十三代目リプレイ1

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1日目 朝、目を覚ました俺が迎えたのは知らない天井だった 本家の城とは違う、この国にあるアインツベルンの拠点 俺は聖杯戦争の為に、この日本の冬木という都市に来たのだ 時差惚けだろうか…少しの間とは言え、意識が混濁していたようだ 俺は、ベッドのそばにある机から無造作に手を伸ばして眼鏡を手に取る カーテンを開くと、太陽の日差しが刺さる 自国とは違う温かさがある しばらく光を浴びていると、コンコンと控えめにドアを叩く音が聞こえる 叩き方から察するに、セラであろう 俺は、『セイバー』だけでなく、 イリヤと、その付き人としてセラ、リズを連れてきている セラ「お食事の準備が整いました」 相変わらず、真面目な奴だ 俺は苦笑しながらも、生返事を返すと リズ「美味しいごはん、できた」 リズ「ほっぺおちるかも、私に惚れるなよ、べいびー」 無機質で間の抜けた、でも気持ちを和やかにしてくれる声も聞こえてきた 部屋の外からは、セラの他にもリズいるようだ あまりイリヤを待たせるのも悪いだろう 身支度を整えた俺はドアを開け、食卓へと向かった イリヤ「もうー!お兄様おっそーい!」 セイバー「王を待たすとは、そなた良い身分だな」 俺は、二人に軽く謝罪して席に腰かける 長広いテーブルに3人では寂しいので、セラとリズも食事には同伴させている セラは、従者が主と同じ席に座るなんて…と、不満に感じていたみたいが 俺は、生まれは良いが育ちは良くないし、食事は多い方が楽しい それにしてもだ イリヤはともかく、サーヴァントの『セイバー』にまで文句を言われるのは複雑である だが反論できない 何故なら、一度本家を経つ前に『セイバー』に食事について聞いたところ セイバー「マスターからの魔力供給だけでは心許ない」 ばっさりと言われた そう言われてしまうと俺からは何も言えない しかし…まさか、魔術師としての素質の低さが エンゲル係数の上昇に関わるなんて、誰が予想出来ようものか そんな喧噪の中で朝食を取りながら 俺は今日の予定について話し始める 新都に偵察に出る予定だ だが、懸念事項が1つだけある 『セイバー』は、霊体化が出来ないのだ 霊化できない『セイバー』と共に行動を起こしていれば 他陣営に情報を無償で提供しているようなものだ どうしたものかと、考えるとふとイリヤとのやり取りを思い出す 飛行機に乗っている時、俺はイリヤから日本の街を見たいとお願いを受けていた 可愛い妹分であるイリヤの願いだ それに他国の街を見るというのも、いい経験になるだろう 「昼はイリヤと街に出ようと思うんだが…」 言い終わる前に、セラがすぐさま反論した セラ「危険です、考え直してくださいませんか?」 丁寧な口調だが、恐ろしく冷たい視線が俺を突き刺す 俺は、涼しい顔をしているが内心たじろぐ だが、イリヤの為にも引く事は出来ない でも怖いものは怖い イリヤ「良いじゃない、私だって街にお出かけしたいもの!」 イリヤが頬を膨らませながらセラに文句を言う イリヤ「お兄様と一緒だから大丈夫」 あっかんべーと俺の腰にしがみ付き、セラと向かい合って舌を出すイリヤ セラの表情は更に厳しいものとなった セラの言い分はわかる昼間はご法度とは言え今は戦争中なのだ 俺の様なマスターがいれば、絶好の獲物だ 俺の様な…一瞬だけあの男の顔が脳裏に浮かぶ 奴は、此の聖杯戦争に参加しているのだろうか… もし…参加しているなら…! イリヤ「…お兄様?どこか具合悪いの?」 