七代目リプレイ3

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――二日目、夜 学校――  帰宅後、買いだした食糧と学校の鞄を放り投げる。  服を着替え、それぞれに強化の魔術。刃物くらいは防いでくれるだろうけれど、それも気休めだ。  魔力を通しやすい生地で拵えたレザーグローブを装着。気が引き締まる。  夜は長い、先に夜飯を済ませようか、と、買い物袋を漁っていた所で、 「昨日と同じ場所で、戦闘が始まっているな」  アサシンはそんなことを呟いた。 「…本当?」 「おそらく」  使い魔を飛ばして…いや、そんな暇はない。  アサシンが本当だというからには、恐らく本当なのだろう。  彼の気配遮断は、言うなれば武の修練からなるものだ。  同じ理屈で、魔力の衝突とはまた別の戦闘の気配を感じ取っているのだろう。  脱ぎかけていたコートを翻し、玄関から飛び出す。  昨日と同じ場所、すなわち学園のグラウンド。  見聞きしたのか、と尋ねれば、感じたのだ、と返ってくる。  やっぱり英霊の感覚はよくわからない。 「――リン、報酬はたっぷり用意しておきな!」  それでも学園まで足を運べば、彼の言葉が当て推量ではなかったことが証明されてしまった。  ドヤ顔の侍は無視して、視覚と聴覚に強化の魔術をかける。 「うるさいわね! サーヴァントなんだから、黙って戦いなさい!」 「ケチケチすんじゃないよぉ!」  マスターは、赤いコートにツインテール。  焦りに表情が歪んでいるが、その所作は優雅なものだ。  遠坂凛。やはり聖杯戦争に参加していた。  けれど、その口調も立居振舞も、いつもより荒々しい。  やっぱりあの『優等生』は猫被りだったか。  威勢の良い声で叫んでいるのは、二丁拳銃を携えた女性のサーヴァント。  サービス精神が良いのか、胸元の大きく開かれたコートを身につけている。  顔には一文字の傷跡、セイバーとは違い、品性よりも剛健さを感じさせる。女海賊、といったところだろうか。  武器は見たところ拳銃だけのようだが、クラスはどれになるのだろう。 「アーチャーは、昨日の緑マントで間違いないし…」 「もっと気の利いた呼び名はなかったのか、マスター」 「――■■■ッ!!」  対するは、褐色の肌の大男。  人間とは思えないほどの巨躯が放つ咆哮は、強化した聴覚が張り裂けそうになるほどだ。  咆哮そのものが波動となって、百メートル以上も離れているこちらにまで押し寄せる。  突進と共に、構えるのは剣斧。  人間ほどの大きさもあるその岩塊を振り回し、遠坂勢を牽制している。 「デタラメじゃない、あんなの…」  独り言のように、遠坂が呟く。  そう、出鱈目だ。  遠坂のサーヴァントは連続して拳銃を放つ。  ただの拳銃じゃない。英霊が持つ武器というものは、少なからず神秘を宿している。  なれば、それが放つ弾丸は、当然防ぐべき攻撃。  それをバーサーカーは、防ごうとも避けようともしない。  ダメージは皆無。彼の肌は、銃弾を通さない。  「当たらない」のではなく、「当たっても効かない」のだから、この勝負は詰んでいる。  吠えた大男は、そのまま石斧を振り回して突っ込む。  あの理性のなさ、そして悪夢のような身体能力、恐らくは『狂化』を受けているのだろう。  ともすれば、クラスはバーサーカーか。 「ライダー、どうにか出来そう?」 「いいや、さっきから全然攻撃が通っちゃいないね。此方の火力が足りない、白兵戦じゃ勝ち目ないよ」  凛が悔しそうに唇を噛む。  ――なるほど、あの赤い英霊はライダーか。  本体の通常戦闘は火力難に悩まされやすいクラス。  