初代リプレイ5

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 何処とも何時とも分からない空間で、三名の男女が向かい合っていた。  俺はそれを取り巻く観客のように眺めている。隣にも誰かいる気配がするが、視線が固定されているので確認できない。 「今回の聖杯戦争にて、不正が発覚しました」  三人の内の一人は、ジャンヌダルク。  救世の英雄、聖なる乙女――そして我がランサーと同じ、神の信奉者。  聖杯戦争の審判者は、眼前にて萎縮する二名のマスターを冷徹な瞳で眺めている。 「一名のマスターにおける、多重召喚。並びにマキリの技術により、サーヴァントを他人に授与」  御三家の権限を不当に使い、ルールの根幹を脅かした違法者。  これは、その裁定を決める断罪の場であった。 「その後再度英霊を召喚、という手順で間違いはないでしょうか?」  女は、小さく頷く。震えながらも、その表情は己の所業を認めたかのように冷静だ。  怯えた様子で、男も続いた。しかし、彼は何故自分がこんな場所にいるのか、と未だに諦めきれずにいるようだ。  似ている様で対照的な両者。だが聖女は二人を等しい目で見つめながら、告げる。 「宜しい、不正が発覚した場合、監督役の判断にてペナルティを貸すことができます」  相変わらず、その声音に情の色は見られない。表情の冷たさもまた同様。 「ですが、貴方方はそのサーヴァントを失った」  だが、 「……そうですね、令呪及びこのゲームにおいての、貴方方の魔術師としての素質の没収」  課されたそれは、実質何の罰則にもならぬ退場宣言。 「この辺りが、妥当でしょうか」  実際は温情で見逃されたに等しい。  なのに何故だろう、相変わらず、彼女の表情が変わらないのは。 「聖杯を得る資格までは奪いません、望むならば、唯の人として戦いなさい」  それは自分が下さなくとも、この先もっと重い罰が降りることを、まるで既に知っているかのような――。  * * *  不思議な、夢を見た。  慎二、桜、ジャンヌダルク……ただの夢とは思えない内容だったが、さて。 (そんなことよりも)  薄っすら目を開けば、見知らぬ天井が見えた。   生きているということは勝利したのだろうが、腹の傷が酷く痛む。サーヴァントにやられたのだから当然か。  俺は、戦闘中に意識を失った筈だ。だが、何故が今は布団の中にいる……和室のようだが、拠点のそれとは雰囲気が違う。 「ここは……何処だ?」 「……っ!先輩、良かった」  気付かなかった……隣にいたのは、今にも泣き出しそうな表情の桜。  きっと看病してくれたのだろう。そのぐらいの判断は、重症で寝込んでいてもできる。  戦闘中の、桜の顔が忘れられない。  きっと、彼女にとって聖杯戦争は望んだものではなかったのだろう。  そう、そんなことは分かっている。分かっていて……それでも俺は、あの時殺す気で戦った。 (俺は……)  忸怩たる思いが胸に広がる。極限だったとはいえ、昔からの馴染みをあれほど深く憎んだ己が恐ろしい。 (もしランサーのあの言葉がなければ、俺は)  きっと、瞋恚の焔で永劫に糾弾し続けたことだろう。 「桜、無事で良かった」  そのような、秩序の権化にならなくて良かった。  その道の悲しさを、俺は誰よりも知っている。  胸を撫で下ろし告げると、自然と笑みが浮かんだ。 「……先輩、先輩……私、ごめんなさい」  桜は、崩れ落ちるように俺の胸に縋り付き、、涙を流す。  少しの間桜に胸を貸すことにした。 (今は、今だけは)  ただ、己を嘆く時間があっても良いと思うから。  しかし、思ったより早くその時間は終わりを告げる。 「……えっと、ごめん、いや邪魔する気はなかったんだ、遠坂が呼んで来いって言うから」 「え、いや、先輩、ごめんなさい! 私ったら……」  突然、和室のドアが開いたかと思えば、そこには士郎がいた。  何故か、士郎は焦っているようだし、桜は状況を把握したのか、慌ててこちらに謝罪した。 (女に抱きつかれて怒る男はいないだろうが)  桜もとりえあえず冷静に戻ったようだし、第三者が来たならば場面を動かそう。 「とりあえず遠坂に会いたいんだが」  状況を上手く説明しているのはアイツだ。  しかし、動くのも億劫である。こっちは怪我人だ、ぶっちゃけ起きてるのすら辛い。 「酷く体がだるい、魔力も足りていない……出来る事なら、このまま寝てしまいたいなー」  遠坂の方から来ないかなー。チラリと見ながらそう告げると、士郎は苦笑しながら頷いた。 「ああ、わかった、今遠坂を連れ来る」  士郎は、慌てた様子でパタパタと走っていった。  そう焦らなくても良いのだが。  * * * 「……アンタ、随分偉くなったのね」  不機嫌そうな凛の視線が、顔に突き刺さる。