五代目リプレイ9


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――????――



 士郎が勝つべきだ、と、心のどこかで思ってしまったのだ。

 最後に勝ってこそ、『正義の味方』だ。
 『正義の味方』の味方なんて、物語の主人公にはなりえない。

 本当に勝とうとするなら、宝具を使えば良かった。
 だらだらと勝負を長引かせても、勝機を見出せる相手じゃなかったのに。
 そうしなかったのは、そうしたくなかったから。

 つまり私は、彼に倒されたいと思っていたのだろう。
 聖杯に望むほどですらない、ささやかな願望。
 光の波に呑まれて消えていくライダーは、あまり悔しそうじゃなかった。
 きっと私が最初から勝つ気が無かったのだと、彼女は気づいていた。


 ああ、どうして、こんな結末になってしまったのか。

 胸から鮮血と共に飛び出す、黒い刃。


「…勝ったのは息子の方か」

 『正義の味方』の味方だなんて、歪な在り方を望んだから、歪な結末を導いた。

 士郎が私の名を叫んでいる。
 私も彼を呼ぼうとして、喉から溢れたのは声ではなく、血の塊だった。

「次の相手は私だ、衛宮士郎」



 嫌だ。

 彼を残して、逝きたくない。
 私だって、もっと生きていたい。
 『正義の味方』の味方じゃなくたっていい。
 士郎の側にいられれば、士郎の味方であれば、私はそれでいい。

 こんな結末、私は望んでいない。



 少しだけセイバーに似た、金髪の少女が微笑んでいた。



――九日目、朝――



 いつものように銃を解体して組み直し、いつものように布団に入り、いつものように目覚める。
 いつものように居間に降りれば、いつものように士郎が朝食を作っている。

 そして、いつものように、五人が食卓に並んだ。


「「「「「いただきます」」」」」

 おそらくは、その『いつも』も、これで最後なのだろう。
 いつもよりも少しだけ静かで、けれど楽しい食事だった。


「…叶う願いは一つ。正々堂々、競い合いましょう」
 セイバーの言葉からは、最初に出会った頃のような敵意ではなく、戦友を激励するような親愛を感じた。
 隣に並んだイリヤも、どこか戦いを待ち遠しそうにしている。

「前も言ったけれど、私は士郎側に着くわ」
「ええ、わかってる」
「場所はアインツベルンの森。私たちは先に向かうから、準備が出来たら…五鈴も来て」

 玄関で、彼らを見送る。


「…そっちが出てくる時の戸締まり、忘れるなよ」
「ええ。行ってらっしゃい」
「ああ、行ってくる」

 士郎とは、特別な言葉を交わさなかった。
 ただ、お互いに心の中で健闘を祈る。それだけで十分だ。



「…いよいよですね、マスター」
 家には、私とライダーの二人が残される。
 勝っても負けても、彼女とはこれで別れることになるだろう。

「すぐに彼らを追いますか?」
「……いえ」

 最後に少しだけ、ライダーと話がしたい。
 構わないか、と尋ねれば、微笑んだ。

 思えば彼女にも気苦労をかけた。
 なにせ最初は、私と士郎の二人をお守させていたのだ。
 ランサーを倒し、バーサーカーと戦い、アサシンを退け、キャスターを討ち。
 思えばセイバーと共に、私たちは駆け抜けるようにして、多くの敵と戦ってきた。
 たった九日間だったけれど、思い出は語り尽くせない。

「…そう言えば、ライダーの願いって結局何だったの?」
「え? …あ、それは…」
「もう叶っている、とか言っていたけれど」

 最後だし、せっかくなので尋ねてみた。
 ライダーは、珍しく頬を染めて照れている。ちょっと可愛い。

「……日常が」
「ん?」

 ぼそぼそと、子どものように呟く。

「みんなと過ごす日常が、続けば良い、と」
「……」
「…可笑しな願いだと、笑いますか」
「…いいえ。素敵な願いだと思う」


 確かに、英霊が聖杯にかける願いとしては、かなり異質だったけれど。
 それもきっと、ライダーの良さなのだろう。



――九日目、昼――



「…来ましたか」
「…待たせたわね」

 セイバーは既に、鎧を纏っていた。

 もうここからは、言葉は必要ないだろう。

 ライダーの霊化を解く。
 ライダーはセイバーと、私は士郎と、それぞれ対峙する。


「では…行きます!」


 先手はいつも通り、セイバーから。
 不可視の剣を掲げ、姿勢を低くしてライダーに向けて一直線に走り抜ける。
 対してライダーは大きく後ろに跳躍し、薙いだ一撃を難なく回避した。