ただし、宝具が桁外れのランクを誇る。  放てば勝負は動きそうだが、ライダーのクラスで現界する英霊の宝具は、範囲や威力を制御出来ないものばかりだ。  遠坂凛としても、冬木の市を焼け野原にしたくは無いのだろう。  結果、攻めに踏み切れないでいる。 「アッハッハッハ!! 良い様だな、遠坂!」  そんな背景を知らずか、さも全て自分の手柄のように誇る笑い声。  耳に残る、粘着質な。  その声に乾燥した海藻のような髪型、紛れもなく間桐慎二のもの。  しかし、と、私は首をひねる。  間桐は途絶えた魔術の家。その子息に魔術回路は存在しないはずだ。  ましてやサーヴァントのクラスはバーサーカー。魔力を食い潰す英霊を、どうして苦も無く限界させられる? 「……」 「どうする、マスター」  アサシンは既に霊体化を解いている。  いつでも行けるぞ、という意思表示か。  片や、冬木の管理人にして私の天敵。片や、正直興味の持てない小物。  強力な宝具を有するライダー、最凶のサーヴァントと名高いバーサーカー。  どちらが勝ち残っても、今後の展開には支障ない。  しかし、このままではどちらの手の内も読めずに、幕引きとなってしまうだろう。それは困る。  それに、  あんな小物に私の天敵が破れるなんて展開は、気に食わない。 「…ライダーを援護するわ。あのバーサーカーの情報を、少しでも多く手に入れたい」 「承知した」  待ってました、とばかりに飛び出すアサシンに続き、手に渾身の魔力を溜める。  藪を飛び出して、殴りかけるようにそれを撃ち出す。  放たれる電光、援護射撃は得意な方じゃないけど、それでもバーサーカーには命中した。  ダメージは望めなくとも、気を此方に向けるには十分。  暗い瞳が、ずるり、と此方を向いた。 「だ、誰だっ!?」  さっきまでの高慢さはどこへ行ったのか、真っ先に慌てだす間桐慎二。  場馴れしていないのだろう。やはり小物だ。  その陣営と対照的に、此方を睨みつける鋭い眼光。  隙あらば命を穿つその姿勢は、本物の魔術師の殺気。 「…アンタ」  攻撃の矛先が私に向く前に、口早に説明する。 「合理的な判断を、ライダーのマスター。このまま攻め続けて、勝ち目でもあるの?」  む、と、遠坂の顔が再三悔しげに歪む。  ライダーが宝具でも使用しない限り、消耗は目に見えていた展開だ。  けれども、二対一なら話は別。  彼女の判断は迅速で、実に魔術師らしい。 「私としても、あの狂戦士には早い段階で退場を願いたい」 「…良いわ。バーサーカーを倒すまで、休戦してあげる」 「理解が早くて助かるわ」 「へえ、色男じゃないか」 「一見して豪奢な花だが…その刹那的な生き方は嫌いじゃないな、ライダー」  サーヴァント同士は、相性が良いのか意気投合している。 「しかし…これはこれは、恐ろしいほどのもののふだな」 「言葉に説得力が無いね。随分と楽しそうじゃないか、あんたは」 「いやいや、恐ろしすぎて口元が引き攣っているのさ。では、」  刃を翻すアサシン、再び拳銃を抜くライダー。  東西の英霊が肩を並べる様は、まさに圧巻だ。  それも、あの怪物にどこまで通じるだろうか。 「――死合おうか」  消える影。閃く刃。爆ぜる火薬。  英霊同士の衝突は、まさに戦争だ。  突然と始まった戦の宴に、私もまた身を投じなければならない。 「…『前進を許さず』(ノックバック、オン)」  回路に灼熱の魔力を通し、焦がしていく。  掌の内に凝縮する、紫電の燐光。  握り潰して、拳を別次元の存在へと昇華させる。  見ている遠坂の目は、困惑と呆然。当然だろう、一般的な魔術の理とは一線を画すものだ。 