~前回までのあらすじ~
瑩は千冬にパシられている。

  「・・・・・・オレの世界へようこそ」
オレの眼前に立ちふさがるヤツは、そう言い放った。
  「なんで・・・お前がここにいる? 説明しろ、真悟!」
そう、立ちふさがってるのはオレのダチ、赤島 真悟(あかしま しんご)だったのだ。
  「説明? 簡単なことだよ。オレはお前を待ち伏せしてたのさ」
  「・・・なぜオレがここに来ることを?」
オレは誰にも言ってないが、もしかしたら千冬との会話を聞かれたのかもしれない。
  「今日のお前は、いつもと様子が違ったからな・・・」
  「・・・そんなわけないだろう。オレはいつもどおりだ」
  「ならばなぜ、お前は起きていたんだ? いつも寝ているはずのお前が、なぜ!?」
  「くッ・・・! それだけは言われたくなかったが・・・仕方ない!」

オレと真悟の間に風が舞う。いや、空気の渦だ。
  「ほう・・・瑩、その気のようだな」
真悟も感づいたらしく、お互いに戦闘体勢に入る。
  (絶対に負けられない戦いが、ここにある)
しかもオレは時間をかけるわけにもいかない。・・・やれやれだぜ。

  「瑩、待ち伏せして欠席扱いになった授業の分、オトシマエつけてもらうぜ!」
  「ケッ! それはテメェの責任だろ、真悟!」
ってかこいつただのマヌケやん!
  「オラアァァッ!」
真悟が叫びながらオレに襲い掛かってくる。
  「プロテクト・シェード!!」
  「なに!?」
オレは特殊防御壁を左手から生成し、真悟の攻撃をはね返す!
―――ドゴオォン!
  「ぐああぁあ!!」
そしてはね返った攻撃で真悟は爆発!
  「フン、自爆したな」
そこら辺に色々と飛び散って倒れている真悟をよそに、オレは学食へと急ぐ。
  「それにしてもあっけなかったな・・・」
たぶん真悟だからだろう、と納得できてしまうが。

・・・・・・
オレは無事(?)に学食へと到着した。が、
  「なんでこんなに人がいるんだ?」
そう、普段この時間帯ならいてもせいぜい10人程度だ。
だが今ここにいるのは余裕で200人は越えている。 (多すぎだろ・・・)
  「裏の情報じゃ・・・なかったのかよ!?」

時計を見ても、まだギリギリ昼休憩の時間にはなってない。
  「っと、そういやパン!」
売り場を探すが、見当たらない。この人の山に埋もれているのか?
オレは背伸びをし、パン売り場を探す。と、そのとき
  『パン販売まで、残り7分ですよ!』
と、購買のおばちゃんの声で放送が入った。
  「あと7分か・・・って、ん?」
つーことは別に普通どおりにここへきても大丈夫だったのでは?
  「オレ、急いだ意味皆無やん!」
今さらになってだが、千冬にハメられた気分だ。

  「・・・・・・橘!」
  「んぁ?」
どこからともなく、オレを呼ぶ声が。その方向へ振り返る。
  「あれ? どこだ?」
声は聞こえたが、姿は見えない。まぁ、この人だかりだからな。
  「後ろよ、後ろ!」
その声に反応し、後ろを向く。と、
  「千冬か」
そこにいたのは千冬だった。教室にいたはずではないのか?
  「なんでお前がここにいるんだ?」
  「しっ! 静かに、何も言わずに私についてきて」
千冬はそう言い、この場から離れようとする。なにか策でもあるのだろうか。
  「・・・ああ、分かった」
  「静かにって、言ったじゃない」
  「・・・・・・」
返事でさえも許されないのかよ!
なんてツッコミたくなったが、延々とループしそうなのでやめた。

・・・・・・
オレは千冬につられ、ここから移動することになった。
  (?)
千冬が向かっているのは、出口の方。
  「あれ? ここから出るのか?」
  「・・・・・・」
あのぉ、お姉さん、シカトですか?
  「あっ、そうか・・・」
黙ってなきゃいけなかったんだ、そういえば。
でもなんとなくシカトされた気がするなぁ・・・。

