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 …一面の草原だった。
 これは過去の情景。
 とある民族が残した、つかの間の平穏の記録。

「…成し遂げたのか、アウヴィス
「……ああ。俺の理想はここに尽きたり、ってね。調和なんて大それたものじゃないけど、俺はできる限りの事をしたつもりだよ」
「………。今回の事で、おまえに謝罪を、」
「いいよ。そんなの。俺は気にしてない。……目的を果たそうと思ったら、少しの犠牲が出るのは当然のことなんだ」
「……………」
「俺の遺志はきっと、ハーモイターナが継いでくれる。彼女は偉大な巫仔となって、いずれ世界を股にかけて調和の願いを説くだろうね」
「唄の力、か…。私は光の出身だからか、そういう原理には縁がない」
「心を通わせるんだ。心を……。そうすれば必ず分かり合えるんだ。俺たちの民族はさ、そこをよく分かってる。力ってのは争いのためにあるんじゃない。争いの後に、ごめんね、って言い合う勇気のためにあるって事だよ」
「……おまえはそうやって、無血調和を成し遂げた。理論はいまひとつ分からんが、それはやはり……なにか、特別な力なのだろうな」
「特別なんかじゃないさ、皆が持ってる力だ。持ってるけれど、使おうとしない力なんだ」

 風か。
 それとも…ただの鳥だったか。
 何かが草原を駆け抜け、ざわざわと、自然の涼らぎを奏でた。

「…ミライズの件はどうした、アウヴィス?」
「未来図、か。……あの秘宝はあってはならない。それが俺の結論だ。よって………一番信頼できる隠し場所に、置いておこうと思う」
「破壊、しないのか」
「破壊なんてしたら、いつ俺の目の届かないところで再生されるか分からないだろ。それよりは保存したままで、どこか目の届く場所においておくのが一番さ」
「なるほど。して、おまえはどこへミライズを…」
「ああ。とりあえず、君に任せてみたい」
「……。…何?」
「あいにくと、俺は自然の出身なんでね。隠すとか、そういう事は疎いんだ。光の鉄壁に守ってもらえるなら安心だ」
「………。私は仮にも『王騎士』の身。主に隠し事をするのは、躊躇われる……」
「? なにいってるんだ、君はとっくにヴスヒュラードを裏切り、ここで俺と話しているじゃないか。それにさ、」
「なんだ」
「誰かに仕えるのが『王騎士』だっていうんなら、俺に仕えなよ。…そんな上等な輩じゃないけどな、俺は。ハハっ」
「―――……。…ふ、面白い。そこまで言うなら、おまえを信じよう。そして、ミライズをどうやって隠すというのだ? …私にも寿命は、ある。永遠に隠すわけには行くまい」
「…だなぁ。………そうだ、こんなのはどうだ? 名づけて『スタジオt』作戦」
「意味が分からない」
「どこかの倉庫にミライズを封印する。そして、そこに君の魂も封印するんだ」
「私の、魂を?」
「ああ。そして、誰かにミライズを奪われそうな時にだけ、君の封印が解き放たれ、そのコソ泥を追い払う。カウンターみたいなものだ。どう?」
「……そう簡単にいくのか。確かにその術式は可能だが、もし相手が一国の戦力をすべて傾けたなら…私1人などひとたまりも……」
「大丈夫さ。そこで、ミライズの力を使ってしまえばいい」
「?! ……」
「負けはないだろ? …君を信用してるから、ミライズを使えなんて言えるんだ。引き受けてくれよ、頼む」
「………。調和をなしたというのに、弱気なものだな。ミライズを利用しようなどという者の出現を危ぶむとは」
「…そう簡単に、変わってはくれないのが現状さ。世界は回り続ける。仮初の仮面は剥がれ続ける。そうやって、世界は刻一刻と変わっている…」
「―――……。仕方ない。…果たすしかあるまい」
「やってくれるんだな?」
「ああ、果たそう。おまえの期待に応じてやる。…不思議なものだ。最初は敵同士として剣を交えあった我々が……まさか、共謀など」
「それが調和の力さ。…ありがとう。おまえなら安心だ………。じゃあ、…皆と、ミライズを……よろしく頼むな」
「ああ。また、いずれ会おう」
「運命の果てにて、な。……またな、タイオーン」


