十三代目リプレイ3

【3日目開始】



夢を見た

アイツが消えた日

それは、イリヤから初めて笑顔が消えた日

セラもリズも、イリヤを心配していた

見るに耐えられなかった

まだ幼いイリヤに突き付けられた『現実』が

だから、俺は誓ったんだ


あの子を―――と


だが、それはいつしか―――




目が覚めた。さすがに3日もすれば、この天井にも見慣れてくる

俺は大きく伸びをすると、体の状態を確認した


魔力回復量――正常

魔力許容量――前日より減少

肉体による負担――異常無し


やはり、魔力不足か…


1日目は『アーチャー』『ランサー』との連戦

2日目は『バーサーカー』との戦闘


それに加えて、『セイバー』を運用する際に伴う魔力消費量

霊化ができない、と言うのも消費の理由だが

『セイバー』の戦闘スタイルは俺とは合わないかもしれない

己がサーヴァントを十全で戦わせられないとは…

初めから予想していたことだが、『セイバー』には申し訳ない


だが、最初と違って思う事もある

それは、彼女の在り方は、俺と似ているところもあるんじゃないかと…

バカバカしい、と俺は頭を振る

王様の在り方が俺と同じなんて

それこそ『セイバー』に失礼だ


そんな事を考えていると、ノックも無しに部屋のドアが開いた


リズ「あれ、おきてた?ぐーてんたーく」


相変わらず気の抜けた返事だ

俺は苦笑して挨拶を返した


「ぐーてんたーく」


いつの間にか気持ちが楽になってる

本当にリズは不思議な子だと思う

リズと同じく気の抜けた挨拶

表情は変わらないがリゼも満足そうだ


セラ「リーゼリット、主人の部屋にノックも無しに入るとは何事ですか!」


セラ「それに、なんです、その挨拶は?」


後ろから入ってきたセラは、矢継ぎ早に言葉を捲し立てる

朝起きたばかりの俺には喧し…少し騒がしい

言い直したのは睨まれたからではない、断じて違う


リズ「大丈夫、セラは嫉妬してるだけ」


リズ「やりたいならやれば良いのに、ぐーてんたーく」


ベッドの上にいる俺に、リズは右手を伸ばす

俺もそれに答えるように右手を伸ばしてハイタッチ

パンッ

と手と手の平が合わされる


セラ「嫉妬とはなんですか、嫉妬とは!」


セラがまたお怒りになる

今日も、騒がしく大切な一日が始まった




着替えと朝食を終えた俺は、部屋で今後の事を考えていた


『アーチャー』『ランサー』『バーサーカー』


戦闘力の高いサーヴァントを悉く倒せた戦果は大きい

だが、残るサーヴァントも、俺にとっては倒した三騎と同等に厄介だ



気配遮断スキルを持つ『アサシン』
探知を行えないということは、マスターにとっては天敵である


陣地作成スキルを持つ『キャスター』
戦いが長引けば有利な陣地で魔力を溜められているだろう


機動力において他を圧倒する『ライダー』
クラスの特徴から強力な宝具を有する可能性が高い


『ライダー』ならまだ運用法がわかりやすいから危険度は低くない

問題は『アサシン』と『キャスター』だ


両サーヴァントは、最弱など言われているが

それは真っ向から対決した場合

効果的に使えばマスターによっては恐ろしい事この上ない

―――例えば、俺やアイツのように…


はぁ、と息を吐く

夢の所為で少々ナーバスになっているのかもしれない

まずは、情報だ

残ったサーヴァントの性質から日の高い内は出てこないだろう

なら少しでも情報を収集し対策を練る

さて、どうしようか

情報収集と言ってもやり方は何通りもある


戦闘が行われると考えれば、『セイバー』

若しくは、リズを連れていくべきだろう

だが、『セイバー』は目立つ

それにあの連戦だ

俺の顔は、残るマスターに割れていてもおかしくない

それに、リゼを連れて行っても日中は目立つだろう

俺自身が単独行動に移せば目立つ事はない

マスター相手には、引けを取らない自信はある

だが、初日の事もある

それに残るサーヴァントは搦手が得意な連中が多い

アサシンに辺りに暗殺されては元も子もない

なら、使い魔か…


俺は、サロンに向かいイリヤに使い魔の製作を頼んだ


イリヤ「もう、お兄様ったら仕方ないんだから」


イリヤが笑顔でそう言った

頼られて嬉しいんだろうか、イリヤは何処か機嫌が良い

俺とイリヤは互いに顔を合わせて額を触れ合わせた

イリヤを介して使い魔とリンクする


イリヤ「……で、何処へ向かわせるの?」

「新都へ頼む」


撒いた『セイバー』の魔力を嗅ぎつけて

新都に向かったマスターがいないとも限らないし

外来のマスターなら新都の何処かに拠点を置くはずだ

イリヤは、使い魔を操作し、森を抜けて新都を目指していく

使い魔が戻るのは『夕方の終わり』頃になりそうだ


「ありがとう、イリヤ」


俺はイリヤに礼を言って、サロンを出ようとした時だった


…ッ!


