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「吸血騎the story8」(2010/03/29 (月) 16:28:48) の最新版変更点
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-序
「出てきやがれ、未来人んん!」
クランは司令室のドアを蹴り破った。
中には、…透明の翼を纏った、正体不明の侵入者が。
「貴殿は、…何者だ」
「我は静鎧亜ダイア・ヴァレー、…ミライズを手にせしロスト・クルセイダーッッ!! 貴様らにミライズは渡さん、ここで消えよ!!」
「てめーが消えやがれぇぇええッ!」
風を切り、音速も追い越すスピードでクランが蹴りかかった!
ダイア・ヴァレーはそれを翼で受け止める。…何の衝撃も無かったかのように平然と。
「この無敵の絶対防御! 我はミライズの力で最強の防御力を手に入れたッ、貴様らがミライズを手にすることなど不可能となったワケだーーーー!! …あ?」
『&color(red){緊急警報。超巨大クリーチャー、接近}』
「なんだ?」
「ふん、おおかた我の召喚したクラウン・ベルゼルガに反応しておるのだろう……、…ッ?!?!」
…そこにいる全員が、息を呑んだ。
雲を突き破り、現れた大きな龍は、クラウン・ベルゼルガ。
そしてその後ろから―――
「なっ……なんだありゃぁぁあああぁぁぁあッ!?」
―――そのクラウン・ベルゼルガがミミズに見えるほど、さらなる巨大龍が。
そして追いつくと同時に、その超巨大龍はクラウン・ベルゼルガを丸呑みにした。
「あっ…あれは、……《[[巨竜ドラダロス]]》!! 馬鹿な、我はなんというモノを呼び出してしまったのだ…?!」
「おいてめー、何かやばいんじゃねーのか、あいつはっ!!」
「ひとたび召喚されたが最期、見境無く目につくもの全てを破壊してしまう暴虐の竜だッ! 我が呼び出した竜は、我の制御をふりきって逃げ出した竜は、アレだったのか……あんなものだったのか! あんなにも凄まじいモノだったのか!」
ダイア・ヴァレーは、手に負えない、という面持ちでその巨竜を見つめる。
クランはそれを見て、
「タイオーン、今だ!」
その声を聞き、タイオーンは神速のランスをダイア・ヴァレーに突き立てた。
「うをぉォォオッッ…!!」
苦悶の声とともに、床に伏す。
その体から透明の翼が消失し、光の粒子となって舞い上がる。
粒子はやがて箱の姿となり―――
「タイオーン! それが、ミライズなんだな!?」
「ああ!」
「譲るぜ、あの化け物を倒せるかッ!!?」
「造作もないっ!」
そう叫ぶと、タイオーンはミライズを手に取り、上空へと駆けていく。
「アウヴィスよ………今一度の愚行を許せ」
そして―――ミライズの力を、解放する。
その光景を眺めているクランには、タイオーンの横に、空間の亀裂が生じたように見えただろう。
それは時空の裂け目。
ミライズの能力のひとつ―――過去現在未来を超えて物質を横断させる機能!
巨竜ドラダロスに比べれば、タイオーンなど米粒に等しい。
ドラダロスはひとたび吼えると、その咆哮で空気を爆発させた。爆風のような声量に大気が揺れるッ!
それでもタイオーンは怯まず、時空の裂け目に手を突き入れ何かを取り出した!
それは―――
「う、―――おぉぉおおおぉぉ!!」
死の輝き滾る、超巨大な剣―――もはや剣とも思えぬほどの強大な剣――――――!!!
吼え猛る巨竜に向け、タイオーンは、その未来より呼び出せし最強武器を振りかざした――――――
光輝く、「ギャラクシーブレード ザ・ファイナル」をッッッ!!!
-23
……決着は、一瞬だった。
振るわれた剣は、その空間もろともドラダロスを斬り倒した。
ドラダロスは消滅。呼び出された剣も、また光の粒子となって消滅していった。…強大すぎるがゆえ、長く存在させることは困難なのだろう。
そして、その反動か。タイオーンは、力尽きたように空へと落ちていった。
「タイオーン!」
それを追うクラン。猛スピードで空を駆け抜け、空中でタイオーンをキャッチした。……気を失っている。さきほどの剣を呼び出すために、相当な無理をしたらしい。
「…感謝しとくぜ」
その時。
『&color(green){全砲、砲撃再開}! &color(green){アクティブ}!』
塔が唸った。
次に見た光景は、…塔から放たれる無数の光線。しかも、あからさまにクランを狙っての砲撃!
