男と脇谷 ~はじまりの日~
いまでも、私のヒーローは男だ。
そしてあの日まで、ヒロインは私だった。
今でもはっきり覚えてる。
あの夕焼けの帰り道。
私はヒロインじゃないんだと知った、あの日のこと。
あの時、私は6歳だった。
あの夕焼けの帰り道。
私はヒロインじゃないんだと知った、あの日のこと。
あの時、私は6歳だった。
いつもの公園、いつもの3人。
初めは私が怪我をした。
おいかけっこで滑って転んですりむいて。
膝から沢山血がにじむ。
それでも男は笑って言った。
「どんくさいなぁ。何してるんだよ」
私は笑って返事した。
「あはは、ドジっちゃった」
本当は泣きたいくらい痛かったけど、私は笑って返事した。
私が泣けば、きっと男は困るから。
おいかけっこで滑って転んですりむいて。
膝から沢山血がにじむ。
それでも男は笑って言った。
「どんくさいなぁ。何してるんだよ」
私は笑って返事した。
「あはは、ドジっちゃった」
本当は泣きたいくらい痛かったけど、私は笑って返事した。
私が泣けば、きっと男は困るから。
帰り道、女の子が怪我をした。
ちょっとつまづいてすりむいて。
たいしたこと無い怪我だった。
それでも男は、心配そうに駆け寄った。
「おい、大丈夫か?」
女の子は、恥ずかしそうに返事した。
「こ、このくらいなんでもないわよ!」
男はしゃがんで背中を向けて。
「家までおんぶしてやるよ!」
女の子は恥ずかしそうに、男の背中によりかかる。
ちょっとつまづいてすりむいて。
たいしたこと無い怪我だった。
それでも男は、心配そうに駆け寄った。
「おい、大丈夫か?」
女の子は、恥ずかしそうに返事した。
「こ、このくらいなんでもないわよ!」
男はしゃがんで背中を向けて。
「家までおんぶしてやるよ!」
女の子は恥ずかしそうに、男の背中によりかかる。
転んで怪我した女の子を、幼い男が背負って歩く。
怪我した私はその後ろ、一人でとぼとぼついて行く。
怪我した私はその後ろ、一人でとぼとぼついて行く。
おかしいね、私だって怪我してるのに。
夕焼けで真っ赤に染まった帰り道。
私は思い知らされた。
私は思い知らされた。
ああ、男のヒロインはあの子なんだ。
十字路で二人と別れ、しばらく歩いて泣き崩れた。
痛くて、辛くて、悔しくて。
痛くて、辛くて、悔しくて。
遠巻きに過ぎるお姉さん。
無視して歩くお兄さん。
無関心な大人達。
無視して歩くお兄さん。
無関心な大人達。
膝を抱えて泣いてても、誰も助けてくれなかった。
おかしいね、ヒロインが困ってるなら、必ず誰かが助けに来るのに。
どうして誰も私を助けてくれないの?
どうして誰も私を助けてくれないの?
そして、思い知らされた。
そうか、私はヒロインじゃないんだ。
だから、誰も助けてくれないんだ。
私は立ち上がった。
誰も助けに来ないなら、自分の足で歩かなきゃ。
誰も助けに来ないなら、自分の足で歩かなきゃ。
涙を拭いて、顔上げて、深呼吸をひとつして。
誰も助けに来ないなら、私は強くならなくちゃ。
一人で強くならなくちゃ。
一人で強くならなくちゃ。
夕闇迫る帰り道、私は脇役になった。