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その地に、空は無かった。


一体今までに、いや、今でもどれだけの弾が飛び交っているのだろう。
もはや弾を魔弾にする工程など、時間が掛かるとの理由で省かれている。
それもこれも、数年前に五文明が我々騎士の本拠地を破壊して以来だ。
本拠地というバックホーンを失い、魔弾の精製、兵糧、麻酔、、包帯、薬の配給が怠って行った。
包帯に到れば、水洗いで再び利用する。乾く間も無かった。
例え、他人が使用して、血が残っていても。

そんな不衛生な、たかが布一枚にどれだけの騎士が手足を失い…そして死んでいったか。



その地に、空は無かった。


「―因果騎士クロウムル。貴様を邪眼皇殺害の罪で処刑することを決した」

クロウムルと呼ばれた騎士は、黙って立ち上がり、付き添われながら処刑台へ登ろうとした。

「お願いがあります。ヴァツァーリー滅公閣下」

「何だ?」

「この魔銃をある人物に譲りたいのです」



その地に、空は姿を現さない。


数年前。

弾が空を覆う。その度に戦場に騎士が倒れる。

空はただ銀色。大地はただ紅。

森と草原は、とうの昔に魔弾で焼き払われた。
かつて樹海だったこの場所は、今や広大な荒野となった。

魔弾が飛ぶ事なんて少なかった。我々のような下っ端には、ただの弾しか配給されない。
ああ、向こうで若い騎士が放った魔弾が閃光を放ちながら炸裂している。
あれを撃った騎士は少なくとも財閥一門の末席以上の人物なんだろう。

お坊ちゃまめ。どうぜ自分が死にたくないから魔弾を使っているのだろう!?
俺の方が代々戦い、財閥に貢献している。
因果一門との戦いまで、いや、つい先日まで上層部が戦いに参加したなどという話を聞かない。
高みの見物で、俺ら一般騎士に煩く命令して、下手すりゃ我々は読みが外れて死ぬ。
そのくせ、自分が死にそうになると俺らにでも助けを求めるときた。

上がそんな奴らだから、因果に寝返った騎士達の気持が分からなくもない。
補給の状況は違わないが、優遇されているらしい。
因果提督アリストートルⅠ世を始めとする騎士達は因果一門の中で順調に出世し、今や軍ほ率いている立場にあるという。

向こうで、閃光が翻った。魔弾が暴発したらしい。救命印を描いた魔弾が続いて空に乱発される。
そんなに乱発してたら逆に見つかる可能性があるというのに。
向こうがこっちに気付いたらしく、何かを叫んでいる。
こうなってしまった以上、後々その騎士が生きていたらマズい立場になることは間違いないので助けに向かった。
褒美として魔弾を分けてくれるように頼んでみるか。



その地に、空は未だ無い。


「助かったよ……ありがとう。君は氷牙の者と見たけど、因果の裏切り者じゃないのか?」

「ああ。俺は貴方の味方だ。安心してほしい。見た所、貴方は邪眼のお偉いさんか?」


邪眼皇の弟が何故? ましてや皇弟という次代皇帝の座を約束されている人物が、護衛も付けず単身でここに?

「皇弟…先程は失礼しました。
それにしても何故、皇弟殿下程の人物がここに…」

「今、急用で屋敷の方から来たんだけど道に迷ってね……」

空を仰ぐ。生憎曇天だった。

「屋敷は……壊れたんだよ。闇文明によって」

何処か遠いところで、銃声が聞こえる。

「そして墓所は、リビング・デットとキマイラを生み出す試験場と化していた」


「憤慨して、兄から貰った魔弾を放ったら、辺り一面吹っ飛んだ。
その後、墓所に残っていた魔銃を持ちだしたんだけどね…
これをさっきの礼だ」

そう背中から魔銃の一つを取り出すと、俺に渡してきた。
どうやら助けてくれたお礼だという。素直に受け取った。

にしても馬鹿重い魔銃だ…。
魔銃の持ち手に文字が彫られていた。

《Александр III》

アレ…クサンドル…サード?

「うわわわをっ」

危うく魔銃を落としそうになった。重いから尚更落ちやすい。

「いや、皇弟殿下、これはかの邪眼皇アレクサンドルⅢ世の物ですよ? 分かっておられるのですか?」

「あー、いいんだよ。その代わり、僕のロマノフⅠ世の魔銃は末代まで渡せないぜ!」

「は、はぁ…」

上の人たちは、何処かでずれている。



その時だった。因果軍の遭ってしまった。さっきの皇弟の行動で見つかったらしい。
その中の一人には、見覚えがあった。

「久しぶりだな…皇弟のボディーガートとは、中々じゃないか。」

親友だった。

「なぁ、そいつの賞金いくらなのか教えようか?」

「賞金、だと?」

「おう。そいつの首があれば一生困らない生活と、領地、そして一個大隊規模の部下が与えられるって話さ」

確かに、それは良い条件だ。
ましてや、勝負の風向きが因果に向いている今となっては。

「だが断る! 魔弾ロマノフ・ストライク!」

魔銃が火を噴き、弾幕が展開された。張られた弾幕から攻撃の手がかつての親友に襲い掛かる。

俺と皇弟殿下の他に、動くものは無かった。




その地に、空は久々に姿を見せた。

満天の星空だった。

「何故、殺したのですか」

「…やらなければやられていた」

「それだけの理由でですか」

「…いいですか殿下」

俺は向き直った。

「戦場では、どんな罠が待っているのか分かりません。
敵が俺の心を読んで、擬態していた可能性もあります。
そして、あの条件が嘘で、騙そうとしていたかもしれない。
あんな良い条件を、俺にも共有させるのは可笑しい。後々、争いになります」

