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あの丘へ

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匿名ユーザー

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  • 現在 PM:20:40 中庭

鯨 「ほれ・・・見えて来たのぅ・・・あそこでいいんじゃろ?」

中庭から校舎横を歩いていくうちに木が見えてくる

鮫子 「ええ・・・あそこまで」
鯨 「ここからは二人で行けぃ」

そう呟くと鯨は三人を肩から下ろす

鮫子 「え?あそこまで一緒に」
鯨 「駄目じゃ、小僧・・・どこまで覚えておる?」
彼 「あ・・・くうっ・・・く・・くじら」

既に胴回りから胸までも消えかかってる彼は苦しげに呟く

鯨 「ほぅれ、用は新しい情報が入ると、それと一緒に古い記憶も消えて行くんじゃ」
鯱 「・・・いっしょにいると・・・だめ、いらないちちきはいっちゃう」
鮫子「でも!彼はお父さんや鯱子の事も今は」

鯨 「鮫子・・・」
鮫子「え」

ぐわしぐわしと鮫子の頭を撫でる


  • 現在 PM:20:42 中庭~体育館横

鮫子「な・・・何よ」
鯨 「夕飯はキムチ鍋じゃ、どうせ食わないじゃろ?ワシが食っておく」
鮫子「はぁ?」
鯨 「ゆっくりしてこい」

そう言うと鯨は背中を向け、歩きだす

鯱子「・・・おにいちゃむ」

鯱子は彼の袖口を引っ張る、少し泣きそうに、そして微笑みながら

鯱子「あちしのこと、わすれていいから。おねえちゃむのこと」

彼は無表情で呟く
彼 「絶対に忘れないよ。鮫子の事も鯱子ちゃんの事も・・・くじ」

ぱかーん

彼の顔面にバケツが直撃する

鯨 「さっさと行かんかぁ!このへたれええええ!!!」

彼は泣きそうに、そして無表情に口を妙に歪ませながら

彼 「ごめんね、鯱子ちゃん、お兄ちゃん本当はもう笑い方も忘れちゃったんだ
   でも今、鯱子ちゃんに教えてもらったぜ」

鯱子「・・・ぶちゃいく・・・・・・ばいばい」


  • 現在 PM:20:45 中庭~体育館横

鯨 「やっと行きおったか・・・まったくあの二人は」
鯱子「・・・」
鯨 「・・・鯱子、えらかったぞ」
鯱子「ぐしゅ」

大きな鯨の手が優しく鯱子の頭を撫でる

鯨 「あ、そういえば・・・二人どうしても彼氏に話がしたいとかいう学生がおったな」
鯱子「・・・いってない」
鯨 「がっはっはっは!忘れておったわい!!」
すると後ろからまた黒い闇がぞわぞわ近づいてくる
鯨は振り向きまっすぐ見据える

鯨 「さて、終わらせて母さんの夕飯の時間じゃあああ!!」
鯱子「おう」
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鮫子はまた彼を背負い、長い丘のまでの道を走り出す
少し休憩を取ったとはいえ、やはり疲労はある、足取りは重い
その時、横の茂みからがさりと音がする

鮫子「・・・何・・・来るの!?」
ツンバカ「ち・・・違うよ!!噛まないで!!」
友 「・・・」
無言で立ちすくむ友は鮫子と目が合った瞬間
急にかがみ込み、土下座したのだった


  • 現在 PM:20:47 体育館横階段踊り場

鮫子「ど・・・どうしたのよ?」
友 「頼む・・・最後に彼と話をさせてくれ・・・親友なんだ」
ツンバカ「わ・・・私は!その・・・一言言いたくって・・」

鮫子の背中の彼が呟く、視力も失い聴力も弱まってるようだった

友 「事情は重々承知している!!だけど・・・一言でもいいんだ」

初めて見る友の真剣な眼差し。鮫子は肩口の彼の耳元で呟く

鮫子「・・・友くん。覚えてる?」
彼 「・・・友・・・か?」
友 「覚えてるのか!!」

彼 「・・・声が遠い・・・でも覚えてるぞ」
友 「この、馬鹿野郎・・・なんで逝きやがるんだ!もっと色々遊びたかったんだぞ!!」
彼 「すまない」
友 「謝るな!この馬鹿!!絶交だ!お前みたいな野郎とは!忘れちまえ!」
彼 「友・・・」
友 「お前のような野郎は知らん!知らん!・・・ざっざといっぢま”え”!」