イリヤが心配そうに俺を見ていた どうやら怖い顔をしていたみたいだ 気付けば、セラも厳しいものから、困惑した表情に替えていた 大丈夫、と俺はイリヤの頭を優しくなでた なら、セイバーも同行させよう 俺は、セラに提案する勿論危険と判断すれば、令呪を使ってでも逃がすつもりだ セラ「…それでは、お嬢様までマスターである可能性があると狙われかねませんよ?」 セラが言う事は尤もだ 確かにソレは危険が付きまとう だが、これで『セイバー』と堂々と偵察に出せる そうすれば、敵陣営に勘違いを起こさせることが出来るだろう アインツベルンのマスターは、少女 その思い込みをさせるだけで、充分だ そうすれば、俺も独自に行動しやすくなる それに… 「イリヤは全力で俺が守る、必ずな」 リズ「大丈夫、あぶなくなったら、助けにいく」 リズは無表情だが大きい胸をドンッと構えている 「あぁ、期待しているよリズ」 はぁ、と小さな溜息がセラから聞こえたような気がする 「イリヤを連れていくのは、今日1日だけだから頼むよ、セラ」 全く異なった反応を示す二人に対して俺は口元が緩んでしまう それを見たセラは、また厳しい視線をこちらに向けた セイバー「話は付いたようだな、では行くとしよう」 待ちかねたのかセイバーは不機嫌そうにこちらを一瞥すると外へと駆りだした やれやれ… 俺はイリヤと手を繋いでセイバーを追いかけた 俺は車を出して新都へと向かった そこで、俺達は繁華街を歩いていく ただ、予想通りではあるが、少々予想外の出来事が起こった 予想どおりな事は目立っている事だ ゴシック調の黒いドレスを着た『セイバー』と その横で、はしゃぎまわる銀髪赤眼の少女、イリヤ まるで、おとぎ話で出てくるお姫様を そのまま切り取ったような二人が街を歩いていれば それだけで注目の的になる 一方で、予想外のことも起きている それは…何故だかわからないが 俺にも注目が浴びるのだ、主に女性に イケテルやら、カッコイイやら聞こえてくる 日本語に精通しない俺ではその意味が解らない イリヤや『セイバー』と比べたら俺なんて路傍の石ころだろうに… 日本人の感性とはよくわからない だが、それでいいかもしれない 目立てば目立つほど俺達の存在に気付き、勘違いしてくれるかもしれない 街を歩き続けていると、イリヤのお腹の中から可愛らしい音がした イリヤ「お兄様…お腹空いた」 そろそろお昼時かどこか店に入ってみようか… 俺はどの店にしようかと見回ると、お好み焼きという看板に目が止まる 「ここに入ろうか」 俺はイリヤとセイバーを連れてこの店で昼食を取ることにした 店の中は、和を感じさせる日本建築 俺達は畳がひかれた座敷というところに案内された イリヤは俺の隣に、『セイバー』は俺の対面に、それぞれ腰を下ろす 店の中では、客達が遠巻きに俺達の座敷を覗いていた 店内の雰囲気と合わさって、俺達3人はとても浮いている 確かに、傍目から見たら観光に来た外国人だろう 状況的には当たらずとも遠からず、なんだがな しかし、お好み焼きというものがなんなのか全く見当がつかない 俺は英語で店員を呼び、適当に3人分の食事を注文した 机にある器具や、品物の写真、他の客の料理から察すると テーブルの中央に鉄板で調理し、食べるといったスタイルらしい イリヤにこんなはしたない真似をさせた、と知られればセラから何を言われることやら… あの蔑むような視線を想像しただけで背筋が凍った 俺達の家庭教師は恐ろしい… そんな事を考えると、『セイバー』から視線を感じた セイバー「……マスター、何故3人前なのだ」 はて、此処に居るのは3人だが 俺は、首をかしげていると、イリヤはクスクスと笑っていた イリヤ「魔術師の思考ではないわねお兄様は」 