はすっきりしてない。代償として心を支払った気分だ。言うなれば、腹と心を入れ替えたような、そんな感じだ。   戦いには勝ったが、勝負には負けた。   「神様はいないんじゃない。いるけどただ、残酷なだけ・・・」   空を見上げ、そう呟く。届くはずの無い訴えを。儚い想いを。   これが、最後の真実・・・。 [[小説部屋へ戻る>小説部屋]] [[トップへ戻る>トップページ]]
キーンコーンカーンコーン・・・   「さてと、帰ろうかな」   オレの名前は橘 瑩(たちばな あきら)、成績を気にしない高校2年生だ。   「帰ってなにしようかな」   放課後、義妹の雪音(ゆきね)は、なんたら委員会とかで帰るのが遅くなるそうだ。よって、オレ一人での下校となる。   「・・・・・・寝るに限るな」 予定を立て、オレは帰路についた。 ・・・・・・・・・ ・・・・・・   「・・・やべ・・・・・・」 ちょうど学校から家までの中間地点、オレは地獄を味わっていた。   「うが・・・ぐぅああぁ・・・」 ストレートに言うと、腹が痛い。先程から締め付けられるような、まるでエフワンのエンジン音みたいなものまで鳴っている。   「ど、どどどど、どうする?」   誰にでもなくそう聞く。だが答えが返ってくるはずもない。   (嗚呼、神様・・・1300円渡すからどうか助けてくれ・・・!) と、いるかどうかも分からない神に、金銭面での取引を申し込んでみる。   (・・・・・・) が、答えは沈黙。どうやら断られたようだ。ていうか、OKされてもいろいろ困るが。   「おおぉお・・・・・・」   オレは下半身の洞窟からドラゴンが逃げ出さないようにしながら、いろんな筋肉に力を込める。がしかし、余計な筋肉まで力を込めてしまった!   (おおおおおおおおおおお! まずいまずいまずい、も、もる・・・!)   このままでは核爆発が起きてしまう! そんなことになったら、地球は・・・・・・!   (オレの勇気は・・・死なない!!) ・・・・・・・・・   腹の中で起きた戦争は、一時停戦協定を結んだ。   今のうちにダッシュで家に帰るか? いや、もしまたドラゴンが暴れだしたら・・・   「ん?」   ゆっくりと歩いていたから気付いたのか、家の近く(といってもさほど近くないが)の公園、「勇者公園」が見えた。幸いこの公園にはトイレがある。明らかに家に帰るより、ここで済ました方が安全なのだが、いくつか問題がある。それは、 ●公園のトイレでバースト、知人に見つかってしまったら・・・ ●先に人が入っていたら気まずい・・・ ●公園にはそこら辺のガキが戯れている。ヘタをすれば・・・ ●ここのトイレは臭い。 その他諸々・・・   最初の3つはまだ許せるのだが、最後の一つだけは許せるとかいう問題じゃない。たとえるなら、ドリアン、そしてシュールストレミング並み・・・いや、それを超える臭さだ。   オレの息は最高で3分くらいは持つが、状況が最悪だ。和式便器なので体勢も悪くなるし、なにより精神的に追い詰められている中、冷静に息を止めていることは難しい。仮に息を止めつつドラゴン抹殺に成功したとして、オレの身体に臭いが染み付いてしまう。家に帰るまで多少の呼吸は制限されてしまい、最悪の場合家に臭いを持って帰ってしまう。だが、今この場で楽になるのは確かだ。   逆に、グレート・ダッシュで家に帰れば、問題なくバーストできる。臭いもつかないし、なにより安心してドラゴンを抹殺できる。がしかし、家に帰るまでが地獄だ。もし途中でフライングでもしたら・・・・・・   「ぬっ!?」   究極の選択を強いられていた最中、再び激しいエンジン音が! まずい、眠っていたドラゴンが目を覚ましてしまったか!   「くっ! オレはどうすればいいんだ!?」 #contents (↑どちらか選択してください) [[小説部屋へ戻る>小説部屋]] [[トップへ戻る>トップページ]] ---- *グレート・ダッシュ! (家へ帰るぜ!)   やはり臭いがつくのは耐えられない! もし呼吸困難に陥って死んでしまっては元も子もないしな! よし、そん・・・   「あぐっ!?」 なぜかさらに腹の痛みが増してしまった! くっ、歩くに歩けん!   「垂れ流して・・・・・・たまるかぁ!」 オレはかかとを上げ、つま先に力を込め、チョコチョコチョコッと歩き始める。50m走・5秒台、ナメんなよ! ・・・この場合あんま関係ないか。   しかしチョコチョコと歩き出したものの、なかなか進まない。って当たり前じゃん。   とその時、運悪く前方から人が来てしまった! まずい、変人扱いされる! 最悪の場合、た、逮捕・・・・・・?   「・・・・・・」 オレはかかとを地面につき、つま先の力を抜いて、チョコチョコ歩きをやめる。そして平然とした顔でその人とすれ違う。なんとか変な目で見られずにすんだが、代償としてオレの体力を大幅に持っていかれてしまった。冷や汗もびっしょり。   「もってくれ、オレの身体ァ・・・・・・」 ・・・・・・・・・   「ハァ、ハァ・・・」   息遣いが荒くなってきた。今のオレ、第3者から見たらおもックソ変人だろうな。   「こんなに、家、遠かったっけかぁ?」 いつもと変わらない通学路。無論距離なんて変わることがない。だが、なぜか数倍遠く感じる。それほどまでにオレは追い詰められているのか。   「クッソォウ・・・まだまだぁ!」   オレはこんなところで終わるわけにはいかないんだ。終われば、がんばってきた意味がなくなってしまう。   「あ、あれは・・・!」   オレが夢にまで見た我が家が見えてくる。そして不思議と、腹のエンジン音がやわらかく、静かになっていく。   (ドラゴンが弱まった! やるなら今だ!)   オレは利き足に力を込め、地面を蹴り上げる!   「グレート・ダーッシュ!」   ほぼ本気の走り。身体を風になびかせ、オレは最後の力を振り絞る。またいつ目覚めるか分からないドラゴンを恐れながらも、勇敢に走り続ける。   「間に合えぇ!」 ・・・・・・・・・   家に到着、オレは走った疲れと、再び目覚めつつあるドラゴンの鳴き声で、ハァハァ状態。限界を感じながらも急いで玄関の鍵を開け、目的の聖域まで約5メートル!   (勝つのはオレか、それともお前か!!) いざ、決着のとき! ・・・・・・便座へ着いたときから、もう勝負はついていたのかもしれない。それでもオレは容赦なくドラゴンを叩きのめす。全てを破壊し尽くし、激流へとドラゴンを投じる。そしてオレは、戦いに勝った。   「てめぇの敗因はたったひとつのシンプルな答えだ。てめぇはオレを焦らせた」 便器に向かってそう呟く。流れゆく音が、勝利を感じさせる。   これが、最後の真実。 [[このページの先頭へ戻る>http://www4.atwiki.jp/hayato0420/pages/38.html]] [[小説部屋へ戻る>小説部屋]] [[トップへ戻る>トップページ]] ---- *バトル・ザ・トイレット!! (便所へゴー!)   背に腹は変えられん! たとえ死が隣り合わせでも、帰る途中でフライングバーストしてしまうよりマシだ! ――――ザッ、ザッ、ザッ、ザッ・・・・・・   オレは例の便所へと歩を進める。そこら辺で戯れていたガキたちも、急に黙り込み、オレの進む道を開けてくれる。挑戦者への手向けなのか。   そしてオレは便所の前に立つ。この時点ですでに微弱な異臭が。後方からガキたちの視線も感じる。   だがここでくじけてはいけない。腹に潜むドラゴンも、いつ暴れだすか分からない。   オレは便所から少し離れ、カバンを置き、心を落ち着かせる。   そして大きく口をあけて空気を肺いっぱいに吸い込み、   (いざ!)   