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火星人を真剣に書いてみる


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11月に入りプールはもう濁り始めている。
私がもっと、早く泳げていれば……
転々と浮かんでいる落ち葉が憎くてしょうがない。
当たり前のようにしていたことが当たり前でなくなった。
私はもう二度と、この場所に足を踏み入れることはない
もう二度とココで泳ぐことはないんだ……

ガシャン…ドアを閉めるのがつらかった。

ぷかぷかと浮く感覚が火星とよく似ていた。
だから私は水泳が好きになったのかもしれない
だからあんなに必死になったのかもしれない

「私たちは長く泳いだほうよ」
鮫子の一言が身にしみる


ゴーグルを付けて、私は地を蹴った。
水に押される様な浮遊感の中、泳ぎ続ける。
毎日、鮫子と勝負して一喜一憂していた夏
地球人の姿で居ることの多かった夏
その姿で泳ぎ続けた夏

どうしようもなく水泳が好きになっていた私

目の前を覆う水が思い出になってしまう

秋に行われた水泳大会

負ける気はなかった……順調に予選を通過して
決勝で鮫子と勝負して、優勝して終わると思っていた。

予選で鮫子が負けるまでは


審判長の笛の合図でスタート台に上がり姿勢を正す。

パァン!

渇いた炸裂音と共に鮫子は飛び込んだ。
のびのびとした泳ぎで回りをグングンと引き離していく

私は体の震えが止まらなかった。

力強いドルフィンキックで潜り、体を回転させる、
水中だけで動作する完璧なターン。

長身が滑るように水中を泳いでいった

ゴールで鮫子を迎えたのは主審のコール
 「「フォルススタート」」だった。


予選第三回戦、俗に言う準決勝で鮫子は失格に終わった。
プールから上がり無言で私の横を通り抜けていく、
相変わらずのポーカーフェイスで下ろした手を握り締めていた。

飛び込み台に乗り緊張に包まれる、笛が鳴り体が固まる

パァン!

響いた音におされて跳びだした、水しぶきがあがり
回りの声が包まれて自分だけの世界になる。

私の前にイメージした鮫子が泳いでいる。
10メートル……5メートル……
のびのびとしたあの泳ぎをトレースしていく

1メートル……重なった瞬間に力強くドルフィンキックをする。
首を下げ体を一気に回転させる、足を折りたたみ壁を蹴った。


瞬間、突き刺ささるような激痛が走った
痛い、イタイ、いたい、足が動かなくなる、
肺から急激に空気が抜け、口の中に流れができて、

鮫子がむこうに泳いでいく……

息苦しい中、触手が私を守ろうと背中で呻く
痺れで心臓が高鳴る、元の身体に戻ろうと動き始める。

駄目だ!イヤだ!この姿で、水の中ではこの姿で

滲む世界の中に光る天井を見た。

「「シオン」」呼ぶ声が聞こえる


一瞬、目の前の景色が白黒になる……
徐々に光が体温を感じさせてくれる
私は地球人の姿のままで、横には鮫子がいて、
怖い夢の中、青い世界が終わったのだ。

鮫子は言葉の無意味さを知っている。
涙が出ていた、それだけだった。
ただ彼女の目からは水が流れていた……

――私はゴーグルをかける

記録には一切残らなかった秋大会

――姿勢をただして

でも、私は夏が終わるたびに思い出すと思う

――誰にも負けないように飛び出した