イリヤ「でも、それでこそお兄様なんだけれど」 『セイバー』は訝しげに俺とイリヤの顔を眺め、お好み焼きを口にした セイバーはゆっくりと咀嚼を繰り返して喉に通した もっきゅもっきゅという擬音が聞こえたような気がするが、気のせいだろう セイバー「……気に入った、もっと献上するが良い」 どうやら『セイバー』はお好み焼きを気に入ったようだ 俺とイリヤは、そんな『セイバー』の姿に笑みを浮かべながらお好み焼きを食べ始めた 食事中だからだろうか ふと『セイバー』から今までと違う雰囲気を感じた 言葉では表現しにくいが、セイバーが纏う雰囲気が優しくなったというものだろうか まぁ、害が無ければ気にする事はないだろう こうして昼食を終えた俺は、再び街を散策し夕方を迎えたのだった 城に戻ると、セラが俺達の帰りを待っていた セラ「おかえりなさいませ、お嬢様、旦那様」 はぁ、と俺は溜息を付く 何故か、セラは俺を旦那様と呼ぶ 俺にとってその呼び方は、どうにもむず痒いのだ 俺はそんな偉い人間ではない そんな事を言っても埒が明かないので 成果はなかった、と俺はセラに告げた セラ「…初日ですので、仕方ないかと」 だが、初日から出遅れる訳にはいかない 街の構造をしっかりと頭に描く為にも、俺は再度探索へ向かうことにした 俺一人では有事の際に手が足りないだろう もう一人、サポートとしてリズを連れることにした リズならば戦闘に問題はない 彼女はホムンクルスとしての戦闘力は遥かに高い 短時間であればサーヴァントとも渡り合えるくらいだ セイバーを置いたのも、探索にサーヴァントの気配を漂わせれば逆探知されかねない ならば、拠点の守りを担当すれば危険も少ない セイバー「そなた…サーヴァントである私を置いていくつもりか?」 セイバーから不満の声が聞こえる 俺は首を縦に振った 「今回は我慢してくれ、城の守りは任せたぞ」 俺達にとっての有意性は、離れたところに拠点があることなのだから 拠点が無事なら、俺達は自由に行動が出来る そうして、俺はバイクに跨り、リズと共に夜の街を疾走した 俺は、深山町へと向かっている あの一帯は霊脈が豊富にあり、また残りの御三家である遠坂、間桐がある 警戒するに十分値する両家だからこそ、早い段階で情報を集めたい 深山町へとたどり着くと、直ぐに強力な魔力の気配を感じた 異色な魔力のぶつかり合いその衝撃が、響くように伝わってくる サーヴァントによる戦闘… リズも感じ取ったのだろう警戒を強めていた リズ「……どうするの?」 これは好機だ サーヴァントと、あわよくばマスターの視認が出来るかもしれない もし、どちらかが宝具を出すか、脱落してくれれば儲けものだ 俺は、リズと共に気配を殺しながら戦闘が行われる場所へと向かった 着いた先は、間桐の家の前 初手で御三家を攻めるとは… 随分と落ち着かないマスターもいたものだ そこには、人の形はとっているがケタ外れの魔力を宿している者たちの姿が見えた 一人は双槍を構える戦士 もう一人は緑の衣装を見に纏った男 装備を見るかぎり『ランサー』と『アーチャー』だろう もう少し、近づかないとステータス等の判別は難しいか… ランサー「……我が主のため、此処で落ちて貰うぞ」 アーチャー「やれやれ、真っ向勝負なんて柄じゃねぇが…」 『ランサー』の方のマスターは確認できないが『アーチャー』の後ろに控える女性 あれは『アーチャー』のマスターだろう 奇襲や狙撃に適した『アーチャー』を真っ向から戦わせ 更にマスター自身まで表に出るとは 随分と無防備だ…誘っているのか? それに、『アーチャー』のクラス別スキルである『単独行動』は危険だ マスターの供給なしに現界されるのは厄介である