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第一試合直前編

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匿名ユーザー

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東側・選手控え室。
部屋に入るなり入り口の鍵を閉め、置いてあったパイプ椅子に腰掛けた荘厳さん。
なぎなたを被っていた布袋を外し、研ぎ澄まされた刃を見つめる。
この数日で、ずいぶんと傷付いた自分の顔と目を合わせるのが嫌で、目を閉じた。


私は占いが嫌いだ

先なんか見えたって
いいことなんか何一つない

訪れる不幸を知ってしまっては
心から今を楽しむことは出来ない

訪れる幸せを知ってしまっては
心からそれを噛締めることが出来ない

先なんか 見たくない
先なんか 見えなくていい

私の先は 私のものだ

先なんか

先なんか



なぎなたを優しく壁に立てかけ、着替えを始めた。

西側・選手控え室。
手製の護符に最後の仕上げを施すヴァルキリー。
あの方陣は間違いなく異界の割り込み。
予想は的中したらしく、リングは魔界の一部になるのだろう。
朝から準備を始めておいて正解だった。


異形の大群を主戦力とする魔界軍とは違い、
唯でさえ人口が少ない上、
戦闘に適した者が稀にしか生まれない天界の軍は少数精鋭。
素質を認められた魂を選定し、
戦士として永劫育て続ける。

本来魂を導くはずの天使が、
武器を手に、自ら導くべき魂を狩る。

天使であり、死神。
それが天界の誇るエリート、戦乙女。


望みなど無い。
ただ、戦いたい。
戦乙女として。


護符を完成させたヴァルキリーは、
槍を「効率よく使うため」の準備を始めた。


程なくして、試合開始を告げる放送が流された。

騒然とした校内とは打って変わり、スピーカー系統の電源が全て落とされた校庭。
その真ん中の、巨大な石のリングに、二人が同時に上がる。

「……すごい仕掛け、ですわね……」

大方無意識に、であろう。荘厳さんがつぶやく。
校舎から見たときも、ずいぶん大掛かりだと感心したものだったが、
まさか、これほどとは。
辺の長さはだいたい50cm、厚さは3cmといったところか。
見るほどに美しい、完全な正方形のパネル。
それらの集合体であるこの舞台。当然のように、完全な正方形。
その上には小石一つ見当たらず、また、組み合わさった立方体同士の段差も無い。

自分の動きを遮るものが、何も無い。……あるとすれば。

リングの対岸、しなりを確かめるように手の中のスピアを振るうヴァルキリー、のみ。
完全な闘技場。
さすが、異界の術。

純白の道着、足袋に、小豆色の袴、襷、額当、そして、『なぎなた』。
その刃は、部活で普段振るっているような竹と綿の紛い物とは違い、
眩しいほどに陽光を撥ね返してくる、

運が良いのやら、悪いのやら。一回戦、しかも第一試合から、ヴァルキリー。

柄に曲がりは無い。刃にこぼれも無い。
額当に、胴着に、襷に、袴に、足袋に、緩みは無い。

結界 とやらのせいなのだろう。
昇降階段を上がった瞬間、校舎からのざわめきが消えた。

リングの中心に向かい、歩を進めながらの最終確認。
うなじの少し上、これまた小豆色の紐で一つに纏められた、
艶やかな腰までの長髪が風に吹かれ、揺れる。

これは決して、「練習」ではない。
「試合」でもない。
「勝負」でも、ない。

これは、これは----

なんだあの面妖な衣は。
規則だから、と我慢していたが、こんな暑苦しい国で、こんな堅苦しい「制服」で、
まともに動いていられるわけが無い。

肩の上で切りそろえられた金髪をかき上げ、腰を締め付けていたスカートを緩め、
中に入れていたブラウスを引っ張り出す。

思う。この国の人間はなぜ、この湿気の中で飄々としていられるのだろうか。
座学も履修の意味を理解し難く、数少ない運動の機会、体育とやらも週に2回。
その体育の最中ですら、羽も伸ばせず、槍を振るうことも出来ない。
休憩時間、"くらすめいと"とやらの奇行に付き合っているほうがよっぽど鍛錬になる。

兜の下で四六時中そんなことを考えていたヴァルキリーにとって、
忌まわしい「制服」よりも、さらに露出を抑えた荘厳さんの袴姿は、
この場の儀式的な空気を差し引いてもなお、異常な存在感・疑問、
それに飽き足らず、得体の知れぬ気味悪さ・不気味ささえも感じさせた。

特に目を引かれたのが、その獲物。
大型のスピア…いや、どちらかといえば、ハルバードに近いのかもしれない。
中心から太さを増す柄、大きな刃。斬撃が主体なのだろうが、
決して突きへの警戒を解くことの出来ない形状。

なんという名、なのだろうか。

破壊力ならハルバードの方が上なのだろうが、切れ味は、恐らく。


歩を進め、色の違うタイル……開始位置に向かいながら、
近づく「その時」への期待に耐え切れず、体温が上がる。

丁寧に締められたネクタイを無造作に引き抜き、背後に放り投げる。
ブラウスの襟を掴み、ボタンを上から3つ、引きちぎる。
開いた胸元に、風が入る。

人間如きに、この私が、戦乙女が、遅れをとる筈が、無い。

これはすでに、「任務」ではない。
「鍛錬」でもない。
「戦闘」でも、ない。

これは、これは----



「殺し合い」だ

開始位置直前、荘厳さんが立ち止まり、深々と、礼。
ヴァルキリーは立ち止まらず、そのまま開始位置に立ち、
スピアを片手でだらしなく、持つ。

「羽は、使わないのですか?」
「貴様がそれに値する相手であることを、期待している」

距離は約10m。会話適した間隔ではなかったが、
結界が外界の音を全て遮断している特設リング。
リング上で流れる空気の音のみのこの場では、大した障害にはならなかった。


「二つ聴きたい」
「……なんでしょうか」
「その獲物の名は何だ。見たことが無い」

荘厳さんは、一瞬きょとん、とした顔を見せた。

「……なぎなた、と申します」
「そうか。"なぎなた"、か……いい獲物だな」
「えぇ。とても」

「二つ目だ」
「はい。どうぞ」
「……貴様、暑くないのか。それ」
言いながら、ブラウスの襟を掴み、バタバタと仰ぐ。
「……貴方こそ、恥ずかしくはないのですか…」
こちらは道着の袂を指で示す。
ヴァルキリーは下着を着けていなかった。

沈黙、二秒。
フン、とヴァルキリーが鼻で笑うのと、荘厳さんの頬が微かに緩むのは同時だった。
「愉快なものだな、異文化、という奴は」
「……えぇ。とても」

「では、往くぞ」
ヴァルキリーがポキポキと首を鳴らし、
荘厳さんは無言のまま下段の構えをとり、そのまま開始位置に入った。


「戦乙女、第一槍兵部隊「ゲイレルル」隊員の誇りを懸けて、いざ!」

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