脳に軽い痛みが奔る

俺は急ぎ、イリヤを診る

イリヤも頭を押えているみたいだが、意識はハッキリしているみたいだ

どうやら、新都に使い魔が付いた途端に使い魔からの情報が途絶えたようだ

使い魔が破壊されたか、若しくは強制的にリンクを絶たされたのか

新都に侵入した途端に発見されたとは…

陽が高い内に魔術を行使したのも原因か

まぁ、これで『新都に魔術の知識を持つマスター』の存在は確定した

闇雲に探さずに済むと思えば良い

もう昼食の時間か

俺は、頭を擦るイリヤを抱き上げた


イリヤ「もう、子供扱いばっかり!」

そんなイリヤに俺は微笑んで、食卓へと向かった

それは、昼食が終わって立ちあがろうとした時だった

急に世界が回る感覚を覚えた俺は、そのまま立ちあがれず座り込んでしまった


イリヤ「お兄様!?」


セラ「旦那様!?」

「―――大丈夫だ」

セラが慌ててこちらに向かうのを手で制する

代わりに水を頼んだ

セラは汲んだ水を、こちらに渡してくれる

俺は一気にあおって気分を落ち着かせた

どうやら、魔力不足が起こした立ち眩みだろう

全く…まだ三日目だと言うのに情けないな

状況察したイリヤ達と俺は、話し合いを始めた

セラ「…戦闘を控える、程度しか思いつきませんね」
セラ「魔術の鍛錬をすれば、消費魔力を下げられますが今からでは…」

リズ「うーん、いっぱい食べていっぱい寝る?」

「食べて寝るのは、今やっていることと同じだな」

2人の意見は似たようなものだった

消費を抑え、回復を優先

戦闘を控えるのは却下、残るサーヴァントが脳筋ばかりなら籠城はうってつけだ

だが、『アサシン』や『キャスター』のようなサーヴァントには効目は薄い

こちらの戦闘を観ているはずだ

なら残った陣営で同盟を組んでいるということも、十分に考えられる

悠長に構えている暇はない

それと、魔術をまともに覚えるのに一苦労する俺が

一朝一夕の鍛錬で良くなるとは思えないので、それも却下

セイバー「…情けないぞ、マスター」

『セイバー』が2人の意見を遮るように言葉を紡ぐ

セイバー「万策尽きたという訳でもない、弱音を吐いてどうする」

セイバー「そなたは力がないならば、策を練る、そんなマスターだろう」

『セイバー』に至っては根性論に近い

やれることをやれ、という事だろう

だが、彼女の意見は『魔術使い』の考えたに通じるものがある

魔術を誇りに想うのは『魔術師』のやることだ。

俺にとって、所詮魔術など数ある道具の一つ

『魔術使い』ならば魔力を使わずに勝つ方法も視野に入れるべきか

『セイバー』には感心させられることばかりだ

初めは、『セイバー』クラスに不安を感じていたが

今なら確信出来る

この『セイバー』が俺のサーヴァントで良かったと…

『セイバー』は俺にとって『道具』ではなく

『共に闘う仲間』となっていた


イリヤ「私が『セイバー』のマスターになってあげられたら良かったのに…」

イリヤ「それか、お兄様に魔力を分けてあげる、とか?」

イリヤの意見

俺にとってはとても悩ませる、そんな発言だ

セラも、同じ考えに至っていただろう

だが、口を噤んでいる

つまり、『イリヤすらこの戦果に巻き込むのか』

『魔術だけでなく』『イリヤも道具として扱うのか』