「…アンタ、それどうすんの?」 「殴ってくる」  遠坂が指した拳を掲げ、私は飛び出した。 「殴っ、って、ちょ、」  背中に遠坂の叫ぶ声が届いた。  けれど、説明は後でいくらでもできる。  長刀を弾かれて後ずさるアサシンの背から、地面を這いずるようにして強襲。  眼前に迫る、石斧。  サーヴァント同士の戦いに突っ込んできたマスターなど、本来は良いカモなのだろう。  けれど、遅い。  アサシンの剣舞に比べて、理を失ったそれはただの暴力。  身を更に屈めて、地面を滑るように進む。  そのまま石斧の腹を殴り上げて軌道を反らし、その懐に。 「ふっ…!」  ガドン、と、抜けた衝突音とともに、バーサーカーの巨躯がわずかに揺らぐ。  弾けた魔力の衝撃は、拳銃など比にならないほどの威力のはず。  しかし、無傷。  まるで鋼鉄を殴っているような感覚、こちらの拳がおかしくなってしまいそうだ。とはいっても、 「…鉄板くらいの硬度なら、ブチ抜けるはずなんだけど」 「どちらがバーサーカーかわからないな――退け、マスター」  瞬時に脚力を強化してその場を離脱。  先程まで私が立っていた地面が、石斧の一撃で粉砕された。  向こうが一瞬でも怯んでくれていなければ、持っていかれただろう。  虫でも走っているかのように、背筋に怖気。  震えだしそうになる体中の筋肉に喝を入れる。  殺し合いをしているのだ、と、これ以上に無く実感する。 「何考えてんの!? アンタ、自殺志願者!? サーヴァント同士の争いに手を出すなんて…!」  立ち戻れば、魔術弾で援護していた遠坂から説教を受けた。  そんなこと言われたって、私にはこの拳しかないのだ。  魔術弾での援護だって、彼女の威力や精度に比べれば足元にも及ばない。  それに、これは私の性分だ。  ちまちました攻撃は、どうも割に合わない。  喜んでハイリスク、ばっちこいハイリターン。ノーペイン、ノーゲイン。 「は、ははっ…そんな攻撃が、バーサーカーに通じるかよ!」  おそらくはこの場で唯一、私の行為を理解していない人物が、高笑う。  魔術に素養のあるものなら、あの拳撃の危険性など見ただけで理解できるはずなのだけど。  しかし、自分に酔った似非マスターは、思いもよらない発言を零す。 「なんたってバーサーカーは、十二の試練を越えた英雄だからな!!」  『十二の試練』?  その言葉に、私と遠坂は目を合わせた。  あ、と、間桐慎二が口を押さえる。  私の知る限り、その言葉と結びつく英雄は一人しかいない。  それに、なるほど、彼ならば確かにバーサーカーとしての適性もあるだろう。  ギリシア神話にその名あり。  半神半人の豪傑、十二の功業を経て神の座まで上り詰めた大英雄。 「…へえ、まさかそのバーサーカーが」  遠坂が不敵な笑みを浮かべ、慎二を挑発する。  慎二は今にも爆発しそうなほどに頭に血を上らせているが、遠坂のソレは空笑いだ。 「べ、別に正体がわかったからって、ヘラクレスを倒せるワケじゃないだろ!」 「……」  その通り。  真名の攻略が、必ずしもその英霊の攻略に繋がるワケじゃない。  もちろん、彼の愚行の極みによって、私たちが闇雲に突っ込むという可能性は消えたけれど。  英霊同士にも、相性というものが存在する。  慎二が強調した『十二の試練』という単語が、おそらくあのバーサーカーの切り札なのだろう。  その逸話はおそらく、召喚に伴ってそのまま概念化している。それゆえの、あの耐久力だ。  ライダーの拳銃も、アサシンの太刀も、私の渾身の殴打でも。その鎧には傷一つ与えられない。  