「偽善者さん」(2006/08/16 (水) 00:38:44) の最新版変更点
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「な、なんでもないよっ」
いきなりのことに私はあわてて取り繕ったが、いかにもなにかありますというのがばればれだった。
ぎぜんしゃ「………」
ぎぜんしゃさんの鋭い、射抜かれるような視線を浴びさせられ、私は何も言うことができなくなってしまった。
ぎぜんしゃ「なんでもないなら、そんな顔しない」
私の顔をじっと見つめたまま、そう断言した。
「………」
ぎぜんしゃ「さっきまでのあなた、いや、今もあなたも、ひどく辛そうな顔をしている」
無言の私にまた話しかけてくる。
その目は確かに厳しいような色もあるけど、それ以上に、その奥にある優しい色のほうの色に吸い込まれそうになった。
触れただけで痛くなってしまう場所を取り出されたけど、それを優しく包んで和らげてくれるような、そんな感じ。
ぎぜんしゃさんなら、話してもいいかもしれない。
ふと、そう思った。
それは何となく、本当に何となくだけど、
一瞬、彼女の姿に私がダブったから。
そこには言葉ではうまく言い表せないけれど、勘違いじゃすまない「何か」があった。
「ここじゃ、話せないよ」
ぎぜんしゃ「じゃあ、屋上で」
「屋上にはゆうや君と日和ちゃんが」
「じゃあ視聴覚室、きっと誰もいないわ」
と、私の手をとって歩き出した。
なぜか大きく見える背中を見て、彼女は私よりもずっと強いんだろうな、とか思った。
視聴覚室についてから、私はぎぜんしゃさんにすべてを話した。
男君に告白したときの話。
日和ちゃんとの事。
自分が辛いと思っていること。
そして、男君への告白をやめようかと思っていること。
ぎぜんしゃさんは一言も口を挟まずに話を聞いてくれたので、すごく話がしやすかった。
すべての話が終わるとぎぜんしゃさんは、
ぎぜんしゃ「私も、日和さんに同意。応援するわ」
といった。
「え?」
私の心の中では、もうすでに諦めてしまっていたので、あせってしまった。
そんな私を見て微笑んで、
ぎぜんしゃ「1人の応援じゃ足りないのなら、私のも足して」
「で、でも、男君にはクーちゃんも、ヒーちゃんも、狂うちゃんも、シューちゃんも、ツンちゃんもいるし」
ぎぜんしゃ「でも、その中にあなたはいないじゃない」
「でも、でも、私なんかじゃ………」
ぎぜんしゃ「荒鷹ぁ!」
ガシィ!
そう弱気なことを言った瞬間、私はぎぜんしゃさんにものすごい力で掴まれた。
その行動と、何より、いきなりの性格の豹変で私は絶句してしまった。
そして今のぎぜんしゃさんの視線。
厳しさだけで、優しさなんてかけらも入っていなかった。
ぎせんしゃ「いい?良く聞いて!」
ぎせんしゃ「男君はまだ誰とも付き合っていない」
ぎせんしゃ「あなただって付き合える可能性はあるのよ!」
ぎせんしゃ「それなのにあなたはなんで」
ぎせんしゃ「自分からその可能性を捨ててしまうようなことをするの!」
ぎぜんしゃ「あなたは男君があなた以外のほかの特定の1人の女の子と付き合っているのを見て」
ぎぜんしゃ「またあなたは今日のことを後悔するんじゃないの!?」
「!?」
まるで言葉がすべて私に刃を向けたような羅列。
私はなすすべもなく、その刃に切り刻まれた。
切り刻まれた私の視界は、静かにブラックアウトした………。
気づいたら、私は保健室にいた。
そして隣には、ぎぜんしゃさんがいた。
ぎぜんしゃ「ごめん、私、ひどいこと言った………」
