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シューと脇谷

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シューと脇谷

ピピピッピピピッ(体温計のアラーム)

脇谷「…あー、37.4度か…明日には学校行けるかなぁ」
脇谷「もう3日も学校休んじゃゲホゲホ…」
脇谷「ふぅ…寂しいなぁ。いつもの事とはいえ」
脇谷「……」

コンコン(ドアをノックする音)

脇谷「…? 誰だろ。開いてるよー」

カラカラカラ(ベランダの窓が開く音)

シュ「やぁ脇谷、調子はどうだい?」
脇谷「ええええ!?今確かに誰かがドアをノックしたのに…!!」
シュ「突っ込む所はそこだけかい?」
脇谷「…シューちゃんの場合並大抵のことじゃ驚けないよ」
シュ「そうか。見たところだいぶ良くなってきてるみたいだね」
脇谷「うん、おかげさまでね」
シュ「みんな心配していたよ。ああ、ヤンデレから言付けだ」
脇谷「何?」
シュ「『テメェがいなねぇと収集がつかねぇんだよ! 風邪くらいとっととぶっとばして早く学校来い!』とのことだ」
脇谷「ヤンちゃんらしいなぁ…ところでさ」
シュ「なんだい?」
脇谷「いい加減その『商品名:アメリカ人』のマスク脱いだら?」
シュ「ありがとう、最初に突っ込んでくれなかったら脱ぐタイミングを失っていたんだ」
脇谷「あー、それはごめんね」
シュ「いや、かまわないさ。ところで脇谷」
脇谷「何?」
シュ「君も脱いだらどうだ?」
脇谷「…風邪で寝込んでる私にパンツ一枚になれと?」
シュ「いや、そっちじゃない。君がいつもかぶってる『非売品:脇谷久美』のことだ」
脇谷「…誰に頼まれたの?」
シュ「学、ツン、優、クー、ヒー」
脇谷「…まったく、みんなおせっかい焼きなんだから」
シュ「君に言われたくは無いと思うぞ?」
脇谷「それもそうか」
シュ「か、勘違いしないでよね!私はアンタが純粋に心配だからお見舞いにきたんだからね!」
脇谷「…ツンデレになってないよ?」
シュ「んむ、私はツンではないからな」
脇谷「はぁ…優ちゃんにも言ったんだけどね。私は覚悟が決まってるから大丈夫だよ」
シュ「そうじゃない。たまには脱がないと中で蒸れて化学変化起こした挙句、悪魔の毒々モンスターになるぞということだ」
脇谷「…今更弱音なんて吐けないよ」
シュ「脇谷、君は今風邪を引いて熱がある。どんな朦言を言ってもおかしくない」
脇谷「……」
シュ「そして、ここにいるのは素直シュールだけだ」
脇谷「…はぁ、シューちゃんには敵わないなぁ」
シュ「…ゆっくり話せばいいさ。私は林檎でも剥いてるよ」
脇谷「…ありがと」
シュ「……」

脇谷「いつからかさ、見えるようになっちゃったんだ。誰が誰を想ってるのかが」
シュ「…というと?」
脇谷「…人物相関図ってわかるよね。あんな感じ」
シュ「※1」
脇谷「…?」
シュ「ああ気にしないでほしい。それで?」
脇谷「…明確に見えちゃうんだよ。誰が誰をどのくらい想ってるのかがね」
シュ「…ふむ」
脇谷「私ね、その人物相関図に載ってないんだ」
シュ「…それは、君自身のことだから見えていないのではないのか?」
脇谷「…私も初めはそう思ってたんだけどね」
シュ「……」
脇谷「…中学の頃にさ。私のほかにもう一人見えるヤツがいてね」
シュ「……」
脇谷「…やっぱり載ってないってさ」
シュ「……」
脇谷「男は私を全く意識してないんだよ」
シュ「……」
脇谷「男にとって、私だけ…女じゃないんだよ」
シュ「……」

脇谷「辛いよ」
シュ「……」
脇谷「悔しいよ」
シュ「……」
脇谷「…どうして私だけこんな目に遭ってるのかな」
シュ「……」
脇谷「私、何か悪いことしたのかな」
シュ「……」
脇谷「私ね、他にはなーんにもいらないんだよ」
シュ「……」
脇谷「男に振り向いて欲しい。それだけなんだよ」
シュ「……」
脇谷「なのに、スタートラインにさえ立たせてもらえないんだ」
シュ「……」
脇谷「…きっかけすら、もらえないんだ」
シュ「……」
脇谷「…もっと早く」
シュ「……」
脇谷「もっと早くシューちゃんに…みんなに出会ってたら」
シュ「……」
脇谷「あのとき…誰かが手を差し伸べてくれてたら」
シュ「……(※2」
脇谷「私も女の子でいられたのかなぁ」
シュ「……」
脇谷「でも、そうならなかった。ただそれだけの話」
シュ「……」
脇谷「もう、この「脇谷久美」のほうが長いんだ。昔私がどんな子だったのか思い出せないよ」