  • 現在 PM:20:48 体育館横階段踊り場

階段を飛ぶように走り去る友
それを悲しげに見送る彼

彼 「悲しいって感情もまだ無くなってないや、はは。良い奴だよ」
鮫子「そうね、いい人よ」

ツンバカ「・・・やい馬鹿彼氏」

ツンバカが彼氏の胸ぐらを掴む

鮫子「ちょっと・・・ツンバカ」
ツンバカ「鮫子は黙ってるの!!えっと・・・言いたいことは山のようよ!」
彼 「へ?」
ツンバカ「・・・鮫子を一杯泣かした・・・それだけでアンタみたいな男は大嫌いよ!」
鮫子「ツンバカ・・・」
ツンバカ「・・・いい人だったよ、彼氏さん。だからお願い」
彼 「・・・」
ツンバカ「鮫子の事、笑わせられるのも彼氏だけだったんだよ」
鮫子「・・・」

ツンバカ「お願い・・・鮫子忘れないでね・・・」

そう呟くとツンバカは俯いたまま振り向き走り去った


  • 現在 PM:20:50 体育館横階段踊り場

鮫子「・・・行くわよ」
彼氏「ああ・・・」
彼の姿がまた消えていく、残り後10分程度か
鮫子はおもむろに彼の制服の襟足に噛みつく

彼氏「ちょ・・・何を」
鮫子「うひゅひゃい!ひゃまっへなひゃい!!」

目の前に広がる新たな闇
もはや背負いながら抜けられないであろう故に、最後の賭けだった

 --------------
丘の上
古風「はい♪」 ぎゅるるるる
古風の麻縄が闇の中を縦横無尽に走り回る。「浅草の縛り牡丹」ここに有り

武士デレ「はぁっ!!」 ずばっ!武士の剣が闇を切り裂く

狂う「きゃははは♪素敵な世界・・・」しゅんしゅんしゅん
狂うの刃が踊るように世界を切っていく

殺人「消す消す消す消すっ!!!」 ざばざばざば
殺人の包丁もまた踊っていた

想いは一つ、鮫子の道を創る事だった

完結編----現在 PM:20:51 丘への階段

鮫子「ふあっ!!!」

鮫子の蹴りが闇を貫く、口元に彼氏の魂をくわえながら
掻きむしるように掌と爪でまた道を創っていく

鮫子「・・・」
彼氏「うわ・・・徐々にキレ始めてる・・・またアレか」
鮫子「・・・」

ぐしゃどびちゅべしゃぐしゃ

鮫子の着ているメイド服ももはやあちこち切れている
そして袖口には泥が付き、腹部も既に土まみれだった

鮫子「ぬふうううううう!!!!」

闇を抜け、又その向こうの闇に向かって走り続ける

??『ガガっ・・・ピー』

その時、体育館から大きな声、マイクを伝って声が聞こえた


  • 現在 PM:20:52 体育館~丘への階段

日下『ごめんなさい!!鮫子さん!私何も出来ないけど!!応援してるから!!
   そして彼氏さん!!鮫子さんを忘れないで!!』

日和『さめこー!がんばれー!かれしー!がんばれー!』

ツン『やい!この鮫子の男!鮫子忘れるんじゃないわよ!!』

渡辺『あれれ~電源入ってる?わわ、彼氏さん~!さめこちゃんみつめてないとだめだよ~』

優 『かれしさんーさめこさん忘れちゃ駄目だよー』

アホ『やい!この!根暗女!帰ってこないと・・・お前の分のアイス・・・くっちまうぞ
   んで根暗の彼氏!鮫子みたいな女忘れられないに決まってる!ふふん!』

ドロ『忘れたら!私が鮫子ちゃん!盗んじゃうから!忘れるなーー!!』
荒鷹『荒ぶる!鮫子への!想い!!』

プロ『その想いは・・・プライスレス!!』

軍師『鮫子!もはや考えるな!!彼氏もだ!!道はまっすぐだ!』
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彼氏「さ・・・めこ・・・」
鮫子(皆・・・)

体育館のマイクを伝って聞こえてくる仲間の想い
丘が見えてくる、もはや時間が無い


完結編----現在 PM:20:55 丘へ

闇の壁を越える
鮫子の爪も割れ、上着はズタボロにされ
スカートは既に切り裂かれたかのようにズタズタだった

彼氏の制服の襟足を噛みしめる口元は、口元からの血で真っ赤だった

丘の上

ここに闇は居ない

目の前に広がる草原の真ん中に立つ一本の木

足を引きずるように鮫子は歩きだした

彼氏「さめ・・・」

記憶は徐々に蝕まれている、既に彼氏の肩にまで崩壊は来ている

鮫子(走れ・・・走れ・・・私のあし・・・)


