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「ねぇねぇ皆、皆!」
「なぁにぃ、キサノ、どうかした?」
 集まってきたのは数匹のスノーフェアリー…いや、ヴェノムキュートたち。
「ねーキサノ聞いてよぉ、ラピィがぁ…畑ぜんぶ枯らしちゃったぁ~~」
 1匹のヴェノムキュートがそう喚くと、ラピクルは眉をひそめた。
「めそめそ言わないでよプレミ、いいかげんスパリィが何でもかんでも盗んでいっちゃうの、困ってたんだから」
「だからって、スパリィ撃退するのにどうしてプレミのコレクションしてた植物、全部枯らしちゃうの…? ひっぐ」
 ラピクル・ストーム(ラピィ)の必殺技は、周囲の木々や生命を枯らしあげての砲撃。マナの力を集約する、自然らしい技である。が……。どうやらそれが引き金となったイザコザらしい。
「ラピィの木々も全滅したでしょ? おあいこ、お互い様。巻き込んじゃったのは仕方なかったんだから」
「…横暴な理論だな、ラピィ。おまえが勝手に巻き込んだんだ。その分の責任はラピィにあるよ」
「なぁによ~ガディ! 利口ぶっちゃって」
「おまえもそのはしたない行いを正すがいいよ、ラピィ。秘伝の巻物の護衛をしている間におまえに来られては、何か悪さをしに来たのかとつい疑ってしまう人相だ」
「人相はスパリィよりマシなつもりよぉ? あの三白眼で睨まれたら怖ぁいもの………って、うわさをすれば、あそこで飛んでるのはいつもの2人じゃん?」
「「え?」」

「―――…こぉぉぉるぅぁぁあああああっ、スズラぁぁぁアンンンゥゥウウウァァぁぁアアア!!」
「ほらほらおいでースパリィ、もっと頑張って飛びなさいよこのコソ泥ー。三白眼ー。あっはははははは♪」
 2筋の流星かと思えるスピードで、枝葉をふっ飛ばしながら追いかけっこをしている妖精が2匹いる。
「こッ、コソ泥と三白眼って、何の関係があるのよぉぉぉおおおぉぉ?!」
「別に何もー。それより、いつまでそのぼろきれを抱えてるんだい?」
「ぬがーぁぁぁああ!! あんたがちゃんと情報検分を手伝わないから、こんな偽物つかまされたのよ! 何が宝の地図かーっ! 次はちゃんと手伝いなさいぃぃ!」
「やだよー。応援だけならしてあげるー。応援だけならねー! ほらー早くおいでよスパリィ、あんまり遅いと、先に本物の宝の地図をゲットしにいっちゃうよォォオ?」
「なんじゃそりゃーぁぁ! やっぱり知ってるのね?! 待て、待ちなさいよぉぉスズラン、スズゥウラアァァァンンンゥゥァァアアッ!!」

 ぽかん。
 しばしの静寂ののち、キサノがそれを打破した。
「とにかく、ちょっと話があってきたの」
「みんな呼ぼっか? キサノ」
「いいえ、ここにいるメンバーだけでいいわ。……ねぇ聞いて聞いて! 面白いこと始めるから、一緒に闇文明いこうよ!」

  • 04
「お昼だよ、クラン」
「ああ、そうだな。遅ぇなヴェノムキュートの奴ら」
 闇文明の誇る……幾多の牢獄。そのヴァンパイア区画から、今日も覇気のない会話が漏れる。
 吸血騎クラン・ブラック。
 吸血騎クルス・メソッドダーク。
 吸血騎クルト・シュライン。
 吸血騎クロス・ダークシルバー。
 吸血騎クロムヘルム・ネガ。
 吸血騎クロード・スカイグレー 。
 この6人が牢獄の全ヴァンパイアである。
 この6人はすでに脱走作戦の事を理解した。
「脱走したら、まず俺についてきやがれ。企画はあるぜ?」
「クラン、僕にも手伝えるかなぁっ?」
「1人で好きにさせときな、クルス。浅はかな知恵にはお似合いのダンスが見れるだろうから、ふっふふふふ…」
「連帯感出していこうよ、クルト。一応、ヴァンパイア眷属すべてが動くんだからね」
「クロスが落ち着きすぎなのですよ…。まったく、これまでクランが起こした諍いの鬱陶しいこと…」
「まァ、気まぐれにいこうか? クロムヘルムも、そう邪険にしねぇでさ。気楽な散歩さ」