俺は、そう自分に問いかけた

『魔術使い』の俺ならば愚問だろう…

勝つ為なら、なんだって使ってやる


だが、『イリヤが信頼』する俺はどうだ

そう、これも愚問だ、その問いかけ自体が愚問なのだ

俺は、イリヤの案に乗らない

代わりに、イリヤの頭を優しく撫でた

そして、首を振る

はぁ、と嘆息してしまう

全く自分の無力さに嫌気が差す思いだ

「イリヤが戦う必要はない」

俺は断言する。これは俺がしなくちゃならない

きっと、イリヤはずっと俺を気に掛けていてくれたんだろう

俺が使い魔の制作などをイリヤに頼るたびに、喜んだのはそのせいだ

イリヤ「もう、お兄様は私を子供扱いするんだから…」

頭を撫でられているイリヤは、少し頬を膨らますが嬉しさのほうが強いのか

その声色は柔らかい

セラと、リズに視線を向けると、彼女達も小さく頷く

『セイバー』も満足そうに頷いた

セイバー「それで良い、そなたが決めたのだろう」

そんな一言に、俺は苦笑した顔で返した

話している内に夕方になっていた。

そうと決まれば、やることをやっていこう

俺は、ヘルメットを小脇に抱えて『セイバー』に声を掛ける

「一緒に行こう」

セイバー「よかろう」

セイバーは何処となく機嫌が良い。

どうしたのだろうか?

セイバー「で、何処へ向かう?」

「新都に行こうと思う」

使い魔の情報が新都に入った途端に途切れた

マスターがいる確率は極めて高い

『セイバー』は頷き、俺の後ろに腰を下ろした

道路をバイクが走る

『セイバー』と二人でいるのは、実はそう多くない

二人でいてもお互い無言だ

だが、居心地は悪くない

俺はそんな空気が好きだった

何も話さなくてもわかる、そんな空気が

新都の街に入り、手頃な場所にバイクを止める

使い魔の反応が消えたのはこの辺りか

俺と『セイバー』は歩を進めていく

目に留まったのは広い公園だった

公園に入り、しばらく歩くと遠くに人の姿が見える

その居出立ちは白髪白髭の老人、その傍らには露出の高い服を着た少女

セイバー「……あの女の気配」

セイバーが警戒を強めていく

俺にもわかる、アレはサーヴァントだ

しかしわからない、何故霊化を解いている?

それに、マスターであろう

あの白髪白髭の老人

だが、その『老い』からは『衰え』を感じない

老いてなお、あの威圧感

いや、老いたからこそ為せるモノなのか

俺の勘が嘯く

あの男は強い

その老人は公園の花壇を見つめている

???「……マスター、どうしたの?」

横に並び、花壇を眺める老人を見つめる少女

老人「……いや、妻の造園を思い出しただけだ『アサシン』」

俺は、その一言を聞き逃さなかった

『アサシン』だと…?

あの老人は、気配遮断スキルを持つ『アサシン』をあろうことか

霊化を解き、隠れもさせずに戦っているというのか?

何故だ…?何のために?

陽動?囮?

それにしても迂闊すぎるだろう

若しや、既に同盟を組んでいるのかもしれない

それ故に…?

俺は、判断に迷った

相手はまだ此方に気付いていない

もう少し様子を見るか…

老人と『アサシン』は会話を続けている

アサシン「くえすちょん。次はどこへ行くの?」

老人「正々堂々と、マスターを探し倒す、わかったな『アサシン』」

…なんだと?

