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■最高裁平成16年7月1日第一小法廷判決

  • 重判での解説は、西山教授(九州大)

「閲覧等の請求に記載される「理由」がどの程度具体的であるべきかは実際上困難な問題である。しかし、具体的な記載を求めるのは、会社が閲覧に応ずる義務の存否および閲覧させるべき帳簿等の範囲を判断できるようにするとともに、株主等による探索的・証拠漁り的な閲覧等を防止し、株主等の権利と会社の経営の保護とnバランスをとることにある」
「本判決は、記載の具体性を肯定したことで、今後の実務に影響を与えることになろうが、株主等に「事実」の最終的な立証責任を負わすことなく、会社に反証wの義務を課したものとみるべきであろう」(ジュリスト1291号112頁)



主    文
   原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
   前項の部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。


理    由

 上告代理人林信一ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
 1 本件は,上告人が,株式会社又は有限会社である被上告人らに対し,商法293条ノ6又は有限会社法44条ノ2の規定に基づき,第1審判決別紙会計帳簿等目録記載の会計帳簿等(以下「本件会計帳簿等」という。)の閲覧謄写を求めた事件である。
 2 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) 被上告人Y1以外の被上告人らは,いずれも,定款をもって株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨を定めている株式会社である。
 (2) A(以下「A」という。)は,被上告人Y2の株式を77万4800株(発行済株式総数の4.6%),被上告人Y3の株式を15万8100株(同39.5%),被上告人Y4の株式を45株(同22.5%),被上告人Y5の株式を90.4株(同45%),被上告人Y6の株式を42株(同21%),被上告人Y1の持分(出資口数)を15万3720口(総出資口数の38.4%)有していたが,平成12年11月15日,死亡した。上記株式及び持分(以下「本件株式等」という。)は,現在,上告人を含むAの法定相続人4名による遺産の準共有の状態にあり,上告人の準共有持分は,4分の3である。
 (3) 上告人は,被上告人らに対し,平成13年2月4日ころ,本件株式等について株主又は社員の権利を行使すべき者に上告人を選定した旨の通知をした。
 (4) 上告人は,本件会計帳簿等の閲覧謄写を請求するに当たり,その理由として,次のとおり書面に記載した。
 ア 理由①(本件貸付けに係る調査の必要)
 Bグループに属するC社は,被上告人Y2から317億7200万円,被上告人Y1から99億5000万円,被上告人Y6から71億2000万円,被上告人Y4から7億円の各無担保融資(以下,これらを「本件貸付け」と総称する。)を受けていた。しかるに,C社は,平成13年9月17日,被上告人Y2の代表取締役であるD(以下「D」という。)に対し,無担保で72億4775万円を融資したため,その財務状況が悪化し,本件貸付けの回収が不可能となるおそれが生じた。上記被上告人4社のした本件貸付けは,違法,不当なものであり,上告人は,適正な監視監督を行うために,上記被上告人4社につき,本件会計帳簿等の閲覧謄写をする必要がある。
 イ 理由②(本件株式等の時価算定の必要)
 上告人は,遺産分割協議及び相続税支払のための売却に備え,相続により取得した本件株式等の時価を適正に算定するために,本件会計帳簿等の閲覧謄写をする必要がある。
 ウ 理由③(本件美術品取得の調査の必要)
 平成12年度の決算期時点において,被上告人Y2は簿価47億8117万7467円相当の,被上告人Y1は簿価154億9229万5942円相当の美術品(以下,これらを「本件美術品」と総称する。)を所有し,いずれも,Bグループに属するE財団法人に寄託している。上記被上告人2社がこのような多額の美術品を非営利目的で取得することは会社財産を著しく減少させ,会社ひいては株主,社員に回復できない損害を被らせるおそれが高いから,本件美術品の内容・数量,購入された時期・金額,購入の相手方等を調査するため,上記被上告人2社につき,本件会計帳簿等の閲覧謄写をする必要がある。
