十三代目リプレイ2

【2日目、開始】




目が覚めると、見慣れない天井がそこにはあった

どうやら拠点である城の寝室らしい

徐々に意識が覚醒していくと同時に、頭に鈍い痛みが走る


…ッ!


魔術を限界まで行使した時に出る後遺症の様なものだ

ついでに、精気が抜けたような気だるさもある

少しベッドの上で微睡んでいると、控えめなノックが聞こえた


セラ「失礼します、お水をお持ちしました」


いつもながらの几帳面な声色、そんな声と共にセラがドアを開ける


「ありがとう」


俺は一言伝えて、水差しからグラスに少量の水を注ぐと一気にそれを煽った

乾いた体と意識に冷たい水が行き渡る

視界と意識が透き通っていく


セラ「昨晩は激戦だと聞いております、もう少し休まれては?」


俺はセラに事の顛末を伝えられた

徐々に思い出していく


俺は昨日の戦闘かで意識を失ったこと

『アーチャー』『ランサー』との連戦

1画欠けた令呪と底ついた魔力

因みに戦闘後意識を失った俺は、待機していたリゼにおぶってもらい離脱したらしい


あとで、礼を言わないと…

そんなことを考えながら、俺はまたベッドに体を預けた

まだ魔力も体力も回復していない状態では、まともな成果は得られないだろう

情けないことだが、第三者から見れば自分は才能が無い魔術使だ

敵と渡り合う為には、少しでも十全に近い状態で臨まなければならない

俺は『セイバー』を休ませるよう指示し、

リゼには警戒させるようセラに告げると、毛布の中へと潜り込んだ

徐々に落ちていく意識


セラ「了解しました」


最後に聞こえたのはそんな声だった



時刻は昼前だろうか

俺は目を覚ました、まだ体は重いが頭痛は無くなっていた

魔力の方はまだ回復しない

魔術回路の少ない俺は回復量も同時に少ない

だが、少なくとも体の方は夕方には調子を戻しているだろう

さて……俺は改めて昨日の戦闘…いや『セイバー』の事を思い出す


『セイバー』の宝具


ステータスからランクA++の対城宝具だとはわかっていたが

予想以上に強力なモノだろう…

何せ発動前且つ不発でも、魔力を根こそぎ吸われるかと思ったほどの魔力量だ

もしかすれば、不発で助かったかもしれない…

あんなもの街中でぶっ放したら全マスターどころか

教会にいる『監督役』も敵に回すところだった…

宝具を発動する場合は、街に被害を与えない場所での使用が前提になるだろう

俺は、ベッドから体を起こすと昼食を求めて食堂へと歩いて行った


食堂には、リゼ以外揃っていた

リゼは休息中だろう、あれは少し特殊だ

俺は昼食を取りながらイリヤとセラに使い魔での情報収集を頼んだ


イリヤ「使い魔を作って情報を集めればいいのね?」

「うん、頼むよイリヤ」


俺は、頷いてイリヤの頭を撫でる

俺でも使い魔程度の使役は出来るのだが、使役できる数は両者の方が圧倒的に多い

それに情報は何よりも必要だ

策を講じて、裏をかく

その為には、どこに誰がいて、何をしているのか

情報を得なければ始まらない

『セイバー』なら策などいらずとも実力で全てを蹂躙出来るだろう

だが、俺は真っ向勝負で敵を討ち取れるほどの能力は、生憎と持ち合わせていないのだ

自分の事は自分がよく知っている、それに昨日の闘いで再確認できた

俺は、イリヤに路地裏の探索を、セラにはその他のカバーを頼んだ

路地裏ならば、昼間でも人気はなく

マスターの天敵である『アサシン』辺りが好みそうな地形でもある

もし、サーヴァントないし異常がなければ

そこを拠点にすることで、街での活動がしやすくなる

イリヤが此方を振り向いた

どうやら、使い魔が路地裏についたようだ


イリヤは顔を近づける

俺も顔を近づけ…

お互いの吐息が顔に当たる

そしてそのまま…


イリヤと俺の額がくっつきあう

俺の目にはイリヤが、イリヤの目には俺が映る

昨日は焦っていたのか然程、意識はしなかったが

自分で自分の顔を見るのは不思議な感覚だ

意識を共有して、使い魔から得た情報が俺に流れる

どうやら、他のマスターは見当たらないようだ

なら、『夕方から夜』に移る辺りには情報を得られるかもしれない


時刻は夕方近く

もう直ぐ夕食の準備だろう

たまには、俺が料理をするか

これでも、自炊は苦手じゃない

それに我らがアインツベルンの秘術たる『錬金』

その始まりは台所…つまりは料理であった…らしい

魔術師たるもの、その起源を探究するものだ―――とカッコはつけたが

ただ、単に城の外に出る事が多かったから自然と覚えたのだ

さて、キッチンに向かおうかと思うが

ふと、頭に昨日の昼食が過ぎった

お好み焼きだっただろうか

店員が焼くお好み焼きを、イリヤが物珍しく眺めていたことを思い出した

イリヤも女の子だ

料理の一つや二つ、興味が有るのだろう

俺は、意気揚々にキッチンへと向かったが…

失念していた

あの場に座すは最強の従者だ

その双眸に宿るのは全てを射抜く冷たい魔眼

口から出るは、人の小さな矜持さえも、簡単に粉微塵にする言葉の暴力

お小言大好き、説教BBA…ゲフンゲフン

ちょっとお堅い従者のセラが俺の前に立ち塞がっていた

キッチンの使用許可を得ようとしたのだが、


セラ「ダメです」


にべも無く断られる


「アインツベルンを担うお方なのですから、もう少し考えて行動を……」


この一言を皮切りに始まってしまった


『無限の説教』


悪ガキの頃から、セラには随分と怒られていたものだ

しかも、散々罵った挙句に愛の鞭が飛んでくる

だけどさ、いくら愛の鞭だからって魔術で制裁は酷くないだろうか

だが、俺もガキの頃とは違う


説教を受け流しつつ、口先八寸でセラを迎撃する


ですから―――というのです


だから―――だろう?


