七代目リプレイ6


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――四日目、朝 自宅――



 花、鳥、風、月。
 この世のものとは思えないほどに美しい夜景を見ている。
 山紫水明、往く川の流れは絶えずして、千紫万紅、ただ春の夜の夢の如し。
 景色は決まった形を持たず、ただ美しいという在り方だけを変えずに、変わり続けた。


 ――夢だ

 誰が見たともつかぬ情景は、この世にあり得るはずもないもの。
 そうだと理解した瞬間。


「……つ、ぅ」


 目覚めは、左腕の筋肉痛から。

 夢はどれほど続きを見たいと望んでも、夢だと理解した瞬間に覚めてしまう。

「は、……っ」
 意識の覚醒と同時に、肺から息が零れる。
 首から走るようにして、肩甲骨、肘、手首。腰を回って、太もも、ふくらはぎ。
 体中の筋が、まるで針で刺したかのように、鋭い悲鳴を上げていた。
 緊張状態での魔術の連続行使は、普段のそれの倍以上に負担をかけるもの。

 ベッドから起き上がるのも億劫だけれど、やはり学校に行くために起きなければ。

 腕を支えに起き上がろうとして、無様に崩れる。
 左腕には、全く力が入らなかった。筋か腱かをおかしい方に捩じってしまったらしい。
 最低限の治癒魔術は施したけれど、恒例ながらもそういう消極的な魔術行使は苦手。
 どうにか酷い筋肉痛程度に収めることは出来たけれど、そこが限界だ。


 アサシンはいつも通り、窓の外を見ているようだった。
 自分が暮らしていた頃との風景の代り映えを、目に焼き付けているのだろうか。

 あの情景は、誰が見た景色か。

「…まあ、あの化け物と二日連続で殴り合ったんだから、これで済んだのは僥倖よね」

 声をかけてくれるな、と、背が語っているけれど、無視して声をかける。
 なんというか、酷く寂しそうな背だったから。

「そう言うならば、渡り合っていたお主も十分化け物だがな」
「……」

 返ってくるのは、いつもの軽口。
 いつも通りで安心はするけれど、やっぱりいつも通りに腹が立つ。
 花だなんだと騒ぐ割には、どうも私はアサシンに花扱いされていないんじゃないか。

「女の子を化け物呼ばわりするのが、貴方の武士道なの?」
「ふむ、花は花でも食人花というものがあってだな」


 強化の魔術を込めて放った枕は、霊体化によって難なくかわされた。



――四日目、朝 通学路――



 魔術で施錠して、自宅を後にする。
 咥えたトーストを落とさないように、小走りに。
 アサシンの挑発に時間を食ってしまったため、歩いていては遅刻する。
 担任は冬木の虎。面倒は起こしたくない。


 信号待ちのうちに、今後の展望を練る。
 間桐桜。話したことはないけれど、見かけたことは何度もある。
 それこそ相手は御三家、意識しないわけにもいかない。

 藤色の髪をした、か弱そうな女の子だ。
 お淑やかで、大人しくて。アサシンは女性を花に喩えたがるけれど、彼女はまさにそれ。
 名前は桜だけれど、どちらかというと菫とか桐のように、ひっそりと咲く花の方が似合う。
 ミス穂群原である遠坂凛の地位を脅かす存在として、密かに私が期待を送っていた後輩でもあったんだけれど。

 彼女が囚われている。おそらくは、バーサーカーのマスターとして。

 聖痕が残っているのなら、まだマスターとして聖杯戦争に復帰できる。
 おそらくは間桐は、再び彼女を拠り所に、新たなサーヴァントを従えるのだろう。

 死に際の雁夜の姿が脳裏を過ぎった。
 皮膚の下で蠢くアレを、確か彼は『刻印虫』と呼んでいた。魔術回路を失った魔術師から、魔力を搾り取るモノ。
 もし彼女も間桐の家系なら、魔術回路は存在しないはずだ。
 バーサーカーを現界させるための手段は、それしかない。

