五代目リプレイ4


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――四日目、朝――



 居間に伏している士郎の顔色から、珍しく彼が疲れきっていることを理解した。


「…セイバーが此処まで頑固者だとは思わなかった」
「こちらの台詞です、シロウ」

 居間では、鎧姿のまま、セイバーが緑茶を啜っている。
 こちらに気付いたセイバーは、恭しく頭を下げる。

「おはようございます、五鈴」
「ええ、おはよう…セイバー、霊体化しないの?」
 とりあえず、真っ先に感じた違和感を口に出してみる。
 士郎が疲れているというのなら、それが原因じゃないだろうか。

 英霊の現界は、常に魔力を消費する。
 基本的にはそれは、マスターの負担にならない程度に留まるはずだ。
 それでも、もしセイバーが、存在するだけで膨大な魔力を食い散らかすような凄まじい英霊なら、得心も着くのだが。

「霊体化は、出来ません」

 出来ないとは、と尋ねようとしたところ、機嫌の悪い士郎の声が遮る。

「…だからって、その鎧姿のまま俺の枕元に立つんだ…軽いホラーだよ」
「何を言うのですか。マスターを守るのはサーヴァントの務めです」
「ていうか女の子が、仮にも男の寝室に気軽に入っちゃダメだろ」
「シロウ、それは私に対する侮辱だ。私は女である前に一人の武人、そして英霊です」

 先程から不仲の理由はそれか、と、私は納得した。
 似た者同士というのは、相性が良いんだか悪いんだか。
 どちらも相手のことを思っているが故に衝突している様は、少し微笑ましくもある。

「…とりあえずセイバー、着替えましょう」
「着替え…ですか」
「その鎧は魔力によるものでしょう? 常に身につけていては魔力がもったいないわ」


 セイバーからの要求は、ただ一つ。動きやすい服であること、だった。
 士郎の服では大きすぎるし、私の服でも丈が余るだろう。

 買いに行くまで我慢しようかとも考え、駄目元という名の最後の望みを掛けて、父の遺品を詰めた押し入れに足を伸ばして、
 酷くずさんに放置されたスーツを見つけた。


「はい、これが良い。動きやすく、気が引き締まります」

 スーツを身に付けたセイバーの感想は、その一言に集約されていた。
 満足しているのは、表情で分かる。

 男装の麗人、と言うべきだろうか。
 編んでいた髪を降ろし、後ろで一本に束ねた姿は、いっそ格好良い。
 胸が小さ…スレンダーな体系と言うこともあって、男物のスーツはピッタリだった。

「けれど、何で爺さんはそんな小さなスーツを残していたんだ?」

 確かに、言われてみれば。
 父である切嗣自身が着るには小さすぎる。

 切嗣、と名を出すと、セイバーは苦々しげに顔をしかめた。

「エミヤ、キリツグ…」
「爺さんを知っているのか、セイバー?」

 反応したのは士郎だった。
 私よりも思い入れが深い、当たり前と言えば当たり前だ。

「…では、このスーツは」
 セイバーは応えず、嫌な過去を思い出すかのように、身に付けたスーツを見下ろす。
「…そうですか、キリツグはまだこれを残していたのですね」

 父の名前だけではなく、父が残したスーツにも見覚えがある、と。
 一体どういうことなのだろう。


「教えてください、セイバー。あなたは父の…衛宮切嗣の何を知っているの?」
「…なるほど。衛宮という名でまさかとは思っていましたが、五鈴は…」
「娘です。そして士郎は養子…十年前の大火災で、唯一の生存者を切嗣が引き取ったの」

 相手の素性を訪ねるには、此方から明かすのが礼儀というものだ。

 セイバーは私たち二人を見比べて、一瞬だけ目を伏せた。
 まるで私たちを目に入れることすら苦痛だというように。


「…私は、以前に彼に召喚されて、聖杯戦争に参加したことがある」
 呻くように、セイバーが語りだす。
「恐らくそれが、貴方たちのいう十年前の聖杯戦争だ。キリツグは『セイバー』として、私を召喚したのです」

