初代リプレイ6-2

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 * * * 「クソッ、俺のせいだ……!」  衛宮家にたどり着いた時、俺たちを待っていたのは荒された家と置き手紙。  『人質は預っている』  桜がいない。十中八九、攫われた。  ランサーがいない隙を突かれたのだ。 「今すぐ助けに行こう」 「……そうね、見殺しには出来ない」  こんな戦い方をするヤツは、情報皆無のライダーを除けばアサシンのマスターしかいない。  街中で銃器を使用するような男だ。昼間から、拠点に忍び込む程度やってのける。 (相手は複数のアサシン、こっちはサーヴァントを失ったマスターと、魔術師見習いが一人ずつ)  俺とランサーで守りきれる保証はない。 「駄目だ、行くな」 「……桜を見殺しにしろっていうのかよ!」 「冷静に考えろ、桜がまだ生きている保証はない」  俺には、お前らの命を守る義務がある。 「だとすればの、今生きている俺たちの命を優先するべきだ」 「アンタが言ってる事は正しいわ、でもそんな奴だとは思ってなかった」  遠坂の視線に失望が映る。  士郎の目には燃え上がるような、怒り。  分かっている。こういうヤツらだから、俺はずっと共にいたんだ。  死なせたくなかったから、戦いたくなかったから、守りたかったから。  だが、 (俺たちの代わりに、コイツらを守ってくれるアーチャーはもういない)  ならば俺が約束を果たす。アイツが命に代えて託したコイツらを、危険になど晒せない。 「分からないか? むざむざ殺されに行くような真似はするなって言ってるんだ。そんな真似は、アーチャーだって許さないはずだ」 「……ッ、アンタが、それを……!」  だから敢えてその名を告げる。  案の定、遠坂の目に壮絶な殺意が灯った。  構わない、どれだけ恨まれようと、それでコイツらが生き延びるなら。 「なんとでも言えばいい。いいな? 絶対に行くなよ」  念を押して、俺は士郎の家を後にした。  俺には、やることがある。  * * *  夜の街を歩いている。気付くと、新都へ続く橋の袂まで来ていた。  ふと、拠点へ戻ろうか、思う。  このまま敵の誘いに乗るのは、無策のまま死地へと飛び込むことと同義。それは、何処までも俺の流儀にはそぐわない。  だが、途端アーチャーの言葉が、俺を責める。 ――凛を頼む、あと……あの馬鹿も。  血が滲むほど、拳を握り締める。  今命を惜しんだところで、アサシンが生存している限り、いずれ凛も士郎も……そして俺も、同じ目に遭うに決まっている。  時計を見た。もうすぐ0時だ。準備に戻るどころか、此処で迷っている時間すらない。行くのならば、死を覚悟した道となるだろう。  魔術師としての俺は、相変わらず行くなと告げている。それでも、 「ランサー、俺たちは此処までかもしれん」 「構わぬ! 我は最後まで、我が妻と共に道を行かん!」 「……フ、そうか。そうだな」  それも悪くない。だが、必ず約束は果たそう。桜を解放し、アイツらにせめて日常を返す。  ソレが勝利を捨てて俺たちを救ってくれた凛と、アーチャーへの罪滅ぼしだ。 「――往くぞランサー。今宵、アサシンを討つ」  意を決して、俺は橋に向かって駆け出した。  * * *    だが新都着いたとき、予想に反して――否、或いは予想通りに――そこに居たのは士郎と凛だった。 「……何で此処に? 来ないんじゃなかったのか?」    耳に届いたのはそんな一言。  脳裏の奥から、ブチリと何かが千切れる音が聞こえた。 「――それはこっちの台詞だ!!」  士郎の状況を理解していない台詞に、一気に感情が爆発する。  