正々堂々と…?

アサシンで…?

あの老人は何を言っているんだ…?

アサシン「わたしたちをそうやって戦わせるひとは珍しいよ?」

そうだ。その通りだ

いや、珍しいなんてもんなじゃない

十人いれば十人が気配遮断を用いてマスターを暗殺させる

老人「そうだろうな、だがわしはそれが一番だと考えた、今のわしは騎士でありたい」

不満か?と老人が問えば、『アサシン』は首を振った

…馬鹿な

馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な…!

こんな戦いに騎士道を持ち合わせるだと…?

俺は、静かに怒りを燃やしていた

俺が感じた老人への強さはそんなのじゃない

あれは、俺や、切嗣と同じ

魔術師なんかの誇りは持ち合わない

敵を殺すことを目的とする為なら手段は選ばない

そうして来たからこそ、今の自分がいるんだろう…!

それを、騎士道だ?決闘だ?

ふざけるな―――!

これは嫉妬にも似た感情

俺が抱いていたもの、俺が捨てたもの、いや諦めたもの

それをあの老人は今も持ち合わす

気付けば、俺は老人の前に立っていた

『セイバー』も黙って俺の後を歩く

霊化が出来ない彼女は当然、実体のままだ

「おい爺さん」

俺は、苛立ちを隠さずに老人を呼んだ

老人「何か用かな、若きマスター君」

アサシン「…?」

俺と、『セイバー』を一目見ただけで、老人はそう口にした

やはり、この老人は強い

だからこそ、腹立たしい

自分に合った戦い方をすれば

『アサシン』を十全に発揮すれば

この戦い、いとも容易く終わらせられるだろう―――!

セイバー「決まっているだろう、貴様も今さっき口にしていた筈だ」
セイバー「マスターを探し、倒す、だろう?」

『セイバー』はドレス姿のまま剣を構え、アサシンへ突き付けた

一触即発

そんな空気だ

だが、止める必要はない

あの老人も、『セイバー』も言っていた通り

探し、倒す

俺は、一歩引いて『セイバー』の後ろについた

「『セイバー』、『アサシン』の相手を頼む」

セイバー「任せるが良い、全てを斬り伏せて見せよう」

『セイバー』は剣を一薙ぎする

ドレスは消え、代わりに黒い魔力で編まれた鎧が装着される

老人も、アサシンの後ろに一歩引き体勢を整える

『アサシン』も両手にナイフを構え、今にも跳びかかれる、と言った様子だ

ダン「ワシの名はダン・ブラックモア」

老人―――ダンは静かに、厳かに自らの名を挙げた

ダン「名を聞かせて欲しい、決闘の相手に若きマスター君では恰好が付かないだろう?」

ふざけるな―――

俺は直ぐ様、ダンに向かって走る

セイバーも同様に『アサシン』へ向け大剣を振り下ろす

鉄と鉄がぶつかり合う音が響き渡った

『セイバー』の強打に、『アサシン』はふらついた

当たり前だ、正攻法で剣士と暗殺者が戦えば、こうなる

俺はその隙を見逃さない

怒りを抑えられぬまま彼我の距離を狭めていく

名乗り?

決闘?

何を勘違いしてやがる

これは、戦争だ

相手の矜持も、栄光も、何もかもを台無しにする

あるのは勝利だけ、

この勝利を得る為なら、どんな手段を用いても構わない

俺達が行っているのは戦争だ…!


俺は懐から針金で組み上げたナイフを取り出すと、ダンへと投げつける

ダンは、焦った様子も無く体を傾けるだけで待機

ナイフは、そのまま花壇へ落ちると針金に戻る

ダン「『アサシン』、『暗黒霧都』の使用をサーヴァントに限定し許可する」

ダンが、何かを呟く

その瞬間、灰の暗い霧が辺りを囲み中にいた『セイバー』と『アサシン』が姿を消した

中の様子が全く分からない、此方の認識を阻害する結界宝具か?