痛い。  呼び付けられるなんて学校の教師からも経験したことはあるまい。  この反応、案外俺が人生初かもなHAHAHA。 「まあ、いいわ……昨日は貴方のおかげで助かったわけだし」  凛は見た目ほど、機嫌が悪いわけではないらしい。  基本的に(変なところ以外)は広い女だし、ここは素直に喜んでおこう。 「昨日はお疲れ」  とりあえず、本題に入る前に周りを労うことにした。  こうやって生きて会話ができるのも、皆のおかげだろう。 「はいはい、どうせ一番アンタが活躍してたわよ」  なんだか刺々しいが、一応評価してくれているらしい。  むしろ、凛が素直に貴方のお陰よ、なんて言って来たら警戒するが。  場が落ち着いたところで、しかし、と士郎が小さく零した。  その表情には、数秒前の笑顔の気配は微塵も無い。 「……アレが魔術師の戦いなのか」 「そうよ、衛宮君も踏み込むなら覚悟しなさい」  記憶を消した手前か、棘棘しさを増す凛。  もしかしたら他に理由でもあるのか、彼女は士郎を魔術師にしたくはないらしい。  だが俺はそこで口を挟む。 「踏み込むつもりならば、俺が魔術について教える」  もともとしようと思っていたのに、延び延びになっていたことを告げた。  凛は呆れ、桜は顔を強張らせた。  だが、士郎はそのどちらの顔も見ず、只俺だけを見て数秒の沈黙。 「……頼めるか?」 「ああ、むしろ嫌といっても押しかけるぜ」  こちらから言い出したことだ、俺は快く了承した。  時間が空き次第、士郎の修行に付き合おう。  可能なら、聖杯戦争中でもあの無茶で無意味な修行だけは止めさせたい。 (だがそれも飽くまで時間に空白が出来ればの話だ)  まずは状況の把握、そして俺が動けるようにならねばどうにもならん。 「俺が寝ていた時の情報が欲しい」 「……ああ、そう言えばその話がまだだったわね」  予想通り、説明は凛がしてくれるらしい。  セイバー、バーサーカーの敗退。  間桐の家が行った反則行為、そしてその行為に対するペナルティがあった事。   (やはり、あの夢は現実か)  どういう手法かはしらないが、監督役から事の次第を各マスターに通達した、ということだろう。 「……本当に、すみませんでした先輩」  また俯き、謝る桜。 「桜、貴方は悪くない、悪いのは間桐よ」 「それでも、私は取り返しの付かない事を……」  桜は己に内罰を下し続ける。罪もない人々の命を奪ったのは許されないと。  それは、確かにその通りだ。決して、許されるものはない。  だからこそ、俺は桜に告げることがある。 「間桐、ランサーの宝具を覚えいてるか」 「……杭、ですか?」 「カズィクル・ベイ。ある種の正義を体現する概念武装だ」 「はい、私たちには、ぴったりの宝具だったと、思います」  沈みながらも答える桜に、そうだな、と肯定する。  凛が殺意を篭めた目で俺を見た。それでも、彼女はまだ何も言わない。有難い。 「だが、なら何故バーサーカーは生き長らえた?」 「え?」 「――あ」  良く分からないという顔をする桜と、分かったと声を上げる士郎。何も言わずに頷く凛。 「アーチャーが止めを刺したがな、普通宝具をまともに喰らえばそこで死んでないとおかしいんだよ」  実際、今回の最優だった黒き騎士は、何一つ言い残すことも許されずエーテルの塵に還った。 「そうならなかったのは、ランサーのソレが糾弾であるが故に、かしら?」  そうだ、憎むべきは人ではなく、罪だ。  不義を咎める断罪の一撃を受けて生き永らえたなら、それには必ず理由がある。  だから、惨劇を起こしたバーサーカーが、一瞬でも生き残ったのは――。 「間桐、お前には許される理由があるからだと、何より神がそう告げた結果のように思う」  そして、その理由を他人が問う必要は無い。  俺はランサーを信じる。その信仰の正しさこそを信じる。  彼女には、そしてバーサーカーにもやむを得ぬ事情があった。逆らえぬ何かが、殺人を犯させた……それを、神は許した。  だからその信奉者たるジャンヌダルクは、罪を問うことをしなかった。  ならば、 「ただの人間である俺達が、その結果を受け止めないのは筋が違うと思わないか?」 「――せん、ぱい」  恐らく桜は、それでも自罰を止められない。誰が許そうとも、加害者自身を許さない。  ……決して許されない、とはそういうこと。人に宿った当たり前の善性故に、その苦しみは永劫続く。  だがせめて、それに押し潰されなくても良いのだと、抱えて生きるくらいは許されるのだと――他人が教えてやっても良いじゃないか。 「だから俺は、許すよ」  俯く桜の頭に手を伸ばし、優しく撫でた。  ピクリと小さく身を揺らすが、桜はソレを受け入れた。 「良く耐えた、桜」 「……ごめんなさい、ごめんなさい」  俺は名前も知らない大勢よりも、桜を選んだ。  