もう、あぁ言えばこぅ言う


お前も大概だ



互いに言葉を尽くすが、決定打にはならない

だが、この口うるさい従者は断固としてキッチンの使用を拒否する


セラ「……理由は言わなければいけませんか?」


セラが言いたい事などわかっている

これは従者の仕事だとか、イリヤが怪我したらどうする、とかだろう

ならば、と

俺は閃いた


「じゃあセラも一緒に作ろう?」


ようはイリヤに危険がなければいいのだ

セラがイリヤを見れば万に一つ怪我はしないだろう

そこに、リゼがキッチンに顔を出す

どうやら目を覚ましたのだろう


リズ「セラの負け、しんぱいなら手伝っちゃえば良いのに」


セラ「負けとはなんですか、リーゼリット!」


リゼの一言にセラの顔が真っ赤になって反論する

だが…


セラ「……駄目です、許可できません」


彼女の意見は変わらなかった

瞳には強い意志を感じる

まぁ、それも仕方ないか

彼女にも彼女なりにプライドがあり、曲げる事の出来ない物だろう

それに、街に出かけて、また店に入れば済む話だ

俺はそう納得した


「ごめんな、イリヤ」


俺はイリヤに謝り、その場を後にした


妙に気合いの入った夕食を食べた後、俺は使い魔からの情報を整理する

最優先に探索させた路地裏には、魔術の気配すら感じられなかった

外れか、いや裏を返せば『路地裏を拠点にしている』サーヴァントは居ないのかもしれない

ただ、人気のない場所だ

ばったり敵と遭遇なんてこともあり得ない話じゃない

拠点にするのであれば慎重にならねばいけない

そんな事を考えながら、俺は『セイバー』を連れて探索に出る

昨日は連戦でアレだけ激しい戦闘を行ったのだ

顔はもう割れていると考えた方がいい

昨日の昼に考えた作戦はもう台無しだ

だが、コソコソ隠れる必要が無くなった、と考えればそれでいい

出向いていれば、相手から攻めてくる

そうすれば拠点の城に危険が及ばない可能性も高くなるものだ

ならば、『セイバー』の欠点であった霊体化が出来ないことも感じられなくなる

それに、俺の少ない魔力量では籠城戦は向かない

1日休んでも魔力不足の気だるさを感じるあの対城宝具の使用は厳しい…

それに、万が一にも同盟など組まれて多対一の戦闘になれば目も当てられない

敵の体制が整う前に叩く電撃戦―ブリッツ―は有効な手段だ

俺は、『セイバー』を後ろに乗せてバイクを走らせた


セイバー「で、何処へ向かうマスター?」


後ろから『セイバー』の声がする

向かう先だが、実は決まっている

冬木大橋だ

新都と深山町を結ぶ大橋

拠点として使用するするモノはいないだろう

だが、新都と深山町を結ぶこの橋は、敵の移動手段にもなるはずだ

その為にネオン光る街や静寂な港に行き、セイバーの魔力を奔らせる

これだけ挑発すれば、魔力の痕跡を探るマスターが現れるだろう

用は撒き餌だ、この橋で待ち伏せて叩く


セイバー「そなたの意見に従おう、では向かうか」


そして、冬木大橋へと着いた俺だが、待ち伏せる必要も無かった

むせるほどの魔力を感じる

あからさま過ぎるソレに気付かない方がどうかしている

どうやら俺と同じ事を考えている奴がいたようだ

俺は、スコープを使って橋にいる人物を確認する

肉眼では相手が映らない

魔術で認識を阻害しているのだろう

魔術師の常套手段だ

だがそれ故に奴らは現代の装備を想定しない

そういった対策を怠っている

スコープから人影が映る徐々に人影を追っていく