ぎぜんしゃさんは、さっきまでの様子がうそのようにうなだれていた。
「ううん、気にしないで、全部私が悪いんだから………」
私も謝罪した。
彼女の言うことはすべて正しい。
ただちょっと耐性がなかったから、強すぎたために倒れてしまっただけだ。
本当に、ちょっとだけ運が悪かっただけ。
ぎぜんしゃ「じゃあ、さ」
ぎぜんしゃ「仲直り、してくれる?」
「うん、こちらこそ、お願いします」
お互いに顔を見合わせて、プッ、と噴き出した。
なんだかおかしくて、二人とも笑いあった。
ちょっと恥ずかしがりながら、笑いあった。
「そういえば、今何時間目?」
そう聞くと、5時間目と6時間目の間だよ、と、ぎぜんしゃさんは答えた。
「じゃあいかなきゃ」
と言うと、
ぎぜんしゃ「まだ休んでて」
と静かに私の布団を押した。
ぎぜんしゃ「考えなきゃいけないこと、あるでしょ?」
そういって微笑んだぎぜんしゃさんは女から見てもすごく可愛くて、きっとこの人がライバルになったらかなわないな、と思った。
じゃあ授業があるから、と、背中を向けたぎぜんしゃさんに対して私は、待って、と引き止めた。
「どうしても聞きたいことがあるの」
ぎぜんしゃ「なあに?時間がないから早くしてね」
振り返らずに背中を向けるぎぜんしゃさんに、私は一息ついて、こう言った。
「どうして、私にこんなに良くしてくれるんですか?」
あまり話したことのなかった私に対して、ここまでしてくれる理由。
それがわからなかった。
ぎぜんしゃさんは振りかえって、微笑んで、こう言った。
ぎぜんしゃ「偽善。ただの偽善」
じゃあね、と、いってしまうぎぜんしゃさんに私は追いすがるように、声をかけた。
「たとえそれが偽善だと思っていても」
「私はすごく救われたよ!」
「あなたの思っている、偽善と言うのは」
「私はすごいと思う!」
ガララッ、ピシャ。
私の言葉が届いたかどうかはわかんないけど、「ありがとう」って声が、私には聞こえたような気がした。
放課後、私は屋上にいた。
6時間目の終わるちょっとだけ前に保健室から抜けだして、男君の下駄箱に手がみを入れておいた。
「話したいことがありますから、放課後、屋上に来てください。荒鷹」
名前を書いたのは、自分なりのけじめ。
もう、逃げない。そう決めたから。
私には、2人からもらった力がある。
なぜか迷いはなくて、きれいな青空を楽しむ余裕すらあった。
ガチャリ
ドアが開いた。
そこにいたのは---
男「や、やあ、こんにち荒鷹さん」
私の、好きな人だった。
「こんにちは、男君」
うわ私、なんか冷静じゃない?
まるで他人事のように、自分自身が変わったことを自覚した。
男「か、体はもう大丈夫?」
「大丈夫。優しいね」
男「いや、優しいというか、普通のことだろ、これは」
それが普通と思えるから、やっぱり男君は素敵な人。
男「で、さ」
「うん」
男「話って、なに?」
---きた。
この瞬間は、きっと、私の人生の転機点になる。
そして、どんな結果になろうとも、私は変われたというこの記念日を生涯忘れることはないだろう。
「私は」
………日和ちゃん
「私は」
………ぎぜんしゃさん
「私はぁっ!」
スーッと、唐突に涙が流れてきた。
この涙は、うれし涙。
ここまで来れた事の、自分自身への賞状みたいなもの。
でもまだ、賞品を手に入れてない。
こんなところで泣いてる暇は
男「ど、どうしたんだ荒鷹さん?体、本当に大丈夫なのか?」
ねえ、男君、どうしてそんなに優しいの?
本当に優しすぎて、今にもあなたの胸の飛び込みたいよ。
でも、1つだけ、
優しくないところがあるよ?