「お待たせお待たせ! ヴァンパイアご一行の皆さん、作戦の決行に参りましたー!」

 勢いよく飛んできたキサノを、勢いよくオリの隙間から飛び出した拳がはたきおとす。
「べふんっ! な、なにすんのよぉクラン・ブラックッ!」
「遅い。遅い遅い遅い! 遅刻は人としてクリーチャーとして恥ずべき過ちだ! そうは思わねぇか」
「思ってないよ、ヴェノムキュートだし。さ、話してた通り、今から牢屋を開錠してあげる。看守の見回りをやり過ごすのに手間取っちゃったけど、今なら大丈夫!」
 そう宣言すると、キサノはポケットから小さな木の蔓を取り出した。
 それを鍵穴に突っ込み、なにやら呪文を囁きかけた。すると……
「お? 今、カチャっていったか?」
「ok、開錠成功! あとの皆も順番に開けていくから、まっててー」
 不思議な術もあるもんだ、とクランは関心。
 ……やがて6人全員が牢獄から解放され、地下を抜け出した。
 抜け出したものの、そこは闇文明の大地。地下も地上も大差ない。この世界で地上と地下に何の違いがあるかと問われれば、逃げ道があるかないかだろう。
「さて。おいヴェノムキュート」
「なによ………ああ、分かってる。光の都市でしょ? キサノに任せてくれれば大丈夫!」
「…へ? お前が道案内するってのか?」
「うん。実はここに来る前に、都市の情報は仲間から集めておいたんだ。それをキサノなりにまとめてあげたんだから、感謝しなきゃ駄目だからね?」
「……はん、なかなかやるじゃねーか。オーケー信じるぜ、てめーの情報ってのを!」
「うん! なんでも聞いて」
 残りのヴァンパイアたちを置いて、クランは1人、その計画の向かう場所を示した。
「聞くぜ、ヴェノムキュート・キサノッ! 光文明の秘宝『ミライズ』のありかを教えやがれぇぇぇええッ!!」
「なんやとぉぉぉおおッ!?」
 …なぜか、ミナ●の帝王なノリで。

  • 05
「……とまぁ、以上があなたの示した場所の道筋。たぶん行けば分かるよ。…でも、皆だけで光文明の拠点までいけるの?」
 説明を終え、クランたちを気遣うキサノに対し、クランはふっと笑って見せた。
「俺たちを誰だと思ってる。ヴァンパイアだぞ? 飛行能力なんざ朝飯前だぞ! 牢獄に繋がれるまではなぁ、火のドラゴンどもと抜きつ抜かれつのフィーバーレースが日常茶飯事だったんだぜ!」
「…そして、焼かれて帰ってくるのも日常茶飯事だったな?」
「うるせぇクルト。さて、行こうぜ! キサノ! ありがとよ!」
「気にしないで。お代は鑑賞料ってことで」
 キサノは森のほうへ飛んでいった。
 …脱走作戦は開始されている。牢獄の看守どもが気づくまで、まだ時間はある。クランはその間に光の都市へ侵攻しなければならない。
「余裕だな。なァ皆?」
「「楽勝」」
 言うが早いか、一同はその大きすぎるマントを翻す。…一陣の風が吹き抜け、次の瞬間、ヴァンパイアたちは見上げるような大空へ飛び立っていた!
「ついてこれてるかー、クルスー? 地下暮らしが長かったからよ、ナマってんじゃねぇかぁ??」
「あっまくみないでしょねークランー! そっちこそ、余所見してうっかり夢見の神殿に突っ込んだりしないでよー!」
「ああ、あの予言者どもの巣窟か? ハハハ! もし突っ込んだとしても、吹っ飛ばして脱出してやるよ!」
「………いい気なものですね。クラン、貴方は何をしようとしているか、自分で分かっているのですか?」
「おうよ、クロムヘルム! 『ミライズ』って秘宝はよ、歴史を操り、使用者の未来を自由に改変する能力を持ってるんだッ!」
 上空へ上空へ、雲を裂き風を切りながら上昇するヴァンパイアたち。