月が雲から出て橋を照らしていく

月に照らされ、現れたソレは女

その姿は、一見普通の女性のようにも見える

その直後だった

全身を襲う寒気

俺は気づいてしまった

あの女の異常さを、その異形さを

アレは違う少なくとも


―ココニ イテイイ ハズガナイ―


その横に立つ少年もまた異質だった

一目見ればわかるその威圧感

そして、自分等歯牙にかけるべくもない魔術の才

いや、人としての格か

俺は、息を殺して、スコープを覗き様子を伺う

少年とそのサーヴァントは新都から深山へと向かっているようだ

俺達はちょうど真後ろを取っている形になる

どうやら狙いは俺たちではなく、深山にいる御三家の遠坂と間桐らしい

でなければ、新都で撒き餌をしていた俺達へと、喰いつくはずだ

それとも、わざと見逃していた?

俺達が喰いつくであろうと

随分と舐められたものだ

俺達の奇襲は怖くも無いと?

このまま様子見をしていれば、いずれ捕捉出来なくなる

いいぜ…お望み通り受けて立とうじゃないか…

俺は『セイバー』に奇襲を指示する

『セイバー』のスキルである魔力放出

身に纏う黒い魔力がジェット噴射のように爆発する

指向性をもった魔力に乗った『セイバー』は一気に加速、距離を詰める

100をゼロにするほどの速さ

しかし、金髪翠眼の少年は初めから気付いていたかのように『セイバー』を捉えた


??「……『バーサーカー』」


焦った様子も無く、横のサーヴァント『バーサーカー』へ命令を下す

『バーサーカー』はその両手の爪で、『セイバー』の聖剣を受け止めた

その動きは、人というより獣のそれに近い

俺はほくそ笑む

獣に、マスターを守る、などという思考はないだろう

一方で、初撃を受け止められたセイバーは追撃を行わず一歩後退し剣を構え直した

まるで、俺の意思を理解してくれているのか


バーサーカー「……」


『バーサーカー』は眉ひとつ動かさず

されど、惹かれるようにその両腕を存分に奮い『セイバー』を攻め立てる

俺は『セイバー』の攻撃を暴風だと感じたが

あの『バーサーカー』は荒波だ

両手の爪による波状攻撃

だが、『セイバー』は苦も無くいなしている

俺は『セイバー』の行動に若干ながら、意外さを感じていた

彼女の性格上、攻めに攻めを重ねるだろうに…

彼女はきっと…


俺はソレを理解した

なぜ俺が、魔術師として戦わなければいけないのか

この身は、魔術使い

真っ直ぐと、正々堂々と、などやってやるものか

誇りある敗北なんていらない、欲しいのは汚れてもなお耀く勝利だけだ―――!


俺は拳銃を強く握り締め、金髪の少年へと照準を合わせる

有効射程距離ギリギリだ

サプレッサーに魔力を籠め加速の術式を起動させる


3、2、1…


構えた拳銃の引き金を引く

撃鉄を鳴らし銃弾が彼を襲う

サーヴァントの守りも無し、こちらにも気付いていない

完璧なタイミングでの完璧な狙撃…の筈だった


??「警戒していないとでも…?」


金髪の少年は瞬間、魔術による障壁を完成させる

向かってくる弾丸に寸分違わず合わせている

一工程で此処まで堅牢な障壁を、それも着弾位置まで合わせるとは恐れ入る


だが、それは悪手―――


弾丸は、その衝撃で砕け散る

障壁によって逸れた破片は、障壁の外にある少年の右腕に数多の傷を作り上げた


??「……何故、魔術師が、拳銃?」


その思考が、甘いんだよ

相手が魔術師であると決めつけるな

勝ちに対する貪欲さがまるで足りない、才能故?資質故?

