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 その血は呪われている。
 呪われた血は苦しみを薄めるため、更なる宿主を探すだろう。
 選ばれた者は呪われる。
 呪われた者は苦しみを薄めるため、共に暮らせる仲間を探すだろう。
 選ばれた者は引きずり込まれる。
 その世界へ。
 苦しみから逃れようともがく事しかできない、永遠の呪いの世界へ。
 そして。
 血によって、彼らは共に最期を迎えるだろう。

 ―――ブラックファーザー家の碑文

  • 01
 闇文明。
 生者も亡者も等しく死す世界。
 簡素な言葉で示すならば、みな同族。みな、死に纏わりつかれている。
 すぐ隣には死。待っていても死。死んでいる者すら死ぬ。闇の世界では、死後の安息すら許されない。
 死んでる暇があったら踊れ、と戦場に駆り出される。
 チクリとすぐ楽になりますよ、と道化は語り、再生と苦痛を与えてゆく。
 暗黒の機械は、使用者の判断で味方すら食らってゆく。
 敵味方の判別なく分別つけず、ただただ破壊を破壊を破壊をもたらせと血が騒ぐ、闇とは混沌の世界である。

「…ちぇ。相変わらず居心地は最悪だな」
「あまり喚かないでください、クラン。ただでさえ狭く暑苦しい闇の牢獄を、貴方は煩わしさを駆使して地獄へ変える腹積もりですか?」
「うぜぇよクロムヘルム、寝てろ。もう何年も閉じ込められっぱなしじゃねーか。退屈で仕方ねぇ。おいクルト、なんか芸でもしろよ」
「ここで披露したところで、お前には見えないだろうに。馬鹿か? 何のための独房だ? 離れ離れの別室である以上、意思疎通は声のみ。何年も閉ざされていながらまァだ学習していなかったのか」
「牢から出たら、てめーを真っ先に泣かしてやるよクルト。待ってろ」

 地下世界で、3人の会話が聞こえる。
 蝋燭に照らされる地下の牢獄。《吸血騎クラン・ブラック》が、いつものように仲間たちと会話をしていた。
 丁寧に返す《吸血騎クロムヘルム・ネガ》。嘲りながらあしらう《吸血騎クルト・シュライン》。
 彼らは、いずれも闇に伝わる旧家の出身だ。一時期はかの不死貴族とも対等に渡っていた名家であったが、ある『呪い』が原因で、世界から隔離される事となってしまった。
 ―――その『呪い』とは、墓の呪い。
 いかな原因からか、彼らの血は墓の呪いに侵されてしまった。
 これにより、彼らは永遠に、墓を漁り死者を啜るおぞましくあさましい吸血騎の名を、烙印を押される事になってしまったのだった。
 原因を問う者は誰もいなかった。ここは闇文明の大地。未知の病原体や死素が蠢く、得体の知れない場所なのだ。何が起ころうが、それは仕方のない事なのである。
 よって彼らも、過去に別の呪いを受けてしまった住人たちと同様の扱いを受ける。要するに『収監』だ。
 呪い…特に彼ら吸血騎のように強靭で、仲間をも危険にさらすような…を持った者どもを地下に収容し、冥府の番人が監視をする、というシステム。
 まだ出陣の気配を見せない冥界の王「ハデス」が、牢獄の住人たちを統括していた。

 地下の生活は、実質、普段の闇世界の暮らしと大差ない。
 相変わらず不衛生、不健康。そして、そもそも闇に『健康』という概念は存在しない。結果、衛生的である事などありえない。要するに、どこでも一緒なのだ。
 ただ牢獄の番人と、ちょっぴり仲良くなれたりもする。クラン・ブラックに至っては、冥府の覇者「ガジラビュート」と罵りあいを繰り広げるほど馴染んでしまっている。

