屈服ママ


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自分の体に別れをつげて、くるくるくると綺麗に回転しながら下に落ちて行く。くるくるくるくる。
それはとてもとても奇妙な時間だった。落下するまでは数秒もないはずだ。
それなのに今現実に体感しているこの長い長い時間はなんだろう。狂狂狂狂狂。
おかげでいろいろなものが見える。初号機の泣いているとも笑っているともつかない気味の悪い表情。
僕の血で染まったその手。悲しげな紅い眼の少女。ゆっくりゆっくり僕の最後の時間は流れる。
ただひたすらゆるやかに。最後の時がこのように穏やかであることは、なんて喜ばしいことだろう。
さよならシンジ君。さよなら僕の同胞。さよならリリン達。僕は静かに瞼を下ろす。
LCLが波立つが、すぐにもとの静けさを取り戻していく。
聞こえてくるのはただただ無機質なモニターの音。
その音が彼女の心臓がまだ動いていることを知らせ、時折聞こえる寝息がまだ呼吸していることをかろうじて教えてくれる。
だがそれ以外の音はなにもなかった。不気味なほど静かな部屋で彼女はひとり横たわる。
僕は彼女を知っている。だけどこれは一体なんだ?現実の光景なのか?それとも、僕の願望が見せる幻か?
それにしてもなんて寂しい眺めだろう。どうせ幻なら、彼女の笑顔をみせてくれ。
ドアが開き看護師が入ってくるが仕事を澄ますとすぐ出ていってしまう。
だれか?誰でもいい。彼女の頭を優しくなでてあげてくれ。よくやったと褒めてあげてくれ。
彼女の手をしっかり握って一人じゃないと言ってやってくれ。誰か?誰かいないのか?
リリン!お前たちはそんなにもたくさんいるのに、そんな簡単なことが誰にもできないのか。
わけもわからないまま、強烈な怒りが沸き起こってくる。ドクドクと脈打つような怒りが込み上げてきて嘔吐感を伴う。
一気にドス黒いものが吐き出され、眩暈が起こる。そして次の瞬間、ちりちりと焼ける感覚を感じる。
それは瞬く間に燃え上がり、激しい熱が襲ってきた。何だ、これは?何が起こっているというんだ?
苦痛が沸き起こっては静まり、そんな地獄のような時間を繰り返した後。それは唐突に訪れた。
暗闇。無音。何もみえない!!彼女がみえない。そして僕という概念すら今消えようとしている。
嫌だ!!それは自然と出てきた思いだった。このまま消えるのは嫌だ!
僕はありもしない手を伸ばそうともがき、ありもしない口を開き呻く。
そして魂の全てをかかげて叫んだ!「アスカ!!!!!!!!」
事務員は机に突っ伏したまま。看護婦は患者のベッドにもたれかかるように。見舞い客は床に倒れるようにして。
赤子から老人まで誰も彼もが死んだように眠っている。カヲルはその人々の間を悠然と目的の場所に向かって歩いていた。
「久しぶりの対面だ。五月蠅くされてはたまらないからね」
カヲルは目的の部屋の前にくると静かにノックした。返答できないことはよくわかっていたが、礼儀としてそうしたかった。
中に入ると、早くも彼女の匂いが鼻腔をくすぐってきた。その懐かしい匂いに心は自ずと弾む。彼女の傍までゆっくり歩みよると、そっと顔を覗き込む。
「ただいま。アスカ」もちろん返答はない。分かっていたこととは言え、とてつもなく寂しくなる。いつもなら、名前を呼び捨てになどしたら怒鳴られる。
それが今は堪らなく恋しかった。すぐにでも声を聞きたかった。何気ない話をしたかった。彼女の蒼い瞳に見つめられたかった。
アスカの頭に手をやると、優しくゆっくりと撫でてやる。
「早く戻っておいで」頭にのせられたカヲルの手から暖かい光が放たれる。
「これで放っておいてもじきに目が覚めるだろう」
「でもそれだけでは不十分だよね♪」カヲルはアスカの唇を指でそっと触れる。
「お姫様は、やはりキスで起きるものだ。君もそう思うだろ?」
カヲルは顔を近付けると、そっとキスをした。
だが、カヲルの思いとは裏腹にまったく反応がない。ちょっと待ってみるがまったく同じ。
仕方なくもう一度キスする。だがやはり期待していた結果は得られなかった。
「おかしいな?どうして起きないんだ?上手くいかなかったのか?」
腹がたち、アスカの頬をつねってやる。
「まったく・・寝ている時までへそ曲がりな女だ。こんな時くらい素直になれないのかい」
深い溜息をつく。
「いいさ。君がそういうつもりなら、起きるまで繰り返させてもらうから」
幾度目になるかわからないキスしようとした時。急にお腹のむしがなった。それは紛れもなくカヲル自身のものであり、確かに空腹感があった。
「驚いたな!本当にシトとは別の存在に生まれ変わったようだ。まさかお腹がすくとはね」
そうこうしている間にも、グーグーと繰り返しお腹が鳴り続ける。
「今取り混み中なんだけどな・・・。はあ~、仕方がない。何か食べるとするか」
周囲を探してみると、見舞い品らしいフルーツが置いてある。その一つをとると、慣れない手でぎこちなく皮をむいて口にいれた。
空腹感から食事をとったのは初めての経験だったが、問題なく食べられた。どうやら新しい身体は食べ物を受け付けるらしい。
感じる味も悪くない。これなら今後も飲食で困ることはないはずだ。だが果物を食べた後も、カヲルは満足できなかった。
正確にはお腹が物理的に満たされた感じはするのだが、心がなにか満たされないのだ。
心の空腹感とでもいうのだろうか。それは収まるどころか益々強くなってくる。
「もしかして。新しい僕には何か好物のようなものがあるのかな?」
だが、そうだとしたら困ったことになる。いったい好物とは何だろうか?
しばらくあてどない思案をしていると、不意に1つの単語が脳裏に浮かびあがった。“ミルク”
「これは本能からの指令か?だとしたら間違いない。これこそが、僕の好物なのだろう」
謎は解けたが、カヲルは非常に不満げだった。
「ミルクか・・。この姿にマッチしているけど・・。美しい僕にはとうてい似つかわしくないな」
ぶつくさ文句を言いながら、牛乳をとりに外に出た。病院の売店で牛乳をみつけると、それを開けて飲んでみる。
ところが、心の飢えは一向に改善しなかった。
「どういうことだ?これで間違いないはずなのに・・・」
さすがのカヲルも頭を抱えるしかない。どんどん強まる心の空腹感に耐えながら、なんとか病室に戻る。
「まずいな。早く何とかしないと」必死に頭を巡らせているうちにハッと気づく。
「満たされていないのは胃ではなく心だ。だから実際にミルクを飲んでも駄目だったんじゃないだろうか」
改めて自分の姿を見直す。「最初から答えは自分の中にあったわけか」
未だに目覚めないアスカの傍まで行くと、彼女の寝巻をそっとはだけさせた。
下着をつけていないため、それだけで彼女の胸があらわになる。
肌はまるで冗談のようにきめ細やかで美しく、小さいが完璧に整った形は理想的であり、なにより先端部分の愛らしさは思わず唾を呑みこみそうになるほどだった。
カヲルはそっと顔を近づけて胸の先端に唇を這わせた。一瞬アスカがピクンと動いた気がしたが、カヲルは気にすることなく続けた。
そうしている内に嘘のようにカヲルの空腹感が収まっていった。
「やはりこれで正解だったようだね。というわけで、悪いけど身体を借りるよ」
行為を再開する。優しく舌を這わせ、程良い力で吸いあげる。
「(う・・・・~ん。なに?なん・・・なの?なんか・・・・変な感じがする)」
ゆっくりと目を開ける。光の眩しさに思わず目がくらむ。
ずつと寝ていたので、なかなか目が慣れてこない。最初に視界に入ってきたのは見知らぬ天井だった。
「(あ・・・れ?ここ・・・・・どこ?私・・・何してるんだっけ?)」
頭が割れるように痛かった。くらくらして気持ち悪くなる。
「(思い出せない・・・。なんで私寝てるの?)」
手足にもなかなか力が入らない。すっかり筋力が落ちているのだ。
色々なことがわからなくて、不安を煽った。だが、それとは別に今猛烈に気になることがあった。
なんだか胸の辺りに違和感がある。くすぐったいような、生温かいような。
「なに・・・・・?」懸命に首を持ちあげる。
「!!!!!!!???」
信じがたい光景が飛び込んできた。自分の上に誰かが乗っている。
それだけでも悲鳴をあげたくなるような光景なのに、あろうこうとか、自分の胸を舐めているのだ。
しばし硬直した後に、すさまじい叫び声をあげる。
「きゃ~~~~~~~~~~!!!!!!!」
胸の上にいるそれが、慌てる様子もなく悠然と顔をあげた。
「やあ。起きたみたいだね。それにしても今起きるなんて間が悪い奴だな」
ぼやけた視界で顔は分からないが、声から正体を察知する。さっき以上の悲鳴をあげる。
「いや~~~~~!!!!」「どうしたっていうんだい?起きて早々五月蠅いな」