 ゾ、と嫌な予感が走って、振り払うように顔をあげる。


「……遠坂、さん?」
 視線の先に見慣れた赤い外套を見て、私はもう声をかけていた。
 此方に気付いた影が、振り返る。

「あら、おはようございます、文月さん」

「……ぅゎ」
「何か御用ですか?」
 そうだ、猫被りモード。通学路には登校中の学生も居るから、彼女は優等生の皮を被るのだ。

 けど、なんていうか、こう、不気味。
 満面の笑みに、甘ったるい猫なで声。実の両親のラブシーンを見てしまったかのような、言葉にできない気持ち悪さ。
 昨日の彼女を見てしまっているから、違和感が果てしないのだろう。

 余計なことは言うなよ、と、笑顔で無言のプレッシャーを浴びせかけてくる。
 別にその主義に口出しするつもりはないけれど、此方が合わせなきゃいけない道理だってないし。


「聖杯戦争の件なんだけど、桜って娘の体に刻印虫が仕込まふぁもが」
「ちょっとアンタ何考えてんのっ…!?」

 ばちん、と音がするほどの勢いで口を塞がれる。
 息を呑むほどの剣幕。一瞬で剥がれる化けの皮。
 確かに、私も迂闊だったけれど。

「…場所を変えましょう」

 口をふさがれたまま、こくこく、と頷く。あー、ビックリした。


 通学路を逸れて、人気のない裏路地へ。
 人一人がようやく通れるほどの細さの道に来てから、彼女は私をジロリと睨んだ。

「魔術の守秘は魔術師の最低義務でしょ。少しは考えなさい…次やったら、管理者として黙ってはおけないわよ」
「いや、その…ゴメン」
「…貴女、考えるより先に体が動くタイプじゃない?」

 然り、と、後ろの方でアサシンが笑っている。
 胸糞悪い、さっさと本題に入らなければ。

「…『刻印虫』」
 凛は此方の言葉を繰り返す。
「そういう件なら、知り合いにそういうのを得意にしてる魔術師がいるわ」
「治療魔術?」
「毛色は同じね。大別すれば治癒だけれど、『傷を治す』のではなく『傷を開く』奴だから」
「…なるほど」

 わずかなニュアンスの違いでも、魔術行使には大きな差異が伴う。

 遠坂曰く、やっぱり間桐の『刻印虫』は魔術回路の代わりになる代物らしい。
 とはいっても、魔術回路は神経と同じ。それを無理矢理作るのだから、想像を絶する感覚なのだとか。

 ともかく、だから傷を開くのだ。
 外科手術と同じで、体内に埋め込まれた異物は取り出さなければならない。
 そういう意味で、遠坂の知人はうってつけ。

「なんとか頼みこんで、やってもらうしかないわ…頼りたくもないような奴なんだけど」
「…お願いするわ」

 私じゃ、どうにもならないことだ。

 魔力を込めた拳で殴る、力の蓄積の一段階上、『濃縮』。
 私の単純な魔術特性では、間桐の娘は救えない。
 実体・不実体を問わず殴ることは出来ても、体の中から虫だけを、なんて器用な真似は出来っこないのだ。
 おそらく遠坂自身にしても、それは同じことなのだろう。
 やり場のない悔しさに拳を握りしめているのは、私だけじゃない。

 ぐ、と沈黙を噛みしめて、頭上に響く鐘音。


 キーン、コーン、カーン、コーン


「……あ」

 顔を挙げたのは、優等生の遠坂の方が早かった。
 何のチャイムだろう、と、一瞬だけ迷う。
 そもそも私は何のために、満身創痍の体を無理矢理に起こして来たんだっけ。

「…遅刻確定ね」
 ぎこちなく笑いかける私を、遠坂は恨みを込めて睨む。
「……」

 時間を忘れていたのは、遠坂だって同じだ。私一人のせいじゃない。
 そりゃ、まあ、呼びとめたのは私だけど。

 何か言いたげに睨んでくる彼女には早々に別れを告げて、私は路地裏を後にした。

 そろそろ、悠長に学校に通っている暇もなくなってきたのだ。
 実質、今日学校に行く目的は、遠坂に間桐の話を聞くためだけだったし。
 もとより、真面目な学生じゃない。担任の虎には、やっぱりあとで仮病を使おう。