「俺らはそいつを強奪し、―――この血に染み込まされた、呪いを解くッッッ―――!!」

 …その言葉は、身を裂く風よりも強く、皆の胸を貫いた。
 呪いを解く。
 呪いのなすがままに生きてきた今の彼らには、到底考えもしなかった事だ。
「呪いってやつはよ、そいつの未来を否定し、無理やりにねじまげるチカラの事だ。だから、俺たちの未来から『呪い』を完全に排除しちまえば、俺たちはもうこの先、『呪い』の血なんてモノに苦しまなくって済むんだ!」
 『呪い』は、いうなれば、未来の強制だ。
 これからその者が歩むはずだった将来のレールを否定し、代わって『呪い』がレールを敷く。呪われた者はその後者のレールを歩むしかなくなる。
 そこから逆説すれば―――未来をもう一度変える事ができれば、『呪い』の敷いたレールを撤去できるという結論になるッ…!
「呪いを解けば、呪いさえ無くなればよぉ…、俺たちはもう、あの狭苦しい牢獄になんざ戻らなくていいんだよ。それに……仲間を苦しめなくて、済む」
「クラン……相変わらず、貴方は無謀なままですね。何をするのかと思いましたが、評価を改める必要もありませんでした」
「クロムヘルム………へっ、まぁ、理解できないってんならそれでもいいさ…」
「ですが。その理解できない貴方に、なぜかついていこうとする私がいる。おそらく、私は貴方を信頼しているのでしょう。―――そういう事ですから、この場は、貴方に委ねますよ」
「…まァ、おのおの好き好きに頑張るさ。クラン。お前は頭張ってんだから、途中で怖気づいたら放り出して帰るからな?」
「わぁってるよクロードの兄貴ィ! そんでクロムヘルム! てめぇちったぁ話が分かる奴じゃねえか、普段からそんぐらい素直にしてやがれっての!」
「貴方がすぐ調子に乗るから、我々がおとなしくせざるを得ないんでしょうが…」

  • 06
 一同は雲を突き抜けた。
 途端に日光が強くなる。……いや、日光ではなかった。
「なんだ、あの、塔…?」
「魔力で編まれた光を、縦横無尽に放ってやがる……。警戒態勢じゃねーかよ。何の襲来に備えてるんだ?」
 クランはその塔を、距離を置いて眺める。
 光文明の要塞とも呼ぶべき建築物で、その周辺を無数の守護者が巡回している。…ガーディアンの防御陣営か。
「………下手に抜くよりは、注意をひきつけたほうが得策って感じだな。クルス、陽動頼めるか? 一番すばしっこいのはおまえだからな」
「任せてよ! …えーと、クロード……一緒に行かない?」
 クルスはおずおずと尋ねる。少しだけ、クロードは困った顔をして、
「…分かった分かった。ひとりにはさせないさ。俺も残って陽動に移ろう」
「ほっ」
「頼んだぜ、クルスッ、クロードの兄貴ッ! しばらくしたら合図出すからよ、その時に集合しようぜ!」
「了解」
 こうして、ヴァンパイア・チームは二手に分かれた。
 かたや陽動、そしてかたや―――『ミライズ』奪取班。

 互いに、驚くべきスピードで目的の方向へ突き進んでいく。
 ドラゴンもかくやという速度、弾丸のごとき突進で!
「さァて。始めようかいクルス? まずお前がやってみろ」
「うん、―――…?」
 その時、眼下の雲がわずかに揺らいだ。
 その揺らぎは波動に変わり、雲を地鳴りのごとく突き破ったッ。
 そしてその体を聖なる光の下に晒す――――――この『番人』は、光の脅威を逃れられる雲の影こそを、その住処とするエンジェル・コマンドなのだ。
「こっ、こいつは―――」
 クルスが息を呑む。
 彼にしてみれば、目の前にした相手は眼前を塞ぐ巨体。
 クロードがその名を叫んだ。
「―――《曇空の精霊ホータス》……!! 一旦離れろ、クルスッッ!」
 その言葉より疾く、目映き光が空を包み込んだ。