「さんって、つけないでよ」
男「え?」
涙を流したまま---
「もう見てるだけのは、嫌だから」
あふれ出た想いが、言葉になっていく---
「私も、側にいたい」
ねえ、受け取ったかな---
「あなたが、好きです」
私の想い---
時が、止まったような気がした。
と、思ったのは本当に一瞬だった。
ヒート「男ォォォ!!!もう我慢できないィィィィィ!!!!!!」
ツン「こらぁ!でちゃいけないって言われてたでしょ!」
クール「いや、もはやここまできたら開き直るしかないだろう」
狂う「今日のイライラは、惨殺何人分かしらねぇ………(クスクス」
シュール「ピシッ!パシッ!(男に米を投げつけている。)」
男「うわ何をするやめ(ry」
と、いつもそろっている5人組がドアから男に向かって突進してきた。
そしてまた、大騒ぎが始まった。
私も近くにいるのに、なぜか取り残されている気がしてポツンとしていると、ドアのところにゆうや君と日和ちゃんがいるのを発見した。
そして日和ちゃんは笑いながら、あのパンツの見えてしまう不器用な「あらぶるたかのぽ~ず~」をした。
また少しゆうや君が赤面していたけど、視線はしっかりと私に向いていた。
ああ、そうか。今、やっとわかった。
私はもう、男君の周りの輪の中に入っていいんだ。
ここにいる6人は、みんな想いは伝えた。
あとは、男君が誰を選ぶかだけなんだ。
もしかしたら誰も選ばれないかもしれないけど、男君のまんざらでもなさそうな顔から見ると、それはないと思う。
やっと、同じ舞台で戦えるんだ。
これからは、今回とはまた違うような大変なことがたくさんあるだろう。
でも、もう大丈夫。
だって男君のことに関しては、もう誰にも遠慮はしないし、自分を偽ることもない。
幸せ、掴むために。
ただ、その前に、
ありったけの感謝や気持ちをこめて、
ヘ○ヘ
|∧
/
日和ちゃんに、「あらぶるたかのぽ~ず~」そっくりの、不器用な、でもこれからの私を表すような、「荒ぶる鷹のポーズ」を返した。
「おめでとう」
彼女はみんなの死角になるような柱の陰に隠れていた。
荒鷹さんの幸せそうな笑顔。
それを見ているだけで、彼女は、ああ、良かった、と心から祝福していた。
しかし、すぐにはっと何かに気づいたような顔をして、
「うん、これは偽善。偽善」
そう、誰かに伝えることのない言葉をつむぎだした。
そして胸ポケットから小さなノートを取り出して、器用にすらすらと文章を書いた。
「○月×日、荒鷹さんが幸せになった。できるなら、これからもずっと」
書き終えると、一番後ろにはさんである写真を見る。
そこには、小さな彼女と、同じく小さな男の子。
互いの手はしっかりつながれていて、女の子の左手の薬指には、おもちゃの指輪が。
それを見る彼女の目はとてもやさしくて---
「うん、そうだ。これでよかったんだ」
何かを吹っ切るように少し勢いをつけてノートを閉じて、胸ポケットに戻した。
「少し、眠ろうかな………」
また誰にも伝わることない言葉をつむいで、彼女は眠りはじめた。
子守唄は、男と、その周りのいつもの5人と、今日入った1人、計7人の、当分終わらないであろう大騒ぎをチョイスして。
胸ポケットから少し出てしまったノートの表紙に書かれている文字は「偽善」
けれどなぜか「偽」の文字には、まだ新しい修正液のあとがあった。
そして、新しく書かれたであろう「偽」と言う文字は、なぜか人べんと為の部分が少し離れていて、
人によってはそれを
「人」の「為」の「善」
と読めてしまうのは、偶然ではないだろう---
FIN
「な、なんでもないよっ」
いきなりのことに私はあわてて取り繕ったが、いかにもなにかありますというのがばればれだった。
ぎぜんしゃ「………」
ぎぜんしゃさんの鋭い、射抜かれるような視線を浴びさせられ、私は何も言うことができなくなってしまった。
ぎぜんしゃ「なんでもないなら、そんな顔しない」
私の顔をじっと見つめたまま、そう断言した。
「………」
ぎぜんしゃ「さっきまでのあなた、いや、今もあなたも、ひどく辛そうな顔をしている」
無言の私にまた話しかけてくる。
その目は確かに厳しいような色もあるけど、それ以上に、その奥にある優しい色のほうの色に吸い込まれそうになった。
触れただけで痛くなってしまう場所を取り出されたけど、それを優しく包んで和らげてくれるような、そんな感じ。
ぎぜんしゃさんなら、話してもいいかもしれない。
ふと、そう思った。
それは何となく、本当に何となくだけど、
一瞬、彼女の姿に私がダブったから。
そこには言葉ではうまく言い表せないけれど、勘違いじゃすまない「何か」があった。
「ここじゃ、話せないよ」
ぎぜんしゃ「じゃあ、屋上で」
「屋上にはゆうや君と日和ちゃんが」
「じゃあ視聴覚室、きっと誰もいないわ」
と、私の手をとって歩き出した。
なぜか大きく見える背中を見て、彼女は私よりもずっと強いんだろうな、とか思った。
視聴覚室についてから、私はぎぜんしゃさんにすべてを話した。
男君に告白したときの話。
日和ちゃんとの事。
自分が辛いと思っていること。
そして、男君への告白をやめようかと思っていること。
ぎぜんしゃさんは一言も口を挟まずに話を聞いてくれたので、すごく話がしやすかった。
すべての話が終わるとぎぜんしゃさんは、
ぎぜんしゃ「私も、日和さんに同意。応援するわ」
といった。
「え?」
私の心の中では、もうすでに諦めてしまっていたので、あせってしまった。
そんな私を見て微笑んで、
ぎぜんしゃ「1人の応援じゃ足りないのなら、私のも足して」
「で、でも、男君にはクーちゃんも、ヒーちゃんも、狂うちゃんも、シューちゃんも、ツンちゃんもいるし」
ぎぜんしゃ「でも、その中にあなたはいないじゃない」
「でも、でも、私なんかじゃ………」
ぎぜんしゃ「荒鷹ぁ!」
ガシィ!