ならば、此処は誘いに乗るべきか 『アーチャー』の相手は、『ランサー』が受け持っている こちらはお望み通り、露出されているマスターを狙えばいい 俺は、リズに待機を命じると、『ランサー』の援護を行うべくホルスターから拳銃を抜き出した H&KUSPモデルH&K社が開発した最新モデルだ 口径は.45ACP弾使用できるようにカスタマイズしてある サプレッサーを愛用する俺には相性が良く、対人殺傷力も優れているからだ だが、それだけじゃない 俺は息を大きく吐いて覚悟を決めると 物陰から『アーチャー』のマスターへの狙撃を企てる 右手で銃を構えながら、空いている手で胸ポケットからサプレッサーを取りだす ただのサプレッサーじゃない バレルの内側には加速の刻印を隅々へと移植してある 俺が幅広く覚えた魔術の一つ 単純な加速の術式 弾丸を加速させるだけただそれだけだ しかし、拳銃クラスでは想定しきれない速度で放たれる銃弾は、脅威でしかない 魔術師としての誇りを捨てるだけで、単純な術式でさえ強力な攻撃力を得られる 銃弾も加速に耐えられるようにしてある特別製だ 狙いは心臓 『アーチャー』のマスターは、探知どころか、障壁さえ張ろうとしない まさか…魔術師ではないのか? 聖杯が魔術師以外を選ぶとは… イレギュラーでも起きているのか…? いや、そんなことは俺には関係ない 好都合だ、さっさと殺してやる――― 俺は両手で銃を構えて『アーチャー』のマスターへとトリガーを引いた 弾丸が弾かれる、加速刻印が掘られたバレルから魔力が迸る 銃口から放たれた弾丸は、亜音速を超える‘魔弾’へと変わり敵を襲う アーチャー「……ッ!マスター!」 人間では避ける事が不可能な銃弾、しかし『アーチャー』は反応してみせた 『アーチャー』が軽くマスターを押し出す その行動のおかげか、心臓を狙っていた銃弾はマスターの右腕をかする程度だった だがマスターらしい女の腕からはどっと血が溢れ出す これは、加速による作用だ 弾丸に錬金を施して 加速に耐えられるようにしたが、その分脆くなる 一度接触を起こせば弾丸は炸裂してしまう 炸裂した弾丸は、充分な加速を持って拡散する 点から面への変化 結果、『アーチャー』のマスターは予想以上に負傷している だが、俺は眉を顰めた 原因は、『ランサー』だ マスターを庇った瞬間、隙だらけの『アーチャー』に対して何も行わなかった それどころか、『ランサー』はこちらに冷ややかな視線を送ってきている 出てこなければ、身を隠している壁ごと槍で貫きそうだ 俺は、リズにアイコンタクトを送り、拳銃を構え戦場に飛び出した 戦況が不明確な以上、切り札であるリズをまだ出すべきではない サーヴァントに対抗できるとは思わないが保険は掛けておこう 俺は袖口に仕込んである銀の針金に魔力を通す これは、俺のもう一つの武器 アインツベルンの錬金術である「形質操作」を利用し、 針金を思うがままの形に替える事が出来る しかし、俺の素質では複雑な「形質操作」と「疑似生命の創出」を合わせた 高度な魔術は行使できない、精々単純な形…ナイフか、弾力を持った縄にするだけ だが、俺にはそれで充分だ 針金へ魔力が行き渡ったのを確認し、 再び銃口を『アーチャー』のマスターへと向けた ランサー「…名も知らぬ魔術師よ、私は援護を頼んだ覚えはない」 『ランサー』は俺を睨みつける どうやら『ランサー』は、俺の援護がお気に召さなかったようだ しかし、槍が向かうのは『アーチャー』 遠くからマスターが指示を出しているのか… なら都合がいい、こちらは自分の仕事をするだけだ 俺は敵マスターへと銃を撃つ 高速で疾走する弾丸 