心の中で、告げる。 (すまない) 「皆、俺はそう思うよ。だから、」  言葉が出ない。  その先は、俺が言っていいものではない。  他人に言われて、了承するようなことでもない。  後は只、凛と士郎が出す答えを待つだけだ。 「……ありがとう」  凛はそう小さく呟いた。 「………」  士郎は何も言わず、目を瞑る。罪を問うことはない。でも、その逆も言えない。  それが、士郎にとっての限界だったのだろう。 (願わくは、何時か彼にも、心から許せるときが来れば良い)   「そう言えばアーチャー、貴方宝具使ってたわよね?」  凛のやけに明るい声が部屋に響く  話題をかけようとしたのだろうか。  士郎の反応に焦ったのかもしれない。 「……凛、此処で話す話でもあるまい?」 「うっさい! アンタ記憶喪失で宝具は使えないんじゃなかったの!?」  それまで無言だったのに、突然矛先を向けられたアーチャーは心底嫌そうな顔をした。  いきなり個人情報を暴露されたのだから無理も無いが。 「そう言った情報は、他のマスターに聞かせるべきではないだろう?」 「同盟相手よ、問題ないでしょ」 (確か、同盟はセイバーを倒すまで、だった筈だが)  反射的に凛に尋ね掛けたが、今はやめておくことにする。  前にそれを忠告した彼女が、まさか忘れている筈はないだろう。ならば、せめて彼女が許す限りはこのままで。 (それにこっちの情報は殆ど知られたし、少しくらいは良いだろう) 「結局、アンタ記憶は戻ったの?」 「……記憶はほぼ戻った、と言って良いだろう」  気のせいかも知れないが、 「……?」  アーチャーが、懐かしむような顔でこちらを見た。 「凛、分かっていると思うが」 「わかってるわよ、それだけ分かれば充分だから」  凛は満足そうに頷いた。アーチャーも、もう何時もの表情に戻っている。 (わざわざ問うことでもない、か)  ただ、このアーチャーは何者なのだろう。緒戦で感じた違和感が、此処まで来ても薄まらないどころか、どんどんと濃厚になっていく。  弓兵にて双剣を使い、宝具はカラドボルグ?  彼の有名なあの件の担い手には見えない、東洋風の風貌だが……。 (そもそも本当に担い手なら、宝具を使い捨てにするなんてありえない) 「……何か用か、ランサーのマスター?」  無意識に睨んでいたのだろうか、見咎めたアーチャーが問うてくる。 「いや、特に用はない」  聞いて答えるとも思えない。追求して凛と溝を作るのも得策じゃない。 「そうか、では私は見張りに戻る」  そっけなく告げると、彼は霊化して消えた。  こちらと同様の結論に至ったのかもしれない。 (今はまだ、敵対する時じゃない……今は)  * * *  唐突に、ぐーと腹の鳴る音がした。場の空気が一気に吹き飛ぶ。  同盟とはいえ他人のサーヴァントが消えて、意識が弛緩したのだろうか。 「……」 「……」 「……」  視線が集中する。  俺の腹からだった。 「――メシにしよう」  人間なんだから当たり前だ。怪我人ならば尚更そうだ。  何を恥じることがあると、俺は臆面もなく言い切った。人が作ったのを喰うだけのクセに、とか気にしたら負けた。  すると、士郎と桜がほぼ同時に立ち上がった。突然の勢いに、隣で座っていた俺はビビる。 「おいおい、いきなりどうした」 「衛宮先輩、今日は私にやらせてもらえませんか?」 「いや、桜は疲れているだろ? 俺がやるよ」  いえいえ、いやいや。いいから俺に、いいえ私が。  そんな会話をしながら、二人は我先にと台所に向かった。  押し合ってまで取り合うものでもないだろうに。 「はは、愛が痛いな」    俺の軽口に、ほんとにね、と凛が相槌を打つ。 「アンタ、覚悟しといた方が良いわよ」 「は?」  一体、いきなりコイツは何を言い出すのだろう。  どういう流れで俺が覚悟しなければならないのか、てんで意味が分からない。 「桜って惚れたら一途だから、これからのアンタは士郎と同じくらいには危ないってこと」 「おいおい、よせよ」  なんで俺が友人の妻を奪わねばにゃらんのだ。  そう告げるも、凛は何処吹く風で立ち上がり、士郎たちを追う。  部屋を出るときに振り向いて、言った。  口調に反して、その笑みは、 「――私の可愛い妹。投げ出したら、絶対に許さないんだから」  俺が今まで見た、どの顔よりも美しかった。  「……ははは、参ったな」  本当に、愛が痛い。……胸が、痛い。   「俺は、お前と戦いたくないよ、凛」  何れ必ず訪れる何時かを見据え、自分の性根を思い知って嗤った。  その時が来たら、きっと俺は躊躇わない事を知っているから。  * * *  食事が終わり昼過ぎ、治癒の魔術をかけ続けてようやく体が動くようになった。  といってもお陰で魔力不足は変わらない。  