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ツンサメ長編」(2006/08/17 (木) 17:47:41) の最新版変更点

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朝の空港は、夏の朝らしい気温を保っていた。 早朝にも関わらず、会社員と思われるスーツの人達が、カウンターの前に行列を作り上げている。 「………」 少しばかり早かったのかな、と言ったのは父親だったか。まだ時間まで大分余裕がある。 イスに腰掛けてテレビに映る朝のニュースを眺めている少女は、少しばかり回想に耽っていた。 (……これで、よかったのよね) 話は、1週間前に遡る。 ---- 「……海外赴任?」 家族で食卓を囲んでいたとき、父親がそう切り出してきた。 「ああ、仕事の関係でカナダの方にな。急ですまないとは思うが、決定事項なんだ。」 「カナダ……」 「ツンサメちゃん、急といっても一週間あるのよ。その間にクラスの友達だけでも挨拶したらどう?」 「……考えとく」 ご馳走様、と箸を茶碗の上に置き、自分の部屋へ戻っていった。 (……挨拶、か) ベットの上で、どこか無気力な目をしながら天井を見上げていた。 (……別に、ね……) ゴロンと体転がし、枕に顔を埋めた。 視界も心も、どこか暗くなっていった。   「Zzz……ぁあ、おはようツンサメちゃん」 「……おはよう」 翌朝の学校でそう挨拶してきたのは、友達の低血だった。 どこか大人びた容貌を感じさせるのだが、いつも眠そうなのが玉にキズである。 「……少し元気なさそうだけど、何かあったの?」 「……気のせい」 素っ気無く返事をして、自分の席に着いた 「男ぉぉぉぉぉぉ!!!なんで私を置いていったぁぁぁぁぁ!!!」 「10分も遅れたら遅刻だろ」 「ふんっ!遅れてくるほうが悪いのよ!べ、別に待ってあげようとかは言ってないんだからね!」 「ふむ、現代社会において朝の10分というのは命よりも貴重というからな。いや、私は命よりも男派だぞ」 「ふえぇ、私はちゃんと時間通りに来たのに置いてかれ……あれぇ~?時計の長針がないよ~?」 段々と人が集まってきたようだ。朝の教室の静けさは徐々に破られつつある。 (……挨拶か) そんな事とは正反対に、自分の周りだけ静寂を保っている席があった。 (……私は人とそんなに話しないし、どうせ皆どうでもいいって思ってる……) だったら最初から言わなければいい、そうすれば別になんともない。自分も相手も。 心のどこかにもやもやとしたものを感じつつ、そう心に決めた。 「……ツンサメちゃん、ホントに何かあるんじゃないの?話だけでも聞くよ」 いつの間にか近づいてきた低血に、そう声を掛けられた。 (……低血ちゃんなら、別にいいかな) ゆっくりと重たい口を開き、その理由について淡々と述べていった。 「成程ね、父親の海外赴任、か……」 少し遠い目をしながら、話を聞き終わってそう呟いた。 しかし、すぐに疑問の色を見せ 「……なんで、皆に言わないの?」 「……私はそんなに皆と親しくないし、それに、嫌な雰囲気にさせるだけだから」 「どうせ先生の口から言うんだよ? それでも本当にそれでいいの?」 「……いい」 そう言ったのを最後に、少女はただの人形と化した。 こちらも見るところ打つ手なしと判断し、自分の席へ戻っていった。 (……最後くらい、素直になってもいいのに。   それに、皆はあなたのこと、ちゃんと見てるわよ) 机に突っ伏しながら、去りゆく友を心配してると、ある考えが浮かんだ。 (……そうよね。最後くらい、ね) そして、授業開始のチャイムを合図に、深い眠りの海へ潜っていった。 「……ただいま」 「あらお帰り、友達に挨拶済んだ?」 「……一応」 心の中でだけど、と口に出さず、制服を着替え始めた。 「まぁ、後六日間あるんだから、ゆっくりと友達全員を回ればいいわ」 「……夕食まで本読んでる」 早々と制服を着替え終わり、部屋の中へ入っていった。 (……友達って呼べる人には、もう終わった) 手に持ってるSF小説の文字も目に入らず、ただ空間だけを見つめていた。 (……低血ちゃん、呼んだら空港まで来てくれるかな) ページをめくる音は、1回もしなかった。 「──うん、うん。 そう、ありがとね」 ピッ、と聞きなれた電子音をたてて、携帯の通話を終えた。 (これで、こっちの準備は終わり。 あとは……) 明日ね、とだけ呟いたところで、ベットの睡魔に引き込まれた。 やっぱり、一週間なんてあっという間だ。 そんな大人びた事を思いながら、いつものように部屋で読書をしている。 (……これでいい。明日、ひっそりと行けばいい) この一週間で大きなことは何もなかった。 低血ちゃんは何だかいつもより眠そうだったし、クラスの雰囲気も少し違ったように思えたけど、 結局大したこともなく、時は進んでいた。 (……時と場所は言ったし、低血ちゃん来るかな……) 考えているうちに荷物をまとめ終わり、早々と寝ることにした。 時間は少し戻り、その日の夕方のことである。 畳の上で茶を飲んでいた初老の老人は、突然の若い来訪者に少しばかり驚いていた。 「……お爺様、久しぶりです」 「おお、低血ちゃんか。随分と大きいなったもんじゃ」 「ええ、もう高校生ですから。 ところで、少しばかり無理な頼み事をしてもよろしいですか?」 「そんな堅苦しくなくていいんじゃよ。 して、何かな?」 「……お爺様の会社の、とある社員についてです」 ---- 〝───時より、カナダ行きの便にご搭乗のお客様は──〝 アナウンスが、空港内に響いた。 「……まだ時間に余裕はあるけど、もう出発しよう」 「ええ、そうしましょう。……ほら、ツンサメちゃん」 結局、低血ちゃんも来てくれなかった。 (……そうよね、やっぱり私は……) 「……分かった」 そう言って、いつもよりさらに遅い足取りで、両親の元へ歩み寄った。 そして、空港の入り口へ背を向けて歩き始めて── 「……はぁっ!はっ、つ、ツンサメちゃーん!」 ──停止した。 「……はぁっ、はぁ、やっぱり、走るのは、はぁっ、苦手だ……」 「……低血ちゃん?」 信じられなさそうに振り返り、肩で息をしている友へ歩み寄った。 「……お、遅れてごめんね。ちょっと、混んでて、ね」 「……来てくれたの」 と、そこで振り返って両親の顔を見た。 それを見た二人は、何かを悟ったようだ。 「……まだ時間はあるから、ゆっくりするといい」 父はそう行って歩き始めた。 母は、走ってきた友を見て若干複雑そうな顔をしながら、一礼して父の後を追った。 「……来てくれてありがとう」 「当たり前よ、約束したもの」 「……一人だけでも、私は十分───」 「うぉぉぉぉぉぉ!!!!遅れたぁぁぁぁぁ!!!」 だよ、と続けようとしたの、突然の大声によって遮られた。 「うるせえよ、公共の場なんだから静かにしろ」 「ふむ、どうやら間に合ったようだな。本当に遅れたらどうしようかと思っていた」 「拙者、タクシーというものはよく存じぬが、流石に一台に7人は無茶だと思うのでござる」 「う”あぁ゛ん、急ブレーギで腕とれだあ゛ぁ……」 「ふ、ふんっ!別にあんたの為に来たわけじゃないわよ!たまたま暇だったんだからね! ぞろぞろと、クラスメイトが集まってきた。 「……皆、何で私に?」 「……ツンサメちゃん、あなた、皆に好かれてないって行ったわよね?」 でもそれは間違ってるわね、と続けてながら顔を上げて、皆の方へ振り返った。 そこには、クラスメイトのほとんどの顔が並んでいる。 「……そして、これが正解よ」 「……ツンサメにも、あんな友達がいたんだな。 でも……」 隣を歩いていた夫がそう言って俯いていくのが分かった。 その目には、後悔の色が浮かんでいる。 「……ねぇあなた、やっぱり海外赴任なんて断ったら?あの子のためじゃない」 「……もう遅いさ。それに会社の上の方が決めたことだしな……」 「……高校生になって、やっとあの子に友達ができたのよ。 でも、それを私達の都合で……」 「……」 少しばかり沈黙が続いた後だった。 プルルルルッ、プルルルルッ ポケットの中の携帯電話が、沈黙を紛らわすように音を立てた。 「……会社の奴からか? 最後の挨拶でもしにきたのかな」 だが、携帯電話のサブディスプレイに表示されていたのは”非通知”の三文字だった。 「……?