ガーディアンを全滅させ、クロムヘルムとクルト、そしてクロスは、本艦へ突入したクランと合流しに向かっていた。
だがその上空で、未知の精霊に遭遇。…どちらも、巨大な墓石のような体躯。
「なんだ、こいつら……?」
『『同時展開。ブロック、アクティブ。…通過シテミセヨ、吸血騎ドモ……』』
封精霊の誇る最強の防御壁、《
封精霊モノリス》と《
封精霊カノーポス》!
迷う暇すら惜しい、とクルトの放った魔力の一撃は、カノーポスに傷ひとつつけられなかった。
「なッ……?!」
2体の封精霊が行く手を塞ぎ、クランへたどり着くことができないでいる。
『…我ラ、防護封精霊。貴様ラノ力ニ反シテ力ヲ増幅スル。…コノ光ニ満チタ天空デハ、貴様ラハマナヲ上手ク発揮デキナイ。ユエニ、我ラ封精霊ノ絶対有利ガ約束サレル…!』
『貴様ラ「逆賊」ヲ封ジルタメ作ラレタ、正義ノ力! 思イ知ルガイイ……!』
「……なんて言ってんのか聞き取りづれぇ」
クルトがぼやく。
要するに。
ヴァンパイアの力が弱まれば弱まるほど、この防護封精霊たちは力を増す。反比例の関係なのだ。
光の領域は、闇のもっとも苦手とする区域。ここでは元々ヴァンパイアたちは100%を発揮できない。さらに、その分この防護封精霊たちは力を増してしまう…!
「―――なるほど。それじゃあさ、」
と、
不意にどこかから声が響き、気がつくと―――モノリスが真っ二つに葬られていたッ!
「俺たちが強いほど、お前たちは弱くなる。逆賊だなんだと粋がった封精霊とやらも―――所詮は、完全ではないということだろう?」
『キ、……………
機能、停…止』
そして、舞い上がる爆炎。
モノリスは跡形もなく吹き飛び、さらに塔の一部を抉るほどの傷を与える!
爆風が晴れると、そこには見慣れたヴァンパイアの影。
「――クロード!?」
「お前、陽動に行ってたんじゃ……」
「事情が変わった。俺もクランと合流させてもらう。その為には、この支柱どもをぶっ飛ばさなきゃ、だろ?」
『…今、何ヲシタ。吸血騎ノ力ハ通ジヌ筈…』
「ハン、…解答拒否」
ぶん、と、空気の震える音。
次の瞬間、クロードはカノーポスの真後ろに立つ。
『
感知、敵危険距離ニ―――』
「失せな」
…斬れる、音も無し。
一瞬の太刀が、カノーポスを大きく切断した。
『…ソレ、ハ……マサカ、「チェイン・スラッシュ」………』
「ヴァンパイアの力を使わなきゃいいんだろ? 俺は優秀なのさ。呪文のひとつやふたつ、マナをいちいち呼び出さずともすぐお手の物、だ」
『……キ、機能……………停…………………止』
司令室は真っ赤な光で埋め尽くされていた。
『報告、宝物庫、開放ッッッ!! 繰り返し報告、宝物庫、開放ッッッッ!!!』
司令室全体が悲鳴をあげるように、宝物庫の危険を伝え鳴り響かせるっ!
「…ぬぅぅああぁぁあ、仕方ないっ! 『ミライズ』を守るためだ! 通達、宝物庫へ無人通達っ! 『ミライズ』を解放しろ!」
『オールグリーン』
宝物庫の扉を壁を床を等しく破壊し、目にも留まらぬスピードでクラン・ブラックが駆け抜ける。
通過した床にはグレートメカオーの残骸。
そして―――目の前には、謎の聖櫃が。
「あったッ! キサノの言った通り、聖櫃が置いてあるぜぇえッ!! もらったぁぁぁああああ!!!」
クランは、その聖櫃に手を伸ばす。
直後―――
『無人通達、受理。未来図解放システム、即時ショートカット・アクティブ』
「なッ―――――」
クランの死角から、青白い光線が放たれた!
その光線はクランの体を貫通し―――聖櫃へ命中した。
その一瞬のみ。
光線は、その一瞬のみ発生しただけで消滅した…。
「(なんだこの光線―――俺に…ダメージはねぇみてーだが…………?!)」
そして目撃する。
光線を浴びた聖櫃だけが、壊されている光景を。
「い、今の光線は……この聖櫃を破壊するためのものかよ…? じゃ、じゃあ、」
そう。
中身は、どこへ……??