――四日目、昼 新都――



 学校をふけった私は、そのままの足で新都に向かった。
 補導されるのも面倒だし着替えようかとも思ったけれど、コートの前を全部締めれば問題ないだろう。
 今日はかなり冷え込むし、特に不自然でもない。
 指定の学生鞄は、コインロッカーにでも閉まっておくとして。


 以前から感じていた、ちょっとした違和感。

 おそらくは魔術行使の余波というか、残滓というか、その程度のものなんだけれど。
 聖杯戦争が始まる少し前から、この近辺で感じていた違和感。
 結界…ではないだろう。似て非なるモノ。どちらかというと、私を拒むよりも誘っているような気配さえ感じる。

 私が抱えている問題は、間桐の件だけじゃない。
 他のマスターに関しても、同等に注意を払っておかなければいけないのだ。

「…探るか」
(探る、とは?)
(魔術師が探るっていったら、使い魔とか、探知系の魔術とかでしょ)
(お主にも、そんな器用な真似が出来たとはな…)

 あれ、不思議。手がグーになってる。

 とはいってもアサシンの言う通り、探知系の魔術もからっきしだ。私の魔術特性は、攻撃に特化しすぎている。
 使い魔の使役だって、遠坂を呼んだ時のような片道切符がせいぜいだ。
 視覚を共有したり、向こうが伝える情報を読み取ったり、魔術の初歩の初歩が私には難しい。

 そういえば、私はあくまで「特殊」なのであって「優秀」と同義ではない、と、魔術の師にも耳にタコが出来そうなほど言われたっけ。



――四日目、放課後――



 予想を裏切らず、三十分、一時間。
 昼食は近くのホットドッグの露店で済ませ、さらにもう一時間。
 少しの魔力の綻びも見逃さないように、視覚には強化と広域化を施しても。


(…やはりな)
(やはりって何よ)

 これだ、と思う発見は無かった。

 なんとなく、把握はついているのに。
 吸精行為でも行わない限りは、サーヴァントがこんな街中で魔術行使を行うメリットが無い。
 十中八九、マスターの工房が近くにあるはず、なのだけど。

 どうもあと一歩というか、灯台もと暗しというか、近くにあるのに見逃している感じがする。
 こういう抽象的で漠然とした把握なら出来るのに。
 わかっているのに見つけられない、というのであれば、どうにも相手が上手らしい。


(相手が上手というより、……いや、やめておこう)

 こ、の、

 ああ、ダメだ。アサシンのいつもの軽口も流せないほどに疲れている。
 体力には割と自身はある方なのだけれど。

(日は暮れつつあるぞ。どうする、夏奈)


 決まっている。
 自分のサーヴァントにここまで馬鹿にされて黙っていては、マスターの名折れだ。
 もう得手不得手なんて関係ない、探知の魔術でも何でもやってやる。

(まあ良い、現世の街を歩き回るのも、中々)

 アサシンはどこ吹く風、完全に観光気分だ。
 まるで初めから、私に見つけられるはずが無いとでも言いたげな。

 頭に来た。その生意気な二枚目に吠え面かかせてやる。
 魔術師の真骨頂、とくと見さらせ――




(物見遊山も堪能した。そろそろ帰ろうではないか)


 違う。悪いのは私じゃない、相性だ。

 夕日が沈み、人もまばらになった新都のど真ん中で、一人肩を落とす。
 確かに戦闘に特化した魔術特性ではあるけれど、それ以外が出来ない、というわけでもないはずなのに。
 結局は私の修練不足たるところなのだろうか。