ランサーは負担回避の為に、朝からずっと霊体化したまま。こんな様で索敵など不可能だ。  折り良く訪れた休息の時。丁度良い、士郎に魔術を教えよう。  こんな空白、後何度許されるかは分からない。 「士郎、来い。お前の魔術を改善する」 「お、おう! すぐ行くぞ!」  前回、士郎の魔術を見た時、気付いていた。  士郎の魔術の成功率の低さ。その原因は魔術回路の使用法だ。  毎回命を懸けて不安定な即席回路なんて使っていれば、魔力の操作は上手く行かない。  俺のように放出するような術ならいざ知らず。 (物質に通すなんて精密作業は、本来成功する方がおかしいんだ)  士郎を誘い、土蔵に行くと何故か凛も付いてくることになった。 「感謝してよね、衛宮くん。私とアイツ、二人で教えるなんて在り得ないことよ?」  最初渋っていたくせに、いざやると決めると途端やる気になるのが凛らしい。 (ま、当たり前か)  凛に士郎の状態を説明した反応を思い出す。  驚きが呆れを通り越し、次第に怒りに変わっていく……分かるさ、その気持ちは。魔術師なら誰だって同じだ。 「あまり、爺さんを悪く言わないでくれ、俺が無理やり教えて貰ったんだ」  俺や凛からすれば、そんなことは魔術師の義務を放棄する理由にならない。ならば最初から一貫して拒否しろと思うからだ。  だが、士郎は師に対して特別な感情があるらしい。それを無碍にする必要もないだろう。  取り敢えず、魔術回路については凛に任せてることにする。術の多彩さと繊細さに於いては凛が何枚も上を行く。  だから俺は、前回は務めて見ない様にしていた工房を見渡した。途端、目に入ってくるのはいくつものガラクタの数々。  ほんの僅かながら、魔力を感じる。 「……おいおい」  待てよ、ちょっと待て。  俺の記憶が確かなら、これらは前に来た時も――そこら中に転がっていたはずだ。 「……このガラクタ、まさか士郎が作ったのか?」  目眩がした。  魔力不足のせいでも、怪我のせいでもない。  手に取ったソレの異常性に気付いてしまったから。 「ああ、それは」  強化の合間に息抜きで作った投影だと士郎は告げる。  あまりに軽く言い放った言葉に、その無頓着さに、殺意さえ覚えた。 「投影? これがそうだって言うのか?」 「ああ、まあそう呼べるものですらないのかもな。中身がカラッポで失敗してるだろ?」  中身など、問題ではない、  『投影』で製造したものが、前回に此処に来てから今まで『存在し続けている』という異常。 「……嘘」  凛も気付いたらしい、その異質さ。  魔術を根底から否定しかねない、存在レベルでの大間違い。 (馬鹿げている)  だが、これが士郎の才能なのかも知れない。  振り返れば、思い当たる節はないこともない。 「士郎、強化はもういい。たぶん回路が出来上がれば訓練の必要がなくなる」  成功する筈のない強化が稀にでも上手く行ったのは、それほど精密な術を可能にするほどの――その為に作られたといって良いほどの、魔術回路を持っていたから。  たまたま似た工程を踏む魔術だったから、偶々再現できているに過ぎない。そんなものは、本来術者にとっては副産物でしかない。 「伸ばすべきは、『投影』だ」 「……え? いや、爺さんは効率の悪い魔術だって」 (効率か)  確かにそうだ。見られただけで殺されるようなモノは、そりゃ効率で言えば悪いだろう。 「当然ね、死にたくないならこんなもの使うべきじゃないわ」  今まで誰にも見つからなかったのは不幸中の幸いだ。  発見の仕方によっては、俺ですら士郎をどうしたか分からない。 「真っ当な連中に見つかったら速殺されてホルマリン漬けだ」 「でも、衛宮くんが魔術師として成功する道は……これしか無いのかも」  これほど異常な現象は、普通の魔術師では起こせない。  つまり士郎は、逆説的にだが、普通の魔術を習得できない可能性がある。士郎が魔術師を志すのなら、選択肢はない。 「……とりあえず、魔術回路の方を何とかしなくっちゃ」  思考を落ち着ける為か、凛は問題を先送りにすることで時間を作った。 「今晩、試してみるわ、アンタは少しでも寝て怪我を治しなさい」 「ああ、悪いが頼む。どっと疲れた」  今は凛の言葉に甘え、眠ることにする。  いろんな事があったせいだろうか。布団に潜り込むと、一瞬で眠りにつくことができた。 &font(15pt){【五日目、終了】} ---- [[一日目>初代リプレイ1]] - [[二日目>初代リプレイ2]] - [[三日目>初代リプレイ3]] - [[四日目>初代リプレイ4]] - 五日目 - [[六日目>初代リプレイ6]] - [[七日目>初代リプレイ7]] - [[八日目>初代リプレイ8]] - [[三年後>初代リプレイ9]]
