これはちょっと昔の話である。
光文明のとある空中要塞『アーク』に
新世代ホワイト・エイジと
再誕の精霊アーティというクリーチャーがいた。
ホワイト・エイジは特殊なクリーチャーで、光文明でありながらその存在は永らく気付かれていなかった。
全領域を『オールアンサー>中枢の城砦オールアンサー]]が管理するこのアークでは、異常な事態であると認識せざるを得なかった。
オールアンサーの目を欺く者……
他文明のスパイでは無いか、という噂なども度々囁かれており、彼女は忌み嫌われていた。
そんな中でアーティと『
とある人物』だけが彼女の理解者であり、友人であった。
感情を持つホワイト・エイジと、感情を持たないアーティが相容れたのは何故かは覚えてない。
アーティの優れた思考回路を以ってしても、それに関すると思われるデータは選別不能だった。
そんなホワイト・エイジは、革命戦争にて戦う一人として、光文明を去っていった。
その時、アーティは思った。
感情とは、とても優れた物なのではないか? と
ホワイト・エイジは自らの意思で何かを変えたいと願って、この光文明を抜け出した。
それがアーティにできるだろうか? 否。
高度な技術で作られた自らのプログラムは絶対的で、禁止された事項は絶対に行えない。
ましてや、無断で領域外に出るなどと……
だからアーティは自分が不可能なことができるようになる『感情』が優れた物だと思った。
そしてアーティは生み出した。
感情を持つクリーチャー『
エンジェロイド』を。
何故『感情』を作れたのかはよく分からなかった。
数年が経った。
革命戦争の行方はもう分からない。
まだ続いているのか、もう終結しているのか。
かつての友人、ホワイト・エイジが生きているのか、死んでいるのか。
革命戦争の行方はともかく、『エンジェロイド』が生まれて数年後の世界だ。
事態は突然だった。
突如アーティの目の前に現れたのは、光文明の冷酷な破壊神。
赤錆「……排除」
塗装が剥げ、もはや光文明であることが分からなくなった赤錆の精霊が、ノイズの入った音でそう呟いた。
毒々しい赤となり果てた、刃を持つ腕を振り上げる。
そして、エンジェロイド達に向けてその刃を振り降ろした。
金属が無理矢理叩き斬られる音がした。
響くスパーク音。
アーティが今の状況に気付くのには、少し時間がかかった。
斬られていたのは、アーティだ。
アーティは「ああ、良かった」と安堵する。
同時に驚く。何故、そう思えたのか…… そして何故、自分より弱い者の為に盾になれたのか……?
光文明の高度なシステムでは、絶対にありえない話だった。
ちょっとだけ、アーティは嬉しかった。
自分にも、感情はあったのだと。
だから文明に利益にならないこんな事も言える。
アーティ「ミンナ…… 逃ゲテ」
涙を浮かべるエンジェロイド達。彼女らはアーティの意思を汲んで、この空中要塞から飛び出した。
追う赤錆の精霊。アーティはそれをギリギリの体力で追った。
オルレア「ダメだ。追いつかれる…… 仕方ない、迎え討つ! 先に行け!」
アルナ「そんな…無理だよ」
もう逃げ切れないと感じたオルレアは体を翻し、赤錆の精霊と向き合う。
オルレア「死ぬのは私だけでいい」
赤錆「排除……」
力の差は圧倒的だった。
だが、オルレアが稼ぎたかったのは僅かな時間。
その点においては、オルレアの勝利であった。
赤錆「……!」
オルレアの電磁捕縛により、赤錆の精霊の動きが止まったのだ。
追うアーティはそれを逃さなかった。
全エネルギーを使っての渾身の一撃。
それは赤錆の精霊を撃ち抜いた。
アーティ「オルレア……!」
オルレア「お母…さん?」
赤錆「システムエラー…… 損害…レベル5…… 自爆モードに入ります」
アーティ「偉イ…ネ」
そう言って、空中でオルレアを抱きしめる。
もはや二人には余力は無かった。
オルレア「……ありがとう」
アーティ「コチラコソ――」
誰の核融合炉が爆発したのかは分からない。
ただ2つだけ言える。
彼女らはもう生きていないこと。
彼女らのお陰で、たくさんの『感情』がこの世に生き残ったこと。
最終更新:2011年01月07日 17:22