だが『アーチャー』はソレを軽々と回避し、距離を取って逃走を図る だが、逃げられない『ランサー』の槍は捉えている 背を見せれば、一瞬で串刺しにするだろう アレはそれほどの戦士だ マスターを庇う『アーチャー』に勝ち目はもう無い 状況を確認して俺は一息吸うと拳銃を構えたまま、様子を伺う こちらの優勢が揺るがない今、無理に攻撃に行くことはない 勝ちを焦った時こそ、一番の油断が生じるのだ それに、相手は英霊 人間が適う相手じゃない幾重にも策をめぐらし 奇を衒ってようやく対等になれるのだ 奇襲で敵を仕留める事が出来なければ余計な事は出来ない 一瞬の均衡それを崩したのは『ランサー』だった 片手で操る黄の短槍が『アーチャー』へと突き出される 俺は、それを援護するように、引き金を引く狙いはマスターだ マスターを庇う『アーチャー』の選択肢など一つしかない アーチャー「……畜生」 アーチャー「クソ、……マスター庇って死ぬとか、騎士じゃあるまいし、柄でもない」 案の定、『アーチャー』が選択したのは俺が放った銃弾からマスターを守る事 結果は言わずもがな黄の短槍は『アーチャー』の胸に突き刺さった ランサー「………すまない」 アーチャー「本当にそう思ってんなら、マスターには手を出すんじゃねぇぞ……」 それだけを言い残すと、『アーチャー』はその場から姿を消した 戦場に残ったのは俺と、『アーチャー』のマスター、『ランサー』の三人だけ 『アーチャー』のマスターを見る 怪我の具合から、直に出血多量で死ぬだろう 苦しみが長いなら、今楽にしてやる 俺は、『アーチャー』のマスターの頭に銃口を向ける だが、『ランサー』は『アーチャー』のマスターと俺の間に立ち、槍を構える ランサー「……生きて帰れると思うな、この外道が」 …ハッ、これだから英霊サマは… 戦場でカビ臭い騎士道なんて出しやがって 戦いに、正道も、邪道も、外道もあるもんか あるのは、結果だけ生きるか死ぬかだ そんなことだから、碌な死に方しか出来ないのさ、英雄サン――― そう思ってはいられないが、状況としては良くない サーヴァントの、それも三騎士のランサーがこちらに槍を向けている 人間が戦闘機に挑むようなものだ はっきり言って何も出来やしない 俺は一度息を漏らすと、すぐさま『ランサー』へとトリガーを引く ランサー「そんな攻撃が通用すると思ったか!」 それは『ランサー』の構える紅の槍によって軽々と防がれる 初めから通用するなど思ってはいない だが、一瞬だけ槍の矛先は、俺から銃弾へと代わっていた この一瞬の隙が欲しかった 俺は、右手の甲にある令呪に願いを込める 令呪は、俺の願いを叶えるべく赤い光を強く、より強く放つ 銃弾を防いだランサーは再び俺へと槍を突き付ける 遅せぇよ 「令呪を持って命ずる―――来い、『セイバー』ッ!」 目前へと迫る紅槍だが、寸でのところで何かに弾き返される たった一瞬で現れた『セイバー』 周りには黒い魔力が暴風のように吹き荒れる 昼間来ていたドレスではなく、 始めてみた時と同じ魔力で編まれた漆黒の戦装束 槍を弾き返した『セイバー』は 黒い聖剣を軽く構え直して『ランサー』へと向けた 『セイバー』はこちらを見ようとはしないだが冷やかに一言 セイバー「だから、私は言っただろう」 そう呟いた 「すまない『セイバー』」 「だが極上の獲物を用意してやった」 俺は、一言返して、『セイバー』へと攻撃を命じた 『セイバー』は、フンッと軽く鼻を鳴らして『ランサー』へと突撃する セイバー「征くぞ、マスター」 袈裟懸けに斬り落とす『セイバー』の一撃 魔力放出によって放たれるソレは、幾多の城砦を破った竜の息吹 対する『ランサー』の槍捌きもまた、見事である 