 エ 理由④(本件株式譲渡に係る調査の必要)
 被上告人Y1は,平成12年12月11日,Dに対し,同被上告人の有するC社の株式73万5000株(以下「本件C社株」という。)を代金合計73万5000円で売却した(以下,この株式の売却を「本件株式譲渡」という。)。本件株式譲渡は,不当な安値でされたものであり,本件株式譲渡に係る会計処理の内容及び本件C社株の取得価格等を調査するため,同被上告人につき,本件会計帳簿等の閲覧謄写をする必要がある。
 3 原審は,上記事実関係の下で,次のとおり判断し,上告人の請求を棄却すべきものとした。
 (1) 株式会社の株主又は有限会社の社員(以下「株主等」という。)が会計帳簿等の閲覧謄写を請求する場合には,株主等は,会社に対し,閲覧謄写の対象となる会計帳簿等が特定できる程度に当該会計帳簿等の閲覧謄写を求める理由を具体的に示すことが必要であり,かつ,その理由を基礎付ける事実が客観的に存在していることが必要である。
 (2) 上告人は,理由①において,前記被上告人4社の本件貸付けの不当をいうが,本件貸付けに深く関与していたことがうかがわれるAの相続人である上告人がその不当を主張することは信義則上許されないし,また,上告人は,理由③において,前記被上告人2社の本件美術品の取得の違法をいい,理由④において,被上告人Y1の本件株式譲渡の違法をいうが,本件美術品の取得及び本件株式譲渡が違法であるとの事実を基礎付ける事実が客観的に存在しているものとは認めることができないから,上告人が理由①,③,④をもってする本件会計帳簿等の閲覧謄写請求は,商法293条ノ7第1号(被上告人Y1については有限会社法46条により準用される同号)所定の「株主ガ株主ノ権利ノ確保若ハ行使ニ関シ調査ヲ為ス為ニ非ズシテ請求ヲ為シタルトキ」(以下,同号中のこの部分を「第1号所定の拒絶事由」という。)に当たり,許されない。
 (3) 上告人の本件株式等の時価算定の目的は,結局,遺産分割協議の進展を図ることにあると解されるから,上告人が理由②をもってする本件会計帳簿等の閲覧謄写請求は,株主等の地位を離れた純粋に個人的な目的でされたものであり,第1号所定の拒絶事由に当たり,許されない。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 商法及び有限会社法は,株主又は社員が会社に対し会計帳簿等の閲覧謄写を請求するための要件として,株式会社については総株主の議決権の100分の3以上,有限会社については総社員の議決権の10分の1以上を有することのほか,理由を付した書面をもって請求をすることを要求している(商法293条ノ6第1項,第2項,有限会社法44条ノ2第1項,46条本文)。そして,【要旨1】上記の請求の理由は,具体的に記載されなければならないが,上記の請求をするための要件として,その記載された請求の理由を基礎付ける事実が客観的に存在することについての立証を要すると解すべき法的根拠はない。
 上告人が,本件会計帳簿等の閲覧謄写請求をするに当たり,その理由として書面に記載した前記の理由①,③,④を,上記の具体的な記載とみることができるか否かについて検討するに,まず,前記の理由①の記載についてみると,同記載は,前記被上告人4社がC社に対する多額の無担保融資である本件貸付けをしたことが,違法,不当であり,本件貸付けの時期,内容(貸付け条件,弁済期等)等を調査する必要があることをいうものと解されるから,前記被上告人4社の本件貸付けに係る会計帳簿等の閲覧謄写を請求する理由の記載として,その具体性に欠けるところはないというべきである。
 次に,前記の理由③の記載についてみると,同記載は,前記被上告人2社が多額の本件美術品を購入したことが,違法,不当であるとして,本件美術品の購入の時期,内容(代金,相手方等)等を調査する必要があることをいうものと解されるから,前記被上告人2社の本件美術品購入に係る会計帳簿等の閲覧謄写を請求する理由の記載として,その具体性に欠けるところはないというべきである。