「ハハハハハハハ! ミライズは奪われた! 我が戦力はすべて途絶えた! こうなっては仕方が無い、どんな手段を使っても貴様らをまとめて消し飛ばすッッ!! ハハハハハハハハっ!!」
「てめぇぇえ、ダイア・ヴァレーぇぇええッッッ!! 卑怯者がぁっ! そんなことしてよぉ、何の得になるってんだ!!? 誰が得するッてんだこの野郎っ!!」
「我はただ貴様らが憎いだけだぁああ!! 憎きヴァンパイアも邪魔な騎士もまとめて葬り去ってやろうぞっ!! ハハハハハハハァアァ、ハハハハハハ!!!」
「………ふざけんじゃねぇえ…、なめんじゃねぇえっ! なめんじゃねーぞぉ馬鹿野郎ぉぉおおぉぉぁぁあああぁああッ!!!」
……大地が、揺れた。
大地から何か、黒いものが吹き上がる。
…それは、風に乗り。…徐々に、天空へと天空へと伸びていく―――巨大になっていく。
やがて、それは巨人のような形となった…。
そして……それは、大地に足をつけながらも、天空に存在する塔を、がしりと掴んだ。
「…む?」
ダイア・ヴァレーは眼下を見る。
そこには…巨竜ダイダロス。
いや、あの竜はすでに消えた…。この巨大なモノは、そのドラダロスよりもさらに遥かに、大きな巨人…
「…う、そ、だ……まさか、ジャ、ジャイアントが…?」
いや、
ジャイアントではなかった!!
「―――うぅぅぅうううぅぅぉぉぉおおおぉぉおおおぉぉぉぉおぉおおおぉぉお!!!」
クランの咆哮に答えるように、その『黒い塊』は塔を掴む力を増し、塔を振り上げたっ!
「ぬわっ? な、何をする、貴様―――」
ダイア・ヴァレーの声がむなしい。
その『黒い塊』は塔を、まるで木の枝かなにかのように振り回す。そして、今度は両の手で掴んだ。
―――そして一気に押しつぶすっ!!
『&color(red){緊急警報! ダメージ最悪レベル、危険度Dオーバー}!』
「つ、…潰されるーーーーー!!!!」
だが、ダイア・ヴァレーごときにどうこうできるレベルではない!
「潰しちまぇぇええぇええッッ、いけぇぇええ『[[グレイブヤード・ザ・ドラボッド>闇墓山グレイブヤード・ザ・ドラボッド]]』ぉぉぉおおッッ!!!」
メリメリ、バキバキバキバリバリブチブチブチブチブチ、ゴシャッッ!!!
-24
「…………。……、ここは…」
目を覚ますと、そこは、見渡す限りの草原だった。
タイオーンは体を起こす。…すぐ隣に、クラン・ブラックが座っていた。
「起きたかよ…。…約束だぜ、てめーと、俺で、ミライズを賭けて勝負してもらう」
クランはすぐに立ち上がる。
だがタイオーンは座ったまま、
「…貴殿は、なんのためにミライズを求める?」
そう尋ねた。
「……言ってなかったな。俺たちは、ヴァンパイアっつう呪われた血族なんだ。その呪いを解くために、ミライズの力が必要なんだよ」
「………。やはり、ただの自己満足か」
「俺だけじゃねえ。皆が協力してくれた。……もう、ヴァンパイアは俺だけになっちまったけどよ…」
「…ヴァンパイアの話は、私も知っている。友から聞いた話だ…」
タイオーンは、その友というのがアウヴィスという名である事は伏せ、話をした。
…ある日、アウヴィスはタイオーンに相談を持ちかけた。
血の呪いから助けてほしい、とせがまれた、と。
調和の影では、必ず『救いきれないモノ』が少なからず存在する。…このヴァンパイアの問題も、その1つに当てはまる。
アウヴィスはそんな問題にも逐一目を向けていた。だが彼にも……どうすることもできなかった。
無血調和をなしとげたとはいえ、アウヴィスは万能ではない。誰にも解くことのできない呪いは、当然、アウヴィスにだって解けないのだ。
それを知り、呪われた血の子は嘆いた。嘆き、アウヴィスに言葉をぶつけた。
『あんた英雄だろ!? 無血調和を成し遂げた英雄だろ、それなのに俺たちは見捨てんのかよっ?』
…それでも、どうしようもできなかった。その事を呪われた血の子は嘆き、それ以上に、アウヴィス自身が嘆いた…。
「……。そ、そいつは…………」
「貴殿の名を聞いて、思い出した…。あの子の名はクロイツ。吸血騎の始祖、クロイツ・ブラックファーザーだ。…何の因果であろうか、これは」
「おい、聞くぜタイオーン…。まさか、ミライズを使っても…呪いは、解けないのか…?」
「……………。……そうだ」
目の前が、真っ暗になった。
…そんな。
…そんな、結末(こたえ)のために。……俺の仲間は…。
「…実証した、のかよ」
「……確かに、可能性は無くもない。だが、おそらく無理だ―――」
「無くもないっ? じゃあ可能性はあるんじゃねぇかっ!! 俺はやるぜ、ミライズで呪いを解いてみせる!」
「ほう?」
「そのためには――――――てめぇを倒してぶんどる必要があるんだよ、タイオーーーーーーーンっ!!!」
「面白い!」
そういうと、タイオーンは跳ね起きた。上空へ飛び、同時にミライズが起動する!
