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小手調べ編


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この大会、試合開始の声は無い。
両者が開始位置に立った瞬間。それがそのまま、開始の合図。

ゆっくりと歩を進めるヴァルキリーに対し、
開始位置に入ってから微動だにしない荘厳さん。


……さて、どうしたものか。
口上を切ったはいいが、あの「なぎなた」とやら。なかなかに厄介だ。
刃先を舞台スレスレに、長い柄で身体全体を守る構え。
隙が無い。手練と見て間違いはない。
恐らく、防御からの反撃が主なスタイルなのだろう。


短槍となぎなた。
本来なら後者の方が長さで有利なのだろうが、
ヴァルキリーはこれを片手で振り回せる腕力がある。
その重さゆえ、両手持ちを余儀なくされるなぎなたよりも、若干リーチは長い。

じわじわと詰められていく距離、5m。ふとヴァルキリーが足を止める。
軽い深呼吸の後、ゆっくりと身体をかがめる。

次の瞬間、弾かれた様に駆け出し、加速する。
人間の身体能力を遥かに凌駕する神界人の脚力のなせる技。
その速く、鋭い踏み込みは、槍という武器によりそのまま攻撃力に変換される。

なぎなたの射程ギリギリ外から、高速で放たれる上段・中断・上段への3連突。
その全てを、柄の動きのみで捌く荘厳さん。

もう一歩踏み込みながら、下段、上段へ2連突。
振りかぶって袈裟斬り、切り払い、詰まった間合いで腹に蹴りを放つ。
が、荘厳さんは一歩も動かない。
突きは絡めとられ、斬りは流され、蹴りは合気で押し返される。

詰めた距離が、開く。
我流で、しかも乱戦の訓練しかしてこなかったヴァルキリーは、
洗練された"槍術"と戦った経験が無かった。


強い。いや、巧い。
腕力も、脚力も、鍛えた時間も上回っているはず。
人間相手に苦戦する姿など、
仲間にも、上司にも見せられない。


焦りをのぞかせる、ヴァルキリーの理性。

次の攻め手は何だ。どうすれば抜けるか。
右か左か。 突きか斬りか。

 "使う"か"使わない"か。


・--・--・--・--・--・--・--・--


速い。 恐ろしく速く、正確。
でも、それだけ。

恐らく我流。足運びにも突きにも力みが残っている。
相手の薄着も手伝って、先が読みやすく、返しやすい。

ここがもし戦場なら、私なんかとっくに死んでいるんだろう。
乱戦になればこんな構えに意味など全く無い。
一人の相手をしているうちに囲まれて、横から貫かれて終わりだ。

しかしここは闘技場。
横槍は入らない。負けはしない。
……このまま、ヴァルキリーが本気を出さなければ。
それまでは私も手の内を明かすことは出来ないのだが、
持久戦になれば不利なのはこちら。体力に差がありすぎる。
なんとか挑発してでも、ヴァルキリーの切り札を引っ張り出さなければならない。


ヴァルキリーがクルリと槍をかえす。
柄をこちらに、刃を自分に向ける。……奇妙な構え。
そのまま腰を落とし、踏み込み。
一気に間合いを詰めてきた。


・--・--・--・--・--・--・--・--


再度、体重を乗せたこちらの射程外から柄での突き。
今回は連撃ではなく、一発の「突貫」だった。
顔面に向かって放たれたそれを、先ほどと同じように捌くが、
その重さは前回の数倍。耐え切れず、半歩よろめいてしまう。

見切っていたかのように槍を引き戻すヴァルキリー。
柄を舞台に打ちつけ、それを支えに棒高跳びのように荘厳さんの頭上に飛ぶ。

さすがに意外だったか、一瞬表情を歪める荘厳さん。
しかしながら体捌きは衰えず、真上からの連突を全て紙一重で回避。
ヴァルキリーは着地の瞬間、体勢を乱した荘厳さんに向け、槍を投げつける。
豪腕で投げられたそれは恐ろしい速さを持っていたが、
荘厳さんは手刀で軽く叩き落とす。

無腰になったヴァルキリーは後ろに飛び、距離をとる。
荘厳さんはそれを追おうともせず、
投げつけられた短槍の軽さ・硬さ・しなりを無表情で確かめていた。


しばらくは追い討ちを警戒してか、構えていたヴァルキリーだったが、
全く攻める気配の無い荘厳さんにしびれを切らし、言い放つ。

「……貴様、さっきから守る一方ではないか。戦う気が無いのなら帰れ」
「その言葉、貴女にそのままお返しさせて頂きますよ」

短槍を目前に寝かせ、曲がりが無いかを確かめながら、荘厳さんの気の無い返事。

「それに私、そんな陳腐な誘いに乗って差し上げるほど優しくは御座いませんので」

荘厳さんは優しく微笑み、ヴァルキリーを見据えた。