 瞬間的な速さだけなら、小柄なセイバーに分があるだろう。
 しかしステータス上の敏捷性ではライダーが上。
 遮蔽物となりえる木々のフィールドでは、スピード勝負はライダーに分がある。

 木の陰から陰へ飛び移り、その隙間にも絶え間なく投擲される短剣。

「くっ…」
 最初の一手から一変し、セイバーは守りを固めた。
 どこから飛来するか分からない短剣は、確実にセイバーを押している。

「セイバー、貴女の力はそんなものですか?」

 早速、好機か?
 それとも、まだ様子を見るべきだろうか。
 互いに一撃必殺の宝具を持つ英霊、正解の選択肢はどちらだろう。


 ふ、と、今朝見た夢が脳裏を過る。


「――遊ばず、一気に決めなさい。ライダー、宝具を…!」
「了解しました、マスター」

 大きく後退したライダーがバイザーを外し、宙に赤い魔法陣を描く。
 それを見るセイバーの表情が一転。
 一度あの威力を見ているからこその焦りだろう。

「させるか…!」
 詰め寄るセイバー。
 ライダーに劣るとは言ったものの、その速さは人のものじゃない。
 召喚を妨害するべく、剣を振るう。


「させるか、は此方の台詞よ」
「何…!?」

 相手は英霊、躊躇する必要もない。
 私はホルダーから拳銃を抜き、二回、続けざまに引き金を引く。
 ダメージは無くとも、せめて気を引ければ。

 が、しかし、

 軽く篭手で弾丸を弾き、そのままライダーに突進するセイバー。
 さすがに、英霊で既存の銃が通用すると思う方が無理があったか。

「五鈴、すみません…っ」

 ライダーは宝具の発動を中止し、再び大きく後退した。



「セイバーにばかり気を取られていちゃダメよ。言ったでしょ、シロウに付くって」

 言葉と同時に、今度は私の足元が大きく弾けた。

 イリヤが放つ赤い魔弾が、地面を撃ち抜いて土煙を上げ、視界を塞ぐ。
 避けたところに、振り下ろされる木刀。

「ふっ…!」
 拳銃のハンマーで弾くように受け、そのまま地面を転がる。
 前衛を任された士郎が、イリヤの援護射撃を受けて私を攻める、単純ながら理に叶った戦法。
 マスターを制圧すれば、サーヴァントへの令呪による支援攻撃を防ぐこともできる。

 一瞬失念していた。
 これは、私たちの兄妹喧嘩でもあったのだ。

 ならば私も、全力でねじ伏せる――!


 蹴り出す地面、再び振るわれる木刀に逆らわず、合わせるように士郎の腕を取った。
 合気道の要領で、彼が振るったそのままの力を、地面に叩きつける。

「ぐ、がっ…」
 肺から息を吐きだす士郎。

 イリヤに援護させる隙も与えない。
 私は彼を組み伏せて関節技で固め、空いた手でイリヤに銃口を向けた。

「……私の勝ちです、士郎」
「…クソ、勝てると思ったのに」
「二人掛かりでも、まさかこんなにあっさり負けるだなんて…」

 瞬殺、という言葉が相応しい。
 マスター同士の勝敗は決した。
 あとはライダーとセイバーの純粋な一騎打ち。


「…やりますね、セイバー」
 攻勢はセイバー。
 どんどんとその間合いを詰め、ライダーに宝具を遣わせる隙を与えない。
 剣の英霊の名は伊達ではなく、その剣劇はわずかな敏捷の差などものともしない。