「いや!いや~!なによ!なにしてんのよ!あんた!!」「何って?食事に決まってるだろ」
「食事?なんのこと言ってんのよ!!!わかるように言いなさいよ!」「食事は食事さ」
「わかんないって~の!!!!とにかく!今すぐどいて!!!どっか行って!」
「いやだよ。まだ食事中だもの」
そう言うと、再度顔をうずめて吸い始める。
「ひゃっ!!!」ねっとりとした柔らかい口腔内の感触、ざらざらした舌触り、生温かい吐息。
そういった感覚が一気に押し寄せてきて、アスカの中を電流が流れたような衝撃が走る。
「~~~~~~~」あまりの衝撃にしばらく声も出せなかった。
胸に感じる感覚に耐えながら、気力を振り絞って叫ぶ
「やめて!今すぐやめなさいよ!じゃないと本気で殺すから!」
手をあげようとするが力が上手く入らない。
「当分は力が入らないと思うよ。ずっと横になっていたんだからね」
「!!!誰か!誰かいないの?!!!助けて!!!」
「ふふ。それも無駄だと思うよ」「え?何?どういうことよ!?それ!」
「2人きりってことさ」「2人・・・・きり?」
それだけ言うとカヲルは食事を再開する。執拗に舐められるうちにこれまで感じたことがないような変な感覚を感じ始める。
アスカがそれなりの経験をつんでいれば、それが性的な気持ちよさであることも理解できたはずだ。
だが今のアスカには理解できなかった。理解もできない感覚に翻弄され、激しく困惑する。
「ハア・・・ハア~。くっ。や・・めて」「とても美味しいよ♪」
動かない手足をもじもじと動かす以外になす術がない。悔しそうにカヲルを睨む。
「あん・・・た。ハアハア・・いったい・・・何しに・・・うっ・・・きたのよ」
「一人ぼっちの君を助けに来たんだよ」「なんの・・冗談よ!襲いにきたの間違いでしょ」
「ひどいな」吸う力をわざと強めてやる。「くう~~~~」
「おっとごめん。つい力が入ってしまった」「こんなことする奴に・・酷いって言って・・なにが悪いのよ・・・変態!犯罪者!」
「ふふん」舌で敏感な先端をわざと舐めてやる。「きゃ!!!」
「というわけで君を助けにきた」「なにが、というわけよ!」
「君を助けたいんだよ」「変態に求める助けなんて何もないわよ!!!」
「そうかな?」「私は誰かの助けがなくてもやっていける。私はエヴァのパイロットなんだから!」
「パイロット?君はエヴァを降ろされたじゃないか」「えっ??」
「ずっと寝ていたから混乱していて当然だね」「え?え?なに?なんのこと?」
「君の代わりに僕が弐号機パイロットになったんだよ」「え?・・・・・・え?」
「君はもうパイロットじゃないんだよ」「なっ!!なに出鱈目なこと言ってんのよ!!!!」
やれやれとカヲルは頭をふる。
「(やはり記憶を残したのは失敗だったな。いっそパイロットであったこと自体忘れさせておけばよかった)」
実際カヲルはアスカの記憶を操作して、自分との関係で障害になるものを忘れさせようとも考えた。
だがそんな都合のいいことが出来ないことはよくわかっていた。記憶は相互に繋がっているのだ。
もしパイロットとしての記憶を奪えば、必然的に渚カヲルという存在も忘れることになる。ゆえに記憶の操作は諦めざるえなかった。
今のアスカは記憶がごっちゃになっているだけで、決して記憶が消えているわけではない。
「はあ~。しょうがないな」そう言うとアスカの頭の上に再度手をのせる。
「さあどうだい?思い出したかい?」「そんな・・・」アスカは茫然となっている。
「つらいだろ?思い出さない方が良かったんじゃないかい?」「・・・・・・・」
「言葉もないみたいだね。この際だから言ってしまうけど、弐号機壊しちゃったから」「壊した・・・?私の弐号機を・・・」
「もう君のじゃなくて僕のだよ。それに僕がいるんだから、壊れても別にいいだろ?」「・・・・・・・・」
「まあゆっくりと落ち着きなよ」カヲルは再び食事を始める。
いまだに激しい混乱の中にいたが、それでも混乱とは別にある感情が混み上がってきた。それは怒りだ。
言い表せないような怒り。力が入らないはずの手足に力が戻ってくる。
一気に拳を振りあげると、そのまま見事にカヲルの顔に命中した。
カヲルには2つの誤算があった。
1つはアスカの弐号機に対する愛を軽く見積もりすぎたこと、もう一つは食事に夢中になりすぎていたこと。
殴られたカヲルははじきとばされてベッドから転げ落ちた。
すぐさまアスカは立ち上がりカヲルにとどめをさそうとする。ふらつきながらも、べっトから降りるとカヲルに近づいた。
その時だった。アスカが奴の全身をまともにみたのは。
「え???????あんた・・・・誰?」「いつまで寝ぼけてる気だ。僕はカヲルだろ」
「だって・・・・その姿?え?え?」
それまでの怒りが嘘のように吹っ飛んでしまっていた。それほど衝撃的な光景だった。
そこにいるのは一人の幼児だった。外見だけでいえばせいぜい2~3歳くらいか?
「お~~~。痛たたたた。相変わらずの暴力バカだな」
「なによその格好!!どうなってんのよ!!!」「知らないよ。何でこうなったかなんて」
「知らないって!自分のことでしょ!」
「悪いけど説明なんてできないよ。生まれかわった時には、既にこうなっていたんだから」
「はあ?!生まれ変わった??」「僕は一度死んだんだよ。握りつぶされてね」
「はあ???」「それで蘇った」「はああ????」「説明は終わりだ」
「はああ???!!」「いいんだよ。大切なのは過程ではなく、あくまで動機と結果だ」
「勝手にぽんぽん話進めんな!」「僕が蘇った動機は2つある」
「勝手に進めんなって言ってんでしょ!」アスカは発狂せんばかりに混乱しているが、カヲルは構わず話続ける。
アスカが理解できていようがいまいが関係ない。すでに動機はあり、それをもとに全ては始まっているのだ。
後は自分のしたいようにするまでだ。彼女の理解など後でも充分だ。2人の時間は、もうすぐに充分すぎるほど手に入るのだ。
「動機は2つ。1つは君を守ること。もう一つは君以外の全てのリリンを無に帰すこと」
「???????????」これまでで最高の混乱が訪れた。  
渚カヲルは死んで、蘇った。それは世界を滅ぼしてアスカと2人きりの世界を生きるため。
こんな簡単なことを説明するのに4時間近くもかかった。幼児体型になったことなどは、もはや大した問題じゃないのだ。
それなのに奴がその点にやたらとこだわるから、なかなか話がすすまなかった。
その上、これだけ丁寧に説明してやったのに、まだ釈然としない顔をしている。まったくあいかわらずのアホ子だ。
「なんだ、まだ納得できないのかい?」「納得?そんなものできるわけないでしょ!!!」
アスカが思いっきり地面を蹴る。
「アホだから理解できないのか?理解する気がないのか?その点をはっきりさせてくれ」
「心が理解を拒絶してんのよ!!」
「利口ぶるのはおよし。バカだからわかりませんと言えばいいだろ」
「ぐぎぎぎ!この心底ムカつく感じ・・・間違いない!姿はそんなでも、あんたは変態ナルシスホモのバカフィフスよ!」
「驚愕だね。まだ僕がカヲルかどうかにこだわっていたなんて。まさにアホ満開だな」
「はあ~はあ~。病み上がりにこのムカつきは身体に悪すぎる」
アスカは胃の辺りを押さえる。
「産気づいたの?」「埋めたい。今すぐこいつを埋めたい」
「そんなに僕の子を産みたいの?」「あ~~~~~!!」
アスカが椅子を持って殴りかかろうとする。
いつもなら振り下ろすことに容赦しない。だが今日は違った。思わず手が止まってしまう。
「おや?どうしたの?やらないのかな?」「く~~!ちきしょ~!この姿じゃなければ~!」
カヲルだとわかっていても、さすがに幼児を殴る気にはなれなかった。
「僕の姿を気にしているのかい?鬼の目にも涙だね」「~~~~~~」
どんなに悔しくて腹立たしくても、どうしても振り下ろせなかった。
「内心心配していたんだよ。君が子供にも手をあげる奴なら、僕達の子どもが可哀そうだ」
アスカは突っ込むのもバカバカしくてシカトした。
「無視はよくない。もうすぐ2人だけの世界になるんだ。無視なんてしてたらつまらない」
「あんたと2人きり!!!そんな地獄は死んでもごめんよ!」「嫌でもそうなるんだ。僕が世界を滅ぼせば」
「そんなこと、あんた一人でできるわけないでしょ!」「僕は特別だ。出来るさ」
「いくらシトでも無理に決まってんじゃない!」「言ったろ。特別だと。今の僕はただのシトじゃない」
「シトじゃない?じゃあ何よ?変態宇宙人?」「神様だよ」
アスカは頭を抱える。
「また電波な話を~~!!」「真剣に受け取ったほうがいいよ。今や僕の力は神に等しい」
カヲルは二ヤリと微笑む。その得体の知れない雰囲気に背筋が寒くなる。
