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コミックブックのダウンロード問題

 数日前、『 NEWSARAMA >』、『 COMICON.com 』などいくつかの大手コミックスファンサイトのBBSに「This is an open letter / appeal to comic fans.(たとえばhttp://www.comicon.com/cgi-bin/ultimatebb.cgi?ubb=get_topic;f=1;t=011217)」というマルチポストがされた。
 これを読んだ『 BoingBoing 』のコリー・ドクトロウ(Cory Doctorow)が6日に「 Downloading comics: threat or menace? 」って記事を書いていて、「ふーん」と思ってこれをクリップしておいたらここ数日の間になんだか話が大きくなっている。
 すでにアメリカンコミックス界の2ちゃんねる(と私が勝手に呼んでいる) 『Millarworld』でもネタにされ 、購読しているアメリカのコミックス研究者のML( COMIX-SCHOLARS-LIST )でもいつの間にか話題にされているという具合だ。
 この話、「なんだかなあ」と思う部分も多数あるのだが、興味深い点もいろいろあるのでちょっと紹介しておく。
 まず技術的な背景にあるのは、前にちょっと触れたことがあるP2Pのファイルダウンロードソフト「Bit Torrent」による個人レベルでのファイル共有の問題である。これは日本で制作者が逮捕された「Winny」と似たようなプログラムで、ユーザー間のネットワークで画像や音楽、動画などの大容量ファイルがやりとりできるフリーウェアだ。
 まあ、詳しいことは『 The Official BitTorrent Home Page 』でも見てもらうとよいと思うが、日本でも一部でファンサブの供給源として知られるこのプログラムを使ったファイル共有、さすがに最近はアメリカでも問題になってきているらしく04年末からけっこうな勢いでTorrentファイル(共有ネットワークからファイルを落とすためのキーファイル)のダウンロードサイトが取り締まられている。いまのところ版権管理の厳しい映画が主な対象のようだが、一部アニメなんかも問題になったりならなかったりしているらしい(この辺の事情は『 アニメ! アニメ! 』とか『 訳者のつぶやき 』とかを見てもらうとわかる)。
 ただ、前述のポストで問題になっているのはこうした映像ソフトではなく、スキャニングして取り込んだコミックスの画像ファイルである。Winnyの状況とか知識ゼロなので日本のことはよくわからないが、アメリカのTorrentサイトには鬼のような量のコミックブックをスキャンしたファイル(バットマン百号分とか)がけっこうある。
 もともとアーティストの個人レベルでの活動が活発でコンピュータ大好きなアメリカのコミック界ではDC、マーヴルでも「サンプルページのPDF配信」はもはや標準装備と化しているのだが、Torrentファイルになっているのはおそらく手作業で印刷されたコミックブックをスキャンしたものだ。もともとコミックスに関してはPDFのサンプルだって読みにくくてイヤなくらいなので、これに関しては常々「物好きなひとがいるなあ、どうすんだこれ?」くらいに思っていたのだが、どうやらアメリカのコミックスファンの中にはこのことをかなりナーバスに捉えたひとがいたらしい。
 件のポストは内容的にまったくの「反Bit Torrentプロパガンダ」とでもいうべきもので、まあ本邦でいうところの「あおり」だと考えるべきなのだろうとは思う。書いた本人は大真面目なのかもしれないが、ほとんど陰謀論になっている部分もあり、読むとちょっと苦笑したい気分になりはする。