 成果…と呼べるものはないけれど、とりあえずわかったことだけでも遠坂に連絡しよう。
 以前までとは違って、今は正式に同盟と呼べる仲だ。



――四日目、夜 新都――



『新都ニ魔術行使ノ気配。場所ノ詳細ハ特定デキズ。魔術師ニヨル工房作成ノ可能性アリ』

 触媒には、血液と土、それから頭髪。
 動物の死骸なんてあれば完璧なんだけれど、そんなものが都合よく街中に転がっているワケもなし。

 魔力を込めると、ぼんやりと人魂のような燐光が宙に浮かぶ。
 特定の形を持たない幽体。一方通行でメッセージを届けるだけの、最低ランクの使い魔だ。
 ふよふよとシャボン玉のように浮いて揺れて、何とも頼りない速度でゆっくりと空へ上がっていく。
 けれどもこれで十分。というか、今はこれしかできない。

 暗号めいた手紙は、最低限の文字で済ませている。あまり容量が大きすぎると、調整が難しくなるからだ。
 携帯電話のメールと同じで、重いものほど時間が掛かってしまうし、最悪辿り着く前に力尽きてしまう。
 特に、繊細な魔術の操作が苦手な私は、よくその目安を測り間違えては師匠に呆れられた。


 ものの数分で、遠坂のものと思しき使い魔が返ってくる。
 紫水晶で作られた、例の梟だ。

(…お主が使い魔を作るより、返事が返ってくるまでの時間の方が早かったな)
「うるさい」

 それにしても、なんで返事を返して来たんだろう。
 特に返信を求める内容でも無かったと思うのだけど。


『遠坂邸マデ参ラレヨ』

 これだけ綺麗で凝った使い魔を飛ばして来て、用件はそれだけだった。



――四日目、夜 遠坂邸――



 煉瓦の敷き詰められた坂を登り、深山の住宅街の一番上を目指す。
 幽霊屋敷とまで呼ばれている洋館は、遠くから見ても中々の迫力。
 冬木広しといえども、玄関の前に門がある家なんて、此処を除けば衛宮と間桐の家くらいだ。

 アサシンは霊化させたまま、周囲の警戒を頼んでいる。
 時間も時間だし、残りのマスターの動向も未だ知れていない。
 まだ油断のならないこの状況で、それでも私を呼びだしたということは、それなりの事情があるのだろう。

 門前には、遠坂が一人で立っていた。ライダーは霊体化させているらしい。
 別に、私を迎えるために待っていた、なんて気の利く女じゃない。
 この手の魔術師の邸宅は、部外者が入るには難儀な結界が張られているのだ。
 スムーズに入るには結界を取り除くか、家の主と共に入るか。


「あら、早かったわね」
「…用件は何?」
 同盟を組んではいるものの、仲良しこよしという間柄じゃない。
 私は彼女が苦手だし、彼女だって私が苦手なはずだ。そんなどうしようもない用事で、

「用件っていうか、直接話を聞いておこうと思っただけよ」

 どうしようもない用事で、私は呼ばれてしまったらしい。

 不満を隠さない私の表情を見て、遠坂が付け足す。

「…あんな不出来な使い魔で、伝わる情報なんて限られてるでしょ」
「明日学校でも会うのに」
「アンタが真面目に登校してくる保証が、どこにあるのよ」

 う、と、言葉に詰まる。
 いつもの調子で言い返せればいいのだが、なにぶん今朝は彼女の目の前で堂々とサボったのだから、言い逃れは出来ない。

「それにアンタのことだから、うっかり一般人の前でもそういう話とかしそうだし」
「…わかった、私が悪かった」
「わかればよろしい」

 満足そうに頷いた遠坂に招かれるがまま、遠坂邸へと足を踏み入れる。
 罠の可能性も捨てきれない、念のためにアサシンに探らせようか――

 いや、やめだ。
 同盟だと言ったら同盟なんだ。
 招いた時点で遠坂だってかなりの割を食っている。それを更に疑ってかかっては、魔術師以前に人としての礼儀に悖る。
 それでも裏切られたのなら、その時はこちらも容赦なく、全力で対応すればいいだけ。