黄の短槍で『セイバー』の剣劇を悉く受け流し 長さのある紅槍を使い、剣の間合いに入れさせない 人間では、到底為しえない技と力 まさしく、俺が今見ているのは神話の再現 だが、俺には関係ない、そんなものに感動など持たない 俺は再び、拳銃に狙いを定める 『セイバー』と十字を切るようにして動き、援護する 魔力によって強化された銃弾では、『ランサー』の持つ対魔力の前では効き目は薄い だが、それでいいこちらは一瞬の隙さえ付ければ構わない その為に残弾を吐ききるまで引鉄を弾き続ける ランサー「……クッ、貴様ほどの剣士が何故!」 『セイバー』と『ランサー』互いの獲物が交差し打ち合う 俺の援護と、暴力とも云える威力を誇る『セイバー』の剣によって 攻め続けられる『ランサー』は劣勢を強いられている セイバーの一撃一撃が『ランサー』を揺さぶっていく だが、これで終わってくれる『ランサー』では無かった 一歩、『ランサー』は後方へ跳躍、すぐさま体勢を立て直す ランサー「次は、こちらから行くぞ!」 二本の槍を縦横無尽に乱舞する どちらの槍も虚を見せない 暴風のように繰り出す『セイバー』の斬鉄 それを掻い潜るような槍捌きは、徐々に『セイバー』を追い詰めていく 俺は急ぎ次弾を装填し、援護射撃を行うが『ランサー』を追い切れず隙一つ作れない これ以上戦闘が長引けば、更なる介入を許すことになるかもしれない 徐々に、脳裏から勝利への焦りが生まれてくる 対城宝具を持つ『セイバー』なら一撃で葬れるか…? 為らばと、俺は『セイバー』へ宝具の使用を命じる セイバー「……クッ、任せよ!」 『セイバー』は大きく、剣を振り上げ槍を弾く その隙に、剣に魔力を流し込み―― ランサー「甘いぞ『セイバー』ッ!」 だが、『ランサー』は直ぐ様体勢を立て直すと その双槍を『セイバー』へと突き出す 宝具を使用には若干の矯めが必要であった その隙を逃す『ランサー』では無かった 双槍の一つである紅い槍が、無防備になった腹部を狙う 違う 『セイバー』は、わざと堅牢な鎧で固められた腹部を無防備にした 鎧で弾いた後に、返す刃で『ランサー』を斬る 宝具から出来た隙さえも利用する『セイバー』 だが、その目論みはランサーの【宝具】の前には無意味だった 『セイバー』の体勢が崩れる セイバー「……ッ!」 『セイバー』の顔が苦痛で歪む 腹部には槍の切っ先で斬られ、血が滲んでいた 馬鹿な…!あの堅牢な鎧が撃ち抜かれるなんて…!? あの紅い槍には防御を無効にする呪い、 若しくは魔力を打ち消す加護があるのかもしれない これで、『セイバー』の鎧は意味のないものと同じか… 『セイバー』は一歩下がり、剣を構え直す 俺は、それに合わせて弾幕を張っていく 『ランサー』は双槍を構え、にじり寄って来るがなんとか体勢を立て直した …長い戦闘と宝具を使用しようとしたせいか、俺の魔力量に底が見え始める それを感じ取ったか『セイバー』の顔にも翳りが見える セイバー「どうする、マスター」 『セイバー』が俺の目を見る こうして目を合わせるのは初めて召喚された時であろうか 俺は、『セイバー』の目に映る自分の姿を見た ただ、自分の無力に怯えるような ただ、状況に流されているような ただ、魔術師であるかのような そう、その姿はまるで、十年以上前の無力な卑屈な自分だった …馬鹿か俺は 聖杯戦争のマスターに選ばれたからって 最優の『セイバー』を引き当てたからって 自分が高名な魔術師にでもなったつもりか…! 自分がアインツベルンの誇りでも負っているつもりか…! 俺は、ただの魔術使いだろ 魔術は敵を倒す為の道具 何を今更、魔術師ぶっていやがる…! 