・・・・・・
そして学食からさりげなく出、なぜか裏のほうへまわる。
  「もうしゃべってもいいわよ」
  「んじゃ、さっそくだが、なぜ学食から出るんだ?」
これは誰しもが思う疑問だ。パンが買えなくなってしまうのでは?
  「橘、あそこを見なさい」
  「ん? あっ!」

そこは学食から離れ、どちらかと言えば体育館裏の雰囲気に近いような、
誰の目にも留まらないであろう、そんな影のスポットだった。
そこでオレの目に入ったのは、実に小さなパン販売所だった。
  「まさか・・・」
  「そのまさかよ」

そう、いろんな種類の、モザイク的なパンの数々が置いていたのだ。
  「これ・・・竜太サンドじゃん」
たつたサンドではない。りゅうたサンドだ。これは前回の伝説パンだ。
売れ残ってるとは・・・いや、量産型だったのか?
と、微妙ななつかしさに心躍らせているとき、
  「橘、例のヤツ出しなさい」
そういわれてオレは預かっていたブツを渡す。

そう、このブツは裏で出回った「パン交換券」だ。ちょうど2枚ある。
  「なるほど、これで交換するのか・・・って、オレのがんばった意味は?」
やっぱりオレいなくても、この券がありゃこいつはよかったんじゃないのか?

  「橘、これは賭けだったのよ。さすがの私でも、こんな完璧な裏のほうまで
  完璧に操れたわけじゃないの。もし今ここに、このミニ販売所が無かったら
  私の負けだったのよ。だけど、橘がいれば、普通に学食で販売されても、
  あんたがその持ってるブツで手にいれられたでしょ?」

千冬が今までに無いくらい長いセリフを放つ。台本覚えるの大変だっただろう。
  「待てよ? お前がここへ来たんなら、お前はそのまま買っとけばよかったんじゃないのか?」
  「あいにく、向こうには券でしか取引は無理・って言われてるのよ」
向こうってなんだよ、向こうって。どっかの組織かよ!
  「しかも券は2枚しかゲットできなかったから、一度この場所にミニ店があるか確かめて、そんであんたを呼び戻さなきゃならなかったの。・・・面倒でもこんなやりかたしかなかったのよ」

なるほどな。確かにものすごく面倒な手順を踏んでやがるな。
  「結局、要するにオレは保険だった・ってことか?」
  「まぁそうなるわね」
  「・・・さいですか」
それでも、結局はお互いに手に入るんだし、まぁいいか。
  「そんじゃ千冬、さっさと交換しちゃってくれ」
  「分かっ・・・・・・なっ!?」

千冬が驚きの表情を浮かべる。
  「これ・・・全部ダミーだわ!」
  「へ?」
そういって千冬が、ミニ店の商品を片っ端から握りつぶして行く。粉々になるほどに。
  「ちょっ、千冬・・・やりすぎだ・・・ってマジやん!」

オレも試しに一つを手にとってみる。が、感触はビニールのような、ゴムのような・・・。
よくファミレスとかにもメニューの見本としておいてる模擬品があるが、ここにあるのは
それを遥かに凌駕する完成度だ。間違って、そのまま食ってしまいそうになる。
  「ううぅう~っ! やられたわ!」
  「よくできてるなぁ、これ」
  「ちょっと橘! よく見たら、店員マネキンじゃない!」
  「お、ホントだな。すげ~・・・パンのためだけにここまでするとは・・・」

ホント、どうかしてるよ・・・。伝説のパンって言っても、所詮パンじゃねーか・・・。
ってか、一回ここへ確かめに来たんなら、マネキンだって気付けよ千冬・・・。
  「橘、学食へ戻るわよ! 急いで!」
  「あいよ~」
そして千冬とオレは走り出す。ふとオレは、どうしても言いたくなったことがある。
  「なぁ千冬・・・」
  「な、なによ!?」
走りながら話しているので、滑舌が安定してない。
  「お前・・・ゴッド級のヴァカだろ?」
  「・・・うっさいわね! ってあんた走んの速いってば! 少し緩めなさいよ!」
  「おめーが遅ぇんだよ」 (いや、お前が速いんだって by作者)
  「キ~ッ! むかちゅく~!」
さぁて、学食へ急がないとな・・・。