 十年前、冬木の地を焦土と化した、あの忌まわしき戦争。

「彼は他の魔術師やサーヴァントを容赦なく殺し…そして、私に聖杯を破壊させた」
 嘘だ、と、士郎が呟いた。
 セイバーは彼を気に掛けたが、私は続けるように促す。
「私とて英霊だ、聖杯にかける望みはあった…けれども彼は、拒む私に令呪を使って、無理矢理に…」


「その話、少しおかしいですね」
 と、それまで沈黙を守っていたライダーが、突然に姿を現した。

「ライダー…」
「口を挟んですみません、五鈴」
「構わないわ。おかしいってどういうこと?」

 セイバーはライダーを睨む。
 口を挟んだことに対する苛立ちと言うよりは、まだ彼女を敵と見做しているらしい。
 ライダーは構わずに、視線を受け流しながら淡々と語る。

「有り体に言えば、サーヴァントとは『座』に存在する英霊をコピーしたものでしかない」
「ええ、その通りです」
「ならば、前回と今回の召喚で記憶が引き継がれているのはおかしいのです、セイバー」

 なるほど、言われてみればその通りだ。
 原本が同じ二つのコピー。その片方に落書きをしても、もう片方に同様の落書きが残る道理はない。
 どういうことなのか、と、視線でセイバーに問い詰める。

 彼女はバツが悪そうに眼を伏せて、躊躇いがちに口を開いた。

「理由は語れません…が、私が以前の記憶を有しているのは、私自身が少し特殊な英霊であるからです」
「特殊、って?」
「申し訳ない、五鈴。それも教えられません…けれど、私が霊体化出来ないのは、それが影響しているからです」

 教えられないことを、無理に尋ねようとは思わない。
 むしろ敵と見做しているマスター相手に、よくここまで礼儀正しく教えてくれたものだ。


「……あの大火災は」

 士郎の声には、ほとんど生気は無かった。

「…聖杯戦争によって…いえ、キリツグによってもたらされた災悪とも言えるのです、シロウ」

 セイバーにしては珍しく、士郎を追い詰めるように言い放った。
 彼女のあらゆる所作から、父への敵意が漏れだしている。

 士郎は見るからに憔悴していた。
 当然だ。過去のトラウマと、尊敬していた男の悪の姿を、一度に叩きこまれた。
 この話は、もう切り上げるべきだろう。


「…それでも」

 三人の視線が、士郎に集まる。

「爺さんが、どうして聖杯を壊したのかは分からない。けれど、何の理由も無しに壊したなんて、俺には思えない」

 声は、小さかった。
 小さくとも、力強い声。
 あの話の後で、そこまで気丈に振舞えるものだろうか。

「それになにより、あの大火災がもう一度繰り返されるかもしれない。尚更、聖杯戦争を止めなきゃいけないんだ」


 拳を力強く握りしめる。
 あくまで『正義の味方』であろうとする彼の姿に、心が痛む。
 私が彼を引き込まなければ、知らずに済んだ痛みだった。

 私も最後まで、『正義の味方』の味方であろうと決意した。



――四日目、学校――



「行ってきます、セイバー」

 もう間もなく登校する、そんな時に事件は起きた。

「シロウ、どちらへ?」
「学校だよ。聖杯戦争があるといっても、休むわけにはいかないからな」

 ピクリ、と、何の気なしに尋ねたセイバーの眉が動く。

「…サーヴァントを付けずに、外出するつもりですか」
「そりゃ、セイバーは霊体化出来ないんだから、仕方ないだろ。留守を頼む――」
「承諾しかねます。外は危険だ、シロウ。私もついていく」
「はぁ!?」

 うん、まあ、予想はしていた。
 睡眠が必要ないとはいえ、マスターのために寝ずの番すら厭わなかった少女だ。
 護衛も無しに彼を外出させるなんて、言語道断だろう。

「昼間とはいえ、他のマスターの目もあるでしょう」
「駄目に決まってるだろ! 学校は基本、部外者は立ち入り禁止なんだから」
「ならば学校を諦めてください。貴方は家に残るべきです」
「それも出来ない。聖杯戦争に参加するにしても、日常を犠牲にしないって決めてるからな」

