ちっちゃなお姉ちゃん 第6話
晩御飯も食べ終わり、特にすることもないので、コタツに入り、姉ちゃんと一緒にテレビを見ていた。
「私、バイトしようかなぁ」
何の前触れもなく突然そう言い出す、ウチの139cm。
「姉ちゃん、文字通り身の程を知ろうよ」
「ちっちゃいゆーな!」
「言ってねえし!」
実際には言ってないが、心の中では思ってたり。なかなかに鋭いっ。
「ていうか、なんで急にバイトを?」
「う~ん、まぁ、いい経験にはなるかな、とか」
「ふーん」
「何よ?」
「いや、まぁ・・・その、ねえ?」
「むぅー、何よー、言いなさいよー」
とりあえず、言いたいことは多々ある。が、言ったら確実に話がこじれる。でも、言わないと話が進まないのも事実。オレはあえて言うことにした。
「まぁ、最初は面接からだよね」
「うん? 当たり前じゃないの」
「オレが仮に面接官だったら、履歴書持って来た時点で警察に即通報するよ」
「ちょっ、なっ、生意気な弟め!」
「うわっ、地味に痛っ!」
姉ちゃんはコタツの中でオレの腕をツネりやがった。姉ちゃんは身長と共に手も小さいので思うようにツネれず、ホントに「チクッ」という程度の痛みだがっ。
「そもそも、なんのバイトすんの?」
面接からバイト内容へと話を切り替える。ツネられた箇所が少しヒリヒリする。
「うーん、やっぱコンビニとかかな?」
「姉ちゃんがレジに立ってたら、お客さん気まずいだろ」
「どういう意味よ!」
「いや待て? 逆にその店の人気が上がるかも?」
「どっちにしろ、どういう意味!?」
「とりあえずオレが言いたいのは、バイトはやめとけ、ってこと」
ご立腹のようなので、ふと表情を落とし、冷静な意見を述べる。
「むぅー」
どうやら嵐は去ったようだ。なんとまあ落ち着きの早い姉だこと。
「言っちゃ悪いけどさ、姉ちゃん、下手したら全く役に立たないんじゃない?」
「あっ、かなりグサッと来たよ、その発言」
「えっ、あ、ごめん・・・」
「わ、やばい。泣いちゃいそうなんだけど」
「だからごめんって」
冗談かと思ったが、姉ちゃんの顔を見ると、マジで目がウルウルしてる。
「冷蔵庫からプリン取って来てくれたら許してあげる」
「なんだよソレ」
なんだよそれ。心の中で再び発言。プリン全く関係ないじゃん。
「声上げて泣いちゃうぞー?」
「あー、ハイハイ、分かった分かった、取って来るよ」
「ありがとねー♪」
先程とは打って変わってご満悦な姉ちゃんをよそに、オレはコタツから立ち上がり、冷蔵庫へ向かう。少しシャクな気もするが、偶然自分もノドが渇いており、ちょうどいいタイミングだった。
・・・・・・ってことにしとけば、オレも少し気が楽かな・・・?
オレはノドを潤した後、冷蔵庫からプリンを取り出し、再びコタツへ向かう。
「んふふ~♪」
満足そうにプリンを頬張りながら、テレビを見る姉ちゃん。まるで小動物のようだ。さっきまでの勢いはどこへ行ったのやら。
「祐樹ぃ、私やっぱりバイトやめとくネ」
「うん、それがいいよ」
プリンのことで頭が埋め尽くされて、バイトのことはどうでもよくなったのだろう。
本当の嵐は、今去ったようだ。
最終更新:2007年01月29日 01:59