 しかし、

「貴女こそ、ライダー」
 ライダーとて守りにばかり甘んじている訳じゃない。
 剣閃の隙間を縫っては、短剣の投擲でセイバーを迎撃する。
 その鋭さたるや、セイバーが万全の状態でなければ勝負は決していただろうというほど。

 火花を散らす両雄の、高速の攻防、鍔迫り合い。

「…目が慣れてきたぞ、ライダー」
「ならば、もっと速度をあげましょうか」

 弾けるように後退した両者の顔には、会心の笑みが浮かんでいた。
 二人も、この戦闘を楽しんでいる。


 けれど。

 いつまでもダラダラと、長引かせるわけにはいかないのだ。
 消耗を最小限に抑えるために、私は叫ぶ。

「勝って、ライダー…!!」

 腕を焼く令呪の痛み。
 その一角を対価として、得るのは膨大な量の魔力。
 マスターに許された、三度のみの絶対的な行使権。


 この勝利のために使わずして、いつ使うのか。


 数回、鼓動に合わせるようにして、ライダーの体が震えた。

「マスター…行きます!」

 弾けるように飛んだ彼女の体を、目で追える者はいなかった。
 無論、対峙していたセイバーにとっても、それは同じこと。

「――っ!」

 スピード、ライダーの怪力、令呪によるブースト。
 全てを一直線に賭した、真正面からの穿刺は、

 セイバーの鎧を、軽々と貫いた。



「…見事だ、ライダー」

 勝敗は、決した。
 貫かれたセイバーは満足そうに、貫いたライダーは辛そうに、それぞれ目を伏せる。

 どこか悲しい、けれど清々しい聖杯戦争の結末。




 ――いや、まだだ



「ああ、見事だった。なあ、アーチャー」

 私以外の全員が、消えゆくセイバーですらも、その声に驚いた。
 なぜか、私だけは知っている。

 振り向いた先に、誰がいるのかを。

 濃紺の礼服に身を包んだ、元ランサーのマスター。
 神父、言峰綺麗。
 しかし、彼が呼びかけた英霊は、ランサーではない

「……」
「なるほど、口を利く気はないか…まあいい」

 銀髪、褐色の肌、赤い外套。
 初日にランサーと争っていた、あのサーヴァント。やはり彼が、アーチャー。

 一人のマスターが、二人のサーヴァントを従えるなんて、ありえない。
 そしてあのアーチャーは、きっと凛のサーヴァントだったはず。
 言峰の手には、少し歪な令呪痕。

 導かれる答えは、


「――テメェ…!」

 真っ先に士郎が吠えた。
 気持ちはわかる、けれど。

「落ち着いて、士郎」
「…何言ってんだ、五鈴。こいつ、遠坂を、」
「それでも、落ち着いて。貴方が勝てる相手じゃない、と言っている」

 事実を突かれ、士郎の顔が真っ赤に震えた。
 酷いことを言った自覚はある。
 事が事だけに言い方を選べない、代わりに殴られても構わない、と私は思った。
 それでも止めなければ、士郎まで殺されてしまう。

 あの夢の中の、私のように。

「…貴方の相手は私よ。敗者と戦う道理はないでしょう」
「ああ、その通りだ」

 それだけは許せなかった。
 私が最後まで、士郎を守る。私は彼の味方なのだから。


「連戦、ですか」
「ゴメンね、ライダー。大丈夫?」
「問題はありません」
 ライダーは私を庇うように立ちふさがり、士郎とイリヤは固まって互いを守る。

 そんな私たちを、アーチャーはじっと見ていた。
 敵意は、感じられない。
 むしろその眼差しは、どこか懐かしくて、温かい。
 初めて彼を見た時にも感じた、既視感にも似た奇妙な感情、感覚。