あの剣が現れた。超巨大な竜をもひと薙ぎで両断した、超巨大な剣っ!!
ギャラクシーブレード ザ・ファイナル!!!
「…でやがった……ッ!」
圧倒的質量に、気おされるクラン。
「―――分かっているのだろう。勝てない、と」
「……多分、な」
苦笑いするクラン。
「ならばなぜ、私に挑む……? どうしてわずかの可能性に、命を投げられるのだ」
「当たり前じゃねーか。……未来は待ってるもんじゃねぇ、自分で作るものだからだよッ!!」
クランの両手が発光する!
「何っ、貴殿はまさか―――」
「うぉぉおおおぉぉぉおおぉぉぁぁああああ!!!」
放たれる光は、やがて1本の剣へと姿を変えた!
それは《[[運命切断剣 ザ・フェイト>運命切断剣 THE FATE]]》。『運命そして未来を斬る剣』!
「バカな―――貴殿は、認められたというのか……ミライズに!!」
-25
クランは、その剣をタイオーンへ振りかざす。
「…知ってるぜ、この剣。俺がずっと求めてた剣だ。……俺はこいつで未来を切り開くっ!!」
「吼えるなッ!」
ギャラクシーブレード ザ・ファイナルが振るわれた!!
それはクランもろとも周囲を大破壊し―――森が吹き飛び草原が焼き尽くされ水は消え去り―――クランだけが、無傷で残った。
「…く」
「こいつは運命を斬る剣だ。ミライズほど万能じゃねーが……『俺がその剣で斬られる』という未来を、少しの間だけ破壊させてもらったぜ。つまり、その剣で俺を斬ることは不可能ッ!」
「貴殿は、ザ・フェイトの力を使いこなしている…。こんな短時間で、能力を理解したというのか……!?」
「といっても、こいつは言ったとおり『少しの間だけ』だ。永遠に時間を破壊してしまう事はできねーんだ。だから、…こいつで、『俺が呪われている』って未来を破壊したとしても、すぐ元通りになっちまう」
「その通りだ、戦況はほぼ…変わっていないぞ」
「だが俺はこの剣に頼るつもりなんざ最初からねぇっ! 言っただろ、未来は自分で作るモノっ! 自分で切り開くものだってな!! この剣は俺の示威行為だ! 未来を斬る剣は、つまり未来を切り開くって事だ!! 俺は未来を切り開く! 自分の力で! 目的を果たすまでなぁぁぁああっ!!」
タイオーンは再び・ザ・ファイナルを振るう。
同じような大破壊が巻き起こり―――同じように、クランは無傷だ。
「この剣は、ザ・フェイトは俺の分身なんだッ! 俺の未来は俺がどうにでもしてやる、俺の手で変えてやる! 呪われ続ける血なんていう運命を破壊しつくしてみせるッ! その意志を受け継いだ剣なんだよッッこいつは!!」
「そんな事を言い残すために、貴殿はここで命を投げるのか?」
「投げ出すんじゃねぇ、賭けたんだッ!! 俺はそのミライズに賭けたんだ! この呪いを解いてくれる可能性をミライズに賭けた、この行動こそがっ、俺の運命をまた少し変えてるんだよッ!! 考えうる可能性はすべて辿る、そしていつか、呪いのない未来を俺は手に入れる! この剣とともに、俺は必ず果たしてやるよぉぉぁぁあッ!!」
クランはタイオーンへ飛び掛る。
あんなに巨大な剣だ。斬り返しをコントロールするなどできるはずがない。つまり、斬撃後がもっとも隙の大きい瞬間!