 こんな時にまで融通が利かないのか、この男は。

 もちろん、私も基本的にはセイバーと同意見だ。
 なので、

「大丈夫よ、セイバー。士郎には霊体化したライダーを護衛に回します」
「五鈴…しかし、それでは、」
「お前の方が危険じゃないか!」

 セイバーの言葉を遮って、士郎が怒鳴った。
 心配してくれるのは嬉しいけれど、どの口が言っているのか。
 つい先日まで私を心配で振り回してくれたのは、どこのどちら様だったろうか。

「ライダーはそっちに居てもらうべきだ。俺の方は、自分で何とか出来るから」
「『強化』と『投影』で、ですか?」

 う、と、士郎が口詰まる。
 厳しいようだが、甘やかしちゃいけない。心を鬼にして、彼を叱る。

「魔術師として自分がどれほど未熟かを、弁えてください」
「その通りです、士郎。五鈴の提案も承諾しかねるというのなら、外出は許可できない」


 私とセイバー、二人に詰め寄られて、さすがに観念したらしい。

「…わかった。何かあったらすぐに連絡をくれ」
「大丈夫よ。いざとなったら、ライダーともパスが繋がっているのだから」
「……」

 自分そっちのけで話が進むのに、ライダーは少しだけ不満げな表情を見せた。
 機械的とばかり思っていたが、彼女にも人間らしい所はあったらしい。



――四日目、昼――



 午前中は、とりたてて大きなイベントもなく終わる。
 出来るだけ行動を共にするべきだと思い、今日も士郎を誘いに隣のクラスに顔を出す。
 私としても、冬木の管理者の目が光る場所で、悠々と昼食の包みを広げる気にはなれない。

「衛宮ー、衛宮妹が呼んでるぞー」

 相変わらずこちらのクラスは、私の名前を覚えてくれない。

 士郎を連れて、弓道場へと向かう。
 桜には事前に連絡を付けていたので、今日も前回と同じ、三人での昼食となる。


「それでさ、五鈴ってば…」
「それ、本当ですか? 先輩ったら…」
 二人は話に花を咲かせている。
 私は一足先に昼食を終えて、桜の淹れてくれたお茶を啜る。

 凝り固まっていた体中の緊張が、ほっと解れていくようだ。
 桜の淹れるお茶は、本当においしい。
 気苦労が絶えない聖杯戦争で、士郎の料理と並んで、唯一日常を思い出させてくれる。

「あ、もうこんな時間…そろそろ片付けますね。五鈴先輩、最後にお茶のお代わりはいかがですか?」
「…ええ、お願い」
「はい、ちょっと待っててくださいね」

 柔らかな笑み。心が洗われる。
 本当に、良い妹分を持ったものだ、と、少しだけ感極まって泣きそうになった。



――四日目、放課後――



 今日も今日とて、特に用事は無い。
 士郎もさすがに、今日ばかりは早く帰宅するべきだと理解したらしい。

「セイバーを待たせるのも悪いしな。ちょっと待ってろよ、すぐ飯の準備を…っと」
「どうしました?」

 玄関に着いたところで、士郎は首を傾げた。

「そう言えば、サーヴァントって飯食えるのか?」
「一応霊体だから必要はないけれど…食事を摂ることは出来るはず」
「わかった、四人分用意する、と…」

 当然のように、二人も勘定に入ってしまう。
 霊体化しているライダーはどこか居心地が悪そうだったが、ここは観念してほしい。

「そうなると、材料が足りないな…」

 冷蔵庫を開いて、士郎は唸る。
 一昨日買ったばかりのはずだが、単純に考えても消費手は倍。当然と言えば当然。

「手を抜くわけにもいかないし…ちょっと遅くなるかもしれないけど、やっぱり追加で何か買ってくるよ」
「…まあ、当然ながら私も付いていきます」
「……そうなるよな。となれば、ライダーとセイバーもか」

 とんだ大所帯だ。

「二人に何かリクエストは無いか、聞いてみようか」
「…呑気なものですね」
「いいだろ、別に」

 むしろ無くては困る、とは口には出せない。
 彼という日常を失ってしまえば、私には戦いしか残っていないのだから。



――四日目、戦闘――



「…マスターか」


 衛宮邸の前の人影に、一足先に気付いたのはセイバーだった。
 サーヴァントを連れています、と。
 向こうにしても、霊体化出来ないセイバーを連れているのだ、こちらの動向は丸見えだったのだろう。