 現代のインターネットとともに育ってきた世代は音楽も映画も本も、そして最近はコミックブックもダウンロードして楽しむものだと感じるようになってきている。しかし、他のメディアはともかくコミックスの場合はこれは間違いだ。コミックスは小規模なメディアであり、本の些細な売り上げの違いがシリーズの成功と失敗を分けてしまう。その上、この売り上げ低下を招いているのは顔のない毎年数十億ドルを稼ぎ出す大企業などではなく、本物の人間、私やあなたと同じ普通のひとびとなのだ。彼らはただ自分たちにできることをしたいようにしているだけに過ぎない。
 問題の核心はインターネットはすべてがフリーであり、インターネットの思想をうまく捉えた著作権法(copyright law)もいまだに制定されていないことだ。BitTorrentサイトは実際には版権もののコンテンツを提供しているわけではないにしろ、「Torrent file」を提供することであるユーザーが所持する版権ものコンテンツを数百の他のユーザーに提供できる、著作権侵害のギリギリの線にあるものだろう。この発明はライセンス元や彼らの権利を守ろうとする法執行者たちにやっかいな問題を突きつけた、あまりにも多くの人間がかかわっているために食い止めることがほとんど不可能なのだ。
(「This is an open letter / appeal to comic fans.」、Dave Stephenson)

 いちおう断っておくが、これはオープンなマルチポストなので仮に著者名は「ComicCon.com」のポストからとったが、この「Dave Stephenson」が本当にこれを書いたかどうかはわからない。
 以後このポストは「食い止めることがほとんど不可能」と書きながら、なぜか大手のコミックス系Bit Torrentグループ『 Z-CultFM 』の糾弾になる……まあ、各BBSでこの後コメントが紛糾しているのは特に書かなくても想像がつくと思う。
 BoingBoingの記事はこの議論を横目で眺め、ちょっとからかうような形で書き始められている。

 コミックスのダウンロードは不道徳だと考えるあるコミックスファンによる、読者をその種のコミックス交換サイトから遠ざけようとする長くて大げさなポストがメッセージボードに投稿されている。議論は以後もいくつものすばらしいポストで続けられている……だが、もっとも興味深いのは自分がすでにハードコピーを持っている本しかダウンロードしないという熱狂的なコミックス読者からの「後になって本を傷つけないように読み返すためには一番いい方法なんだ」というものだ。
(「Downloading comics: threat or menace?」、Cory Doctorow、http://www.boingboing.net/2005/01/06/downloading_comics_t.html

……まあ、皮肉っぽいこと(苦笑)。
 この記事自体は現在のアメリカでコミックスというメディアが置かれた微妙な状況をよく反映していて非常に参考になるものだが、この冒頭の皮肉っぽい調子や元ポストの「些細な売り上げの違いがシリーズの成功と失敗を分けてしまう」という大仰な煽り自体が日本人にはちょっと理解しづらいだろうと思う。
 要するにもとからのコミックブックの愛読者である熱狂的なコレクター層と出版社サイドの努力によって根付いてきた書店売りのTPBを中心に読んでいる一般読者が層としては分裂していて、コミックショップの中心的なユーザーであるマニア層がコミックブックの最新トレンドに一喜一憂する一方で、SalonとかBookSlutとかBoingBoingみたいなメディアに拠っている一般読書人は「新しいメディア」としてのコミックスに興味や関心を寄せながらも「コミュニティーとしてのコミックスファン、マニア層」をちょっと距離を置いた(まあ下手をすると小バカにした)視点で見ている、という構図があるわけだ。
 もちろん、この辺は私自身の偏見込みだと考えてもらわないと困るが、ここで強調しておきたいのはこういうニュースが入ってきた際に、大雑把にでもいいからこうした文化的な受容状況に対する自分なりのパーススペクティブを持っていないとその情報を情報としてまったく消化できない、という点だ。
 今後このニュースは、立場によって「だから規制を」という主張にも「だからクリエイティブコモンズを」という主張にも簡単に利用されていく気がするのだが、個人的には前提としての状況論を含まなければ新聞やテレビに出ようが、主張含めてまったく無価値だと考えている。

ダウンロードの功罪

 で、じつはこの話題の本題はここから。
 前述したようにBoingBoingの記事は筆者の主張より「いまのアメリカで書店でコミックスを買って読む」層の考え方や不満がリアルに出ていて、そこがおもしろい。

