初代リプレイ9


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

 高校を卒業した俺は、適当にでっち上げた理由を周囲に告げて倫敦に留学した。
 生活自体には直ぐに慣れた。
 食べ物のマズさには驚愕したものの、とある理由でそれらはほぼ解消されているからだ
 勿論留学先は時計塔。現代の魔術師の中でも、才能あるものだけが門を叩くことを許される栄光の地。

 の、筈だったが。

「ちょっと買い物に付き合って欲しいんだけど」
「待ちなさい、ミス・トオサカ」
「何よルヴィア、また私に突っかかって来るわけ?」

 背後でアレやコレやと騒ぎ出す女共を尻目に、俺はさっさと歩き出す。

「何でコイツらが合格できたんだろうな……」

 いや、コイツらが超絶優秀なのは分かってる。
 一条とか端にも掛からない、名門名家の淑女たちなのも分かってる。
 にしてもこの……そこら辺のむさい男が裸足で逃げ出す、フリーダムさ加減はなんとかならんものなのかと。

「言い掛りですわ! 私が先に魔術の研究の手伝いをお願いしていましたのに貴女は!」
「私はその前から約束してたわよ! 用を言い忘れただけなんだから」

 女三人集まれば姦しいとは言うが。
 こいつらは二人でも姦しいどころの騒ぎじゃないな。
 なのに、此処にはその三人目すら現れる。

「待ってください、先輩は疲れてるんです。ここは美味しいお料理で」
「……何よ桜、アンタまで参戦する気?」
「良いでしょう、そうまでいうのなら魔術師らしく決着をつけるしかありません――レスリングで」

(あーあーきこえないきこえない)

 背後から、いいや違うと拳やら胸囲やらという言葉が聞こえて来るが。
 どれも一切魔術師らしくねぇよお前ら。士郎見習えよ、その内本当に抜かされるぞ。

「お兄ちゃん、一緒に遊びましょう?」
「ああ、いいぞ。なにする?」

 ソレに引き換え、このありすのなんと可愛らしいことだろう。
 目に入れても痛くないとは、こういう心境のことだと悟る。

「ありす、かくれんぼがいいな」
「OKかくれんぼだな――まずはアイツらの目から消えるぞ?」

 魔術を発動。気体の水分を操作して、光の流れを捻じ曲げる。
 効果は一瞬、その隙に人ごみに紛れてしまえば。

「あ、先輩がいません!」
「またアイツ消えやがったわね……」
「ハジメ! 何処にいるのですか、私との約束はどうするのです!」
「いやだから約束は私が先で」

 瞬時にもとの話題に戻り、あれやこれやと争い続ける。

「やれやれ」

 思わず嘆息した。このまま放って置くと、何時までも騒音被害を撒き散らしかねない。
 全く、今日が騒がしい。倫敦の生活には慣れたが、コレにはいつまでも慣れないな。

「いい度胸じゃない、ルヴィア!」
「そちらこそ、ですわ!」

 桜は何時の間にかノックアウトされたらしく、凛とルヴィアの決闘が始まろうとした。
 付き合っていられない。ため息をつきながら空を仰ぐと、広場に建てられた時計が目に入る。

「……悪いありす、士郎が待ってる。そろそろ鍛錬の時間だ」
「えー……じゃ、ありすも一緒にいく!」

 少しだけ膨れつつも、腕に飛びついてせがむありす。

「そうするか」

 微笑みかけて、手を繋いで歩き出す。
 ああ、本当にかわいいヤツだ。彼氏とか絶対にできなければ良いな、っていうか絶対に許せないな。 
 お兄ちゃんどんな馬の骨からも守っちゃうからなーせめて聖杯くらい手に入れられるヤツじゃないと瞬殺だなー。
 心の内に湧き上がった誓いを噛み締めつつ、士郎の待つ部屋へ急いだ。
 扉を開き中に入る。

「どうしたんだ? ……って、もうそんな時間か」

 エプロンを外しつつ、士郎が笑う。

「宜しく頼む、師匠」
「ああ、今日も厳しく行くぞ」

 こうして俺の日常が回っていく。
 士郎、凛、桜、ありす、ルヴィア。聖杯戦争を通して得た絆の全てが、今の俺を作っている。
 それでも時々思う。もし此処に、俺が更なる夢を描くとしたら。

「……いや、やはり止そう」

 子供の夢が決して現実には起こらないように。
 聖人の夢が決して現実を救ってはくれないように。
 夢は想うからこそ意味のあるもの。夢に見るほどに価値のあるもの。
 そうして綿々と続いていく願望の在り方に、人は英雄という名を付けた。

 だからそれを望んではいけない。代わりに、その誇りだけを胸にしまおう。
 俺は、決して完成しないあの日々を思い出して――その美しさを追って歩いて行く。



【暗き夜に見る黄金の夢 END】


ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。