『未来図解放システム、成功。非アクティブモードへ移行、…完了』
「よしッ! よしッ! これで奴の手に渡ることを阻止したぞ! 次の指令だ。3機平行作動! 3機で平行して隔壁を戻せ、下ろしている隔壁を戻すのだ。そして味方の軍勢をどんどん送り込んで侵入した鼠を仕留めてしまえぇぇえッ!」
『隔壁回収、完了。』
『隔壁回収、完了。』
『隔壁回収、完了。…塔内軍、増援要請発信…完了』
「よぉぉぉおおぉぉおおっっっし! 結構結構、十分だ! あとは封精霊をすべてこの塔へ! 防御は完全だ、あとは攻撃して追い払うのみッ! さあさあこのふざけた騒ぎも収拾をつけようじゃあないかァァア、ヴァンパイア諸君ンン?」
司令官が大声で笑っている時、小さく、こんな報告が届いた。
それは誰の耳にも残らず…だが、
『報告、西軍壊滅。南軍壊滅。東軍壊滅。繰り返し報告、上空軍、全軍壊滅………壊……滅…………ブチッ』
意図的に通信を絶たれたそれは、この後の形成逆転に十分な、致命的な報告だったのは間違いない…。
「―――…ごめん、クロード。僕が無理言ったばっかりに……」
「気にするなクルス、…死ぬ時は、一緒のがマシだろ…?」
…雲に叩きつけられ、封精霊に囲まれていた、あの時。
光の一斉砲撃を受けた、残酷なまでに残虐な一斉放火を受けた、あの瞬間。
クルスは最後の力を振り絞り、残ったマナを掻き集め、決死の覚悟でそれを放出した。
それは光の軍勢を退け、ひるませた。
…クロードにはそれだけで十分、時間を稼げた。
クロードは雲を間一髪で抜け出し―――光の攻撃をかわしたのだ。
そしてそのまま超速攻で塔の元へ……。
背後で散った、クルスの亡骸に目を向けないように。
……。
空の風景は、おかしな姿になっていた。
あれだけ騒がしかった騒乱が、水をうったように静かなものとなっている。
…空に漂うゴミは、クリーチャーの、残骸。
光の軍勢は、あっけなく崩壊してしまった。『何者か』の手によって。
そして、その何者かは、塔を目指して移動を始める。
黒い黒い、巨大な巨大な影が、地上を埋め尽くす影の持ち主が、とてつもなく大きな剣を振りかざす―――。
「…んん? そ、空の艦隊はどうした? 通信は」
『報告、……』
そして、司令官はようやく現状を知り…絶叫した。ひたすら絶叫した。
さらに間の悪いことに――――――
「…キャーキャーうるせーんだよ、そこのてめー。戦に乗らねぇんなら、ちったぁおとなしくテレビでも見てやがれ」
その声ひとつで、司令官は顔面蒼白。
ついに、ついに、ついにヴァンパイアがクラン・ブラックが、司令室に乗り込んでしまったのだった。
「まぁぁぁああーーーっっ、待て、待て落ち着こうヴァンパイア諸君んん~…」
「先にてめーが落ち着きやがれ。いろいろ聞きてえ事があるんだからよ」
そういうとクランは、適当な椅子を見繕って腰掛けた。…ここまで延々と高速飛行・連続戦闘を繰り広げてきたせいか、疲労が蓄積している。
「まず司令官よぉ。てめーはどうして、俺たちが来ることを知っていた? 知ってなきゃ、そもそもこんな布陣…そんで『封精霊』なんてモンも出してこねぇよなあ?」
「そっ、それはホラぁ~…あれだよ、ヴァンパイア諸君。君たちはスノーフェアリーの亜種というものをご存知かな?」
「ヴェノムキュートだと………?! あいつらが、何の関係があるってんだ」
「ご存知だったか。驚いた。あの連中が突然おしかけてきてだな、ミライズを盗まれるから、備えていたほうがいいよ! なんて言うものだから………」
…やりかねない。クランはそう思った。
そもそもヴェノムキュートは、何か楽しいものが見たかった、というただそれだけでヴァンパイアを脱走させるような連中だ。
光の軍勢とヴァンパイアを利用して、ちょっとした戦争でも観劇しようか、なんて発想、あいつらなら四六時中思い浮かべてるだろうよ…。
「…分かった。こっちの事情も、そっちとだいたい一緒でよ」
「そ、そうなのか~…。じゃ、そろそろ出て行ってくれないかな」
「待て。まだあんだよ。……てめえ、ミライズを一体どこに――――――」
どこにやりやがった、と聞くよりも早く。
司令室が、いや塔全体が、大きく揺れた。
上下じゃない、左右にだ!