「死んだことと・・・関係でもあるの?」「いい子だ。少しは頭使えるじゃないか」
「僕は死んだ。運よく死体はリリスのもとに落ちてね」「・・・・・」
「結果、僕の中にあったアダムの魂とリリスの魂が混じりあい、ぼく本来の魂を覆ったんだ。つまり僕は神の力を行使できるようになったんだよ」
「・・・・・」「どういうことかわからないか?ふふ。いいだろう。見せてあげるよ、僕の力を。つていきてごらん」
廊下に横たわる人々の群れに息を呑む。だが、真の恐怖はその先にあった。
1階のエントランスには何十人もの人々が倒れており、皆死んだように眠っている。
「どうなってんのよこれ?」「聞かなくてもわかってるんだろ」
「・・・・」恐ろしくてそれを言葉にできなかった。カヲルはほくそ笑む。
「こんなことはほんの序の口だ。僕にとってはなんてことない」「起こして!この人達を!」
「駄目だね」「あんたがやったんなら、出来るでしょ!」
「無理なのではなく、駄目なんだよ」「どうしてよ?」
「邪魔だもの」「邪魔って?どういう意味よ」
「ふふ。そのままの意味さ。僕らにとっては必要ない存在だ」「冗談やめてよ!」
「この後に及んで冗談だと思っているのかい?おめでたいね。君は少し現実をみるべきだ」
アスカが何か言うのを待つことなく、それは行われた。
カヲルが軽く腕を振ると、突然人々が溶け始める。まるでLCLのようになって跡形もなくなってしまう。
エントランスにいる全ての人が溶けるのに1分とかからなかった。
アスカは恐怖で動けなくなる。
「見てくれた、僕の力♪」「なにしてんのよ!!早く!!今すぐ元にもどして!」
褒めてほしいのに、そのそぶりさえみせずに、人間なんかの心配をする彼女に腹を立てる。
「ちゃんと見てくれてたの?」「いいから!!!早く元に戻しなさいよ!」
「せっかくすっきりしたのに、元に戻すなんて嫌だよ」「なんでこんなことできんのよ!」
「だって僕にとってはどうでもいいんだもの。君以外の人間なんて」
奴の表情からはなんの冗談も読み取れない。その事実に心底ゾッとする。奴は紛れもなく本気で言っているのだ。
「今はこの病院に限定されているけど。後少ししたら、僕はこれを地球上全てに対してやろうと思うんだ♪」
カヲルは満面の笑みで言う。アスカは恐怖で震える手脚を押さえることができなかった。
アスカは熱が出るくらい頭をフル回転して説得を試みようとした。だが、肝心の相手はとういと、終始きょとんとしている。
まったく理解していないことがありありとわかる。頭のネジが外れてしまった相手を、真正面から説得することなど所詮は無理なのだ。
アスカは徒労感で膝から崩れ落ちそうになる。
「もう終わり?終わりなら僕の仕事に移るよ」「まっ!待って!」
「まだあるの?早く地球上をきれいにしたいんだ」「だから駄目だって言ってんでしょ!!」
「邪魔なんだからいいじゃないか」アスカはおかしくなりそうな自分を抑えて、何回目になるか分からない説得を始める。
「君は何が言いたいの?一気に消すのは駄目だから少しずつ消せってこと?」「違う!消すなって言ってんのよ!」
「わかんない奴だな。僕は消すって言ってるんだぞ」「わかんないのはあんたでしょ!」
「ラチが明かないや。とりあえず消してから話そう」「あ~~!もう!消しちゃった後で話し合うことなんてないでしょ!!」
「どうすればいいの?」「消すな!!それしか言ってないでしょ!!!!」
「僕は君以外はいらない」「私には必要なの!!!」
「なんでさ?みんな君に冷たかっただろ?」「それは・・・・」
「ほら。そんなのいらないだろ」「駄目よ!!消すなんて駄目!!!」
「僕よりも大事ってこと?」「・・・・・」
黙ってしまってから、しまったと思う。
「やっぱり邪魔だね♪」カヲルが手をあげる。アスカは戦慄し、カヲルに詰め寄る
「やめて!!!!!!」「終わったら聞くよ」
カヲルが手を振りおろそうとしたまさにその時、突然カヲルが蹲る。
「くそ!こんな時に」「???????」
そしてそのままカヲルは倒れ、みるみるうちに衰弱していく。もはや動くことすらできない様子だ。
「さっきはこれほど急激ではなかったのに。使った力に比例するのか?」
苦しそうにうめく。
「どうしたの?」「お腹が物凄く空いてるんだ」
「お腹?それだけなの?」「“それだけ”でなんて軽々しい状況じゃないけどね」
「そんなにやばいの?」「まあみての通りさ」
アスカは少し考えてから切り出す
「ねえ!」「なんだい?」
「食べ物あげてもいいわよ!」「・・・・本当かい?」
「その代わり!みんなをもとに戻して!それが絶対の条件よ!」
「それは無理だね」「戻せないってこと!!!」
「そうじゃないさ。君には僕の食べ物は用意出来っこないってことだよ」
「はあ?出来るわよ!食べ物取ってくるだけでしょ!」
「何でもいいわけじゃないんだよ」「何よ!こんな時に好き嫌い言うつもり!!」
「仕方ないのさ。ある物でしか、僕の空腹は満たされないんでね」「面倒くさい奴ね!」
「断言してもいい。君には無理だ」「出来るったら!!!早く言いなさいよ!」
「言うだけ無駄だと思うけどね」「いいから!!!!」
「なら言うけどね。・・僕の好物は“ミルク”だ」それを聞いてアスカは拍子抜けした。
「は?ミルク?ミルクって、あのミルクよね?」
「ああ」「脅かさないでよ!そんなの簡単じゃない!」
「そうかな?」「そうよ!超簡単よ!」
「じゃあ早くおくれよ」「駄目!交換条件なんだから、先にみんなを元に戻しなさい!」
「今の状態でそんな力は残ってないよ」「先にあげたら、約束守るとは思えないもの!!」
「気持ちいい位信用されていないね」「自分の所業を考えなさい!!」
「とはいえ、本当に力がないからね」「ったく!!しょうがないわね!」
「そのかわり、もし約束守らなかったら酷いからね!!」
「ああ。不服だが、とりあえずは仕方ない。約束は守るよ」「じゃあ、取ってくるから待ってて」
「なにを?」「だからミルクでしょ?」
「行く必要はないよ。ここにあるんだから」「はあ?どこに?」
「そこ」カヲルはアスカを指差す。「私?見てわかんないの?私は持ってないでしょ!」
「持ってるよ」「ちゃんと眼ついてんの?!!持ってないってば!!!」
「いいや。君はちゃんと持ってるよ」アスカはバカバカしいと思いながら、少し考えてみる。
「(私が持ってる“ミルク”って何?)」数回その言葉を反復している内に、脳裏に忘れ去っていたある記憶がよみがえる。
つい数時間前の出来事なのに忘れていたのは、それだけ消し去りたい記憶だったからだ。
「まさか・・・・・ミルクって・・・・・」「うん」アスカは全てを理解しサーと青ざめる。
「イヤ~~~~~~~~~~~~!!!!!」絶叫が響き渡った。
「わかったんなら。早くしておくれ」
「無理無理無理無理!!!!絶対無理!!死んでも無理!!!!」「ほらね」
「そもそも私・・・・・出ないし!!!!!」「いいんだよ。満たすのは胃袋ではなく脳なんだから」
「わけわかんない!わけわかんない~~!!」「混乱中悪いけど。さっき以上に死が迫ってきてるんだけど」
それは冗談でもなんでもなくリアルにそうだった。
「だって!!だって!!そんな~~!!!」「いいよ。このまま静かに死ぬから」
「そんなこと言われたって~~!!!」
「このまま死んだら溶けた人達はどうなるのかな?きっと溶けたままなんだろうな。一人言だけど」
「弱みにつけこんで~~~~!!」「ああ。手足がしびれて動かなくなってきた」
「う~~~~~~」「すまないリリン達。僕としては、本当はもとに戻してあげるつもりだったんだよ。でもそれも出来そうにない。誰かのせいで」
「もう!!わかったわよ!!やればいいんでしょ!!!やれば!!」「
「そのかわり!!!!約束破ったら、本当に!!本当に!許さないから!!!殺すから!」
アスカはカヲルに目隠しをする。
「なんで目隠しされるの?」「見られないようにするために決まってんでしょ!!」
「さっき散々見たよ」アスカはかーと紅くなる。
「いいのあれは!金輪際絶対見せないから!!」
「細かいことにこだわるね」「いい?変なことしたらそこで終わりにするからね!!」
「はいはい」「本当にわかってんでしょうね?!!」
「神に誓って変なことしません」「なんの信ぴょう性もない誓いよね」
「まさか時間稼ぎしてない?」「今準備してんのよ!!!」
とはいうものの、なかなか行動には移れないでいる。当たり前だ。
「もうすぐ死にそうだ」「“死ぬ死ぬ”うるさいわね!!わかってるったら!!!」
アスカはす~と深く深呼吸した後に決意の表情を浮かべる。そして、少し躊躇った後、おずおずと胸元のボタンをはずし始める。
「なんでこんなことしなきゃなんないのよ・・・」アスカは小声でぼやいた。
