墓の、呪い。
それは墓を暴くという行為を指す。
墓を暴き、そして『死者を殺す』。
ヴァンパイアは死者の体に牙を立て、死した力を吸い上げて糧とし、その骸は―――やがて、ヴァンパイアへと変身する。
血にも良し悪しがある。血の感染度の弱い者、姿の弱い者は、ヴァンパイアとしての資格を持たない…。ヴァンパイアの数が圧倒的に少ない背景には、こんな事情がある。
そして濃すぎる血は、より強く死者を墓を求め―――…より多く、仲間を増やし。
そして仲間を、血の苦しみの運命へ道連れにしていく。
…死者を殺すのは苦痛である。
腐肉に、黴に、燻製に、ヘドロに骨に目玉だけの生き物に触手にッ、見境無く散乱する死の塊に、見境無く牙を突きたて死の力を吸い上げる。
そしてヴァンパイアは生存を続け、そして血の呪いは受けつがれ、呪うに値しない者は勝手に朽ちてゆく。
「なんだよこの輪廻…なんだよ、この運命…っ! 助けろよ、助けろよ! あんた、英雄なんじゃねェのかよぉぉぉおおッ……!」
受け継がれゆく呪いを、やがて憎むヴァンパイアが現れる。
彼は血に死に骸にまみれた牙を剥き出しに、誰かに向かって叫ぶのだった。
「助けてくれよ、ほどいてくれよッ! 英雄だろ!? あんた英雄だろ!? 無血調和を成し遂げた英雄だろ、それなのに俺たちは見捨てんのかよっ? どうなんだよ答えろよ、聞いてるのかよ何とか言え、『アウヴィス』ぅぅうううッッ!!」
粉々になったホータス!
雲の波へと沈みながら、ウルトラシールド・プラスが砕け散った。
「……な、何をしたの? クロード」
「いや、ただ魔法を撃っただけだ。それが効きすぎたらしい」
そう言うと、クロードはクルスを抱えたまま、ホータスの背後の向こうを睨んだ。
…無数のガーディアン。
準備が良すぎる。が……今はそれどころではない。
「クルス。『デス・スモーク』は撃てるな?」
「あったりまえだよ。僕のマナをなめないで? 撃てなくても、あんな奴ら素手で十分だよ!」
「よし。んじゃあ、特攻するか」
クロードはちょっと散歩でも行くような気軽さで、雨のように突っ込んでくるガーディアンの群れに、正面から挑んだ。
『報告。守護者軍勢、西、南、勢力半減。ガーディアンを支援に出しますか?』
「…よい。支援は無し。現状だけで乗り切れ」
『了解。現状維持通達……完了』
「南艦隊へ通達しろ。鼠―――いや、『ヴァンパイアども』を、動く前に片付けてくれるッ。S精霊起動!」
『了解。南艦隊へ要請。S精霊起動、3・2・1、オールグリーン。いつでも』
「起動ッッッ!」
ガーディアンの群れを1人で半壊させたクランは、南の空に浮かぶ、巨大戦艦を見つけた。
巨大戦艦といっても規模は極小。とても戦争に持ち出すモノではなく、せいぜい個人大戦に用いられる程度の戦艦だ。
「ガーディアンは…あの艦から放出されてるみてーだな」
「ですね……。どうですか?」
「どうって?」
「1人で、という意味です」
「なめんな、余裕だ」
「そうですか。では、こちらの残りは私とクルトで。まずそうでしたら、そちらにクロスが向かうでしょう」
クロムヘルムが振り向いた時は、もうクランは戦艦へ飛びかかろうとしていた。
「まったく。落ち着きも無く気も早い……ちょっとは停止できないのでしょう、かっ」
クロムヘルムも手を振りかざす。
クロムヘルム自身のマナが花びらのように散ってしまった。だが彼は無意味にそんなことをしたのではない。
同時に、ガーディアンのマナも剥がされていた。
「私は臆病な部類です。あなたほど楽観的ではいられないんですよ、クラン。………我が魔術《
血化粧ネガティブ・クロス》で、まとめてお相手して差し上げましょう―――」
言い切らないうちに、マナを剥がされたガーディアンたちへ爆撃が落ちた。
「なに喋ってんだ? 早くしねーと、俺が全部喰っちゃうぞ?」
「クルト……私ひとりで十分ですが」
