軽度三角頭蓋という疾患とその治療法について発見をし、十年以上にわたって一人で  手術を推進し続けて来た沖縄県立那覇病院脳神経外科・下地医師へのインタビューが実現しました。                                             インタビュー中では、これまで公に語られることの無かった本音、医師としての思い、   今後の展望などについて赤裸々に語ってもらいました。           

なお、当ページへの反響があることは想像に難くありませんが、それに対して下地医師から直接返答をすることはありませんのでご了承下さい。また、当HPサポートメンバー(SMC)による介入も一切ありませんので、書き込みをされる場合においては個人の  良識を守っていただけるようにお願いします。ただし、目に余る発言や誹謗・中傷などの書き込みにつきましては削除させてもらう場合があります。   

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下地医師には、当HPの趣旨を理解されご協力を下さったことについて、この場を借りて改めて感謝を申し上げます。また、社会情勢や批判意見などの風当たりがある中でも、医師としての信念を貫いてこられたことについては、心からの敬意を表します。

それでは、以下のインタビュー内容をご覧下さい。

+++下地医師へのインタビュー+++

下地医師 I=インタビュアー

:下地先生が、軽度三角頭蓋の治療に携わった最初から十年以上が経つそうですね。これまでに印象深い出来事は沢山あると思いますが、一番嬉しかったことは何でしょうか?
6番目の児ですね。立つのがやっとだったのが、術後どんどん良くなって歩けるようになるし、走れるようになった。言葉も全く何を言っているのか聞こえなかったのが、外来に来るたびに良くなり、「下地先生!」と診察室入って来ると、感動で全身の毛が立つようでした。
:先生が手術の効果を確信されたケースですよね。それでは、逆に一番辛いと思ったことは何ですか?
早期の患者さんで、母親が失踪して子供が痙攣発作を起こしてしまって、   父親が担いで救急外来に来た事かな。結局、その児は改善無しとなった。
もう一つ、手術を中断している間、もし手術をしなければ、母親が自殺するかもしれないとの逆の脅迫状のようなものをもらったことも私には辛い思い出ですかね。
:倫理委員会が開かれて手術が中止されている間のことですね。手術をして欲しいとの親の嘆願だったのでしょうか。
そうです。

:ところで、先生が先ほどおっしゃった一番嬉しかったことにつながりますが、最初に発達障害児に有効な治療だと確信された時、どういうお気持ちになりましたか?
この興奮を世に知らせなきゃー、という気持ちでしたね。
:それは、治療後に良くなったからそう思えたのであって、例えば手術を受けても良くならないとか、悪くなったという子どもがいた場合はどうなんでしょうか?それは必要の無い手術を受けたということになるのでしょうか?
現時点でも完全に軽度三角頭蓋の患児の中でどのような症例が手術の適応が無いか、はっきり言って分かりません。むしろ、私が選択して手術をしてなかったらどうだろう?という症例の方が多いのです。
30番目前後の症例で、余りにもひどい多動で、発語が無く、専門医に自閉症と診断されていた症例を2度断りましたが、両親と塾の先生の熱心なお願いで手術をすることになりました。その児のベストという術後の改善を見せられてからは、手術を断らなくなりました。
私たちは何も分かっていないのです。分からないものを医師自ら規定できないでしょう。

:何も分かっていないということだけが分かっているということですね。
:それだけに、批判的な意見が根強くありますが、ご自身の方針のどこが問題だと認識していらっしゃるのでしょうか?それとも問題は無いと思われますか?
批判は敢えて受けます。しかし、臨床家として、病む者の改善を一番望むものです。前記したように、この軽度三角頭蓋については私も全て分かっている訳ではないのです。そこに医師自らの規制をどうして設けられるでしょうか。
甘いと言われても、仕方ない部分はあるでしょうが、今の姿勢で進みます。