 だからこうして、玄関の前で待ち構えていた。

「それも二人、とは…敵対すべきマスター同士が、同盟でも組んでいるのか?」

 死んだ魚のような目をした、背の高い神父だった。
 応じない私たちに、不敵な笑いを浮かべる。

「ランサー」
 神父の呼び声に答えて、彼の隣にサーヴァントが姿を現す。
 黄金の鎧、白髪の男。グラウンドで争っていた、あの英霊だ。
 士郎の体が強張る。

 サーヴァントの姿を見せた、ということは、すなわち交戦の意思があるということだ。
 応戦の意思の代わりに、私もライダーを呼び寄せる。


「…異常者にしては、真っ直ぐな戦いだな」
 ランサーの声は、自身のマスターに当てたものだった。
 奇襲ではなく正面から戦いを挑みに来た、確かにそれは正々堂々たるもの。
 神父は薄ら笑いを変えず、肩を竦めてみせる。

「中々面白いものが見れそうだ、と思っただけだが?」


 言葉を交わす間にも、一瞬の隙も見せない。
 先日出会った金髪ロール…ルヴィアとはかけ離れた、本物の魔術師だ。

 士郎に偉そうなことを言って見せたが、魔術師同士の殺し合いは私も初めてだった。
 自分が極めて優秀な魔術師だとは理解している。
 ただ、能力的に優秀なものが勝ち残るとは限らない。
 特に、殊この聖杯戦争においては。

 自分が命を落とすだけならまだいい。
 士郎を失ってしまうのは、耐えられない。

 彼を守るには、勝ち残らなきゃ。



「――はぁっ!!」

 駆けだしたのは、セイバー。
 掲げるのは、風を纏った不可視の剣。おそらく、彼女の宝具だろう。
 先手必勝とばかりに、ランサーに剣を振るう。

 牽制とばかりに突き出した槍を弾き飛ばし、その懐にライダーが潜り込む様にして、短剣で突き穿つ。

 しかし、ギィん、と、耳障りな金属音。
 舌打つライダー、すぐさま離脱して、槍による反撃を回避した。

 彼女の怪力でも、貫けないどころか傷一つ残さない鎧。
 宝具の類の可能性もある。
 おそらく生半可な剣劇では、その下にダメージを与えることは出来ないだろう。


 狙うなら、マスターか。


 神父は動く素振りを見せない。
 私はスカートの下に隠していたホルダーから、拳銃を引き抜いた。

「…止めろ、五鈴!!」
 そういえば学校に拳銃を持ちこんでいたことを、彼には教えていなかったっけ。

 士郎が怒鳴るのも最もなことだ。彼は『正義の味方』。
 例え相手が悪だとしても、誰も殺さずに聖杯戦争を終える。それが彼の目標なのだから。
 だから、これは牽制。
 向こうの動きを封じるためだけのもの。

「…動けば、撃ちます」

 神父は動かずに、相変わらずせせら笑うだけだった。
 神経を逆なでされるような、不快な嗤い。


「魔術師が、銃か。あの男を思い出す」


 あの男とは、と尋ねそうになって、ひと際大きな剣劇の音に、意識を戦いに戻す。

 セイバーが、ランサーの燃える槍を大きく跳ねあげたところだった。
 彼女の奮闘で、ランサー自身も大きく姿勢を崩している。

 逃す道理もない、決着を付けるべき、絶好のチャンス。

「…ライダー、宝具の使用を許可します」
「わかりました、マスター」

 往来に人は見当たらず、道路も広い。
 彼女のそれも、周囲への被害を気にすることなく使役出来るだろう。

 赤い魔法陣に呼び寄せられたのは、神代の獣。
 光る毛並み、美しい翼を持つ天馬。


「――騎英の手綱(ベルレフォーン)」


 跨ったライダーは手綱を引き、ペガサスと共に空へと舞い上がっていく。
 その速度たるや、一瞬で星ほどまでに小さく、遠くなる。

「あれが、ライダーの…?」
「下がって、セイバー!」

 巻き込まれないように、と、彼女を呼び寄せた。
 道には地に膝をついたままの、ランサーだけが取り残される。

 そして、流星のように落ちた、ライダーの突撃。
 かわす事の敵わないランサーは、真正面からそれを受け止める。



 数瞬の後、地震と紛うほどの衝撃が大地を走った。



「ぐ、が――」
 ランサーが呻きが、地響きと爆音の奥から聞こえる。
 走っていた光は消え、一時的に召喚されていた天馬は、光と共に姿を消す。
 ライダーはその場から飛び退き、再び私たちを庇うように構えた。