「ああ。でも、2人いれば倍速で、」
「―――3人ならさらに倍、かな?」
クルトに加え、クロスも舞い降りた。
クロムヘルムはため息をひとつ吐くと、振り向きもせず突撃する。それは、他の2人のタイミングと重なった。
…8秒後。ガーディアン全滅の報告が、本艦へと届く。
同時に。クラン・ブラックが本艦へ異常接近している、との報も。
「クロード、危ないっ!」
言うが遅い。
空の果てから挑んできた光線は、クロード・スカイグレーを直撃し叩き落したッ…。
「クロード!!」
『―――アクティブ。これより戦闘態勢へ移行。覚悟せよ、ヴァンパイアども……』
見ればそこには、明らかに強敵と分かるモノが存在していて……
「…誰だよ、おまえたち――――――」
『アクティブ』
不意の角度から、クルスに向かって光の砲撃が放たれた。
悲鳴を上げ、空へ消えていく。
否、雲に叩きつけられる。高密度の雲はクルスも、先程のクロードの体も受け止めていた。
『
西軍統括のS精霊、集結完了。……ここで仕留めよ、との仰せ。実行する』
「……なるほどォ。S精霊………か」
クロードはその『精霊』を見上げる。
雲に半分埋まった体は指一本動かせない。
それはクルスも同じのよう。…ぞくぞくと、増援が――いや、余剰戦力が集まってくる。
『いかにも。我々は貴様らと同じ太古の存在、Sealing精霊……。現在名は「封精霊」。貴様らヴァンパイアの反対勢力として、かつて貴様らの血と争った軍団なり』
「やはりな…。ついでにひとつ聞きたいんだけどな、あんたら絶対、俺らがここに来るって分かってただろ…?」
『
解答拒否。敵にくれてやる情報は塵1つなし』
「誰から、情報を貰ったんだよ…?」
『
解答不能。情報不足。我ら封精霊にその情報は付与されていない』
『
砲撃準備完了。
オールグリーン。……いつでも許可を』
最初にクロードを撃った封精霊――《
封精霊マナキン》が、クルスを撃った封精霊――《
封精霊ホーク》に並んだ。
…相手が悪すぎた。
マナキンは、相対するだけで吸血騎の力を封じる精霊。
加えて、ホークは『封精霊』のリーダー。
陽動として分散されたこのヴァンパイア2人が相手にまわすには、少々、強大に過ぎたようだ……。
『アクティブ』
『アクティブ』
空が、盛大に裂かれた。
『報告。ヴァンパイア1体、本艦に急速接近中……』
「周辺の封精霊を防御に回せ」
『報告、ヴァンパイア、侵入。封精霊、間に合いません』
「ならば本艦内で仕留めよッ、逃がすなぁぁああッ!」
『報告、ヴァンパイア、宝物庫に急速接近中。ブザー始動、警告発令』
「ぬぉぉぉぉおおおお!!」
「うぅぅぉぉおおおらぁぁあああぁぁああ!!!」
空に響く大爆音ッッ!
光の塔の壁を拳でぶち抜き、クラン・ブラックが塔内へ侵入した。
塔の中は整理された、とても通路の広い空洞のような空間。空を飛べる種族である光に、廊下というものはどうでもいいのだろう。
「待ってろ、すぐ戻るっ! 必ず『ミライズ』をゲットして、呪いを解くからよぉぉぉおおっ…!」
ロケットのごときスピードで滑空するクラン。
100メートル近く続く警備のグレートメカオー軍団を、一瞬もたたぬ間に叩き斬った!
『報告、ヴァンパイア、宝物庫に急速接近中!』
「なぜだぁぁ? なぜこの鼠は、宝物庫へのルートを把握しているのだぁあ! ルートを塞げ、隔壁を下ろせッ!」
『隔壁操作開始。3・2・1、オールグリーン。クローズ完了。………続けて報告、』
「なんだっ?」
司令官の顔には、余裕がない。
『けッ……警備機械兵、全滅ッ! 繰り返し報告、警備機械兵、全滅ッ! 宝物庫、無防備状態。防衛率0%!』
「え、え、…エマージェンシィィィィイイイイッッ!!」
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最終更新:2010年03月29日 06:29