「甘い」
…クランの攻撃を、タイオーンは難なく防いだ。
ランスを使って。
「ちぃ―――忘れてたぜ」
…クランは軽口を叩くが、内心ではもう分かっている。
あの剣には…ザ・ファイナルには、勝てない、と。
それはクランも、タイオーンも理解していた。
だからこそ、タイオーンは最期に、問う。
「……クラン・ブラック。貴殿はここで果てるかもしれない。だが先程、おまえは必ず未来を掴むと宣言した。…では、ここで貴殿が果てたら、その言葉は嘘になるぞ?」
「いいや、掴むさ。未来は必ず掴んでみせる! 俺で駄目なら、俺の子孫がやってくれるだろうさ」
「子孫? …ヴァンパイアの血族がまだ存在する、といいたいのか?」
「知らねぇよッ!! だが、俺が駄目ならきっと誰かが後を継ぐッ! 必ずなっ! だが俺はそれに甘んじない! 俺が駄目なら誰かがやってくれるさ、なんて楽観的で怠けたことは言わないんだ! 俺には今しかない! 俺は今を大事に生きたい! 俺がやる事は、誰よりも、俺がやんなくちゃいけねぇんだよぉぉぉお、うぉぉぉおおおぉぉぁぁぁああああぁぁあああぁぁああッッッッ!!!!」
そして吸血騎は、剣を手に、
適わぬ敵へと立ち向かう。
……その目に、
亡き友の姿を残しながら。
……その心に、
熱く滾る、未来への希望を宿しながら。
-26
鬱蒼と生い茂る木々。
自然文明の領域だろうか。…その真ん中、森の真っ只中で、
「…うぅう~…ん…………」
小さな声をあげて、小さな何かが目をさました。
「あれ………ここ、どこだろ…?」
あたりをきょろきょろ見回して、ついでにこんな事もおもいついた。
「…ていうか、ぼく……だれだろ…?」
その背はまわりの草木よりも低く、首をかしげるたびにガサガサと草が騒いだ。
「あっ、ごめんね草さん。ぼくのあたまがあたっちゃってた…」
「あれーっ? ねぇキミ、だあれ?」
「ほんとだ、なんかいるぅ~。…子供? ねぇ、拾ってこうよぉ、ラピィ」
「駄目だよプレミぃ。ほんっと珍しいもの好きなんだからー、プレミは」
「う~……」
森の妖精みたいな女の子に声をかけられ、びくっとする。
「あう……ねぇ、妖精さん、だぁれ?」
「キミこそ、だぁれ? それと、ラピィたちは妖精は妖精でも、悪~い妖精なの」
「わるい妖精?」
「そう。誰かの嫌がることとか、いたずらとかが大好きな、わるい妖精なの。…どうかな? キミ、ラピィたちと一緒に森の中にこない?」
「…うん、いってみたい!」
「行こう行こう! じゃあ、名前おしえて?」
「…うぅ~…ぼく、おなまえ、ないんだ…」
「みゃ? そうなんだ~…」
「………でもね、ちょっぴり、覚えてるんだ」
「何を?」
「ぼくは、…のろわれてる、血をもってる。そして、そののろいをとかなきゃいけないの。ううん、ときたいんだ、こののろい」
「ふぅん…? 呪いかぁ。ラピィはそーいうのよく分からないけど…まぁいいや。それに、ラピィたちと一緒にいるうちに、案外その呪いを解く方法なんかも分かっちゃうかもね?」
「…そう、だね。うん、そうだよね!」
「そうそう。頑張っていればいつか、願いはかなうの。でも願うだけじゃだめ。頑張るだけでもだめ。願いのために、頑張るの。そうすれば、願いがかなう日は必ずくるんだよ♪」
「うん!」
「………ねぇえラピィ、結局この子、なんなの~…?」
「気になるなら自分で聞いてみなさいよ、プレミ」
「う、うん……。ねぇ、キミは………………なんなの?」
「うん。ぼく、きゅうけつきなんだ!」
……今は失われた、かの遺志を。
ひっそりと受け継いでいる者が、ほら、こんなところにも…。
これが偶然なのか、それともあの吸血騎の振るった剣の力なのかは、得てして分からない。
果たしてこの子は、彼の遺志を果たすことができるのかすら……。
でも、またそれは別の物語。
この子の人生の物語は、彼の知らないところで、回り、続いていくもの。
今はただ………………安らかに、運命に抱かれて眠れ。
未来を賭けて戦った、勇猛なるヴァンパイア。
吸血騎クラン・ブラック。
完
…ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
まじまん
----
目次
-[[吸血騎the story1]]
-[[吸血騎the story2]]
-[[吸血騎the story3]]
-[[吸血騎the story4]]
-[[吸血騎the story5]]
-[[吸血騎the story6]]
-[[吸血騎the story7]]
//-[[吸血騎the story8]]
-序
「出てきやがれ、未来人んん!」
クランは司令室のドアを蹴り破った。
中には、…透明の翼を纏った、正体不明の侵入者が。
「貴殿は、…何者だ」
「我は静鎧亜ダイア・ヴァレー、…ミライズを手にせしロスト・クルセイダーッッ!! 貴様らにミライズは渡さん、ここで消えよ!!」
「てめーが消えやがれぇぇええッ!」
風を切り、音速も追い越すスピードでクランが蹴りかかった!