 それに、遠坂はそういう類の人間じゃない。
 倒すなら正面から正々堂々と、圧勝で飾らなければ気が済まない奴だ。


 バーサーカーも悠々と通れるほどの玄関を抜け、靴下が滑ってしまいそうな廊下を歩く。
 通されたのは、赤で統一された居間。目にも鮮やか、というか鮮やか過ぎてちょっと目の奥が痛い。
 レースのカーテン、毛布のように滑らかな絨毯、私のベッドよりもふかふかのソファー。

 なんというか、雲の上に来てしまった気がする。


「何? 硬くなってんの?」
「…別に」

 認めると、負けな気がする。
 例によって霊化したままのアサシンが笑うけれど、今は無視。

 さっさと帰りたい。なんというか、すごく居心地が悪い。
 注がれた紅茶も、おそらくはかなりの高級品なんだろうけれど、味が全然わからない。
 そもそもそういう高貴な文化とは縁遠いのだから、味の違いなんてわかるはずもないけれど。

 美味しいです、と、一応でも褒めておいた方がいいのだろうか。


「…新都の魔術師、ね」
「え?」

 急に遠坂の声に引きずられたので、思考が一瞬混乱して聞き返してしまった。
 何それ、紅茶の銘柄? とでも口走ってしまった日には、この女なら同盟破棄も辞さないだろう。

「確かにあそこに工房を構えている魔術師はいるわ」
「…知ってたの?」
「聖杯戦争が始まる前から、見周りはしていたもの。異変があれば、すぐ気付くわよ」

 当然の準備でしょ、と、優雅に紅茶を啜りながら言われて、返す言葉はない。
 どうせ小細工が苦手な猪突猛進女だ、私は。

 それにつけても、遠坂は冬木の管理人。
 自分の土地で起きている異変は、逐一管理するのが彼女の仕事でもある。
 やはり同盟を結ぶにおいて、これ以上頼りになる相手はいない。

「正体とか、どこの家系とかはわかる?」
「それを簡単に此方にバラすような手合いだったら、苦労はしないんだけどね」

 苦々しげに溜息を吐く。かなり苦労しているようだ。


「とにかく、私の方に情報が無いってことは、外来の魔術師ってことよ。間桐とは関係ない」

 なんで、ここで間桐が? わからず、遠坂を見る。
 まるで聞き分けのない妹を嗜める、姉のような視線。

「だから、くれぐれも特攻することは無いように。攻めるにしても、もう少し情報を探ってみましょう」
「…余程に信用ないのね、私は」
「ええ、そりゃもう。英霊に殴りかかるような気狂いだもの、安心して見てられますかっての」

 背中を預けるこっちの身にもなれ、と、責めるように睨まれる。
 そんなこと言われても、本当に私にはあれしかないのだ。
 みんながみんな、遠坂のように何でもできるわけじゃないんだから。

「新都のにしても、間桐にしても…魔術師の工房に攻め込むって、そういうことよ」

 再三の注意に、肩を竦ませる。
 特攻するしないは、私の勝手だ。言われたこと全てを鵜呑みにする義理はない。同盟とは言っても、仲間ではないのだから。
 ただ彼女に最低限迷惑はかけない。それだけは誓おう。

 頷き返し、紅茶を飲み干した。
 時刻は十二時を過ぎている。そろそろ帰らなければ。


 玄関先で、ふと、結局何のために遠坂は私を呼んだのだろうか、と思い至る。
 新都の魔術師の情報は、彼女は元から持っていたのだから。

 まさか私に忠告するためだけに、わざわざ呼んだということもないだろう。


(…お主が独り身なのも、頷けるな。友達甲斐の無い奴だ)

 アサシンの皮肉の意図もわからず、私はそのまま遠坂邸を後にした。
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