 ゆらり、と、土煙の向こうの影が立ちあがる。


 黄金の鎧には、傷一つついていなかった。


 まだか、と、淡い絶望と共に拳銃を握る。
 宝具で以てしてもダメージを与えられないとなると、かなり厳しい。
 離脱も考えるべきか、とまで思い至ったところで、

 ガラスが割れるかのように、ランサーが一瞬で消滅した。


「…やった、のか?」
「…鎧は破壊できずとも、その奥のランサーには届いていたか。此処までのようだな」

 まるで他人事のように、神父は嗤う。
 どこまでも、人を馬鹿にしているようなその態度が、無性に癪に障る。

 私は掲げた銃のトリガーに指を掛けた。
 神父の態度は揺らがない。
 セイバーを見、そして私と士郎を見、心底愉快そうに口端を歪める。

「そうか、あの男の…」

 聞く耳を持つな、と、自分に言い聞かせる。

「サーヴァントを失ったのなら、教会に逃げ込んで、保護して貰いなさい」
「そうさせて貰おう。こう見えても、私は神父なのでね」

 どう見ても神父だが、あえて突っ込まない。
 漫才したい相手でも無いのだ。

 その背が見えなくなるまで、私は拳銃を降ろさなかった。



――四日目、夜――



 あれほど激しい戦闘だったにもかかわらず、買い物袋の中の食材は全て無事だった。
 奇跡としか言いようがない。

 士郎は、私の拳銃について何も尋ねなかった。


「サーヴァントに食事は不要です、マスター」
「はい、ライダーの言う通りだ、士郎」

 今日も今日とて、束の間の日常が訪れる。

 犬猿と思っていたセイバー・ライダーが、息を合わせて言い募る。
 どちらも困ったように眉尻を下げていた。

「食べられない、って訳じゃないんだろ」
「それは、まあ、そうですが…」
 士郎が尋ねると、セイバーは罰が悪そうに顔を伏せ、胸の前で手を組む。

「どうしても食べたくない、って訳でもないのよね?」
「はい…ですが、必要が無いというだけで」
 問い詰めれば、ライダーも正直に答えた。

 私と士郎は顔を見合わせて、意思を確認する。
 彼らは、簡単に言えば遠慮しているのだ。
 食べる必要のない自分たちにまで食事を振舞って、貴重な資源を無駄にしてしまうことを。

「だったら俺たちだけ食べるってのもさ、味気ないし」
「士郎の数少ない趣味なのよ。付き合ってあげて」
「…そこまで言うのでしたら」

 だから数少ないって言うな、と、抗議の声を上げる士郎の背中を台所に押しやる。

 料理が出来るまでのわずかな時間で、私は二人との会話を楽しんだ。
 とは言っても、ほとんど私が一方的に、士郎の話をしていただけだったが。
 それでもセイバーは興味深そうにしてくれたし、ライダーも黙って聞いてくれた。


「…驚いた。セイバーもライダーも、箸は普通に使えるんだな」

 四人で囲む食卓。
 今晩も、士郎の得意な、そして私の好きな和食。

 箸を差し、五目煮を口へ運ぶセイバー。
 湯気の立つ豚汁を、恐る恐る啜るライダー。
 二人の反応を、私と士郎は緊張しながらも待つ。

「……、これは」
「…ええ、とても美味しい」

 目を見開いたセイバーに、ライダーが同調した。
 二人とも箸を進めては、コクコクと何か頷いたり、満足げに微笑んでいる。
 どうやら士郎の料理は、英霊たちにも好評のようだ。

「国と時代を越えて英霊を納得させた味だ、と、自慢できますね」
「そ、そんな大層なもんでもないって…」


 照れる士郎をからかいながら、夜は更けていく。
 今日は、初めての戦闘で、体も心もみな疲労していた。
 束の間の日常、束の間の休息を、ゆっくりと味わおう。


――四日目、終了――


ツールボックス

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