軽くダッシュをしてトイレに駆け込み、ベルトを外しつつドアを閉める。手早くロックをかけ、瞬時に腰を下ろし、ついに暴れ狂うドラゴンを召喚する!   ・・・洞窟を押し広げ、轟音と共に現れる褐色の龍。そしてゆっくりと、泉の中へ身を投じてゆく龍。その後次々と、それぞれ大きさの異なる龍が召喚されていき、同じように泉の中へ身を投じてゆく。豪快、かつ見事な水音。とても美しいとは言いがたいが、現実味のあふれる音だ。正直早く終わって欲しいが。   最後の龍をこの世に産み落とし、オレは目の前のトイレットペーパーに手をかける。そして一定量ちぎり、ドラゴンの巣穴を綺麗にふき取る。その後再び、ペーパーに手をかける。が、 ――――パサッ・・・・・・   「!?」   なんと、ラスト1枚だったのだ。つまり、この1枚で全てを終わらせろと。神が与えたオレへの最後の試練。   (この1枚に、全てをかける!!) オレは再び巣穴をふき取るが、まだ龍召喚時の余韻が残っている。オレはペーパーを1回たたみ、再び巣穴に宛がう。粘着的な音を立てつつ、ふき取っていく。しかし、まだ余韻が残っている!   (くそ、これ以上はたためない・・・どうする!?)   息のほうもヤバくなってきている。早めに済まさなければゲームオーバーだ。だが、このままトイレを出てもやばい。ガニマタで家に帰らなければならない状態になる。   (・・・! いや、まだ終わっちゃいない!)   オレはトイレットペーパーの、「芯」に手を伸ばす。そしてそれをある程度のサイズにちぎり、巣穴へ。予想通りの痛みと不快感があるものの、背に腹は変えられない。そう、これが最後の希望だから。   (まずい・・・息が・・・もたん・・・・・・!)   オレは痛みと苦しみに耐えながら、全ての余韻を消し去ることができた。しかし息が限界だ。もう数秒ももたないであろう。   (間に合ってくれぇ!)   急いでベルトを締め、チャックを上げ、同時に水を流すバーに足をかける。   (さよならドラゴン・・・そして死ねぇ!) オレは勢いよくバーを踏みつける。そして龍は大量の水に流され、消えて行く。刹那、オレはドアのロックを解き、オープン―――― ・・・・・・・・・   心地よい風がオレを迎えてくれる。これは勝者へ送る、神からのプレゼントなのだろうか。地元の空気なのに、なぜか違う感じがする。先程までの息苦しさが嘘のように引いていく。・・・・・・これが、「生きてる」ってことなんだな。   しかしそれも束の間。制服のまま入ったのが間違いだったのか、若干臭いがこびりついてしまっている。そして戯れていたガキたちも、再び黙り込み、道をあける。それは勝者を送るためでなく、単にクッサいからだろう。   「まさに生き地獄・・・・・・」   オレは今、軽く絶望を味わっている。このまま帰っても、制服に臭いが残っているので家までも汚染してしまう。かといってどこかでフラつくとしても、この臭いだ。すぐ周囲の人々に目の敵にされてしまう。というかすでにされている。   「仕方ない・・・帰ろう」   とぼとぼ歩き出す。腹はすっきりしたが、心はすっきりしてない。代償として心を支払った気分だ。言うなれば、腹と心を入れ替えたような、そんな感じだ。   戦いには勝ったが、勝負には負けた。   「神様はいないんじゃない。いるけどただ、残酷なだけ・・・」   空を見上げ、そう呟く。届くはずの無い訴えを。儚い想いを。   これが、最後の真実・・・。 [[このページの先頭へ戻る>http://www4.atwiki.jp/hayato0420/pages/38.html]] [[小説部屋へ戻る>小説部屋]] [[トップへ戻る>トップページ]]

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