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*7歳のプロマンガ家
「MEET THE YOUNGEST PROFESSIONAL CARTOONIST!(最年少のプロマンガ家に会おう!)」
『Comic Book Artist』Vol.2 #4掲載のパブリッシャー、ジョン・B・クークによる記事「Alexa the Great!」によると、去る6月におこなわれた今年のMoCCA(Museum of Comics and Cartoon Art)フェスティバルの会場のアーティストセクションにはこんな張り紙の貼られたブースがあったらしい。その「最年少のマンガ家」とはアレクサ・キッチン(Alexa Kitchen)、当時6歳の美少女である。
「美少女? 嘘だあ」と思うなら写真を見てみるといい、以下にオフィシャルページのフォトセクションにリンクを張っておく。
http://www.alexakitchen.com/photos.html
名前を見て「ひょっとして」と思ったのだが、案の定彼女は元キッチンシンクプレス(Kitchen Sink Press)のパブリッシャーで現在CBLDF(Comic Book Legal Defend Fund)運営委員のデニス・キッチン(Denis Kitchen)の娘だった。
キッチンは自身アンダーグラウンド草創期に活動をはじめたアーティストで、太ったお母さんのセックスコメディ『MaMa』という自作のコミックブックをカーニバルで手売りして警察に捕まる(まあ、子供が集まるところでそんなもん売ってたら普通いろいろマズいだろう)ところからキャリアをはじめ、初のメジャーな(という言い方も変だが)アンダーグラウンドコミックスのパブリッシャー、キッチンシンクプレスのボスとして30年の長きに渡り辣腕を振るった人物だ。
キッチンシンクはファンタグラフィックスに先行するアンダーグラウンド/オルタナティブコミックスのリーディングパブリッシャーだった会社で、ロバート・クラム(Robert Crumb)やハーベイ・カーツマン(Harvey Kurtzman)といったこの領域における最重要作家の新作の供給源であり、またカーツマンの『Little Anny Funny』ウィル・アイスナー(Will Eisner)の『Spirit』などの過去の名作の復刻をおこない、スコット・マクラウド(Scot McCloud)の『マンガ学(Understanding Comics)』、アラン・ムーア(Alan Moore)とエディー・キャンベル(Eddie Campbell)の『From Hell』など時代を画する意欲的な作品の初版時の版元でもあった。運転資金に行き詰ってこの会社は99年に事実上解散するが、キッチン自身は現在もアーティストのエージェントとして活動を続けている。
このキッチン、アンダーグラウンドコミックス初期からのアーティストの例に漏れず相当な変人(というかよりわかりやすくいえば金持ったヒッピー)らしく、業界でも非常に毀誉褒貶が激しい。最近あまり名前を聞かないから何をやっているのかと思ったら、今度は娘をダシにして金を稼ごうとはまたなんて外道な、などと勝手に義憤に駆られてみたが、記事を読んでもサイトを見ても父親以上にお母さんが娘の売り出しに熱心だし(サイトの運営は母親のステイシー(Stacy)がやっている)、なによりアレクサ本人がじつに堂々としたアーティスト振りを見せている。
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コミックブックアーティスト:アレクサ、いつごろからマンガを描いてるの?
アレクサ:たぶんわたしが二つか三つのときから。
CBA:楽しい?
アレクサ:うん! だいすきなんだ。いつだってペンをもつのはだいすき。
CBA:マンガはすき?
アレクサ:うん!
CBA:じゃあ、お気に入りのコミックブックやコミックストリップを教えてくれるかな?
アレクサ:『Calvin & Hobbes』と『Power Puff Girls』、それに『Nancy』と『Little LuLu』も。
CBA:お気に入りのアーティストはいる?
アレクサ:ビル・ワターソン(Bill Waterson)とアーニー・ブッシュミラー(Ernie Bushmiller)。ふたりともいい仕事してる。
(「Alexa the Great!」、John B. Cooke)
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うわっ、趣味渋っ!
『Calvin & Hobbes』は小野耕生いち押しの、夢見がちな男の子と彼の「ライナスの毛布」であるトラのぬいぐるみを主人公にしたコミックストリップ不朽の名作だが、作者のビル・ワターソンが「これ以上描くと質が落ちる」と宣言して引退してしまい、とっくに新作は発表されなくなっている。PPGはまあいまどきの子供らしいが、『Little LuLu』と『Nancy』なんて少女を主人公にしたコミックストリップとしてははじめてに近い超古典(LuLuの初出が1935年、Nancyの初出は1938年)、しかもワターソンとともに「お気に入りアーティスト」にあげているアーニー・ブッシュミラーは『Nancy』のオリジナルアーティストなのだ。
『Calvin & Hobbes』や『Peanuts』とは異なり、初期のコミックストリップである『Nancy』はシンジケートが版権を所有しており、じつは作者を変えていまだに続いていたりする。逆にいえば、そのオリジナルであるブッシュミラーは『Peanuts』の作者のチャールズ・シュルツ(Charles Schulz)やその下の世代に当たるワターソンにとっての憧れのアーティストだった。
いくら「そういうもの」が周囲にゴロゴロしている環境で育っているとはいえ、じつに「いい趣味」をしているとしかいいようがない。
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CBA:君のマンガにはよく「デニス」って名前の猫が出てくるけど、そういう名前の猫を飼ってるの?
アレクサ:ちがうわ、猫は飼ったことない。
CBA:じゃあ、ホントはお父さんのことなのかな?