「あ!!!!」「なによ!ビックリするでしょ!!」
「さっきは右だったから。今度は左がいいな」「どっちでも同じよ!!!!」
「違う!右半身と左半身は支配する脳が違うんだよ」「黙れド変態!」
「左以外は拒否する!!そして野たれ死ぬよ」「もう!!わかったわよ!!あんた本当に死にそうなんでしょうね!」
「苦しい!今度は呼吸がし辛くなってきた!」「くっ!!」
カヲルの呼吸は冗談ではなく苦しそうだ。それをみてアスカは観念したように、自ら左の胸をカヲルに差し出した。
「ご利用ありがとうございました。まもなく第二新東京駅に到着いたします。御降りの方はお忘れ物などなさいませんようにご注意下さい」
アスカは荷物をまとめて降りる準備を手早くすませていき、最後に一番厄介な荷物の準備にかかる。
「降りるわよ。起きなさい!」気持ちよさそうに眠るカヲルの肩をゆする。
「もう少し寝るよ」「もう着くんだから、起きろってば!!」
「気にしないでいいよ」「わかんない奴ね!!降りるって言ってんでしょ!!」
「僕はまだ寝たいんだ。降りるなら君一人で降りてくれ」「言ったわね!!今ちゃんと聞いたんだから!!喜んで置いてってやるわよ!!!」
アスカはカヲルを置いて行こうとする。
「僕が着いた町でなにか事件が起きたら嫌だな~♪」アスカの脚が止まる。
「人々が突然大量消失したりとかしたら怖いよね♪」「・・・・・」
「そうならないように祈ってて♪じゃあねアスカ♪」アスカが戻ってくる。
「どうしたの?置いて行くんじゃないの?」「降りるわよ!!」
「しょうがないな。でも僕は起きないから」「どうすればよろしいのでしょうか(怒)」
「君が考えてよ♪」カヲルは席にもたれかかっていて動く気配すらない。
アスカの手にはすでに荷物がもたれている。となると手段は一つしかなかった。
少女は駅前の大きな地図と手に握られたメモとを交互に見比べながら、時折小首を傾げていた。
背中に小さな男の子をおんぶして、そんな困っている姿をみせられたらたいていの良識ある大人は助け舟を出さなければと思う。
5人くらいの婦人のあつまりが、少女に声を掛ける。「場所がわからないの?」
「あっ。あの・・・大丈夫です」「いいのよ。困った時はお互い様。どこに行きたいの?」
「ここなんですけど」メモをみせる。「ああ~。ここならわりとすぐよ」
丁寧な説明をしてくれる。「ありがとうございました」
「いいのよ。あなた達二人なの?」「はい」「それにしてもかわいいわね♪」
少女の背中におぶわれた男の子は信じられないほど可愛らしく、天使のようだと言ってもまだ足りない位だ。
周囲の婦人達は、その愛らしさにうっとりしている。
「弟さん?」「・・・・そんなとこです」
アスカはひきつりそうになる表情をなんとか取りつくろい、作り笑いをする。
「偉いわね~。小さい弟の面倒をちゃんとみて」「・・・ええまあ」
婦人達は男の子の顔を覗き込む
「僕~。お名前は?」「気安く話かけないでくれ」
周りの空気が一瞬で凍りつく。
「カっ!カヲルです!!カヲルっていいます!」
アスカは大慌てで、フォローに入る。そのおかげでなんとか場の雰囲気が持ち直す。
「そっ・・そうなの。カヲルちゃんって言うのね。可愛いお名前ね」「君達に褒められても、まるで嬉しくないね」
「ああ~~~~!」少女は大声を出してごまかす。
婦人達は奇異なものでもみるような視線を少女に送るが、それでも何とかごまかせたようだ。
「じゃあお年はいくつかな?」「見てわからないのかい?14歳だよ」
「え???」婦人達は一斉に顔を見合わせる。
「すっ!凄いでしょ!!!?こんなに小さいのにギャグを言えるんですよ」
苦しい言いわけを必死にひねりだす。
「そっ・・そうなの。頭がいいのね~」
「低能な君達と一緒にしないでくれ。そもそも見ず知らずの僕達に話しかけてくるなんて、知能が低い上に礼儀もなっていないんじゃないか」
今度こそアウトだった。婦人達がざわつき始める。少女は思わず背中の奴をぶっ飛ばしたくなった。
だが、そんなことをすれば、非難されるのは間違いなく少女だ。婦人達に頭を下げると全速力でその場を走り去る。
幼児とはいえ、背中に一人乗せて全力で走るのはかなりきつい。
「はあ~はあ~」「なんで急に走ったの?突然疾走症候群?」
まったくもって責任を自覚していない背中のお荷物にイライラする。
「あんたが、余計なこと言うからでしょ!」「僕は聞かれたから答えたまでだ」
「ちゃんと考えてしゃべりなさいよ!」「君のように言語能力にとぼしくないから、考えなくてもしゃべれるさ」
「なんですって~~~!!!」「すまない。つい真実を言ってしまった」
「殺されたいの!!」「何故、しゃべるだけでそこまで言われなきゃいけないんだ」
「あんたは、今見た目が幼児なんだからね!!わかってんの?」「当たり前のことを知ったかぶって言うな」
「わかってて、あれなの!あんたやっぱり大バカよ!」「なら自称賢い君ならどう答えるんだい?」
「そんなの簡単でしょ!子供のふりすればいいじゃない!」「手本を見せてくれよ。君のお名前は?」
「アスカ♪」「お年はいくつ?」「みっつ♪」
「うえっ!おぞましい。嘔吐しそうだ」「!!あんたが手本を見せろって言ったんでしょ!」
「アチュカ♪♪みっちゅ♪♪」「そんなふうに言ってない!!」
「アチュカでちゅ♪♪みっちゅでちゅ♪♪」「やめろ!!!!」
「ほら?気持ち悪いだろ?」「誇張するからでしょ!普通にやればいいのよ!」
「嫌だよ。面倒くさい」「あんたと外歩く私の身にもなりなさいよ!!!」
「そんなに嫌なら一緒に出歩かなければいい」「それがおんぶされてる奴の台詞??」
「僕はおんぶしてくれなんて頼んでないぞ。我慢してやってるんだ」「好き放題言うな!!!!」
あの病院の一件からすでに5日たっていた。その間に、現在のカヲルについてのいくつかわかったことがある。
1つ:カヲルは神に等しい力をもっていること。
2つ:カヲルは、世界を滅ぼしアスカと2人きりの世界を創ろうとしていること。そして、そのために力を行使することにいささかの躊躇いもないこと。
身体は幼児、頭の中身はイカれたストーカー、力は神様。
いつ地球を滅ぼすかわからない爆弾のようなもので、危険極まりない。数秒後には人類を消しさっていてもおかしくないのだ。神の力を持つ存在に普通なら勝ち目はない。
しかし、たった1つだけ光明??がある。
3つ:カヲルはミルクを飲まないと心が飢えて死んでしまう事。ミルクとは胸を吸う行為を意味している。しかも誰の胸でも良いわけではなく、あくまでもアスカの胸限定なのだ。
つまりアスカだけが、カヲルを制御するための鍵を持っているということになる。
胸を舐められることのあまりの衝撃に、アスカは2日目にしてリタイアして逃げ出した。その結果、目を放されたカヲルは町一つ分の人間を消したのだ(あとでなんとか元には戻させたが)。
その惨状をみたアスカはいやがうえにも自らの使命を自覚せざるえなかった。それ以来アスカは、極力カヲルから目を放さないようにしている。
だから、新しい居住先にも、こうしてカヲルを連れて行くはめになっているのだ。
アスカが苦労して歩く間も背中のお荷物はまったくどこうとしない。それどころか、余計なことばかりしてくるのだ。
アスカの頭を後ろからポンポンたたいたり、髪の毛をいじくり回したり、息を吹きかけてきたり、首筋の匂いをしきりにかいできたり。
最初はいちいちどなっていたが、まったく懲りる様子がないので、ついにアスカは諦めて放置することにした。
無視されることに最初はブーブー文句言っていたが、すぐに寝てしまった。
本当にいい気なものだ。ようやく静かになったことでホッとしていたが、その平和も長く続かなかった。
突然背中でカヲルがムクッと目覚める気配がした。
「お腹すいたな~」アスカはギョッとしたが、敢えて聞こえないふりをする。
「ねえ。僕はお腹がすいてきたよ」それでも背中のカヲルがしつこく言ってくる。
「ねえ。御飯にしようよ」「・・・・・・」短い手を伸ばしてアスカの耳を力一杯引っ張る。
「痛っ!なにすんのよ!」「機能を果たしてないから、てっきり飾りかと思った」
「聞こえてるわよ!」「だったら早く御飯ちょうだい」
「周りが見えないの!こんな人通りでできるわけないでしょ!」
「飢えて死ぬよ」「うっさい!ここじゃ無理だって言ってんの!」
「幼児を苦しめて楽しむなんて性悪婆だね」「あげないなんて言ってないでしょ!もうすぐ新しい家に着くから!それまで待ってなさいよ!!」
「いやだよ。もう待てない」「我儘言うな!」
「要はこいつらが邪魔なんだね。今消してあげるよ」「まっ!待って!消しちゃ駄目!」
「いいよ。そんなに大変じゃないから」「あんたを気遣ってるわけじゃないの!」