『セイバー』の姿が確認できないがアレでは苦労するだろう

それにさっきのダンの言葉

サーヴァントに限定、と言う事は

その気になれば広範囲にしよう出来ると言ってるようなものだ

舐めてくれる、侮ってくれる!

俺は、小さく舌を打ち近接戦闘へと移行する

左手に針金で作り上げたナイフを持ち

中腰で構えを取って彼我の差を更に縮める

CQC―――拳銃とナイフを多用する俺に相性が良い格闘術だ

ダンもまた、腰を低く構え迎撃の態勢を取ろうとする

遅い!

俺は構えきれていない左足を踏み倒そうと、蹴りを突き出した

だが、ダンはそれを待っていたかのように蹴りを返し、体を前に出す

読まれた―――!

突き出した蹴りをいなされ、片方の軸足が揺れる

俺の左足を打ち抜き様に、擦り足を合わせた体重移動

左足は、ダンの右足に引っ掛かり拘束される

一つ一つの動作に全く以ってノイズがない――

為らば…!俺は右肘を突き出し、顎を狙う

ダンは左腕を前に上げ、これを防御

そのまま俺の右肘を固定して、右の掌打で顎を打ち抜く

がッ…!

視界がぶらつく、体の芯が強制的にぶれる

俺は、歯を食いしばって堪える

左右の拳を持って連打を放つ

ダンは、前に体を乗りだしながら悉く回避する

退かないか!

そのまま、連打を繰り返そうと右の拳を突き出した時だった


俺の世界が反転する


襲ってきたのは背中への衝撃

一瞬息が詰まる

直投げされたのだろう

倒れた俺に、ダンは足を踏み上げる

不味い…!

咄嗟に避けて、そのまま跳び引く

俺は、息を整えようと呼吸を繰り返す、惨めなほど息が荒い

ダンの格闘術は、経験と技量によって培われたモノだとわかる

あれは、達人の域だ

それに、あの格闘術…なんだ、アレは

どれにでも、属しているようで、どれとも違う

あえて言うなら…全ての原型…?

まさか、フェアバーン・システム?

軍隊格闘の源流、全て亜種に変わったと思っていたが

使い手がまだ存在するのか

ダンから追撃は無い…


ダン「若いな、未熟さを隠しきれていない」


黙れ――!

俺は、ダンへと走り出し刺突を試みるが

易々と避けられ、交差した直後に背中を肘鉄を打たれる

一瞬、呼吸が出来なくなる

そのまま俺は体制を崩すが、なんとか持ち直して後方に距離を開けた

鈍い痛みが全身を走る

とりわけ、背中への痛みが激しい…

身体強化の魔術を使っていても芯に響けば変わらない

やはり、この男は強い…!

防戦一方

俺が攻めあぐねていると、一瞬魔力を吸われるのを感じる

霧を観る

その時、霧が爆ぜるように晴れる

代わりに黒く猛々しい魔力が吹き荒れた

セイバー「この程度、他愛無い」

『セイバー』の固有スキル『魔力放出』か――!

魔力のジェット噴射で【宝具】を払いのけるとは…

規格外だな…『セイバー』ッ!

『セイバー』から、黒い魔力の風が俺の頬を伝う

何故だろう、安らぎを感じるソレに、ようやく俺は我に返る

大きく息を吐き、思考をクリアにする

怒りを鎮めろ…怒りで身を焦がすな…判断を鈍くする

頭は冷静に

代わりに心を―――

闘志を燃やせ―――!