ダイア・ヴァレーはそれを翼で受け止める。…何の衝撃も無かったかのように平然と。
「この無敵の絶対防御! 我はミライズの力で最強の防御力を手に入れたッ、貴様らがミライズを手にすることなど不可能となったワケだーーーー!! …あ?」
『&color(red){緊急警報。超巨大クリーチャー、接近}』
「なんだ?」
「ふん、おおかた我の召喚したクラウン・ベルゼルガに反応しておるのだろう……、…ッ?!?!」
…そこにいる全員が、息を呑んだ。
雲を突き破り、現れた大きな龍は、クラウン・ベルゼルガ。
そしてその後ろから―――
「なっ……なんだありゃぁぁあああぁぁぁあッ!?」
―――そのクラウン・ベルゼルガがミミズに見えるほど、さらなる巨大龍が。
そして追いつくと同時に、その超巨大龍はクラウン・ベルゼルガを丸呑みにした。
「あっ…あれは、……《[[巨竜ドラダロス]]》!! 馬鹿な、我はなんというモノを呼び出してしまったのだ…?!」
「おいてめー、何かやばいんじゃねーのか、あいつはっ!!」
「ひとたび召喚されたが最期、見境無く目につくもの全てを破壊してしまう暴虐の竜だッ! 我が呼び出した竜は、我の制御をふりきって逃げ出した竜は、アレだったのか……あんなものだったのか! あんなにも凄まじいモノだったのか!」
ダイア・ヴァレーは、手に負えない、という面持ちでその巨竜を見つめる。
クランはそれを見て、
「タイオーン、今だ!」
その声を聞き、タイオーンは神速のランスをダイア・ヴァレーに突き立てた。
「うをぉォォオッッ…!!」
苦悶の声とともに、床に伏す。
その体から透明の翼が消失し、光の粒子となって舞い上がる。
粒子はやがて箱の姿となり―――
「タイオーン! それが、ミライズなんだな!?」
「ああ!」
「譲るぜ、あの化け物を倒せるかッ!!?」
「造作もないっ!」
そう叫ぶと、タイオーンはミライズを手に取り、上空へと駆けていく。
「アウヴィスよ………今一度の愚行を許せ」
そして―――ミライズの力を、解放する。
その光景を眺めているクランには、タイオーンの横に、空間の亀裂が生じたように見えただろう。
それは時空の裂け目。
ミライズの能力のひとつ―――過去現在未来を超えて物質を横断させる機能!
巨竜ドラダロスに比べれば、タイオーンなど米粒に等しい。
ドラダロスはひとたび吼えると、その咆哮で空気を爆発させた。爆風のような声量に大気が揺れるッ!
それでもタイオーンは怯まず、時空の裂け目に手を突き入れ何かを取り出した!
それは―――
「う、―――おぉぉおおおぉぉ!!」
死の輝き滾る、超巨大な剣―――もはや剣とも思えぬほどの強大な剣――――――!!!
吼え猛る巨竜に向け、タイオーンは、その未来より呼び出せし最強武器を振りかざした――――――
光輝く、「ギャラクシーブレード ザ・ファイナル」をッッッ!!!
-23
……決着は、一瞬だった。
振るわれた剣は、その空間もろともドラダロスを斬り倒した。
ドラダロスは消滅。呼び出された剣も、また光の粒子となって消滅していった。…強大すぎるがゆえ、長く存在させることは困難なのだろう。
そして、その反動か。タイオーンは、力尽きたように空へと落ちていった。
「タイオーン!」
それを追うクラン。猛スピードで空を駆け抜け、空中でタイオーンをキャッチした。……気を失っている。さきほどの剣を呼び出すために、相当な無理をしたらしい。
「…感謝しとくぜ」
その時。
『&color(green){全砲、砲撃再開}! &color(green){アクティブ}!』
塔が唸った。
次に見た光景は、…塔から放たれる無数の光線。しかも、あからさまにクランを狙っての砲撃!