「……」

「殿下は、お人が良すぎます。殺すも殺されるも、ここは戦場なのです」

「そうですか…
あ、僕の目的地はあっちなので、ここでお別れです」

「今度会う時は、生きて会うと約束しよう。それまでは死なないてほしい」

「……さよなら、ご武運を」

「ありがとう、ではまたいつか」

皇弟が行方不明になったのは、その後だった。


その地に、混乱が覆った。


ああ、俺は数年前のあの時、死んでても、殿下に付いてゆくべきだった。
俺の目の前の悲劇を回避する為に。

結局、あの魔銃は奪いあげられそうになったが、魔銃が俺を持ち主と認めたらしく、離れなかった。
何故持っているのか、と聞かれたが、何故か氷牙皇帝ニコライ・ロマノフが庇ってくれた。
それだけではなく、俺は氷牙皇帝のボディーガートに転身した。

それは、我々が不死大隊に包囲されてしまった時だ。
殺しても死なない相手に疲弊する一方、邪眼皇が救援に向かっていると聞いた。

「邪眼皇直々に?」

「ああ、そうだね。可愛い甥っ子が助けに来てくれるから楽しみだよ。どさくさに紛れて暗殺、してみようかな」

「いや、そういう事じゃなくて…って閣下、そんな不穏な考えは慎んでください!」

向こうで、大きな閃光と弾幕が広がった。
世界は一瞬、白に染まった。

「…はっ…俺を暗殺できる…訳ががない…ピョートルだ…叔父上…無事か…?」

そう倒れた敵を踏みながら、邪眼皇は近づいてきた。

右腕は肩から無くなっていて、赤く染まった包帯が痛々しかった。
目は焦点が定まらず、一気に老けてみえた。

「…よ…か…っ…た」


その時だった。

見覚えのある姿が、視界に踊りこんだ。

「覚悟しろ! 邪眼皇! 魔弾ロマノフ・ストライクッ!!」

一発の魔弾が飛び、その閃光が邪眼王の背後から左脇腹と左足を貫いた。

邪眼皇は振り返り、魔銃を構えたが、バランスを失って倒れた。

その眼に、後継者にしていた弟がはっきりと映る。

「…何…故…だ……ク…ロ…ウ…ム…ル……俺の…おと…う…とよ」

自分を撃った人物の正体に驚き、魔銃を落としてしまう。

弟は魔銃をゆっくり上げる。

「さよなら。魔弾ロマノフ・ストライク」

それが邪眼皇の最期だった。
その一発の後、更に執拗に魔弾を放ち続けていた。

「やめろ! 魔弾ロマノフ・ストライク!」

俺は魔銃を構え、咆哮した。火を噴く。

暗殺者は抵抗もせず、撃ち返そうともせずに倒れた。

俺は駆け寄り、暗殺者を捕まえ、拘束した。

「顔を見せろ!」

フードを捲ったその顔には、見覚えがあった。
紛れもなく、邪眼皇弟クロウムルだった。



その地に、悲しみが覆う。

その空に、哀悼の光が上げられる。


「氷牙の騎士よ。クロウムルがお前に託していった物だ」

クロウムルの処刑から数日後、本営のヴァツァーリー滅公に呼ばれた俺は一つの魔銃を受け取った。

《Рома́нов i》-ロマノフ ファースト

それこそ、紛れもなくあのロマノフⅠ世の魔銃だった。

「それは邪眼皇陛下暗殺に使われた物だ。
本来ならそれは渡してはいけないのだが…。
主を失った魔銃は、副葬品にされるか、誰かに継承せねばならない。
しかし、皇弟といえとも反逆者に副葬することは出来ない」

「だから俺が継承すると? 一般騎士である俺が?」

「確かにそれは筋違いだと思った。
その上、代々の邪眼皇の魔銃は、同じロマノフの血統ではない者が扱う事は出来ない

……?

「意味が分かりません、ヴァツァーリー滅公」
「そのままの意味だ。氷牙皇帝は既に知っていたようだ。
我が財閥内でも噂になっていた。
―氷牙財閥に、魔弾ロマノフ・ストライクを撃てる騎士がいると。
クロウムルからその魔銃を受け取るまでは、てっきり氷牙皇帝を見間違えたのかと」

声の調子が重いものになってきた。

「魔弾ロマノフ・ストライクを撃つって…特別な事でしょうか」

「特別も特別だ。私は非常に驚いた。いや、邪眼財閥全体が驚きに包まれた。情報規制を掛けたにも関わらず、だ。
いいか、心して聞くんだ」

「心して聞くも何も…何なんです?」

「まず、魔弾ロマノフ・ストライクはロマノフの血統を持つ者だけが扱える。
それ故、邪眼皇は魔弾ロマノフ・ストライクを使えるかが求められたのだ」

「……ということはつまり?」

貴方はロマノフ一族である、ということだ。
調べた結果、貴方はロマノフⅠ世の、没落した直系の末裔だと判明した。
クロウムルを葬った貴方に邪眼財閥へ移る気持ちがあるなら、歓迎しよう。
貴方の子孫には邪眼皇の皇位が与えられるだろう」

「…詐欺ではないでしょうね?」

「詐欺して何の得がある。愚弄する気かね?」

「…………いえ。ですが、移る気持ちはありません。
私はあくまで氷牙の騎士、矜持というものがあります」

「そこまで言われると余計に迎えたくなるが…そうか。では、お願いしたい事がある」

「何でしょうか」

「彼の家族を守ってほしい。いくら反逆者とはいえ、家族に罪は無い。だが、今の状況では復讐されかねない。
中立都市《TOBATSU》へ避難し、護衛して頂きたい。これには氷牙皇帝も賛同している」

「了解しました」


それが俺の、数千年紀渡る、長い旅の始まりだった……とは、誰か思うのだろうか……?