―――寝ているときに見る夢もいいが、起きてるときに見る夢はもっといいもんだ。
「やれやれだぜ・・・」
オレの名前は橘 瑩(たちばな あきら)、授業は全て睡眠学習で過ごす高校2年生だ。
と言ってるワリに、今オレは起きている。無論、今は英語かなんかの授業中だ。
(まだ終わらないようだ・・・)
今日はなんとしてでも起きていなければならない。
(途中で寝ちまったら、全てがオジャンだ)
今日寝ないために、昨日は7時半くらいに眠りについた。
だけど10時くらいに目が覚めて、もう1回眠りについたのが1時くらいだ。
(・・・結局いつもとあんま変わってないんだがな・・・)
さて、もうすぐこの授業が終わる。
(ってまだ次あるじゃん・・・)
かったるいぜ・・・
・・・・・・
先ほどの英語らしき授業が終わり、今は休憩時間。
「やっべ・・・眠くなってきたし」
しかしここで眠るわけにはいかん! 眠ったら台無しだ!
と、自問自答していたとき、
「・・・あんた、今日はどうしたの?」
ふとオレに呼びかけが。
「んぁ? なんだ、千冬か」
こいつは朝比奈 千冬(あさひな ちふゆ)、なかなかに気の合う女友達だ。
ちなみにコイツの出席番号は1番だ。
「なんだってなによ~?」
「お前こそ、今日はどうしたの・って、なんだよ!」
実際いつもどおりにしているのだが。なにか問題でも?
「今日はあんた、起きてるじゃない?」
「それがどうした?」
「いや、どうしたのかなぁ~って」
・・・こ、こいつ・・・オレを「寝てるキャラ」と認識してやがる!
「・・・まぁそう思われても仕方ないか・・・」
たぶん作者もこう思ってあきらめているのだろう。
「そう思われて・って、なにが?」
千冬が突っ込んでくる。オレ、口に出していたのか・・・。
「いや、なんでもねえよ」
めんどくさいので適当にごまかす。
「・・・あんたも、『アレ』狙ってるの?」
と、急に声のトーンを下げて千冬が言い出す。
「千冬・・・『アレ』って・・・『アレ』だよな?」
オレもそれに合わせ、声のトーンを下げる。
「橘、あんたはどんな方法で行くの?」
やはり『アレ』のことだ。でないとこんな会話は成り立たない。
「そんなこと、言ってたまるかよ」
ここでゲロっちまうと、今まで起きていた意味が少しなくなる。
「橘・・・あたしと組まない?」
「・・・・・・ほう」
なかなか面白いことを持ちかけてくるじゃないか。
「・・・千冬、お前の方法を聞いてもいいか?」
向こうから取引を持ちかけてきているのだから、聞く権利くらいあるだろう。
「・・・いいわよ」
なんともアブナげな会話だなオイ・・・。
・・・・・・
そしてオレは千冬の方法を聞いた。なかなか頭のキレるやつだ。
「・・・なるほどな・・・お前にしか出来ないような芸当だぜ」
「組んで損はないと思うわよ?」
「たしかにそうだな・・・」
これならオレ単独での成功率40%だったのが、組むことによって43%まで上昇する。
(・・・ってあんま変わってねーな・・・50%くらいかな?)
とりあえず確立なんて目安に過ぎない。足りない分は勇気で補えばいい!
「あっ、そうだ千冬!」
「ん? なに?」
「次の授業、もし寝てたら起こしてくれないか?」
オレは千冬に目覚ましをセットする。
「また寝るのぉ?」
「今日は寝てないだろ!」
「いつも寝てるじゃない!」
「ああ、否定はしないがナニカ?」
「うわ・・・開き直った・・・」
別に開き直ったわけではないが、真実なので何も言えないだけだ。
「とにかく、『アレ』のために頼むぞ?」
「仕方ないわね」
これで寝過ごすことはなくなった。ってこいつが起こしてくれなかったらジ・エンドだけど。
「んじゃ千冬、渡すもん渡しといてくれ」
「うん、わかった」
そうしてオレは千冬からブツをいくつか渡される。これが勝利の鍵だ!