「また僕よりリリンを優先するんだね」カヲルの声が確実に苛ついている
「わかった!わかったから!」アスカは周囲をキョロキョロ見渡す。そして一件のレストランを見つける。
「あそこに入るから!せめてそこまで我慢して!」「・・・まあいいか」
アスカは急いで店に入る。店員に案内されて席につくと、アイスコーヒーだけ頼んで席を立ちトイレに向かった。
店のトイレなら、人目にはとりあえず付かないと考えたのだ。
正直トイレで、そんな卑猥なことしたくはないが、人類の未来がかかっているとなれば話は別だ。
ところが、トイレまで行ったところで失敗に気付く。トイレの前に長い列。
この辺は大きな通りのわりには、レストランは近くではこの一件のみ。多くの人がトイレを求めてこのレストランに立ち寄るのだ。
「ねえ?まだ?」「もうちょっとよ!たぶん」
「もう待てないよ!早くしてくれよ!」「あとちょっとだから」
「もう片方は空いてるよ」「男性用になんて入れるわけないでしょ!!」
「僕は男だよ」「あいにく私は女なの!」
「僕を女子トイレにつれこんで、悪戯するつもりだね。この淫乱娘」「声がでかい!大人しく待ちなさいよ!」
「お腹が好き過ぎておかしくなりそうだよ」「あんたの頭は、とっくの昔におかしくなってるから大丈夫よ」
「トイレじゃなくてもいいじゃないか。席で食べるよ」「あんたバカ?!それじゃあ見られるでしょ!」
「大丈夫だよ。見た奴は消すから」「全然大丈夫じゃない!!とにかく待ってなさいよ!」
「ようは、あの列が邪魔なんだね。消そう」「駄目!何度言えばわかんのよ!!」
「もう我慢できないよ」カヲルが手をあげようとしている気配を察する。
「今あげる!今あげるから!」カヲルをなんとか制止する。
アスカは項垂れたまま、席に戻る。覚悟するしかない。
運が良いことにここは店内でも一番奥の席だ。しかも敷居は高くて隣の席の様子はまったく見えないようになっている。
とはいえ、店員や客が通り過ぎる可能性がまったくないとは言えない。それでも、変態の神様が今にも爆発しそうなのだから、やるしかない。
アスカは背中のカヲルを一旦下ろして、席に座ると、今度はカヲルを膝にだっこした。
もちろん目隠しは忘れない。
「いい!昨日みたいなことしたら放りだすわよ!」「僕が何をしたって言うんだ」
「・・・変な舐め方・・・・したでしょ」「そうだっけ?」
「とぼけやがって~~!!ここは公共の場なんだから自重してよね!」「それは振りかい?」
「そんなわけないでしょ!!ホントにやるな!」「うん。わかった」
最後はやけに素直な返事をしたが、それはそれで非常に怪しい。だがいつまでも迷ってる時間もない。
誰も通らない今がチャンスなのだ。アスカは服と下着を少しだけはだけさせて、カヲルが食事できるスペースを開けてやる。
「今日はどっちがいいかな?右かな?左かな?両方っていう手もあるな」
「いいから、早くしてよ!!人が来るでしょ!」「あっ。そうだ。蜂蜜取って♪」
「はあ?蜂蜜~!!?なにすんのよ?」「味付けするに決まってるじゃないか♪」
「~~~~~~~!!!」アスカの眉間に皺がよる。「届かないんだ。蜂蜜取ってよ」
「バッカじゃないの!!!」「なんで?味付けするだけだよ?取ってたら」
「取るわけないでしょ!!!死ね!!くそド変態!!!」「むっ!!」
要求が通らなかったことに腹をたてのか、やや乱暴に胸に吸いつく。
「っ~~~~~~~」強い衝撃をうけて一瞬声が出そうになってしまう。それをなんとか堪えた。
乱暴なのは最初だけで後はいつも通り、ゆっくりとした感じで舐め始める。
それでさえ最初は刺激が強すぎて我慢できなかったのだ。今はかろうじて我慢できるくらいにはなった。
「(早く終われ。早く終われ)」アスカは心の中で繰り返し念じる。
だがまるでそれを知っているかのように、わざとらしく時間をかけて吸っている。
時間が経つにつれて、次第に感じる刺激も強くなってきた。
すでにアスカの頬は紅潮し始めており、拳を握りしめて、テーブルの下で膝をもじもじさせながら必死に刺激に耐える。
「ねえ。もういいでしょ!」「まだお腹は半分も膨れてないから、もう少しかかるよ」
「嘘つかないで!結構時間経つでしょ」「そう感じているのは君だけだ。まだ3分程だよ」
「え!!!!」驚いて時計を確認すると確かにまだ3分ほどしか経っていない。
「あと・・あと何分くらい?2分?1分?」「そうだな~。まあ10分ってとこかな」
「冗談言わないでよ!嫌だからね!!」「君がなかなか食べさせてくれないからお腹がペコペコなんだ」
「しょうがなかったでしょ!とにかく10分なんて絶対イヤだから!!」「やれやれ。早飯は身体に悪いんだけどな。そこまで言うなら急ぐとしよう」
カヲルが吸う力を強める。
「ひゃっ!!」思わず声が漏れる。慌てて自分の口を塞ぎ、周囲の反応を伺う。どうやら聞えてはいないようだ。
だが、それをきっかけに周囲のことがそれまで以上に気になり始めてしまった。誰かにみられるかもしれないという恐怖が急に増してくる。
「もうやめにしよう!お願い!」カヲルは何も答えず食事を続ける。より執拗に。
「ううっ・・・」アスカは懸命に声を噛み殺すが、どうしてもくぐもった声が漏れてしまう。それを誰かに聞かれているのではないかと気が気ではなかった。
その悪夢のような時間が数分続いてようやく、行為がやめられた。アスカは心底ホッとした。だが、次の瞬間信じられないことが起きた。
カヲルが先端の一番敏感部分を甘咬みしてきたのだ。あまりの衝撃に、アスカの体は自然と大きく動いてしまった。ガチャンと大きな音がする。
見るとアイスコーヒーが床に落ちている。
アスカは慌てるが、後の祭りだ。向こうから誰かが走ってくる音が聞こえる。むろんそれは店員だった。
アスカはカヲルを引き剥がそうとするが、アロンアルファでくっついたみたいに放れない。そうこうしている間に若い男性店員がやってきてしまう。
「お客様、大丈夫ですか?おケガはございませんか?」
アスカは店員に背を向けるような格好をとったうえで、出来るだけ平静を装うとした。
「すみません。落としてしまって。グラスは弁償します」「お気になさらないで下さい」
男性店員はアスカが背をむけていることに多少疑問を感じはしたが、敢えてそれには突っ込まなかった。
それは店員としての心得ということもあったが、それ以上にこの可愛らしい少女と話せることに気持ちが浮き立っていたからだ。
「本当にすみませんでした。大丈夫ですから」「今グラスを片付けさせていただきます」
アスカとしては一刻も早く、この場を立ち去ってもらいたかったが、そうもいかない。
店員はグラスを手早い動きで片付けて行く。グラスを片付けながら、時々気付かれない程度の感じでアスカをみた。
改めてみる少女の可愛さに思わずドギマギする。
グラスを片付け終わると、店員は丁寧に頭をさげて戻ろうとする。アスカは危機を乗り越えられたことに、心底安堵する。
ところが、店員がきびすを返してもどってきた。アスカは再び緊張し警戒する。
「あの・・・」店員は言いづらそうにしている。「何ですか?」
「こんなところで、こんなことを言うこと自体失礼なのはわかってます」「???」
「でも・・僕フロア担当なんでこの後は機会ないかと思って・・・焦ってしまって」
青年は緊張の面持ちで必死に言葉を選んでいる。
「あの・・・凄い可愛いと思います」アスカは思わずキョトンとなってしまう。
「すっ!!すみません。いきなりそこから言うつもりじゃなかったんです」
青年の焦る様子は何となく可愛らしかった。
「もし・・・もしでいいんですが。今度別の機会に会ってもらえないですか?」
青年は自分の持てる精一杯の誠意ある言葉で伝えているようで、いくらつたなくても非常に好感が持てた。
「でも・・・」「わかってます。急にこんな話してすみません」
青年は顔が赤くなっている。よっぽど覚悟の上の告白なのだろう。
これを無外に断るのはさすがに躊躇われた。また断るにしても誠意ある言葉で説明したかった。
「あの・・」アスカがしゃべり出そうとした時だった。突然またカヲルが咬みついてきた。
「~~~~」思わず言葉につまる。何とか青年に見えないようにする。
「どうかしたんですか?」「いいえ・・なんでも」再び咬みつかれる。
もう耐えるのも限界だった。
「ごめんなさい!」アスカは一言青年に伝えると、表情をみられないように下を向いた。
突然そう言われて、青年は一瞬おどいたようになるが、懸命に冷静を装って笑顔を作る。
「すみませんでした。変なこと言ってしまって。失礼します」青年は寂しそうに戻っていく。
青年がたち去って少しすると、カヲルが出てきた。
「食事ありがとう。ごちそうさま」「・・・・・・・・」