「…そこまでひょいひょい仲良くなれちゃうクランが羨ましいよ」
「おまえだったらやれるぜ、クルス! 閉じ込められてる事なんざ気にしねぇで、がんがん話しかけちまえばいいのさ。どうせ上の世界にいたってよ、やる事は毎日かわんねぇだろ?」
「そうかな?」
「―――乗せられるなよ、クルス。馬鹿と前向きは紙一重だ。で、クランは馬鹿の部類なんだ。わかるな?」
「そうなの?」
「アンタもいちいち突っ込んでくるんじゃねえよ、クロードの兄貴。かわいい弟分に、渡世のしきたりッてヤツを仕込んでやってるんだろうが」
「純真なクルト坊を、貴様のように、分を弁えずダークロードの姫に求婚しにいくような輩に仕立て上げるというのか? 黙って見過ごしていたら、そのうち貴様の弟子はみな『ジョー』になってしまうな。世界が壊れてしまう」
「馬鹿言え。闇なんざ十分壊れてるじゃねぇかよ」

 日々は変わらず過ぎていく。

  • 02
 ……何かがふらふらと浮遊している。
 緑…というか黒がかった翡翠色…をした光に包まれた、小さな妖精のような姿。
 というか、妖精だった。
「―――止まれ。フィオナのスノーフェアリーが何の用だよ、こんなトコによ」
「ひゃいッ?!」
 その妖精は、通りすがった牢獄で寝ていたクラン・ブラックの声に驚き、間抜けな悲鳴を上げる。
 つられて隣室のクルス・メソッドダークも目を覚ました。
「…どしたのクラン? あ、何それスノーフェアリー?」
「らしいな。おいてめー、自然の誇る妖精サマがよぉ、こんな幸薄い場所に何しに来た? 森で偶然俺を見かけて、一目惚れついでに求婚か?」
「な、な、なにが求婚よッ! 球根でもかじってれば?」
「あ? よし、クルス手伝え。このオリぶっ壊す。そんでこいつをぶっ潰して佃煮にしようぜ」
「ひぃぃいっ?! や、やめっ、お助け」
「壊せるようなオリならすぐ壊してるよー」
 クルスの反論に、クラン・ブラックは舌打ちした。よく響いた。
 かたやスノーフェアリーは涙を浮かべている。佃煮という話を半ば本気にしていたようだ。馬鹿は困る、とでも言いたげな目で見つめながら、クランはとりあえず話を進める。
「で? とりあえずてめーは何者で、何しに来た? これ聞くの3回目だからな。さっさと答えてくれ」
「名はキサノ。《封騎妖精キサノ》と呼ばれてるわ。キサノはね、あなたたちを助けに来たの」

  • 03
「……は?」
「いや、『は?』じゃなくってだな。昨夜、ホントにあいつがそう言ってたんだよ。信じろよ、クロス
「急にそんな事いわれてもなぁ……。普段からクランっておかしい奴だし」
「殴んぞてめえ」
「オリの向こうからかい? ま、それはいいとして……」
 昨晩のこと。
 突如、クランの元を訪れたスノーフェアリー『キサノ』は、堂々と言い放ったのである。