俺は、左手のナイフをダンへと投げつける

ダンは体の軸を変えて避けるが

一瞬の隙を付き、拳銃を構えダンに標準を向けた

格闘戦に拘る必要はない、この身は『魔術使い』

使えるもの全てが道具だ

構え直す俺を観たダンは、僅かに口角を上げた

ダン「良い眼をする、前言を撤回する必要があるかな?」

『セイバー』は魔力をジェット噴射させながら『アサシン』に迫った

敏捷のランクは『アサシン』の方が高い

だが、『魔力放出』で指向性を持った魔力に乗る『セイバー』の速さは

初速、直線距離であれば、どの英霊をも凌駕する

その勢いは、『アサシン』の俊敏性をもってしても回避出来るモノではない

アサシン「―――ッ!」

ついに捉えられた

防御すらも間に合わず、黒い聖剣は『アサシン』に突き刺さる

断末魔さえ、あげさせない

突き刺さった聖剣からは魔力が噴出し、『アサシン』を吹き飛ばした

吹き飛ばされながら、塵になっていく体

セイバー「…せめて、祈れ、少しは楽になるだろう」

バイザー越しから視る『セイバー』は剣を下ろして黙祷を捧げた

ダンへと向けて弾幕を張る

バレルの刻印が起動し、刻まれた術式は錬金弾を加速させる

加速、加速、加速―――!

拳銃ではありえない威力と、速度を持った弾丸がダンを撃ち抜かんとする

しかし、ダンは全て避けきる

銃弾自体を避けることは不可能に近い

だが、ダンは向けられる銃口と、俺の目線から予測して回避してみせた

ダン「銃か、そんなモノは狙撃手の眼を持ってすれば――」

そんなこと知っている

この男ならやってのけるさ

これで終わりじゃない

俺は引鉄を弾き続けることで、ダンをある場所へと誘導した

誘い込んだ場所は花壇

そこには、針金が2本落ちている

銃を撃ち続けながら、少しずつ魔力を針金に流していた

気付かれないように、悟られないように

セイバーの『魔力放出』によって濃密な魔力が公園を漂う

そして、わざとサイレンサーに魔力を過剰供給していくことで

ダンは、針金に魔力の反応が通っていくことに気付かない

幾ら、弾丸を回避し続けるからといって

弾丸の脅威そのものは変わらない

神経を俺の銃に向けていなければならない

俺は、形質操作で1つはバネを作り、残り一本でナイフを作り上げる

ナイフを乗せたバネは、魔力によって更に力を加えられ畜勢される

ダンが、徐々に花壇へと背を向けていく

ダンの背中がナイフと直線状に向かい合う


跳べ―――!


十分に、畜勢されたバネは、待ち焦がれたかのように解き放たれる

バネによって勢いをつけて飛来するナイフは音も無くダンの背中へと突き刺さる

ダン「惜しいな、だが…ッ――!?」

防弾着を身につけているダンには、ナイフの切っ先しか刺さっていないだろう

だが、それで十分

Zuruckbilden(戻れ)―――!

ナイフは銀色の針金に戻り、傷口へと侵入していく

背中から針金が体内へと飲みこまれていく

縦横無尽に体内を蹂躙していく銀の針金

治癒すら許さぬ、この魔術

ダンと目が合う

憎いか…?

決闘を許されなかった、この戦いが

俺が憎いか…?