怒りで此処まで前後不覚になるのも初めてだ。  人の決意を無駄にしやがってこの馬鹿野郎共。 「相手はアサシンだ、マスターの天敵だ。サーヴァントすらいない魔術師が行って何になる? 人質前にして今のお前らに何が出来る? 言ってみろ呆け共!」  息が上がるまで捲くし立てる。荒い息を吐いて黙るも、まだ言い足りぬと睨み付けた。 「こうなったら、今此処で俺がお前らを――」 「ねえ、アンタさ」  気絶させてでも追い返す、と告げようとした時。  それまで黙っていた凛が静かな瞳で俺を見た。 「アンタ、一人で来るつもりだったの?」  言葉と同時に、その目から一筋だけ零れた涙が、俺の怒りに冷水をぶちまける。  ズルイ。女はズルイ。どれだけこちらが正しくとも、そんなまやかし一つで世界そのものを味方に付けやがる。 「……ああ、もう。馬鹿、ほんと馬鹿。なんで私の周りの男って、どいつもこいつもカッコつけたがるんだろう」  ごめん、泣くつもりなかったんだけど、と言いながら彼女は涙を拭った。 「でも私だって退けない、アンタに全部任せて家で祈ってるなんて、そんなのプライドが許さないわ」 「桜を大切に思ってるのはお前だけじゃない。俺にだって大切な妹分なんだ、どんなことをしても取り戻す」 「――――ハァ、クソ。マジで人の気もしらねぇで好き勝手に言いたい放題言いやがる」  ため息を吐く。済まないアーチャー、俺の言葉じゃコイツらは止められない。 「分かった、俺は知らない。自分の身は自分で守れ、それでもって勝手に死ね」 「そのつもりよ」 「そのつもりだ」  最後に綺麗に唱和した阿呆共を連れて、俺はアサシンの待ち受ける公園へと向かう。  いいさ、別にいい。構わない。こうなれば、俺とランサーで全員守りきれば良いだけの話。 (おい、ランサー。簡単に死ねなくなったぞ) (望むところだ我が妻よ、異教徒の悉く串刺しにしてくれようぞ!)  パスだけの会話。先程までの悲壮感は俺たちにはない。  生きて帰る。誰一人掛ける事無く。そしてアサシンの脅威を消滅させる。  それだけじゃない。キャスターも、そしてまだ見ぬライダーも。 「倒すぞ」 「勿論よ」 「おう!」  聖杯を。アーチャーが託してくれた勝利を、俺たちはもう諦めない。  * * *  そうして、三人で公園にたどり着く。 「……来たか」    公園に立っていたのは、やはりあのロングコートの男だった。 「……爺、さん?」  唐突に士郎が呟いた。  様子がおかしい、まるで化け物か幽霊にでもあったような顔で、目前の敵マスターを凝視している。  確か士郎のいう爺さんとは、魔術の師であり父親代わりの人物だったと記憶しているが。 (何故だ? 士郎の話で五年前に死んでいるはずだが)  俺の混乱を他所に、男は氷のように冷め切った表情で淡々と告げた。 「全員手を頭の後ろで組み、サーヴァントの霊化を解け」 「今は言う通りに」  男の冷たい声がその場に響く。  俺は抵抗を見せず、二人に小さく告げてランサーの霊化を解いた。 「アーチャーの霊化も……なるほど、遠坂の娘はサーヴァントを失っていたか」  横に控えたアサシンの一人が切嗣に耳打ちしたかと思えば、小さく頷いた。  コイツら、あの森の状況も把握しているのか。 (これは、ランサーの正体も知られているな)  状況はまずい方へ転がっている。  只へさえ桜を人質に取られている状況、何処かで打開しなくては何も出来ず皆殺しにされる。 「……士郎、僕は君を歪ませてしまった、すまない」  だが、男は俺が恐れていた即断の暗殺を選ばなかった。  互いの因縁が、ただ敵として排除することを許さないのか。 (現状、鍵は士郎か)  ならばこれはチャンスだ。