 何処とも何時とも分からない空間で、三名の男女が向かい合っていた。  俺はそれを取り巻く観客のように眺めている。隣にも誰かいる気配がするが、視線が固定されているので確認できない。 「今回の聖杯戦争にて、不正が発覚しました」  三人の内の一人は、ジャンヌダルク。  救世の英雄、聖なる乙女――そして我がランサーと同じ、神の信奉者。  聖杯戦争の審判者は、眼前にて萎縮する二名のマスターを冷徹な瞳で眺めている。 「一名のマスターにおける、多重召喚。並びにマキリの技術により、サーヴァントを他人に授与」  御三家の権限を不当に使い、ルールの根幹を脅かした違法者。  これは、その裁定を決める断罪の場であった。 「その後再度英霊を召喚、という手順で間違いはないでしょうか?」  女は、小さく頷く。震えながらも、その表情は己の所業を認めたかのように冷静だ。  怯えた様子で、男も続いた。しかし、彼は何故自分がこんな場所にいるのか、と未だに諦めきれずにいるようだ。  似ている様で対照的な両者。だが聖女は二人を等しい目で見つめながら、告げる。 「宜しい、不正が発覚した場合、監督役の判断にてペナルティを貸すことができます」  相変わらず、その声音に情の色は見られない。表情の冷たさもまた同様。 「ですが、貴方方はそのサーヴァントを失った」  だが、 「……そうですね、令呪及びこのゲームにおいての、貴方方の魔術師としての素質の没収」  課されたそれは、実質何の罰則にもならぬ退場宣言。 「この辺りが、妥当でしょうか」  実際は温情で見逃されたに等しい。  なのに何故だろう、相変わらず、彼女の表情が変わらないのは。 「聖杯を得る資格までは奪いません、望むならば、唯の人として戦いなさい」  それは自分が下さなくとも、この先もっと重い罰が降りることを、まるで既に知っているかのような――。  * * *  不思議な、夢を見た。  慎二、桜、ジャンヌダルク……ただの夢とは思えない内容だったが、さて。 (そんなことよりも)  薄っすら目を開けば、見知らぬ天井が見えた。   生きているということは勝利したのだろうが、腹の傷が酷く痛む。サーヴァントにやられたのだから当然か。  俺は、戦闘中に意識を失った筈だ。だが、何故が今は布団の中にいる……和室のようだが、拠点のそれとは雰囲気が違う。 「ここは……何処だ?」 「……っ!先輩、良かった」  気付かなかった……隣にいたのは、今にも泣き出しそうな表情の桜。  きっと看病してくれたのだろう。そのぐらいの判断は、重症で寝込んでいてもできる。  戦闘中の、桜の顔が忘れられない。  きっと、彼女にとって聖杯戦争は望んだものではなかったのだろう。  そう、そんなことは分かっている。分かっていて……それでも俺は、あの時殺す気で戦った。 (俺は……)  忸怩たる思いが胸に広がる。極限だったとはいえ、昔からの馴染みをあれほど深く憎んだ己が恐ろしい。 (もしランサーのあの言葉がなければ、俺は)  きっと、瞋恚の焔で永劫に糾弾し続けたことだろう。 「桜、無事で良かった」  そのような、秩序の権化にならなくて良かった。  その道の悲しさを、俺は誰よりも知っている。  胸を撫で下ろし告げると、自然と笑みが浮かんだ。 「……先輩、先輩……私、ごめんなさい」  桜は、崩れ落ちるように俺の胸に縋り付き、、涙を流す。  少しの間桜に胸を貸すことにした。 (今は、今だけは)  ただ、己を嘆く時間があっても良いと思うから。  しかし、思ったより早くその時間は終わりを告げる。 「……えっと、ごめん、いや邪魔する気はなかったんだ、遠坂が呼んで来いって言うから」 「え、いや、先輩、ごめんなさい! 私ったら……」  突然、和室のドアが開いたかと思えば、そこには士郎がいた。  何故か、士郎は焦っているようだし、桜は状況を把握したのか、慌ててこちらに謝罪した。 (女に抱きつかれて怒る男はいないだろうが)  桜もとりえあえず冷静に戻ったようだし、第三者が来たならば場面を動かそう。 「とりあえず遠坂に会いたいんだが」  状況を上手く説明しているのはアイツだ。  しかし、動くのも億劫である。こっちは怪我人だ、ぶっちゃけ起きてるのすら辛い。 「酷く体がだるい、魔力も足りていない……出来る事なら、このまま寝てしまいたいなー」  遠坂の方から来ないかなー。チラリと見ながらそう告げると、士郎は苦笑しながら頷いた。 「ああ、わかった、今遠坂を連れ来る」  士郎は、慌てた様子でパタパタと走っていった。  そう焦らなくても良いのだが。  * * * 「……アンタ、随分偉くなったのね」  不機嫌そうな凛の視線が、顔に突き刺さる。痛い。  呼び付けられるなんて学校の教師からも経験したことはあるまい。  この反応、案外俺が人生初かもなHAHAHA。 