誰だ?」 この番号を知っているということは、会社のやつに違いないだろう。 そう思って、通話ボタンを押した。 「はいもしもし」 『おお、突然の電話すまんな。』 相手は、少し年季の入った声をだった。 『まだ飛行機の出発時間は大丈夫じゃろう。早速だが、君に報告することがある』 「……あの、どなたですか?」 『おお、そうじゃった、スマンスマン。 ワシの名は────じゃ』 「……ん?その名前、どこかで聞いたような」 と、数秒間黙った後、やがて、ハッとしように目を見開き ───危うく、携帯を落としかけた。 ──そうじゃなかったんだ。 自分は、ちゃんとクラスメイトの一員で、 こんなに、人が来てくれて…… 「全く、どうして黙ってたんだ。我々に気を使うと思ったら、大間違いだぞ」 「そうよっ!勝手に一人で思い込まないでよねっ!」 「一人でこっそりっすかww寂しいっすよwww」 「見送りくらい、全員でさせろよな」 「……みんな……」 そして、集まった全員が、口々に別れの言葉を告げてきた。 別れを惜しむ者、元気づける者、向こうでの安否を願う者。 全員の目が、心の底からそう言っているのが分かった。 「……みんな……ありがとう」 「ふぇぇ、悲しいよぉ」 「……私は透明だけど、今私も泣いてるわよ……」 「……拙者も悲しいでござる」 「みんな泣くなぁぁぁぁぁぁぁ!!笑って見送りやがれぇぇぇぇぇ!!」 「涙目で言っても効果ないぞ。 ……向こうに行っても、ちゃんとやれよ?」 「……うん」 私には、こんな人達がいてくれた。 それだけで十分だった。 きっと向こうに行っても、皆との思い出があれば大丈夫だろう。 「……それじゃ、皆。今まで本当に──」 「おーーい!! ツンサメー!!」 遠くで、こちらに走ってくる父の声が聞こえた。 「……父さん?どうしたの?」 「はっ、はぁっ、ツンサメぇ。 ……カナダに、行かなく、ても、はぁっ、よくなった、ぞ……」 「……えっ?」 「……急に、会社の会長から電話がかかってきたんだ。海外へは、別の奴に行ってもらうって……」 「……本当、なの?」 「ああ!だから、もう心配しなくていいぞ!ここにいてもいいんだ!」 少しの間放心していると。やがて父親はゆっくりと肩を叩き、後ろの方を指差した。 その指に導かれるように振り返った。 「……いっ」 「「「「「 ぃやっったぁぁぁぁぁ!!!!! 」」」」」 空港に、歓声が巻き起こった。 ──どうやら、間に合ったみたいだね。ありがとうお爺ちゃん 少女は、集団の輪の中でもみくちゃにされている少女をみて、そう微笑んだ。 「……なんで、急に変更されたんだ? いや、それよりなんで会長が俺みたいな社員を直々に?」 どこか呆然としている夫を、妻は笑いながら、 「まあ、いいじゃないですか。今は、あの子の事を見守りましょう」 と、微笑みながらそう言った。 「……そうだな。」 「……それに、よく見ればあの子嬉しそうじゃありませんか。あんな顔は、始めてみましたよ」 「……ああ。……本当に、そうだな」 「うぉぉぉぉぉ!!!よかったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 「ふぇぇぇぇん! 嬉しいよぉぉぉぉ」 「全くだ、神様でも信じてみるもんだな」 「……拙者も、仏様を少しは信じるようになったでござる」 「う゛えぇぇえ゛ぇん、泣きすぎて腕どれたぁぁあ゛」 「ふんっ!あたしは損した気分よ! べ、別に嬉しくなんてないんだからっ!」 様々な声が聞こえる輪の中から、一人の少女が顔を出した。 「……よかったね、ツンサメちゃん」 「………うんっ……うんっ!」 決して流すまいと決めていた感情は、止めれなかった。 空港の窓からは、いつの間にか朝日が昇っていた。 それは、彼女たちを祝福するかのように、明るく、やさしい太陽だった。 ───いつの間にか、ツンサメは、自然に笑うようになっていた。                心の底から、笑えるようになっていた───
-[[転校 編]] -[[ちょいとエロいお話(注意)]]

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