アサシンの最も怖い点は、認知外からの奇襲。  だがこうして相対していれば、それだけでスキルの効果は薄れる。  勿論隠れてこちらを伺っている者もいるだろう。  だがそれも、攻撃に転じた時点で気配遮断の効果は失われるはずだ。 「らしくない、なんて言われそうだが」  ―――僕がこの手で殺す。確かな声で、士郎の養父はそう告げた。  銃を構えたまま、男は抑揚のない声で語る。 「僕が信じさせてしまった。正義の味方なんて、歪んだ存在を」 (……何の話だ?)  何故そんなフィクションの単語がここで出るのだろう。  信じさせた? ……つまり、士郎は正義の味方を信じていた?    「……何言ってんだよ、爺さん、俺を殺す?」 「ああ、そうだ。これは僕がやり遂げなければいけない」 (そうか)  何となく構図が見えてくる。士郎の一種異様な献身性の大本。  役に立つかも分からないのに、自殺行為にすら成り得る訓練を淡々と続けられる理由。  彼の誰かの為になりたいという願いは……否、それはもはや願いではなく。 「僕は、士郎に呪いをかけてしまった」  そう、呪いだ。  己を省みないのも、サーヴァントに簡単に向かってしまう無謀も、間違った訓練も何もかも、まともな意識では選べない。  それはきっと、『そのように選ぶよう』作られた精神。誰が計らずとも、偶然そうなってしまっただけだとしても。  彼にとっては、息子の人生を歪めた大いなる過ちに変わりない。 「……士郎、正義の味方なんて居ないんだよ」  そう言ってコートの男は士郎に銃を向けた。  意識が、そちらへと。 (――開いた!)  男の後悔が、それまで完璧だった警戒に穴を空けた。  俺は魔力を全身に流し、無理やり身体を強化。一気に男へと向かって走り出す。  銃を士郎に向ける動作。その一瞬だけ、意識がコチラを離れたのだ。  今、その空白を以って、この戦況を覆す。ソレを可能にする、奇跡の絶対命令権を、今――! 「令呪をもって命じる!」 「ッ、アサシン!」  俺は一瞬で拳銃が不都合になる至近距離まで到着していた。  失策を悟った男は、迎撃せずに俺のタックルを回避しサーヴァントに命じる。 「大丈夫だ」  士郎に、凛に、桜に……何より俺に暗殺者が殺到する。  だが、俺は仲間を信じる。俺の力量を信じる。そして何より、我が英雄の力を信じる。  故に、告げるのはこれで良い! 「桜を救え! ランサー!」  令呪が輝くと同時にランサーが消えた。  次に沸くのは悲鳴、桜を拘束していたアサシンの首が、手の中の人質を殺す前にボトリと落ちた。 「畏れ惑えよ異教徒共! 我が正義の槍は、貴様らの悉くを貫くぞ!」  桜を片手に確保し、得物を構えたランサーが威圧する。それだけで、周囲を取り囲んでいたアサシンたちがたじろいだ。  役者が違う。怯んだ暗殺者の中、最も弱い穴を見つけ出し、突き破るランサー。  そうして包囲を抜け彼は頷いた。桜は、無事だ。 「シィ!」    だが、ランサーの加護を失った俺に、アサシンが迫る。  その数都合五体、無理な身体強化の代償で、俺はその場から動けない。   (死ぬ? この俺が?)  こんな危機も一人で脱せない主に、ランサーはその槍を預けたのか?  この程度で簡単に死ねるヤツに、アーチャーは己が主を託したのか? (ハ、んなわけねぇだろ)  心の底から嘲笑する。この一山幾らの黒子共に憐憫する。  「……圧層結界、励起」  呟いた瞬間、魔力を一気に放出した。  イメージは檻。但し、捕らえるのは内側ではなく外側。世界を裏返し、越境を禁じる水鏡。   ――本当に俺が何の策もなく、サーヴァント相手に突っ込んだとでも思ったか。 「ぐ、ぎ」 「ぬ、こんな結界、直ぐにッ」  体が動かなくても回路は動く。  