 また,前記の理由④の記載についてみると,同記載は,被上告人Y1がDに対して1株1円という安値で本件株式譲渡をしたことが,違法,不当であるとして,同被上告人における本件株式譲渡に係る会計処理の内容及び譲渡された本件C社株の取得価格等を調査する必要があることをいうものと解されるから,被上告人Y1の本件株式譲渡に係る会計処理及び譲渡された本件C社株の取得価格等に係る会計帳簿等の閲覧謄写を請求する理由の記載として,その具体性に欠けるところはないというべきである。
 そして,上記の各請求につき,第1号所定の拒絶事由に該当すると認めるべき相当の理由があると解すべき事情は存しない。また,Aが本件貸付けに深く関与していたとしても,そのことをもって直ちに上告人の前記の理由①による本件会計帳簿等の閲覧謄写請求が信義則に違反するものということはできない。
 そうすると,以上と異なる見解に立って,上告人の上記各理由による本件会計帳簿等の閲覧謄写の請求が許されないものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 (2) 次に,上告人の前記の理由②による本件会計帳簿等の閲覧謄写請求についてみるに,遺産分割協議のためという点はともかくとして,理由②は,相続税支払のための売却に備え,上告人が相続により取得した本件株式等の時価を適正に算定するために,本件会計帳簿等の閲覧謄写をする必要があるという理由も掲げており,その具体性に欠けるところはない。そこで,株式等の売却に備えてその時価を算定するための会計帳簿等の閲覧謄写請求が,第1号所定の拒絶事由に該当するかどうかについて検討する。
 商法及び有限会社法においては,株式の譲渡につき定款で取締役会の承認を要する旨を定めている株式会社の株主が株式を譲渡しようとするとき,又は有限会社の社員がその持分を社員以外の者に譲渡しようとするときには,当該株主又は社員は,会社に対し,所定の事項を記載した書面をもって特定の相手方に対する譲渡を承認すべきこと又はこれを承認しないときには他に譲渡の相手方を指定すべきことを請求するものとされ,この指定の請求がされた場合において,取締役会又は社員総会は,その譲渡を承認しないときは,他に譲渡の相手方を指定しなければならず,指定された者との間で売買価格についての協議が調わないときは,当事者は,裁判所に対して,売買価格の決定を請求することができるなど,株式又は持分の譲渡制限に伴う一連の手続が定められている(商法204条ノ2,204条ノ3,204条ノ3ノ2,204条ノ4,有限会社法19条)。上記のとおり,株式の譲渡につき定款で制限を設けている株式会社又は有限会社において,株主又は社員が,その有する株式又は持分を他に譲渡し,その対価を得ようとする場合には,会社との関係で上記の手続を執ることが要求され,会社が指定した者との間での売買価格についての協議を行うこと等も定められているのであるが,当該株主又は社員において,上記の手続に適切に対処するためには,その有する株式又は持分の適正な価格を算定するのに必要な当該会社の資産状態等を示す会計帳簿等の閲覧等をすることが不可欠というべきである。
 したがって,【要旨2】株式の譲渡につき定款で制限を設けている株式会社又は有限会社において,その有する株式又は持分を他に譲渡しようとする株主又は社員が,上記の手続に適切に対処するため,上記株式等の適正な価格を算定する目的でした会計帳簿等の閲覧謄写請求は,特段の事情が存しない限り,株主等の権利の確保又は行使に関して調査をするために行われたものであって,第1号所定の拒絶事由に該当しないものと解するのが相当である。
 そうすると,上記特段の事情の存することがうかがえない本件においては,上告人が,前記の理由②において,相続により取得した本件株式等の売却に備え,その適正な価格を算定するために必要であるとして行った本件会計帳簿等の閲覧謄写請求は,第1号所定の拒絶事由に該当しないものというべきである。以上と異なる見解に立って,上記の請求が第1号所定の拒絶事由に該当するとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 5 以上によれば,原判決のうち上告人敗訴部分は破棄を免れない。論旨は,上記の趣旨をいうものとして理由がある。そして,本件については,閲覧謄写を認めるべき会計帳簿等の範囲等について更に審理を尽くさせる必要があるから,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 泉 德治 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 島田仁郎 裁判官 才口千晴)