小説:グレート・ダッシュ!

    
  「あぁ~・・・ヨガファイヤ~・・・」
  時は放課後。普段ならこのまま帰宅→就寝のガトリングコンビネーションを決めようと思っていたのだが、掃除という屈辱的なイベントが発生してしまい、あえなく断念。
  というか掃除のことなんかすっかり忘れていて、いつも通り帰ろうとしたら担任に捕獲されてしまい、そのままこき使われるハメに。オレが何をしたって言うんだ。

・・・・・・そして掃除も終わり、オレは下駄箱へ移動する。
  「あれ、橘。まだ帰ってなかったんだ?」
  「ああ、掃除あったんだよ」
千冬(ちふゆ)と遭遇。コイツも掃除かなんかだったのだろうか。
  「これからバイトか?」
  「そうよ」
  「がんばるねぇ」
そんなかったるいモノよくやってられるよなぁ。さすが(?)千冬だ。

  そうこうしてる内に靴を履き終わり、オレたちは校門へ向かおうとする。そこで、
  「お、瑩ァ!」
  オレを呼ぶ声が聞こえる。振り向くと、
  「ん? 祐司か」
そこには、かつて真悟の開催した謎のロワイヤルで出会った、原田祐司がいた。
  「今 帰りなのか?」
  「ああ」
どうやら祐司は部活のようだ。たしか陸上部だったような気がする。それにしても、速そうな足してるよなぁ、コイツ。無駄な肉がないっていうか・・・。
  「なぁ、ちょっと走っていかないか?」
  「へ?」
  祐司は唐突にそう言うと、校庭に用意されているスターティングブロックを指差した。なるほど、こいつぁ面白そうだ。
  「いいねぇ、よっしゃ勝負だ!」
  「望むところさ!」
  「熱いわねぇ・・・・・・」
千冬がポヘ~ッと呟く。もう自分には全く関係ありません的なツラしてやがるし。
  「お前も来るんだよ、計測係りとして!」
  「え、私!?」
なんかマジでビックリされてしまった。そんな想定外のことだったのだろうか。

――――バサッ・・・
  適当に準備体操を終え、学ランを脱ぐ。まぁ、明らかに祐司の方が走りやすそうな格好してるんだがな。ランニングウェアだし。
  「あ、そうだ千冬、祐司に『ユウジは私が守る!』って言ってみて」
  「なんでよ?」
  「いいから言ってみて!」
  「・・・・・・ユウジは・・・私が守る!!」
千冬は放課後の虚空に、力いっぱい叫んだ。
  「お、お前上手いなぁ・・・すげぇ似てるし」
  「?」
今にもクエスチョンマークが頭の上に出てきそうなほど、きょとんとされてしまった。

  さていよいよ、世紀のレースが始まる。世界で最も短いであろう、熱い戦いが、今。
  「オレはもうセットできたぞ。瑩は?」
スターティングブロックをガチャガチャいじり終わったらしく、祐司がそう言う。
  「あぁ、オレこれよく分かんねぇからいいや」
  「え、スタブロ使わないのか!?」
すごい勢いで祐司がビックリする。あってもなくても別に変わんねーだろ。
  「・・・・・・って、そういうお前もスパイク履いてないじゃないか」
  「いやまぁ、瑩 普通の運動靴だし・・・」
  「だったらいいじゃねぇか! さ、始めようぜ!」
  スタート地点とゴール地点に、その他の陸上部員が配置された。計測係りになる予定だったはずの千冬は、ただの観客に成り下がった。
  ついに、始まる・・・・・・。

  「位置について」
部員A(仮)が言う。オレと祐司はそれぞれ隣り合うスタート位置にスタンバイ。オレは姿勢を低くし、祐司はブロックに足をかけ、腰を下ろす。
  「用意」
続けて部員A(仮)が言う。オレは足に力を込め、祐司は静かに腰を上げる。

――――パァン!
  銃声が空を駆け抜ける。瞬間、オレと祐司は大地を蹴り、走り出す。たった50メートル。そんな短い距離の中、オレたちは雌雄を決するため、戦う!
  開始早々、スタートの段階では一瞬オレがリードしていた。しかし1秒もしないうちに祐司が若干、視界に入る。つまりは僅差で抜かれていると言うことだ。
  しかしそこからまた1秒もしないうちに、少しずつ祐司のスピードが緩んでいくように見えた。つまりはオレが段々抜き始めていると言うことだ。
  その後、徐々に視界から祐司が消えていき、ついには完全に映らなくなっていた。今目に見えているのは、この先に広がる、勝利のゴールだけだ。
  それから、オレの視界に祐司が入り込むことは二度と無かった。
  そして・・・・・・

  「一着、5秒88。二着、6秒07」
ゴール地点にいた部員B(仮)がそう告げる。

  「ハァ、ハァ・・・オレの・・・ハァ、勝ち・・・の、よう・・・・・・だなぁ・・・」
  久しぶりに全速力で走ったので息がもたない。身体もものすごく熱い。今すぐ冷却コートが欲しいくらいに。
  「ふぅ~・・・・・・やっぱりキミは速いなぁ・・・」
だが祐司は全然息切れしていない。さすが陸上部だ。
  「橘、あんた相変わらず速いわね・・・」
千冬がゴール地点までトテトテと小走りで来て、そう言う。
  「はっはっはっ、恐れ入ったかぁ~・・・ハァ、ハァ・・・」
  実際しゃべっているだけで体力が削られていく。ほんの少し走っただけなのに。これが帰宅部部長(自称)の宿命なのか?

  グリュッ・・・・・・
  「ぬあっ!?」
なにやら突然、ふくらはぎが異様な感覚に襲われる。そして・・・
  「痛ててててててててえぇっ! ああぁあぁあ~っ!」
どうやら足がつってしまったようだ! 引っ張られ劈かれるような、とにかくめっさ痛い!
  「あ、瑩、大丈夫か?」
  「ちょっ、痛てて! 大丈夫じゃ・・・ねえぇ!」
  勝負に勝ったオレの方が苦しんで、負けたはずの祐司が余裕ブッこいてるなんて・・・! なんか・・・勝った気がしねぇ!
  「た、助けてくれぇ~」
  「もう橘、ホラ、しっかりしなさいよ!」
  千冬の声が遠く聞こえる中、オレの魂の叫びが、むなしく空に響き渡る。
  足が痛ぇ。これに尽きる。


~あとがき~
足つると、ものすごく痛いですよね。管理人です。とりあえず走る際、スタブロ・スパイクはあった方が断然速くなるでしょう。今回は「逃亡者と追跡者」以来出番の無かった彼(祐司)を、再び登場させてみました。密かに瑩を陸上部へ引き込みたいと思う祐司であります。


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