アレクサ:ぜんぜんちがうよ、デニスはただの猫の名前。彼はどっちかっていうと『Garfield』と関係してるの。わたしがアイディアをおもいついたのが『Garfield』からだったから。
CBA:どのくらいのスケッチブックが売れた?
アレクサ:たくさん!
CBA:君の作品のことでいろんなひとが話しかけてきたんじゃないかな?
アレクサ:ちょっといたかな。先週マーク・シュルツ(Mark Schultz)が手紙をくれたわ。彼ってとってもかわいいの。パトリック(Patrick McDonnell)は『Mutts』の中の彼の本を一冊送ってくれた。ダークホースの編集者のひとはとってもやさしくしてくれたし……あっ! それにウィル・アイスナーも。彼はすごくいいひとだわ。あとはいまちょっと思い出せない。
CBA:じゃあ、この雑誌の読者に君について知っておいてもらいたいことがなにかある?
アレクサ:みんなにまだわたしは7歳だっていってあげて。だからわたしはきっとこれからもっといいアーティストになるの。
(同上)
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もう「役者が違う」という感じだ。けっして無能なインタビュアーではないクークが不慣れな子供相手だというのを割り引いても完全に遊ばれていて、読んでいておかしいったらない。
以下、解説しておくとマーク・シュルツはDCやデルコミックスでの数多い仕事とそれ以上に映画『キングコング』や『ターザン』のストーリーボードを描いていたことで知られる大ベテランアーティスト。ウィル・アイスナーは年一回夏のサンディエゴコミックコンで彼の名を冠した賞がコミックス界でも有数の権威ある賞として送られるのを見てもわかるようにアメリカンコミックスにおける手塚治虫のような存在。パトリック・マクドネルは動物モノの人気コミックストリップ『Mutts』の作者、彼の仕事は『Mutts』のオフィシャルページ(http://muttscomics.com/)で見ることができる。
想像するだけでも、こういう錚々たる面子がアレクサのおしゃまな魅力にメロメロの図が思い浮かんできて相当おかしい。
この記事にはひとが悪いことにこうした業界のアレクサファンから送られた手紙が引用されていたりもするのだが、特にアイスナーとシュルツのふたりはアレクサに直接宛てた手紙であることもあって(他の手紙は基本的に父親のデニスに宛てられている)、実際の文面もメロメロだ。このお手紙セクション、タイトルは「Acolytes of Alexa!(アレクサの従者たち)」というのだが、まさにその通りの「しもべ」状態。
まずウィル・アイスナー
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アレクサ、きみとぼくとでコミックブックショップをやってみたらどうだろう……アイスナー&アレクサ・スタジオという名前の。ムム……たぶんアレクサ&アイスナースタジオのほうがいいかな? もちろんぼくらはきみが大きくなるまでまたなきゃならないけど、それまで元気でいられるようにがんばるよ。
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もう、ただのかわいい孫に目を細めるおじいちゃんだ。
次にマーク・シュルツのしみじみした述懐。
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アレクサ、きみの新しい本はぼくがずいぶん長いことわすれていたとても楽しいマンガと絵だったよ。そのうちのいくつかはきみに会いにいったときに見せてもらっていたものだったけれど、いくつかは新しいものだった。それにその全部がぼくとデニスを笑わせ、興奮させてくれた。ぼくらはきみが新しいマンガを描き続けてくれるといいとおもう??きみの絵はまったくユニークできみそのものだ、この世界にひとつしかないもの。たぶんいちばん大事なことはきみのマンガがぼくに自分がどうやってマンガを描いていたかを思い出させてくれることだろう。
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実際、彼女のコミックスは6、7歳の子供のものとしては天才的だが、当たり前の話としてごくプリミティブなものだ。子供の絵というのは全般的にそうした効能のあるものだが、年期の入ったプロからすると、技術的にうまくなったかわりに見失われた「絵を描く衝動」のようなものを喚起される部分があるのだろう。
いずれにせよ、この天然の英才教育を受けた天才少女はすでに注目されはじめている。手紙を寄せているダークホースコミックスの編集者やキングフィーチャーシンジケートの編集、トップシェルフコミックスの副社長などといったひとたちは口々に彼女の才能を絶賛し、すでにダークホースコミックスのアンソロジーでの2ページ書き下ろしのデビューも決まっている。しかもコンベンションで受けた取材からなんと『Publisher's Weekly』にも登場済みだという。
こうした勝手に転がっていく状況には、業界で酸いも甘いも経験してきたお父さんとしてはいくらか苦々しいものもあるようで(どっちかというとお母さんのほうが舞い上がっていて「まだ七つなのにこれからどうなるかワクワクする」とかいってる)、クークのインタビューに答え、最後にその心境の一端をもらしている。
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CBA:『Publishers Weekly』の記事で彼女は最初の名誉の洗礼を受けた訳だけど、この成功がアレクサ・キッチンをスポイルすることはないかな。
デニス:ハッ! 彼女は出版業界で聖書がどういう意味を持ってるかも知らないよ。人形とロックと絵と遊びが彼女が夢中になってるすべてだ。メディアの上げ下げなんてモノは私の領分だよ。ステイシーと私はアレクサの作品の完全に無垢な部分を一番愛しているし、出来る限り長くそれを守ってやりたいと思っているんだ。
(「Alexa the Great!」、John B. Cooke)
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真剣に心配しているデニス・キッチンにはホロリとくるし「疑って悪かった」とも思ったのだが、この記事を読んで私もすっかりアレクサのファンになってしまった。
興味のある方はぜひ
彼女の公式サイト(http://www.alexakitchen.com/)
にいってみてもらいたい。
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