金髪の少年の表情が、此処にきて初めて困惑に歪んだ


――強者如きが、弱者を舐めるな


俺は、間髪いれずに攻撃を続ける

それに呼応するように『セイバー』も攻勢に移る

『セイバー』の守りの剣から攻めの剣へと移行する

その熾烈な攻撃はまさに暴風

剣を振るう度に鋭さと力強さは増していき『バーサーカー』を押し出していく


セイバー「――刃向かうのなら、打ち砕くのみだッ!」


鍔にて押しのけ、刃を叩きつける

『バーサーカー』は体勢を崩す


セイバー「風よ…吼え上がれ!!」


セイバー「卑王鉄槌(ヴォーティガーン)!」


魔力を帯びた巨大な黒い剣が真上に振り上げられる

『バーサーカー』に避ける手段はない

ただ、その強烈な一閃をその身に受けるしかなかった



俺は腕を抑える金髪の少年を狙い撃鉄を打ち鳴らす

だが、弾丸は悉く完全に防がれた

弾丸は彼の目の前で止まり、炸裂することなく足元へと落ちる

先ほどの一撃だけで理解したのだろう

加速そのもの停止させている、結界を張ったか

停止結界とでも言っておこう

良い、それで良い

銃に警戒していろ、そのまま

俺は、銃を構えたまま、金髪の少年に向かい走り出す


??「その手はもう効きません!」


対魔力用の障壁は万全

攻撃用の魔術も組み上げているだろう

こちらが弾切れを起こしたら反撃に転じるだろう

俺は手にした銃を少年に投げつける

少年の目の前で銃が止まる

視線が隠れた!

俺はそのまま真っ直ぐに少年に向かい走り抜けると

勢いを利用して蹴りを放つ

予想もしていなかっただろう

対魔術用に作られた障壁では物理干渉を防げない

だが、勢いを乗せた蹴りも停止結界の前では無意味

少年は、寸でのタイミングで蹴りの方向を探知し止めてみせた

二重の策を止められた

少年の左腕からおびただしい魔力が溢れだす

アレを喰らえば、絶命する事は間違いない

それに二重の策を止められたからどうする

為らば、三重の策を持って潰せばいい―――!

足に巻き付けた針金に魔力を送る

魔力に反応した針金は求めるように真っ直ぐと少年の胸へと向かった


初手…錬金弾による威嚇

物理障壁以外の防御手段を確認

物理障壁から停止結界に移項

同時に対魔力の障壁を展開


次手…視界を奪ったうえでの武力制圧

対魔力の障壁を突破したことにより

針金による形質操作の行使が可能


詰手…障壁内部からの魔術行使

停止結界は‘対象物にのみ’発動

対象外である針金には作用サレズ…


この少年は魔術師として優秀すぎた

きっと、魔術師としての戦い方しか知らなかったのだろう

だから、俺を理解できない

魔術使いを理解できない

心臓に開いた小さな穴胸からは少量の血が滲んでいる

だが、少年はその傷を抑えながら荒く息を吐く


―――今、楽にしてやる


針金が蠢き心臓を蹂躙する

少年の口から大量の血が噴き出す

そして、すぐに地面へと倒れピクリとも動かなくなった

俺は針金を回収すると、血を拭き取ってケースに収納した

俺は『セイバー』へと駆け寄る

『セイバー』は警戒を解かず、ずっと前を見据えている


セイバー「……マスター、敵の様子がおかしい」


俺は、『セイバー』と同じ方向…『バーサーカー』へと視線を向けた



―――変わった



いや、戻った、というべきか

外見は変わらないため

何が、と言われれば難しい

だが確実に、明確に変化している

言うなれば『狂化』が解かれた?


???「はぁ、やっと解放されたかー…」


『バーサーカー』は大きな欠伸と一つする


???「聖杯戦争って楽しいって聞いたから付き合ってあげたんだけどなぁ…」


何を言っているかわからない

だが、俺はソレに口を挟めずにいた


???「場違いみたいだから帰るわ」


一閃、空間を切り裂く爪

そこに現れる大孔、『バーサーカー』はその孔に飲み込まれるように姿を消した



【2日目終了】



Side Sela


旦那様の願いはいつも私を困らせる

私だって、頭ごなしに否定しているわけではない

だが、あの方はいつも私の許容量を頭一つ分飛ばすのだ


リズ「セラのいじわる」


セラ「いじわるとはなんですか!」


リーゼリットはやれやれといった様子で手を上げる

まるで私が悪者みたいだ

私はただ従者としてあの御二方の傍らに、そしてお世話をする

それが私の義務であり幸せ

それを取り上げられるのは辛い

私のいるべき場所を取り上げられる

私はいなくてもいいと思われているのではないかと

私にはそれがとても辛い

勿論、旦那様もお嬢様もそんなことは思ってないと

私の被害妄想だと思っている

それでも私は…

……私の悪い癖だ

暗い思考を払拭するように頭を振る

今日は、より腕を振るおう

あの御二方の舌をうねらす

自分達が作る必要ないと思うほどの料理を…


END Side Sela
最終更新:2012年03月07日 03:06
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