 ――――――霊騎バスペレストの語り


  • 18
 黄金のランスを構えた騎士は、無人の司令室から空を見下ろす。
 彼の目的は、ミライズの、守護。
 なんとしてもこの塔の再生をマナによって実行したかったが、それをホーリー・スパークの砲撃にすべて消費してしまう、という愚行をなす者がいるようでは駄目だ。それは司令官に相応しくない。
 そう考え、この騎士は司令官を抹殺した。
 …マナの充溢度を測定する。
『……報告。 充填率32% 。安全起動の最低ライン67%まで、残り…』
 表示されたのは、………芳しくない秒数だった。
 騎士は機械に何やら入力し、マナがたまれば塔を自動修復するように術式をかけた。
「……敵は殲滅した。宝物庫へ戻り、再び封印に移らなくては。……いくぞ、ミライズ―――」

「…お待ちください」

 クロムヘルムが、司令室に侵入していた。
「―――ヴァンパイアか」
「ミライズを渡していただきたい。悪いですが急いでいます。可及的速やかにご返答を。さもなくば―――力ずくも辞さない方針ですので」
「死に急ぐなヴァンパイア。…何故私が、殲滅呪文『アポカリプス・デイ』の威力を弱めたと思っている?」
「…存じません」
「この塔を守るためだ。これは宝物庫を内包している。これに潰れられたら、ミライズは行き場を失う…」
「……仰る意味がわかりませんが」
「分からないか。もし私がこの塔を舞台にして戦闘した場合―――相手はともかく、この塔は無事では済まないだろうから、だ」
「ハ。要するに自壊を恐れているのですね。私との戦闘にて、塔に被害が及ばないように、と」
「左様だ。…というわけで、塔がこれ以上傷つかないうちに去れ。いま暴れたところで、誰も得はしない……私も、貴殿も、な」
「お断りですね……。胸糞悪いですが、友の頼みですので」
「そうか。私も、友の頼みなのだ。よって譲るわけには……、いかぬッ!」
 黄金のランス。
 銀の鎖が交差する。

  • 19
「……な…なんだったんだ、今の爆発はよぉ」
 雲に埋まった体を起こしながら、クランがうめいた。
 彼の周辺には、破壊した光の軍勢たちの破片。
 欠片。
 屍骸。
 …死体。
「あ、……ぐ…………ッ…!」
 抗いがたい衝動が胸を叩く。
 抗いがたい抗いがたい抗いあらがいあらがいがいがいがいがたいたいがたい衝動衝動衝動衝動衝動、胸胸を胸を胸を叩叩叩叩叩叩たたたたたたたた
「ぐぅぁぁああ………ウゴゥゥウォオォォォオオアアァァァアアアァアアアァアアアッッッ!!!」


 ……血が、床を叩いた。
 ぽとり。
「…ア、ぐ………君、はっ」
 クロスだ。
 クロムヘルムに続き、塔へ到達していたヴァンパイア。その胸には、深々と……
「君は、ミライズ………なんだな?」
『……yes(肯定)』
「そ、う…かい。遭えて…嬉しいよ」
 深々と、電子の剣が打ち込まれている。
 その剣は刺さりながらも、周囲の空気からマナを吸収し、さらなる一撃を放とうとしていた。
 最初は完全なる不意打ちだった。
 塔に乗り込み、司令室で戦う2人――クロムヘルムと、黄金のランスを持った騎士――を発見し、クロムヘルムの加勢に入ろうとして、…背後のミライズに気づかなかった、というわけだ。
「悪いけどさ、君………クランに、もらわれて、くれない?」
『…no thank U'(拒否)』
 そうかい、と、クロスは残念そうに呟いた。

『…overspec-gear(オーバースペック・ギア)、 alright(オールグリーン)fullbrust(フルブラスト)active(アクティブ)

 次の瞬間、剣が爆発した。
 ……傍目から見れば、一瞬の花火にも劣る派手さ。
 しかし実害から見れば、雷を上回る強力さ。その証拠に…さっきまで刺さっていた筈のクロスは、跡形もなく吹き飛ばされている…。
「……何事だ、ミライズ・ウェルキュラーレ」
…………
「…そうか。結局、ヴァンパイアは削除せねばならない対象なのか。まだ生き残りはいるようだ、用心し―――……?」
 直感的に、嫌な予感を受けた。
 次の瞬間、塔が大きく揺れる。
 司令室が再び、真っ赤な文字に包まれた。
『…報…告、 破損率80%フラット …! 繰…返し報……告… …破損率…80%フラット ……』
「これは……」
航空状態、維持困難 !  修復術式、不全危険度D 。自動判断システム作動、 戦闘機器、全システムダウン完了
 塔の破損があまりにも甚大なため、戦闘システムがすべて自動的に閉じられ、すべての動力とマナが修復作業へ回される。
「…ヴァンパイアの生き残りの仕業か。ミライズ、おまえに眠ってもらうのは、まだ少し先らしい」
『…yes(了解)』


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