 ―――「あなたたちを助けに来たの」
「…あ? どういう経緯でそうなるんだ」
「クランー、僕もう寝ていい? 難しい話はヤダよ」
「ああ、寝とけ寝とけ。後は俺が、寝起きに土産話をしてやッから楽しみにしつつ寝とけ。グッナイ」
 クルスがもぞもぞと布団にもぐりこむ音を他所に、キサノは話を続けた。
「キサノは、いえキサノたちは、スノーフェアリーから分岐した歪なる存在。だから、普通のスノーフェアリーとはちょっと違うワケ」
「違う?」
「そ。ちょっとだけ悪者っていうか、腹黒いっていうか……。とにかく、スノーフェアリーの悪玉の結晶みたいなカンジ」
「わけわからん。で、目的のほうは?」
「言ったでしょ? あなたたち『ヴァンパイア』を、牢屋から開放してあげる」
「それで何で、てめーが得するんだ?」
 キサノと名乗るスノーフェアリーは、不適に笑みを浮かべた。クランは、それを見て少々殺気立つ。
「キサノたちみたいな異質なスノーフェアリーはね、あっちと違って、争いごとを起こしたり諍いを眺めたりするのが、一番楽しいの。今回のこともそう。あなたたちヴァンパイアがここを脱走すれば、それは大きな騒ぎになると思わないぃ?」
 …クランは、すべてを見透かすような目で尋ねる。
「誰の差し金だ?」
「キサノたちは指図では動かないよ。欲求のまま欲望のまま、楽しいことを好きなだけするの! ね、最高でしょ?」
「ああ、少なくとも自然文明の考え方としては、野生っぽくてイイかもな? くっくっく……でもスノーフェアリーって奴は、本当はそうじゃねーはずだ」
「そう。そこが大きな違い……。キサノたちのような歪んだスノーフェアリーは、自分たちが楽しむためなら、たとえ自らの故郷が傷つこうと知らんぷり。それが、キサノたち『ヴェノムキュート』のサガなの。お分かり?」
「ああ分かった。要するにアレだ。俺たちが脱走することでいろいろ騒ぎが起こるだろうから、おまえらはそれを眺めていたいだけ。俺たちを助けようとかいう善意はからっきしの、腹黒妖精どもだ、ッてことだろ…」
「大正解。どう? 乗る? この脱走作戦に。するならするで、たくさん事件を起こしてね!」
 クランは考える。
 この作戦に乗ったところで、どうせ最終的には自分たちは捕らえられる。そうすればまたこの牢屋に逆戻り。
 それでは脱走の意味がない。
 だからといって、追いかけてくる闇の軍勢に太刀打ちできるわけがない。こっちはたったヴァンパイア6人。たったこれだけで闇と戦うのは、命知らずを通り越して死者の思考としか思えない。
 この、初めから結果の決まっている『脱走ごっこ』を、いかに自分たちの利益とするか―――…?
「……いいじゃねぇか。乗ってやるぜ」
「ほんと?! よかった!」
「楽しそうじゃねぇか。一世一代の脱走劇、全ヴァンパイア眷属を代表して俺が引き受けてやる。てめーらヴェノムなんとかは、蜘蛛型ヒーローの劇場よろしくポップコーンでも食いながら見てりゃいい!」
「すごいすごい、頼りになるね! クランだっけ?」
「俺はクラン・ブラック。ヴァンパイア一族最古の旧家、ブラックファーザー家の血を引く死祖の末裔だぜッッ!」
 キサノは、拍手でもしそうなテンションでクランを褒め称えた。
 まわりのヴァンパイアたちが目を覚まさないのが不思議なくらい騒いでいた。
「まぁ、この作戦は乗るとしてだ。俺たちを脱走させる手段は用意してるんだろうなぁ?」
「当然。この牢屋、外からなら簡単に開けられるよ。蔦を鍵穴に絡めて、マナに呼びかければあら不思議。いま試す?」
「いや結構。…脱走作戦。乗る代わりに、ひとつ飲んでもらいたい条件があるんだが」
「…? どうしたの、今さら条件なんか、」
「てめーら自然文明は一時期、光文明と手を組んでたよなァ…?」
 キサノは頷く。
「そこで、だ。光の都市の構造、はたまた機密に精通してるヤツを1匹、紹介してもらいてぇんだが?」

 ―――「ってワケだ」
「…まぁ、僕も反対はしないよ、クラン。脱走作戦については、君についていく。面白そうだし」
「オーケー、クロスも乗り気みてーだな! 後で全員誘うから、クロスも手伝え!」
「作戦の決行はいつなんだい?」
「今日の昼間だ。闇文明が静かになってる昼間に、フィオナの森から来るらしい。そして牢屋とおさらばすりゃ、後は俺に任せときな」
「ただ、1つ疑問だ。君は最後に、何を考えて、光文明の都市に詳しい者の紹介を求めたんだい? まさか、光文明を墜とそうっていうんじゃ……」
 クラン・ブラックは口端に笑みを浮かべる。
「ンな大それた事はしねーよ。もっと建設的な目的さ。ま、お楽しみは本番で、シーユーネクスタイ?」
 クラン・ブラックは口端に笑みを浮かべる。

 ソレハ、今マデ笑ッタ中デイチバン、吸血騎ラシイ笑ミダッタ。


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