「もしかして怒ってるのかい?」「・・・・そうよ」
「咬んだから?」「違う!どういうつもりよ!人が来てるところであんたことして!」
「僕は普通に食事してただけだよ」「あれが?!」
「その通り」「ふざけないでよ!あんたって、やっぱり最低!」
「君は怒っているようだけど。僕はもっと怒っている」「あんたが何怒るのよ」
「他の男に目を奪われていただろ?」「はあ?何言ってんのよ!」
「はらわたが煮えくりかえりそうだよ」「なにもしてないでしょ!」
「いっそ消してしまえばよかったね」「なに考えてんのよ!!そんなこと絶対許さないからね!」
「あの男のほうを優先するんだね」カヲルが手をあげようとする。
「やめて!!何が不服なのよ!!ずっと一緒にいるでしょ!ちゃんと言う事も聞いてるでしょ!誰がみたってあんたを一番に優先してるじゃない!」
「本当に僕のことを考えてるなら、どうして名前も呼んでくれないんだい」
「名前???」「そうだよ。一度もちゃんと読んでくれたことないよね」
「そうだっけ??」「所詮はその程度にしか僕のこと考えてくれてないんだよ」
カヲルは心底寂しそうな顔をする。
「わかったわよ!!名前位呼んであげるわよ!」カヲルが期待の目をむける
「えっと・・・・バカヲル」「それは僕の名前じゃない」
「あれ?そうだっけ?」「君は僕をおちょっくてるのか?」
「ちょっとした言い間違いでしょ!」「次が最後のチャンスだ」
「えっと・・・変態ナルシスホモフィフス」「・・・・・」
カヲルの冷たい視線が光る
「あれ!!?おかしいわね!えっと・・カ・・・」だが名前を言えない。
「やっぱり僕を傷つけて遊んでるんだね」「違うわよ!言おうとしてるんだってば・・。カヲ・・・」どうしても言えない。カヲルに対する嫌悪感が名前を呼ぶという行為を拒否しているのだ。
「あと10秒待とう。それ以内に言えなければこの町の人々を消すとするよ」
「今言うから!!カ・・・カヲ・・」「残り7秒」
「う~~!!なんで言えないの?カ・・・」「残り3秒」
「言えない!どうしても言えない!」「2.1.0.終了だ」
「他のこと!ほかの言う事一つ聞いてあげるから!!」「今のでだいぶ傷ついたからね。それなりの要求になるよ」
「ぐっ!!!!わかってるわよ・・」「まあ特別にゆるして上げるよ」
もはや完全に怒る側と怒られる側の立場は逆転している。
「たかが名前呼ばなかったくらいで、なんで一緒にお風呂入らなきゃなんないのよ!」
「それだけ僕の心は傷つけられたということだよ」
「人を傷つけるのは平気なくせに!!」「僕は壊すのが専門だからね」
「ドS星人!」「おや?SMを知っているのかい?」
「!!こっ!言葉として知ってるだけよ!!」「そういうことにしといてあげるよ」
「本当に知らないってば!!」「はいはい。ドMのアスカさん」
「やめてよ!誤解を招くでしょ!!」「誤解もなにも。君は、まごうことなきMじゃないか」
「違う!私は攻撃好きだもん!!」「本質はMだろ。君ほどS心をそそる奴はなかなかいない」獲物をみる目でみてくる。
「気持ち悪い言い方しないで!!」「ふふ」背中がゾクッとなった。
その時、ピピッという音がして、お湯が沸いたことを知らせてくれる。
アスカを気にすることもなく、カヲルはパッパッと服を脱いでしまい、仁王立ちでアスカが脱ぐのを待っている。幼児の仁王立ちは物凄く間抜けにみえる。
「忘れるとこだった」そう言うと、アスカは布を取り出す。
「僕が君を縛ればいいんだね」「本当にそれしか発想できないなら、本格的に脳が腐ってるわね」
「そうか。僕を縛って悪戯する気だね」「一人で言ってれば!」
無視してさっさとカヲルに目隠しする。
「また!!!」不満全開の声を出す。「当ったり前でしょ!!なんであんたに裸みせなきゃいけないのよ!」
「こんなんじゃ僕の心は癒されないよ!」「一緒に入るんだから、それで充分でしょ!」
「それじゃ、半分の目的も果たせないよ!」「裸がみたかっただけじゃない!」
「決まってるだろ!!」「堂々と言うな!!」
「こんなの嫌だよ」「それ外したら駄目だからね!」
「ちぇっ!」「透視能力とか無いでしょうね?」
「何をいまさら。そんなことできるなら、わざわざお風呂に入って視る必要ないだろ」
「それはそうよね」「そんな力があれば、毎日舐めまわすように視るのにな」
「さりげなく最低発言してるわね」「はあ~~~~」
衣服を脱ぎ終えると、浴室のドアを開ける。
「さあこっちよ」「どっち?」
「こっちだってば」「アホ女!目隠ししてるのにそんな説明でわかるか!」
「しょうがないわね」アスカはカヲルの手をとって誘導してやる。
それは弟を風呂にいれてやっている姉の図そのままだ。弟が目隠ししていることを除けばだが。
浴室に入るとカヲルの手をすぐ放してしまう。
「なぜ手を放すんだい?」「繋ぎたくないから」
「遠慮しない奴だな」「文句言ってないでとっとと身体洗いなさい。次に私洗うから」
「どこまでアホなんだ?見えてない僕がどうやって身体を洗うんだ」「ったく!」
アスカはしょうがなく、ハンドタオルに石鹸をつけて渡してやる。
身体を洗ってもらえると思っていたカヲルはまたもやひどく落胆する。
「洗ってくれないの?」「どこの中年オヤジよ!」
「洗って!」「嫌よ!」アスカはあっかんベーをする。
「ふん!」怒ったようにタオルを放り投げた。
「ちょっと!」「僕はきれいだから洗わなくても平気さ。もう風呂に入るよ」
「駄目!ちゃんと洗ってから!」「嫌だ!洗ってくれないなら、洗わない!」
「駄々こねたってやんないからね!」
カヲルは黙ったかと思うと、腕を挙げ始める。
「たかがこれ位のことでキレないでよ!」「消してやる」
「卑怯よ!何でもかんでも脅迫して要求するなんて!」「脅迫なんてしてないよ」
「卑怯者!!」「好きなように言ってくれ」
アスカは床に落ちたタオルを拾うと、もう一度石鹸をつけなおした。
「ここに座って!」カヲルの手をやや乱暴に引いて、椅子に座らせる。
「いつか天罰がくだるから!!」「むしろ僕は天罰を下す側だよ」
「こんなのが神様なんて世も末よ」「早く洗ってよ」「わかってる!!」
アスカはシャワーを出すと、程良い温度と水量に設定してから、カヲルにかけてやる。
軽く手でお湯を身体全体に広げてやるら。柔かくてスベスベした手の感触がとても心地よかった。身体を流してやった後は、今度は髪にシャワーを掛ける。
頭部も同様に手で優しくゆすいでやる。
「悪態小僧が急に黙って、どうしたのよ?」「なんでもないさ」
カヲルは手の感触に集中したかったので、短い返事をするのみだ。理由を知らないアスカは訝しみながら、続ける。
一通りシャワーを流し終えると、幼児用シャンプーを少量手にとって泡立ててから、カヲルの頭に広げる。まだまだ軟いカヲルの髪の毛を優しく優しく洗ってやる。
「変な気持ちになってきたよ」「なるな!!」
「もっと厭らしくやってくれていいよ♪」アスカはカヲルの頭を小突く。
「痛て!」「手が滑っちゃった」
「覚えてろよ!」「残念。もう忘れました」
髪の隅々まで洗い終えるとまたシャワーでゆすぎながら流してやる。
「はい頭はお終い。次は身体ね」泡立てたハンドタオルをつかい、肌を優しくこすっていく。だが途中で手がとまる
「まだ途中だよ」「ここから先は自分で洗って」
「なんで?」「言わなくても分かるでしょ!」
「散々僕の裸を堪能しておいて、今更純情ぶるな」「見てないわよ!」
「この淫乱娘め」「いいから続きは自分で洗って!」
タオルを強引に手渡す。カヲルはやや不満そうであったが、そこまでの過程でかなりの満足感が得られていたのでキレることなく従った。
全身を洗い終えたカヲルをシャワーで洗い流してやり、椅子から立たせると浴槽に誘導してやる。
「大人しく入ってなさいよ!」「お礼に、君の体を洗ってあげる」
「結構です!」「でも背中とか届かないだろ?流してやるよ」
「寝言言ってないで、そこにいろ!」「人の親切を」
「欲望丸出しで、よく言えるわね」「隠す奴よりいいだろ」
「どっちもどっちよ」
カヲルは大人しく湯船で待つことにした。視界はないが、音でアスカが髪を洗っているとか、身体を流しているとかが伝わってきた。
「今どこ洗ってるか当てようか?」「想像しないでよ!!」
「それは無理だよ。ちなみに今は二の腕辺りかな?」的確な指摘にドキリとした。
「当たりみたいだね。凄いだろ?」「エロ星人!!」
「ちゃんとお尻も綺麗に洗いなよ」「黙りなさいよ!!」
身体を洗い終えたアスカは湯船につかろうとするが、その一歩手前で立ち止まる。
「(よく考えたら、どうしてこの変態と一緒に湯船につかんなきゃいけないの?)」
「どうしたの?早く入りなよ」「・・・入んない」