・・・・・・
再び、学食へ戻ってきた。
先ほどよりも人が増え、もう蒸し風呂状態だ。
  「・・・まだ、パンは、発売・・・されてな・・・いみたいね・・・」
千冬が所々息を切らしながら、そう言った。
  「さっき、発売まで7分とか言ってたからな」
  「それも、私が仕組んだ・・・放送よ・・・」
  「マジで?」
やっと息が整ってきたのか、言葉が安定してきている。
  「全てが失敗した時のための、最後の保険よ」
  「・・・お前、改めて思うが・・・すごいな」

そしてもうひとつ思ったのが、
  「そんで、やっぱゴッド級のヴァカだな!」
  「橘・・・一言多いわよ」
と、相手を視殺しそうな鋭い眼光を秘めた目つきで睨まれたので、
  「ナマ言ってすいませんでした・・・」
素直に謝っておく。これは今までの経験上、身に付いた最善の極意だ。
  「それよりも橘、今いっぱい人が並んでるけど、あんた行けそう?」
  「え、オレが行くの?」
この人波に流されたらやばいことになる。最悪の場合、骨折してしまうのでは?

もうパンのことなんかどうでもよくなってきた・・・。ゲットできても、身の安全が・・・。
  「千冬、オレやっぱ・・・」
―――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・
  「な!?」
そんな擬音があってもおかしくないだろう。千冬がすごい形相でオレを見つめています!
  「た~ち~ば~な~?」
  「ハ、ハイ! 喜んで逝かせてもらいます!」
  「じゃ、お願いね♪」
途端にいつもの顔つきに戻る。どっちが素なのか分からなくなってきた・・・。

  『それじゃ、パンの販売を開始します!』
と、おばちゃんの声が響き渡る! 学食は今、戦場と化す!
  「橘、がんばって!」
  「アキラ、いきます!」
そうしてオレは半ば強制的に、この人のウェーブへと流されていった。

・・・・・・・
・・・・
  「やれやれだぜ・・・」
なんとかパンをゲットすることは出来た。
が、代償(?)として、オレの体のいたるところにアザという刻印が。
  「ありがとね、橘♪」
  「どういたしまして・・・」

今オレは千冬と適当な場所にあったベンチに座り、先程ゲッチュした
「ヤキソバパンwithチョコバナナ」を食べている。
正直、伝説のパンと言うだけあって(?)、あんまりおいしくない。 (じゃぁ買うなよ!)
  「ふぅ、がんばった甲斐があっても、このまずさはないわよね~」
その意見はその通りだが、あくまでもがんばったのはオレじゃないのか?
  「ね、橘?」
そんな疲れきったオレをよそに、千冬は同意を求めてくる。
  「・・・千冬・・・お前さぁ・・・」
  「うん? なに?」
  「・・・いや、やっぱいいや」
  「なによぉ、言いなさいよ~!」
  「いや・・・」

これ以上断り続けるのも面倒だし、何されるか分からないので言うことにしよう。
  「なんかお前・・・妙に可愛いな・・・って」
  「・・・へ?」
千冬が・なんて言ったの? みたいな、きょとんとした顔をしてる。
  「た、橘?」
  「照れんなって」
  「照れてないわよぉ!」
―――ガスッ!
  「痛って! 傷あるとこ攻撃すんなよ!」
千冬の鉄拳がオレに炸裂! さらにアザがひどくなる・・・。
  「私をからかったバツよ!」
  「からかってないって!」
  「・・・もうっ・・・!」

今日も日差しがあったかい。そんなにぎやかな午後だった。

  「てか、最初からお前だけ学食の方に行ってりゃよかったんじゃね?」
  「それは言わない約束よ」
  「さいですか・・・」


――――どれだけ傷ついても、夢をつかめたら、そいつは勝者なんだ。

だから、あきらめないで・・・


~FIN~

最終更新:2005年09月20日 00:31