  • 現在 PM:20:56 丘へ

何時もはこんなに遠くないのに
鮫子は足を引きずりながら思う

彼氏「さ・・・め・・・こ」

鮫子はくわえていた襟足を離し、少なくなった彼の魂を抱きしめる

鮫子「ごめん・・・ね。ずっとあたしは素直じゃなかった・・・よね」
彼氏「は・・・あ・・・さめ」
鮫子「忘れないから、ずっと忘れないから!!お願い!!動いてぇ・・・あたしの体」

ずり・・・ずり・・・
膝から流れる血が止まらない

目眩がする吐き気もする
体のバランスが崩れ、前のめりに倒れるが鮫子は彼をかばい肩を思い切りぶつける

鮫子「くうっ!!・・・大丈夫?」
彼氏「あ・・・あ」

もはや言葉の認識すら無いのだろうか
ふと空を見ると、ヴァル姐がもの凄い早さでこちらへ向かってくる


  • 現在 PM:20:58 丘

鮫子「ヴァル・・・」
ヴァル「鮫子!!!立て!!!」

こちらへ空を翔ながらヴァル姐が叫ぶ
鮫子は歯を食いしばり、膝を立て口から血を流しながら立ち上がる

鮫子「ヴァルねぇーーー!!!」

ヴァル「鮫子ーーー!!!片方の手を伸ばせーーーーー!!!」

鮫子が宙に彼を抱きしめる手と反対の手を宙に捧げる
その瞬間ヴァルは鮫子の手を掴みそのまま空を走った

鮫子「ヴァル・・・これなら間に合」
ヴァル「駄目だ!!もう間に合わない!!天に帰す時間も無いのだ!!」
鮫子「そんな・・・じゃあ!じゃあ・・・彼は」
ヴァル「最後の手段だ・・・彼は・・・」

鮫子「彼は・・・?」
鮫子の長い髪の毛がばさばさと広がる

ヴァル「あの木と同化させる!!!」


  • 現在 PM:20:59 丘


鮫子「どういう事よ・・・それじゃ彼は!!!」
ヴァル「もうこれしか無いんだ!!彼が・・・今までの想いと魂を維持するには!」

彼の体は既に首まで崩壊は浸食しようとしている
もはや言葉すら理解してないようだ

ヴァル「今既に・・・彼が君の事を覚えているか・・・それすら判らない」
鮫子「そんな・・・」
ヴァル「だが・・・少なくとも無じゃない!ゼロじゃないんだ!!」
鮫子「・・・どうすれば・・・いい」

もの凄い低空飛行で木にどんどん近づく

ヴァル「このまま突っ込む、あの木までな!!!」
鮫子「・・・かまわないわ!行きなさい!!」

鮫子は残り少ない彼の魂をぎゅっと握りしめる
怖い、でももう

離さない。絶対に


  • 現在 PM:20:59:30 丘

ヴァル「・・・いいのか?!」

鮫子「かまわない!!私を途中で離して!!」

ヴァル「・・・叩きつけられるぞ!!」

速度はどんどん上がって行く

鮫子「さっさとしなさい!!この年増!!」
ヴァル「も!もう知らんぞ!!」

ヴァルが鮫子の体ごと思い切り木に向かい投げつける
鮫子は壊さぬよう離さぬように彼の魂をひしと抱きしめる

鮫子「素直に・・・ねぇ・・・」
彼氏「・・・」

木に叩きつけられるその一瞬の間際、鮫子は彼の耳元で囁く


鮫子「愛してるわ」



彼の口がかすかに動いた 


  • 現在 PM:21:30 丘の上の木の下

??「おい!!さめこ!!おい!!」
鮫子「あ・・・ああ」

全身が痛い、どこもかしこも壊れてしまったかのように

??「しかし・・・鮫子様、胸が大きいです。縛ればさぞかし」
??「状況を考えるでござる!!」
??「うふ・・・今は見逃してあげるけど・・・次こんな無防備なら」
??「殺っちゃう!!」

鮫子「う・・・あ・・・うるさいわよ」
ヴァル「無事か!!鮫子!!」
変古「あら♪目覚めました」
武士「良かった・・・」

 --------------
鮫子が木に叩きつけられるその間際
変古と武士、狂うと殺が身を挺して鮫子を守った

そして魂が木に叩きつけられ、木が思い切り光り、丘全体が揺れ
鮫子は既に意識を失っていた、との事

鮫子「ま!間に合ったの!!」
ヴァル「記憶のほうはわからん、だが・・・彼はここにいる」
鮫子「記憶は・・・あるわ、最後に呼んでくれたから・・・さめこって」

丘の上の木は優しく揺れている、涼しい風と共に

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