「あとは体力を蓄えるために・・・さらばだ!」
「もう、起こしてあげるから、ちゃんと起きなさいよ?」
「z z z z・・・」
「うわ早っ!」
・・・・・・
・・・
「・・・えー、ここはエックスに平清盛を代入して――」
実に淡々とした、数学か社会か分からない授業が展開されている。
そんな中、ひとつの放送が入る。
『ジャンカジャンカジャ~ン・・・・・・鬼塚先生、至急職員室へ来てください』
そんな、ごく普通の放送が流れる。チャイム音は普通ではないが。
「・・・そして藤原氏をワイに・・・って呼び出しか・・・」
呼び出しを食らった先生は瑩&千冬のクラスの授業をしていた先生だ。
「休憩まで残り7分か・・・・・・ふむ、そんじゃ今日はここまで! みんな、ちゃんと写しておくように!」
そういって授業は放送により終了された。この次は昼休憩である。
各々がノートを写し終わり、休憩に入っていく。
・・・さて、例の二人は・・・
・・・・・・
「橘、授業終わったから起きなさい!」
「z z z z・・・」
「仕方ないわね・・・」
―――ドゴッ! メシャメシャァ・・・
「ぐあぁ! 痛ってぇ! って、おまっ・・・釘バット!?」
「あ、起きた起きた」
「お前、今ので永遠に眠っちまうところだったじゃねーか!」
現にオレの後頭部からは、ドピャドピャと勢いよく血が吹き出していた。
ケガどころの騒ぎでは済まないだろう。
「それより橘、行動開始よ!」
「ちょっ、オレの頭どないすんねん!」
このまま行動すること・って言ったら病院行くことくらいじゃねーか!
「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~」
「・・・え?」
いきなり千冬が謎の呪文を唱える。というか奇声?
「ホラ、これで治ってるから、早く動きなさい!」
「ちょっと待っ・・・・・・マジで治ってるし!!」
そこら辺に微妙に散っていた肉片も、吹き出した血も全て跡形も無いくらい治ってる。
「こんなことが・・・・・・まさか貴様、スタンド使いか!?」
「早くしないと首ぶっ飛ばすわよ!?」
「ハイマジデスミマセンデシタ!」
2回も撲殺されてはたまらないので、オレは早急に行動を開始する。
さっきのことは気にしないでおこう。 ・・・所詮ネタだし。
「んじゃ千冬、あとのフォロー&サポートは頼んだぜ!」
「任せなさい!」
そうしてオレは教室を出る。ほぼ本気の走りで。(50m走・5秒8)
・・・・・・・
・・・・
さて、ここでさっきから変態的に謎の、『アレ』についてだが、
『アレ』とはどの学校でも存在するであろう(?)、「伝説のパン」のことだ。
この学校では何回か伝説のパンは更新されていく。前回は「竜太サンド」だった。
前々回は「バナ納豆パン」。これは別の意味で伝説になり、ついには殿堂入り。
そして今回は、「ヤキソバパンWithチョコバナナ」という、よくわからんメニューだ。
この伝説のパンシリーズ、表では全くといっていいほど、情報公開されない。
つまり、普通の生徒では絶対に手に入れることができないのだ。
しかも販売数も普通のパンよりはるかに少ない。まさにレジェンドなパンなのだ。
瑩&千冬は、これをゲッチュするためにチームを結成した。
瑩の脚力と、千冬の裏の顔から生まれた作戦は、こんな感じだ!
①千冬が瑩にブツを渡す。
②それによって互いに裏切りは許されない。
③昼休憩前の授業にダミーの放送をかける。
④結果、早く授業が終わり、スタートが早くなる。
⑤そこから瑩の脚力でパンのある学食まで駆け抜ける。
⑥千冬は千冬で、ある行動をする・・・。
⑦そしてパンをゲッチュ!
今のところは⑤までの状態だ。ちなみにダミー放送については、
☆放送部の生徒、または先生をシメていた。
☆もしくは弱みを握っていた。
☆それとは関係なく、鬼塚先生とグルっていた。
この3つのうち、どれかに当てはまる。どれも当てはまっていそうだが。
・・・そして瑩は、まもなく学食へ到着するところだった。
・・・・・・
「やっぱこの時間じゃ、あんま人いねーな」
完全にいないわけではないが、走りやすいことには変わりない。
ウチの教室は学食から結構距離があるが、さっきからすれ違ったのはほんの2・3人だ。
「このまま、そこのコーナーを曲がれば・・・」
――――!!?
コーナーを曲がれば、確かにそこには学食がある。
しかし、その前に一人の人影が立ちふさがる。
オレは急ブレーキをかけ、体勢を整え、そいつの正体を確かめる。
「誰だ? オレの邪魔をするや・・・・・・」
――――!!
そのときオレの目に入ったのは、意外な人物だった。
「・・・な、なんでお前が・・・!?」
頭の中で率直に思った言葉が、そのまま口から出る。
そしてオレの問いかけに、そいつは重い口を開く。
「フフ・・・瑩・・・」
オレの名を知るそいつは、不敵な笑みを浮かべ、言い放った。
「・・・・・・オレの世界へようこそ」
――――まるで字のごとく、”人” の ”夢” は ”儚い”・・・・・・
最終更新:2005年09月20日 00:47