尋常じゃない耐久値なれば、取り得る選択肢は限られている。  バーサーカーの逸話の概念よりも上位種の攻撃力を誇る宝具か、もしくは耐久値を度外視してダメージを与える呪術の類か。  いずれにせよ、私たちが切れるカードには無い。  まあ、あくまで「バーサーカーを倒すなら」だけれど。  言い返せない此方側を見て、ややヒステリー気味に慎二が喚いた。 「ホラ、やれ! ブチ殺せ、バーサーカー!!」 「――■■■■ッッ!!!」  呼応して猛る狂戦士。  対してこちらは、旗色が悪い。 「…まずいわね」 「なに、面白い戦いではないか」  凛の呟きに、呑気に返すアサシン。 「此方が死なない限り、延々と戦い続けられる…これほど滾る死合い、滅多にない」 「――いえ、戦いは終わるわ」 「は?」 「間桐慎二を行動不能にすればいいでしょう。簡単じゃない」  呟いた私に、三人分の視線が突き刺さる。  なんだろう、おかしなことを言ったつもりはないのだけれど。  アサシンの視線は明らかに興醒め、ライダーは単純にビックリしている。  そして遠坂は、 「…それしかないわね」  苦々しげに、眉をしかめる。  まるでその手が悪手だが、他に選択肢が無いから仕方なく、と言わんばかりに。  あの手の男子は、彼女が最も苦手とするタイプだと思っていたのだが、躊躇いでもあるのだろうか。  それでも、歴代の聖杯戦争でバーサーカーを呼びだした組の敗因は、いずれもマスター側の魔力の枯渇だった。  どれほど強力なサーヴァントでも、依り代を失って限界し続けることは不可能。  特に燃費の悪いバーサーカーは、マスターからの魔力供給無しには存在できない。  先程から得意げに馬鹿笑いしているあの海藻男こそ、バーサーカーにとって最大の弱点。 「…別に殺すわけじゃない。ちょっと痛い目をみてもらうけど」 「ええ…お願い」  念を押したが、凛は表情を変えない。  が、やることは一緒だ。  そう、別に殺すわけじゃない。  手加減はしないけど。 「ライダー、バーサーカーを撹乱しなさい!」 「…アサシン、ライダーの援護を」  飛び出す三つの影。  遠坂の援護弾幕を背に受け、先駆けはライダー。  背後の虚空から砲門を生み出した――彼女の宝具の一端か?  ライダー陣営の一斉掃射、二倍になった弾幕を縫う影、アサシンは長太刀で足を狙う。  効かないとは言っても、その巨人を足止めするにはそれで十分だ。  ああ、十分だとも。 「ひっ……!」  だらしなく悲鳴を上げた慎二の元に、強化した脚力で辿り着くまで二秒半。  一度だけ振るわれた石斧も、二人の英霊に阻まれながらでは、私には追いつけない。 「何やってんだよ、バーサーカー!」 「うるっさい…!」  頭蓋から右腕に駆け抜ける紫電。  口煩い相手を黙らせるには、拳骨が一番だと昔から相場で決まっている。  ヘラクレス用に強化したままだったが、構うものか。  魔術の素人だろうが、クラスメイトだろうが、そんな場違いな言い訳で此方が許すとは努々思うな。  聖杯戦争に参加したのであれば、私たちを殺すとまで吐き捨てたのであれば、  ――そのくらいの覚悟は見せて、逝きなさい  振り抜いた拳、めり込む肉の感触。  喋る途中のその顎を、横から殴り飛ばす。 「げ、ぶゅっ……!!」  潰されたカエルのような、醜い鳴き声。いや、肉の潰れる音だったかもしれない。  衛宮士郎を殴った時とは異なる、確かな手応え、吹き飛ぶ男子生徒の体。  放物線を描き、地面に落ちてなお、勢いを失わずにバウンド。  そのまま派手に土煙を上げて転がる、間桐慎二『だったもの』。  二、三度ばかりヒクヒクと痙攣していたが、やがて意識を失ったのか、動かなくなった。  