 けれど、


「令呪を以て命じる。ライダーを倒せ、アーチャー」
「…了解した。地獄に堕ちろ、マスター」

 悪魔の言葉が放たれて、まるで操り人形のように、意思に反してアーチャーの体を動く。
 両手に構えるのは、あのランサーとも切り結んだ双剣。

「…いや、令呪はあと一つか。その時が来たら、俺が地獄に落とす」


 これが、本当の最終決戦だ。



「来い、ライダー」
 酷く穏やかな声で、アーチャーは彼女を呼んだ。

「はい…貴方を倒す。マスターのためにも…!」

 飛びかかるライダーに、躊躇は無い。
 重く、それでいて速い攻撃を、アーチャーの双剣がいなす。が、
 スピード、馬力、どれをとっても段違い。

「くっ…」
 双剣を砕かれたアーチャーが、次の瞬間同じ双剣を、掌の中に生みだした。
 士郎の投影と同質の何かだろう。

 けれど、いくら武器を無尽蔵に出すことが出来るとはいっても、幾度繰り返そうがライダーの優勢は変わらない。


 こちらも、そろそろ仕掛ける。

「来い、衛宮の娘よ」

 私が拳銃を構えるのと、神父が黒鍵を振りかぶるのは、ほぼ同時だった。
 三度、続けて引き金を引く。
 しかし、投げられた同じ数の黒い刃が、それらを全て叩き落とした。

「…!!」
「そんなものか?」

 牽制を交え、互いの動きが止まる。


 次の瞬間、ライダーの側からとてつもない魔力の奔流を感じた。

 ライダーがバイザーを外している。
 それは、ただの行為ではない。

 ギリシャ神話が誇る、最強の魔眼の一つ『キュベレイ』。
 彼女が視界に収めたもの全てを石と化す、ライダーのもう一つの切り札。
 自身の『自己封印・暗黒神殿(ブレーカー・ゴルゴーン)』によって抑制しなければ、万象を傷つける両刃の剣。

 その封印を、ライダーは解いたのだ。
 「支配する女」を意味する彼女の真名――メドゥーサの真骨頂。


「…その目を受けるのも、もう何度目になるか」

 対魔力を有するとは言っても、決して優れてはいなかったのだろう。
 程なくしてアーチャーの体は重圧に呑まれ、アーチャーはその結末を知っていたかのように、抵抗する素振り一つ見せなかった。

「最後に、頼まれてくれるか…ライダー」
「……」
「あの馬鹿と…君のマスター。それに、イリヤも…宜しく頼む」

 それが何を思って紡がれた言葉なのか、知る者はいなかった。
 それでもライダーは、アーチャーに頷いて返し、

 静かに、その胸に短剣を刺し入れた。



 ライダーは、勝ったのだ。

 ならば彼女のマスターである私だって、勝ってみせる。
 サーヴァントを失ってなお、神父は得物を納める素振りを見せない。
 無論、仮に戦意が無くとも、私は許すつもりはないけれど。

「…懐かしい目だ。あの男も、そんな目をしていた」

 この神父は、父を知っていた。
 この神父は、凛を殺した。
 けれど、そんな個人的なしがらみだけじゃない。


「…『正義の味方』の味方として、貴方という存在を見過ごすわけにはいかない」

 一度は夢の中で捨てかけた称号を名乗り、私は再び銃口を向ける。

「Time alter ―― double accel !!」


 固有時制御、二倍速。
 父の残した秘術が、私を加速させる。

 振りかぶられた黒鍵は、時制御の中にあってもまだ速く、飛び込んだ私の左腕を容赦なく貫いた。

「あ、づっ……~~~っ!!」
 おそらくは心臓を狙った一撃、この術が無ければ持っていかれただろう。
 想像を絶する痛み、それでも。

 私は前に、一歩踏み込んだ。

 礼服はおそらく、防弾性。
 けれど、その道理はランサーの鎧と同じだ。
 どれほど硬くとも、その奥にダメージを通さないということではない。

 零距離、銃口を押し付ける。


 銃声、銃声、銃声――続く、銃声。


「がっ……」
「…安心しなさい、殺しはしないわ」

 それでは、『正義の味方』の味方の名が廃るというもの。

 意識を手放した言峰は、間もなく地面に伏した。




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