「まあ、いいわ……昨日は貴方のおかげで助かったわけだし」  凛は見た目ほど、機嫌が悪いわけではないらしい。  基本的に(変なところ以外)は広い女だし、ここは素直に喜んでおこう。 「昨日はお疲れ」  とりあえず、本題に入る前に周りを労うことにした。  こうやって生きて会話ができるのも、皆のおかげだろう。 「はいはい、どうせ一番アンタが活躍してたわよ」  なんだか刺々しいが、一応評価してくれているらしい。  むしろ、凛が素直に貴方のお陰よ、なんて言って来たら警戒するが。  場が落ち着いたところで、しかし、と士郎が小さく零した。  その表情には、数秒前の笑顔の気配は微塵も無い。 「……アレが魔術師の戦いなのか」 「そうよ、衛宮君も踏み込むなら覚悟しなさい」  記憶を消した手前か、棘棘しさを増す凛。  もしかしたら他に理由でもあるのか、彼女は士郎を魔術師にしたくはないらしい。  だが俺はそこで口を挟む。 「踏み込むつもりならば、俺が魔術について教える」  もともとしようと思っていたのに、延び延びになっていたことを告げた。  凛は呆れ、桜は顔を強張らせた。  だが、士郎はそのどちらの顔も見ず、只俺だけを見て数秒の沈黙。 「……頼めるか?」 「ああ、むしろ嫌といっても押しかけるぜ」  こちらから言い出したことだ、俺は快く了承した。  時間が空き次第、士郎の修行に付き合おう。  可能なら、聖杯戦争中でもあの無茶で無意味な修行だけは止めさせたい。 (だがそれも飽くまで時間に空白が出来ればの話だ)  まずは状況の把握、そして俺が動けるようにならねばどうにもならん。 「俺が寝ていた時の情報が欲しい」 「……ああ、そう言えばその話がまだだったわね」  予想通り、説明は凛がしてくれるらしい。  セイバー、バーサーカーの敗退。  間桐の家が行った反則行為、そしてその行為に対するペナルティがあった事。   (やはり、あの夢は現実か)  どういう手法かはしらないが、監督役から事の次第を各マスターに通達した、ということだろう。 「……本当に、すみませんでした先輩」  また俯き、謝る桜。 「桜、貴方は悪くない、悪いのは間桐よ」 「それでも、私は取り返しの付かない事を……」  桜は己に内罰を下し続ける。罪もない人々の命を奪ったのは許されないと。  それは、確かにその通りだ。決して、許されるものはない。  だからこそ、俺は桜に告げることがある。 「間桐、ランサーの宝具を覚えいてるか」 「……杭、ですか?」 「カズィクル・ベイ。ある種の正義を体現する概念武装だ」 「はい、私たちには、ぴったりの宝具だったと、思います」  沈みながらも答える桜に、そうだな、と肯定する。  凛が殺意を篭めた目で俺を見た。それでも、彼女はまだ何も言わない。有難い。 「だが、なら何故バーサーカーは生き長らえた?」 「え?」 「――あ」  良く分からないという顔をする桜と、分かったと声を上げる士郎。何も言わずに頷く凛。 「アーチャーが止めを刺したがな、普通宝具をまともに喰らえばそこで死んでないとおかしいんだよ」  実際、今回の最優だった黒き騎士は、何一つ言い残すことも許されずエーテルの塵に還った。 「そうならなかったのは、ランサーのソレが糾弾であるが故に、かしら?」  そうだ、憎むべきは人ではなく、罪だ。  不義を咎める断罪の一撃を受けて生き永らえたなら、それには必ず理由がある。  だから、惨劇を起こしたバーサーカーが、一瞬でも生き残ったのは――。 「間桐、お前には許される理由があるからだと、何より神がそう告げた結果のように思う」  そして、その理由を他人が問う必要は無い。  俺はランサーを信じる。その信仰の正しさこそを信じる。  彼女には、そしてバーサーカーにもやむを得ぬ事情があった。逆らえぬ何かが、殺人を犯させた……それを、神は許した。  だからその信奉者たるジャンヌダルクは、罪を問うことをしなかった。  ならば、 「ただの人間である俺達が、その結果を受け止めないのは筋が違うと思わないか?」 「――せん、ぱい」  恐らく桜は、それでも自罰を止められない。誰が許そうとも、加害者自身を許さない。  ……決して許されない、とはそういうこと。人に宿った当たり前の善性故に、その苦しみは永劫続く。  だがせめて、それに押し潰されなくても良いのだと、抱えて生きるくらいは許されるのだと――他人が教えてやっても良いじゃないか。 「だから俺は、許すよ」  俯く桜の頭に手を伸ばし、優しく撫でた。  ピクリと小さく身を揺らすが、桜はソレを受け入れた。 「良く耐えた、桜」 「……ごめんなさい、ごめんなさい」  俺は名前も知らない大勢よりも、桜を選んだ。  心の中で、告げる。 (すまない) 「皆、俺はそう思うよ。だから、」  言葉が出ない。  その先は、俺が言っていいものではない。  