シュ「…林檎、剥けたよ」
脇谷「…ありがとうって何この超リアルな森の動物達!!」
シュ「芯は外してあるから頭から丸齧りでどうぞ」
脇谷「うう、日和ちゃんと会ってから、『銘菓ひよ子』を食べるのになんとなく抵抗を感じるのと似てる…」
シュ「ところで脇谷、このオレンジ…どう思う?」
脇谷「すごく…完熟です」
シュ「ところが、コレは時計仕掛けならぬボイスレコーダー仕掛けなのだよ」
脇谷「嘘ぉ!?」
シュ「嘘」
脇谷「…よかったぁ」
シュ「実はこっちの苺のほう」
脇谷「ええええ!?」
シュ「えい(パクっ」
脇谷「もう…あんまり病人をからかわないでよ」
シュ「モグモグ)乙女の秘め事をバラすほど無神経じゃないさ」
脇谷「…なんか言い方が卑猥」
シュ「それは君の脳が卑猥だからだよ」
脇谷「誘導しておいてその言い草!?」
シュ「引っかかった君が悪い」
脇谷「…はぁ、シューちゃんらしいね」
シュ「そんなに褒めても、出る物といえば水差しとコップと風邪薬くらいだよ」
脇谷「褒めてない…でもそれはちょうだい」
シュ「はいはい」
脇谷「ありがと」

シュ「ああ、そうそう」
脇谷「…?(ゴクゴク」
シュ「男が心配してたよ」
脇谷「ゴフッ!!?ゲホッゲホッ!!…何もこのタイミングで言わなくてもいいじゃない!」
シュ「それはすまなかった」
脇谷「…まったくもう」
シュ「さっきも言ったが、みんな心配しているよ。風邪のことだけじゃなくてね」
脇谷「…みんなおせっかいなんだから」
シュ「…私もだ。いつか君が壊れてしまうんじゃないかってね」
脇谷「…私はそんなに弱くないよ」
シュ「自分のことは意外とわからないものさ」
脇谷「…そんなに無理してるように見えた?」
シュ「たまにね。私が男だったら一撃で恋に落ちるような、切ない微笑みをうかべてるよ」
脇谷「…ふぅ、まだまだ修行が足りないなぁ…脇役失格」
シュ「いいじゃないか、失格のままで」
脇谷「え?」
シュ「完璧な脇役…そんなの、寂しいよ」
脇谷「……」
シュ「脇谷は不完全だから良いのだよ」
脇谷「……」
シュ「ヒーに言っただろう?『今のままが一番だと思うよ』って」
脇谷「あ…」
シュ「優に言っただろう?『辛かったり悩んでたりしたら、誰かに相談すること。』って」
脇谷「……」
シュ「忘れていないかい? 君は脇役である以前に一人の女の子で、私達の友達なんだよ」
脇谷「…ありがと」

シュ「どうだ脇谷、こっち側に来ないか?」
脇谷「…ごめん、やっぱり私はここにいるよ」
シュ「…そうか」
脇谷「勘違いしないでね。私はここにいるまま、みんなに勝ってみせるんだから」
シュ「…応援しているよ。さて、おにぎりに仕込んだボイスレコーダーを切ろうかな」
脇谷「そのネタまだ引っ張るの!?」
シュ「…あーん(パクッモグモグ」
脇谷「はぁ…脅かさないでよ」
シュ「これなーんだ」
脇谷「本当に入ってるし!!」
シュ「冗談だよ。デリートっと」

ピッ(ボイスレコーダーの音)

脇谷「まったく」
シュ「んむ。実は今から録音開始だ」
脇谷「問題無い気がするけどなんか釈然としない…」
シュ「さて、ずいぶん長居してしまったな。おいとまするよ」
脇谷「そっか…シューちゃん」
シュ「ん?」
脇谷「本当にありがとう」
シュ「いや、いつもの恩を返しに来ただけだよ。みんなの代表としてね」
脇谷「…それでもありがとう」
シュ「どういたしまして」

カラカラカラ(ベランダの窓を開ける音)

脇谷「…やっぱりベランダから帰るの?」
シュ「入った場所から出るのが礼儀だろう」
脇谷「誰に対しての礼儀かは聞かないでおくよ…」
シュ「それじゃまた明日、学校で」
脇谷「うん、またね」

カラカラカラ(ベランダの窓を閉める音)
トントントントン(階段を下りる音)

脇谷「…今絶対家の階段下りてた!」



シュ「……」

ピッ(ボイスレコーダーの再生ボタン)

――私はここにいるまま、みんなに勝ってみせるんだから――

シュ「…楽しみにしているよ」




※1 好感度チェッカー兼親友キャラとしての能力とお考えください
※2 参考文献:まとめWiki図書館掲載、『○○シリーズ』内
       『○○と脇谷』第7章『男と脇谷 ~はじまりの日~』より

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