死んではいない。…たぶん。  魔術障壁すら展開しなかった。やはりこちらも素人か。  まあ、対サーヴァント用にまで魔力を込めた拳を、絶えた魔術家の子孫が防げるとも思わなかったけれど。  でも、これでバーサーカーは、 「――夏奈っ!!」  下の名を呼んだのは、遠坂の声。  両親と魔術の師以外に、私を下の名前で呼ぶ人間はいないはずだ。  それで事態の異常に気付けなければ、そこで私の聖杯戦争は、いや、生命ごと終わっていただろう。  条件反射で動いた私の体の選択は、『避ける』ではなく『殴る』。  振り向き様に当てもなく、ただ拳を振るう。  衝撃で弾き飛ばされたのは、神秘を宿した岩塊。  ゴ、と腕が弾かれて、爆風を体に叩きつけられる。 「~~~ッ…!!」  冷や汗。  一秒でも遅ければ、この体は■■されていた。  対峙した時のプレッシャーは、人間では比にならない。  当たり前だ、眼前に立つのは、神代を生き抜いた半神の英雄ヘラクレス。 「――■■■■ッ!!!」  弾いた反動を利用して、再び石斧が振り下ろされる。  理性を失った鈍重な一撃、避けるのも容易い、それをわかっていても足が竦む。 「解せぬな…何故、マスターを失ってそこまで動ける?」 「アサシン…っ」  石斧を弾く長太刀。防ぐとはいかずとも、その軌道は歪み、目標である私の右足元に叩きつけられる。  強化、強化、強化――離脱!  一刻も早く、あの■■■から逃げなければ、この体は■■――思考が、間に合わない。  遅れて援護に入ったアサシンの言葉は、私の疑問を代弁していた。  慎二に与えたダメージは深刻なものだ。  命を取らないと約束はしたが、しばらくは意識を取り戻せないはず。  即刻とは言わずとも、バーサーカーのクラスなら魔力の供給不足で消滅するのが道理。 「…慎二はマスターじゃない」  呟いた遠坂。  その声音は、自分で吐いた言葉すら信じられない、そう言っていた。 「そうだったのね…間桐…!!」 「…よくわからないけれど、バーサーカーはまだ負けていない、という解釈で良いの?」  十分な距離を取って、激昂に震える遠坂に尋ねれば、それでも頷きが返ってきた。  ともなれば、拙い。  唯一の弱点であるマスターが、弱点ではなかった。いや、マスターではなかった、というべきか。  正規のマスターが、どこか別の場所に存在する。もしかしたら、此方の動きを監視していたかもしれない。  拙いことだらけだ。  その中でも一番は、私たちが結局現状でバーサーカーを倒す手段を持たないということ。  ライダーの宝具なら或いは、とも考える。  彼女の真名は定かではないが、ライダーとして現界している以上は強力な宝具を有しているはず。  しかし、私がそれを遠坂に頼むことは出来ない。  こちらの払う代価も無しに、無条件に向こうの切り札を使わせるなんて都合のいい話はない。 「…撤退しましょう」  詰みだ。敗北を認めるしかない。  悔しいけれど、今の私たちではあの大英雄――いや、怪物を倒すことは出来ない。  遠坂は唇を噛んで、何かを堪えている。  その感情を私が推し測ることは出来ない。  ただ、だからと彼女を見捨てて、独り逃げ去る気にもなれなかった。 「……わかった」  握りしめた拳から、血が滲んでいる。  余程の怒りか、そして誰へ宛てたものか。  それでも自分を律してくれた彼女の自制心に感謝し、私は先に校門へと駆け抜ける。  追ってくる様子は無い。  ただ既に焼き切れた理性が、獣の咆哮を上げていた。

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