他人に言われて、了承するようなことでもない。  後は只、凛と士郎が出す答えを待つだけだ。 「……ありがとう」  凛はそう小さく呟いた。 「………」  士郎は何も言わず、目を瞑る。罪を問うことはない。でも、その逆も言えない。  それが、士郎にとっての限界だったのだろう。 (願わくは、何時か彼にも、心から許せるときが来れば良い)   「そう言えばアーチャー、貴方宝具使ってたわよね?」  凛のやけに明るい声が部屋に響く  話題をかけようとしたのだろうか。  士郎の反応に焦ったのかもしれない。 「……凛、此処で話す話でもあるまい?」 「うっさい! アンタ記憶喪失で宝具は使えないんじゃなかったの!?」  それまで無言だったのに、突然矛先を向けられたアーチャーは心底嫌そうな顔をした。  いきなり個人情報を暴露されたのだから無理も無いが。 「そう言った情報は、他のマスターに聞かせるべきではないだろう?」 「同盟相手よ、問題ないでしょ」 (確か、同盟はセイバーを倒すまで、だった筈だが)  反射的に凛に尋ね掛けたが、今はやめておくことにする。  前にそれを忠告した彼女が、まさか忘れている筈はないだろう。ならば、せめて彼女が許す限りはこのままで。 (それにこっちの情報は殆ど知られたし、少しくらいは良いだろう) 「結局、アンタ記憶は戻ったの?」 「……記憶はほぼ戻った、と言って良いだろう」  気のせいかも知れないが、 「……?」  アーチャーが、懐かしむような顔でこちらを見た。 「凛、分かっていると思うが」 「わかってるわよ、それだけ分かれば充分だから」  凛は満足そうに頷いた。アーチャーも、もう何時もの表情に戻っている。 (わざわざ問うことでもない、か)  ただ、このアーチャーは何者なのだろう。緒戦で感じた違和感が、此処まで来ても薄まらないどころか、どんどんと濃厚になっていく。  弓兵にて双剣を使い、宝具はカラドボルグ?  彼の有名なあの件の担い手には見えない、東洋風の風貌だが……。 (そもそも本当に担い手なら、宝具を使い捨てにするなんてありえない) 「……何か用か、ランサーのマスター?」  無意識に睨んでいたのだろうか、見咎めたアーチャーが問うてくる。 「いや、特に用はない」  聞いて答えるとも思えない。追求して凛と溝を作るのも得策じゃない。 「そうか、では私は見張りに戻る」  そっけなく告げると、彼は霊化して消えた。  こちらと同様の結論に至ったのかもしれない。 (今はまだ、敵対する時じゃない……今は)  * * *  唐突に、ぐーと腹の鳴る音がした。場の空気が一気に吹き飛ぶ。  同盟とはいえ他人のサーヴァントが消えて、意識が弛緩したのだろうか。 「……」 「……」 「……」  視線が集中する。  俺の腹からだった。 「――メシにしよう」  人間なんだから当たり前だ。怪我人ならば尚更そうだ。  何を恥じることがあると、俺は臆面もなく言い切った。人が作ったのを喰うだけのクセに、とか気にしたら負けた。  すると、士郎と桜がほぼ同時に立ち上がった。突然の勢いに、隣で座っていた俺はビビる。 「おいおい、いきなりどうした」 「衛宮先輩、今日は私にやらせてもらえませんか?」 「いや、桜は疲れているだろ? 俺がやるよ」  いえいえ、いやいや。いいから俺に、いいえ私が。  そんな会話をしながら、二人は我先にと台所に向かった。  押し合ってまで取り合うものでもないだろうに。 「はは、愛が痛いな」    俺の軽口に、ほんとにね、と凛が相槌を打つ。 「アンタ、覚悟しといた方が良いわよ」 「は?」  一体、いきなりコイツは何を言い出すのだろう。  どういう流れで俺が覚悟しなければならないのか、てんで意味が分からない。 「桜って惚れたら一途だから、これからのアンタは士郎と同じくらいには危ないってこと」 「おいおい、よせよ」  なんで俺が友人の妻を奪わねばにゃらんのだ。  そう告げるも、凛は何処吹く風で立ち上がり、士郎たちを追う。  部屋を出るときに振り向いて、言った。  口調に反して、その笑みは、 「――私の可愛い妹。投げ出したら、絶対に許さないんだから」  俺が今まで見た、どの顔よりも美しかった。  「……ははは、参ったな」  本当に、愛が痛い。……胸が、痛い。   「俺は、お前と戦いたくないよ、凛」  何れ必ず訪れる何時かを見据え、自分の性根を思い知って嗤った。  その時が来たら、きっと俺は躊躇わない事を知っているから。  * * *  食事が終わり昼過ぎ、治癒の魔術をかけ続けてようやく体が動くようになった。  といってもお陰で魔力不足は変わらない。  ランサーは負担回避の為に、朝からずっと霊体化したまま。こんな様で索敵など不可能だ。  折り良く訪れた休息の時。丁度良い、士郎に魔術を教えよう。  