そう弱気なことを言った瞬間、私はぎぜんしゃさんにものすごい力で掴まれた。
その行動と、何より、いきなりの性格の豹変で私は絶句してしまった。
そして今のぎぜんしゃさんの視線。
厳しさだけで、優しさなんてかけらも入っていなかった。
ぎせんしゃ「いい?良く聞いて!」
ぎせんしゃ「男君はまだ誰とも付き合っていない」
ぎせんしゃ「あなただって付き合える可能性はあるのよ!」
ぎせんしゃ「それなのにあなたはなんで」
ぎせんしゃ「自分からその可能性を捨ててしまうようなことをするの!」
ぎぜんしゃ「あなたは男君があなた以外のほかの特定の1人の女の子と付き合っているのを見て」
ぎぜんしゃ「またあなたは今日のことを後悔するんじゃないの!?」
「!?」
まるで言葉がすべて私に刃を向けたような羅列。
私はなすすべもなく、その刃に切り刻まれた。
切り刻まれた私の視界は、静かにブラックアウトした………。
気づいたら、私は保健室にいた。
そして隣には、ぎぜんしゃさんがいた。
ぎぜんしゃ「ごめん、私、ひどいこと言った………」
ぎぜんしゃさんは、さっきまでの様子がうそのようにうなだれていた。
「ううん、気にしないで、全部私が悪いんだから………」
私も謝罪した。
彼女の言うことはすべて正しい。
ただちょっと耐性がなかったから、強すぎたために倒れてしまっただけだ。
本当に、ちょっとだけ運が悪かっただけ。
ぎぜんしゃ「じゃあ、さ」
ぎぜんしゃ「仲直り、してくれる?」
「うん、こちらこそ、お願いします」
お互いに顔を見合わせて、プッ、と噴き出した。
なんだかおかしくて、二人とも笑いあった。
ちょっと恥ずかしがりながら、笑いあった。
「そういえば、今何時間目?」
そう聞くと、5時間目と6時間目の間だよ、と、ぎぜんしゃさんは答えた。
「じゃあいかなきゃ」
と言うと、
ぎぜんしゃ「まだ休んでて」
と静かに私の布団を押した。
ぎぜんしゃ「考えなきゃいけないこと、あるでしょ?」
そういって微笑んだぎぜんしゃさんは女から見てもすごく可愛くて、きっとこの人がライバルになったらかなわないな、と思った。
じゃあ授業があるから、と、背中を向けたぎぜんしゃさんに対して私は、待って、と引き止めた。
「どうしても聞きたいことがあるの」
ぎぜんしゃ「なあに?時間がないから早くしてね」
振り返らずに背中を向けるぎぜんしゃさんに、私は一息ついて、こう言った。
「どうして、私にこんなに良くしてくれるんですか?」
あまり話したことのなかった私に対して、ここまでしてくれる理由。
それがわからなかった。
ぎぜんしゃさんは振りかえって、微笑んで、こう言った。
ぎぜんしゃ「偽善。ただの偽善」
じゃあね、と、いってしまうぎぜんしゃさんに私は追いすがるように、声をかけた。
「たとえそれが偽善だと思っていても」
「私はすごく救われたよ!」
「あなたの思っている、偽善と言うのは」
「私はすごいと思う!」
ガララッ、ピシャ。
私の言葉が届いたかどうかはわかんないけど、「ありがとう」って声が、私には聞こえたような気がした。
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