:わかりました。ところで、先生のそういう姿勢から発達障害児を持つ親の間で、先生の存在が英雄視されたこともあるかと思います。これについてどうお感じになりますか?
はっきり言って迷惑ですね。大げさな事ではないのです。
三角頭蓋で前頭葉が狭くなっている、子供が臨床症状を持っている。前頭部を広げてあげて症状が改善する。ただそれだけのことなのです。
:それだけのことと言える先生は、この治療法に関するパイオニアとしてやりがいと共に責任も感じていらっしゃるかと思いますが、今後多くの医師の間にも手術を広く推進していかれるおつもりはありますか?
どんどんやって行きますよ。
:どうやってそれを実現させるのでしょうか?
これまで通り、学会で知らせ、何処にでも出かけてミニでも講演会をして広げていくしかないでしょう。
手術を受けて良かったと思っているご両親の協力も必要ですね。沖縄では発達センターに居られた先生が、術後の子供達の変化に感動して患児を紹介してくるので、本土の患児のご両親もおのおの療育をなさっている施設の先生方にチェックさせてもらうことをお願いします。
:現在は、その本土からの患者が多いと思いますが、地域の基幹病院として    対応に困るというようなことはありませんか?
それはありません。地域という概念を小さく捉えなければいいのです。

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:それでは、ここから少し厳しい質問になります。                  手術は自閉症の治療ではないと先生はおっしゃいますが、実際のところそうだと思っている人は少なくない気がします。どうして誤解が無くならないのでしょうか?
自閉症のサイトで紹介されたからでしょうか?他の発達障害を持つ症例・・・例えば言葉の遅れのみ、ADHD、LD、運動遅滞や、稀ですが頭蓋   内圧亢進症状も有るので、この辺も伝えてもらいたいですね。
:なるほどそうですか。今おっしゃられたように、これまで発達障害と軽度   三角頭蓋という全く違った症状に着目されたことで、困難もあったかと思いますが、異分野の専門家との連携はどのようにされて来られたのでしょうか?また、どのようにお考えでしょうか?
その道の専門家に直接手紙を書いて「検証してください」とお願いしてみましたが、何の返事もありませんでした。
厚生省(現・厚労省)にも乗り込みましたよ。学会で認識されてからとのことでした。                              学会で地道に知らせていくしかないでしょう。口コミも大切ですし、皆さんのネットでの紹介もとても大切です。
:その様に情報を得た発達障害児を持つ親の中には、先生に手術をして欲しいと、頼み込む人も居るかと思いますが、その場合どのように対応されていらっしゃるのでしょうか?頼み込まれたら引き受けるのでしょうか?
現在は軽度三角頭蓋と診断されれば断っていません。
:逆に先生が手術をした方が良いとおっしゃっても、拒否をする親も居るかと思いますが、それについてどのように感じて、どう対応していらっしゃるのでしょうか?
内心は、「そうかな…子供楽になるのにな」と思っています。

:これまでにもう何年もの間切れ間なく患者は訪れ、手術を執刀されていますが、先生も人間ですから疲れることもあるかと思います。
:時には「止めようかな」と思ったことはありますか?
止められませんよ。とんでもなく改善したという手紙を貰うと嬉しいし、   疲れも吹っ飛びますよ。
聞き分けが良くなり親の言葉を一回で聞くようになったということや多動が減少し買い物も楽になったなど、改善の程度が少なくても親は子供らしくなったと言ってくれるので力が湧きます。
:そんな先生も、数年後にはメスを置くことになると思いますが、そうなったらこの治療法は立ち消えてしまうのでしょうか?先生の意志を継ぐ医師は居るのでしょうか?それとも、何らかの形で先生ご自身も携わり続けるのでしょうか?
もう直ぐ300例に達します。この児たちをどうしたらいいのでしょうか。悩んでいますよ。
・・・今はいないが、大丈夫!必ずやろうという医師が現れます。