何の警戒も見せず、俺の殺界に踏み入った阿呆共を睨み、呟いた。 「我が境に踏み入る者、汝に纏わる自由を禁ず」  力尽くで破ろうとした狼藉者どもを、言葉にて締め上げる。 「我が境に踏み入る者、汝が持ち得る権利を禁ず」  ゴギリ、と骨の砕ける音が響く。悲鳴が上がった。 「我が境に踏み入る者、汝を助ける摂理を禁ず」  一匹のアサシンが、圧力に耐え切れず溺死した。 「が、あ」 「ば、かな」  その短剣で俺をズタズタにしようとした暗殺者どもは、全て中空で囚われている。  ありったけの魔力を消費して形成した結界だ。それは糸にして沼、触れるものを絡め取る水流の鎖……蛟の巣。  だがこのままでは終わらない。アサシンどもが今度こそ結界を破壊する前に、告げた。 「剥離結界、放出」  シングルアクションの連用による魔術運用。固定化した結界に、新たな命令をぶつけることで状態を変更する。  聖杯戦争の為、対サーヴァント用に練り上げたとっておきだ。 (対魔力、持ってれば良かったな?)  水の神に囚われた餌共を見、断罪の勅命を突きつけた。 「我が境に踏み入る者、汝が息吹の悉く残す事を禁ず――散れ」  言葉と同時に、結界の魔力が烈風の塊へと変換する。  瞬間――神風が吹き荒れた。  ゼロ距離で発生する膨大なカマイタチの群れ。全てのアサシンは吹き飛び、切り裂かれ、千切れ、砕ける。  数秒の嵐が消えた時には、全てが塵に還っていた。 「ッ、ハァ……英霊が、形無しだな」  一度使っただけで、寿命がごっそり削れそう。気絶し兼ねない疲労に見舞われる荒業だ。  そう何度も切れる札ではない。だが威力は折り紙つき、止めを狙っていた第二陣の足が完全に止まっていた。 (ぐ、痛ッ)  令呪使用後に更に強力な魔術行使、神経が断裂するような痛みを覚える。  構わない、痛みこそが生の実感になる限り、俺は幾らでも受け止める。 「行くわよ、とっておき!」  凛もまた速かった。俺が令呪を使った瞬間には、既に宝石の魔力を放出させていたのだろう。  襲い掛かるアサシンに宝石を投げ付け、閃光によって、また一体を完全に消滅させる。  数体のアサシンを屠り包囲を崩した彼女は、何とか俺の隣にまで辿り付いた。 「ハァ、ハァ……どう、したんだ。俺たちは、生きているぞ!」 「喚かないでくれ。どうせ直ぐに死ぬんだ……アサシン」  士郎を相手にしたまま、コートの男が告げる。同時に、俺たちの周りをアサシンの群れが包囲した。  大部分がランサーの相手をしているといっても、その数は優に十を越える。 (く、これは……)  もう一度、同じ術を使うしかない――そう決断した俺を嘲笑うように、アサシンたちは攻め方を変えた。  アサシンに隠れたアサシンが。  そのアサシンに隠れたアサシンが気配なく近づき、  ダガーを投擲、斬りつけ、突き、穿つ。  集団で一気に襲い掛かるのではなく、少数が相手に小さなダメージを重ね、残る全てが隙を伺う周到さ。  この戦い方は知っている。一番最初に遭遇した時のアレ。敢えて一体を殺させてみせ、不意を突く。  アサシンをアサシンで隠蔽する撹乱攻撃。これこそがコイツら本来の戦法なのだろう。 (マズイな)  「えぇい沸く鬱陶しいヤツらめが! どけェ!」  ランサーの奮闘にて桜は守られているが、守る戦いを強いられるランサーはコチラまで届かない。  俺も凛も、既に満身創痍だ。術に警戒し、踏み込んでこないからこそ生き長らえている。  だがそれ故に手の打ちようがない。時間がたてば、全てがこの暗殺者の波に押し潰される。  ――この状況を打破するには、宝具しかない。 「凛、ランサーの宝具を使う。