【A heart of ice】―序の曲―

――季節は春。5月の初め頃。

風が光り輝き、木漏れ日さえも美しく見える。
丁度、新緑の鼓動が聞こえ、蝶達が飛び回り。
太陽が眩しく輝き、雲1つ無い青空の時期――。
俺の物語が始まる――。


――平和だ。
俺。クロウ・フェラードは、つまらない歴史の授業中にそんな事を思いながら窓の外を見る。
授業中だからこそ静か。
授業が終われば途端に五月蝿くなるだろう。
――なぜ、俺は此処にいるのだろう。
そんな疑問が俺の頭の中を過ぎる。
此処は、生徒達が恵まれた環境で静かに勉強出来ると言われている宝羅学園。
だが、噂と現実はまったく別物。
学園では、毎日の如く先生の怒鳴り声と生徒達の悪意に満ちた笑い声が聞こえる。
一言で言えば“噂とはまったく異なる五月蝿い学園”だろう。

「今日は、ここまで。」

歴史の先生フェリッサ・エレードの声で俺は、現実へと帰る。
フェリッサは、この学園で一番若い女の先生で歳は確か28か9。
いつも漆黒の髪を上の方で1つに束ねている。
そして、フェリッサの「号令」と言う声。
“バダッ”
そんな音と共に俺達は、席を立つ。「令」日直のその声と同時に
「終わります。」そう言って授業が終わる。

――五月蝿い休み時間の始まりか。
そんな事を思いつつ席を離れる。
俺が行くのは、唯一安心出来て静かなところ。
そう、物静かな少年。ルファ・シフェンドのところだ。
俺は、五月蝿いクラスを後に歩調を早めルファのところへと向かった――。

「やっぱり来たんですね。」

そんな声が階段の上から聞こえる。
声の主は、俺の探していた人物。
ルファ・シフォードだ。
ルファは、紫がかった銀髪を腰の辺りまで伸ばしている。
エルフ。その言葉がピッタリの少年。
ルファの声は、透き通っていて凛とした女性のような特徴的な声。

「ああ、この時間は、一番クラスに居たくなくなる時間だからな。」

そう言って俺は、ルファの元へと階段を上って行く。
“コツコツ”俺が一歩を踏み出すごとにそんな音が鳴り響く。
そして、ルファと少し喋り、「ばれたら困る。」と言う事で屋上へと階段を上る。
“コツコツ”“コツコツ”俺とルファ。
2人の足音が交互に聞こえ不思議なリズムを打つ。いや、奏でる。
屋上へと続く扉が俺達の前に立ちはだかる。
ルファは、ポケットの中から紅い宝石の付いた鍵を取り出す。
【とあるルートから入手した代物】としか、俺には教えない。
“ギィィ”そんな古めかしく、懐かしいような音と共に扉が開く。
屋上への到着だ。“サァァァァ”
扉を開けると空いっぱいに蒼い世界が広がっていた。
音無き風が俺を突き抜けていく。

――静寂。

屋上には、この言葉がぴったりだった。
いや、ぴったりだって思えた。

      「静かだな。」

暫(しばら)くの沈黙の後に俺がそう呟く。
ルファは、その言葉を聞き“ニコッ”と微笑んで「いつもの事ですよ。」と答える。ほっとした。
誰かに監視されてる訳じゃなく……誰かに追われてもいない――。
誰かに見られてるわけでも、捕まってるわけでもない――。
やっぱり   いつもの       ルファ。
    やっぱり    俺の唯一の親友。
そして、唯一の俺が心を開く者――。
蒼い空の下で俺は、そんな事を考えながら腰を下ろした。
ルファと共に――。そして、俺とルファは、青空の下で眠る。

人は、これをサボりと言うがこの学園では当たり前。
別にお咎めなどない。
教師は、ただ真面目に授業を受ける生徒だけに授業を教える。
生徒は、やりたい授業以外は、サボってもいいや。
それがこの学園では普通――。
学園長は、フランスかどっかに行ってるし(旅行だと行っているがどうか分からない)
先生達だってサボる奴等を取り締まる気はゼロに近い。
そして、疲れていたのかゆっくりと俺は、眠りの世界へと……
夢の世界へと誘われていった……。
夢で見たのは、深紅のような紅い髪に新緑色の瞳の少女。
その子と仲良く話す金髪に蒼い瞳の少女。

――なんなのだろう。この夢は。
なにかが始まる予感がする。
俺が、俺でなくなるような気がする。
俺の第六感が“逃げろ”と――
“関わるな”と言っている――。

「……クッ……」

そんな時、目が覚めた。
目の前に。空に広がるのは朱色の空。
血よりも薄くオレンジよりも濃い空――。
昼間から夕方まで半日ぐらい寝てしまったようだ。
「ふわあぁぁあ。」そんな欠伸と共にルファも眠りから目覚める。
「ルファ、夕方まで寝てしまったな。すまない。」俺は、謝る。ルファには、俺と違い真面目だ。
あまりサボらないし。俺とは、正反対と言っても良いぐらいだ……。

「良いんですよ。教室に戻ってもエミリ達が五月蝿いだけですし。」

ルファは、そう言って苦笑した。
ルファは、同じクラスのエミリ達から“元帥”とか“エルフのリーダー”とか呼ばれて大切にされている。
本人にしてみればうっとおしい様だが。

「大変だな…。」俺が、そう言うとルファは、笑い流して。

「まぁ、『氷の王子』と呼ばれ毎日騒がれてる貴方よりは、楽ですよ。」

さらっと俺が一番嫌う言葉を言った。
“氷の王子”誰からも離れ、孤立し、一匹狼となった俺の異名。
何処の誰が付けたのかは知らないが俺は、王子じゃないし。
それに、氷と言ったって人をいたわる心ぐらい持ってる。
俺は、それくらいの事でグダグダ言うような男じゃない。
だが、もうウンザリだ。
毎日、津波が来ているようだ。

「まぁ、落ち着いて下さい。どんなにポーカーフェイスでも、私は貴方の親友ですよ。」

ルファはそう言ってもう一言付け加えた。
「貴方が私を信頼する限り、私も貴方を信頼してますから。」と。
なぜか。その一言で安心出来た。
なぜだか分からないがその一言で肩の荷が下りたような気がした。

「ルファッ。いえ、元帥!見つけたわ!こんな所で元帥が何してたのよ!」

そんな感傷に浸っていると横で甲高い声が聞こえた。
聞き覚えのある声の主。それは、さっき言っていたエミリ。
『噂をすれば影』とは、よく言ったものだ。

「何を怒ってるんです?
 私は、クロウと昼寝をしていた。
 そして、クロウと語り合っていた。これの何処が可笑しいんです?」

ルファは、何も知らないような。自分の事を棚に上げたようにそう言った。
「元帥~(怒)さぁ、行きますよ!」エリスがついに怒った。
そして、ルファは、瞬く間に連行された行った。
その様子を苦笑いしながら眺めていたが。
もう、5時を過ぎて世界が闇に満ちる時刻だったので俺は、足早に家へと帰っていた。




【A heart of ice】 ―序の曲― fin

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最終更新:2005年08月12日 16:40
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