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Memento mori

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匿名ユーザー

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秋雨が傘に軽快なリズムを奏でる秋の事。男とクーは二人教室に残って、もうすぐ始まる中間テストの勉強をしていた。
カリカリとシャープペンがノートに暗号のような数字を羅列していき、静かな空間にはその音だけが残響する。
ふとクーが走らせていたペンを止めて、男の顔をまじまじと見つめてこう呟く。

クー「なぁ、男。『死』とは一体何なのだろうな?」
男 「…また返答に困る事を聞いてきたな。哲学者でも回答に多種多様な答えがあるから、
   それは一概には決めきれないんじゃないか?個人的には今の二次関数の解き方の方が気になるぞ」
クー「ん。そうだな。…スマン、少し気になっただけだ」

そう言って軽く眼を伏せる。どこか物憂げな雰囲気をかもし出す彼女は、何故だが危うい存在に感じた。

男 「なぁ、クー。何かあったのか?俺でよかったら少し話してみないか。
   解決出来るかどうかは分からないが、気持ちが少しは楽になれると思うぞ」
クー「優しいな、君は。こんな事を毎日考えているワケじゃないが、昨日たまたまテレビを見ていたら、
   余命わずかな子どものドキュメントが放送されていたんだ」
男 「もしかしてチャンネル、N○Kか?」
クー「ん。日本放送○会だ。もしかして君も見たのか?」
男 「…少しだけな。辛くて途中でザッピングしてしまったが」
クー「私は一応最後まで見た。最後はその子どもは死んでしまったよ。『死にたくない』と静かに呟いてな」
男 「そっか。その子への冥福を祈るよ」

少しだけ遠くを見て、静かに目を閉じる。淡々とした口調で素っ気無い態度だったが、誰かを忍ぶような顔で。
実は男もちゃんと最後までその番組を見ていて、少しだけ『死』について考えてみた。
誰にでも訪れて避けては通れない、這い寄るような静かな混沌。それが死ぬという概念。
だがその考察は十人十色で、考え方の類似はあれど人の数だけ答えがある。
命の答えは辿り着いた者にしか分からない。だが辿り着いたその時は、誰かに伝える事無く己は霧散していく。
だから、死の概念は何千年前から考察されているが完璧な解答が存在しない。
きっと、これからもこの問題においての完全解答者は現れないだろう。

クー「病で臥した子どもが泣いていたからという理由ではないが、私が置かれている今の現状を喜ばしく思う。
   ちゃんと健康で、ちゃんと息が出来て、愛しい人と共に過ごしている。これは幸せな事だ」
男 「…そうだな。それには同意するよ」
クー「だが、同時に悲しくもある。こうして幸せを噛み締めている私の隣で、知らない誰かが理不尽に死んで逝くのが」
彼女は気付いていない。その事を思うことが尊い事なのだと。

男は向かい側の机に座るクーの頭を、優しく自分の腕の中へ引き寄せる。

男 「生きてる俺達は、まずは生きる事を頑張ろう。死ぬことなんて、死ぬ時に考えよう。
   まだ死ぬ事を考えるには人生を俺達は知らなさすぎる。青すぎるんだよ、きっと。
   楽しさも、辛さも、二人で分かち合って。そんでそれから考えよう」
クー「…。ん。そうだな。君にしては中々良いアイデアだと思うぞ」

クーは静かに男の背中に手を回し、互いを確かめるように少しだけ強く抱きしめあう。

死は、冷たい。
死は、寂しい。
死は、悲しい。とても、哀しい。

今は、この温もりを大切に。


自分の為に生きていくという回答がある。
誰かの為に生きていくという回答がある。
死ぬために生きるという回答がある。
何かを達成する為に生きるという回答がある。
死にたくないからとりあえず生きるという回答がある。

どれもが正しくて、どれもがきっと間違っている。
そしてその答えは誰からも教えて貰えず、自分で確かめるしかない。

命の答えは、自分が消える時にきっと初めて分かって、初めて触れる事が出来るから。
だからその時まで、心の片隅で今は静かに死を想っていよう。



クー「まぁ、まずは目前の中間テストからだな。君の志望校と私の将来の為に、あと20番は順位を上げて欲しい所だ」
男 「忘れかけてた事を思い出させるなよ…」

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