「ハハハハハハハ! ミライズは奪われた! 我が戦力はすべて途絶えた! こうなっては仕方が無い、どんな手段を使っても貴様らをまとめて消し飛ばすッッ!! ハハハハハハハハっ!!」
「てめぇぇえ、ダイア・ヴァレーぇぇええッッッ!! 卑怯者がぁっ! そんなことしてよぉ、何の得になるってんだ!!? 誰が得するッてんだこの野郎っ!!」
「我はただ貴様らが憎いだけだぁああ!! 憎きヴァンパイアも邪魔な騎士もまとめて葬り去ってやろうぞっ!! ハハハハハハハァアァ、ハハハハハハ!!!」
「………ふざけんじゃねぇえ…、なめんじゃねぇえっ! なめんじゃねーぞぉ馬鹿野郎ぉぉおおぉぉぁぁあああぁああッ!!!」
……大地が、揺れた。
大地から何か、黒いものが吹き上がる。
…それは、風に乗り。…徐々に、天空へと天空へと伸びていく―――巨大になっていく。
やがて、それは巨人のような形となった…。
そして……それは、大地に足をつけながらも、天空に存在する塔を、がしりと掴んだ。
「…む?」
ダイア・ヴァレーは眼下を見る。
そこには…巨竜ドラダロス。
いや、あの竜はすでに消えた…。この巨大なモノは、そのドラダロスよりもさらに遥かに、大きな巨人…
「…う、そ、だ……まさか、ジャ、ジャイアントが…?」
いや、
ジャイアントではなかった!!
「―――うぅぅぅうううぅぅぉぉぉおおおぉぉおおおぉぉぉぉおぉおおおぉぉお!!!」
クランの咆哮に答えるように、その『黒い塊』は塔を掴む力を増し、塔を振り上げたっ!
「ぬわっ? な、何をする、貴様―――」
ダイア・ヴァレーの声がむなしい。
その『黒い塊』は塔を、まるで木の枝かなにかのように振り回す。そして、今度は両の手で掴んだ。
―――そして一気に押しつぶすっ!!
『&color(red){緊急警報! ダメージ最悪レベル、危険度Dオーバー}!』
「つ、…潰されるーーーーー!!!!」
だが、ダイア・ヴァレーごときにどうこうできるレベルではない!
「潰しちまぇぇええぇええッッ、いけぇぇええ『[[グレイブヤード・ザ・ドラボッド>闇墓山グレイブヤード・ザ・ドラボッド]]』ぉぉぉおおッッ!!!」
メリメリ、バキバキバキバリバリブチブチブチブチブチ、ゴシャッッ!!!
-24
「…………。……、ここは…」
目を覚ますと、そこは、見渡す限りの草原だった。
タイオーンは体を起こす。…すぐ隣に、クラン・ブラックが座っていた。
「起きたかよ…。…約束だぜ、てめーと、俺で、ミライズを賭けて勝負してもらう」
クランはすぐに立ち上がる。
だがタイオーンは座ったまま、
「…貴殿は、なんのためにミライズを求める?」
そう尋ねた。
「……言ってなかったな。俺たちは、ヴァンパイアっつう呪われた血族なんだ。その呪いを解くために、ミライズの力が必要なんだよ」
「………。やはり、ただの自己満足か」
「俺だけじゃねえ。皆が協力してくれた。……もう、ヴァンパイアは俺だけになっちまったけどよ…」
「…ヴァンパイアの話は、私も知っている。友から聞いた話だ…」
タイオーンは、その友というのがアウヴィスという名である事は伏せ、話をした。
…ある日、アウヴィスはタイオーンに相談を持ちかけた。
血の呪いから助けてほしい、とせがまれた、と。
調和の影では、必ず『救いきれないモノ』が少なからず存在する。…このヴァンパイアの問題も、その1つに当てはまる。
アウヴィスはそんな問題にも逐一目を向けていた。だが彼にも……どうすることもできなかった。
無血調和をなしとげたとはいえ、アウヴィスは万能ではない。誰にも解くことのできない呪いは、当然、アウヴィスにだって解けないのだ。
それを知り、呪われた血の子は嘆いた。嘆き、アウヴィスに言葉をぶつけた。
『あんた英雄だろ!? 無血調和を成し遂げた英雄だろ、それなのに俺たちは見捨てんのかよっ?』
…それでも、どうしようもできなかった。その事を呪われた血の子は嘆き、それ以上に、アウヴィス自身が嘆いた…。
「……。そ、そいつは…………」
「貴殿の名を聞いて、思い出した…。あの子の名はクロイツ。吸血騎の始祖、クロイツ・ブラックファーザーだ。…何の因果であろうか、これは」
「おい、聞くぜタイオーン…。まさか、ミライズを使っても…呪いは、解けないのか…?」
「……………。……そうだ」
目の前が、真っ暗になった。
…そんな。
…そんな、結末(こたえ)のために。……俺の仲間は…。
「…実証した、のかよ」
「……確かに、可能性は無くもない。だが、おそらく無理だ―――」
「無くもないっ? じゃあ可能性はあるんじゃねぇかっ!! 俺はやるぜ、ミライズで呪いを解いてみせる!」
「ほう?」
「そのためには――――――てめぇを倒してぶんどる必要があるんだよ、タイオーーーーーーーンっ!!!」
「面白い!」
そういうと、タイオーンは跳ね起きた。上空へ飛び、同時にミライズが起動する!