少しで良い、隙を作ってくれ」 「……わかったわ、あの宝具なら、きっと大丈夫よ」  凛は優しい笑みを浮かべ、両手にありったけの宝石を掴んだ。それは一つ一つが、彼女が魔術師として努力した結晶。  ソレを全て使い潰させるのだ、凛の好意を無駄にする訳にはいかない。 (必ず、決める)  意識を集中する。令呪の使用、魔術の連用によって俺の回路は決壊寸前。  ランサーに宝具を使わせる為に、命を懸ける。凛に周りの全てを預け、イドの底の底まで意識を集中し――宝具の使用を、許可する。  途端、膨大な魔力がランサーへと流れていく。生命すらもパスの先に融けて行く。  不意に視界に映る走馬灯。死の淵にて、ランサーの記憶が垣間見える。  俺は、その余りも無残な血の歴史に、共感した。 (今なら、分かる)  敵を串刺しにし、晒してでも。  外道と罵られようとも、愛する人々を守るためならば。 「構わない」 「我が、我らが愛で穢れよ――串刺城塞ッ!」  自身に残り得る全ての魔力をランサーに捧げる。  貴公こそが、真の英雄であると。  愛の為の惨殺を、今此処に。 「守れるなら、世界全てを血に染めても構わない――俺たちの意志を突き立てろランサー!」  最後の魔力を放出した時、ランサーの宝具が起動した。  杭の城塞が、出現する。 「ば、馬鹿な」 「ぐ、ひ、ぁ」 「こんなことがあってたまるか……!」  周囲の無数の『アサシン』の真下から、次々に血塗られた木杭が打ち上げられる。  逃げようとするもの、防ごうとするもの、ランサーに挑むもの、俺たちを狙うもの、ただ諦めるもの。  全て等しく串刺しにし、杭が葬列を作っていく。  誰も彼もが逃れられない。誰も彼もが許されない。  それは、全てが苛烈にして純粋なる意志の一撃。  胸を穿ち、腹を穿ち、腕を穿ち、足を穿ち、頭を穿ち、心を穿つ。  全てを、敵の全て杭は穿つ。 (これこそが真の姿、か)  周囲に二万の杭が並ぶ頃には、全てのアサシンは消え去っていた。  これが解答、これが真実。鮮血の伝承に隠された、ランサー本来の力の形。  その杭は、アサシンの血に塗れて尚、美しき純白の杭だった。 「ああ、前よりも綺麗だ。悪くないぞ、ランサー……」 「ちょ、アンタ!」  凛が何か言っているが、今はとにかく休みたい。 「――悪い、凛。少し眠る」  答えも聞かず、隣に居た凛に凭れかかり、俺はそのまま意識を失った。 &font(15pt){【六日目、終了】} &font(15pt){【士郎編、開始】}  心臓の鼓動が、次第に強く早くなっていく。 「……確かに、爺さんの言う正義の味方は歪んだものなのかも知れない」  銃を付きつけられてなお、切嗣を睨む目に力が宿った。 「俺のソレは借り物なのかもしれない」  だが、それは俺が黙っている理由にならない、大人しく殺される理由になんてならない。 「それは、ダメなことなのか?」  偽物が本物になれないなんて、誰が決めた。  切嗣の手が少し揺れる。問いに答えはなく、只終わりを告げる引き金が引かれ……。 「――投影、開始」  脳裏に浮かぶのは――あの日見た、弓兵の剣舞。  双剣を用いたその技が何故か、頭を過ぎった。  あの力が欲しい。あの美しき剣を、この手に。 (どうすれば良い。作るには)    創造の理念を鑑定し、基本となる骨子を想定し、構成された材質を複製し、製作に及ぶ技術を模倣し、両の手に二振りの剣が幻像を見せる。  だがダメだ。足りない、何かが足りない。  形を幾ら似せても、幾ら同じ材料を使っても、どれほど精密に組み上げても、あの輝きに届かない。  何が足りないのか。俺にになくて、アイツにあるもの。そんなものはいくらでもある、俺に届かないものなんて無数にある。  