こんな空白、後何度許されるかは分からない。 「士郎、来い。お前の魔術を改善する」 「お、おう! すぐ行くぞ!」  前回、士郎の魔術を見た時、気付いていた。  士郎の魔術の成功率の低さ。その原因は魔術回路の使用法だ。  毎回命を懸けて不安定な即席回路なんて使っていれば、魔力の操作は上手く行かない。  俺のように放出するような術ならいざ知らず。 (物質に通すなんて精密作業は、本来成功する方がおかしいんだ)  士郎を誘い、土蔵に行くと何故か凛も付いてくることになった。 「感謝してよね、衛宮くん。私とアイツ、二人で教えるなんて在り得ないことよ?」  最初渋っていたくせに、いざやると決めると途端やる気になるのが凛らしい。 (ま、当たり前か)  凛に士郎の状態を説明した反応を思い出す。  驚きが呆れを通り越し、次第に怒りに変わっていく……分かるさ、その気持ちは。魔術師なら誰だって同じだ。 「あまり、爺さんを悪く言わないでくれ、俺が無理やり教えて貰ったんだ」  俺や凛からすれば、そんなことは魔術師の義務を放棄する理由にならない。ならば最初から一貫して拒否しろと思うからだ。  だが、士郎は師に対して特別な感情があるらしい。それを無碍にする必要もないだろう。  取り敢えず、魔術回路については凛に任せてることにする。術の多彩さと繊細さに於いては凛が何枚も上を行く。  だから俺は、前回は務めて見ない様にしていた工房を見渡した。途端、目に入ってくるのはいくつものガラクタの数々。  ほんの僅かながら、魔力を感じる。 「……おいおい」  待てよ、ちょっと待て。  俺の記憶が確かなら、これらは前に来た時も――そこら中に転がっていたはずだ。 「……このガラクタ、まさか士郎が作ったのか?」  目眩がした。  魔力不足のせいでも、怪我のせいでもない。  手に取ったソレの異常性に気付いてしまったから。 「ああ、それは」  強化の合間に息抜きで作った投影だと士郎は告げる。  あまりに軽く言い放った言葉に、その無頓着さに、殺意さえ覚えた。 「投影? これがそうだって言うのか?」 「ああ、まあそう呼べるものですらないのかもな。中身がカラッポで失敗してるだろ?」  中身など、問題ではない、  『投影』で製造したものが、前回に此処に来てから今まで『存在し続けている』という異常。 「……嘘」  凛も気付いたらしい、その異質さ。  魔術を根底から否定しかねない、存在レベルでの大間違い。 (馬鹿げている)  だが、これが士郎の才能なのかも知れない。  振り返れば、思い当たる節はないこともない。 「士郎、強化はもういい。たぶん回路が出来上がれば訓練の必要がなくなる」  成功する筈のない強化が稀にでも上手く行ったのは、それほど精密な術を可能にするほどの――その為に作られたといって良いほどの、魔術回路を持っていたから。  たまたま似た工程を踏む魔術だったから、偶々再現できているに過ぎない。そんなものは、本来術者にとっては副産物でしかない。 「伸ばすべきは、『投影』だ」 「……え? いや、爺さんは効率の悪い魔術だって」 (効率か)  確かにそうだ。見られただけで殺されるようなモノは、そりゃ効率で言えば悪いだろう。 「当然ね、死にたくないならこんなもの使うべきじゃないわ」  今まで誰にも見つからなかったのは不幸中の幸いだ。  発見の仕方によっては、俺ですら士郎をどうしたか分からない。 「真っ当な連中に見つかったら速殺されてホルマリン漬けだ」 「でも、衛宮くんが魔術師として成功する道は……これしか無いのかも」  これほど異常な現象は、普通の魔術師では起こせない。  つまり士郎は、逆説的にだが、普通の魔術を習得できない可能性がある。士郎が魔術師を志すのなら、選択肢はない。 「……とりあえず、魔術回路の方を何とかしなくっちゃ」  思考を落ち着ける為か、凛は問題を先送りにすることで時間を作った。 「今晩、試してみるわ、アンタは少しでも寝て怪我を治しなさい」 「ああ、悪いが頼む。どっと疲れた」  今は凛の言葉に甘え、眠ることにする。  いろんな事があったせいだろうか。布団に潜り込むと、一瞬で眠りにつくことができた。 &font(15pt){【五日目、終了】} ---- [[一日目>初代リプレイ1]] - [[二日目>初代リプレイ2]] - [[三日目>初代リプレイ3]] - [[四日目>初代リプレイ4]] - 五日目 - [[六日目-1>初代リプレイ6]] - [[六日目-2>初代リプレイ6-2]] - [[七日目>初代リプレイ7]] - [[八日目-1>初代リプレイ8]] - [[八日目-2>初代リプレイ8-2]] - [[三年後>初代リプレイ9]]

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