あの剣が現れた。超巨大な竜をもひと薙ぎで両断した、超巨大な剣っ!!
ギャラクシーブレード ザ・ファイナル!!!
「…でやがった……ッ!」
圧倒的質量に、気おされるクラン。
「―――分かっているのだろう。勝てない、と」
「……多分、な」
苦笑いするクラン。
「ならばなぜ、私に挑む……? どうしてわずかの可能性に、命を投げられるのだ」
「当たり前じゃねーか。……未来は待ってるもんじゃねぇ、自分で作るものだからだよッ!!」
クランの両手が発光する!
「何っ、貴殿はまさか―――」
「うぉぉおおおぉぉぉおおぉぉぁぁああああ!!!」
放たれる光は、やがて1本の剣へと姿を変えた!
それは《[[運命切断剣 ザ・フェイト>運命切断剣 THE FATE]]》。『運命そして未来を斬る剣』!
「バカな―――貴殿は、認められたというのか……ミライズに!!」
-25
クランは、その剣をタイオーンへ振りかざす。
「…知ってるぜ、この剣。俺がずっと求めてた剣だ。……俺はこいつで未来を切り開くっ!!」
「吼えるなッ!」
ギャラクシーブレード ザ・ファイナルが振るわれた!!
それはクランもろとも周囲を大破壊し―――森が吹き飛び草原が焼き尽くされ水は消え去り―――クランだけが、無傷で残った。
「…く」
「こいつは運命を斬る剣だ。ミライズほど万能じゃねーが……『俺がその剣で斬られる』という未来を、少しの間だけ破壊させてもらったぜ。つまり、その剣で俺を斬ることは不可能ッ!」
「貴殿は、ザ・フェイトの力を使いこなしている…。こんな短時間で、能力を理解したというのか……!?」
「といっても、こいつは言ったとおり『少しの間だけ』だ。永遠に時間を破壊してしまう事はできねーんだ。だから、…こいつで、『俺が呪われている』って未来を破壊したとしても、すぐ元通りになっちまう」
「その通りだ、戦況はほぼ…変わっていないぞ」
「だが俺はこの剣に頼るつもりなんざ最初からねぇっ! 言っただろ、未来は自分で作るモノっ! 自分で切り開くものだってな!! この剣は俺の示威行為だ! 未来を斬る剣は、つまり未来を切り開くって事だ!! 俺は未来を切り開く! 自分の力で! 目的を果たすまでなぁぁぁああっ!!」
タイオーンは再び・ザ・ファイナルを振るう。
同じような大破壊が巻き起こり―――同じように、クランは無傷だ。
「この剣は、ザ・フェイトは俺の分身なんだッ! 俺の未来は俺がどうにでもしてやる、俺の手で変えてやる! 呪われ続ける血なんていう運命を破壊しつくしてみせるッ! その意志を受け継いだ剣なんだよッッこいつは!!」
「そんな事を言い残すために、貴殿はここで命を投げるのか?」
「投げ出すんじゃねぇ、賭けたんだッ!! 俺はそのミライズに賭けたんだ! この呪いを解いてくれる可能性をミライズに賭けた、この行動こそがっ、俺の運命をまた少し変えてるんだよッ!! 考えうる可能性はすべて辿る、そしていつか、呪いのない未来を俺は手に入れる! この剣とともに、俺は必ず果たしてやるよぉぉぁぁあッ!!」
クランはタイオーンへ飛び掛る。
あんなに巨大な剣だ。斬り返しをコントロールするなどできるはずがない。つまり、斬撃後がもっとも隙の大きい瞬間!