「聞き間違いだかな?」「ここまでやればもう充分でしょ!」
「ううん。ちっとも」「勘弁してよ!!」
「駄目だよ」「ホントに自分勝手で最低!!」
カヲルはアスカの悪態などまるで意に介す様子もなく手招きする。幼児姿で手招きされると腹立ちも数倍に感じる。
「おいでおいで」「むかつく!!むかつく~~!!!」
どんなに文句を言っても、従うしかないのだ。アスカは観念したように湯船に入る。
「ひっついてこないでよ!!」「自意識過剰な奴だな。そんなことするもんか」
「って言ってるそばから、膝に乗ろうとするな!!!」「深いんだよ!膝くらい貸してくれよ」
「勝手に溺れてればいいでしょ!!乗せないからね!!」「君には心はないのか?冷酷女」
文句言いながらもカヲルはどんどん膝に乗ろうとしてくる。それをアスカは両手で制止するが、幼児とは思えない突進力で次第に押されていく。
ついにはアスカの膝に無理矢理上ってしまった。膝の上で実に満足気な様子で座っている。思わず後頭部をどつきたくなった。
「私はあんたの椅子じゃないんだからね!!!」「この椅子はあまり座り心地が良くないな」
「無理矢理座っておいて、なに文句言ってんのよ!!」「まったく最悪の品質だよ」
「なんですって~~!!」「座るんじゃなかった」
そんなこと言うわりには、どんどん背中をアスカに密着させてくる。
「材質はプ二プ二フワフワと気持ち悪くて、無駄にぬくぬく温かくて、おまけに甘ったるい匂いがぷんぷんして。とんだ不良品だ」
「そんな嫌なら!!とっと降りなさいよ!!!」「なんだその生意気な口のききかたは。君のような不良椅子が僕に座ってもらえるだけありがたいと思いなよ」
「はあ~~??」「座っていただきありがとうございますと言ってごらん」
「湯船に沈められたいの?」「クッションはどんな感じかな?」
わざと少し頭を下にずらす。すると後頭部は自然とアスカの胸の間に収まった。
「きゃっ!!やるにことかいて!!なにしてんのよ!!」「このクッションにしても、2つとも柔らかすぎるよ。僕の好みにあわないな」
「ふざけんのもたいがいにしなさいよ!!」
アスカはカヲルの頭を力ずくでどかそうとする。だが、びくともしない。絶対どかないという断固たる決意がそこから感じられた。
そうやってしばらく、岩の様に動かないカヲルとそれをどかそうとするアスカのバトルが続いていたが、突然なんの前触れもなくカヲルが頭をどけた。
アスカは一瞬拍子抜けするが、すぐまた警戒する。
「急に・・・どうしたのよ?」「・・・・・お腹が空いた」
カヲルが悪魔の言葉を呟く。
「じょっ!冗談やめてよ!今じゃなくてもいいでしょ!」「今食べないと死ぬ」
「駄目!駄目だからね!」「今食べたい!すぐ食べたい!」
「じゃあすぐお風呂出ようよ!」「ここで食べる」
「いやよ!お風呂の中でなんて!外でいいでしょ!!」「食べさせてくれないなら」
「なによ!またそれ!!なんでもかんでも思い通りになると思ったら大間違いよ!!」
「そうだね。そろそろこのやり取りに飽きてきたし、人類そのものを消そうか」
アスカは戦慄する。
「突然何言いだしてんの!!!!!」「いつかはやるつもりなんだ。今でもいいだろ?」
「駄目よ!!早すぎる!!」アスカは激しく焦った。さすがにこんなに早いとは思っていなかった。
少しでも時間を稼いで、カヲルを抑え込み事態を打開する手段を考えようとしいた。それだけに、この急な展開には動揺を隠せなかった。
「早すぎるか・・・ふふ。時間稼ぎできなくて残念だったね」
やはりカヲルは侮れない。全て知った上で行動していたのだ。
「ちきしょう!私をいいように操って楽しんでいたのね!!」「人聞きが悪いな」
「あんたは神さまなんかじゃない!悪魔よ!!」「そんな言葉遊びに興味ないな」
「さあ、そろそろお別れの時間だ。みんなにさよならするといいよ」
アスカは唇を噛みしめて悔し涙を浮かべる。
「(悔しい!悔しい!悔しい!悔しいよ!)」
しばし泣いた後にアスカは涙を拭う。涙を拭った瞳には決意の光が灯っていた。
「御飯・・・・食べたいんでしょ」「うん。でも仕事が終わってからにするよ」
「今日は・・・好きなようにしていいよ」「え??」
「好きな時間だけ・・・いいよ」「本当?」
「その代わり、みんなには手を出さないで」「・・・・・・」
「絶対途中で止めたり嫌がったりしない」「いいよ。ただし本当に守れたならの話だよ」
「守るわ」「もし約束やぶれば」
「わかってるわよ」「ふふ。交渉成立だね」
カヲルは膝の上で向きを変えてアスカの方を向いて座り直した。
「それじゃあいくよ」アスカは黙って頷く。
カヲルがゆっくりと顔をうずめて行く。
声が漏れないように、必死に唇を噛みしめる。それでも耐えられなくなってくると、今度は自分の人差し指を噛むことで声を押し殺す。
すでに頬だけじゃなくて、全身がピンク色に染まりつつある。瞳はすっかり潤んで、視線もさだまらなくなってきている。
舌の動きに呼応するように時折身躯が微かに跳ねあがった。
今アスカは完全にカヲルの手中にいた。全ての感覚を支配され、彼の行為に従って反応を促される。しかもそこから決して逃げることは出来ない。
何分経とうが、何時間経とうが、何日経とうが、何週間経とうが、何カ月経とうが、何年経とうが。カヲルが満足するまで終わりがくることはないのだ。
繰り返される快楽の波は耐性のないアスカを呑みこみ翻弄し続ける。快楽も繰り返されすぎると、それはいつしか苦しみに代わってくる。
アスカの息が荒くなり、胸をはずませるような呼吸をしだす。
「もう・・ハアハア・・もう・・ハアハア」「もう駄目って言いたいの?」
「・・・・・・」自然と口から出そうになる限界の言葉をなんとか咬み殺す。
無理矢理声を押し殺しているせいで、呼吸のリズムが狂い、しだいに激しい呼吸困難を伴うようになってくる。
「ハアハア・・駄目・・ハアハアハア・・じゃない・ンっ・・けど・・・休ま・・せて」
「いいけど。それは約束違反とみなすよ。それでも休憩したい?」
アスカは首を振る。
「いい子だ。一つ楽になれるようにアドバイスしてあげよう」
苦しそうにカヲルをみる。
「声を我慢してるから、苦しくなってくるんだ。声を出してごらん」
ブンブンと首を振る。
「楽になるんだよ。声出しなよ」アスカはイヤイヤと首を振る。
「恥ずかしくて自分じゃ無理なのかな?」「じゃあ手伝ってあげるよ」
カヲルは短い腕をめい一杯に伸ばすと、指をアスカの少し開いた口にさしこむ。アスカは驚くが、もはやそれを払う力もなかった。
アスカの下唇に指をひっかけると、すでに力が入り難くなっているアスカの口を無理矢理こじ開けた。ついにアスカの声が漏れる。
アスカは懸命に口を閉ざして、再び声を押し殺そうとする。だが、一度はずれてしまった箍を元に戻すことはできなかった。
そこまで耐えていたものがあふれ出すように、声を抑えることができない。
「そうそう。その調子。少し呼吸が楽になっただろ」「ダメ・・・・ダメ」
「ダメって言った?」アスカは必死に首を振る。
「そうだよね♪まだ始まったばかりなんだから」耳を疑いたくなるような言葉だった。
最終的にはそれがアスカにとってとどめとなった。アスカは理性で自分を抑えることを諦めざるえなかった。
波打つようなアスカの姿を、愛らしい声を、彼女の匂いを、カヲルは心ゆくまで楽しんでいた。
「いつもそれくらい素直ならいいのにな♪」
もうカヲルの声など聞こえていなかった。カヲルの思うままに反応させられ続ける。
「(あ・・・れ?ここ・・・・・どこ?私・・・何してるんだっけ?)」
天井が目に入る。どうやら自分が布団のなかにいることに気付く。
立ち上がろうとするが、ふらついていてとても無理だった。
一旦体勢を立て直して、ゆっくりと体を起こしていく。
座ってみて始めて、自分がバスタオルを巻いただけの状況であることを知った。
「これっ・・・・・・・」しばしボーとした後。
「!!!!!!!!!!!!」アスカは慌てて辺りを見渡す。だが近くにカヲルの存在はなかった。
「(落ち着け!!落ち着け私!!)」アスカはなんとか自分を落ち着けようとする。警戒しながら、タオルをきつく巻き直してベッドから降りる。
部屋の中をくまなくみるが、やはり奴の存在はなかった。アスカは次に服を探すが、それもやはり部屋にはなかった。
衣類関係の荷物はこれから届くことになっているので、服は着てきた一着しかない。なんとか服をみつけないと裸のままだ。
恐る恐るドアを開けて、隣のリビングを覗く。一見すると誰もいないようにみえるが、もちろん油断はできない。最大限の注意を払いつつ、ゆっくりと進んでいく。
「(落ち着いて!まず服を探すのよ!)」リビングにもない。となると、可能性はカヲルの部屋か風呂場だ。