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:インタビューの最初で、先生が辛かったお話に挙げていらっしゃいましたが、2000年に院内の倫理委員会が発足した当時、しばらくの間手術が中止となりましたね。その時のお気持ちはどうでしたか?
一日も早く倫理委員会を通さなきゃでしたね。1人の患児の親が院長に面会していますね。「手術を再開して」と。
:結局倫理委員会は通って、また手術を再開されたわけですが、その当時から先生は、この治療が必要な子どもは全国に一万人以上居るとおっしゃっていますね。
:その子ども達が治療をしないままに成長することについてどのような思いを抱かれますか?
何人も中学生が目の前に現れていますが、自然経過ではこういうものかなと感じています。
沖縄の子供たちは術前に少なくとも半年は見ています。経過中改善していく児もいますがとても少ないです。でも多くは伸びても結局手術という児が多いですよ。
これまで1例だけは本当に手術しないで良かったと思う子がいました。
1万人というのは、今のまま推移すれば、全国で年間100人足らずしか治療していませんから、99%が放置されていることになります。もっと早く一般的になってくれないかと思う毎日です。

:そう願っていらっしゃる先生にとって、軽度三角頭蓋とは何でしょうか?
40台半ば迄大学のacademic positionにいてたくさんの論文を書いてきましたが、軽度三角頭蓋はその中でも私に与えられた一番重要な課題となっています。
現役終盤に与えられた課題として、荷が重いかなと感じる時も正直あります。
:ご苦労が偲ばれますが、発達障害児の親として、また少しでも事情に関わった者として、この疾患と治療の今後について気になります。ぜひ展望をお聞かせ下さい。希望でも構いません。
臨床症状については、自閉や多動を国際基準で評価すること、脳の代謝や血流についてPETを用いて調べる事、遺伝子の研究などなど、やることは山ほど有ります。研究費が欲しいですね。
:確かに伺っていると、今後そのような多方面・多分野からの研究が成されて欲しいと思ってしまいます。

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:それでは最後に、我々のHPを訪れる方々に対して何か伝えたいメッセージがありましたら、どうぞお願いします。
私が何時も思っているのは、次のようなことです。
・何らかの臨床症状を持っている子供の頭の形が、軽度三角頭蓋である。
・それにより前頭葉が圧迫されている、頭蓋内圧も高い、脳血流もある程度傷害されているようだ。
・その悪い環境を取り除いてやると90%以上の児の症状がある程度軽くなった。
  このような臨床家としての最も基本をやっているという意識です。
EBMが無いから私は手術しませんとよく聞きます。レベルの高いEBMに到達するには何十年もかかるのが普通でしょう。                                           EBMはたくさんの人々が関わって出来上がるもので、私一人で出来るものではないでしょう。
:わたしどもも、先生がおっしゃるところのエビデンスこそを大勢の目と手を通して見つけて欲しいと切望しているところです。おそらく関心を持つ人の多くは、そう感じているのではないでしょうか。
:下地先生の今回のお話になった内容について、色々意見が寄せられることも考えられますが、出来れば耳を傾けて頂き、今後に活かして頂けたらと僭越ながら思います。
今回は、お忙しい中をご協力下さいましてありがとうございました。

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《インタビュー後記》

下地医師は、こちらの失礼にも思える質問にも快く非常に熱心に語って下さいました。
印象深いのは、研究をしたくてもマンパワーの問題や現実として費用の問題が   クリアにならず、その部分で大きくジレンマを感じていらっしゃった点です。
全体として感じたのは、下地医師は、軽度三角頭蓋との出会いを幸運と捉え、   多くの子ども達を救うことだけに情熱を傾けていることに偽りはないだろうということです。
ただし、世間一般の評価について、甘んじて受け入れるという姿勢はお持ちでしたが、具体的な計画についてはまだまだ課題が多いのでは?とも思わされました。
今ある下地医師への評価が正当なものか、あるいは不当なものかどうかについては、今はまだ誰にもわからないと思います。
それでも、下地医師自身が目指す医療についてと、EBM実現の為へ
の姿勢は、    メスを置くおよそ三年後までは決して揺るがないだろうと感じました。

最終更新:2006年01月13日 01:47