『報告、 ウルトラシールド・プラス、起動確認 。西の雲海にてホータスが、ヴァンパイアの一角を補足しました』
「よいぞよいぞ、鼠どもを逃すな、1匹たりともだッ! 雲海起動兵の西軍から、鼠どもの映像を送るよう要請しろ」
 ここは、今回の、光の本艦。
 ヴァンパイアたちが目撃した、塔のようなものの正体である。
 なぜか、既にヴァンパイアに対する防衛策を張り巡らせた艦隊を率いている…。
 本艦はその中でも頭抜けて巨大で、そのスケールは進化の力を得たアース・ドラゴンにも匹敵するという。
「なるほど、西で確認ということは……南から攻めてきた、というわけか。よろしい。南西ルートの索敵を中止し、すべて南と東に回せっ。繰り返す、敵は南東! 敵は南東より来たるッ!」
『了解。南軍・東軍へ要請。… 完了南東両軍、合流確認 。』
「そうだ、それでいい! 西でかかった獲物は囮だ陽動だ、ごまかしなのだ。逆の方向へ網を回せ! はーはははは!」
 指令が順調である様子を示す、グリーンの表示が並ぶ。
 司令官らしき人物は、これから始まる戦いへの緊張感に満悦していた。

  • 07
 『ミライズ』奪取班は、光の本艦である塔のほうへ向かっていた。
「おいっ、ホントにあってるんだろうな?」
「間違いねぇッ! あの光の塔は、間違いなく宝物庫だッ! 奴らはなぜだか、それを根城にして攻撃してきやがる!」
「……どういう事でしょうね?」
「知るかクロムヘルム、いいから行くぜッ! ガーディアンどもを蹴散らせぇぇえ!!」
 クランはひと吼えすると、正面に向かって倍の速度で突撃していった。
 実はクランたちが二手に分かれたすぐ後に、ガーディアンの防衛結界に感知されてしまっていたのだ。
 雨のような数の小型ガーディアンたちが、足止めの為に向かってくる。
「邪魔だぜ邪魔だぜ、蟻どもぉぉぉおおおぉぉおおッ!」
 クラン・ブラックはそれらを、手当たり次第にスピードまかせに破壊しまくるッ!
 隙間無きガーディアンの群れに突っ込んだかと思うと、彼の通過した場所だけが、スプーンで掬ったように抉られ吹き飛ばされている!
「…やれやれ、やりたい放題ですね、クランは」
「見ろよ見ろよォ、守護者どもがゴミみてぇに散ってくぞ? あっはははは!」
「まァ、彼1人に任せるというのも何だしさ……どう? わざわざ向こうから、ウォーミングアップをさせてくれるっていうんだけど?」
「……いいでしょう。私も、久しぶりに運動をしないといけません」
「確かに、準備運動ってのはいいねぇ。よし、いこうかぁクロムヘルム」
「貴方は好きにしててください……私には私の、体の起こし方というのがあるんです」
「あいよっ」
 そう言うと、クロムヘルムとクルトはガーディアンの群れへ直行する。
 それを見送り、クロスは、―――光の塔を見つめる。
 ……対応が早すぎる。そして的確すぎる。
 …まさか、奥に『あの精霊』どもが控えているのでは……? だとしたら、戦況が一気に不安定になる。
 そうならない事を祈りながら、クロスも遅れて、ガーディアンの群れへ合流に向かった。


『報告、 西軍、勢力低下 。危険信号です』
「…なに?」
 その表情を強張らせる報告。
 さらに。報告者…予言者…は内容を続ける。
『…追加報告確認、 ホータス、沈黙 。…繰り返し報告。 西軍、勢力低下。応援要請アリ 。繰り返して報告、 ホータス、沈黙 ……!!』
「ば、…馬鹿な! ホータスの防御壁が、と、突破されただとッ!?」
 こうも早くッ?! …と疑問を投げかける前に、再び報告文が響く。
『繰り返す。 ホータス、沈黙 ……!』
 予言者の、広域通信能力を取り込んだボードに、危険事態をあらわす赤い文字がいっせいに並んだ。
「馬鹿な、奴ら、何をしたぁぁあ…?!」

 顔を歪ませる司令官。
 脱走作戦は、この戦いはまだ、始まったばかりだ。


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