「甘い」
…クランの攻撃を、タイオーンは難なく防いだ。
ランスを使って。
「ちぃ―――忘れてたぜ」
…クランは軽口を叩くが、内心ではもう分かっている。
あの剣には…ザ・ファイナルには、勝てない、と。
それはクランも、タイオーンも理解していた。
だからこそ、タイオーンは最期に、問う。
「……クラン・ブラック。貴殿はここで果てるかもしれない。だが先程、おまえは必ず未来を掴むと宣言した。…では、ここで貴殿が果てたら、その言葉は嘘になるぞ?」
「いいや、掴むさ。未来は必ず掴んでみせる! 俺で駄目なら、俺の子孫がやってくれるだろうさ」
「子孫? …ヴァンパイアの血族がまだ存在する、といいたいのか?」
「知らねぇよッ!! だが、俺が駄目ならきっと誰かが後を継ぐッ! 必ずなっ! だが俺はそれに甘んじない! 俺が駄目なら誰かがやってくれるさ、なんて楽観的で怠けたことは言わないんだ! 俺には今しかない! 俺は今を大事に生きたい! 俺がやる事は、誰よりも、俺がやんなくちゃいけねぇんだよぉぉぉお、うぉぉぉおおおぉぉぁぁぁああああぁぁあああぁぁああッッッッ!!!!」
そして吸血騎は、剣を手に、
適わぬ敵へと立ち向かう。
……その目に、
亡き友の姿を残しながら。
……その心に、
熱く滾る、未来への希望を宿しながら。
-26
鬱蒼と生い茂る木々。
自然文明の領域だろうか。…その真ん中、森の真っ只中で、
「…うぅう~…ん…………」
小さな声をあげて、小さな何かが目をさました。
「あれ………ここ、どこだろ…?」
あたりをきょろきょろ見回して、ついでにこんな事もおもいついた。
「…ていうか、ぼく……だれだろ…?」
その背はまわりの草木よりも低く、首をかしげるたびにガサガサと草が騒いだ。
「あっ、ごめんね草さん。ぼくのあたまがあたっちゃってた…」
「あれーっ? ねぇキミ、だあれ?」
「ほんとだ、なんかいるぅ~。…子供? ねぇ、拾ってこうよぉ、ラピィ」
「駄目だよプレミぃ。ほんっと珍しいもの好きなんだからー、プレミは」
「う~……」
森の妖精みたいな女の子に声をかけられ、びくっとする。
「あう……ねぇ、妖精さん、だぁれ?」
「キミこそ、だぁれ? それと、ラピィたちは妖精は妖精でも、悪~い妖精なの」
「わるい妖精?」
「そう。誰かの嫌がることとか、いたずらとかが大好きな、わるい妖精なの。…どうかな? キミ、ラピィたちと一緒に森の中にこない?」
「…うん、いってみたい!」
「行こう行こう! じゃあ、名前おしえて?」
「…うぅ~…ぼく、おなまえ、ないんだ…」
「みゃ? そうなんだ~…」
「………でもね、ちょっぴり、覚えてるんだ」
「何を?」
「ぼくは、…のろわれてる、血をもってる。そして、そののろいをとかなきゃいけないの。ううん、ときたいんだ、こののろい」
「ふぅん…? 呪いかぁ。ラピィはそーいうのよく分からないけど…まぁいいや。それに、ラピィたちと一緒にいるうちに、案外その呪いを解く方法なんかも分かっちゃうかもね?」
「…そう、だね。うん、そうだよね!」
「そうそう。頑張っていればいつか、願いはかなうの。でも願うだけじゃだめ。頑張るだけでもだめ。願いのために、頑張るの。そうすれば、願いがかなう日は必ずくるんだよ♪」
「うん!」
「………ねぇえラピィ、結局この子、なんなの~…?」
「気になるなら自分で聞いてみなさいよ、プレミ」
「う、うん……。ねぇ、キミは………………なんなの?」
「うん。ぼく、きゅうけつきなんだ!」
……今は失われた、かの遺志を。
ひっそりと受け継いでいる者が、ほら、こんなところにも…。
これが偶然なのか、それともあの吸血騎の振るった剣の力なのかは、得てして分からない。
果たしてこの子は、彼の遺志を果たすことができるのかすら……。
でも、またそれは別の物語。
この子の人生の物語は、彼の知らないところで、回り、続いていくもの。
今はただ………………安らかに、運命に抱かれて眠れ。
未来を賭けて戦った、勇猛なるヴァンパイア。
吸血騎クラン・ブラック。
完
…ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
まじまん
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目次
-[[吸血騎the story1]]
-[[吸血騎the story2]]
-[[吸血騎the story3]]
-[[吸血騎the story4]]
-[[吸血騎the story5]]
-[[吸血騎the story6]]
-[[吸血騎the story7]]
//-[[吸血騎the story8]]