それはつまり、横からの物理的衝撃をうけたということ、そして―――
『報告、未確認飛行物体が、本艦を攻撃中!』
「な………な?! どどど、どういうことだ、未確認?!」
「…外に、新手がいるってわけか。それも――」
「どうも、我々とはさらに違う勢力でしょうね……」
クランが振り向くと、司令室には残りのヴァンパイアも集結しているのが見えた。
「おぅクロムヘルム、…そんでクロードの兄貴と、クルトにクロス! 思ったより早ぇじゃねーか………………クルス、は…どうしたんだよ?」
そして。
もう1度激しくゆれたかと思うと、塔が、ガラガラと分解を始めた。
緊急警報が鳴り響く塔の中。
それを意に介さず、ひたすら剣を振るう巨大な存在―――…まことに信じがたいが、それは、
「ぬぅぅううっっ! 我が神の世のため、未来図求めいざ参らん! 宝物よ、我が手にィィイイーーッッ!!」
破壊。
破壊。
破壊!
傾く塔。
崩れ落ちる本艦!
まことに信じがたいが、それは神に仕えるという未来よりの使者―――未来の住人、『ロスト・クルセイダー』の姿であった。
「ご覧下されゴッドたちよ! このわたくしの轟力をぉ! ぬーーーぅぅぅうううぅぅんんぁぁああぁあああッッ!!」
《
鎧亜の宝剣ダイヤモンド・デスティニー》。
呪文で編み上げた剣を振るい、求めるは秘宝、ミライズ。
『アラート! アラート! 緊急事態、緊急事態、被害甚大! 本艦はまもなく崩壊します―――』
「保護プログラムを起動しろぉぉ! すべてのイニシエートを修復作業に回せぇぇぇえええ!!」
『了解、イニシエート導入……導入不可。繰り返す、導入不可! システム中断、完了。イニシエート導入を断念しました』
「何故だっ!? ま、まさか既にイニシエートたちは全滅…??」
みてーだな、とクランは腰を上げる。
「…どうしようというのです、クラン」
「どうするも何も、俺たちにゃ関係ねーだろ? とっととミライズを探しに行くのが先決だ。この塔を守らなきゃならないこいつらとは違って、な」
あわただしい司令室は、もうヴァンパイアたちなど見えていない。
みな塔を維持し守ろうと必死だ。
『報告、レーダーに反応アリ。……ミライズをキャッチしました!』
『繰り返し報告、ミライズ、反応アリ! 反応アリ!』
「なんだとッ!? そりゃどこでだ?!」
クランはその機械に飛びつく。画面に表示されているソナーのような地図を見て、この塔からのおおよその方向を掴んだ。
一方司令官は、
「今それどころじゃあねぇぇええんだよぉなぁぁあぁあ!! 余計な報告は一切するなッ、通達!! 通達!! 塔以外からの報告の受信を一切シャットアウトせよッ!」
『了解、…シャットアウト、完了』
と、完全に我を忘れていた。
「クロムヘルム、クロス、クロードの兄貴、そしてクルトぉぉおおッ! いくぜ、外だ! ミライズの位置は俺が掴んだぜ!!」
「行きましょう、皆!」
「「あぁッッ!」」
…無数の残骸。
これは、塔に保存されていたイニシエートたちのものだ。
どれもが、マナを吸い上げられたような姿で果てている。
…と。その地獄絵図の中にも、動くものがいるようだ。
欠けすぎた四肢を使って、不器用に体を起こす《
電脳聖者ガウディーン》。光文明が用意した、ミライズを守るための量産型防衛機である。
マナを吸い取られ朽ち果てた仲間は、どれも、『進化』のために利用されたのだと分かる。
誰の仕業?
ミライズである。
そう、ミライズは今やクリーチャーとなったのだ。
その原因は、あの時聖櫃を破壊した光線。あれには不完全ながらも『物体のマナを増幅しクリーチャー化する』機能が備わっている。
あれをミライズに向けて撃つ事で、クリーチャーとしての姿を目覚めさせ、逃亡させたというわけだ。
そして、この惨状を省みるに……ミライズは、イニシエートの進化クリーチャー。
不完全な体を保持するため、大量の進化元――ようするに『養分』が必要だった。
そして今や、ただ追っ手から逃れるためだけに大空を駆け抜ける………その姿は《
ミライズ・ヴァジュキューレ》。
そのミライズの影を上空に確認すると、ガウディーンは、力尽きたようにその身を倒した。
目次
最終更新:2010年03月29日 06:30