だが、一番の危険地帯であるカヲルの部屋は、行くとしても最後だ。必然的に次の行き先が決まる。廊下を渡って洗面所につくと、そ~とドアを開ける。
浴室では換気扇が回ったままになっていて、そこで入浴があった事実を物語っている。アスカは思わず思い出しそうになる自分を抑える。
「(今は思い出しちゃ駄目!!!)」
服は脱いだ時のまま、畳んで置いてあった。アスカはとりあえずほっとして、服を着る。身に何かをまとうのがこんなにも安心できることだとは思わなかった。
洗面所から出たアスカは思案する。カヲルを探すために奴の部屋に行くべきか、逃げ出すべきか。だが、答えなど最初から1つしかないのだ。
カヲルを一人残すなど危なくて出来ない。ゆっくりとカヲルの部屋に向かった。
いきなり開けるなど、恐ろしい真似はできず、ノックをしてみる。だが返答はない。
「寝てる?」もう一度ノックしてみるがやはり反応はなく、覚悟して扉を開けた。
予想した通り寝ているようだった。ベッドの上に人影が一つあり、掛け布団が揺れている。
今なら殺すことができるんじゃないだろうか?アスカの脳裏に一瞬その考えが浮かぶ。
自分にあんな酷い事をする奴に情なんて掛ける必要ないとも感じた。
だが・・・実際それをやるとなると生半可な覚悟ではできない。アスカはどうすべきか分からずに動けなくなってしまう。
しばらくそうしているうちに、布団が動いて、起きる気配がする。アスカはびくんとなって、とっさに距離をとった。
「う~~~~ん」カヲルが背伸びをしながら起き上った。だが。
「!!!!!」「やあ。もう起きれたんだね。当分は起きれないと思ったよ」
「どうしたのさ。だまって」「あんた・・・・その格好?」
カヲルは自分の姿をみてみる。
「あ~これね。どういうことだろうね?」「知るわけないでしょ!!こっちが聞きたいわよ!」
カヲルの姿はもはや幼児ではなく、すっかり成長していた。だからと言って元の14歳の姿でもなかった。
明らかにそれ以上の年齢であることがわかる。17~18歳といったところか。
「不思議だね」「人ごとみたいに言うな!!!」
「まあいいじゃないか」「なにがどういいのよ!!自分のことなんだから、もっと真剣に考えなさいよ!!」
「考えても無駄だと思うけどな」「お気楽過ぎんのよ!」
「やれやれ五月蠅いな。・・・そうだね。可能性として考えれるのは」「何かあるの?」
「栄養を摂取し過ぎたせいかな?」「栄養???」
「君からいっぱいもらったじゃないか♪」アスカは全身真っ赤になって震える。
「はは。その可能性が高いな。力を使ってエネルギー消費すると小さくなって、逆に君からエネルギーをもらうと大きくなるんじゃないかな?」
「そんなバカな話!!」「それ以外に特に変わったことしてないからね。たぶん正解だよ」
「じゃあ、それ以上大きくなることもあるってことなの?」「可能性としてはね♪」
アスカは震える。幼児サイズのストーカーならまだかろうじて笑えたが、自分より大きいストーカーなど、もはや笑いの要素など皆無だ。
「アハ。震えてるね?温めてあげよう」カヲルが手招きすると、アスカは抵抗する間もなく引き寄せられてしまい、カヲルの膝にすとんと収まる。
「!!!!」「どうやら大きくなって力も何倍にも増したらしい。これなら何の支障もなく仕事に専念できそうだ」
「や・・約束が違うじゃない!!私が我慢できたらやらないって言ってたでしょ!!」
「君はgive upしたじゃないか。覚えてないのかい?」「!!!!!」
「賭けは僕の勝ちだ」「私、降参なんかしてない!!」
「したよ。僕はこの耳ではっきり聞いた」「言ってない!!言ってないもん!!!」
「証明できるのかい?」「そっ!!!・・・それは」
今更そんなこと証明などできるわけがない。
「ね?証明できないのはそれが嘘だからだよ」「違う!!嘘じゃない!!」
「証明もできないことを僕は信じる気にはなれないよ」「なによそれ・・・なんなのよ」
怒りと驚きで開いた口がふさがらない。「約束通り消させてもらうことにするよ」
「嘘つき!!詐欺師!!卑怯者!!鬼!!悪魔!!」「好きなように呼んでくれていいよ」
「ずるい!ずるい!!そんなのずるい!!!」
手脚をバタバタさせて抵抗する。圧倒的な力を持つカヲルの前ではもはや駄々をこねるしかない。
「ふ~。困った子だ。仕事の邪魔だな。後で遊んであげるから、あっちに行っておいで」
「どかない!!あんたがやめるっていうまで絶対にどかない!!」
カヲルはアスカの放れさせようとするが、アスカは全力でしがみつく。
その気になれば引き離すことなど造作もないが、カヲルはそれをする気にはなれなかなった。
どんなに歪んだ形ではあれ、始めてアスカの方から抱きついて来てくれているのだ。それを途中で中断する気にはなかなかなれなかった。
「ならチャンスをあげるよ」「???」
「僕の名前を10秒以内に呼べたら、今日のところはやめることにしよう」
「ホント?今度こそ嘘じゃない?」「ああ」
本来ならここも嘘と疑うべきところだが、アスカは信じた。否!!信じる以外に道はないのだ。
「じゃあ、呼んでみて。10・9」「カ・・・・カヲ・・・・」
だがやはりどうしても呼べない。この時ほどアスカは自分の不器用さを呪ったことはなかった。
「6・5」「カ・・カヲ・・・」無情にはカウントは進んでいく。
「4・3」
カヲルが2と言おうとした瞬間、アスカはカヲルの耳を両手で塞いだ。
アスカの唇が動いているが、何と言っているのかはわからない。
カヲルがアスカの手をどけようとしたところ、突然アスカがキスをしてきた。
さすがのカヲルも驚いて静止している。そのまま数秒キスしてから、アスカが顔を遠ざける。
「・・・・・」「聞いてたでしょ?ちゃんと名前言ったから」
「は?」「聞いてなかったの?私は言ったわよ」
「だって君が耳を塞いでたじゃないか」「だったら払いのければ良かったでしょ」
「だって君がキスするから」「キスしたから何?言ってないって証明できるの?」
「それは・・・」カヲルは言葉につまる。こんな子供だましは、強引につっぱねることはいくらでもできる。だが・・・。カヲルはアスカの顔をじっとみる。
彼女の瞳は不安をやどしていた。だがそれだけではなかった。
不安の中にも、必死であがこうとする光が確かにそこにはある。過酷な状況にも必死に抗おうとする力強さ。
「僕は、君のそういうところが大好きなんだろうね」「?????」
急にそんなこと言われて、上手く反応できなかった。
「ふふ。いいだろう。嘘はお互いさまだ。今日のところは君の手に乗ってやるよ」
アスカは安堵した。だが一気に気が抜けたせいで、カヲルの膝からずり落ちそうになる。
それをカヲルが抱きしめて止める。
「お譲様、だいぶお疲れのようですね♪」「いったい誰のせいだと思ってんのよ!!!」
「ふふ。お譲様、これからもわたくしを楽しませてくださいね」「もうこんなのごめんよ!!」
「ダメダメ♪これからもお譲様には存分に悶え苦しんでもらわないといけませんので♪」
「寿命が縮んじゃう!!!」「それも困ります。わたくしとず~と一緒に居てもらわないといけないのですから」
「嫌だ!!!もう一秒でも一緒にいたくない!!」「照れなくてよいのですよ、お譲様♪」
「放しなさい!!」「いえいえ♪今日はおんぶしてもらったので、今夜は私が抱っこしてさしあげますよ」
「そんなのいらない!!」「お譲様がいらない物を強制的に与えるのは最高に楽しいです♪」
「嫌い!!嫌い!大っ嫌い!!」「あなたが拒絶するわたくしをあなたに送ります」
「いらないってば~!!」「強制執行ですよ♪」
そうやって馬鹿げた会話を延々としていると、グ~~~と絶対に聞きたくない音が響いた。
「どうやらお腹が空いてきたみたいだよ♪」「ひっ!!」アスカは引きつる。
「どうしたの?いつもどおりにさ♪」「そんなに大きくなったんだから、もう必要ないでしょ!!」
「それが不思議なことに僕の本能はまだ“ミルク”と言ってるんだよ」「だとしても!!さっき食べたばっかりでしょ!!!」
「身体が大きくなって消費量も増えたのかな?」「そんなわけない!!」
「さあ♪食事にしようか♪」「放せ~!!!!!」
「さあさあ観念して♪」「もうあんたって本当の本当の本当に~~!!!」
声をためてから、怒りを込めて叫ぶ。
「自分勝手で、我儘で、唯我独尊で、嫉妬深くて、独占欲の塊で、変態で、ナルシストで、ドSで、意地悪で、鬼畜で・・・数え出したらきりがない。こんな最低最悪の神様は他にいないわよ!!」
カヲルはその日一番の笑顔になる。
「ありがとう♪なら、君は僕にとってペットで、奴隷で、玩具で、友人で、母で、姉で、恋人で、妻だ♪」「ああ~~!!悪夢よ!!」
アスカの苦悩に溢れた育児の日々は続く。<終わり>