 コミックス業界は私がマンガ本を読み始めてからずうっと崩壊の危機にさらされてガタピシいっている。私がいつも不満に思うのは月間のコミックブックと単行本の間の不可解なタイムラグだ。あなたが書店をふらふらしていて『Y:The Last Man』か『Fables』の1~5号を集めた単行本(両方ともすばらしい本、さあたらたら歩いてないで走って探しにいって)を見つけ夢中になったとする。あなたはすぐに書店にいってそれぞれ3、4冊でている続きの単行本を手に取ることができる。いまやあなたは20号までの『Fables』を読んだことになる、そしてあなたは次の単行本の発売が待ちきれない、あなたは思い切ってレギュラーのマンスリーシリーズの読者になろうと考える。あなたは地元のコミックショップにいって「21号から一番新しいのまでの『Fables』をください、そんではまっちゃったんで、毎月私用に最新号も取り置いてほしいんですけど」という。
 するとコミックショップの店員の答えはいつもこうだ「ええと、最新号の25号はこれですね、あと24号がこれ……それより古いのは売り切れです」べつな言い方をすればあなたは『Fables』という船に乗り遅れたのだ、あなたが本を手に入れるためにはコレクターかE-Bayから買うしかない。
(「Downloading comics: threat or menace?」、Cory Doctorow、http://www.boingboing.net/2005/01/06/downloading_comics_t.html

……いや、子供ですか君は(w
 アメリカのコミックショップというのは一種の古書店だから、この場合ショップの店員の対応にも問題ある(親切な店では他のショップに在庫を当たってくれたりする)が、『Fables』の20号台なんてネットで探せばすぐに在庫のあるショップが見つかるぞ? というか普通に考えて単行本になるの待てよ。『Book of Magic』(セカンドシリーズ)みたいにいくら待っても続きの単行本が出やしねえってケースじゃないんだから(泣)。
 つまり、そもそも定期的にマンガを買って読む文化、というより習慣が一般のアメリカ人にはまったくないのである。
 たとえば私たちが『Bleach』の単行本を買ってみておもしろかったから、続きを読むため『ジャンプ』を買い始めたとして、単行本収録作品のすぐあとの話が収録されている『ジャンプ』が売っていないことに不満を抱くだろうか? 答えはたぶん「ノー」だろう。それが「当たり前」だからだ。出版や流通システムの違いはあるにしろ、アメリカにはまだその種の「当たり前」の感覚自体が(マニア層を除けば)存在しないのである。
 で、この記事は「そういう読者のためにマーヴルやDCはオンラインでバックイシューを読めるようにしておくべき(ちゃんと単行本は買うから)」というのだが、これはいくらなんでもコミックショップや現在のファンの文化のあり方を無視しすぎだ(っつーか、そんな無理難題を出版社にいう前に検索で在庫のあるショップを探せ)。

(追記:読み直したら気になったんで追記。「そういう読者のためにマーヴルやDCはオンラインでバックイシューを読めるようにしておくべき(ちゃんと単行本は買うから)」というのはマンガ的にデフォルメしていってるので、いくらなんでも原文ではここまで強い調子ではありません。原文は「All that's missing is a way to turn collection readers into monthly-plus-collection readers. The Web could be that way. Scott McCloud has written some brilliant stuff about what a comic that's designed for the Web should look like, but here's the whole other way to use the Web to advance the comics biz: give old issues away to bridge the gap between customer acquisition and customer retention.」で、十分なめてるとは思ったのですが(w)