俺は、左手で自分の顔を隠し、思考を展開する 第一、戦況分析 彼我の戦力差は互角 否、此方の魔力不足が懸念 戦術は短期決戦が有効 第二、戦力確認 『セイバー』 消耗率は2割程度 H&KUSP自動小銃 状態は万全、弾倉確認…残り二弾丸数24発 銀針金 魔力不足により「形質操作」を行える回数2回 リーゼリット 消耗率は無、万全の行使が可能 だが、第三勢力介入が懸念 この場での使用は推奨されない 状況分析・確認を完了 戦術行動へと移行する――― 俺は、ラインから『セイバー』へと指示を送る 俺が一瞬の隙を作る、だから…勝て、セイバー …信じるぞ、マスター 俺は、『セイバー』とともに攻勢に出た 短期決戦で片をつけるしかない 『ランサー』には、銃の存在を知られている銃弾での虚は付けないだろう 俺は針金に魔力を流し、ナイフを形作りランサーへと走り出す 残り少ない俺の魔力だ、持っていけ! 俺は渾身の力と魔力を籠めて、投擲 突撃かと槍を構えていた『ランサー』が一瞬、虚を突かれたように槍の先を揺らす だが、いくら渾身の力を籠めたとはいえ 人の身である俺の投擲など『ランサー』には意も介さない ランサー「決闘の邪魔をするな、外道が!」 すぐに短槍を用いてナイフを弾こうとする それが狙い 弾く瞬間ナイフは針金へと戻り、再び編み上げられる 巻き付いた針金はそのまま楔となって地面を縫いつける 英霊ならば軽く弾きぬける程度の拘束 だが、剣の英霊たる『セイバー』の前では決定的な隙 英霊同士の対決おいて、一瞬埋められぬ、見せてはならぬ一瞬…! セイバー「―――甘いぞ、『ランサー』ッ!」 主が身を挺して作りだした一瞬、『セイバー』はその剣で応える 振り下ろされた黒き聖剣は『ランサー』の肩を斬り裂き、その体を地面へと叩きつける 『セイバー』は無慈悲に『ランサー』を踏みつけ、有無を言わさず首を刎ねた そのまま、『ランサー』は消えていく 終わった…俺の魔力はもう空だ 瞼が重い…このままでは直に意識を失くしてしまうだろう 体の力が抜けて、体勢を崩すそのまま地面に倒れるかと思うと、 地面とは違う、冷たい感触が俺の頬に伝わる 徐々に閉じていく視界の中に映るのは黒い鎧だった セイバー「…認めてやってもいい」 そんな声がしたような気がする 俺は、それを確認することなく、重い瞼をゆっくりと閉じた 【1日目、終了】 Side ??? 仄暗い一室 そこには、ローブを付けた女と、草臥れたコートを着た男がいた ???「戦闘が終わったみたいね」 女が見ている水晶からは、先ほどの戦闘の一部始終が映しだされていた 男は無言でそれを眺めている ???「使い魔にカメラを付けるなんて、貴方変わった魔術師ね」 女からの問いに、ようやく男は口を開いた ???「魔術師はこういったものに疎いからね、対策を怠るものさ」 魔術師は、魔術が至上と驕る、その驕りが付け入る隙になる そうして、男は幾多の魔術師を葬ってきたのだ 水晶を覗く男の眼に映るのは、白髪の魔術師 銃とナイフを使い、サーヴァントと立ちまわる姿は、何時かの情景を思い出す まさかね…彼はあの子と一緒にいるはず… ???「キャスター」 男は、女―――キャスターを呼ぶと指示を与えた ???「郊外の森の近くに更に使い魔を送ってくれ」 ???「ただし森には入れるな、あの森の探知結界は優秀だ」 キャスターはそれに頷き、使い魔を製作すると郊外の森へと飛ばしていく 男は目を瞑る、まるで祈るかのようだ 願わくば、彼らがいない事を切に祈ると――― END Side Caster

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