だが、それでもそこに手を伸ばすのなら――今必要なの、きっと経験なんてものではなく。 「――これが、足りない」  もう一歩、踏み込む。  魔力が電流のように魔術回路を駆け巡った。  成長に至る経験に共感し、蓄積された年月を再現し―――そこに、手が届く。 「あぁああああああああああ!」    裂帛の気合。空の手のまま、その両腕を振り下ろす。  ある、それは必ず此処にあると誰よりも、何よりも信じた。 「―――なっ!」  そうして一念、鬼神に通ず。  両の手に収まった双剣が、連続で放たれた銃弾を切り裂いた。  だが、それで役目を果たしたように双剣が砕ける。  さっきのは何かが甘かった、まだ踏み込みが甘かった。  ならばもう一度、今度こそ真に迫れ。  一度出来たのなら、もう一度出来ない方がありえない。 「……士郎!」  切嗣が叫んだ。同時に来る、銃撃の嵐。  その死神の群れに、全霊を以って踏み込んでいく。  再び双剣を投影し、切り裂いて、切り裂いて切り裂いて切り裂いて。  両の手の剣が勝手に動くような錯覚。銃弾が何処に来るか、何時どう振るえば弾けるか。  まるでそれは、幾千の戦いの記憶から導かれるように。  全てが戦神の目に映るように、弓兵の剣は淀みなく動いた。 「まさか……まさか、君がこれほどの」  切嗣が何か告げている。聞こえない、そんな余裕は俺にはない。  だがそこで、不意に銃撃が止まった。これが、最後の勝機だと直感する。 (やれる)  脳裏に思い描いた図がどのようなものかすら把握しないまま、俺は双剣を左右へと投擲した。   「――投影、開始ッ!」  踏み込め、踏み込め、踏み込め。  立ち止まるな、これは踏破しなければならない過去だ。 「憧れた、アンタに憧れたその心は」  決して越えられない壁なんかじゃない。  だから俺は最後の銃撃を正面から切り捨て、 「間違いなんかじゃないんだから!」  弧を描く四つの刃が、衛宮切嗣を貫いた。  * * * 「士郎……僕は子供の頃、正義の味方に憧れていた」 「なんだよそれ、憧れてたって諦めたのかよ」  その言い出しは、何時かの夜の再現だった。 「……うん、残念ならがね」  あの時は、正直切嗣の言っていることの半分も理解していなかった。 「正義の味方は期間限定でね、大人になると名乗るのが難しくなるんだ」  それがどれほどまでに難しいことか。どれほどまでに苦しい道か。 「そんな事、もっと早くに気がつけば良かった」 「―――そっか」  こうして切嗣ともう一度相対して、初めて分かった。 「それじゃあ、しょうがないな」 「……本当に、しょうがない」  だから、 「しょうがないから、俺が代わりになってやるよ」  もう一度、約束しよう。 「任せろって、爺さんの夢は――」  全てを受け入れて、それでも俺はもう一度繰り返そう。 「――ちゃんと形にしてやるからさ」  衛宮士郎は何時までも、その道を目指し歩いて行く。 「――――そうか……嗚呼、安心した」 「……爺さん、おやすみ」  奇しくも、今日は月の綺麗な夜だった &font(15pt){【士郎編、終了】} ---- [[一日目>初代リプレイ1]] - [[二日目>初代リプレイ2]] - [[三日目>初代リプレイ3]] - [[四日目>初代リプレイ4]] - [[五日目>初代リプレイ5]] - [[六日目‐1>初代リプレイ6]] - 六日目-2 - [[七日目>初代リプレイ7]] - [[八日目-1>初代リプレイ8]] - [[八日目-2>初代リプレイ8-2]] - [[三年後>初代リプレイ9]]

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