 では、翻って元の議論のポスターのように「コミックブックのダウンロードが売り上げを減少させる」危険性があるのだろうか?
 こっちはまあまじめに考えるとけっこう難しい問題だとは思うが、個人的にはあまりリアリティーを感じない。
 スコット・マクラウドなどは盛んにウェブコミックスの可能性をいうが、個人的な感覚ではモニター上で読むコミックスはリーダビリティーが悪すぎる。クリエイターサイドにしてもネットでコミックスを発表するなら一歩踏み込んでフラッシュアニメをつくるほうが表現の幅は広がる訳だし、サンプルやプロモーション目的以外でのウェブコミックスはあまり広がらないのではないか、というのが正直な感想だ。
 もちろん、なくなると考えている訳ではなく、位置づけとして今後は「出版社による本のプロモーション目的」、「アーティストのセルフプレゼンテーション」の二つに特化していき、「それ自体を売ろう」という方向はそれほど伸びないんじゃないかと思っているのだ。
 そもそもモニター上でマンガを読むことに対しこういう感覚を持っているため、個人的にはコミックブックのダウンロードファイルに対してもあまり脅威だとは思えない。たとえば『Batman』のコミックブック100冊分のデータをダウンロードしてきたとして、モニターで読むのは苦痛だし、わざわざプリントアウトするのはもっといやだ。
 そういう意味では「本を傷めないためにダウンロードしたものを読む」というコレクターの反応は「読み物」というより「キャラクターグッズ」であるマニア層におけるコミックブックの享受のされ方をよくあらわしたものだと思う。
 個人的に「おもしろいな」と思ったのはコリー・ドクトロウが最後に紹介しているコミックショップの経営者からNewsramaへのポスト。

 ここでいっときたいと思うんだが、オレはZ-Cultのメンバーだ。単なるフォーラム参加者じゃなくて、アクティブなメンバー。ここで異なった視点からの意見を提供しておけば問題を異なった視点で見られるだろう。オレはZ-Cultがスタートして一ヶ月くらいであのサイトを発見した。それまでの5年間コミックスは全然読まなかったし、コミックブックなんてガキの読むばかばかしい代物で、みんなくだらないと思ってた。で、誰かにいわれて「オレが読んでみたほうがいい」って作品をダウンロードしてみた。読んでみて、1ヵ月後にはオレは自分のコミックショップを開いていた。

 単純にいい話だし、大元のポスターの意見とは逆にアメリカの状況はこのくらいのレベルから一般の意識を改革しなきゃならないわけだから、むしろユーザーからの多様なアクセスの可能性の担保のためにダウンロードサイトはあったほうがいいのかもしれない、とかとりあえず思いました。

追記2:コメント欄での指摘を受け、間抜けな間違え(コリン->コリー)と訳文の間違いを修正。Voltaireさん、ありがとうございました。

「私の偏見」について

 コメント欄での指摘があったので、前述した「私の偏見」について少し詳しく書いておいたほうがいいと思い追記しておく。
 はっきりいって私はBook SlutだとかBoingBoingのようなメディアでのコミックスの取り上げられ方、扱われ方にあまりいい印象を持っていない……といっても見始めたの自体がごく最近なのでこれは第一印象に過ぎないのだが、正直いって「鼻持ちならないな」と感じている部分がある。この辺はたとえばクリス・ウェアが編集した『McSweeny's Quartery Concern』#13辺りにも感じていることだが、新しいサブカルチャーとしてオルタナティブコミックスや日本マンガを取り上げることで自分のセンスのよさを誇り、既存のスーパーヒーローコミックスやそのファンを下に見るような感覚が感じられて、そこがどうもイヤなのだ。まあ、だからといって向こうのいわゆる「ファンボーイ」に共感できるわけでもないところがまた微妙なのだが(『Green Lantern: Rebirth』は激しく勘弁してほしいという点には心底同意する)。
 この辺はいまになってやっとTIME.Comixのアンドリュー・アーノルドがいかに細かく気を遣って書いているかが漠然とわかってきてひそかに感心しているのだが、それはそれとして。私が「そういう先入観」をもって書いているということだけは明言しておく。ま、大部分のひとにとってはどうでもいいことだろうが。




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