―――満足だよ

唯…、老婆心ながらに忠告しよう…

いいかな未来ある若者よ。これだけは……。忘れるな……

最後まで、勝ち続けた責任を、果たすのだ。

ダンは、その顔に微笑みを残したまま死へと誘われた

終わった…

全身に、打撲による痛みと魔力不足によるふらつきで、俺はその場に座り込んでしまった

『セイバー』は大股で此方に歩み寄る、手を貸してはくれなさそうだ

セイバー「たわけめ、そなたらしくもない」

「…俺らしくない?」

セイバー「大方、あの老人の言に惑わされたのだろう」

どうやら、俺は自分の想像以上に『らしくない』戦いをしていたみたいだ

確かに、初めは怒りに駆られて敵へと突進していた

でも…

「『セイバー』」

セイバー「む?なんだマスターよ」

振り向くセイバーに俺はありたっけの想いを籠めて

「ありがとう」

あのとき、頬になびいた『セイバー』の魔力に彩られた風

あれのお陰で俺は頭を冷やせたんだ

だから、ありがとう『セイバー』

セイバー「…フンッ」

『セイバー』はそのままそっぽを向いてしまった

感謝されるような事をした覚えはないといった感じか

俺は、苦笑すると体をふら付かせながら立ちあがる


セイバー「もう良いのか?」

「あぁ…帰ろう」

そうだ、折角だからお土産を買いに行こう

イリヤ達もきっと喜ぶ

そう思った俺は、バイクを停めた場所まで歩いて行った

バイクを走らせていると、セイバーが俺のヘルメットを叩いた

セイバー「マスター、アレはなんだ?」

叩かれた方に視線を向けると、『江戸前屋』という看板を発見した

手近なところにバイクを停めると、『セイバー』と共に店の前に寄る

どうやら、日本の菓子を取り扱っているらしい

今日のお土産はこれだな。

俺は、店員に勧められた商品を買い込んだ

たい焼き、どら焼き、大判焼き…

祖国のドイツには無い味だ

気付けば、5人分にしても少し量があるな…まぁ良いか

しかし、忘れていた、失念していた

俺が袋を渡したの誰だ、俺の後ろに腰をおろしているのは誰か

名に誉れ高き騎士王にして暴君、また別の名を腹ペコ王

それに気付いたのは、残念ながら城に着いた頃だった

夜、静けさが全てを包む冬木の城、城の中には明りが灯っている

イリヤ「お帰りなさい、お兄様」

リズ「イリヤとお出迎え」

セラ「……全く」

イリヤ達が、玄関の前で出迎えてくれた

「ただいま皆」

セイバー「王の帰還だ、持て成せ」

二人で玄関を潜ると、イリヤが腰にしがみつく

それから、イリヤは鼻をスンスンと嗅いでいく

どうやら気付いたようだ

イリヤ「お兄様?何か甘い匂いがするよ?」

「お土産だ」

俺は、『セイバー』からお土産袋を受け取った

はて…大分軽くなっているような?

疑問を浮かべたまま、イリヤにお土産袋を渡した

セイバー「味は私が保障しよう、お茶の準備を頼む」

…成程、道理で軽いわけだ

『セイバー』はバイクに乗っている間、半分以上を一人で食べてしまったのか

今度から、『セイバー』にお土産を持たすのはやめておこう

イリヤから花が咲いたような笑顔が浮かび上がる

まぁ、これが見れただけでも満足だな

俺は、イリヤと『セイバー』に続きサロンへと向かった

【3日目終了】


SIDE Caster

夜半が過ぎたころ

場所は冬木市新都ハイアットホテル

僕は、煙草を吹かすとホテルの最上階を見上げる

爆弾の設置、避難客の誘導は完了している

後は、舞弥からの連絡が掛り次第、左手にあるスイッチを押すだけだ

標的は時計台講師『ケイネス・エルメロイ・アーチボルド』

このホテルのスィートを全室取っているともなれば、嫌でも知れ渡る

今回の仕掛けは爆破だけじゃない、完全に殺しきるために、彼女を使った

僕の直ぐ後ろに霊体化して控えている英霊――『キャスター』が耳元に囁く

キャスター「こちらの結界も準備も整ったわ」
キャスター「発動すれば、魔術の行使を阻害出来るわよ」

さすがは神代の魔術師――『キャスター』には恐れ入る

自分は『魔術師殺し』と言われているが、彼女ほうが余程向いている

半分ほど吸い終えた煙草を投げ捨てた

今回、行動に移した事には理由がある

昨日の冬木大橋での戦闘

そして今日、新都で起きた戦闘

確信した、彼はこの戦いに参加している

きっとイリヤもいるだろう

ならば、僕は容赦しない

イリヤとアイリを外の世界に連れ戻す為に

そう…その為なら僕は…

……彼を殺してでも

それをなす為にも、手早く懸念事項は処理しよう

舞弥から連絡が来た

全ての準備が整ったようだ

僕は、左手のスイッチを押した

これは、僕から君への宣戦布告だよ、やんちゃな愛弟子くん


END Side Caster
最終更新:2012年03月08日 23:03
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